『カルーソーという悲劇』アンネ・シャプレ 創元推理文庫

2009-09-29

☆☆☆☆

都会から小さな村に移り住んだ、元コピーライターのパウル・ブレーマー。周辺で頻発する馬殺しと放火。そんななか女性農場主アンネの夫が殺されて食肉用冷蔵室に吊り下げられて発見された。犯人はパウルが思いを寄せるアンネなのか?パウルと親友の女検事カレン、郡警察警部コジンスキーの個性派トリオが行き着いた悲劇的真相とは?ドイツ・ミステリ大賞受賞シリーズ第一弾。 内容紹介より



スリー・パインズ村を舞台にしたルイーズ・ペニーのガマシュ警部シリーズに似た雰囲気を持った作品です。しかし、スリー・パインズ村に登場する村人たちは、他所から移り住んで来た、どちらかと言えば上品で知的な感じのする人物が多いのですが、本書の舞台である小さな寒村クライン・ローダではほとんどが地元で生まれ育った田舎の人間たちが物語を彩っていて、なにか桃源郷のように描かれるスリー・パインズ村よりも現実の田舎暮らしの感じが強く出ています。物語は都会から引っ越して来たパウル、農場主のアンネ、検事のカレン、警部のコジンスキーの傍白で語られ、その多くが内省的、思索的であって、見事に庶民的でしたたかな地元民たちと好対照の演出がなされています。また、放火、馬殺し、殺人などの事件は村に起きたさまざまな出来事のなかの一部分であり、それらの事件が解決に至るまでをことさら突出して描いていないところが本書の特徴であるミステリ色の薄さの要因なのでしょう。東ドイツ時代のエピソードより、沢山の猫への餌やり、隣家の老犬の死、道端で噂話に興じる村人、タバコの自動販売機の話とかの細々とした村の生活の一端を窺える話のほうがより面白かったです。




カルーソーという悲劇 (創元推理文庫)カルーソーという悲劇 (創元推理文庫)
(2007/05)
アンネ シャプレ

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『ガサガサ・ガール』ナオミ・ヒラハラ 小学館文庫

2009-09-27

Tag :

☆☆

ニューヨークで再建中の日本庭園がたった一晩でめちゃくちゃに荒された―。その池の底に沈められていたのは、富豪オーウチ・シルクの社長。原因は金銭トラブル?一族の確執?派手だった女性関係のもつれ?ちょっとでも目を離すと何をしでかすかわからない“ガサガサ・ガール”マリと、その父で日系人庭師のマス・アライが不可解な謎に迫る!事件現場に落ちていた、白いクチナシの花に込められたメッセージとは何なのか……。アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作家が描くコミカルサスペンス「庭師ます・アライ事件簿」シリーズ、第一弾登場。 内容紹介より



内容紹介のコミカルという言葉とカバーイラストにかなりな違和感を感じます。ちっともコミカルじゃないし、ガサガサ・ガールは拳銃を撃ってないし。ヒロシマで被爆したり、奥さんを亡くしたり、ひとり娘と疎遠だったり、なにかと辛い環境にいるのは分かるのですけど、とにかく主人公の日系二世のアライさんがネガティブというかテンションが低いというか暗いですね。感情を表に表さずに内にこもったり、内省したり、一時代前の日本人像がアメリカの読者には物珍しさがあるのかもしれません。作者の父親をモデルにしているらしく、戦争を体験して、人種差別を受けた日系人の中にはこういうタイプの人も多いのでしょうが、主人公としては地味ですねえ。MWA賞のペーパーバック賞受賞作品の『スネークスキン三味線』のほうが評価が高いみたいですから、そっちを読んだほうがいいかもしれません。カリフォルニアからやって来た老庭師が、娘のため、孫のためにブルックリンの街を疾走するのではなく、よぼよぼとぼとぼ歩く姿が印象に残りました。




ガサガサ・ガール―庭師マス・アライ事件簿 (小学館文庫)ガサガサ・ガール―庭師マス・アライ事件簿 (小学館文庫)
(2008/02/06)
ナオミ ヒラハラ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『失われた黄金都市』マイクル・クライトン ハヤカワ文庫

