『消失点』リン・S・ハイタワー 講談社文庫
2010-04-30
- Category : ☆☆☆
Tag : リン・S・ハイタワー
牧場で少女が馬とともに消えた。シンシナティ警察のシングル・マザー刑事ソノラ・ブレアは、相棒サムと捜査にのりだす。牧場経営者の女性は馬のことばかり心配する異常さ。父親の態度も不審だ。そして少女の日記に書かれた意外な言葉。虐待か家出か、馬がらみの犯罪か?待望の女性刑事シリーズ第三弾! 内容紹介より
以下、ネタばれしています!ご注意下さい。
これが実際に起きた事件ならかなりセンセーションな真相を含んで衝撃的だと思います。しかし、フィクションの題材として取り上げている本書においては作者の切り口が甘い気がしました。少女及び馬失踪事件と馬牧場のオーナーに対する傷害事件の二つが合わせ技で一本のミステリに仕立てられています。プロットは、いわゆる馬牧場ビジネスを主題にしているように装いながら、ミッシングチルドレン問題をその影に隠しているわけです。ただし、ミッシングチルドレン問題を正攻法で取り上げなかったために、作品自体のインパクトが弱められている印象を受けました。やはり、真犯人が一連の犯行に及んだ説明が不足していますから、彼の行状や心情を過去にさかのぼって丁寧に描くなりしていればずっと良い作品になったと思いますが、メインの事件に別の事件を被せてしまう小細工が作品をスケールダウンさせる結果になってしまっています。
さて、今回のヒロインはシングル・マザーながらも、家事、子育てをバックアップしてくれる人物はいませんでした。
女性捜査官が主人公のミステリを三作続けて読んでみて、当たり前ですがそれぞれ違いがあって面白かったです。
『引火点』リン・S・ハイタワー 講談社文庫
『切断点』リン・S・ハイタワー 講談社文庫
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『アウェイ ゲーム』アレクサンドラ・マリーニナ 光文社文庫
2010-04-28
- Category : ☆☆☆☆
Tag :
― 満身に不調を訴えるアナスタシア。“丸パン”ことゴルジェーエフの計らいで、“渓谷”(保養所)で休暇を過ごすことになった。しかし保養所のあるN市では、黒幕デニソフと彼等に対抗する犯罪組織とのせめぎ合いが続いていた。そうした不穏な動きがあるなか、映画制作を目的としたいかがわしい一行が暗躍し、やがて……。― 全世界的に人気を博す、モスクワ市警殺人課分析官アナスタシア・シリーズいよいよ登場! 内容紹介より
本屋さんで背表紙を見ていると、本書の〈分析官アナスタシア・シリーズ〉のようにタイトル下にサブタイトルが振ってある女性捜査官シリーズが多いことにちょっと前から気が付いていて気になっていました。ということで手始めに本シリーズから読んでみました。
この主人公の特徴は頭がよく、特に理数系の思考回路を持ち合わせ、かなり内省的なところじゃないでしょうか。行動する前に熟考するタイプで、寡黙ながら人によっては屁理屈にもとれる言い方をするみたいなイメージです。このジャンルにはハードボイルド・タイプのヒロインが多いので、本書のような主人公は新鮮です。
ストーリーは、(a)N市の司法、行政、経済界を掌握している黒幕のグループ、(b)その黒幕一派の目を盗み、保養所を拠点に犯罪行為を行っているグループ、(c)ヒロイン及びモスクワ市犯罪捜査局、この三つの視点から描かれています。まず(a)が自分達の目をかすめて保養所で何かが行われていることに気が付く。次に、(b)の目から実際の犯罪行為が描かれる。そして、当地に滞在中、(c)も何事かが行われていることを薄々感じており、(a)が(c)に調査協力を依頼する、といった具合に進みます。
なので、読者は(b)の部分でどういう犯罪が行われているのかを知ってしまう、つまり倒叙ミステリ的な構成になっているために、(c)が(a)に協力して、実際に調査を始めるまでの間の部分がかなりまどろっこしいものに思えますし、ヒロインの傍白の箇所が多いためになおさらそう感じてしまいます。ロシアでは想像の産物ではないのかもしれませんが、犯人たちの犯罪ビジネス自体はかなり荒唐無稽な話だとも思いました。
