『春を待つハンナ』エヴァン・マーシャル ヴィレッジブックス

2009-08-31

☆☆

前回、愛猫ウィンキーとあざやかに事件を解決し、一躍“ノース・ジャージーのミス・マープル”として有名になった著作権エージェントのジェーン。でも依然として事務所の経営は火の車で頭を抱えていたところ、超人気歌手ゴッデスの代理人をやらないかという耳よりな話が持ちこまれた。いそいそとゴッデスとの初対面に臨んだ場で、なんと仲立ちしてくれた編集者が無惨な姿で発見される。何日か前に開いたひとり息子ニックの誕生日パーティーでは首吊り死体を発見してしまうし、どうしてジェーンの行く先々に死体が?今度もウィンキーの手を借りて、みごと事件解決となるのか?好評シリーズ第二弾。 内容紹介より



前作『迷子のマーリーン』で好ましく感じた主人公の性格、嫌いな人物にたいしても思いやる気持ちみたいなところが今回は見られず、ただのシニカルな心を持つ人間になってしまっていて残念でした。こういう性格の主人公はかなりたくさんの作品で見られますから、何かもっと情緒豊かにしたり感情のひだを描くなり個性の部分で他と差別化したほうがよろしいのではないのかと思います。物語は三毛猫ウィンキーが異常な行動をとったり、真犯人の意外性とかが、一時期のリリアン・J・ブラウンの〈シャム猫ココ・シリーズ〉を彷佛とさせますが、プロットは本書のほうが入り組んでいます。ただ、それが妙に力業みたいに無理矢理っぽくて、論理的でない推理の流れ、説得力のない犯人の行動が目につきました。猫の異常行動が科学的に説明されている点は、ブラウン女史のそれとはまた違った面白さがありました。




春を待つハンナ―三毛猫ウィンキー&ジェーン〈2〉 (ヴィレッジブックス)春を待つハンナ―三毛猫ウィンキー&ジェーン〈2〉 (ヴィレッジブックス)
(2005/01)
エヴァン マーシャル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ペニーフット・ホテル受難の日』ケイト・キングズバリー 創元推理文庫

2009-08-29

Tag :

☆☆☆

ここはペニーフット・ホテル。海辺の田舎町にひっそりと建つ、上流階級に人気の快適な宿だ。そのホテルで宿泊客の婦人が墜落死した。事故、それとも?ホテルの評判を守ろうと、勝ち気で行動的な女主人セシリーは、冷静で忠実な支配人のバクスターと共に、宿泊客らに事情を聞いてまわるのだが……。優雅なホテルで起こる事件の数々と、紳士淑女の人間模様を描くシリーズ第一弾。



コメの作柄で言えば「並み」。アメリカに移住したイギリス人女性が書いている人気シリーズらしいです。本書が第一作目ですから、これ以降エンジンがかかって面白くなっているのかもしれませんから滅多なことは言えませんけど、イギリス人が書くエドワード王時代という設定がアメリカ人の抱く(対イギリス、伝統)コンプレックスに上手く作用したのかもしれません。主人公が女性の人権や婦人参政権に言及しているところなど時代考証的なことをしているのは見受けられますが、日常の所作とか日用品とか細部の描き方があまり時代を感じさせていないように感じました。イギリスを舞台にするならばもう少し英国風な滋味が欲しいところです。ミステリとしてもえらく細かなカットバックは読みやすいのですが、なにか気ぜわしくもあり、時代設定からくる大様さが損なわれている気もします。でも、ひとつひとつのカットに布石された謎や出来事が次のカットで明かになったり解けたりする意匠は、まるでピタゴラスイッチみたいな仕掛けを見ているようで明快な印象を受けました。これから気になる登場人物は退役軍人と庭師ですね。




ペニーフット・ホテル受難の日 (創元推理文庫)ペニーフット・ホテル受難の日 (創元推理文庫)
(2009/05/05)
ケイト・キングズバリー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『迷子のマーリーン』エヴァン・マーシャル ヴィレッジブックス