2009-09-25

☆☆☆

コンピューターの能力を飛躍的に向上させる鉱石ブルー・ダイアモンド。その鉱脈を求めてコンゴの奥地に分けいった調査隊が何者かに全滅させられた。隊から最後に送られてきた映像には、ゴリラに似た動物の姿と奇妙な建築物の影が。実はこの地には、繁栄を誇った古代文明の伝説があった。真相を究明すべく、女性科学者ロスは第二次調査隊を組織、手話のできるゴリラをともない現地に飛ぶ!ハイテク時代に放つ秘境冒険小説 内容紹介より



個人的に本書をマイクル・クライトンの他作品と較べるとやや評価が落ちます。秘境冒険小説と謳いながら、意図してなのかどうなのかスリリングな場面で妙なはずし方をしてるように感じるんですけど。例えば、ライバルの企業隊の破壊されたキャンプ地を見つけた場面はじわじわと緊張感とか無気味さをたかめながら描いたほうが良かっただろうし、食人種に包囲されて逃げ出す場面は、その脱出するアイデアが秀逸なだけにそれに至るまでの試行錯誤を詳細に描写してあればもっと引き立ったのではないでしょうか。他の冒険小説と違い、両場面ともあっさり書き流している印象を受けました。こういう秘境を冒険する物語を読む時のハラハラドキドキする感じがなぜか湧いてこないのは、ジャングルへと分け入る調査隊が携える、クライトンお得意のテクノロジーや科学理論がまるで光ケーブルで現代社会と彼らを過度に密接に繋いでいるようで、孤立感とか途絶した感じをあまり受けなかったからかもしれません。
単純にサッカーとか野球とかのゲームを楽しもうとしているのに、ゲームの技術理論や使用する道具の説明を並行して進めようとするこの作者の手法が今回は上手くはまらなかったというところでしょうか。

『タイムライン』マイクル・クライトン ハヤカワ文庫
『アンドロメダ病原体』マイクル・クライトン ハヤカワ文庫SF
『ターミナル・マン』マイクル・クライトン ハヤカワ文庫




失われた黄金都市 (ハヤカワ文庫NV)失われた黄金都市 (ハヤカワ文庫NV)
(1990/07)
マイクル・クライトン

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『奇蹟の輝き』リチャード・マシスン 創元推理文庫

2009-09-23

☆☆☆

不慮の事故で命を落としたクリス。彼がたどり着いた死後の世界は「常夏の国」と呼ばれる楽園だった。だが、まもなく信じられない知らせが届く。彼の死のショックに耐えきれず、最愛の妻アンが自殺してしまったというのだ。クリスは旅立つ―アンを救い出すために、想像を超えた苦難の待つ地獄へと! 愛の力がもたらす奇蹟の旅を描く傑作ファンタジー、ついに登場。映画化原作 内容紹介より



神棚に向かって拍手を打ち、仏壇の前で合掌し、クリスマスにケーキを食べるという宗教にたいして典型的なライトユーザーのわたしです。なので死後の世界みたいなことは信じていませんし、もしそれがあるとしたら確実に地獄行きなのでないほうが良いです。
この作品は、人のメンタルな面、心の持ち様を重要視していて、いわゆる宗教色をいっさい排して描かれています。だから神も悪魔も鬼も登場しません。様々な宗教を信仰する読者に配慮しているのでしょうが、きっと作者の生死観も現しているのでしょう。ただ、「精神波動」、「エーテル分身」、「昇華」、「転生」、「星気」とか、何かいんちき臭い新興宗教のパンフレットにでもちりばめられてそうな言葉がこちらの無用な警戒心をかき立てて、ちょっと落ち着かない気分になりました。夫婦愛が重要な主題ですが、それを描くのになにも死後の世界まで持ってこなくてもみたいな。悪魔や鬼や怪物と戦いながら天国から地獄へ向かうアドベンチャー物語のほうが読みたかったなあというのが正直な感想です。

『ある日どこかで』リチャード・マシスン 創元推理文庫
『アイ・アム・レジェンド』リチャード・マシスン ハヤカワ文庫




奇蹟の輝き (創元推理文庫)奇蹟の輝き (創元推理文庫)
(1999/04)
リチャード マシスン

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テーマ : ファンタジー・ホラー
ジャンル : 本・雑誌

