『覗く銃口』サイモン・カーニック 新潮文庫

2010-02-27

☆☆☆☆

元傭兵のボディガード、マックスは天を呪った。現場に響く突然の銃声、転がる死体。わけもわからぬまま、彼は追われる身となった。一方、冴えない刑事ギャランは、ロンドン中にもつれた凶悪事件の糸を追っていた ― 。窮地の果てに反撃を試みるマックスと、ギャランの軌跡が交わったとき、現れた絶望の銃口とは?緻密かつ超ハイスピードで展開する裏切りの連鎖、絶品のクライム小説! 内容紹介より



ちょっと大袈裟に言えば、ストーリーも登場人物も、チェーンソーを使って丸太に彫刻を削り出したみたいな荒さを感じますけど、クライムノベルみたいなものはこれくらい荒削りなほうが雰囲気が出ててよろしいかもしれません。前作の『殺す警官』みたいに主人公が警察官でありながら殺し屋でもあるというギャップを背負って、心の葛藤なんたらがないぶん、今回の主人公の金と女と復讐という動機は単純で大変分かりやすいし、面白かったです。
それでも、「裏切りの連鎖」なんて書かれていると、誰と誰が裏切るのだろうと想像してしまい、だいたい見当を付けた人物がそのとおりで、ああ、やっぱりってなってしまうから内容紹介にはそういうことを書くのはやめて欲しいとかも思いますね。こういうこと書くと、なんだかすれっからしの読者になったみたいですけれど。

『殺す警官』サイモン・カーニック 新潮文庫




覗く銃口 (新潮文庫)覗く銃口 (新潮文庫)
(2005/09)
サイモン・カーニック

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『イチジクを喰った女』ジョディ・シールズ ハヤカワ文庫

2010-02-25

Tag :

☆☆☆

絢爛たる文化が咲き誇る20世紀初頭のウィーン。ある夜、公園で若い女性の絞殺死体が発見され、解剖の結果、胃の中から未消化のイチジクが検出された。担当の警部は、最新の科学と犯罪心理学を取り入れて捜査を進めていく。さらに、警部の妻も伝説や迷信の知識を利用して、独自に犯人を追い始めた。複雑な謎の奥に浮かび上がる真相とは?精神分析学の粗フロイトの症例をもとに描いた官能的で怪奇色溢れる歴史ミステリ。 内容紹介より



ややネタばれしています!ご注意下さい。

で、イチジクどこで喰ったんだよ?!この人!
ミステリに文学めいたものを求める読者にはいいかもしれませんが、ミステリとしての面白さが希薄すぎてあまり楽しめず。20世紀初頭のウィーンの雰囲気は、細かな時代考証と丁寧な書き込みで伝わってきます。しかし、思わせぶりな謎の提示に対して、最終的に明らかにされた真相がぼんくらすぎて、がっかり感が。一所懸命きれいなキャベツの葉っぱを剥がしていったのに、真ん中にあったのはただのちっちゃな葉っぱかよみたいな。
振り返ってみれば、主人公の警部とその妻、妻の若い女友達の描写に比重が偏っていて、それ以外の被害者、その家族などの人物像が浅く、その関係性も表層をなでているだけのような気がしました。なんとなくバランスが悪いです。
警部の捜査とその妻の調査それぞれが娯楽性をたかめるような描き方をされているのでもないし、ふたつの流れが融合してクライマックスを迎えるのでもないので、あるいはミステリ小説としては読まないほうが良いのでしょうか。
メインストーリーの説明をウィーンの風景を描いているくらいに詳しくしてもらいたかったです。ウィーン鳴動させて、しょぼい犯人ひとり。




イチジクを喰った女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)イチジクを喰った女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2001/02)
ジョディ シールズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『奇術師の密室』リチャード・マシスン 扶桑社ミステリー