2009-08-27

☆☆☆

ニューヨーク郊外で著作権代理事務所を営むジェーンは38歳。2年前に最愛の夫を亡くし、今は9歳になる生意気盛りの息子ニックと、メスの三毛猫ウィンキーと暮らしている。作家たちのわがままと請求書の山だけで毎日てんてこまいなのに、息子のベビーシッター、マーリーンが忽然と姿を消してしまったから、さあ大変。親友の娘であるマーリーンをそのまま放っておけず、ジェーンは彼女の行方を追うが、美しい外見とはかけ離れたマーリーンの意外な素顔と不可解な行動が明かになるにつれ、事態はだんだんあぶない方向に―。かわいいウィンキーとそそっかしいジェーンが大活躍のコージー・ミステリー、第1弾! 内容紹介より



三毛猫ウィンキー&ジェーン・シリーズ一作目。
高橋恭美子さんの訳者あとがきによりますと、この作者は編集者、著作権代理事務所のエージェントの職歴を持ち、小説作法の指南書まで書いているらしく、さすがに読ませる技術を持っていると思います。どこがどうとかはっきり指摘できないのですが(自然描写が少なく、会話が多いところくらいか)、手慣れてスラスラと読めるんですね。失踪したベビーシッターについて、主人公の感情面でのバランスがよく描かれていていると思います。つまり、主人公は元々好意を持ていないでいたその娘が勝手に出て入ったことに、当然最初は憤慨するのですが、感じのよくない娘だからと無関心のまま彼女のことを深く知ろうとしなかった自分も悪かったのだと後悔してしまうのです。近頃のコージー系の女性探偵の多くが負けん気が強く、皮肉屋だったり他人に厳しく自分に甘い傾向があったので、本書の主人公のこういうところは新鮮に感じました。
物語はマーリーン自身を捜すとともに、ほとんどなにも知らなかったマーリーンとは一体どんな娘だったのかを探すものであり、その娘に係わったひとたちの姿を明らかにする話にもなっています。少し強引なラストのどんでん返しはどうでしょうか。これを活かすにはもっと伏線を張っておく必要があったのではないかと、単発の打ち上げ花火みたいないきなり感と突飛さを感じてしまいました。
本好きな者にとって主人公の職業はかなり興味深くかつ魅力的な設定です。




迷子のマーリーン―三毛猫ウィンキー&ジェーン〈1〉 (ヴィレッジブックス)迷子のマーリーン―三毛猫ウィンキー&ジェーン〈1〉 (ヴィレッジブックス)
(2004/04)
エヴァン マーシャル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ロスト・エコー』ジョー・R・ランズデール ハヤカワ文庫

2009-08-25

☆☆☆

子供の頃の高熱が原因で片耳が聞こえなくなったハリーは、ふとしたことから聴力を回復するが、不思議な能力を持つことになってしまった。暴力や恐怖に関係した過去の出来事が、その音を媒介にして見えるようになったのだ。こうしてハリーは過去の犯罪現場を目撃するようになる。やがて大学生になり、初恋の相手と再会した彼は、彼女の父の死の真相を探り始める……青春小説とサスペンス小説が融合した会心作。文庫オリジナル 内容紹介より



人生のどつぼにはまって、下品な言葉を吐きながらじたばたしている、いい歳をした大人たちを描いたハップ&レナード・シリーズと、まだイノセンスさを失しなっていない少年の活躍を描いた『ボトムズ』『ダークライン』。本書はその二つの年齢層の中間である青年期の男を主人公にした作品ですから、ランズデールがどのように仕上げるのか、かなり期待できると言いたいところですが、あまり評判が良くないことは事前に知っていたのでワクワク感もなく読んでみました。主人公が持つ特異な能力のアイデアは良いと思うけれど、主人公と武道家の関係が映画「ベスト・キッド」風で、老師とその若い弟子みたいな雰囲気がステレオタイプでもうひとつ。実際に護身術の師範であるランズデールの思想みたいなものが作品に表れて、ああって感じ。いわゆる、宇宙がどうたら、自然がどうたらの世界。これからランズデールさんはそっちの方向に行っちゃうのか心配。『ボトムズ』、『ダークライン』の中の少年を今回は上手く成長させられなかった、そんな印象を残した作品でした。バイオレンスな作品とイノセンスな作品を融合させるのか、あるいは全く別のものを造り上げるのか、まあ作者は苦しんでいるかどうか知りませんが、これが産みの苦しみというやつですかね。多彩なひとですから、もう一皮剥けてくれればと思います。




ロスト・エコー (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 12-3)ロスト・エコー (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 12-3)
(2008/05/09)
ジョー R.ランズデール

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『誰が社長を殺したか』グロリア・ホワイト 講談社文庫

2009-08-23

Tag :

