『患者の眼』デイヴィッド・ピリー 文春文庫

2010-05-31

Tag :

☆☆☆☆

美女を脅かす怪しい自転車乗りは現実か幻覚か?若き医師コナン・ドイルは碩学ジョセフ・ベル博士とともに怪事件に挑む。のちに名探偵ホームズのモデルとなる博士が観察と論理を武器に暴いた陰惨な真相とは?密室殺人、暗号、黒衣の怪人―探偵小説の興趣をちりばめ、ホームズ譚の魅力を見事に甦らせるシリーズ開幕篇。 内容紹介より



〈シャーロック・ホームズ誕生秘史1〉というシリーズタイトルが付いています。
ただ、本書以降続編は出版されていない模様。コナン・ドイルと彼の恩師ベル博士を登場させているところは従来のホームズ・パスティーシュ、といってもわたしはそのジャンルにはほとんど興味がない(ロバート・L・フィッシュの〈シュロック・ホームズ〉みたいなパロディは別として)ので詳しくは分かりませんけれど、それらとはやや趣向が違っている作品だと思います。
一人の女性の死をきっかけに、主人公ドイルの回想が始まり、その女性が関係した事件を物語る前にいくつかの別の事件を語る形式がユニークです。主人公がベル博士と出会い、その助手となり、その後、ロンドンを離れて勤務医となって、その地で主たる事件に遭遇するという長編の一連の流れのなかに幾篇かの短編をうまく差し挟むという凝った構成になっていて、この短編部分が非常に裏ホームズ物みたいな趣があって雰囲気が高まります。
本書では詳しく語られない、主人公が過去に体験した未解決事件が断片的に披露されている箇所は思わせぶりだし、続編がでていない現状では隔靴掻痒の感が残りました。




患者の眼 コナン・ドイルの事件簿 (文春文庫)患者の眼 コナン・ドイルの事件簿 (文春文庫)
(2005/07/08)
デイヴィッド・ピリー日暮 雅通

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『タロットは死の匂い』マーシャ・マラー 徳間文庫

2010-05-27

☆☆☆

“わたし”のアパートの隣人モリーが何者かに絞殺された。しかも、三階に住むタロット占い師のアニヤがそれを予言していたという。“わたし”は調査を開始したが、モリーの別居中の亭主や、占い師のお告げを狂信する食料品店の主人などうさん臭い人物がゾロゾロ ― 。チョコレート中毒で鳥恐怖症、八分の一インディアンの女探偵がLAを東奔西走して事件を解決する。微笑と涙が盛り沢山の、シリーズ第一弾! 内容紹介より



このシリーズの一作目は講談社から出版されているらしいので、本書は二作目、『チェシャ猫は見ていた』が三作目になるのですね。
この主人公の探偵業の現状は、所属事務所の給料は安いけれども上司に恵まれているようだし、あくせくして依頼の仕事を探さなくても良いみたいで、そこらは恵まれていますね。作品自体の印象は、木村仁良氏が解説で取り上げられている著者の小説作法に見られるように、かなり手堅く練られているように感じました。女性探偵ものの黎明期の作品にしてはまとまりがあり、特に指摘するような瑕疵が見当たらない。つまり、ミステリの系譜のなかでこの作品はいたって適当、順当なところにありながら、一方、女性探偵ミステリの元始のうちの一作品としてみた場合には今ひとつ癖とパンチに欠ける。いうなれば、主人公が特別に女性である必要性はないのではと思ってしまいました。女性作家が女性探偵を主人公にしてハードボイルド作品を書いた意義は別にして、“女性であることを武器”にしない、最大公約数を求めていったらだた男を女に代えただけの作品になってしまったみたいに、19年経って読んでみたらそんな感想を持ちました。

『チェシャ猫は見ていた』マーシャ・マラー 徳間文庫




タロットは死の匂い (徳間文庫―シャロン・マコーンシリーズ)タロットは死の匂い (徳間文庫―シャロン・マコーンシリーズ)
(1991/08)
マーシャ マラー

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

『悪徳警官はくたばらない』デイヴィッド・ローゼンフェルト 文春文庫

2010-05-25

Tag :

