『マタニティ・ママは名探偵』アイアレット・ウォルドマン ヴィレッジブックス

2010-01-30

Tag :

☆☆☆

今日は2歳になる娘が名門幼稚園をお受験する日。ジュリエットは映画の脚本家である夫と共にはりきって面接に挑んだものの、結果は不合格だった。その後、ベッドでやけ食いをしていた彼女はニュースを見てびっくり。先ほど会ったばかりの名門幼稚園園長が轢き逃げで亡くなったなんて!もしかして、一緒に不合格となり激怒していた映画会社重役の仕業では?第二子の妊娠を機に一流刑事弁護士の道を捨てて専業主婦になったけれど、なんとなくもの足りない日々を過ごしていたジュリエットは、大きなお腹もなんのその、嬉々として独自の捜査を開始するのだが……。家族愛に溢れた、微笑ましいミステリー。
内容紹介より



現在妊娠中のヒロインは元官選弁護人で、今は専業主婦。そんな彼女が昔取った杵柄で殺人事件を探るという話です。読み始めてどうかと思ったのが、被害者と揉めたというただそれだけの理由で、一人の人物を容疑者扱いしてしまう無理矢理感のある彼女の短絡的発想、とても「ハーヴァード・ロー・スクール」出の元官選弁護人とは思えない稚拙さ。ローラ・チャイルズの〈お茶と探偵〉シリーズ並のレベルです。
ミステリとしてはあまり期待できませんが、「わたしは、でぶっちょなんかじゃない、妊婦なんだ」と自分に言い聞かせながら、妻、主婦、母親の座にどっぷりと漬かっている主人公とその家族の幸せそうな家庭生活にはほのぼのとしたものが感じられます。作者自身の家族をモデルにしているのか、夫も娘もキャラが立っているし、主人公の妊娠中の様子もリアリティがあるように思えます。そして、主人公もただただ幸せな女というわけではなくて、娘を妊娠したがためにやりがいのある仕事を辞めざるを得ず、その気持ちから「子供を疎む気持ちが生まれ」たと反省し、「良き母親でありながら、子育てという日常に埋もれてしまわない」生き方をしようと思うのです。このように彼女の感情にも陰影を付けてあります。
最後に軽く驚いたことは、作者の夫が『ワンダー・ボーイズ』や『モデル・ワールド』の作者マイケル・シェイボンだったということ。意外なところで意外なひとの名前を見ました。




マタニティ・ママは名探偵 (ヴィレッジブックス)マタニティ・ママは名探偵 (ヴィレッジブックス)
(2006/06)
アイアレット ウォルドマン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『優しく殺して』アン・モリス 創元推理文庫

2010-01-28

Tag :

☆☆

焼けつくような暑い7月のある日、テッサの前にひとりの女が現れた。名前はブレンダ。アル中気味の彼女は、動転しながらも、夫が突然失踪してしまったことを告げた。あんなに優しいひとが家族を捨てる?不審に思ったテッサは調査に乗り出したが……。女優テッサの活躍を巧みなプロットとドライなウィットで描いた、英国女流作家の長編初紹介! 内容紹介より



邦題はなにやらロバータ・フラックの歌みたいですけれど、内容はキャラを軽めにした男性版『ヒルダよ眠れ』みたいな話といったところでしょうか。失踪してしまった男の隠れた意外な一面が露になるというものです。ただし、その具体的な例が少ないから彼自身の存在感にちょっとインパクトが欠けて見えます。彼の負の行状をさらに二つくらい書き連ねてあればなと。なにせ240ページほどの作品なので細かいところの書き込みが足りないような気がします。妻の心理状態を表すためにとった方法なのかもしれないと読後に思いますが、読み初めてからp20からp30にかけて、夫が失踪した日の様子を妻が主人公に話して聞かせる箇所が単調で退屈してしまいました。
それから、主人公と犯人との最終的な対決場面がはしょってあるので、ラストが非常にあっさりしたものになっています。
失踪した男みたいな性質の人間ってどこにでもいそうだし、事件全体も三面記事にありそうなもの。つまり、サイコ殺人事件などよりよっぽど実生活の上で、こういう事件の加害者にも被害者にもわれわれはなる可能性を秘めているということを嫌々ながら感じさせてくれる作品です。なかなか良いミステリなのにあれこれもったいないですね。