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『褐色の街角』マルコス・M・ビジャトーロ 創元推理文庫
2010-04-26
- Category : ☆☆☆
Tag :
ロミリア・チャコン。28歳、ラテン系。ナッシュヴィル署殺人課の刑事。6年前に姉を殺されて以来、胸に燃える復讐の火を任務に注ぎこむ。新聞記者変死事件の現場に残された翡翠のピラミッド……解決済みの連続殺人事件に新たな被害者?捜査中に出会った洒脱な紳士ムリージョ……麻薬王と噂される彼が、彼女に恋を?シングルマザー刑事の胸のすく活躍を描く新シリーズ開幕篇。 内容紹介より
新聞記者変死事件、連続殺人事件、麻薬シンジケート、死の部隊。麻薬組織のボスと疑われているNPO代表がヒロインを口説いたりするところはロマンチック・サスペンス風になるのじゃないかと嫌な予感がしましたけれど、様々な出来事がどこで収斂するのか、先の展開が読めないミステリという意味で面白かったような気がします。ただ、ヒロインに一工夫が欲しかったかなあと思います。鼻っ柱の強い子持ちの女性刑事だけでは今時珍しくないですよね。姉が殺されたことで、犯罪者に対して暴力的な傾向を持つ設定にしてあって、次作以降で彼女のキャラクターが明らかにされていくのでしょうが。
それから、この作者は細かなネタ振りが上手いような、「コンピューターの日付け」や「同僚の刑事がしょっちゅうトイレに駆け込む理由付け」など。
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『神の獲物』C・J・ボックス 講談社文庫
2010-04-24
まるで外科手術のような鮮やかさで切断されたへら鹿の死体が発見された。次に家畜。ついには人間にも凶行が及び、森に現れたジャック・ザ・リッパーは、小さな町をパニックに陥れる。ワイオミングの大自然と家族をこよなく愛する猟区管理官ジョーが「自分の力を超えた」相手と対決する、好評シリーズ第3弾。 内容紹介より
たまに日本のテレビ番組でも取り上げられる、アメリカで発生した「家畜惨殺事件-キャトル・ミューティレーション」がテーマのひとつになっています。奇妙な損傷が死体にあるものだから、超自然現象とかエイリアンや野獣の仕業だとか、いや虫が齧ったんだとか、諸説もあり作者の興味を引いたみたいです。本書では超自然の仕業寄りのストーリー展開がしてあるとともに、土地取り引きに絡む現実的な事件も平行して進んでいくので、作者の考える物語の落としどころ、帰結がだいたい予想が付いてしまいます。すべてを超自然現象のせいしてしまえばミステリ作品としては失笑を買うだろうし、一方、すべてを人間業とするには状況に無理がありますから。新しい解釈とか処理はなく無難です。
それから、いかにもマッドサイエンティストとその助手みたいなコンビや彼らに関係したある人物の造形がかなり浅く、結果ありきでそういう状態になった過程なり説明が不足していると感じました。意外な真犯人にはびっくりさせられましたが、そういう兆しやヒントが一切なければ驚かせるのは簡単なことではありますよね。
『沈黙の森』C・J・ボックス 講談社文庫
『凍れる森』C・J・ボックス 講談社文庫
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『百の顔を持つスパイ』リドリー・ピアスン 新潮文庫
2010-04-22
- Category : ☆☆☆
Tag :
ボリコウスキーはブルガリア情報機関DSの職員である。変装の名人で、演技力と語学力には自信がある。今回の任務は、米政府が開発した画期的なエネルギー源の研究成果を盗むことだったが、つい母国語で罵声をあげたのがもとで計画変更が重なり、無用の殺人を犯してしまった。彼を兄の仇とつけ狙う米情報部の男も、身近に迫っているようだ。追う者と追われるものが錯綜する緊迫の二週間。 内容紹介より
