『手紙と秘密』キャロリン・G・ハート ハヤカワ文庫

2010-08-30

☆☆

第二次世界大戦の最中、町の男たちは兵士として次々と徴用され、人手不足のためにグレッチェンは13歳にして少女新聞記者として働き始める。その直後、友人バーブの母が殺され、バーブの父が容疑者として指名手配された。バーブの母が夫の留守中に不倫をしていたとの噂を聞くが、グレッチェンには信じられない。グレッチェンは“少女探偵”となって、真相を追うが……純真なヒロインの孤独な闘いを描き出した本格ミステリ。 内容紹介より



戦時下の田舎町で、徴兵された住民に戦死者も出て、主人公のドイツ系の祖母に対して心ない仕打ちする者も現れる状況のなか、夫が出征している間、好きなダンスをするために足繁く酒場に通っていた人妻が絞殺されます。被害者への保守的な住民たちの偏見と誤解が広がって、それを正そうとした記事を書いた主人公は友人たちを失います。家庭内では、祖母の身体の具合を心配し、未亡人である母親に親しくする男性が現れて反発するなど雰囲気がかなり暗くて重いです。“少女探偵”から連想する、キャロリン・キーンが描いたナンシー・ドルーみたいな明るさや軽さは全くといっていいほどありませんでした。というか、主人公の少女記者としての働きぶりは目立ちますが、探偵として活躍しているようには読めませんでしたけど。たぶん著者は、ミステリより戦争中の田舎町の無理解や旧弊さを描きたかったのでは。

以下、ネタばれしてます!ご注意下さい。



それでもこの作品にはミステリとしてかなり気になる瑕疵があります。それは、加害者の手には被害者の首を絞めている際に、抵抗する被害者から爪による引っ掻き傷を負わされているという事実が警察によって突き止められているにもかかわらず、それが以降のストーリーに活かされていないどころか言及もされていないことです。真犯人がある場所で盛んに手を動かしているのを主人公が眺めている場面があるのに見逃しているふうだったり、警察でさえ容疑者である夫の手を検分して傷跡の有無を調べていないようだったり、とても不自然に感じました。

タグ:キャロリン・G・ハート




手紙と秘密 (ハヤカワ・ミステリ文庫)手紙と秘密 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2006/02)
キャロリン・G・ハート

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『赤き死の訪れ』ポール・ドハティー 創元推理文庫

2010-08-28

☆☆☆☆

ロンドン塔の城守、ラルフ・ホイットン卿が塔内の居室で殺された。卿は数日前に届いた手紙に、異常なほどおびえていたという。その後も、同様に手紙を受けとった者たちのもとを、死が相次いで訪れる。それぞれ悩みを抱えながらも、姿なき殺人者を追うアセルスタン修道士とクランストン検死官……。クリスマスを控えた極寒のロンドンに展開する、中世謎解きシリーズの傑作第二弾。 内容紹介より



このシリーズを読む前は、がちがちの本格物みたいなイメージを抱いていましたが、読んでみるとそうでもなくて、まずトリックの部分が綿密な計算のもとに練られているふうではなく、おどろおどろしい時代ミステリかというとそうでもなく、明暗と硬軟、それぞれのバランスが微妙につり合っているミステリだと感じました。これは舞台を上流、中流階級のみにとどめずに、下層、貧民階級にも設定し、庶民の暮らしぶりや人情を描いているからでしょう。階級とそこに所属する人間の対照の妙が活きていると思います。そして主人公のひとりである托鉢修道士アセルスタンが市井の人々が集う教会に身を置きながら、各階級を行き来できることがとても効果的な要因になっています。また、主人公ふたりに弟、息子の死という過去を背負わせた前回同様、今回も各々に悩みを与え、主たる事件の他に別の事件や出来事を展開させることで、本格物にありがちな物語の単調さや閉塞感を防いで複合的な作品にしているのではないでしょうか。

『毒杯の囀り』ポール・ドハティー 創元推理文庫




赤き死の訪れ (創元推理文庫)赤き死の訪れ (創元推理文庫)
(2007/09/11)
ポール ドハティー

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

『バジャーズ・エンドの奇妙な死体』ケイト・キングズバリー 創元推理文庫

2010-08-26

Tag :

☆☆☆

ここはペニーフット・ホテル。田舎町バジャーズ・エンドにひっそりと建つ、紳士淑女御用達の隠れ家だ。ところがその静かな町で不審死が続発。ただでさえホテルにとって痛手なのに、そのうえ関係者がふたりも疑われているとあっては放っておけない。ホテルの女主人セシリーは、堅物の支配人バクスターの心配をよそに調査をはじめる。古き良き英国の香り漂う人気シリーズ第二弾。 内容紹介より