☆☆

社長はライオンの檻に放り込まれて殺された。弁護士は亜酸化窒素と自分を電気冷蔵庫に閉じ込めて“自殺”した。―ビジネス界の裏側で蠢く薄汚れた男たちを相手に、さわやか女性探偵ロニー・ヴェンタナがジョギングのあいまを縫って快刀乱麻の大活躍。好評「フォート・ポイントの殺人」を凌ぐ娯楽快作! 内容紹介より



全体的に冗長で散漫な印象。不出来な探偵小説というものは、調査に出かけては帰宅する
日々の繰り返し*が読んでいて非常に退屈に思えてくる傾向があります。解決に日数がかかるほどそれが顕著になってくるわけですから、読者を退屈させないためには主人公の個性、私生活、周りの人物たちを魅力あるものにしないといけません。ジャネット・イヴァノヴィッチのステファニー・プラム・シリーズの場合も事件解決に日にちがかかりますが、主人公の私生活の部分で退屈しないのは、個性的な人物像と事件とは直接関係ない登場人物のエピソードに事欠かないからでしょう。本書の主人公の捕らえ所のなさは前述の要素が足りないからだと思います。ラストに主人公は、ある人物から結婚の知らせを聞いて「ソファーに腰を落とし、腕に顔を埋め。声をあげて泣いた」のですが、こういう彼女の一面が描写されていないのです。この面が掘り下げて描いてあればキャラクターに陰影を付けることができたと思います。階下の住人のミセス・バルドッチのほうがよりキャラが立っています。
ケチをつけてばかりですけど、最後に、読者が一番関心を持ったであろう「謎の美女」マリー・ソリスと主人公との絡みがほとんどないことも気の抜けた感じにしているように思いました。

*いわゆる軽ハードボイルド(ユーモア系)の探偵のサラリーマン(的日常)化がいつ頃始まったのか興味深いところです。ページ数が増えたことも一因でしょうか。




誰が社長を殺したか (講談社文庫)誰が社長を殺したか (講談社文庫)
(1994/02)
グロリア ホワイト

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『チャンスは2度めぐる』ジェイムズ・パタースン 角川文庫

2009-08-21

☆☆☆☆

市警初の女性警部補リンジー、検死官クレア、検事補ジル、そして新聞記者のシンディ。組織を超え、固い友情で結ばれた“女性殺人捜査クラブ”のメンバーたちを新たな事件が襲う。教会で聖歌隊の練習をしていた十一歳の黒人少女がライフルに狙われ殺されたのだ。シンディの情報によると三日前にも黒人未亡人が自殺に見せかけられ殺されていたらしい。これは人種差別主義者の連続犯行なのか?捜査を進めるリンジーらを嘲笑うかのごとく、犠牲者は増え続けてしまう……。四人の怒りと闘志が再び燃え盛る、充実のシリーズ第二弾! 内容紹介より



『闇に薔薇』やこのシリーズ一作目の『1番目に死がありき』で感じたひねりのくどさが本書では見られず拍子抜けしました。そういう思い込みを持って読んだからかもしれませんが、なんだか普通のプロットになった印象です。それでもこの作者の使う二転三転のテクニックはディーヴァーのリンカーン・ライム・シリーズに通じるものがありますし、同じ系統に属していることは間違いない思います。ただディーヴァーのほうがより進化して、ミステリ界のゴクラクチョウになりかけているような……。だからディーヴァーのライムものを読み浸けると、ひねりの数対決みたいになってしまい、この手のミステリ作品はもの足りなく感じてしまうのかもしれません。パタースンの場合は、「女性殺人捜査クラブ」を生み出し、それぞれの分野における四人のプロフェッショナルを事件に係わらせるアイデアで新しさと差別化を計ろうとしているのでしょう。しかしまだこのクラブが作品中において軌道にのって、上手く稼働しているとは言えません。捜査担当者のリンジーにどうしても光があたり、他の三人の影がやはり薄いです。

タグ:ジェイムズ・パタースンジェームズ・パターソン

ジェイムズ・パタースン(パターソン)の他の作品
『1番目に死がありき』角川文庫
『闇に薔薇』講談社文庫
『血と薔薇』講談社文庫



チャンスは2度めぐる (角川文庫)チャンスは2度めぐる (角川文庫)
(2005/04/23)
ジェイムズ・パタースン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『偽装の愛』ウィリアム・カッツ 扶桑社ミステリー

