『ヴァルハラ最終指令』ハリー・パタースン ハヤカワ文庫

2009-11-30

Tag :

☆☆☆☆

1945年4月末、ドイツ国家指導官ボルマンは武装親衛隊の英雄リッター少佐らと共に、陥落寸前のベルリンを脱出した。向かうはババリアのアルルベルク城。そこに監禁された連合国の有名人捕虜5名を利して、ナチス最後の秘謀を遂行するためだった。だがその頃、城の独軍指揮官は投降、米軍部隊が接収に出発していた。以前リッターに部下を虐殺されたハワード大尉に率いられて。ヒギンズが別名義で贈る傑作戦争アクション 内容紹介より



SSのエリート隊員ながら、崩壊寸前の祖国を前に虚無的になってしまったリッター少佐、歴戦で多くの部下を失い、さらにリッターの急襲で戦死者をだしてし、復讐に燃えるハワード米軍大尉、リッターに影のように寄り添うホッファー曹長、グレン・ミラー楽団の元クラリネット奏者で皮肉屋のファインバウム二等兵、アルルベルク城の捕虜の一人であるカニング将軍、ヒトラーの片腕であるボルマン。これらの対決軸に、フィンランド人のSS傭兵たち、城内にいる謎の内通者、アメリカ人SS大尉などを配し、ヒギンズが鉄板のプロットで英国冒険小説の王道に沿って書き上げた戦争活劇です。とどめを刺すようなラストの文章も巧み。
難を言えば、ボルマンの陰謀そのものではなく、その一過程である秘話を取り上げているに過ぎないから、そこは物足りなさを感じました。




ヴァルハラ最終指令 (ハヤカワ文庫NV)ヴァルハラ最終指令 (ハヤカワ文庫NV)
(1983/01)
ハリー・パタースン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『古き友からの伝言』イーサン・ブラック ヴィレッジブックス

2009-11-28

☆☆☆☆

住居は豪邸、愛車はジャガー、ルックスはモデル並み ― ニューヨークの有名刑事フートの元へ、かけがえのない親友ミーチャムから9年ぶりに連絡が入った。ただならぬ様子に心配して駆けつけてみると、陸軍を辞めたというミーチャムは何者かに監視されて怯えており、フートにメモを渡し、そこに書かれた人物達を何も言わずに調べてくれと言い残して立ち去る。親友の身に危険が?!フートはさっそく捜査を始めるが、しだいに恐ろしい陰謀が姿を現してくる。リストにある美人女医が鍵だと直感したフートは、そこを突破口に黒幕を暴くことを胸のうちで友に誓うが ―。話題のスタイリッシュ・スリラー第2弾!内容紹介より



もしかしたら、このシリーズは良シリーズなのかもしれない。どこが良いかというと、主人公の人物造形が秀でてて、上手く描かれていると思います。「住居は豪邸、愛車はジャガー、ルックスはモデル並み」、この説明文から受ける、軟派で軽佻浮薄なイメージとはかけ離れて、真摯で内省的な人物像に仕立て上げられています。オランダ系アメリカ人の設定とは別に、イギリス風な感じがします。ただ、ユーモアのセンスをあまり持ち合わせていない(作品全体に少ない)ように見えるのが残念だけれど、完成した「大人」ではなくて、内面が成長途中の若さを感じられるのは好印象です。さらに、彼とは対照的に軽いキャラクターである相棒のミッキーの個性をもっと強く描けば、このシリーズに新しい魅力が加わるのではないでしょうか。
一方、主人公のラブロマンスはカミラだけに絞って、他の女性との恋愛はないほうがいいと思います。やや内容に較べてページ数も多いことだし。
プロットについては、謎がばれるのが早くストレートでしたが、後半に殺人犯と爆弾犯を二重に絡ませてストーリーを進めているところは新しさがありました。