〈ペニーフット・ホテル 2〉
時代を1900年代、ヴィクトリア女王が崩御した頃に、舞台をロンドンから離れた田舎町に、そしてヒロインを四十歳代のホテルの女主人に設定しているため、奇抜さや派手さ華やかさが乏しいところが、逆に落ち着いた感じを作品に与えているようでなかなか穏やかなよい雰囲気を持ってます。一方、古いしきたりや考えをヒロインが否定する場面が取り入れてあり、新しい女性像の兆しも描いています。単純に言えば、ミス・マープル気質型女性探偵から現代の戦闘的なフェミニズム気質型女性探偵へと進化する途中の型なのかなと考えてみたりして。
今回は何気ないサイドストーリーが作品に膨らみを持たせていて、それがまるでシャーロック・ホームズ物から採ってきたみたいな不出来な謎と真相を補っています。シリーズものとして不満に感じたところは、前作で期待した老退役軍人と庭師に見どころがなく、ヒロインのふたりの女友達も役不足気味だったことです。フィービの帽子ネタは地味に可笑しいのですけど。支配人のバクスターは、あまりに堅物にしすぎではないでしょうか。もっとウィットを持たせた方が良いかも。

『ペニーフット・ホテル受難の日』ケイト・キングズバリー 創元推理文庫




バジャーズ・エンドの奇妙な死体 (創元推理文庫)バジャーズ・エンドの奇妙な死体 (創元推理文庫)
(2009/09/05)
ケイト・キングスバリー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『毒杯の囀り』ポール・ドハティー 創元推理文庫

2010-08-24

☆☆☆☆

1377年、ロンドン。富裕な貿易商トーマス・スプリンガル卿が、邸の自室で毒殺された。下手人と目される執事は、屋根裏部屋で縊死していた。トーマス卿の部屋の外は、人が通れば必ず“歌う”、通称〈小夜鳴鳥の廊下〉。この廊下を歩いた者は、執事ただ一人なのだが……? 難事件に挑むのは、酒好きのクランストン検死官とその書記、アセルスタン修道士。中世謎解きシリーズ、堂々の開幕。 内容紹介より



中世ロンドンにある貧民街の食べ物や汚物などの生活臭、体臭、腐臭、死臭、また、死体の口元から嗅ぎとる毒薬の匂い、このような圧倒的に嗅覚へ訴えてくる描写が強烈に印象に残る作品でした。著者は、E・ピーターズと並ぶ歴史ミステリ作家だそうで(大津波悦子氏解説より)、しっかりした時代考証がさらにその効果を高めているのだと思います。弟を死地に赴かせた罪にさいなまれる修道士と幼くして死んでしまった息子への喪失感が癒えない検死官、このふたりの主人公以外にも貧しい教区民から猫のボナベンチャーまで魅力的な登場人(猫)物が揃っています。
犯行自体は、やや運まかせ(決定的ではない)ともいえる違和感ありの行為を、一度ならまだしも二度も繰り返すなどして捻りが足りてない気もしますが、その他の部分はかなり良いのではないでしょうか。シリーズものとして、次回以降の作品に含みを持たせる展開は上手いと思います。掃きだめにやって来た人情派の修道士という設定は日本人ウケしそうです。




毒杯の囀り (創元推理文庫)毒杯の囀り (創元推理文庫)
(2006/09/30)
ポール・ドハティー

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

『ネロ・ウルフ対FBI』レックス・スタウト 光文社文庫

2010-08-21

☆☆☆

ネロ・ウルフのもとに大富豪の未亡人が訪れた。依頼はFBIによる執拗な尾行、盗聴をやめさせてほしいというものだった。提示された報酬は十万ドル。助手のアーチーが調査に乗り出すと、FBIの犯行を思わせる未解決のルポライター殺人事件が浮かびあがってきた。殺された男は、FBIの内部調査をしていたらしい……巨大な敵を相手にウルフはどう決着をつけるのか!? 内容紹介より



読んで感じるのは、一般的な探偵小説のパターンとは異なる着眼点に基づいたストーリーだということ。つまり、殺人や失踪や窃盗などお馴染みの事件が起き、それを調査し解決するものではなく、FBIについての暴露本を各界の有力者たちに贈ったため、FBIに目を付けられた未亡人から、その嫌がらせを止めさせて欲しいという依頼を探偵が受けるというものです。FBIみたいな巨大な権力組織に対して、どうやってこちらの言うことを聞かせるのか。つまり頭脳を駆使したコンゲームの要素が出てくるのです。ちょうど上手い具合に、かの組織の記事を書く予定だったルポライターの未解決殺人事件へのFBIの関与が疑われる情報がネロ・ウルフの元に入る都合の良い展開となり、FBIを嵌める計画が準備されます。ただ、その計画自体はコンゲームほどの複雑さはなく、とても単純なもので、巨大な組織がそのような子供だましに引っかかるさまに皮肉さと諧謔性を与える目論みが著者にはあったのかもしれません。
現代と比べて、そういう古くてのんびりした雰囲気が良かったです。