『斬首人の復讐』マイケル・スレイド 文春文庫

2009-09-20

Tag :

☆☆☆☆

雪深い山中で次々発見される首なし死体。一方、市内でも被害者を斬首、その首を警察に送りつける事件が発生した。〈刎刑吏〉と〈斬首人〉、カナダ全土を脅かす二人の殺人鬼をつなぐものとは―?壮絶な迫力、波乱万丈の展開、姿を現す意外な犯人たち。J・ディーヴァー級の連続驚愕で圧倒するジェットコースター・ミステリ。 内容紹介より



ミステリの出来うんぬん以前に百科事典とかカナダ歴史書とかネイティブカナディアン風土記とかウィキペディアとか精神分析や精神病理の本とかから採ってきたみたいな人物、地名、制度、テクノロジーなどなどへの注釈みたいな記述に驚きました。果たしてここまで詳細な説明が必要なのかどうか。あとこれに足りないのは、街の様子や通りを説明するためのgoogleマップのストリートビュー・アイコンくらいなものでは。

作者のマイケル・スレイドは複数の執筆者チームのペンネームらしいのですが、それじゃなきゃここまで情報を細微に書けないでしょうね。資料集めだけでも大変でしょう。だからジェットコースターのスピードを味わおうと思うなら、それらの情報の束を読まないか、あるいは流し読みしたほうがいいかもしれません。

ミステリの部分で検討すべきところは、被害者の首を刎ねる行為を行う人物をふたり登場させたことと過去の作品の続編みたいに読めること。作品の完成度は高いので重複する人物像はあまり気になりませんが、考えてみると不自然だし必要性も疑問ですよね。過去の作品を読んでいないので、そこで起きた事件に頻繁に言及されるのはちょっと蚊帳の外に置かれたみたいでいささか白けました。




斬首人の復讐 (文春文庫)斬首人の復讐 (文春文庫)
(2005/09/02)
マイケル・スレイド

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『逃げる悪女』ジェフ・アボット ハヤカワ文庫

2009-09-18

☆☆☆

お気楽判事モーズリーは燃えていた。何年も前に自分を捨てた母を見つけたい!あの手この手で行方を追い、ついに見つけたのはいいけれど、母はギャングになっていた!しかも麻薬取引の金を組織から盗んで逃走中。さらに金を狙い、シェイクスピア・マニア、自己啓発マニア、オタクなストリッパーなど変な奴らが跡を追う。逃げる母親、追う判事。銃弾飛び交う街中を母を求めてモーズリーがゆく。ハイテンション逃亡小説 内容紹介より



ややネタバレしています!ご注意下さい。

シリーズ三作目。
コカインの取引で勢力を盛り返したいギャングの若きボス、コカインを餌に大金を狙うフロリダの麻薬組織、そして、もうひとつの勢力。これらが三つ巴になって騙し合い、殺し合う渦中に巻き込まれた母親を捜す主人公モーズリー判事。今回は主人公の管轄外の街で起きた抗争にかかわり合いになってしまった話なので、ミステリよりクライム・ノベル風な雰囲気で話が展開していきます。拉致され監禁されるエピソードが二回も挿入されるところとか、やや後半にかけての流れが長くてくどいような気がしました。それから、もうひとつの勢力のカードゲームにおけるジョーカーみたいな存在*がちょっと都合が良すぎて、ギャングと麻薬組織の二大勢力のガチバトルを想像していたら横からかっさらって行って(殺し回って)肩透かしを食らったみたいな。彼らの殺しを決行する場所とタイミングがどうも説明不足に感じました。
全体的にもっと短くしたほうが疾走感というか硝煙のなかを駆け抜ける感じが出て来て良かったのではないかと思いました。

*彼らは、モーズリーも含めて家族愛というテーマに括られているのかもしれませんが、ほとんどそれについての言及はなくて復讐というテーマがより目立っています。

『さよならの接吻』ジェフ・アボット ハヤカワ文庫




逃げる悪女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)逃げる悪女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2005/01)
ジェフ アボット

