『ルイザと女相続人の謎』アンナ・マクリーン 創元推理文庫

2009-12-31

Tag :

☆☆☆

「ジョーという名前のヒロインの物語はいったい、どんな話になるかしら……」1854年、ボストン。作家を目指すルイザ・メイ・オルコットは、つい先日ヨーロッパから帰国した友人ドロシーの死に接する。検死の結果、彼女の死は他殺と判明。ルイザは独自の調査を開始するが……。世界中で愛される名作『若草物語』の作者オルコットを探偵役にした、大胆なミステリ・シリーズ第一弾。



〈名探偵オルコット〉シリーズ。
この著者は別名義で歴史小説を何冊も発表しているらしく、本書でも当時の風俗や習慣などの時代背景がしっかり描かれていると思います。特に、男性社会における女性への無理解とその地位の低さを意図的に印象付けているように感じました。上流階級に属する女性でさえも因習に縛られていたのですから、下層階級の女性に対する収奪ぶりは凄まじかったでしょう。それからオルコット家の家長であるエイモス・ブロンソン・オルコットの理想論者ぶり。この教育者であり思想家である彼の経済能力のなささと学者馬鹿さ加減には笑いを通り越して呆れました。以前、彼が設立した、田舎の労働と哲学の研究を通じて人を完成の域に達せさせるための共同体において、男性陣が研究にいそしむあいだ、女性たちは、彼らの食事の世話や生活の切り盛りで一日十五時間労働を強いられた、という箇所を読むと、理想主義の矛盾さといかに頭脳優秀でも女性の地位や境遇にまで思いを巡らすまでには至らなかったということが判ります。
事件は被害者が「女性」であったから起きたのであり、探偵役が「女性」であるが故に行動にも様々な制限がかかり、彼女の活動を読むにつれ、当時の社会で女であることはどういう事なのかが行間から浮かび上がってくるのでした。


最後に、スーパー・エクセレント・エンターテインメント・ブログ本みしゅらんを訪れて下さった皆様、本当にありがとうございました。励みになります。
来年もよろしくお願い致します。それでは良いお年を!





ルイザと女相続人の謎―名探偵オルコット〈1〉 (創元推理文庫)ルイザと女相続人の謎―名探偵オルコット〈1〉 (創元推理文庫)
(2008/01)
アンナ マクリーン

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『曲芸師ハリドン』ヤコブ・ヴェゲリウス あすなろ書房

2009-12-29

Tag :

☆☆☆☆

ハリドンが安心できるのは、曲芸をしているときと“船長”と二人でいるときだけだった。しかし、その“船長”が…。
冷たい空気が、秋と港のにおいを運んでくる。
「他人を信用しないこと」を信条に生きてきた少年は、たったひとりの友をさがしに、夜の街へととびだした。
北の港町を舞台にくりひろげられるだれも知らない奇妙な一夜。
人を信じることを知らない少年、曲芸師ハリドンの物語。
スウェーデンからやってきた現代のおとぎばなし。



同居している〈船長〉が遅くなっても帰って来ないものだから、不安になった主人公が彼の姿を求めて夜の街を駆け巡る。その途中で、ジャズバーの女主人、小犬、ギャンブル狂、野犬捕獲人、威張った警官といった人たちと出会い、事件に巻き込まれたりするというシンプルな話。

訳者の菱木晃子さんは、主人公が自分のことを言う時に「おれ」と訳出されていて、訳者あとがきでも「少年ハリドン」と書かれているので、この主人公が男の子であることはほぼ間違いないのでしょうが、作者は主人公のことを終始一貫して「ハリドンはなになにをした」という書き方しかしていません。「彼は」とか「この男の子は」という表現*を一切していないのです。本書は児童文学ですから、読者のことを考えて男女両方にもとれる描き方をしたのだろうかと想像すると同時に、この捜索劇が友情あるいは父親のような存在である〈船長〉への思慕の表出であるように、恋愛感情の表れでもあるのじゃないかと勘ぐってしまうのですね。軽いストーキングじみた主人公の行動を読んだら、そんな深読みをしてしまいました。