2010-02-23

☆☆☆

往年の名奇術師も、脱出マジックに失敗し、いまは身動きできずに、小道具満載の部屋の車椅子のうえ。屋敷に住むのは、2代目として活躍する息子と、その野心的な妻、そして妻の弟。ある日、腹にいち物秘めたマネージャーが訪ねてきたとき、ショッキングな密室劇の幕が開く!老奇術師の眼のまえで展開する、奇妙にして華麗、空前絶後のだまし合い。息も継がせぬどんでん返しの連続。さて、その結末やいかに ― 鬼才マシスンが贈る、ミステリーの楽しさあふれる殺人悲喜劇。 内容紹介より



観客のひとりとして奇術を観る時、舞台上の出来事を超自然現象とか超能力の結果だとか魔法とかだと思っている人は、余程の変わり者でもないかぎりいないと思うのですよ。何か分からないけれど、タネが仕込まれていることを知りながら、だまされるのを楽しんでいるわけですよね。同様のことは、この1994年に発表された作品についても言えることで、登場人物たちが殺したり、殺されたり、自殺したり、死体が消えたり、生き返ったり、誰かが誰かに変装してたり、読者はマシスンという奇術師がページ上で行う奇術を何か仕掛けがあるのだろうなと予想しながら読んでいくと、まあ予想したような結果になる。つまり、消え失せた吸いかけのタバコはどこかで現れなければならないし、伏せられたトランプの絵柄は必ず当てられなければならないのと同じで、それぞれのエピソードの過程を楽しまなきゃいけないのでしょう。
ただ、作中、奇術師が彼のマネージャーに、デビッド・カッパーフィールドを引き合い引き合いに出して、トリックが現代的ではないと忠告されているように、古風でこぢんまりした印象を本書からは受けました。カッパーフィールドみたいなミステリ作家といえば、良くも悪くも〈リンカーン・ライム・シリーズ〉時のディーヴァー辺りでしょうか。

タグ:リチャード・マシスン



奇術師の密室 (扶桑社ミステリー)奇術師の密室 (扶桑社ミステリー)
(2006/07)
リチャード・マシスン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『湖畔に消えた婚約者』エド・マクベイン 扶桑社ミステリー

2010-02-21

☆☆☆

婚約者とともに休暇旅行に出たフィルは、湖畔のモーテルで信じられない事件に遭遇する。深夜、ひと気のない隣室との壁から血がにじみ出し、それと同時に、別室に泊まっていたフィアンセが荷物ごと消えてしまったのだ!彼女がいたはずの部屋には他の宿泊客がおり、しかも出会ったすべての人が、フィルは女性など連れていなかったと証言する……いったい何が起きているのか?そして恋人はどこへ消えたのか?強烈な謎とサスペンスで読者を魅了する、巨匠マクベイン若き日の傑作ミステリー! 内容紹介より



87分署シリーズでは、『ハートの刺青』や『被害者の顔』が出ている1957年の作品です。半世紀前の作品といえど、何か、かなり無理矢理っぽい力技を見た気がする。こういうのを強行突破と言うのだろうか。主人公の精神状態に不確かさでも持たせて、婚約者と本当に一緒だったのか、それとも彼女の存在は幻覚ではなかったのか、みたいなひねりを何故入れなかったのでしょうね。まあ、それも今ではありきたりの設定ですけど。そして、主人公の職業が警察官ときてるものだから、立場が確固しすぎていて、権力を笠に着る相手に対しての身分のもろさがないので、読んでいても主人公がどんどん翻弄されてしまうのじゃないかという不安感が湧いてきませんでした。
それから余談ですが、169ページから175ページにかけての人生問答みたいな会話はいったい何なのですかね。また、212ページから216ページにある都会についての感傷的な文章は、後の87分署シリーズに現れる美文調の萌芽みたいなものなのかなあ、とか考えました。




湖畔に消えた婚約者 (扶桑社ミステリー)湖畔に消えた婚約者 (扶桑社ミステリー)
(2001/11)
エド・マクベイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『口は災い』リース・ボウエン 講談社文庫

2010-02-19

Tag :