『殺意に招かれた夜』イーサン・ブラック ヴィレッジブックス




古き友からの伝言 (ヴィレッジブックス)古き友からの伝言 (ヴィレッジブックス)
(2005/06)
イーサン ブラック

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『猫は爆弾を落とす』リリアン・J・ブラウン ハヤカワ文庫

2009-11-26

☆☆

町が誕生して百五十年を迎えるピカックスは、記念イベントの準備で賑わっていた。そんな折、一人の青年が町にやってきて、珍事が発生する。ココが青年に向かってダイブし、体当たりを喰らわせたのだ!やがて町では二件の死亡事故や、例の青年の親族が不審な病に倒れるなど、不穏な出来事が次々と発生する。はたしてココは町の一大事を救うことができるのか?ココの大胆な行動がファンの心をわしづかみにする注目作 内容紹介より



ココが死の咆哮をするのと自ら急降下爆撃機および弾頭となって、猫嫌いの男に攻撃を仕掛けるくらいで、飼い主のクィラランが事件の解決に向けて活躍する場面はありません。《一八六九年の大火》という一人芝居をやったり、チャリティの子猫オークションの競売人になったり、地元紙のコラム『クィル・ペン』の記事を書いたりして忙しいので……。
ふと今気が付いたのですけれど、このシリーズの作者であるリリアン・J・ブラウンさんは、きっとピカックスという町とそこに住む人々の運命を支配し、左右する神様になったなった気分でいるのではないでしょうかね。ストーリーの上で不必要ともとれる事故死とか激しい嵐とか未解決の爆破事件とか、創造者の力を見せつけてるみたいに思えますよ。作者とその作品という関係を超えて、町に君臨してるみたいな。

『猫は銀幕にデビューする』リリアン・J・ブラウン ハヤカワ文庫
『猫は七面鳥とおしゃべりする』リリアン・J・ブラウン ハヤカワ文庫
『猫はバナナの皮をむく』リリアン・J・ブラウン ハヤカワ文庫
『猫はひげを自慢する』リリアン・J・ブラウン ハヤカワ文庫




猫は爆弾を落とす (ハヤカワ・ミステリ文庫)猫は爆弾を落とす (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2006/12)
リリアン・J. ブラウン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『悪魔はすぐそこに』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

2009-11-24

☆☆☆☆☆

ハードゲート大学の数学講師ピーターは、横領容疑で免職の危機にある亡父の友人ハクストンに助力を乞われた。だが審問の場でハクストンは、教授たちに脅迫めいた言葉を吐いたのち変死する。次いで図書館で殺人が起き、名誉学長暗殺を仄めかす手紙が舞い込む。相次ぐ事件は、ピーターの父を死に追いやった八年前の醜聞が原因なのか。クリスティが絶賛した技巧派が贈る傑作、本邦初訳。 内容紹介より



派手さはないけれど巧みさが際立つ作品です。オックスブリッジのような超有名大学ではなく、ブリック・カレッジみたいな(正確には違いますが)地味な地方大学を舞台に選んでいるのも、大学教官、職員たちの玉石混淆ぶりと人間関係をコンパクトに現す意味でよい選択だと思います。また、三人称多視点の切り替わりが絶妙で、カメラワークがスムーズでとても読み易いと思います。ただ、作品全体に淡白な印象を受けてしまうため、もうちょっと変な癖みたいなものが欲しい気もします。

以下、ネタばれしています!ご注意下さい。






一般的にミステリ小説においては、犯人の動機、心理状態、犯罪に至った事情などを探偵役がラストに総括して説明するパターンが多いと思いますが、本書ではそれら諸々が1ページ目から語られ始めています。しかし、手がかりその他の埋め方とその上にかぶせた土の量の具合が巧妙で、真犯人が判明した時、まさしくタイトルで明かしているとおりに、悪魔は読者のすぐそこにいたことにハッと気付くというわけです。
クリスティの代表作のひとつに何か似たものを感じるので、彼女が絶賛したというのも判るような。しかもそれより上手くやってます。