『腰ぬけ連盟』レックス・スタウト ハヤカワ文庫
『料理長が多すぎる』レックス・スタウト ハヤカワ文庫
『シーザーの埋葬』レックス・スタウト 光文社文庫




ネロ・ウルフ対FBI (光文社文庫)ネロ・ウルフ対FBI (光文社文庫)
(2004/02/10)
レックス・スタウト

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『真夜中の青い彼方』ジョナサン・キング 文春文庫

2010-08-18

Tag :

☆☆☆☆

静かな夜の川で私が発見したのは、連続幼児誘拐殺人の新たな被害者だった。事件への関与を疑われた私が単身で調査を始めた矢先、またも子供が消えた。その子の命を救い、深い森に潜む悪鬼を狩るべく、私は捨て身の戦いを挑む ― 。自責の念を抱えて森に隠棲する元刑事の苦闘。端整な文体の底に熱い血の脈打つ正統ハードボイルド。



ミステリ作品に文学性を期待しているわけではないので、謎解きではなんらみるべきものがないにもかかわらず文章で読ませたがる、こういう過剰な書き込みは個人的には苦手です。さらに、よくミステリ系の新人作家にみられる過描写、心象風景、自然描写、状況説明諸々なんでもやたらめったら詳しく書いてしまう傾向、加えて、シリーズ物の一作目に付きものである主人公を含む主要登場人物の来歴の説明、背景描写が加わって、文章がエヴァーグレイズに生える植物の枝葉のごとく茂る繁る。剪定バサミや高枝切りバサミであちこち刈り込んでしまいたいほどです。特に次回作に繋がりそうもない後半の自殺未遂の女子大生のエピソードなどはいったい何の必要性があったのだろうかと。まあ、ハードボイルドにはなにかしらストイックなイメージがあるのか、ペラペラと多弁な主人公以外に寡黙だけれどやたら内省したがる煩わしい主人公もいて、本書のは後者のいい例です。
ただ、芹澤恵氏も訳者あとがきで書かれているように、主人公と女性刑事が「安易にロマンス方向に」(p401)走らなかったことは評価したいと思いました。良い作家になりそうだとは思うので、この作品以降翻訳が止まっているのは残念です。




真夜中の青い彼方 (文春文庫)真夜中の青い彼方 (文春文庫)
(2006/09)
ジョナサン キング

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ダラスが消えた日』リチャード・モラン 扶桑社ミステリー

2010-08-16

Tag :

☆☆☆☆

ダラス市全域が沈む! ― 未曾有の旱魃に襲われたテキサス州都は、地下水脈の蒸発による大規模な地盤沈下のため、全市消滅の危機に見舞われた。大陥没を前に脱出を図る市民の中で、テキサスオイル社主オットー・ラルトは、事業の要である水素燃料の生産を是が非でも続行させるために、大量の水を確保しようと必死だった。しかし、旱魃の中でどうやって水を得ればよいのか。考えぬいた彼は、大胆奇抜な計画を立て、強引に実行に移してしまった。が、それは思わぬ結果を呼んだ。ダラス市に向けて、核ミサイルが発射されたのだ。大旱魃とミサイル。絶体絶命のピンチに立たされたテキサス州最大の都市ダラスは助かるのか!?ベストセラー『南極大氷原北上す』につづくリチャード・モラン待望のパニックサスペンス第二弾。 内容紹介より