☆☆☆☆

20世紀初頭、殺人を犯してアイルランドの実家を飛び出したモリーは、かくまってくれたキャスリーンの子供たちを、肺病の彼女に代わって夫の待つニューヨークに連れていくことに。しかし、船のなかでモリーの嘘を嗅ぎ付けて脅してきた男が入国目前のエリス島で殺されて……。アガサ賞最優秀長篇賞を受賞。 内容紹介より



前回読んだジル・チャーチルの『闇を見つめて』よりもさらに時代をさかのぼり、舞台は20世紀初頭のニューヨークです。風景描写が巧みで、主人公に驚きと新天地への期待をもたらした、移民たちを祝福する自由の女神、地下鉄の工事現場、走っている市電などの光景が、彼女の目を通して伝わってくるような気がしました。大袈裟に例えれば、当時のニューヨークへとページ上においてタイムスリップした気分が味わえるわけです。
一方、主人公も思いがけなくアイルランドの寒村から近代化した大都市へと放り込まれた、一種のタイムトラベラー状態と言えるのかもしれません。誤って人を殺し、身一つ、一文無しで、身寄りのない異国の地に降り立った主人公は、持前の行動力と負けず嫌いな性格で独自に事件の調査にあたります。容疑者の屋敷に潜り込む経緯がかなり都合良く、後半にかけてのストーリー進行が一気に端折られているところが目に付きますが、非常に読みやすく先の展開が読めない、推理小説というより冒険小説の佳作です。訳者の羽田詩津子さんのあとがきによると、このモリー・マーフィー・シリーズは、2007年時点で六作目まで書かれているそうなので、ぜひ引き続き日本でも出版してもらいたいものです。




口は災い (講談社文庫)口は災い (講談社文庫)
(2007/06/15)
リース・ボウエン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『闇を見つめて』ジル・チャーチル 創元推理文庫

2010-02-17

☆☆☆☆

世界大恐慌で全財産を失ったロバートとリリーの兄妹がヴォールブルグに来てから間もなく一年。長引く不況が町に影響を及ぼすなか、リリーは金持ちのふりを続けることに疑問を感じていた。そんなとき、ロバートは敷地内の氷貯蔵小屋で、ミイラ化した死体を見つける。一方、リリーも地元婦人会絡みの殺人事件に巻きこまれてしまい……。《グレイス&フェイヴァー・シリーズ》第三弾。 内容紹介より



ややネタばれ気味です!ご注意ください。

このシリーズは、《主婦探偵ジェーン・シリーズ》よりもプロットが練られ、さりげなく小技も効いている感じがします。まず時代背景を大恐慌の時期に据えて、その時代に起きた史実と小さな町の殺人事件とを上手く結び付けている点です。ストーリーとは関係のない、時代感を出すための背景描写のひとつだと思っていたボーナス行進という出来事の記述は、実は、その模様を取材した町の新聞記者が参加者に聞いた話から事件解決の手がかりに繋がるという趣向なっています。また、被害者の鞄にあった野菜屑の痕跡やある人物の身体に残る障害もヒントの一つとして、なにげなくあちこちに据えられています。
被害者の身元が判明する過程においても、まっすぐ解明の道に至るのかと思っていたら脇道が作られており、読者を仕掛けられたレッドヘリングによって別の道へとはぐらかす罠が用意してありました。
惜しむらくは、二つの殺人事件に関連性がなかったことと真相も似通ったものだったことでしょうか。
スケールの大きな歴史上の大事件と小さな町の事件、この対比の妙、バランスがいい具合に取れている作品だと思いました。

『風の向くまま』ジル・チャーチル 創元推理文庫




闇を見つめて (創元推理文庫)闇を見つめて (創元推理文庫)
(2006/03)
ジル・チャーチル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『闇に浮かぶ牛』P・J・トレイシー 集英社文庫

2010-02-15

Tag :

☆☆☆

異様な静けさに包まれた町に迷い込んだ3人の女たち ― グレースとアニーは天才サイバー集団「モンキーレンチ」メンバー、シャロンはFBI心理捜査官 ― は、そこで恐ろしい事実に気づく。携帯電話さえ「圏外」のこの場所で、命を狙われることになった3人の、決死の脱出劇が始まった!一方、彼女らを案じる男たちも捜索に出るが……。大人気のミネアポリス警察署殺人課シリーズ! 内容紹介より