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『魂よ眠れ』ジョージ・P・ペレケーノス ハヤカワ文庫

2009-09-16

☆☆☆☆

黒人探偵デレク・ストレンジは、死刑が濃厚な元暗黒街のボス、オリヴァーを救おうとしていた。デレクはかつてオリヴァーの父の死に関係し、罪の意識に苛まれていたからだ。オリヴァーを助けることができる重要証人の女の存在を知ったデレクだが、ストリート・ギャングもその女を尾け回していた。やがてデレクは、ギャングたちの血で血をあらう抗争に巻き込まれてゆく……街を支配する強大な暴力にデレクは独り立ち向かう。 内容紹介より



複数の殺人や麻薬の売買に関わったギャングのボスを死刑判決から免れさせようと主人公ストレンジが努めるているのは、彼がボスの父親の死に関係したことが直接の理由ですが、永らく行われていなかった死刑を是が非でも執行することで犯罪者への見せしめにしたいという司法機関の強い意図を感じているからです。物語の舞台であるワシントンDCの多くの市民が死刑に反対し、死刑制度が犯罪抑止力になりえないとストレンジは主張し、続けて、「おれが言いたいのは犯人の素姓なんかじゃない。生まれたときから、機会も与えられなければ、指導してくれる人もいないってことを問題にしたいんだ」(p267)。つまり、「誰でも最初は無垢な子供なのだ。金があり、愛する両親がいて、なにひとつ不自由のない生活を送っている子供たちと、貧しい子供たちとでは、社会へ巣立つ入口がちがう。それだけのことだ。貧しい子供たちは、言ってみれば、レースに出る前に手足の自由を奪われているようなものだ」(p185)と子供たちの家庭環境*や社会、生活環境に関心を向けて改善しないことには犯罪者予備軍はいっこうに減らないと言っています。彼はその一端として貧しい黒人地区の子供たちを集めて作られたアメリカン・フットボールのチームを支援しています。これがデレク・ストレンジ・シリーズに一貫して流れる非常に分かりやすく共感できるテーマになっています。

*本書の中で誰かの父親として登場してくるのは、継父のストレンジただひとり。後は皆母子家庭なのがこの物語を象徴しているような気がします。

ジョージ・P・ペレケーノスの他の作品
〈デレク・ストレンジ・シリーズ〉
『曇りなき正義』
『終わりなき孤独』

〈ワシントン・サーガ〉
『明日への契り』




魂よ眠れ (ハヤカワ・ミステリ文庫)魂よ眠れ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2006/06)
ジョージ・P. ペレケーノス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『イングリッシュ・ブレックファスト倶楽部』ローラ・チャイルズ ランダムハウス講談社

2009-09-14

☆☆

宵の明星が夜空に姿を見せる頃。浜辺で海ガメ保護のボランティアをしていたセオドシアは、ぷかぷかと沖に浮かぶ死体を発見!骨董商で、沈没船の財宝を狙うトレジャー・ハンターの男だった。同じ骨董商たちが集う倶楽部のメンバーもつぎつぎに襲われ、おまけに宝の地図までどこかへ消えてしまい……。犯人も目的は海に眠る財宝?それとも!?気品漂う紅茶の香りと、さわやかな潮の香に包まれた好評シリーズ第4弾! 内容紹介より



お茶と探偵シリーズ4。
ミステリ小説のエッセンスがミントティに浮かんだ一枚のミントの葉っぱ以下であるこのシリーズの特徴を一言で表すなら、それは名探偵の不在です。物語としては一応セオドシアというヒロインが探偵役に設定されてはいますが、実は本来ホームズものでいうところのワトスンやポアロものでのヘイスティングズが彼女の役割なのです。まるで盤上から名探偵というキングをつまみ上げ、どこかへやってしまったかのようなぽっかりと開いてしまったスペースがわたしには見えます。そして仕方ないどころか、やる気満々で犯人を推理するクイーンである主人公。ただし、名探偵の代役をその助手がやったとしても推理能力のレベルが上がるわけではありませんから、犯人以外の人物たちをものすごく薄い根拠と間違った大いなる確信でもって疑ってかかります。それを訂正したりたしなめたりして正しい方向を指し示してくれる名探偵はいないのですから、始めから終りまで見当違いの思い込みをしてしまっているのです。そして、そこを笑いに変えるためにはもっと大袈裟に誇張する必要があると思います。