優しく殺して (創元推理文庫)優しく殺して (創元推理文庫)
(1988/10)
アン モリス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『どこよりも冷たいところ』S・J・ローザン 創元推理文庫

2010-01-26

Tag : S・J・ローザン

☆☆☆

マンハッタンの建設現場で工具が頻繁に消え、さらにはクレーンの操作係が失踪する。疑わしい班長の素行調査を請け負った私立探偵ビル・スミスは、レンガ工として覆面捜査を開始したが、すぐに工員が瀕死の重傷を負う。ピアノを愛する中年の白人探偵と相棒のリディアが、こみいった事件の最深部に見たものとは?アンソニー賞最優秀長編賞に輝く、期待の現代私立探偵小説第四弾! 内容紹介より



このシリーズは、本書を含めて3作品、しかもビル・スミスがメインとなる回しか読んでいないけれど、結構気に入っています。でも、本書を一読した限り、この作品が賞を受賞するほどの出来映えかというとあまりそうは思えませんでした。レンガ工に扮してビル建築の現場に潜入し、レンガを積みながら内情を探る場面はスリリングで面白いです。しかし、そのレンガ仕事からのエピソードが派生してこない。レンガ工のひとりに偽物だと見破られますが、後は作業員が大怪我をしたり、死体が発見されたり、墜落死したりするだけで、衆人の前で正体がバレそうになったり、怪しまれたりするなどの主人公に直接関係する事件や出来事が予想より少なく、そういうところのハラハラ感がなくてもの足りませんでした。本筋の事件はさまざまな人たちの思惑が絡まって起きたものなのですけど、展開はゆるくて冗長な印象。
そして、恋愛関係にあるふたりではありませんが、主人公とリディアの会話がどうも恋人同士の痴話げんかやいちゃついているみたいに感じて作品全体の緊張感をそいでいるみたいに思えました。主人公もリディアもともにあまり軽口を叩かないけれど、ふたり合わせると一人前になってしまうみたいな。

『ピアノ・ソナタ』S・J・ローザン 創元推理文庫
『春を待つ谷間で』S・J・ローザン 創元推理文庫




どこよりも冷たいところ (創元推理文庫)どこよりも冷たいところ (創元推理文庫)
(2002/06)
S.J. ローザン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『タルタロスの審問官』フランク・ティリエ ランダムハウス講談社

2010-01-24

Tag :

☆☆☆

パリ警視庁警視シャルコの妻が誘拐された。シャルコは必死に愛する妻の行方を追うが、杳として知れない、そんなとき、ある女性の惨殺死体が発見される。ロープで緊縛された上、皮膚をフックにかけて宙づりにされ、さらには眼球をくりぬかれた見るも無惨な死体。そして明くる日、捜査の担当となったシャルコの元に、「気に入ってくれたかい?」と題されたメールが届き……。ノワールの新星が描く、奈落よりも深い闇の世界。 内容紹介より



犯行の凄惨さは、トマス・ハリスの〈ハンニバル・レクター〉シリーズを思わせ、犯人の意外性と捜査の一部はジェフリー・ディーヴァーの〈リンカーン・ライム〉シリーズを彷佛とさせ、主人公にはハードボイルドっぽい血が流れているような、そして、周回遅れになっているみたいな作品。最初の犯行現場の箇所を読んで、ああまたかと、犯人による死体の装飾傾向はいつ頃から始まったのでしょう。個人的にかなり飽食してるんですけど。加虐性欲とか性的異常嗜好の世界は上手く描かれていると思いますが、わたしはそういうのが苦手なのと主人公の家族が被害者になっているため、非常に読後感が良くなかったです。
犯人の動機(ネタばれ→)「加虐趣味と結びついた宗教的懲罰と思わせておいて、実は商業的、つまり金儲けのためだった」についてのミスリードの部分は着眼点が優れていると思いました。主人公がそれに気付く過程にメリハリが利かせてあればさらに効果的だったでしょう。物語の後半で、性産業を営む男の父親や投資家の妻など都合の良い協力者が相次いで登場したり、推理から行動に移った部分がばたばたした展開に感じたり、終わりを急ぎ過ぎた印象を受けました。