☆☆☆☆

町を騒がす汚職警官殺害事件。犯人は自分だ ― 弁護士アンディを訪れた男は告げた。それが悪辣な罠のはじまりだった。事件の様相は二転三転、ついにはアンディの恋人が容疑者をして逮捕される事態に!弁護に立つはわれらがアンディ。だが情勢は不利。狡猾な敵のしかけた罠を破れるか?読みごこち最高の痛快ミステリ! 内容紹介より



前作『弁護士は奇策で勝負する』についての個人的評価は、「☆☆ プロットも真犯人もありきたりで平凡。かえってハードボイルド的一人称独り善がりの台詞がいらつく。このミスで評価されてるのが不思議なくらい。盛り上がりに欠けます。シリーズ向き。数で勝負的」でした。最後のコメントの「数で勝負的」って書いた本人も何のことなのか意味が分かりませんが、読んだのは五年前でストーリーなど当然覚えているはずがなく、ただただ主人公の饒舌、持って回った言い方、軽口、ウィットと思い込んでいる物言いが煩わしかったのは印象に残っています。そして本書、相変わらずの軽口にはいらつきますが、内容は前作を上回る出来かも知れません。前半部分で使われる弁護士と依頼人間の秘匿特権を逆手に取ったプロットはローゼンフェルトらしからぬ芸の細かさを感じさせ期待を持たせてくれましたけれど、後半において冴えなくなっていったのは残念な流れでした。
このシリーズは個性的な脇役を揃えてきそうなので回が進んでも一定のレベルを保っていそうです。




悪徳警官はくたばらない (文春文庫)悪徳警官はくたばらない (文春文庫)
(2005/02)
デイヴィッド ローゼンフェルト

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『狂犬は眠らない』ジェイムズ・グレイディ ハヤカワ文庫

2010-05-23

Tag :

☆☆☆☆

スパイとして働きすぎて頭がいかれた五人組 ― 秘密の精神科病院に収容された元CIAのメンバーは、各々ハンデをかかえていた。ラッセルは音楽を口ずさまずにいられない、ゼインは暑さに全く耐えられない、ヘイリーは常に悲観的、エリックは誰の命令にも服従してしまう、ヴィクは時々フリーズする。そんな彼らが病院で起きた医師殺しの真犯人を見つけるべく脱走を決行!薬がきれて暴走する前に真相に辿りつけるのか? 内容紹介より



オーバーワークで故障したり、交通事故で大破した自動車は修理されるかスクラップ処理されるかですが、機密事項は知っているし、殺しや破壊工作のテクニックに精通している分ほったらかしにするわけにもいかない心のバランスが壊れたスパイたちの取り扱いはいかんともしがたいのですね。そこで彼らは病院に幽閉されてしまい治療を受けるも一向に良くなる気配はなく、それどころか担当の医師が殺されてしまいます。そこに陰謀の匂いを感じた五人の元スパイたちは……。五人それぞれが味わった悲惨な体験とひょうひょうとした彼らのキャラクター、それがオフビートの乗りで軽快に駆け抜けるようなストーリーになっている感じがしました。彼らの心が救済される気の利いたエピソードと十分映画化できそうな作品でありながら、ハリウッド風エンターテインメントに堕ちていないところがクールであり好印象です。
ただ、残念なところは、事件の真相のスケールが小さいのに比べてやはり長すぎること。
五人をもっとエキセントリックにして、個性を際立たせても良かったのではないかとお思いました。




狂犬は眠らない (ハヤカワ・ミステリ文庫 ク 14-1)狂犬は眠らない (ハヤカワ・ミステリ文庫 ク 14-1)
(2007/12/14)
ジェイムズ・グレイディ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『五番目の秘密』ジョアンナ・ハインズ 扶桑社ミステリー

2010-05-21

Tag :