お茶と探偵シリーズ
『ダージリンは死を招く』
『グリーン・ティーは裏切らない』




イングリッシュ・ブレックファスト倶楽部 お茶と探偵4 (ランダムハウス講談社文庫)イングリッシュ・ブレックファスト倶楽部 お茶と探偵4 (ランダムハウス講談社文庫)
(2007/04/28)
ローラ・チャイルズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『幽霊屋敷の謎』キャロリン・キーン 創元推理文庫

2009-09-12

☆☆☆

友人の依頼で、幽霊屋敷の調査に乗り出すことになったナンシー。屋敷では二週間ほど前から奇妙な現象が続けて起きている上、盗難まであったという。さっそく現地で調査を始めるが、“幽霊”の正体はいっこうにつかめない。一方、鉄橋建設のために鉄道会社側の弁護士を務める父の身に、魔の手が迫る……。正義感が強く行動力抜群の少女探偵ナンシーが活躍する、シリーズ第二弾。 内容紹介より



このシリーズは小学生高学年くらいの女の子の海外ミステリ入門書として最適でしょう。主人公の年齢は18歳ですが、約八十年前から書き始められているシリーズですから、現代の18歳と聞いて浮かんでくるイメージよりずっと幼い感じがします。だから、きっと小学生が読んでも感情移入しやすいと思います。これは第一作目を読んだ時にも書いたことなんですけど、それでは普段、ミステリ作品の世界のなかで屍肉を貪り鮮血を啜っている大人の読者にはどうかというと、そういうミステリ作品に胸焼けをおこした時の清涼剤の効果があります。あるいは箸休めとかの。死体も暴力も出てこないし、下品な言葉を吐く人もいないし、警察官は紳士で協力的だし、なんと昔のアメリカは平和だったのでしょうか。そして現在のその変わり様ときたら、など感慨にふけってみるのもまた一興かなと。それはともかく、このシリーズを読んだ子供たちが海外ミステリファンになってくれたらと思いますね。

シリーズ第一作目
『古時計の秘密』




幽霊屋敷の謎―ナンシー・ドルーミステリ〈2〉 (創元推理文庫)幽霊屋敷の謎―ナンシー・ドルーミステリ〈2〉 (創元推理文庫)
(2007/12)
キャロリン・キーン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『デス・コレクターズ』ジャック・カーリイ 文春文庫

2009-09-10

☆☆☆☆

死体は蝋燭と花で装飾されていた。事件を追う異常犯罪専従の刑事カーソンは、30年前に死んだ大量殺人犯の絵画が鍵だと知る。病的な絵画の断片を送りつけられた者たちが次々に殺され、失踪していたのだ。殺人鬼ゆかりの品を集めるコレクターの世界に潜入、複雑怪奇な事件の全容に迫ってゆくカーソン。彼を襲う衝撃の真相とは? 内容紹介より



前作『百番目の男』に較べて主人公とその相棒とのハリウッド(映画)調な軽口が控えめになるとともに、軽薄なイメージを受けた主人公の姿が、自ら抱え込む過去の事件とそれに関係した実兄のことをなんとか折り合いをつけようと悩む青年の姿に移り変わっていて印象が良くなりました。

以下、完(ネタ)バレしています。ご注意下さい!

ミステリの読者は一般的に、物語の全体像やストーリーがどのように展開していくのかを予想しながら読み進んで行くと思うのです。で、この作品はシリアル・キラーによるサイコ・サスペンスの様相を呈しているのだろうなと予測してしまうわけですが、真相はというと金銭的な犯罪動機だったのですね。『デス・コレクターズ』という題名にも、殺人犯の身の回り品や凶器を蒐集する無気味さとそれが商業ベースとして成り立つ様の二重の意味を持たせているのだと遅まきながら読み終わって気づきました。極端に言うならサイコを装ったコンゲームって感じでしょうか。まんまと騙されました。しかし、30年前の快楽殺人行為とその後のビジネスライクなマネーゲームみたいな犯人の精神と行動が一貫性を欠いている気もします。まあ、肩透かしを食らって悔しいから言うんですけどね。
最後に、白い壁のキャンバスに描かれた絵の場面にはイマジネーションを刺激されてかなり感動的なシーンでした。