このシリーズは、『天使が震える夜明け』(ヴィレッジブックス)、『沈黙の虫たち』(集英社)、本書、『埋葬』(集英社)と刊行順で読んだほうが、「モンキーレンチ」という集団とその登場人物のキャラクターを理解し親しみを感じやすいらしいです。当たり前と言えば当たり前ですけど。
テロリストが突発事故を起こし、通信手段が絶たれた町に偶然立ち寄った女性3人と彼女らの身を案じる仲間や友人たちの行動がカットバックで描かれています。が、かなり煩わしいくてまぎらわしいところが、「モンキーレンチ」のメンバーである男二人、保安官と保安官補の二人、殺人課刑事の二人の存在で、これらのコンビ皆それぞれが例の軽口、減らず口をた叩き合い、また後の二組はクローンかと思うほど似ている点です。実際一組は減らすべきでしょう。同じようなのが同じようなことを言うから、こちらは若干混乱してしまいました。特に前半、テロリストに遭遇し、逃げ回るスリリングな女性組の場面に、男性組が軽口を叩く場面が挟まれると緊張感がそがれてしまいます。
全体を通じてアクション映画のノベライズみたいな軽さと安っぽさを感じました。でも、銃撃戦みたいな露骨なアクション要素は大変に希薄で、期待外れに終わりました。

カバーイラストは松尾たいこさん。
http://www.taikomatsuo.com/index.html

最後になりましたが、
ディック・フランシスさんのご冥福をお祈り致します。
数々の名作をありがとうございました。




闇に浮かぶ牛―ミネアポリス警察署殺人課シリーズ (集英社文庫)闇に浮かぶ牛―ミネアポリス警察署殺人課シリーズ (集英社文庫)
(2008/05/20)
P.J. トレイシー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『オーロラの向こう側』オーサ・ラーソン ハヤカワ文庫

2010-02-13

☆☆☆☆

ひさしぶりに聞いた故郷の町の名は、首都で働く弁護士のレベッカにとって、凶事の前触れだった。北の町キールナの教会で若い説教師が惨殺されたのだ。そのニュースが流れるや、事件の発見者で被害者の姉のサンナから、レベッカに助けを求める連絡が入る。二人はかつては親友の仲であり、レベッカ自身もその教会とは深い因縁があった。多忙な弁護士業務を投げ捨てて、レベッカは北へと飛び立った……北欧発傑作サスペンス 内容紹介より



カバー写真がきれいなおねえさんとオーロラの夜景とのコラージュなので、一見すると例のロマンティック・サスペンスものみたいですが、実はかなり硬派なサスペンス・ミステリでした。主人公と被害者の姉、主人公の上司の三人が個性的です。特に、単なる嫌みな上司だと思っていたモーンスは、直接事件に関係するわけではないないけれど、いわゆる“ツンデレ”系の男性版みたいな滅多にない設定で、登場場面が短かかったにもかかわらず印象に残りました。主人公は、ものに動じない独立独行の女性で男に媚びないオーラが感じられ、クライマックスでの彼女が取った行動にはびっくりさせられましたが、物語を総括するように芯の強さが表れている場面だと思います。そして、かつて少女時代に親友だった経緯で、主人公が事件に巻き込まれ、振り回されるはめになった原因を作った人物である被害者の姉は、美人で、はかなげで気弱そうにしていながら、実は・・・みたいなことが明らかになっていて、この作家は人物描写にたけたひとだなあといった感想を持ちました。長い冬の間、厳寒のなか雪に囲まれる生活を送ると、人物考察や人間観察をする目が研ぎすまされるのでしょうかね。
ですから、トリックや犯人は誰なのかというミステリ部分よりも、人間ドラマに重きを置いた内容になっています。シリーズ化しているみたいで楽しみです。




オーロラの向こう側  (ハヤカワ・ミステリ文庫)オーロラの向こう側 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2008/08/08)
オーサ・ラーソン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『殺人倶楽部へようこそ』マーシー・ウォルシュ マイクル・マローン 文春文庫