2009-08-19

☆☆☆☆

海軍次官補ブレッド・ルイスは、いずれは政界に出て、大統領になろうという野心をもっている。そのためには役にたたない妻セーラを「始末」するしかない、そうブレッドは考えた。しかし離婚すれば、この政治の街ワシントンではすべてを失うことになる。妻への愛を装いながら、ブレッドの冷酷な計画は、結婚二十周年記念のパーティに向けて刻一刻と進んでいく―。「恐怖の誕生パーティ」「マンハッタン連続殺人」で知られるサスペンスの鬼才が贈る、異色の犯罪スリラー。 内容紹介より



ネタバレを含んでいます。ご注意下さい!

540ページをほとんどダレさせず緊張感を持って読ませるカッツの才能はたいしたものです。ただ、奸計をめぐらす夫ブレッド・ルイスにたいして妻のセーラが終始騙されてばかりというのがもの足りませんでした。1から9.9まで同じ味でこられたら飽きます。やはり何かの拍子に夫の悪事が徐々に明かになっていく展開が面白いと思うのですが、実際には決定的な証拠によってバレてしまって、これは残りのページ数が少なくなってきた時点で読者には予測が付いてしまうわけです。超ネタバレ→「シェルがブレッドの危険性を承知していてセーラ宛の手紙を残すくらいなら、そのことをブレッドに告げて彼の行動を牽制しておくべきだとは読者なら当然思うでしょう」、これはやはり不自然な気がしますし、安易な解決方法を採ったように読者は感じてしまうのではないでしょうか。非常によく出来た作品だけに惜しいですね。



偽装の愛 (扶桑社ミステリー)偽装の愛 (扶桑社ミステリー)
(1991/11)
白石 朗ウィリアム・カッツ

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『毒魔』G・M・フォード 新潮文庫

2009-08-17

☆☆☆☆

シアトルのバスターミナルで劇物が空中散布された。被害者は口や鼻から血を流し、数分で116名が倒れた。たまたま現場近くの恋人の写真展に来ていた元辣腕記者コーソは捜査を開始する。米政府は本土に対する新たなテロと断定し、イスラム過激派などの洗い出しに全力を注ぐ。しかし、その頃コーソは誰もが想定しえない犯人を追っていた。先がまったく読めない至高のサスペンス登場! 内容紹介より



フランク・コーソ・シリーズの4作目。
最後半の隔離される部分に新味を感じますが、物語の出だし、捜査当局の活動、犯人の行動など、どうしても従来のパニック・スリラーものをトレースしている印象を受けてしまいます。30年以上前のトマス・ハリスの作品『ブラックサンデー』から爪先くらいしか抜け出せていない気がするのですね。テロ行為が成功して始まる物語はあるでしょうが、それが成功して終わる物語はまずないわけで(あるとしてもミステリとは別の話になるでしょう)、結末が決まっている以上はどうしても似たようなストーリー展開になるの致し方ないところです。主人公がどういった活躍を見せるのか、というところが他の作品と優劣を分けるポイントでしょうが、本書の主人公は作家という設定からか、現場に居合わせて他の登場人物を第三者的立場から眺めているイメージがあり、しかも、大規模なテロを扱うパニック・スリラーものの常として、大勢の登場人物をカットバックで描く手法を採っているためにそれらしい活躍も少な目です。遺伝子操作の部分は興味深かったです。

それから本書のなかに、シリーズ一作目『憤怒』のネタバレをしている箇所があります。『憤怒』をお持ちの方は先に読まれることをお勧めします。

『白骨』G・M・フォード 新潮文庫




毒魔 (新潮文庫)毒魔 (新潮文庫)
(2007/02)
G.M. フォード

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『凍った熱帯夜』ジェイムズ・W・ホール ハヤカワ文庫

2009-08-15

Tag :

☆☆☆

最後に人を愛してから長いと気が経っていた。殺された両親と養母の復讐を果たしたフィッシング・ガイドのソーンは、フロリダ・キイズで人目を避け、ひっそりと暮らしていた。そして恋人も去ったいま、彼には幼なじみでFBI捜査官のゲートンと、その妹だけが唯一心を許せる相手だった。しかしゲートンが行方不明になり、身代金を要求する脅迫状が届けられるに及び、ソーンは血も凍る凄惨な暴力の渦へと再び巻き込まれていった……愛憎と欲望にとりつかれた人々の悲劇を清冽な筆致で描き出す『まぶしい陽の下で』に続くフロリダ・ミステリの秀作! 内容紹介より