デス・コレクターズ (文春文庫)デス・コレクターズ (文春文庫)
(2006/12)
ジャック・カーリイ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『こまった人たち チャペック小品集』カレル・チャペック 平凡社ライブラリー

2009-09-08

Tag : 短編集

☆☆☆

ひょんなことから平穏な日常が一変してしまう人間社会の不条理を、ユーモアと鋭い批評眼で綴るチャぺコマニア待望の短編傑作集。スペイン市民戦争やナチスドイツの台頭、歴史上の侵略者を皮肉る寓話や警句は、混迷を深める世界に生きる21世紀の全人類必読!内容紹介より



作品の一部を紹介します。
ポケット短編集より
「法律事件」葬儀の列に車で突っ込んでしまった男。死者を生き返らせたことで、本来感謝されるべきところが、様々な問題が生じて訴えられてしまう非常にブラックな笑い話。

「フォアグラのパテ」食べたことのない種類のパテを買ってきた男と飼猫の話。どうもそのパテが傷んでいるような疑心暗鬼にとらわれて猫に毒味をさせ様子を見るのだが……。身勝手な男の独り相撲。

「サッカー場の奇蹟」信心深い少年が起こす奇蹟といかにしてその力をなくしたかの顛末。苦い。

「トンダ」貰った子豚に名前を付けて買い始めた一家。大きく育った豚を食べようとするけれど……。

「光輪」同僚の所為で上司から叱責された銀行員の男。自殺しようとまで考えるが、結局彼らを許すことにしたら男の頭上に光輪が出現する。これも苦い。

「空を翔べた男」空を翔ぶことができる技術を会得した男の話。そしていかにして翔べなくなったかの顛末。「サッカー場の奇蹟」と同一のテーマ。さらに苦い。

「匿名者」と「十センターヴォ玉」も同じようなテーマ性を持っていて、ある特定の個人を政治的あるいは社会的な理由で匿名の手紙で脅したり、よってたかって狂信的に非難してくる人々は、なにも普段から偏屈で非常識な生活を送っているわけではなく普通の、時には好感の持てる人物だったりするということ。そしてそれが一層恐ろしいくて不気味に感じてしまうこと。『長い長いお医者さんの話』や『ダーシェンカ、子犬の生活』などの微笑ましい作品を著した作者が、当時の社会、政治情勢やナチスドイツの軍靴が迫るなかでこのような作品を書かなければならない状況に置かれたことは非常に残念なことだと思います。


寓話集より
「雲をどうやって育てるか」たった四行の話でありながらチャペックの素晴らしさの一端を充分窺う知ることができる小品。全文転載したいくらい良いです。『園芸家12か月』(たぶん収録されていないと思います)の流れを汲む作品。




こまった人たち―チャペック小品集 (平凡社ライブラリー)こまった人たち―チャペック小品集 (平凡社ライブラリー)
(2005/05)
カレル チャペック

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『スリー・パインズ村と運命の女神』ルイーズ・ペニー ランダムハウス講談社

2009-09-06

☆☆☆☆

地図にも載っていないくらいに小さいけれど、魅力あふれるケベック州の村、スリー・パインズ。クリスマス直後、毎年恒例の村のお楽しみ、カーリング試合の最中に、凍った湖の上で女性が突然倒れて死んだ。心臓発作を疑われたが、感電が死因の殺人事件だった。ガマシュ警部は大勢の人が現場にいたのに目撃者がひとりもいないことを不審に思い捜査を始めた……。各紙誌で絶賛されたシリーズ待望の第2弾。アガサ賞長篇賞受賞作品。 内容紹介より



主要登場人物以外の者たちが安易な人物造形になっていたり、壁紙の模様みたいな背景画にしか見えなかったりするコージー・ミステリ作品が乱発されるなか、このガマシュ警部シリーズにおける登場人物たち一人ひとりの人物背景、負わせる過去、性格付けの丁寧さ細微さ、隅々への心配りは本当に見事だと感じました。かなり煮込んでますよね。そしてそれらの人物たちの機微を縦糸横糸にしながら根気よく紡いでいく作者のテクニックにも感心します。ミステリにおいても細部を大事にしている作品には名作が多いという当たり前のことを再確認させてくれます。ただ作品全体にやや茫洋としているような印象も受けますから、ミニマリズムという名前のハサミかノミでウエストラインなどをきゅっとシャープにしたら良いような気もしますが。前回の事件から一年後、季節はクリスマスを挟み、雪に囲まれたスリー・パインズ村でまた事件は起きます。雪に覆われた、人を魅了して止まないこの村の情景を想像すると、国こそ違いますがグランマ・モーゼスの絵の世界を思い起こします。