タルタロスの審問官 (ランダムハウス講談社文庫 テ 1-1)タルタロスの審問官 (ランダムハウス講談社文庫 テ 1-1)
(2007/10/01)
フランク・ティリエ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ジャスミン・ティーは幽霊と』ローラ・チャイルズ ランダムハウス講談社

2010-01-22

☆☆

たなびく霧に、不気味に明滅する青白い光。墓石の後ろからは、南北戦争の英霊たちが忍び寄り ― というのが、今夜催される〈ゴースト・ウォーク〉。地元医師会が企画した慈善イベントだ。ティーショップの面々も、墓地でお茶を出したり、幽霊に扮したりと大忙し。そう。幽霊はみんな素人役者 ― のはずだったのに、幽霊役が本物の幽霊になってしまい……!?思わずジャスミン・ティーが飲みたくなる、人気シリーズ第5弾。 内容紹介より



お茶と探偵5。
物語の最初に登場人物のひとりが墓地の中で写真を撮るために、ヒロインからデジタルカメラを借りる場面があるので、てっきり心霊現象か犯人を指し示す証拠でも写っているのかと想像していたら、結局何の前フリにもなっていませんでした。
よく考えたら、このミステリに名を借りたティー・ショップ繁盛記は、そこらのミステリ作品みたいにあちこちに手がかりを仕込むほど細かいことなんかしないし。
ヒロインの相変わらずな推理とも言えない直感による容疑者の列挙ぶりを見るにつけ、カフェインという物質はアデノシンレセプターを阻害して頭をはっきりさせるらしいけれど、物事をものすごく単純に結び付けて考える、または直結させて判断する働きもするのではないだろうかと考えてみずにはいられません。
とにかくシリーズ作品は、回を重ねるごとに登場人物たちに親しみが湧いてくるもので、このシリーズもミステリはどうでもいいからお店が商売繁盛なら嬉しく、その様子を読んで微笑ましくという具合になってきました。

タグ:ローラ・チャイルズ




ジャスミン・ティーは幽霊と [お茶と探偵5] (ランダムハウス講談社文庫)ジャスミン・ティーは幽霊と [お茶と探偵5] (ランダムハウス講談社文庫)
(2007/12/01)
ローラ・チャイルズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『フェイスメーカー』ウィリアム・カッツ 新潮文庫

2010-01-20

☆☆

事故で顔面に重傷を負った女性記者カーリーの顔は、天才的形成外科医の手で見事に修復された。だが彼女はほどなく、医師のいかがわしい前歴を知らされる。そして、自分と同じ顔を与えられた女が存在し、しかも彼女が行方不明になっていることも ― 。医師は完全無欠の顔を作り出し、自分の名を不朽のものにしようとしていたのだ。真相を知りかけたカーリーに、医師の魔の手が迫る。 内容紹介より



小さくまとまってしまったみたいな感じの作品です。
なんとなく思うのですけど、ウィリアム・カッツという作家の作風は、わかりやすさにあるのじゃないでしょうか。特にプロット、悪役である人物の動機に見られる単純さなど。本書においても犯人の動機はそっけないほど平明で、意味深なものが付け加えられていません。『偽装の愛』や『殺人者は眠らない』ではそれがプラスに働いていると思います。しかし、この作品の場合は、単刀直入なところが逆にあっけなさを感じさせ、説明不足で上っ面をなでているいみたいな印象しか残りません。犯人の持つ芸術に対する狂気と劣等感については、読者を納得させるほどの描写は足りていないし、類型的すぎてしらけます。
プロットにおいては、ラストで自分そっくりに整形した他人を身代わりとして殺害し、警察の目を欺くとか、天才形成外科医らしい展開が欲しかったところです。