それと主人公と話ができる犬の存在は、だまされたり、からかわれたり、追いはらわれたり、容姿のことでひどいことを言われたりした体験から、〈船長〉以外の他人に心を開かないハリドンの失っていた前向きな何かが具現化したものではないのでしょうか?たとえば「希望」もそのなかのひとつなのかも。

*犬がハリドンを「自転車小僧」と言い表す箇所はありますが、これも訳出の問題なのではと。




曲芸師ハリドン曲芸師ハリドン
(2007/08)
ヤコブ ヴェゲリウス

商品詳細を見る

テーマ : 児童書
ジャンル : 本・雑誌

『ウォリス家の殺人』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

2009-12-27

☆☆☆☆

人気作家ジョフリーの邸宅〈ガーストン館〉に招かれた幼馴染のモーリス。最近様子のおかしいジョフリーを心配する家族に懇願されての来訪だった。彼は兄ライオネルから半年にわたり脅迫を受けており、加えて自身の日記の出版計画が、館の複雑な人間関係に強い緊張をもたらしていた。そして憎み合う兄弟は、暴力の痕跡を残す部屋から忽然と姿を消した。英国本格の妙味溢れる佳品。内容紹介より



真犯人の意外性がとても目立ちます。でも、それに付随するミステリ部分はそれほど上手いわけではなくて、読みどころは人物像と人間関係に尽きます。被害者の家族と関係者が抱えている問題とは別に、語り手であるモーリス自身も別れた妻や息子との関係について悩みを持っていること。彼が被害者の伝記を執筆するように依頼されたそもそもの理由は、子供時代を被害者と共に同じ家庭で育った過去があるからということ。つまり、作者は、こういう人間関係の三つのサークル(円)がそれぞれ重なりあっている状況を設定して、これがかなり読み物として効果を上げています。
ただし、被害者の中心人物としての存在感が薄っぺらいかなと感じました。彼の妻くらいのインパクトが欲しかったところです。若い頃のスキャンダルは派手ですけれど、二つの出来事が相似していてはあまり意味をなさないように思います。さらに彫りを深くして、嫌な奴なりに魅力を引き出してあればなと。それから真犯人についてなんですけれど、そんな性格の人物だったら、隠していても日常薄々表面に表れるものなんじゃないかとは思いましたよ。

『悪魔はすぐそこに』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫





ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)
(2008/08)
D.M. ディヴァイン

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ホエール・トーク』クリス・クラッチャー 青山出版社

2009-12-25

Tag :

☆☆☆☆

有色スイマー、鈍才、秀才、マッチョマン、巨漢、カメレオンマン、サイコパス。これがおれたちの水泳チーム。7人ののけ者。7人のヒーローだ。「BOOK」データベースより



薬物中毒の実母から育児放棄を受けた過去を持つ主人公T・Jは、養父母に育てられ、現在は高校に通っている。優れた頭脳と秀でた運動能力を兼ね備えながらも、体育会系至上主義の校風に反発を覚えていた彼は、どこのスポーツクラブにも所属していなかった。ある日、彼は脳に障害を負ったある学生がフットボールのスタープレイヤーからいじめを受けている現場を目撃し、彼を担ぎ出して水泳クラブを立ち上げようとしていたコーチに協力し、部員を集める決心をする。そして、彼の元に集まった個性豊かな部員たちと7人での活動が始まる。

ヤングアダルト作品です。
なにやらストーリーだけざっと書き出すと、よくある学園スポ根ドラマみたいですけど、まあそういう大きな流れが一本あって、そこに児童虐待、家庭内暴力、人種差別の問題を絡ませているわけです。著者は児童保護活動の専門家でもあるそうで、そういう問題とスポ根ものをバランス良く配して描いていると思います。ただ、主人公のスーパーマンぶりがいかにもアメリカ的かつほぼ完成系的造形であるのが、やや興ざめしてしまいます。幼少時の虐待によって負った心の傷もほぼ完治しているみたいだし、両親ともに良い人間で、恋人もいて、前にかいたように文武両道に長けているなんて、リアリティがなさ過ぎじゃないのかと。