もう少しトリッキーで変幻自在なスパイを期待していたけれども、すぐ馬脚を露わしてしまうし、油断して正体がばれそうになるし、女スパイにうつつを抜かすし、あまり優秀なスパイには思えませんでした。“東側のスパイ”という言葉から連想する冷徹で冷酷なイメージを避けて、人間味というか人間くささを出して描いているのかもしれないけれど、ちょっと中途半端な気がしました。そして、もう一人のアメリカ側のエージェントは、ラストにはジェームズ・ボンドばりのスーパーマンぶりを見せたりして、地味なんだか派手なんだか。それから、以前にも書きましたが、いちゃいちゃする場面が緊張感を削ぎかねないから、こういう冒険小説、スパイ小説のたぐいには恋愛ネタはあまり入れない方がいいと思うのですよね。しかも、本書では東側のスパイの恋愛とアメリカ側の恋愛、二つが描かれていて、ストーリーとして派生しない後者はどうみても余計です(前者も本当は要らないのですけど)。
それから、まるで鉈でぶった切ったみたいに大雑把で読み辛く、これほどもっさり感のあるクロスカッティングの使い方を見たのは初めてです。
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『自殺じゃない!』シリル・ヘアー 国書刊行会
2010-04-20
- Category : ☆☆☆☆
Tag :
マレット警部が旅先のホテルで知り合った老人は、翌朝、睡眠薬の飲み過ぎで死亡していた。検死審問では自殺の評決が下ったが、父親が自殺したとは信じられない老人の子供たちとその婚約者は、アマチュア探偵団を結成。独自に事件の調査に乗り出した。やがて、当日、ホテルには何人かの不審な人物が泊まっていたことが明らかにされていくが……。英国ミステリの正統を受け継ぐ本格派ヘアーの香り高いヴィンテージ・ミステリ。 内容紹介より
本作品は、いわゆる由緒あるお屋敷にいわくありげな人物たちが集まり、それぞれの思惑が交錯するなかで事件が起き、探偵役が現れて謎を解く、という本格推理小説を一旦解体して再構築したものじゃないでしょうか。そして作者は各部分をわざと妙な形に変えたり、おかしな繋ぎ合わせ方をしたのではないかと。まず、「ジョージ王朝様式の上品な館」と思えた屋敷はホテルに改修され、中身は「沿道沿いにあるモーテル」と変わりなくなり、そこに“偶然”にも泊まり遇わせた宿泊客の内の三組もが被害者と繋がりがあり、キーパーソンだと思われた被害者の兄夫婦は、これまた“偶然”にちょっとだけ係るだけで、探偵役のひとりでありながら素人にその座を譲っている警部は(ネタばれ→)「犯人に端から騙され、利用されている」、といった具合です。取りようによっては本格物のパロディとも考えられるわけです。
しかしながら、この作者のすごいところは、あっと驚く真犯人の正体に加えて、被害者と警部が話をしている最中にちょっとした出来事により妻についての話が娘の話題になってしまう場面があって、細かいところながら仕掛けが絶妙だなと感心させられました。
(ネタばれ→)「自殺と判定された事案を殺人だと証明してみせなくてはならなくなった殺人犯」という不条理がすごく滑稽な物語なので、倒叙ミステリの形でも読んでみたかったなと思いました。
『英国風の殺人』
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『アール・グレイと消えた首飾り』ローラ・チャイルズ ランダムハウス講談社
2010-04-18
その時、凄まじい轟音が婚約披露の会場にこだました。天井が崩れ落ち、華やかな場は一点。悲鳴に包まれる。そして気がつけば、この夜のために飾られたマリー・アントワネットゆかりの婚約指輪も忽然と姿を消していた……。だが事件はこれだけでは終わらない。街で開かれた名宝展でも、高価な首飾りが盗まれたのだ。この街に怪盗が!?真相究明に乗り出したセオドシアと、愛犬アール・グレイも大活躍の、シリーズ第3弾! 内容紹介より