悪魔はすぐそこに (創元推理文庫)悪魔はすぐそこに (創元推理文庫)
(2007/09/22)
D.M. ディヴァイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『月 殺人事件』スジャータ・マッシー 講談社文庫

2009-11-22

Tag :

☆☆

レイ・シムラは、日系アメリカ人のアンティーク・ディーラー。顧客に依頼され、ようやくみつけた時代箪笥は、掘り出し物どころか偽物、しかも殺人を呼ぶ代物だった!?弁護士の恋人ヒューとの優雅な暮らしもギクシャクして、鎌倉の禅寺に身を寄せることに……。アガサ賞受賞の前作に続くシリーズ第二作!



ミステリでもそれ以外のところでも、TVの二時間サスペンスドラマの域を越えていないのじゃないのかと思います。殺人事件、恋人との関係や痴話げんか、彼の弟の問題など内容がゴチャゴチャしている印象を受けました。ヒロインを含めて登場人物たちの誰も好きになれそうなひとがいない。舞台が日本で禅寺が出てきて、外見が日本人と変わらないひとを主人公にして、彼女の仕事はアンティーク・ディーラーという設定ならば、そして日本人の読者だったら日本のミステリを読んでおけば良くない?ってことですよ。この本、アメリカ人が異国情緒を感じながら読むための作品じゃないでしょうか。少なくともわたしは、異文化の中に放り込まれて右往左往する金髪で180センチほどの長身の女性をヒロインに据えたほうが日本人にとっては興味深いと思うし、ベタな設定のほうが商業的にも成功すると思うんですけどね。そんな作品を探してきて翻訳したほうがいいと思います。




月 殺人事件 (講談社文庫)月 殺人事件 (講談社文庫)
(2003/10)
スジャータ マッシー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ずっとお城で暮らしてる』シャーリイ・ジャクスン 学習研究社

2009-11-20

Tag : ホラー

☆☆☆☆

お茶でもいかがとコニーのさそい
毒入りなのねとメリキャット……
不気味な唄声が暗示する惨事の影
閉ざされた館に高まりゆく愛と死と狂気
モダン・ゴシックの女王の最高傑作、本邦初訳!
内容紹介より



あまりそういう気分になったことはないのですが、部屋でひとりこの本を読み終え、ドアを開けて部屋の外に出たら現実に戻った気がしてなにかホッとしました。メリキャットが造り出した妙なメルヘンの巣に絡めとられたみたいで、知らない内に入り込んでしまいますねえ、この本。もしメリキャットが男性ならピーターパンシンドロームのような、大人になることを拒否し、歪んだネバーランドに夢想しながら暮らしていると言えるのでしょうが。そして、ダン・カイリー博士だったら、姉のコンスタンスがウェンディからティンカーに変わろうとした時に悲劇が起きたと分析したかもしれません。
広大な敷地に建つ屋敷のなかで姉妹と伯父と猫、これらのもので完結していた世界の一角が壊れた時、周りを取り囲んでいた村人の悪意が集団ヒステリー気味になだれ込んで来て嫌でしたね。その後、一部の村人が取った行動に救いはありますが、この姉妹が気の毒でした。この本を読んでいて個人的にテンションが下がるのは、メリキャットにも村人にもなりそうな自分が見えることでした。




ずっとお城で暮らしてる (学研ホラーノベルズ―恐怖少女レクション)ずっとお城で暮らしてる (学研ホラーノベルズ―恐怖少女レクション)
(1994/12)
シャーリイ ジャクスン

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ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)
(2007/08)
シャーリィ ジャクスン

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テーマ : ファンタジー・ホラー
ジャンル : 本・雑誌

『シャーリー・ヴァレンタイン』ウィリー・ラッセル 劇書房

2009-11-18

Tag :