ホエール・トークホエール・トーク
(2004/04)
クリス クラッチャー

商品詳細を見る

テーマ : YA(ヤング・アダルト)
ジャンル : 本・雑誌

『ちいさな人形とちいさな奇蹟』レイチェル・フィールド ランダムハウス講談社

2009-12-22

Tag :

☆☆☆☆

名前はヒティ。100年前に行商のおじいさんが、幸せを呼ぶナナカマドの木から作った小さなお人形。いま、誰もいないアンティークショップでそっと羽根ペンを手に、これまでの大冒険を語りだす……火事の船中に取りのこされたり、川に落っことされたり。ああ今度こそおしまい、そんな時に起きたちいさな奇蹟の数々を ― 。女性作家初のニューベリー賞受賞作として、世界中で愛され続けているフィールドの名作が新訳で登場! 内容紹介より



ナナカマドの木から生まれた小さな人形ヒティが綴る、百年の時をかけて、生まれ故郷のメイン州はもとよりアメリカ各地から南の島やインドまで巡って体験した冒険談です。なにせ木製ですから陶器や布製の人形とは違って、高いところから落ちても泥まみれになっても川に流されてもほとんど損傷を受けないので百年というスパンで物語を語ることができるわけですね。木々と人の寿命の長さを考えたりして、ちょっと儚さを覚えたりなんかして。また、安野玲さんが訳者あとがきで触れているように、社会、風俗などの変遷がかなり詳しく書き込まれていて、ストーリーのバックグラウンドがしっかりしている印象を受けました。
作品に登場する乗り物は、橇にはじまり飛行機で終わります。そして、ヒティはいつか自分も飛行機に乗って空を飛べる日がくるかもしれないと夢見ます。何故なら、愉快なことに、この人形はまだまだこれからも冒険を続ける意欲が満々だからです。だから、これから百年後くらいにヒティはまたその後の冒険談を書いているかもしれません。




ちいさな人形とちいさな奇蹟 (ランダムハウス講談社文庫)ちいさな人形とちいさな奇蹟 (ランダムハウス講談社文庫)
(2006/05/01)
レイチェル・フィールド

商品詳細を見る

テーマ : ファンタジー・ホラー
ジャンル : 本・雑誌

『クリスマスに死体がふたつ』ジェイニー・ボライソー 創元推理文庫

2009-12-20

Tag :

☆☆☆

廃鉱でスケッチ中のローズの耳に響く女性の悲鳴。警察に通報したもののなにも見つからず、かつての恋人ピアース警部から小言をくらう。せっかく油絵の仕事がうまくいきはじめた矢先なのに。そんなおり、つきあって間もない画家ニックの元恋人が死体で発見され、ローズまでもが容疑者に。そんな状況でローズがじっとしていられるわけがない。好評コーンウォール・ミステリ第三弾。



少しネタばれしています!ご注意ください。

偉そうに書きますけど、前2作よりだいぶましな出来です。著者は、上辺を見ただけでは分らない隠された人間性みたいなこととその入組んだ人間関係を主題にするのが好きみたいですね。いわゆるビレッジ・ミステリ系としてクリスティの系譜を継いでいるのではないでしょうか。心の深層をそれほど深く掘り下げてドロドロと描写しているわけではないけれども、ちょっと目を逸らしたくなるくらいの奇矯さや醜さを読者に描いて見せています。物語はプロットとしては普通で、主人公ローズの前で、彼女の友人たちと死亡した女性との意外な関係がしだいに明かになるとともに、彼らの隠し事を彼女が知ってしまうというふうに進みます。呆気にとられたのは、われわれ読者は、ローズもたまに演者に加わる人間ドラマなる五重奏を鑑賞していて、当然、亡くなった女性の死の真相とミステリの核はそこにあるものと思っていたのですが……。皮肉をいえば偉大なるミスリード?作品の八割程度を使った壮大な釣り?なんだかしょぼかった。

『容疑者たちの事情』ジェイニー・ボライソー 創元推理文庫





クリスマスに死体がふたつ (創元推理文庫)クリスマスに死体がふたつ (創元推理文庫)
(2006/05/20)
ジェイニー・ボライソー

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ボニーと風の絞殺魔』アーサー・アップフィールド ハヤカワ文庫