☆☆

9年前、ジェインの兄ルーシャンが謎の死を遂げた直後、兄の親友ロブは姿を消した。そして今、ロブの恋人エズミが何者かに襲われ重傷を負ったという知らせを聞いた日の深夜、ジェインは「ダービーに急げ」という電話で起こされる。それは、子どもの頃ルーシャンが「誰かトラブルに巻き込まれたら、必ず助けにいく」と仲間に約束させた暗号だった。種苗園を経営し、貧しさのなか夫婦仲に危機を抱えるジェインは、同じく仲間だった夫オーエンには黙ったまま「秘密の場所」に向かう……人物描写が冴える英国作家の心理小説。 内容紹介より



とにかく他人にとげとげしく、鼻持ちならない主人公が一貫して好きになれない。こういう嫌な性格の人間が少しずつ心を成長させていく物語なんだろうなあと思って読み進めていても一向にそれが改善する気配がなく独善的なままで、ラストの数ページで救われる展開でした。主人公たちの子供時代の出来事と今回の傷害事件に何らかの繋がりがあること、特に主人公の兄が抱える秘密が鍵になっていることは見当が付きますが、なんといってもそれについての伏線が非常に弱くて薄いのがミステリ作品としては難点です。さらに事件に直接関わる最重要人物についての書き込みが少なすぎて、存在をほのめかす箇所もあっさりし過ぎていると思います。さも大切なもののように暗示された被害者がつけていた日記も、それが手に入ると同じように淡白な扱いでした。それにしても傍白、独白の部分が多い。
この作家はミステリより普通の小説を書いた方が良いのではないでしょうか。




五番目の秘密 (扶桑社ミステリー)五番目の秘密 (扶桑社ミステリー)
(1997/02)
ジョアンナ ハインズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『マンハッタン殺人分署』クリストファー・ニューマン 徳間文庫

2010-05-19

Tag :

☆☆☆

マンハッタンの犯罪最多発地域〈ミッドタウン・サウス〉で売春婦が連続して殺された。市警本部はポン引きの縄張争いと見るが、元麻薬捜査官ジョー・ダンテは異常者による犯行を主張する。おとり捜査で親友を失い、自らも重傷を負いながら執念の追跡を展開する彼の苦難をよそに、欲望にかられた殺人者は深夜の街を徘徊する ― 。新鋭のクリストファー・ニューマンが放つ正統派ポリス・アクション第1弾。 内容紹介より



〈ジョー・ダンテ〉シリーズの一作目。はみ出しもの刑事系の警察官が主人公です。
さすがに出版されてから21年も経った作品ですし、その間にたくさんのシリアル・キラーものが出ていることもあって、プロットは経年劣化の波には勝ててない気がします。主人公がタフだけど二枚目の刑事と美人の女性刑事なんてなると予想通りの展開になってややげんなりします。また、色香に惑った犯人が迫力不足でさほどサスペンス性が盛り上がらなかったです。ただ三人称多視点を採っているなかで、事件の目撃者である彫刻家の人物像が上手く描かれているのに比べて、主人公の麻薬捜査官時代の相棒に関してはステレオタイプの印象が強く、重要な役割にしては書き込み不足のように感じました。
シリーズ四作目の『警官殺し』のほうが面白かったです。

『警官殺し』クリストファー・ニューマン 徳間文庫




マンハッタン殺人分署 (徳間文庫)マンハッタン殺人分署 (徳間文庫)
(1989/09)
クリストファー ニューマン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『コヨーテは二度吠えた』オースティン・ベイ サンケイ文庫

2010-05-17

Tag :

☆☆

おれの名はビル。ヴェトナムじゃ、ヘリ・パイロットで活躍した空の勇士だ。だが合衆国へ帰れば失業者。職を求めて北から南へ、メキシコ国境までやってきた。なんにもないテキサスの田舎町で牧場の柵作りの仕事にありついたおれに、とんでもない事件がふりかかる。仕事仲間のパコを殺されたおれが、謎の組織を相手にまきおこす、たった一人のゲリラ戦!合衆国陸軍大学、戦略問題研で教鞭をとる気鋭の軍事アナリストが放つ、新感覚痛快アクション登場! 内容紹介より