ネタばれしてます!ご注意下さい。



1988年に発表された、1999年の米国を舞台にした近未来パニックスリラーです。
メキシコは共産政権下にあって米国と敵対し、ソ連からの軍事援助によりミサイルを国境沿いに配備しています。隣接するテキサス州の州都ダラスは長年の旱魃で地下水脈が涸れ、巨大な空洞ができて都市が丸ごと飲み込まれそうな危機に陥っています。水不足により自社の水素燃料事業の継続が困難になった社主ラルトは、リオグランデ川の流れを変えてしまう計画を立てます。その他に洞窟探検家、洞窟に迷い込んだ少年、その姉、メキシコ軍の将軍、ソ連軍のミサイル部隊将校などの登場人物がパニック小説につきもののフラッシュバックの多用と三人称多視点で描かれていきます。
科学的な裏付けを持っているところは、マイクル・クライトンの作品によく似ていると思いました。非常に読みやすいわけですが、どこかパンチが足りない気がします。洞窟に迷った少年と救出に向かう探検家と少年の姉というシチュエーション。これ読まなくても展開の予想がつきますし、洞窟内部の美しさに視点が充てられて、その無気味さとか恐ろしさの部分が表されていないし、タイムリミット的なスリリングさが気が抜けたみたいなものになっていて予想を超える展開になりません。
そもそもリオグランデ川の流れを変えたらただじゃ済まないことくらい分かるでしょ、普通。その物語の起点がバカっぽすぎるのが本書の弱いところで、結局、ダラスは陥没しちゃうし、核爆発は起きるしで、救えたのは少年一人でした、みたいな。




ダラスが消えた日 (扶桑社ミステリー)ダラスが消えた日 (扶桑社ミステリー)
(1989/02)
リチャード・モラン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ディミティおばさま旅に出る』ナンシー・アサートン ランダムハウス講談社

2010-08-13

Tag :

☆☆☆

理想の結婚から2年。白馬の王子様だった夫のビルは、家庭をかえりみない仕事の虫に。ロリは、すれ違いの日々をなんとかしようと、2度目のハネムーンを計画する。けれど、夫ではなく義父とイギリスに行くことになってしまった。そればかりか、義父が謎の書き置きを残して失踪してしまったから、さあ大変!300年前から不和の続く一族の過去を、いまさら掘り起こそうとしているらしく!?義父の暴走を止めるべく、ロリは幽霊のおばさまと波瀾万丈の旅へ。 内容紹介より



前作とは違い、今回は後半になってから犯罪が暴かれてミステリっぽくなるにしても、相変わらずこのシリーズは従来の一般的なミステリ作品とは一風違っています。義父の失踪という事件が起きますが、このこと自体には犯罪の匂いはしなくて、彼の跡を追いかけるうちに親戚一族が抱える問題が徐々に明らかになっていくというものです。登場人物たちの関係や人名の紛らわしさを感じましたが、語り口が巧いのかさほど気になりませんでした。ただし、全体を覆うシロップに漬け込んだみたいな甘さとゴムひもがのびたみたいな緩さは、このシリーズの特徴なのでしょうからしかたないにしても、前回感じた恋愛部分の使い古されたありきたりさは今回も同様で、これはもっと工夫したほうが良いのじゃないかと思いました。

『ディミティおばさま現わる』ナンシー・アサートン ランダムハウス講談社




ディミティおばさま旅に出る (ランダムハウス講談社文庫)ディミティおばさま旅に出る (ランダムハウス講談社文庫)
(2009/05/08)
ナンシー アサートン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『七番目の仮説』ポール・アルテ ハヤカワ・ミステリ

2010-08-07

Tag :

☆☆☆☆

ペストだ!その一言に、下宿屋の老夫婦は戦慄した。病に苦しむ下宿人の青年を囲んでいるのは、中世風の異様な衣装に身を包んだ三人の医師。担架で患者を搬出すべく一行が狭い廊下に入ったとたん、肝心の患者が煙のように担架の上から消え失せた!数刻後、巡回中の巡査が、またしても異様な姿の人物に遭遇する。言われるままに、路地に置かれたゴミ缶の蓋を取ると、そこにはなんと……だが奇怪きわまる一夜の事件も、実はさらなる怪事件の序章に過ぎなかったのだ。それはさすがのツイスト博士も苦汁を嘗めさせられる難事件中の難事件だった 内容紹介より



〈ツイスト博士シリーズ〉第七作目。
ポール・アルテの作品は二冊しか読んでないけど語ります。
導入部分から一気に中世の暗黒時代を彷佛とさせる無気味な雰囲気に持っていく作者の技量はたいしたものです。作品のエンターテインメント性も強く、まるで“back to the mystery in the 1940's”みたいにストーリーおよびプロットパターンの完成度と同一性が高く保たれています。しかし、ジョン・ディクスン・カーを現代にそのまま甦らせても、という気もします。こういう古典的かつベーシックなミステリ作品の需要はたしかに存在するのでしょうが、それでもなにか新しい要素を取り入れて欲しいところです。
特に気になったのは、スコットランドヤードの警部アーチボルト・ハーストのステレオタイプの造形で、これはこれでエスプリを効かせているのかもしれませんが、あまりにも芸がない。また、鍵となる人物シーラ・フォレストの描写も不足ぎみですし。そもそもパズラーは技巧に走りがちで人物描写がおろそかになってしまう傾向にあるとおもいますが、この作者もそういう一面が見られるし、読後の余韻の残らなさはそういったところに理由があるのじゃないのかと思いました。