2009-12-18

Tag :

☆☆☆☆

その絞殺魔はオーストラリア特有の激しく吹き荒れる砂嵐の夜に、跳梁した。ニュー・サウス・ウェールズ州最西端の小さな町キャリーの住民は、嵐の夜に必ず現れ、嵐のために足跡がつかめぬ絞殺魔の所業にふるえあがっていた ― そんななか、ジョー・フィッシャーと名乗る一人の渡り牧童がキャリー町をめざして歩いていた。しかし、この男は実は、連続絞殺事件の捜査にやってきたボニーの仮の姿だったのだ。彼は身分を隠し、牧場に住み込んで、いよいよ事件の調査に乗り出した。独特の風土を舞台に名警部ボニーの活躍を描くシリーズ第二弾! 内容紹介より



〈ボナパルト警部シリーズ〉です。
1937年に発表された作品らしく、主人公の造形が古風というか良い意味で時代を感じさせます。日本で出版されたのは1982年なのですが、越智道雄氏の訳も会話の部分が戦前のミステリを読んでいるみたいで懐かしい気がしました。
オーストラリアを舞台にしたミステリには、コニス・リトルの『記憶をなくして汽車の旅』があるけれど、あの作品の主人公はアメリカ人でしたし、大陸横断鉄道くらいしかその地の風物で印象に残る記述がなかったのに比べ、オーストラリアで育ったらしい作者が書いた本作では、過酷な自然と土着の言い伝えの箇所に目を引かれました。
特に、砂嵐の描写と木々を伝って移動し、被害者に襲いかかる絞殺魔とネイティブの間で言い伝えられる悪霊とのイメージが重なって、ネイティブと白人の血を引く主人公が恐怖を感じる部分は印象的です。アウトドアというか半野生の場所での捜査活動が他のミステリ作品と違っていて斬新な感じを受けました。




ボニーと風の絞殺魔 (1982年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)ボニーと風の絞殺魔 (1982年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(1982/12)
アーサー・アップフィールド

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『大鴉の啼く冬』アン・クリーヴス 創元推理文庫

2009-12-16

☆☆☆☆

新年を迎えたシェトランド島。孤独な老人を夜に訪れた黒髪の少女は、四日後の朝、雪原で死んでいた。真っ赤なマフラーで首を絞められて。顔見知りばかりの小さな町で、誰が、なぜ彼女を殺したのか。ペレス警部の捜査で浮かびあがる、八年前の少女失踪事件との奇妙な共通項とは?現代英国本格派の旗手が緻密な伏線と大胆なトリックで読者に挑戦する、CWA最優秀長篇賞受賞作。 内容紹介より



まあ、行ったことはないんですけど、冬のシェトランド島が舞台ということもあって、読み進むにつれ、静ひつな空気の中、雪のように作者の言葉が深々と舞い降り、降り積もって作品を形作っていくような雰囲気を感じました。三人称多視点は多くの場合、動きを伴う場面転換として用いられると思いますが、本書においては、ハンディカメラじゃなく、四つの定点カメラの画像を切り替えるみたいに動きが少ない印象です。四人の視点のうち一人を除いて感情のトーンが同じくらい低いために、落ち着いた物静かなイメージを作品に与えているのかもしれません。しかし、一方では、そのせいで全体的に平板さを感じてしまうのも否めないわけです。
それと事件の謎を解くひとつのキーワードである「映画」という言葉が登場するのがやや遅いかなと思います。二人の警部の容疑者に対する考え方が対立せずに同じ意見なのも気になりました。進行上、その部分はキャラが被ってても意味がないような。 
細かいことを言いましたが、何はともあれ優れた作品であることは間違いないです。




大鴉の啼く冬 (創元推理文庫)大鴉の啼く冬 (創元推理文庫)
(2007/07)
アン・クリーヴス

商品詳細を見る

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『小悪魔アザゼル18の物語』アイザック・アシモフ 新潮文庫