☆☆☆☆

シャーリー・ヴァレンタイン、結婚する前、彼女はそういう名前で呼ばれていた。その頃の彼女は、生き生きと冒険心を持って生きていたはずだった。しかし今はもう42歳、彼女は台所の壁に向かって、夫や子どもたち、そして自分自身への愚痴をしゃべる日々を送っている。このドラマは、その彼女がもう一度、自分自身の未知なる旅に出る勇気を持つ物語である。「あたしが味わった旅先での唯一のロマンスは、あたし自身との出会いナの。あたし、……自分が好きになってきたわ、とっても」 内容紹介より



二人の子どもは独立し、夫と二人暮しをする42歳の女性を主人公にした戯曲です。全編、彼女の独白でのコメディです。友人からギリシャ旅行に誘われたことがきっかけで、ある日、主人公は台所の壁に向かって人生や生活の不満や愚痴を並べる自分に、そして壁以外にほとんど話を聞いてくれる人物がいないことに気づきます。それから何度も旅行に行くことに躊躇するのですが、その度に何らかの出来事が起きて旅に出発すること決意するのでした。
リバプールの自宅では台所の壁に、ギリシャでは海岸近く岩に、それから現地の男性に、そしてラスト・シーンでは……、といった具合に彼女の話相手が室内から野外へ、無生物から生物へと変わっていくことで、彼女の精神の変化が描かれています(たぶん)。
人生をやり直す物語として、ストーリー・パターン的には意外性がないかもしれないけれど、主人公を旅立たせることになった諸々のエピソードは可笑しかったです。
男女問わず誰でもこんなふうに人生を変えてみたいと思ったことはあるでしょうが、奥さんとの会話がない、奥さんの話に興味がない旦那さんたちは、いきなり奥さんがギリシャへ行ってしまわないうちに本書を読んでおいたほうが身のためかも。




シャーリー・ヴァレンタインシャーリー・ヴァレンタイン
(1991/06)
ウィリー ラッセル

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『ビッグ・タウン』ダグ・J・スワンソン ハヤカワ文庫

2009-11-16

Tag :

☆☆☆

やり手の検事補だったものの、不倫が元でクビになったジャック。今は浮気調査を請け負って日銭を稼いでいる。そんな彼のもとに大企業社長バディの妻から夫の浮気調査の依頼が舞いこんだ。情事の盗聴には成功したが、バディも録音テープを奪おうと必死の様子。さらに依頼人の女が身元を偽り、バディから大金を巻きあげる魂胆だったことが判明し……虚飾の街ダラスに展開する丁々発止の騙し合い。英国推理作家協会賞受賞作 内容紹介より



上手くまとめた(あるいは、まとまり過ぎた)フロリダ・ミステリ風味で、ちょっと小粒な軽めのノワール小説って感じ。解説の岩田清美さんが書かれているように、エルモア・レナード、カール・ハイアセンが好きなひと向けでしょうか。
主人公を含めた登場人物たちの小物感と人間関係の猥雑さ、脅し取ろうとする金額の少なさとしょぼい殺人事件、こういったことによる作品全体を覆うトホホなB級感。オフビートというかフラットというか、この本にモニター装置を取り付けたら、ものすごく低いレベルで心拍が起伏してそう。大金をかっさらう壮大な犯罪計画とか血みどろの人間関係とかじゃなくて、新聞の三面の片隅に掲載されるような事件を意図的に描いているのです。
読んでいる最中は華がないなあとか思ってしまいますが、なにか癖になる味なのですね。しかも非常に読みやすいです。さすがにCWA賞新人賞を受賞しただけのことはあります。
欲を言えば、常識人の主人公が弁護士の助手のテディに較べて地味過ぎなので、奇人変人系の性格付けをしてあればと思いました。しかし、それを言い出すと、悪女他もステレオタイプだからってなってくるし、そうなると登場人物たちのドングリの背比べ的統一感が乱れてしまいますね。