行ったことはないけれど、フロリダの沼のドブっぽい臭いが漂ってきそうな雰囲気を持った作品で著者の筆力を感じます。ほんとにフロリダ・ミステリという言葉を体現していて、エルモア・レナードやカール・ハイアセンが好きな人に向いてそうです。しかし、わたしは苦手、こういうの。この作品に限らず、ミステリを読むうえでは、物事はっきりしているほうが好きなので(そのほうが分かりやすいからなんですが)、人物ならば黒(悪)か白(善)のどちらか、灰色な人がグレー・ゾーンをまたいで白やったり黒やったりすると読んでいて落ち着かないからあまり好きじゃないです。本書の何をどうしたいのかよく分からない主人公は白なんですが印象が薄くて、灰色から黒に変わる小悪党のオージイのほうがキャラクターは強く感じます。これはこういう系統の作品にありがちな傾向ですね。事の結末も曖昧なつけ方で、爽快感が味わえず不満が残りました。



凍った熱帯夜 (ハヤカワ・ミステリ文庫)凍った熱帯夜 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(1990/10)
ジェイムズ・W. ホール

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『隣人殺し』A・J・オード 教養文庫

2009-08-13

Tag :

☆☆☆☆

隣に越してきて9年、ジェイスン・リンクスにとって彼らは物静かで犬好きの、犯罪とは縁のないよき隣人であった―留守中の犬の世話を頼まれて隣家へいき爆発物を見つけるまでは。そして翌日、隣人夫妻が銃殺された。本職はインテリア・デコレーターだが、謎解きが好きなジェイスンは事件にのめりこんでいく。彼には息子を車内においたまま不可解な失踪をした妻アガサがいた。 内容紹介より



ジェイスン・リンクス・シリーズの一作目だそうで、以前、シリーズ二作目の『ポーズする死体』とB・J・オリファント名義の『予期せぬ埋葬』を邦題に惹かれて読んだことがあって、あまり面白いとは思わなかった記憶があります。今回は喜多元子さんの訳者あとがきに、登場人物たちが魅力的みたいなことが書いてあるので読んでみました。まず、口が達者でグイグイ押してくるような強面ではなく、少し控えめで弱者に優しくする主人公に好感が持てます(これは『ポーズする死体』でも感じました)。思ったのですが、老婦人を登場させて、彼女に優しく接する主人公がいるミステリ作品は、ほとんどの場合出来が良いという法則があるような。たぶん、それらの作品は、脇役も含めて作者の目が細部にまで行き届いているからなのかもしれません。本書にも女性作家らしいデリケートさが現れていると思います。ミステリの部分では、失踪した主人公の妻、隣人夫婦の正体、この二つの謎が非常に興味深く設定されており、前者は主人公の性格、境遇を現すキーポイントにも繋がり、後者は、見た目は普通の夫婦ながら、爆弾が届けられ、その後、射殺されるという冒頭の展開でセンセーショナルな効果を読者にもたらしていると思いました。



隣人殺し (現代教養文庫―ミステリ・ボックス)隣人殺し (現代教養文庫―ミステリ・ボックス)
(1991/03)
A.J. オード

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『いい女をおさえつけることはできない』アリス・ウォーカー 集英社文庫

2009-08-11

Tag :

☆☆☆☆

プレスりーを思わせる青年の成功をあたたかく見つめる黒人女性…。ポルノ雑誌を見てマスターベーションをする夫に決然と戦いをいどむ主婦…。『カラーパープル』でピューリッツア賞、全米図書賞を受賞した、今、世界でもっとも注目される女性作家アリス・ウォーカーの、最高に熱く、最高に哀しく、そして深い、珠玉の短篇集。全14篇。いい女、14人。 内容紹介より



「1955年」「どうやって州一番の腕きき弁護士を殺せたかって?かんたんよ。」「エリーシア」「恋人」「ペチュニア」「別れ」「名声」「中絶」「ポルノ」「ルーナとアイダ・B・ウェルズ」「ローレル」「時の手紙 あるいはこのサド・マゾヒズムを許すべきか?」「春 突然の帰郷」「ソース(源)」収録