「たった一人のゲリラ戦!」とか書かれると、ランボーみたいな武器の扱いや破壊工作に長けた人間兵器が暴れまわる物語だと想像してしまいますが、まったくそうじゃありません。本当は強いのか弱いのかよく分からない、捕らえ所のない主人公が巻き込まれてしまう、「気鋭の軍事アナリスト」が書いたとはとても思えない軽くて土臭いクライムノベル風の作品でした。何と言っても主人公の仕事仲間が殺されて、犯人の目星を付けるあたりの箇所が唐突で強引なんですよね。復讐を果たしに敵地に忍び込むもののすぐ捕まり、人の助けで逃げ出し追いかけられる途中武器をなくし、毒蛇で逆襲するあたりはまさかランボーの出来の悪いパロディなのでしょうか?
あまり厭味のない主人公の存在だけが取り柄みたいな感じの作品でした。




コヨーテは二度吠えた (サンケイ文庫―海外ノベルス・シリーズ)コヨーテは二度吠えた (サンケイ文庫―海外ノベルス・シリーズ)
(1986/07)
オースティン ベイ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『女を脅した男 英米短編ミステリー名人選集1』ルース・レンデル 光文社文庫

2010-05-15

☆☆☆

― 「他人をこわがらせるのは、なんともいえず楽しい……まさに最高の気晴らしにだった」(表題作「女を脅した男」)。なにげない日常のなか、男と女が織りなす、そのあやうい心模様を巧みに描く心理サスペンス!
― MWA短編部門受賞二作品を含むノンシリーズ七編に、ウエクスフォード警部もの四編を収録。そのもてる才能を作品に如何なく発揮。輝かしい受賞歴を誇る名人R・レンデルの傑作短編集。シリーズ第一弾! 内容紹介より



「女ともだち」「女を脅した男」「父の日」「時計は苛む」「雑草」「愛の神」「カーテンが降りて」「ウェクスフォードの休日」「藁をもつかむ」「もとめられぬ女」「追いつめられて」収録。

夫に対する以外には男性恐怖症気味の女性が女友達の夫と密会しはじめた訳は……。その意外性、タイトル、ラストの悲劇にいたる伏線と心理描写が上手な「女ともだち」、独り歩きする女性を怯えさせるという悪趣味を持つ男の話「女を脅した男」、男の身に災難が降り掛かってこなかったのが不満足。「父の日」いつか、あるいは今日にでも自分の子供たちを失うってしまう、または奪われてしまうのではないかという妄執に囚われたお父さんの話。あまりにパラノイア過ぎて話に乗れず。「時計は苛む」は、平凡な人物がある出来事によって序々に壊れていく微妙な様が描かれているレンデルらしい作品。夫への愛情が深きが故に目が曇ってしまった妻が、クロスワードパズルという“布切れ”の一拭きで夫の本性を分かってしまった悲喜劇「愛の神」。ノンシリーズものはやや胆汁系苦みが希薄か。
「ウェクスフォードの休日」以降の四編はウェクスフォード警部もの。老婦人の不審死を描いた「藁をもつかむ」の出来が良いのでは、「追いつめられて」は短編作品なのに登場人物が多すぎて若干頭が混乱しました。

『ある詩人の死 英米短編ミステリー名人選集6』ダグ・アリン 光文社文庫
『最低の犯罪 英米短編ミステリー名人選集8』レジナルド・ヒル 光文社文庫




女を脅した男―英米短編ミステリー名人選集〈1〉 (光文社文庫)女を脅した男―英米短編ミステリー名人選集〈1〉 (光文社文庫)
(1998/10)
ルース・レンデル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『危ない夏のコーヒー・カクテル』クレオ・コイル ランダムハウス講談社