ビッグ・タウン (ハヤカワ・ミステリ文庫)ビッグ・タウン (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2001/02)
ダグ・J. スワンソン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『殺意に招かれた夜』イーサン・ブラック ヴィレッジブックス

2009-11-14

☆☆☆

凶悪犯罪に慣れきった街、ニューヨーク。そんな街の男達さえも震え上がらせる連続殺人が起こった。行為の最中にめった刺しにされ、一物まで切り取られるという凄惨な現場に残された手がかりはただ一つ ― 「わたしはあなたを知っている」というメッセージだけ。被害者たちは共通点がまったくない。いったい誰が、なんの目的で?次なる目標は?豪邸に住みジャガーを乗り回す、ニューヨークいちリッチな名物刑事コンラッド・フートは捜査に乗り出すが、事件の陰には男を惑わす、たまらなくセクシーな謎の女の姿があった。フートが女の正体を追ううち、驚愕の事実が……。衝撃のスタイリッシュ・スリラー。 内容紹介より



本書の特徴といったら、まずシリアルキラーが女性であることと、なぜ彼女が連続殺人を犯すに至ったかを詳細に書いていることだと思います。最近のミステリ作品では、シリアルキラーはほとんどの場合サイコキラーという設定が多くて、たいがい幼少時に虐待を受けていたとか、猫や小動物をいじめていたなんてエピソードでかたずけられてしまいがちですが、この作品では彼女がどうしてそのような精神状態に陥ったのかについて多くのページが割かれています。単なる殺人嗜好の血に飢えた殺人犯じゃなくて、読者が彼女に哀れみを覚える設定になっています。ただ一方では、前半に長く尺を取ったスプラッター気味の殺人シーンがあっただけに、少女時代に起きた事件、彼女の母親の態度、恋人の採った行動を挙げて理詰めで説明されたら、ああそうなんですかって白けてしまうのもあるし、それでもそこまでやるかって眉唾物みたいな感覚も持ってしまうのですね。
それから、この作品の○と×を書いときます。
○ なぜ彼女が人の知りえない色々な情報を手に入れられたのか、その理由。
× 筒井康隆の『富豪刑事』ばりのお金持ち刑事の設定なのに、まったく洒落にならない  ほどコミカルな部分がないこと。単にアメリカ人の歴史コンプレックスを突いている  だけのことなのでしょうかね。




殺意に招かれた夜 (ヴィレッジブックス F フ 4-1)殺意に招かれた夜 (ヴィレッジブックス F フ 4-1)
(2003/11)
イーサン・ブラック

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『ショコラ』ジョアン・ハリス 角川文庫

2009-11-12

☆☆☆☆

フランスのはずれの小さな村に、町から町へと放浪を続けている、謎めいた女性ヴィアンヌとその娘アヌークがやってきた。古いしきたりに囚われないこの不思議な母娘は早速、教会近くにチョコレートの店を開く。村人たちが見たこともない色鮮やかなチョコに溢れる店内。そしてなぜか彼女の薦めるチョコは、それぞれの口にぴたりとあった。その甘く
ほろ苦い、至福のひととき。固く閉ざされていた村人たちの心はゆっくりと解きほぐされ、これまで忘れていた、人生を愛する喜びを取り戻してゆくのだが……。読む人すべてを幸せにしてしまう、とびきり美味な極上の寓話。 内容紹介より



こういうアウトサイダーが問題を抱える集団に加わって意識改革を行うストーリーは、洋の東西を問わず、あまた存在していて、TVだと体育会系の学園ドラマだったり、映画だと潰れそうなスーパーマーケットの再建話だったり、児童文学だと『少女パレアナ』など
ですかね。意識変化を起こす触媒は、それぞれ青春、お金、無邪気さだったりしますが、本書の場合は「ショコラ」なのですね。スイーツへの飽くなき欲求です。夫から暴力を振るわれる盗癖のある奥さん、病んだ老犬を飼う気弱な老人、娘のせいで孫と疎遠になっている老女、教条主義的な司祭に抑えられている村人たちが、チョコレート店主と彼女が作るチョコレートをきっかけに変身していく様子が感動的です。
ヒロインもアウトサイダーの常として根なし草の感覚に囚われているのでした。