『スリー・パインズ村の不思議な事件』ルイーズ・ペニー ランダムハウス講談社




スリー・パインズ村と運命の女神 (ランダムハウス講談社 ヘ 4-2)スリー・パインズ村と運命の女神 (ランダムハウス講談社 ヘ 4-2)
(2009/06/10)
ルイーズ ペニー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『スケルトンキー』アンソニー・ホロヴィッツ 集英社文庫

2009-09-04

☆☆☆

全英オープンテニス選手権大会(ウィンブルドン)のボールパーソンとなったアレックスは、そこでサビーナと出会い楽しく会話を交わす最中、素行の怪しい男を発見。それが大きな事件へと発展する。一方、アレックスの活躍を評価する米国CIAは彼に協力を要請。カリブ海にある旧ソ連の軍人サロフの邸宅へと潜入したアレックスは、サロフから意外な提案を受ける……。絶好調の映画化シリーズ第3弾! 内容紹介より



これまでのシリーズ作品の中で一番出来が良いと思います。今回は主人公アレックスの内面をこれまでになく掘り下げて描いているからでしょう。女友達とその家族との交流、スパイ工作のために家族を装ったCIA工作員とのやり取り、敵役のサロフから持ち込まれたある提案、これらの出来事が両親を亡くしたアレックスの父母への思慕と家庭を失ったことによる喪失感を浮かび上がらせています。主人公の少年の心にある暗い部分を見せることで、荒唐無稽な話しにも深みが出てきたように感じます。サロフの企みは狂っているとはいえ、決して個人の欲望とか自己中心的な動機からではないところもこのシリーズの新しい一面です。

『ストームブレイカー』
『ポイントブランク』




スケルトンキー―女王陛下の少年スパイ!アレックス (女王陛下の少年スパイ!アレックス)スケルトンキー―女王陛下の少年スパイ!アレックス (女王陛下の少年スパイ!アレックス)
(2003/06)
アンソニー・ホロヴィッツ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『むだに過ごしたときの島』シルヴァーナ・ガンドルフィ 世界文化社

2009-09-02

Tag :

☆☆☆

いらいらしてる?しなければならないことがありすぎる?これをしろあれをしろってうるさく言われる?もう自分がだれだかもわからなくなっちゃった?ちょっと待って!それじゃ、とっておきのバカンスをとろうよ。〈むだに過ごしたときの島〉で。 内容紹介より



時間と友情をテーマにした児童文学です。
廃坑の中で迷ったふたりの少女が火山島にテレポーテーションしてしまう。その島は人や動物、物、感情など迷子になったあらゆるものがたどり着く場所だった。現実の世界でひとびとが良い意味で無駄にすごした時間のおかげで島民たちはゆったりとした時を過ごしていられるけれど、自分にとってやりたくもないことや意味のないことをして無駄に時を浪費すると、その黒い時間は黒煙となって島に噴き出し島民に悪い影響を与えてしまう。
時間をテーマにしている部分は、エンデの『モモ』を思わせます。海辺でぼーとしたり、夜空の星を見ていたり、目的地も決めずに適当に旅行したり、空想に耽ったり、とにかく無駄にすごすことは良いことなんだと言っているのです。一方、何かに急き立てられているかのように、やりたくないこと意味のないことをやって無駄な時を過ごしている代表に日本人が挙げられています。イタリアを舞台にしたミステリ作品では、勤務中の警察官がワインを飲みながらゆったりと昼食をとってたりしますけど、そういう場面を読むと日本人って少なくとも時間の過ごし方に関してつくづく人生損していると感じますねえ。
良い本だけどわたし個人にとっては手遅れ感と空しさを感じてしまう作品でした。




むだに過ごしたときの島むだに過ごしたときの島
(2003/07)
シルヴァーナ ガンドルフィ

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テーマ : 児童書
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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