2010-05-13

Tag : クレオ・コイル

☆☆

夏季限定で、高級リゾートの出張バリスタをつとめることになったクレア。魅惑的な大人のコーヒー・カクテルで、豪華なパーティーを盛り上げる。うっとりするような花火も終わり、つぎに待ちうけているのは、山のような後片付け!なのに、姿をくらませてしまった頼れるスタッフをさがすうちに、とんでもないものを見つけてすまい!?ひと夏の恋にひと夏の事件。クレアの眠れぬ夜の行方は……。コーヒー尽くしのシリーズ第4弾 内容紹介より



〈コクと深みの名推理〉シリーズ 4。
このシリーズもキャロリン・キーンの〈ナンシー・ドルー 〉シリーズの系譜を継いでいるのではないかと思います。近年、ジョアン・フルーク、ローラ・チャイルズ、クレオ・コイルなど飲食系コージーミステリというジャンルにおけるかなり狭いニッチに見える場所での争いは熾烈をきわめていそうですが、案外、食べ物、飲み物それぞれに相当細分化しているうえに、その各々にコンシューマーが付いているので生存競争に負けるシリーズは今のところなさそうです。つまり飲食系コージーミステリという種は、生物学的には昆虫と同じレベルで適応放散していく可能性があるわけですね。ということは、さらに細分化、マニア化して、“sushi”、“bentou”、“ra-men”などの店を経営している主人公たちが海外ミステリ作品に登場する日もそう遠くないかもしれません。
本書のヒロインが容疑者としてあげた人物たちは、〈カップJ〉というレストランを経営する実業家の家政婦とその甥、レストランを解雇された元従業員、不正な経理を行っているらしいレストランの支配人、眺望を遮る立木の伐採についてトラブっている隣人、レストランの開業権を巡って競り負けたレストラン・チェーンのオーナー。ローラ・チャイルズの作品より動機に説得力があって球数がそろっていますが、どれもフェイクっぽくエキサイティングじゃないです。それから、このヒロインがあんまり好きじゃない。

『名探偵のコーヒーのいれ方』クレオ・コイル ランダムハウス講談社




危ない夏のコーヒー・カクテル [コクと深みの名推理] (ランダムハウス講談社文庫)危ない夏のコーヒー・カクテル [コクと深みの名推理] (ランダムハウス講談社文庫)
(2008/04/10)
クレオ コイル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『最低の犯罪 英米短編ミステリー名人選集8』レジナルド・ヒル 光文社文庫

2010-05-11

☆☆☆

― 24時間いっさい嘘はつかないと約束させられた男の、その結末は……「正直トマス」、不運はどこまでもついてまわる。1番にはけっしてなれない。それが彼の人生だった。とことん屈折した男の悲喜劇をシニカルに描く「次点の男」。
― 粗にして野であり、卑でもあるデブ警視ダルジール&バスコー、旋盤工あがりの黒人探偵シックススミスものなど13編を収録。本シリーズの掉尾を飾る、イギリスミステリー界の鬼才ヒルの傑作短編集。 内容紹介より



「雪はくぼんでいた」「精神科医の長椅子に横たわって」「弟の番人」「見知らぬバスの乗客」「自由競争」「ストーンスター」「正直トマス」「次点の男」「完全殺人クラブ」「巷説」「鹿狩り」「この葬儀取りやめ」「最低の犯罪」収録。

「雪はくぼんでいた」は、ダルジール版クリスマス・ストーリーです。あたかもブロンズ像の聖アグネスと仔羊が歩き回ったかの如き雪の上に残された足跡。ホテルの厨房で起きた食料品の大量盗難事件。クリスマス・ストーリーの要件である子供が登場すること、奇蹟が起きることを満たしていますが、はたしてハートウォーミングな物語かどうかは一考を要するかも。襲ってきた原住民たちに取り囲まれながら、周囲を金網が張られたコートの中でテニスの試合を続けざるを得なくなった白人たちのシュールな悲喜劇とベース・ライン上のボールの行方を描いた「最低の犯罪」、レイ・ブラッドベリを思わせるような幻想的で叙情的な作品「ストーンスター」、オンボロ自動車を始末し、保険金を手に入れたい二人の人物を描く、交換殺人ならぬ交換自動車犯罪をモチーフにした「見知らぬバスの乗客」、24時間嘘をつかない賭けをした刑事の話「正直トマス」、学校の成績も仕事も結婚した相手も全部が“次点”だった男、その友人はすべてが彼より秀でているばかりか義兄弟でもあった「次点の男」、トワイライトゾーンに踏み入れたような奇妙な話「巷説」、アラジンの魔法使いと悪魔との取り引きをミックスした「自由競争」、私立探偵ジョー・シックススミスものの「鹿狩り」、「この葬儀取りやめ」。