amazonにおける本作の評価は五件あってすべて☆四つです。しかも、99%の人が各レビューが参考になったと答えていますね。レビュワーやその他の方々に喧嘩を売るつもりはさらさらないけれど、そんなに面白かったのかなこれ。このシリーズは回を重ねる毎に上手くなっていくって書こうと以前の自分の評価を見直したら第1,2作が☆三つで、以降の作品は☆二つでした。評価下がってるじゃん。てか、世間の評価との乖離が甚だしいじゃん。まあ、そんな感じで。
今回は「怪盗」を登場させることで目先を変えています。しかし、相変わらず目撃証言とかアリバイとか科学捜査とかいう部分の記載が少なく、ヒロインの空回りにも等しい根性と見当違いな行動が目立っておりました。作者はサービス精神旺盛にいくつかの赤いニシンをばらまいていますが、読者よりも先にヒロインが真っ先にそれに食い付いてどうする?って感じです。以前、このシリーズには、本当の意味での探偵が不在であると書きましたけれど、実はワトソン役が欠落しているのだなあと思いました。
タグ:ローラ・チャイルズ
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『チャリティ岬に死す』ウィリアム・G・タプリー サンケイ文庫
2010-04-16
- Category : ☆☆☆
Tag :
ボストンの弁護士ブレイディ・コインのもとへひとりの老婦人が訪ねてきた。息子のジョージが死んだ。自殺ということだが信じられない。真相をさぐってほしいというのだった。コインは、ジョージが勤めていた高校へ行き、調査をはじめたが……。新人タプリーが詩情豊かなハードボイルドタッチで描いた注目のデビュー作、スクリプナー犯罪小説賞受賞作。本年度、英国推理作家協会最優秀処女長編賞(ジョン・クリーシー賞)候補作!! 内容紹介より
地元ボストンでは一般的なハーバード卒で大きな弁護士事務所に勤めているのではなく、エールのロウ・スクールを出て個人事務所を構えている主人公はお金持ち相手に法律問題の相談にのっています。愛車はBMW(ここ重要)、趣味は釣りとゴルフ(ここ注目)。離婚歴がある四十代の独身で、別れた元妻と二人の息子たちとは定期的に会う仲です。つまりハードボイルドタッチといいながらも、決して“一匹狼”の体ではなくて一匹犬みたいな存在なのですね。ステレオタイプのハードボイルドの主人公ならば、古めでこだわりのアメ車を乗り回し、スポーツと言えばTVでアメリカンフットボールか野球の観戦、離婚歴はあっても家族とは疎遠という設定だったでしょう。
こんなふうなソフトボイルドタッチの主人公なので、ストーリーは事件の被害者や加害者の心の奥底に入り込むことなく、やや体裁を整えて進み、主人公の日常生活の些末な事柄を細々と描くより、もうちょっとテーマを掘り下げてみても良かったんじゃないだろうか、という感想を持たせつつ途中でぶった切ったみたいにあっけなく終わるのでした。
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『未亡人の小径殺人事件』レズリー・G・アダムソン サンケイ文庫
2010-04-14
- Category : ☆☆☆
Tag :
『デイリー・ポスト』のゴシップ・コラムニスト、レイン・モーガンは恋に疲れ、仕事に疲れていた。そのため逃げるようにサマセット州の方田舎ニーザー・ハンプトンに一人でやってきたのだった。しかし、彼女が到着するのと時を同じくして、静かで平和だったこの村に殺人事件が連続して起こり、やがて、レインの身にも危険がふりかかってきた……。P・D・ジェイムズが絶賛する女流新鋭の本格推理。'86年ジョン・クリーシー賞候補作。 内容紹介より
閉鎖的な村に、地元の大地主とか退役軍人とか牧師などの登場人物たちといえば、いわゆるビレッジ・ミステリですけれど、変わっているのは探偵役が休暇でその地を訪れたコラムニストだというところで、典型的なよそ者のはずが、警察は信用しない村人たちでも新聞社のコラムニストは受け入れているのですね。ゴシップ好きだからかも。そして主人公は、息子が殺人犯として逮捕された掃除のおばさんのためと持前のジャーナリズム魂から事件を調べ始めます。