アフリカ系アメリカンであり、また女性であるという立場からの、非常にメッセージ性の高い作品集なのでしょう。しかし、それゆえに人種的な偏見、差別、抑圧を幸いにも経験したことのない者にとっては、なかなか真から理解できない部分も当然あって、そこにギャップを感じたりもします。「名声」のなかで作家である主人公が言う台詞「考えてもごらんなさい。黒人たちは黒人であることについてしか書かない。人間であることについては書かないのよ」(p100~p101)。個人がいかに努力しようと変えることのできない皮膚の色、そこからアメリカという国に生まれついたアフリカ系の人々は考えはじめなければならない、これはとても不幸な出来事であり不条理なことでしょう。そしてまた、「ポルノ」や「ルーナとアイダ・B・ウェルズ」、「時の手紙 あるいは…」*などで語られているように、女性であるが故での性的抑圧、暴力、差別の問題も存在しているわけで、特に後の二作品では黒人vs白人、女vs男の複雑な問題も語られています。なんとか頭で理解しても心情面ではとても難しかったりしますが、その努力を続けることが大事でしょう。

*「時の手紙 あるいはこのサド・マゾヒズムを許すべきか?」においては、
『「風と共に去りぬ」のアメリカ ―南部と人種問題―』(青木冨貴子 著 岩波新書)で語られている『風と共に去りぬ』の黒人社会での不人気ぶりの一端が描かれている。



いい女をおさえつけることはできない (集英社文庫)いい女をおさえつけることはできない (集英社文庫)
(1986/08)
アリス・ウォーカー

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『ペネロピ』マリリン・ケイ ハヤカワ文庫

2009-08-08

Tag :

☆☆☆

名家の令嬢でありながら、魔女の呪いのせいでブタ鼻を持つペネロピ。呪いを解く方法はただ一つ、ありのままの彼女に永遠の愛を誓ってくれる、同じ身分の人と出会うこと。お見合いをくりかえすものの、相手はみな悲鳴を上げて逃げていってしまう。運命の男性を待ちつづけることに疲れたペネロピは、やがて自ら広い世界へ足を踏み出すが……すべての人に幸せをくれる、とびきりキュートでロマンティックな現代のおとぎ話。 内容紹介より



映画『ペネロピ』の原作本かと思って買って読んだらノベライズだった。まあ、映画もDVDも観てないから良いんですけど。ノベライズってなんだかやっつけ仕事みたいなイメージがあってほとんど読んだことがないのです。プリンセス、白馬の騎士、魔女、魔法といったアイテムを現代に移し替え、鉄板ネタで超直球で正攻法で仕上げた話ですね。これほど変化をつけないストーリー展開もまた清々しいと言えるのかも。主張しているテーマもたぶん二千年くらい前から言われていたであろうものすごく普遍性のあるものだし、何十万人もの世界中の人たちに観てもらおうとするならばこれくらい判りやすくしないといけないのでしょうね。ハリウッド系、ハートウォーミング系、ファンタジー系、もちろんラブロマンス系で対象年齢は、おおよそ10歳からでも大丈夫。この本あたりまえすぎて感想が書きにくいです。
いい話ですけど、わざわざ本を買って読むよりは、DVDをレンタルして観るほうがいいかもしれません。



ペネロピ (ハヤカワ文庫NV)ペネロピ (ハヤカワ文庫NV)
(2008/01/08)
マリリン・ケイ リース・ウィザースプーン(序文)

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テーマ : ファンタジー・ホラー
ジャンル : 本・雑誌

『シーザーの埋葬』レックス・スタウト 光文社文庫

2009-08-06

☆☆☆

全米チャンピョン牛の栄誉に輝いたというのに、シーザーの命はまさに風前の灯。飼い主で大衆レストラン・チェーンの経営者トマス・プラットが、店の宣伝のためにバーベキューにしようというのだ。そこへ呑気に迷い込んできた巨漢探偵ウルフと彼の右腕のアーチー。 周囲の猛反対をよそに、セレモニーの時間は刻々と迫っている。ところが厳重警戒の牧場で、一頭の牛と反対派の若者の死体が発見された。ウルフは謎のパズルをつなぎ合わせようと……。 内容紹介より