2009-12-14

☆☆☆

アザゼルがね、とジョージが話し出した。絶対秘密だけど、奴は親しくしている悪魔なんだ。身長2センチのちびだけど、人が、いや悪魔が好くてね、困っている友達の願いを何回も叶えてくれた。女の子を美人にしたし、刑事に嘘を見抜く力を与えた。科学狂の運ちゃんに空を飛ばせたこともある。でもなぜか皆幸せにならないんだ……。著者の友人ジョージが語る奇想天外なエピソード18編。 内容紹介より



「身長二センチの悪魔」「一夜の歌声」「ケヴィンの笑顔」「強い者勝ち」「謎の地響き」「人類を救う男」「主義の問題」「酒は諸悪のもと」「時は金なり」「雪の中を」「理の当然」「旅の速さは世界一」「見る人が見れば」「天と地と」「心のありよう」「青春時代」「ガラテア」「空想旅行」収録。

ジャンルで分けると、本書はファンタジーの範疇に入ると思うのであまり比べる意味はないかもしれないけれど、面白さでいえば『黒後家蜘蛛の会』よりは劣りますが、『ユニオン・クラブ綺談』よりは上だと個人的には思います。
題名に悪魔と付けられていますが、アザゼルは異界に棲む生き物なだけで、願い事を叶えたからといって人の死後の魂を要求したりはしないし、叶えられた願い事が意地悪な結果に終わるように仕向けたりするわけではありません。アザゼル自身は要求されたことをいちおう一生懸命に、どちらかと言えば魔術でなく科学的に叶えるも、理解不足だったり、何か不手際が生じたり、やり過ぎだったりして残念な結果に終わってしまうのです。このひねりが、悪魔と人間の願い事にある古来からのパターンと違っているところです。
アザゼル、彼を呼び出すジョージ、ジョージが語るアザゼル物語の聴き役のわたし。この一匹と二人が互いに交す憎まれ口が辛辣すぎてかなり可笑しかったです。

タグ:アイザック・アシモフ




小悪魔アザゼル18の物語 (新潮文庫)小悪魔アザゼル18の物語 (新潮文庫)
(1996/04)
アイザック・アシモフ

商品詳細を見る

テーマ : ファンタジー・ホラー
ジャンル : 本・雑誌

『桃のデザートには隠し味』リヴィア・J・ウォッシュバーン ランダムハウス講談社

2009-12-12

Tag :

☆☆☆

桃の産地として名高いテキサス州の田舎町。今年もまた甘酸っぱい桃の香りが町中に満ちて、恒例のピーチ・フェスティバルが開催された。目玉はなんといっても、桃料理コンテスト。今年こそ絶対に優勝!と、お料理名人のフィリスは新作のピーチ・コブラーを作って出場。ところが審査員長がコブラーを口にしたとたん、急死してしまい……!?定年した教師ばかりが集う不思議な下宿で、女主人フィリスが新作レシピと難事件に挑む!料理自慢のシリーズ第一弾 内容紹介より



サブタイトルは〈お料理名人の事件簿1〉です。
ランダムハウス講談社は、飲食系コージー・ミステリをまるで雨後のタケノコ、菌床のキノコみたいな勢いで出版してますね。いまのところ各シリーズは継続して出されているみたいですから感心しますけど、それだけニーズがあるということなのでしょうか。たしかに飲食系ミステリは読んでいても肩に力が入り過ぎることはないし、料理や飲み物の名前が適度なアクセントになってて読みやすいのは事実です。
で、この作品のミステリ度は、こういうジャンルで毎度お馴染みの二時間サスペンス・テレビドラマ程度で、特別目を引く設定やプロットはありません。読む前は、下宿のオーナーも下宿人も定年した教師ばかりという設定に惹かれましたが、それをあまり上手く使ってない印象です。それから本書でも、それ以外の最近のコージー・ミステリ作品でも目に付くのが、探偵役が容疑者を疑ってかかる根拠が非常に安直で浅薄な傾向です。しかも誤った結論をもとにやや無茶な行動を起こしてしまいます。本書の主人公は60歳代の元教師なので、熟慮のうえに慎重に事を起こす、他のミステリ作品とは差別化されたキャラクターを予想していたのですが。
ところで書名は忘れましたけど、桃の種と青酸化合物って、アガサ・クリスティの作品を思い出して懐かしい。