『殺人者は眠らない』ウィリアム・カッツ 扶桑社ミステリー
『偽装の愛』ウィリアム・カッツ 扶桑社ミステリー




フェイスメーカー (新潮文庫)フェイスメーカー (新潮文庫)
(1991/09)
小菅 正夫ウイリアム・カッツ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『チャイナタウン特捜隊』エド・マクベイン 扶桑社ミステリー

2010-01-18

☆☆☆

N.Y.チャイナタウン ― 年に20件しか殺人事件が発生しない平穏な街を4発の銃声が切り裂いた。平凡なレストラン店主が射殺されたのだ。第5分署のリアダン刑事は、事件を追ううちに店主殺害の犯人が、弁護士と身元不明のアラブ人をも殺していることを知る。厄介なクリスマスになりそうだ。おまけに、私生活では妻と離婚係争中の身……。一方、大財閥キッド家は絵画コレクションを競売にかけ大金を手にし、令嬢オリヴィアの指揮のもと、銀の先物を大量に買い込んでいた。銀相場が高騰するという“何か”を握っているようだが?やがて、やがて、リアダンの執拗な捜査により、連続殺人と銀取引との間の黒い糸が明らかになる!! 内容紹介より



本書がアメリカで出版されたのは1986年で、87分署シリーズでは『八頭の黒馬』と『毒薬』の間の年、また、ホープ弁護士シリーズでは『シンデレラ』と同年ということになるみたいです。『八頭の黒馬』は、87分署シリーズの38作品目にあたりますが、なぜこの時期に87分署に似た警察小説をマクベインが書こうとしたのか不思議です。舞台をアイソラの街に、登場人物を87分署の刑事へと設定を変更することは簡単だったと思いますけど、何かしらの理由でもあったのか、なんだか気になります。それとも単なるアイソラがある世界とは別のパラレルワールドみたいなものなのか。
87分署シリーズと明らかに異なるところは、本書の主人公がキャレラと違い私生活で不幸な状況にあるところです。妻の身に起きたある事件が原因で別居中であり、離婚話が持ち上がっています。しかし、その事件の詳細が書かれていないことや一人娘とのやり取りを読むと、これはこれでシリーズ化する意図でもあったのではないかと思うんですよね。
内容はマクベインらしい水準を保っています。でも、同じ車で犯行を重ねる暗殺者たちについてはかなりの間抜けな印象。

タグ:エド・マクベイン




チャイナタウン特捜隊 (扶桑社ミステリー)チャイナタウン特捜隊 (扶桑社ミステリー)
(1990/03)
エド・マクべイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ミッドナイト・キャブ』ジェイムズ・W・ニコル ヴィレッジブックス

2010-01-16

Tag :

☆☆☆

19歳の青年ウォーカーは3歳で孤児となった。やっとよい里親に恵まれて今は幸せに暮らしているが、置き去りにされたときの記憶がどうしても頭を離れない。なぜぼくを迎えに来てくれなかったのか?母は今どうしているのだろう……。とうとうウォーカーは保護時の所持品である、手紙と母らしき少女の写真を手に、都会へ出てきた。就職したタクシー会社で知り合った車椅子の聡明な美女クリスタの手を借りて、母の足跡をたどりはじめる。しかし、調査を妨害する何者かが現れ、そこには残虐な殺人鬼の影が?!カナダが生んだ名ストーリーテラーの秀作ミステリー。 内容紹介より