『ある詩人の死 英米短編ミステリー名人選集6』ダグ・アリン 光文社文庫




最低の犯罪―英米短編ミステリー名人選集〈8〉 (光文社文庫)最低の犯罪―英米短編ミステリー名人選集〈8〉 (光文社文庫)
(2000/05)
レジナルド ヒル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『水時計』ジム・ケリー 創元推理文庫

2010-05-09

Tag :

☆☆☆☆

11月、イギリス東部の町で氷結した川から車が引き揚げられた。トランクには銃で撃たれた上、首を折られた死体が入っていた。犯人はなぜこれほど念入りな殺し方をしたのか?さらに大聖堂の屋根の上で白骨死体が見つかり、敏腕記者のドライデンは調査をはじめるが ― 。堅牢きわまりない論理、緻密に張られた伏線。CWA賞受賞作家が描きあげた、現代英国本格ミステリの傑作。 内容紹介より



水、水、水、水と本から滴が滴り落ちそうなほどの水関係のエピソードの連続ですから、解説の杉江氏は高低がどうたらおっしゃっていますが、この際、二番目の死体も水関係の死因とか発見場所とか統一してしまえば良かったのではないのかと思うんですけど。
そして読み始めてしばらくは英国人作家特有のもったいぶった言い回しや過剰な描写が気になってしまいました。p52のたかが病院の歴史的背景について字数を費やす必要があるのかとか、また、p98の「性的スキャンダルはラジウムとおなじくらい長くゆっくりとした半減期を持っているのだ」みたいな表現のくどさとか。もう少しあっさり書けばいいでしょうに。これはジャーナリストの経歴を持つ作家とデビュー作にみられがちな過剰な書き込みの法則なのかなと。全体的に煮詰めるなり濾すなり刈り込むなりして、漫然とした感じを改善すればもっとしまりのあるさらに良い作品になったのじゃないかと思いました。
しょっちゅうポケットから食べ物を取り出して食べている主人公のユーモラスで等身大の造形は感じがよいです。




水時計 (創元推理文庫)水時計 (創元推理文庫)
(2009/09/05)
ジム・ケリー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『幽霊の2/3』ヘレン・マクロイ 創元推理文庫

2010-05-07

Tag :

☆☆☆☆

出版社社長の邸宅で開かれたパーティーで、人気作家エイモス・コットルが、余興のゲーム“幽霊の2/3”の最中に毒物を飲んで絶命してしまう。招待客の一人、精神科のベイジル・ウィリング博士が、関係者から事情を聞いてまわると、次々に意外な事実が明らかになる。作家を取りまく錯綜した人間関係にひそむ謎と、毒殺事件の真相は?名のみ語り継がれてきた傑作が新訳で登場。 内容紹介より



被害者を殺害しても誰も得をしない、いわゆる(わたしが呼んでいるだけですが)誰得?殺人事件。そしてこの流れでいくとなると、被害者はいったいどういう人物だったのか?隠された驚愕の一面を持っていたのでは?みたいなよくあるパターンを推測したりしますよね。しかし、この流行作家の正体は・・・、掘っても掘っても尽きせぬ謎。タケノコ掘りみたいに地上に見える部分は10センチほどなのに、掘ってみるとなかなか根っこまでたどりつけない、その上に掘り出して皮をむくとさらに何枚もの皮に包まれ……。杉江松恋氏が解説で書いていますが、第七章の終わり部分(p127)を読むと、えーっ、そこから始めるの、みたいに予想を超えた意外な展開への転換が鮮やかです。
そしてもうひとつの妙味が、作中でしつこいほど語られる小説家、エージェント、批評家、出版界についての皮肉で辛辣な意見や内輪話でしょう。こういったことを作者のヘレン・マクロイは思っていたんだろうかと考えてみるとかなり愉快な気持ちになりました。