『狂人の部屋』ポール・アルテ ハヤカワ・ミステリ




七番目の仮説 (ハヤカワ・ミステリ 1815 ツイスト博士シリーズ)七番目の仮説 (ハヤカワ・ミステリ 1815 ツイスト博士シリーズ)
(2008/08/08)
ポール・アルテ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『コパーヘッド』ウィリアム・カッツ 創元推理文庫

2010-08-04

☆☆☆☆

大西洋上を西へ向かう一機の旅客機。それは英国航空の定期便に巧妙に偽装したソ連軍機だった。その任務は、アメリカが開発中の超高性能兵器の完成を阻止すること。本物の英国機は洋上で撃墜されたが、異変を知らせることが出来るのは奇跡的に助かった一人の乗客だけだった。彼が大西洋を漂流するあいだ、ソ連機は刻一刻、目的地に近付いて行った。 内容紹介より



米国が開発中の、核爆弾による放射能汚染を無力化する兵器の完成を妨害するために、英国旅客機とすりかわったソ連軍機が刻々と目的地へと向かうなか、ホワイトハウス付きの米国空軍の将軍である主人公が、北欧にある米軍基地への攻撃に端を発した一連の出来事からソ連の陰謀を嗅ぎとっていく、という軍事スリラー。コパーヘッドというのはソ連軍が保有する空対空ミサイルのことです。
ここで描かれている軍事超大国である米国の防空能力のぜい弱さにリアリティがあって、9.11事件を引くまでもなく、局地的、限定的なテロやゲリラ活動の有効性や恐さを改めて認識させられます。その上、この作者は本書の娯楽性を否定するかのような壮絶なクライマックスを用意しており、まずあっけに取られた後、それはまるでわたしの頭の中でシンバルが打ち鳴らされたような衝撃を与えたのでした。当然、これについての評価は個々の判断に任せるしかありませんが、有事における冷酷さ、無慈悲さといったものを思い知らされました。

『マンハッタン連続殺人』ウィリアム・カッツ サンケイ文庫
『殺人者は眠らない』ウィリアム・カッツ 扶桑社ミステリー
『フェイスメーカー』ウィリアム・カッツ 新潮文庫
『偽装の愛』ウィリアム・カッツ 扶桑社ミステリー




コパーヘッド (創元推理文庫 (223‐1))コパーヘッド (創元推理文庫 (223‐1))
(1985/11)
ウィリアム・カッツ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『少女探偵の肖像』スーザン・カンデル 創元推理文庫

2010-08-02

☆☆

ミステリ作家の伝記専門ライターにしてヴィンテージファッション・マニアのシシーは、現在、少女探偵ナンシー・ドルーの作者、キャロリン・キーン(=ストラテマイヤー工房)伝を執筆中だ。そんな彼女にナンシー・ドルーの初版本コレクションとともに、表紙画モデルの秘密めいた肖像画を見せてくれた美術品蒐集家が死体となって発見された!謎に肖像画に秘められた物語とは? 内容紹介より



アメリカにおいて女性作家が描く女探偵、特にコージー系の素人探偵のプロトタイプのひとつは〈少女探偵ナンシー・ドルー〉にあるのではないかと思いはじめていたところですが、本書のヒロインもそのひとりなのではないでしょうか。屋根裏部屋に入らずんば真犯人を得ずみたいに、往々にしてこれらの亜量の探偵たちは熟慮より行動を貴ぶ傾向にあって、これはナンシー・ドルーの探偵術の間違った拡大解釈に基づいているのです、きっと。四十歳代前後の女性が十八歳の小娘と同じ行動を取っても、それは無分別というものです。そして、軽ハードボイルドものの主人公たちにたいしても何度も言ってきましたけれど、機知に富むという名の饒舌は、作者が面白がり自己満足に浸るほど読み手をイライラさせ、この作品ではヒロインの軽佻浮薄なイメージをさらに強めただけでした。
興味深かったところは“キャロリン・キーン”についての裏話のみ。

『E・S・ガードナーへの手紙』

『古時計の秘密』キャロリン・キーン 創元推理文庫
『幽霊屋敷の謎』キャロリン・キーン 創元推理文庫
『ライラック・ホテルの怪事件』キャロリン・キーン 創元推理文庫




少女探偵の肖像 (創元推理文庫)少女探偵の肖像 (創元推理文庫)
(2009/07/30)
スーザン・カンデル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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