カナダを舞台にしたミステリです。ラジオドラマ用脚本を小説化したものだそうです。
主人公の母親捜しの話にあるひとりの子供がサイコキラーへと成長してゆく過程が挟み込まれてストーリーが展開されます。主人公の場面は、深夜のタクシー業務で起きるエピソードや職場の同僚と触れあうエピソードが期待していたほどなくて物足りませんが、青年の一人暮しやヒロインへの愛情が育まれる様子がみずみずしく描かれていて良い具合に青春小説しています。一方、サイコスリラー、サイコサスペンスにおいてサイコキラーの子供時代を説明する上でよく用いられる、いわゆる「猫を虐待していた」の一文で一般的にかたずけられている部分が本書においては詳しく描かれているわけで、個人的にこの部分が非常に胸が悪くなるのです。かといってその部分がないと物語は進行しないし、小池啓介氏の解説にあるとおり「明と暗、正と負のコントラスト」を作品に与えているのですけれど、読後、全体のイメージにおける主人公の場面のさわやかさは、彼の両親の運命のこともあり相殺されてしまっています。
それから、主人公の親友や質屋などもっと話に絡んでいればよかったのでしょうが、面白いキャラクターの登場人物がいるにもかかわらず使いきれていない印象が残りました。




ミッドナイト・キャブ (ヴィレッジブックス)ミッドナイト・キャブ (ヴィレッジブックス)
(2007/07)
ジェイムズ・W. ニコル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『真夜中のミュージシャン』デイヴィッド・ハンドラー 講談社文庫

2010-01-14

☆☆☆

MWA賞受賞作『フィッツジェラルドをめざした男』の前作。元売れっ子作家ホーギーと超売れっ子の女優で離婚した妻のメリリー、それに二人の愛のかたみバセットハウンド犬のルルが大活躍のお洒落な都会派ミステリー。スター・ミュージシャンの伝記を依頼されたホーギーの前に死体が……。 内容紹介より



河野万里子さんの訳のせいなのか、わたしにはホーギーの口調が甘すぎて駄目です。別シリーズのミッチ・バーガーあたりはちょうど良いのですけれどね。「ほんとにやさしいのね」、「本当に、本当にやさしいのね」、と元妻に言われるほどの主人公の造型が、某村上さんの作品の主人公に似ているように思えました。『シルバー・スター』を読んだ時に、主人公に感じたイノセンスな傾向が本書の主人公にもあります。しかし、この場合はイノセンスを通り越して子供じみたと言ったほうが近いかもしれません。
構成はミュージシャンとその関係者へのインタビューと主人公と元妻の恋愛話で、インタビューばかりになると単調になるため恋愛話をはさみ込んだのでしょう。でもよく考えると、これが舞台をパリからロンドンへ移し、大量の砂糖(毎回砂糖を引き合いに出して、砂糖には申し訳ないが)をぶっかけてグツグツ煮込み過ぎた、出来損ないのフィッツジェラルドの短編のような雰囲気で、一体この話はこのミステリに必要だったのかなと思いました。ちょっと極端に表現してしまいましたけど。

『フィッツジェラルドをめざした男』デイヴィッド・ハンドラー 講談社文庫




真夜中のミュージシャン (講談社文庫)真夜中のミュージシャン (講談社文庫)
(1990/03)
デイヴィッド・ハンドラー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『不完全な他人』スチュアート・ウッズ 角川文庫

2010-01-12

☆☆☆

二人の男は、ロンドン発NY行きの機上で出会った。サンディ・キンソルヴィングは、義父の酒販事業で成功していたが、冷えきった妻との関係が原因で、全てを失おうとしていた。臨席の男、サンフランシスコで画廊を営むピーター・マーティンデイルも、妻とのトラブルで窮地に立たされていた。酒を交わし、語り合い、ヒッチコックの「見知らぬ乗客」を観た二人に、或る解決策が浮かぶ。それは、互いの妻の交換殺人。だが計画は思惑通りには進まなかった ― 。巨匠が放つ、初のサイコスリラー問題作! 内容紹介より