桃のデザートには隠し味 [お料理名人の事件簿1] (ランダムハウス講談社文庫)桃のデザートには隠し味 [お料理名人の事件簿1] (ランダムハウス講談社文庫)
(2007/12/01)
リヴィア J ウォッシュバーン

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『パンドラの函』トマス・チャステイン ハヤカワ文庫

2009-12-10

Tag :

☆☆☆

ニューヨークのどこかで、ある日、大がかりな犯罪が起こる―16分署署長カウフマン警視が逃亡犯から得た情報はそれだけだった。どこまで信用できるかわからないが、警察としては見過ごすわけにはいかない。非常事態に備えて緊急動員作戦〈パンドラの函〉が立てられた。だが、厳重な警戒にもかかわらずメトロポリタン美術館が何者かの襲撃をうけ、高価な名画五点が奪われてしまった!カウフマンはただちにニューヨーク全市に作戦を発令、総力を挙げて未曾有の捜査網をしいたが……壮大なスケールで描くエキサイティングな警察小説シリーズ第一弾 内容紹介より



カウフマン警視シリーズ。
名画を強奪した犯人たちがグランド・セントラル駅に逃げ込んだため、駅を封鎖し、電車を止めて、そこに居合わせた何千人もの人々の名前と住所を聴き取るという一連の捜査活動のシーンはたしかにスケールの大きさを感じました。でき得るなら、干し草の山の中から針を見つけだすがごとく、地道に証拠や事物の関連性やコンピューターによる分析など様々な小さな要素を積み上げた結果、犯人にたどり着いたみたいな展開にして欲しかったです。あのような流れで犯人が発見されてもかまわないのですが、そういう犯人へと導くもう一本の流れが最後まで作ってあればもっと面白くなったでしょう。犯人の一人である犯行計画の立案者が浮気相手の夫と喧嘩になり、警官が止めに入る場面はてっきり手がかりのひとつだと思っていたのに。そんなところがエド・マクベインと違うところか。
それから堅いことを言うようですが、既婚の主人公に愛人がいる設定がどうも好きになれません。それについての言い訳が用意してあるけれど、この主人公の冷淡な性格とともに好感を持てないです。




パンドラの匣 (ハヤカワ・ミステリ文庫―カウフマン警視シリーズ)パンドラの匣 (ハヤカワ・ミステリ文庫―カウフマン警視シリーズ)
(1990/06)
トマス チャステイン

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ダイナマイト・パーティへの招待』ピーター・ラヴゼイ ハヤカワ文庫

2009-12-08

☆☆☆☆

ヴィクトリア朝ロンドンでは、駅や公邸を狙った同一組織の犯行と思われる爆弾テロが続発していた。テロ事件を追うクリップ部長刑事は驚くべき情報を掴んだ。警察の中に内通者がいるらしい。しかもその人間が、クリップの長年の相棒サッカレイ巡査だと言うのだ。クリップはサッカレイの動向を探る一方、爆弾の専門家と偽ってテロ組織に潜入するが……奥深い謎とサスペンスフルな展開で贈る英国本格。文庫オリジナル。 内容紹介より



クリップ&サッカレイ・シリーズ。『降霊会の怪事件』の時に触れましたけれど、このシリーズは作品ごとに意図的にスタイルを変えていて、今回は、ほぼクリップがひとりで活躍する冒険小説風の作品です。
300ページに満たない作品ですが、アクション、スリラー、サスペンス、そしてユーモアが盛り込まれている良作だと思います。どの要素にもくどさが見られず、軽く楽しめます。文中、他シリーズの主人公アルバート・エドワードの名前をあげているところに作者のちょっとした遊び心を感じました。とにかく、昔から積み重ねてきた英国冒険小説の伝統の流れのなかで、フォーマットがしっかり出来上がっているから、英国人作家はこういう話を書かせると上手いですね。

クリップ&サッカレイ・シリーズ
『降霊会の怪事件』ピーター・ラヴゼイ ハヤカワ文庫
『絞首台までご一緒に』ピーター・ラヴゼイ ハヤカワ文庫


タグ:ピーター・ラヴゼイ




ダイナマイト・パーティへの招待 (ハヤカワ・ミステリ文庫)ダイナマイト・パーティへの招待 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2000/11)
ピーター・ラヴゼイ