後にワトスン役としてヒロインと行動を共にする考古学者が最初の死体を発見するわけですが、この被害者の身元がなかなか明らかにされないところで以降の展開がやや読めてしまうきらいがあります。行く先が分からないコテージの所有者の扱いや教会での逃亡劇は肩すかしで盛り上がりに欠けていました。
![]() | 未亡人の小径殺人事件 (サンケイ文庫―海外ノベルス・シリーズ) (1986/09) レズリー G.アダムソン 商品詳細を見る |
テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『殺人ツアーにご招待』マリアン・バブソン サンケイ文庫
2010-04-12
- Category : ☆☆
Tag :
謹んで貴下をチョートルズビイ屋敷ホテルの殺人事件にご招待申しあげます ― この案内状が“殺人ゲーム”の始まりだった。アメリカの推理小説専門書店が企画した“殺人ゲームツアー”に参加した10数人のアメリカ人がイギリスの片田舎のホテルへやってきた。だが、ゲームのはずだった推理劇の途中、本物の殺人事件が起きるにおよんで……。英国で人気のベテラン女流作家の手になるユーモアたっぷりの本格推理。1986年英国推理作家協会ゴールド・ダガー候補作。 内容紹介より
この作品のプロットは、ミステリ関連の催しの席上で本物の殺人事件が起きる、というユーモアミステリによくあるパターンのひとつです。死体が発見されたときにツアー参加者たちがその死体も芝居の出し物のひとつだと思い込んで、本物の死体だとなかなか納得しないドタバタ劇の場面がブラックな笑いをかもし出して可笑しかったです。しかし、それ以外は平凡な印象でした。また、屋敷内で演じられているミステリ劇に、俳優はもとよりホテル経営者の親族とツアー客も参加するせいで、読みなれるまでがやや煩わしいく人物を把握しにくかったです。
劇中の事件の犯人は印象に残らないし、実際の事件の犯人も真相もかなり拍子抜けする人物でした。ホテルの飼猫アクロイドは可愛かったです。
『クリスマス12の死』マリアン・バブソン 扶桑社ミステリー
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『アリシア故郷に帰る』ドロシー・シンプソン サンケイ文庫
2010-04-10
- Category : ☆☆☆
Tag :
英国ケント州の田園都市スチュレンドンがダイアナ妃訪問に湧いた日に、町のホテル〈ブラック・スワン〉で女性が殺された。彼女の名はアリシア ― 20年前、美しく快活な彼女は地元の中等学校の「女王」だった。その彼女が20年ぶりに帰郷したとたん、殺されてしまった。なぜ?スチュレンドン警察のサニット警部とラインハム部長刑事が彼女の空白の20年と死に隠された真実をさぐる、1985年度英国推理作家協会シルバー・ダガー賞受賞作! 内容紹介より
どうでもいいけれど内容紹介文のなかに「20年」という言葉が三回も出てくる。
英国ミステリ、警部と気心の知れた部下のコンビ、秘められた過去が浮かび上がってくる
ストーリー。いわば毒気というかえぐ味というか、そんなものを抜いたレンデルの〈ウェクスフォード警部シリーズ〉みたいな作品でしょうか。
なんといってもヒロインである犠牲者アリシアの人柄が立派過ぎて面白みがないのが難ですね。強欲とか偏屈とか何か嫌な性格だったり、他人に言えない趣味嗜好を持っているとかないと動機とかが他に派生していかないです。彼女が属していた中等学校での仲良しグループについてもエピソードが少ないし、犯行の動機からするともっと当時のことを掘り下げて描いてみても良かったのではないかと思いました。そして、視点を警部だけに固定せず、主要な関係者による多視点から語らせたらもっとサスペンス性が高まったかもしれません。
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『ボストン・シャドウ』ウィリアム・ランデイ ハヤカワ文庫
2010-04-08