こちらがイメージするサイコスリラーと較べて、やわな感じがいかにもウッズ独特の「サイコスリラー」らしいなあと感じました。性善説とか人道主義に基づいているのか、この人は優しいんですね。いい意味でのアメリカ人らしい素朴さ、悪く言うと脳天気さが作品に表れていると思います。これがウィリアム・カッツだったら性悪説に基づくガチガチのいかにもなサイコスリラーの作品にしているでしょう。ウッズの持つぬるさが本書の雰囲気を塩と砂糖を混ぜたようななんともいえないものにしています。
プロットも強烈な印象を残す本家『見知らぬ乗客』を巧みなテクニックで換骨奪胎をしています。果たして主人公は計画殺人を実行してしまうのだろうか、という興味を中盤まで保たせているし、意外性のある展開を仕掛けていると思います。ただ、スケールが小さくまとまり過ぎたのと飲み物や食べ物についての感想が、まるでグルメ漫画のセリフそっくりで失笑してしまいました。





不完全な他人 (角川文庫)不完全な他人 (角川文庫)
(2001/08)
スチュアート ウッズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『プチ・ニコラまいごになる』ルネ・ゴシニ 作 ジャン=ジャック・サンペ 絵

2010-01-10

Tag :

☆☆☆☆

世界中で愛されてきたわんぱくぼうや、プチ・ニコラがかえってきた!
ニコラ「ぼく、スケート靴を買ってもらえる?クラスで一番になったら買ってくれるって約束したよ。」
パパ「いいかい、ニコラ。……そのことはまたいつか話そう。わかったね。」
単行本未収録のうもれた原稿から16話を収録。 カバーより



「新しいおとなりさん」「思いがけないよい知らせ」「パパ、ショック!」「マリ・エドウィッジと遊ぶなら」「トランペット」「ママ、自動車学校へいく」「作文」「おとなりとなかよく」「ぼくが一番」「クロッケーのふくざつなルール」「赤ちゃんの遊びかた」「整理整頓!」「大きなゾウさん」「正直は一生のたから」「お薬」「デパートへおでかけ」以上、収録。

かなり前に、牧神社から出版された『続 プチ・ニコラ』『新 プチ・ニコラ』を読んだことがあって懐かしかったです。偕成社からの「プチ・ニコラ」シリーズは、単行本と文庫本あわせて十巻出版されているみたいで、こういう良書が引き続き出ていることは大変良いことだと思います。やさしい漢字にもふりがなが付けてあり、イラストも多く挿入されているために一見児童書みたいですが、これはかなり大人向けの本だと思います。日本で言えば「サザエさん」シリーズ、アメリカではチャーリー・ブラウンの「ピーナッツ」シリーズみたいなものではないでしょうか。イギリスでは何が当てはまるのかが分かりませんけれども、それぞれのお国柄が表れている気がします。
「プチ・ニコラ」シリーズは、いわゆる無邪気な子供の目を通して世の中や大人や子供の世界を見ている体でですが、実は対象への作者のシニカルな意見や考えを子供を主人公にすることで油断させ、表現している作品だと思います。大げさに言えば、子供の世界と大人の世界が接触する時に起きる齟齬、ギャップ、二つの世界が衝突するときのカルチャーショック、または(線香花火の火花程度の)爆発をエスプリを効かせて描いているのです。
例えば、「クロッケーのふくざつなルール」では、ニコラの父親と仲の悪い隣人がクロッケーのゲームを始めて、双方でズルをしたり妨害しあったりして仕舞いには叩き合いのケンカになり、ニコラはその一連のやり取りもルールのひとつだと思ってしまうのです。




プチ・ニコラ もうすぐ新学期 (かえってきたプチ・ニコラ (1))プチ・ニコラ もうすぐ新学期 (かえってきたプチ・ニコラ (1))
(2006/11)
ルネ ゴシニ

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『壊れた海辺』ピーター・テンプル ランダムハウス講談社

2010-01-08

Tag :