商品詳細を見る


テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『34丁目の奇跡』ヴァレンタイン・デイヴィス あすなろ書房

2009-12-06

☆☆☆☆☆

聖なる夜、何かが起こる!こんなに心のあたたまる物語があっただろうか
ニューヨークシティ、マンハッタン34丁目にあるメイシー百貨店。おもちゃ売り場のサンタクロースとして、一人の老人が雇われた。彼の名はクリス・クリングル。その風貌はサンタそっくりだった! 帯説明文より



老人ホームに入居しているクリス・クリングル氏は、近頃のクリスマスが金儲けのダシにされている風潮に憤慨している。そんな矢先、自分がサンタクロースだと信じていることを理由にホームを追い出されてしまう。彼は偶然、メイシー百貨店が催すパレードの場で百貨店のイベント責任者のドリスと出会い、彼女におもちゃ売り場のサンタクロース役として雇われることになった。そこに彼の〈クリス効果〉による〈クリスマス親切キャンペーン〉、〈真のクリスマス精神〉をもたらすことになるのだが……。

その後、主人公をよく思わない百貨店付きのカウンセラーの策略によって、彼は精神病院に強制的に収容されてしまいます。そして、その収容の可否をめぐって裁判所で審理が始まり、論争は果たしてサンタクロースが存在するや否や、さらにクリス・クリングル氏がサンタクロースなのかどうかということに。主人公の弁護士とドリスのラブロマンスを絡めたファンタジーである前半から一転、後半はリーガルサスペンスと見まがうほど(大袈裟ですけどね)、サンタクロースについてのスリリングな展開へと。
法廷で、いかにしてサンタクロースの存在を認めさせたのか、クリス・クリングル氏が本物のサンタクロースであることをどうやって証明したのか、小品ながら後半特に読みごたえがありました。

タグ・クリスマス・ストーリー




34丁目の奇跡34丁目の奇跡
(2002/11)
ヴァレンタイン デイヴィス

商品詳細を見る

テーマ : ファンタジー・ホラー
ジャンル : 本・雑誌

『シルバー・スター』デイヴィッド・ハンドラー 講談社文庫

2009-12-04

☆☆☆

コネティカット州の閑静な村ドーセット。映画批評家ミッチ・バーガーが住むこの地は、若きハリウッド・スター夫婦と二人を追うマスコミのせいで最近騒がしい。そして突然起きた、衝撃的な転落死事件。ミッチと女性駐在デズが死の真相を探る中、人々の意外な素顔や関係が明らかに……。人気シリーズ第3作。内容紹介より



普段接していても分からない、身近な人物が持つ影の一面がある事件をきっかけにあからさまになる、こういう使い込まれたテーマを、しかもストレートに描いている作品を読んでうんざりしないのは、下世話にいう覗き見趣味とチャーリー・ブラウンが大人になったような主人公のキャラクターのおかげかもしれません。闇の中にあって影が見えないのと同様に、醜悪さや卑しさや奇矯な部分は、日常、表に見せている上っ面がより立派だったり上品だったりしてこそ際立つわけですが、それとともに本書では、イノセンスな傾向にある主人公と彼の恋人の存在と交わされる愛情の深さが光源となって、彼らの身近な人物たちの影をページ上に映し出しているのでしょう。本文中に出てくるキャストシャドウのように。

シリーズ一作目
『ブルー・ブラッド』デイヴィッド・ハンドラー 講談社文庫




シルバー・スター (講談社文庫)シルバー・スター (講談社文庫)
(2009/01/15)
デイヴィッド・ハンドラー

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『注文の多い宿泊客』カレン・マキナニー ランダムハウス講談社

2009-12-02

Tag :

☆☆☆

美しく静かなクランベリー島で、小さな朝食付きホテルをはじめたナタリー。経営は崖っぷちながら、お手製の朝食とお菓子は絶品と大評判。ところが、島にリゾート開発の魔の手が迫り、このままではナタリーの宿も潰されることに。なんとかして食い止めなければ!そう思った矢先、岸壁で開発会社社長が遺体となって発見された。開発に猛反対していたナタリーは真っさきに疑われてしまい……!?B&Bのオーナーが、泡立て器を片手に名推理するシリーズ第1弾 内容紹介より