2010-02-11

Tag :

☆☆☆☆

高校時代に仲間と書いた「殺人ノート」のトリックを使って、当時の〈殺人倶楽部〉のメンバーが次々に殺されてゆく!まさか犯人は仲間の一人? ― 自分も同クラブの一員だった熱血刑事ジェイミーは、婚約者のロッド警部補とともに事件を追うが……。小さな町の人間模様の中に意外な犯人を隠す、サスペンスフルなミステリー。 内容紹介より



邦題からユーモアミステリかと思っていたら違っていました。
ある人物が立てた殺人計画を別の誰かが実行してしまう、という古典的な、でもミステリ好きには思わず食指が動いてしまうプロットを現代に移しかえたもの。しかし、移植したのは良いけれど、大輪を咲かせるまでにはいたらなかった、残念ッみたいな。
サプライズもインパクトもいまひとつ不足している印象を受けました。この作品の核になるべき殺人のテキストである「殺人ノート」に書かれているアイデアがことごとく陳腐で、「トリック」とも言えない、緻密さに欠けたメモ書き程度のしろものであることが一番の原因でしょう。とても高校生が集まって楽しめるクラブじゃなさそうです。架空の殺人計画を練り、周りにいる嫌いな人間を空想の中で片っ端から殺してしまうのならば、この部分をもっと具体性を持たせて膨らませるべきだったのではないかと思いました。殺人倶楽部活動を含む高校生時代の出来事がなおざりにしか描かれていないのも工夫が足りなところでは。
しかし、プロット設定は好みだし、決して面白くないわけではないので☆は四つなのでした。




殺人倶楽部へようこそ (文春文庫)殺人倶楽部へようこそ (文春文庫)
(2009/03/10)
マーシー ウォルシュマイクル マローン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ローズマリー&タイム 歌を忘れた鳥たち』ブライアン・イーストマン 講談社文庫

2010-02-09

Tag :

☆☆

植物病理学の大学講師ローズマリー・ボクサーと元警察官のローラ・タイム。ローズマリーは仕事での、ローラは私生活での、それぞれに悩みを抱えていた二人は偶然に出会い、ガーデニングで意気投合。イギリスの美しい花と緑を背景に、互いの専門知識を駆使しながら、謎の死の真相に迫る。日英人気ドラマ原作。 内容紹介より



作者はミステリ専門の作家というわけではなく、TVや映画のプロディースしている人らしくて、そのためかミステリとしてはストーリー展開がぎこちない感じがしました。映像化することを前提に書いているのでしょう。上手く表現できませんが、本来の「推理小説」からずれているような、ノベライズ作品を読んでいる感覚に近いものがあります。
読んでいてかなり早めに犯人の見当が付くので、作品に期待できるのは英国らしい渋いユーモアと知性を感じ取れるウィットだと思ったのですが、それもあまり見当たりませんでした。残るは中年女性同士の友情とガーデニング関連の草木についての描写くらいでしょうか。植物病理学に関する初心者向けの蘊蓄をもっと披露して欲しかったところです。
それから、主人公ふたりの会話が似ていて紛らわしかったのと、そのうちのひとりローラ・タイムが元警察官らしい専門的知識を発揮する場面なんてほとんどなかったように思いました。




ローズマリー&タイム―歌を忘れた鳥たち (講談社文庫)ローズマリー&タイム―歌を忘れた鳥たち (講談社文庫)
(2008/04/15)
ブライアン イーストマン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『トウシューズはピンクだけ』レスリー・メイヤー 創元推理文庫

2010-02-07

☆☆☆☆

町の一大イヴェントであるバレエの発表会をひかえ、元バレエダンサーの老女が失踪。娘たちが発表会に出るルーシーは、心配でしかたがない。そんなある日、友人にビデオカメラを貸したことから、ルーシーはまたもや死体を発見するはめに。しかもその友人が容疑者として連行された。無実を信じるルーシーは、妊娠六カ月の身で事件を調べはじめる。好評、主婦探偵シリーズ第二弾。 内容紹介より