☆☆☆

捜査ミスから同僚を死なせ、心身ともに傷を負ったキャシン刑事は故郷の海辺の町に戻り、小さな警察署で働き始めた。そんな折り、隣町で篤志家として知られる老人が殺害され、彼は捜査に駆り出される。高価な時計を売りにきたアポリジニの若者たちに容疑がかかり、彼らを追い詰めた警察は2名を射殺、1名を逮捕、事は落着に見えたが、キャシンは納得しなかった。単独捜査を続けるキャシンのまえに、やがて驚くべき真相が! 内容紹介より



「ややもすると不親切ともとられかねない、読者を突き放すかのような語り口」、「言い切りが多く、余計な説明的文章をほとんど差し挟まない」、と三橋暁氏が解説で述べられているように、著者の持ち味なのでしょうが、結構読みづらかったです。登場人物の名前と役割、誰が何者なのかがとても分かりにくい。他にも主人公の傍白の中での過去と現在の混在。会話に差し挟まれる、こなれていないオージー・ジョーク。
自然破壊、人種差別、児童虐待、ドラッグの蔓延といった本書で取り上げられている材料(テーマ)を警察ミステリ、ハードボイルド、クライムノベル、サイコミステリなどの調味料と一緒にぶち込み、ミキサーにかけて、木目荒く料理した作品といった印象を受けました。
テーマのひとつに人種差別(特にオーストラリア先住民への)を含むとおり、オーストラリアが抱える問題は、非常にアメリカナイズ、あるいはアメリカの後追いをしている感があって、アメリカのミステリを読んできている者にとってはテーマの斬新性に欠けるような気がします。これはミステリ部分の出来映えが優れていれば何ら問題ないわけですが、本書においてはかなり安易で弱いです。また、前半と後半がちょっと違う作品であるような違和感がありました。

オーストラリアを舞台にしたミステリ作品
『ボニーと風の絞殺魔』アーサー・アップフィールド ハヤカワ文庫
『記憶をなくして汽車の旅』 コニス・リトル 創元推理文庫




壊れた海辺 (ランダムハウス講談社文庫 テ 3-1)壊れた海辺 (ランダムハウス講談社文庫 テ 3-1)
(2008/10/10)
ピーター テンプル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『アイルランドの柩』エリン・ハート ランダムハウス講談社

2010-01-06

Tag :

☆☆☆

荒涼としたアイルランドの湿原で、赤毛の女性の頭部が発見された。泥炭層の防腐力に守られた死体は、一見しただけでは現代のものか鉄器時代のものかさえわからない。ひょっとする貴重な歴史的標本になるかもしれないと、考古学者コーマックと解剖学者ノーラは、調査に向かった。だが、現場となる小さな町では、予想外の事件が二人を待ち受けていて……。学者コンビが、時を超えたふたつの事件に挑む、ゴシックサスペンス! 内容紹介より



新年早々、柩とか。縁起でもなくてすみません。
ゴシックサスペンスというと重くて暗いイメージがありますけど、この作品がアイルランドを舞台にしているにもかかわらず、そうでもないのは作者がアメリカ人だからなのかと考えてみたり、荒涼とした湿原地帯、古くからの屋敷、死蝋(?)化した頭部、行方不明の母子と道具立ては揃っているのに、ゴシックじみた雰囲気が希薄に感じました。それからもうひとつ、人物背景に問題点があって、登場人物たちが背負う過去の出来事や事件を詰め込み過ぎて消化不良気味なところです。たとえば、ヒロインの妹に起きた事件が未解決で終わっていること。シリーズ化する想定での布石なのか、いずれその事件を扱う回があるのでしょうが、メインの事件が二つもあるのだから今回は必要なかったと思いました。その他にも、父親との確執があるもう一人の主人公、父親が自殺した母親と息子、私生児をかかえる妹と兄弟一家、と終盤にある程度の収斂は見せますが、まとまりに欠けている印象でした。


遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
皆様にとって良い一年でありますように。




アイルランドの柩 (ランダムハウス講談社文庫)アイルランドの柩 (ランダムハウス講談社文庫)
(2006/01/22)
エリン・ハート

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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