- Category : ☆☆
Tag : ウィリアム・ランデイ
デイリー家の三兄弟は皆、犯罪に関わる職業に就いていた。― 警官、検察官、そして空き巣。仕事の違いはあれ、固い絆で結ばれてきた兄弟だが、警官だった父の死の真相を巡り不協和音が……。しかも街を牛耳る残忍なイタリア・ギャング、さらにはボストンを徘徊する連続絞殺魔の影が身内に忍び寄り、兄弟は厳しい苦境に立たされる ― 驚愕のデビュー作でミステリ界を席巻した著者が放つ、超一流のクライム・サスペンス! 内容紹介より
時代は1960年代、舞台はケネディ大統領暗殺事件の一報が入ったボストンの一角から始まり、物語は、その街に起きた事件を三兄弟の視線から描いて進みます。テーマは市街地再開発に絡むマフィアと警察官の癒着、そして連続殺人事件の二つです。ところが、一つ目のテーマがありきたり過ぎて、切り口も新鮮味に欠け、ギャングと地上げなんてまるでバブル期の日本の話みたいでした。特に長男に対する扱い方は、クライムノベルでよく見かける代わり映えしないものです。
もう一つのテーマの連続殺人事件は、実際に当時のボストンで起きた「ストラングラー事件」という連続絞殺魔事件をベースにしているものなのですが、これが中途半端に史実をフィクションに仕立てたため読後、非常に欲求不満が残りました。
最後に、この内容で600ページは、あまりに長過ぎ!前作のときにも言いましたが、この作家はあちこち削るということを学んだほうがいいと思う。300ページか400ページを目安に書くべきです。
『ボストン、沈黙の街』ウィリアム・ランデイ ハヤカワ文庫
![]() | ボストン・シャドウ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 281-2)) (2007/08/24) ウィリアム・ランデイ 商品詳細を見る |
テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『災厄の紳士』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫
2010-04-06
- Category : ☆☆☆☆☆
Tag : D・M・ディヴァイン
根っからの怠け者で、現在ではジゴロ稼業で糊口を凌いでいるネヴィル・リチャードソンは、一攫千金の儲け話に乗り、婚約者に捨てられた美人令嬢のアルマに近づく。気の強いアルマにネヴィルは手を焼くが、計画を仕切る“共犯者”の指示により、着実にアルマを籠楽していく。しかしその先には思わぬ災厄が待ち受けていた……。名手が策を巡らす、精巧かつ大胆な本格ミステリの快作! 内容紹介より
ピカレスクみたいな始まり方から倒叙ものに移り、そして本格ものになるという多段階に変化する、少々変わったミステリ作品でした。しかも、計画のために嫌々女と付き合うジゴロ役の愚痴がユーモア風味も醸し出したりしています。
相変わらずこの作者の構成力はたいしたもので、まるで設計図を描いて建物を建てるみたいに作品を完成させているようだったり、あるいは数学で例えると因数分解でもできそうな作品のような感じがします。いわゆるパズラーそのものです。
ただ、卓越したパズラー作家ゆえに、盤上のチェスの駒のごとく登場人物たちの感情までも設計図通りに操作しているみたいな、気持ちも機械的に処理しているみたいな印象を受けてしまいました。『ウォリス家の殺人』でも思ったことですが、身近な者にまったく気取られること無く、感情をコントロールできるものなのかということです。
とにかく秀作なのは間違いなくて、余談ですが、わたしは見当違いの人物を犯人だと思っていたので、最後の場面では振り向くことなく殴り殺されていたことでしょう。
『悪魔はすぐそこに』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫
『ウォリス家の殺人』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫
![]() | 災厄の紳士 (創元推理文庫) (2009/09/30) D・M・ディヴァイン 商品詳細を見る |
テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『猫探偵ジャック&クレオ』ギルバート・モリス ハヤカワ文庫
2010-04-04
- Category : ☆☆
Tag :
黒猫ジャックとラグドールのクレオの飼い主、ケイトと息子のジェレミーは、遠い親戚が遺した海辺の動物屋敷に引越してきた。問題はもう一人の相続人、ジェイクと同居せねばならないこと。同居生活には問題が目白押しのうえ、近所では殺人事件が起きてジェレミーが容疑者になってしまった!ジャックとクレオは人間たちの大騒ぎに呆れつつも愛らしく彼らを支え、事件解決の手助けまでシテシマウ!? 心温まる猫ミステリ。 内容紹介より
カバー折り返しにある著者紹介によれば、この著者は「クリスチャン向けの小説を中心にこれまで200冊以上の本を執筆」しているらしくて、作品中にも主人公が聖書を読む場面や神に祈る場面が描かれていて、読み始めは奇異な感じを受けました。そこらあたりが若干宗教色を感じさせますが、もう一人の主人公は宗教にあまり興味を示さない設定にしてあり、バランスを取っているために鼻に付くようなことはありませんでした。猫二匹、鳥三羽、ウサギ一羽、犬、蛇、アライグマ、フェレット各一匹登場するため、リタ・メイ・ブラウンの〈トラ猫ミセス・マーフィ・シリーズ〉みたいに動物たち全部がお互いに会話しあうのかと思っていたら、今回は猫二匹だけが会話するだけでした。しかも、ミセス・マーフィ・チームみたいに饒舌でもなく、事件について推理するでもなく、ほとんど会話させる意味ないじゃんみたいな。ジャンル分けしてコージー・ミステリに入れたとしてもミステリ部分がつたないし、主人公たちのキャラクターも中途半端な印象で、これから先もあまり希望が持てそうにない予感がします。
翻訳は、羽田詩津子さん。
![]() | 猫探偵ジャック&クレオ (ハヤカワ・ミステリ文庫 モ) (2009/08/20) ギルバート・モリス羽田 詩津子 商品詳細を見る |
テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『ヘルドラド』ジェリー・エイハーン 創元推理文庫
2010-04-02
- Category : ☆☆☆
Tag :
第3次世界大戦の結果、焦土と化したアメリカ合衆国。核戦争後の荒野に敢然と立ったのは、CIAの元エイジェントで、サバイバルと武器の専門家、ジョン・トーマス・ロークだった。彼はアルバカーキから、愛する妻と二人の子供が待つジョージア州のわが家まで、2000キロの道のりを進まねばならない。生き残りを賭けた男たちの熱い戦いが始まる! 内容紹介より
この“The survivalist”シリーズは5巻出ているようで、本書が第1巻目です。まあ、わたしはそれを知らずにこの一冊で完結しているのだと思って買ったら、薄い本なのに第三次世界大戦すらなかなか始まらないのでおかしいなと読んでいるうちに気が付きました。たぶんのんびり古本屋さんを回っていたら全巻を揃えるのはまず無理でしょう。しかし、わざわざamazonで取り寄せるほどの作品でもないような。でも、核戦争に限らず地球規模のカタストロフ後の世界をテーマにしている作品には非常に興味があるので、次も読んでみたいような。
ストーリーはすごく単純で、サバイバル技術と武器の扱いに秀でた主人公が、知り合った人々を虐殺した悪人たちに復讐しながら妻子のいる土地を目指して進むというものです。すでに容赦なく五十人ほど殺しました。最終的に何人殺してしまうのでしょうか。主人公も難しいことを考えないし、読んでるほうも何も考えなくていい、エンターテインメントに徹した作品です。
![]() | ヘルドラド (創元推理文庫) (1987/04) ジェリー エイハーン 商品詳細を見る |
テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