数多いコージー・ミステリ作品のなかにあって、特に目を引くのが、崖から落ちたり、頭を殴られて気絶したり、事故に遭ったり、と体を張ってる主人公です。こういう彼女に降り掛かる肉体的災難がストーリーに動きを与えていて宜しいです。しかし、警察から容疑者扱いされているからといって、手がかりとなる物を隠したり、証拠品に手を触れたり、事情聴取をばっくれたりするやや考えなしなところは気になりますね。舞台となっているメイン州にある島の風景描写が、旅行したい気分にさせて、なかなか上手だし、そこにあるB&Bを切盛りする主人公の仕事も物珍しさがあります。
主人公の隣人の彫刻家、親友の商店主兼郵便局長、船大工とヤギを子供代わりにしているその妻など、個性的な島民を配していますから、あとはインを経営している設定を活かして、風変わりな宿泊客をシリーズの度に登場させればさらに面白くなるのではないでしょうか。これから期待できそうなシリーズです。




注文の多い宿泊客 (ランダムハウス講談社文庫)注文の多い宿泊客 (ランダムハウス講談社文庫)
(2008/07/10)
カレン マキナニー

商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

カテゴリー

最近の記事

月別アーカイブ

06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07 

ユーザータグ

短編集 ホラー SF クリスマス・ストーリー アンソロジー ルース・レンデル アーロン・エルキンズ スティーヴン・キング デイヴィッド・ハンドラー キャロリン・G・ハート ジョー・R・ランズデール ローラ・チャイルズ マイクル・クライトン ジョアン・フルーク ジョージ・P・ペレケーノス ドン・ウィンズロウ ポーラ・ゴズリング ジェームズ・パターソン エド・マクベイン ジェイムズ・パタースン ジル・チャーチル ヘニング・マンケル C・J・ボックス ローレンス・ブロック リチャード・マシスン D・M・ディヴァイン レジナルド・ヒル スチュアート・ウッズ リリアン・J・ブラウン ジャネット・イヴァノヴィッチ ピーター・ラヴゼイ パーネル・ホール アリス・キンバリー レックス・スタウト S・J・ローザン ジョルジュ・シムノン ジョー・ゴアズ マーガレット・ミラー ウィリアム・カッツ クレオ・コイル カール・ハイアセン レスリー・メイヤー アイザック・アシモフ ヒラリー・ウォー エド・ゴーマン カーター・ディクスン マイケル・ボンド ルイーズ・ペニー マーシャ・マラー ジェフリー・ディーヴァー ジョン・ディクスン・カー リタ・メイ・ブラウン ジェームズ・ヤッフェ イーヴリン・スミス ジャック・カーリイ キャロリン・キーン ウィリアム・L・デアンドリア コリン・ホルト・ソーヤー ローラ・リップマン フレッド・ヴァルガス ポール・ドハティー ロブ・ライアン ジェフ・アボット G・M・フォード エヴァン・マーシャル オーサ・ラーソン ジョアン・ハリス サイモン・カーニック リン・S・ハイタワー ドナ・アンドリューズ ファーン・マイケルズ アンソニー・ホロヴィッツ ジャン=クリストフ・グランジェ スタンリイ・エリン レイ・ハリスン ケイト・ロス アンドレア・カミッレーリ レニー・エアース ジョン・クリード コニス・リトル デイヴィッド・マレル クリスチアナ・ブランド ウイリアム・P・マッギヴァーン ウィリアム・ランデイ ジャック・フィニイ リック・ボイヤー サキ ジェーン・ラングトン ユージン・イジー ウォルター・モズリイ アン・クリーヴス ビリー・レッツ イーサン・ブラック ダナ・レオン エーリヒ・ケストナー ウォルター・サタスウェイト スタンリー・エリン ポール・ドハティ トバイアス・ウルフ 

ブログ内検索

全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

リンク

RSSフィード

最近のトラックバック

最近のコメント