『紳士たちの遊戯』ジョアン・ハリス ハヤカワ文庫




ショコラ (角川文庫)ショコラ (角川文庫)
(2002/06)
ジョアン・ハリス

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『文豪ディケンズと倒錯の館』ウィリアム・J・パーマー 新潮文庫

2009-11-10

Tag :

☆☆☆

1851年のロンドン。私ウィルキー・コリンズは、先輩作家ディケンズとの夜ごとの散策がきっかけで辣腕刑事フィーリドと出会い、奇しくも殺人事件の捜査に加わることになる。被害者は劇場の出資者兼顧問弁護士。容疑者の演出家も殺され、ディケンズが一目惚れした娘が現場から姿を消した ― 。若き日の文豪が殺人の謎に挑み、欲望渦巻くロンドンで冒険を繰り広げる、異色の探偵物語! 内容紹介より



ビクトリア朝時代のロンドン、主に夜の貧民街を舞台にした物語で、ミステリと呼ぶより冒険小説の色合いが濃い。コリンズがワトスン役として事の顛末を語りますが、ディケンズはホームズ役というわけではなく、どちらか言えば頭脳より体力、行動力を多く使って事件に関わっています。犯罪捜査の専門家であり、住民や地域に熟知しているテリトリー内にいる首都警察隊の警部フィールド(強面過ぎて不快に感じる箇所もあります)と不意に現れて美味しいところを持って行く泥棒のトンプスンの活躍とキャラクターが目立つため、土地柄、階級ともに場違いなディケンズとコリンズのコンビの存在感が際立っているとはいえません。返って、このコンビの女性二人への感情、特にディケンズの少女へよせる執着心は、結局、あの貴族と同類じゃないのかといった負のイメージが湧いてきました。そこのところが気になって主人公に感情移入できなかったし、女性を含む弱者への視線が強者からのものばかりで、彼らを思いやる場面が少なくてあまり作品を楽しめませんでした。ただ、コリンズが当時の女性の地位、社会的身分について思い煩う箇所は良い場面でした。





文豪ディケンズと倒錯の館 (新潮文庫)文豪ディケンズと倒錯の館 (新潮文庫)
(2001/10)
ウィリアム・J. パーマー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『赤の女』ポーラ・ゴズリング ハヤカワ文庫

2009-11-08

☆☆☆☆☆

出世の道を絶たれ、漫然と日々を送る英国領事館員のルウェリンに殺人事件の調査が命じられた。被害者は、名画の贋作で有罪となった男で、出所直後に謎の墜死を遂げていた。殺人の容疑は、護送中に死んだ贋作の共犯者デービッドの父親にかけられた。ルウェリンは、彼の無実を信じるデービッドの未亡人ホリーとともに真実を探るが……サスペンスの第一人者がスペインを舞台に贋作をめぐる謎をロマンスをからめて描く意欲作 内容紹介より



わたしが知らなかっただけかもしれないんですけど、もしかして、これ隠れた名作じゃないのかしらん?かなり完成度が高いですよね。発表された年代からすると、少々、パッケージが古典的英国冒険小説としての常道さを多々持ち合わせていて懐かしさを覚えますが、それもまた魅力かなと。
物語は、スペインの地方都市を舞台に、英国のくたびれた領事館員と米国人の血気盛んな女性が名画の贋作に絡んだとみられる殺人事件の謎を追うというもの。官僚的なスペイン警察から始まり、怪しい隣人やいろいろな人物が集まる現地の英国人社会、暗闇の岩山での逃避行、カーニバルの真っただ中での追跡劇、嵐の中、ペントハウスのテラスでの活劇、意外な真相と真犯人。雰囲気が重くならず、不条理なイメージもスパイス程度で抑えてあり、まるでヒッチコックの映画みたいなサスペンスとユーモアがとてもよかったです。そして、作中で語られるスペイン人気質の話も面白い。
こなれ過ぎていると思う人もいるかもしれませんが、それも作者のすぐれた技量からでたものでしょう。少し大袈裟に言うと、わたしのなかでは英国冒険小説のひとつの集大成的な位置づけです。
それから、ロマンティック・サスペンスを謳う昨今の作家たちには、一回本書を読んでから作品を書けと言いたい。