主婦の大変さを知るうえで貴重なシリーズ第二弾。
前作で勤めていた通信販売会社のオペレーターの仕事を妊娠したために辞め、専業主婦に戻った主人公。前ほどの忙しさは感じないけれど、それでも娘たちのバレエの発表会の準備など三人の子供の世話にと主婦業はお腹の子供と太っていく身体を抱えて大変そうです。
このシリーズが他のコージーと違っているところは、ラスト近くで犯人から主人公が受けた仕打ち以外にも、夫が夕食の献立に不満を唱えたり、ビデオカメラを他人に貸したことで主人公を責めたりする場面が挟まれることです。家庭生活を送る際に持ち上がるちょっとした不和を描いて、妙にリアルな雰囲気を作品に与えている気がします。
ミステリは老婦人の謎の失踪に金物店店主の殺害事件と二本立てで用意してあり、それを繋ぐテーマが(ネタばれ→)「家庭内の虐待」です。それから、昔から根強く存在する女性への偏見とその社会的地位の低さをさりげなく問うこともシリーズの根底にあるテーマなのかなと思いました。
二つのミステリを設定し、巧みにストーリーを回していくところなど、この作者は意外に技巧派なのかもしれません。

『メールオーダーはできません』レスリー・メイヤー 創元推理文庫




トウシューズはピンクだけ (創元推理文庫)トウシューズはピンクだけ (創元推理文庫)
(2008/02)
レスリー・メイヤー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『芸術的な死体』ジャック・アーリー 扶桑社ミステリー

2010-02-05

Tag :

☆☆☆☆

ブティックのショーウィンドーに血を流したマネキンが一つ ― と見えたのは、家出した女子高校生の撲殺死体だった。少女のおじに捜査を依頼された私立探偵フォーチューン・ファネリは42歳のもと警官。ただいま禁酒中の彼は、二人の娘の成長に心配が絶えない男やもめでもある。そんなファネリが愛するニューヨークの下町、ソーホーで起こった猟奇殺人事件を追う!本名のサンドラ・スコペトーネでも続々人気作を発表する女流作家が85年のシェイマス賞最優秀新人賞を受賞した別名義での〈デビュー作〉ここに登場! 内容紹介より



イタリア系の探偵の常で、この主人公も家族やコミュニティと密接につながっているのが可笑しい。なので、誰かに頭を殴られて気絶するというハードボイルドにおける旧来の要件の一つを満たしながらも、本書はコージーミステリ風でもあるのです。主人公は離婚して息子と娘の三人暮らし(内容紹介の「二人の娘」という記述は誤りです)、子供に関心を示さない元妻に気をもみ、母親のやっている肉屋で買い物をし、そこで昔なじみの客と会話し、子供のためにイタリヤ料理をこしらえ、アルコール依存症の姉の身を心配をし、経営している駐車場を見回る、こういった彼の日常生活とソーホーの街と住人たちの様子が巧みに描かれ、コージー色を強めていると言えます。
昔ながらのダウンタウンであり、芸術家の街でもあるソーホーのブティックに飾られた芸術的な死体。家出した被害者の弟と彼等の奇矯な両親。こういう部分は充分にハードボイルドしています。神父、駐車場の管理人、引っ越してきた美女など登場人物が個性的で、特にアル中の詐欺師と主人公の関係の変化は、下町の人情を感じられる良いエピソードだと思います。




芸術的な死体 (扶桑社ミステリー)芸術的な死体 (扶桑社ミステリー)
(1990/05)
ジャック アーリー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『霧のとばり』ローズ・コナーズ 二見文庫

2010-02-03

Tag :

☆☆☆

風光明媚な海岸線と霧の町チャタム。ケープコッドの小さなこの町で、1年前のメモリアル・デーの朝、胸をローマ数字の1の形に切り裂かれた惨殺死体が見つかった。いま“わたし”検事補のマーティは事件の陪審評決を待っている。被告は山ほどの前科を持つ男ロドリゲス。だが有罪評決の直後、新たな死体が発見される。胸にはローマ数字の2 ― 模倣犯か冤罪か?マーティは対立する弁護士ハリーと真実を追い始めるが……メアリ・H・クラーク賞受賞の珠玉のミステリー 内容紹介より