タイトルだけ見て、なにか古代ローマに由来した事件内容なのかと思って、裏表紙の内容紹介を読んだら牛の話。軽くウケました。そして、やっぱりネロ・ウルフの助手アーチー・グッドウィンはうざい。訳者の大村美根子さんをはじめとして、他の読者にも評判の良いウルフとアーチーとのやり取り。『腰ぬけ連盟』を読んだ時から彼の軽口にはうんざりしていましたが、それは彼が思い込んでいるほどには、彼の話はちっとも面白くないのですね。必要なことを端的な言葉で話す彼のボスとストレートな物言いをしない彼自身のお喋りが対比の妙をなしているのでしょうが、個人的に苦手です。女友だちに頼んでボスに仕掛けた悪戯なんて子どもじみているだけで、作者は面白いと思ったのでしょうか。こういうノリにはついて行けません。本書ではウルフはいつものオフィスを出て、現場や関係者の自宅などをウロウロするために、ストーリーにも動きがあって妙な閉塞感も感じることなく読みやすかったです。



シーザーの埋葬 新装版 (光文社文庫)シーザーの埋葬 新装版 (光文社文庫)
(2004/03/12)
レックス・スタウト

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『殺す警官』サイモン・カーニック 新潮文庫

2009-08-04

☆☆☆

副業で殺しを請け負う敏腕刑事デニス。とはいっても、標的は悪人だけだ。今回の依頼では3人の麻薬ディーラーを射殺した。ところが、翌朝の報道で被害者が罪もない一般人だったと知る。やがて自分に酷似した犯人のモンタージュ写真が新聞に載り、そもそも依頼が罠だったのではと疑うが……。極悪にして正義漢というアンチヒーロー登場! 緻密に構成された、殺人級のデビュー作。 内容紹介より



ピカレスク系のハードボイルドが好きなひとは気にいるかもしれませんが、英国ミステリに上品なユーモアと正統的本格さを求めるわたしのようなものにはあまりタイプじゃないです。アメリカ産のハードボイルドで読めるものを別にイギリスの作家で読まなくてもいいやみたいな。ポケットから銃を取り出そうとして布に引っかかってしまったり、引き金の不具合で撃てなかったり、照準が狂っていたりと、この主人公、殺し屋にしてはかなり鈍臭いのは現実的な描き方をしていると言っていいでしょうし、少女たちに示す感情も人間らしいものがあります。しかし、この物語の主題である、進んで人を殺すという彼の人格を描写するうえで何か足りてない感じがします。人物像が定まらないというか、核となるものがないような印象を受けるんですよね。たとえ犯罪者といえども金を貰って彼らを殺すという行為へ至る心情的な説明付けが、彼らが法の目をくぐって司法の手から逃れているからなどと月並みなことでは読む者に迫ってきません。それは狂気から来るものでもいいし、ほのめかす程度でもいいから強く印象を与える理由があればと思いました。



殺す警官 (新潮文庫)殺す警官 (新潮文庫)
(2003/08)
サイモン カーニック

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『ドロシーとアガサ』ゲイロード・ラーセン 光文社文庫

2009-08-02

Tag :

☆☆☆

―帰宅したドロシーを待っていたのは見ず知らずの男の死体だった。拳銃による自殺と見られたが、銃声を聞いたものは誰もいない。死体のそばには意味ありげなメッセージが残されていた。ドロシーの窮地を救うべく、クリスティーを中心としたディテクション・クラブの面々が真相を探ろうとするが……。―イギリスミステリー界の女王ふたりを相まみえさせた、大胆な設定の異色作! 内容紹介より



あまり期待してなかったけれど、結構面白かったです。クリスティーやセイヤーズ以外にバークリー、ミルン、ノックス、ベントリーなど有名推理作家たちの登場シーンも少なく、あまり活躍もしていませんが、これらの名前を目にするだけでもこの作品の質が上がっているように思えてくるのは、わたしが根っからのの海外ミステリファンだからなのでしょう。でも、クリスティやセイヤーズという大御所の名前に頼っているのではなく、プロットも良く練られ、展開も速く読みやすいです。ただし、犯人は早めに見当がつきますが。著者まえがきで「伝記的事実を背景にして、実際のとおりの姿で登場する」とあるように、クリスティの失踪事件やセイヤーズが未婚の母だったことなどのエピソードが取り上げられていて、普段作者個人について関心を持たないものにとってもなかなか興味深いところがありますし、どんな性格をしていたのか気になります。セイヤーズさんにはおっかなそうなイメージを抱いておりますが・・・。



ドロシーとアガサ (光文社文庫)ドロシーとアガサ (光文社文庫)
(2003/12/09)
ゲイロード・ラーセン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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