『ブラックウォーター湾の殺人』ポーラ・ゴズリング ハヤカワ文庫
『ハロウィーンの死体』ポーラ・ゴズリング ハヤカワ文庫
『すべての石の下に』ポーラ・ゴズリング ハヤカワ・ミステリ




赤の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)赤の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(1994/08)
ポーラ・ゴズリング

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ケンブリッジ大学の殺人』グリン・ダニエル 扶桑社ミステリー

2009-11-06

Tag :

☆☆☆

ケンブリッジ大学が明日から長期休暇に入るという夜、フィッシャー・カレッジ内で門衛が射殺された。副学寮長のサー・リチャードは、一見単純に見える事件に複雑な背景があることに気づき独自の調査に乗り出すが、やがて帰省した学生のトランクから第二の死体が発見され……。めくるめく推理合戦、仮説の構築と崩壊、綿密きわまる論理的検証、そして卓越したユーモア。考古学教授を本職とする著者がものした、本格ファンの魂を揺さぶる幻の40年代クラシック・パズラー、ついに本邦初訳なる! 内容紹介より



大学構内での二件の殺人事件、動機を持つ容疑者たち、探偵役の大学教授、スコットランド・ヤードの警視。たしかにクラシック・パズラーといわれるだけあって、物語の構成を一見したら非常に旧式な印象を受けます。しかし、この目撃証言や物的証拠に乏しく、関係者、特に容疑者の証言に頼らざるを得ない事件において、その証言自体がくるくる変わるところがこの作品の一筋縄ではいかないところです。証言や状況証拠によって立てた探偵役の推理が間違っていたり、探偵役の教授以外に地元警察の署長、警部、スコットランド・ヤードの警視がそれぞれの推理を披露して真犯人の名前を挙げるなどして、探偵役の推理が必ずしもメインストリームとして一貫して流れている訳ではないこと。目を閉じた者たちが何かひとつの物を触り、一体それは何なのかを言い合うのを端で聞いているような妙な気分になりました。推理するうえでのひとつの重要な立脚点である“証言”というものがいかに不確かになるか、またいかに多くの推論がそこから派生するか、なんてことを思いました。そういうことに重きをおいたミステリ小説ってあんまりないと思うから、古い革袋に新しい酒を入れたみたいな体の有意義な作品かもしれませんね。


それから、若干ネタバレしますけど、
小林晋さんが訳者あとがきで、「本業のかたわら、探偵小説を書いた人物」のなかにロナルド・ノックスの名を挙げていらっしゃるから、余計なことを書きますが、この作品はノックスの十戒の一つを破ってます。

『オックスフォード連続殺人』 ギジェルモ・マルティネス 扶桑社ミステリー




ケンブリッジ大学の殺人 (扶桑社ミステリー タ 9-1)ケンブリッジ大学の殺人 (扶桑社ミステリー タ 9-1)
(2008/05/29)
グリン・ダニエル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『海賊岬の死体』ジェフ・アボット ハヤカワ文庫

2009-11-04

☆☆☆☆

Tシャツ、チノパン、サンダル姿のお気楽判事モーズリー。恋人もできて順風満帆だったが、その矢先、彼女のおじが殺されてしまった。そのおじが所有する土地に、海賊の秘宝が埋まっているという魅惑的な噂があったのだが……。頭のきれるトレジャー・ハンター、狂信的な海賊フリーク、考えのない絶倫男。ひとくせもふたくせもある人間たちが、熾烈なお宝争奪戦を繰り広げる。海賊たちも仰天の奇想天外な騙し合いの行方は? 内容紹介より