幽霊の2/3 (創元推理文庫)幽霊の2/3 (創元推理文庫)
(2009/08/30)
ヘレン・マクロイ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『抹殺』ボブ・メイヤー 二見文庫

2010-05-05

Tag :

☆☆☆

犯罪組織のボスを裏切り、彼の有罪を決定づける証言をした男コップ。彼は組織の報復を免れるため、妻のリサともども合衆国政府に保護された。だが、謎の武装集団が彼を惨殺。からくも逃れたリサの身にも、魔手は執拗に迫る。彼女を救うべく、特殊部隊の精鋭デイブ・ライリーが決死の戦いを挑むが……。果たして背後に渦巻く陰謀とは?『チャイナ・ウォー13』の俊英が放つ大型アクション! 内容紹介より



シリーズものです。
作者は特殊部隊出身者で、陸軍基地の教官でもあるそうです。たしかにそういう経歴のある作家たちが持つ共通点である、武器の名称へのマニアックな細かさとこだわりがみられます。しかし意外に、いわゆる(わたしが呼んでいるだけですが)ミリタリー脳をした作家特有の融通の利かなさやタカ派的な記述がないうえに、ストーリーも単なる主人公対ギャングのドンパチというものではなく、かなりひねったものになっています。証人に多額の懸賞金を懸けた犯罪組織、証人保護プログラムで守られているはずの証人を執拗に襲う高度に組織された謎の集団、この二つの組織はいったいどういう関係なのかが分からなくて読者の興味を引っ張ります。ただ、犯罪組織側からの視点がやや不十分で活かされていない気がしましたけれど。
不満だったのは、証人の処理の仕方、それから主人公と蔭で糸を引いていた首謀者グループとの全面対決がなかったことです。




抹殺 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)抹殺 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)
(1996/05)
ボブ・メイヤー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『白夜に惑う夏』アン・クリーヴス 創元推理文庫

2010-05-03

☆☆☆☆

シェトランド島に夏がやってきた。人びとを浮き足立たせる白夜の季節が。地元警察のペレス警部が絵画展で出会った男は、次の日、桟橋近くの小屋で道化師の仮面をつけた首吊り死体となって発見された。身元不明の男を、だれがなぜ殺したのか。ペレスとテイラー主任警部の、島と本土をまたにかけた捜査行の果てに待つ真実とは?現代英国ミステリの精華〈シェトランド四重奏〉第二章。 内容紹介より



古代から人々が暮らし、地面を掘れば古い頭蓋骨がごろごろ出てきそうな島にある小さな町。当然、そこに暮らす人たちの人間関係も緊密にならざるを得ない。白夜が秘められた過去の出来事を浮かび上がらせて、新たな事件が起きる、ジャジャーンみたいな。
というか、白夜って体験したことがないからどんなものなのか、夜でも明るいとどういう感覚になるのか想像できません。たぶん、ハイテンションになるのでしょうけど、それが幾日も続いたらどうなるのでしょうか。
ということで、人物や自然描写に秀でているのはもちろん、視点の受け渡しが丁寧で繊細な作者のテクニックは、前作同様に感心します。しかし、内容の出来自体はやや落ちるような。前作の感想でも言いましたけれど、前回の「映画」、今回の「写真」といい、この作者はストーリーのキーポイントととなるものを読者に提出するのが遅いですね。しかも本書では「一枚の写真」で事件解決への道筋がつくというのもあっけなくて芸がない気がしました。

『大鴉の啼く冬』アン・クリーヴス 創元推理文庫




白夜に惑う夏 (創元推理文庫)白夜に惑う夏 (創元推理文庫)
(2009/07/30)
アン・クリーヴス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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