有名な避暑地を舞台にしたリーガル・サスペンスとシリアルキラーものをあわせた作品です。本書において非常に印象に残ったのは、殺人罪に問われた被告人へ被害者の母親が行った被害者意見陳述の箇所です。生きていればたどったであろう被害者の将来の道や彼の人柄、家族愛や恋愛について述べるのですが、こういう場面をわたしはリーガル・サスペンス作品においてこれまで読んだ覚えがありません。どちらかと言えば、従来のリーガル・サスペンスは、法廷において有罪か無罪かを虎視眈々と狙いながら行うゲーム感覚みたいなものが多く、そこには被害者の家族、友人、親しくしていた者の悲しみや喪失感といった感情が、エンターテインメント性の下に、ないがしろにされてきた傾向があるような気がします。また、別の被害者の告別式では、親友が行う弔辞の形をとって約6ページ * に渡り生前をしのぶ場面が描かれています。この残された者への視線は、検察官、弁護士として長年活動してきた著者の経験から出たものでしょう。
340ページの短めの作品にしっかりまとめてありますが、違和感を覚えたのは、(ネタばれ→)「ジキル博士とハイド氏みたいな犯人像です。普段は好人物の犯人が、PTSDらしきことにより軍隊を想起させるものを解発因として犯行を行う。ここまではいいのですが、その犯行を他人の罪に着せる行動をとることがどうも納得いきません。こういう精神状態にある人物は殺したら殺しっぱなし、犯行後、冷静になってから他人に罪を被せるような奸計を巡らすものなのかなあ、なんて。

*ただ、先の母親が行った被害者意見陳述とこの弔辞への作者の趣旨がだぶっているし、センチメンタルに傾き過ぎてしまった感があります。




霧のとばり (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)霧のとばり (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)
(2004/12)
ローズ コナーズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『報復のコスト』スティーヴン・レザー 新潮文庫

2010-02-01

Tag :

☆☆☆

なぜ父は猟銃で自らの頭を吹き飛ばしたのか。非業の死の背後に潜んでいたのはロンドンの“成長産業”金融界と麻薬ルートを牛耳る二人のマフィアの影だった。闇の人脈に復讐を誓った「わたし」は犯罪のスペシャリストを集め「報復チーム」を組織し、マフィアの重鎮を追いつめる罠を画策するのだが……。復讐サスペンスと金融小説双方の醍醐味を見事に盛りこんだ新進気鋭のデビュー作品。 内容紹介より



以下、ネタばれを含んでいます!ご注意下さい。

「報復チーム」と書かれると、プロフェッショナルな人たちが協力して事に当たるっていう感じにとれますが、自らの正体と目的を隠しておきたい主人公はスカウトした人物同士が接触しないようにし、個別に計画の一部を遂行させているため、「報復チーム」が一堂に会する場面はありません。各分野への駄弁*と上手くいき過ぎのような主人公のスカウト活動が描かれる前半から、後半、彼の計画が破綻して、偽のコカイン取引きにあるグループが介入し、その計画に関与した者たちを狩り始め出してから物語は佳境に入ります。
金融取引の世界ではプロながら、犯罪じみた復讐計画を立てるうえではあくまでアマチュアであって、自分の手を汚したくなかった主人公が、周りの人を危険に巻き込み、最後には両手を血で汚すはめになるという皮肉な結果で終わる物語です。
この作品に弱い部分は、主人公の視点のみでしか描かれていないことで、彼に雇われた者たち、復讐の標的と狙われる男たちなどの視点を取り入れていたらもっとサスペンスフルな展開になっていたと思います。

*訳者の田中昌太郎さんに言わせると「ヤボ」な感想を書いてしまいました。




報復のコスト (新潮文庫)報復のコスト (新潮文庫)
(1994/12)
スティーヴン レザー

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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