モーズリー判事・シリーズ三作品のなかで一番面白かったです。
主人公たちが殺人事件の調査を行っている場面に、警官とその友人が乗ったヨットが何者かにシージャックされる場面が挟み込まれていて、だれることなく非常にさくさく読めました。ミステリ小説のなかで関係者に聞き込みをしてまわる部分が長々と続くとかなり退屈してしまうものですが、そこに現在進行形の事件を挿入することで読者の興味を結果的に高める効果がでてます。ストーリーのなかの静と動といいますか、強弱のアクセントが付いています。しかし、後半、グーチが事件に係わりだしてから人物と出来事が錯綜し始めてリズムが乱れました。
それから、この主人公のお気楽ぶりというかモラトリアム人間さはもっと強調して描いても良いのではないでしょうか。作者が徐々に成長させていくつもりなのかもしれないけれど、若くて善い人だからどうしても印象がぼんやりしてる感じにとれるんですよね。
海賊にまつわる宝物の話は平凡過ぎて興味を惹かれませんでした。

『さよならの接吻』ジェフ・アボット ハヤカワ文庫
『逃げる悪女』ジェフ・アボット ハヤカワ文庫




海賊岬の死体 -モーズリー判事シリーズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)海賊岬の死体 -モーズリー判事シリーズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2004/07/08)
ジェフ・アボット

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『生への帰還』ジョージ・P ・ペレケーノス ハヤカワ文庫

2009-11-02

☆☆☆☆

強盗殺人犯の逃亡車が息子の命を一瞬で奪ったとき、ディミトリの人生は終わった。三年後、哀しみの底にいるディミトリは、同じ事件の犠牲者の遺族たちと会うことで唯一の慰めを見出していた。やがてディミトリは、息子を殺した強盗犯が街に戻ってきたとの情報をつかんだ。それと同時に、彼の胸には命を賭けた復讐の念が……ハードボイルドの次代を担う著者が、命とは、人間の罪とは何かを問う。ワシントン・サーガ完結編 内容紹介より



ペレケーノスの作品にはハズレがないですねえ。どうしてこうも佳い作品ばかり書けるのでしょうね。ずっと言ってますが、彼の作品というのは、妙に捻ったりせずにストレートでシンプルなんだと思います。作中の主人公たちは、犯罪やドラッグ、市政の腐敗がはびこる街に住みながらも声高に主義主張を述べることはなく、斜に構えたりしない、諦観も達観もしていない、正義感ぶったりもしない、目線や立ち位置が非常に市井の人びとに近い存在です。そのため他人に降りかかった悲劇や不幸になるだけ親身になり理解しようとするし、相手にとってできるだけのことをしようとします。デレク・ストレンジは少年たちを犯罪の誘惑から守るためフットボールのコーチをしているし、本書のディミトリは元犯罪者の皿洗いの男に自分の店が持てるよう助言と口利きをしてあげています。いわゆるハードボイルドでいうとことの“穢れた街”の闇の中で、彼らの行動は一筋の光明であり、作品中の救いになっているのだと思います。
そのような内容とけれんのない硬質で乾いた文章がとてもよく合っています。

〈ワシントン・サーガ〉
『明日への契り』ジョージ・P・ペレケーノス ハヤカワ文庫

〈デレク・ストレンジ・シリーズ〉
『曇りなき正義』ジョージ・P・ペレケーノス ハヤカワ文庫
『終わりなき孤独』ジョージ・P・ペレケーノス  ハヤカワ文庫
『魂よ眠れ』ジョージ・P・ペレケーノス ハヤカワ文庫




生への帰還 (ハヤカワ・ミステリ文庫)生への帰還 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2000/09)
ジョージ・P・ペレケーノス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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