『蔵書まるごと消失事件』イアン・サンソム 創元推理文庫

2010-10-30

Tag :

☆☆☆

憧れの図書館司書となるべく、アイルランドの片田舎タムドラムにやってきた青年イスラエルを待っていたのは、図書館閉鎖という無情な現実だった。代わりの職務 ― 移動図書館の司書を任されたものの、肝心の蔵書一万五千冊は一冊残らず消えていた。だれが、なぜ、どこに?事件を解決するはめになったイスラエルの、孤軍奮闘が始まる。頻出する本の話題も楽しい新シリーズ、発車! 内容紹介より



シリーズ・タイトルは〈移動図書館貸出記録〉。
まあ、シリーズ作品なので、二作目、三作目と面白くなっていくのでしょうけれど、この一作目はプロット自体が使い古されているような。イソップ寓話とは逆に、都会のネズミが田舎にやって来てひどい目に遭うみたいな、つまり、大げさに言うならばアウトサイダーの悲喜劇と不条理が描かれています。ロンドンと北アイルランド、都会人と田舎者、ユダヤ教とキリスト教、菜食主義者とそうでない者、このような対比とそれらの要因によるハンチントンばりの衝突、その結果、こてんぱんにぼこぼこにされている犠牲者は主人公ただひとりだけということ。その様を楽しむドタバタ劇です。
まるで異文化のなかにいるような主人公と田舎の住人との橋渡しして繋げるものが、唯一書籍なのです。そういうことで、作者の移動図書館のアイデアが話の流れで活きていくことになるのでしょうが、これまた一作目はさわりだけなのでこれからの活躍に期待しましょう。
それと殺人事件は起きません。




蔵書まるごと消失事件 (移動図書館貸出記録1) (創元推理文庫)蔵書まるごと消失事件 (移動図書館貸出記録1) (創元推理文庫)
(2010/02/28)
イアン・サンソム

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『かぼちゃケーキを切る前に』リヴィア・J・ウォッシュバーン ランダムハウス講談社

2010-10-28

Tag :

☆☆

おとぎ話のようなお城のケーキにバラのケーキ ― テーブルに並ぶのは、小学校の秋祭りで開催されるチャリティー・オークションに出品された豪華なケーキの数々。もと教師のフィリスも、巨大かぼちゃケーキで参加することに。ところが、いざオークション開始というとき、楽しい会場には場違いな悲鳴が!校内で遺体が発見されたばかりか、せっかく集まった募金も金庫ごと消えていて……。お菓子づくりのシリーズ第2弾! 内容紹介より



シリーズ・タイトル、〈お料理名人の事件簿 2〉。
宗教的、社会的諸事情により公共の場ではハロウィーンとは呼ばず、秋祭りと名付けられた小学校でのイベント中に起きた事件。そのなかの一コーナーを手伝っていた引退した教師と彼女が営む下宿屋に住む三人のこれまた元教師たちが事件に関わっていくという流れです。主人公にとって下宿人たちの存在は、一人はお菓子作りのライバル、もう一人は表面には現れていないけれど恋敵、三人目はその恋愛の対象者である男性。前作でも思いましたけれど、四人の元教師という結構な設定がしてあるのに活かされていないなと今回も感じました。まず主人公も含めて個性が希薄、元教え子たちが物語に絡んでこない、各自の専門科目についてのうんちくが語られない。こちらはコージーもののミステリ部分に期待しているわけではないので、それ以外の枝葉末節のところで楽しませてほしい。
個人的には、彼らの経験と知恵、専門分野の知識を用いて事件を解決に導く探偵団みたいなミステリ作品を希望しているのですが、これからどうなるのでしょう。

『桃のデザートには隠し味』リヴィア・J・ウォッシュバーン ランダムハウス講談社




かぼちゃケーキを切る前に (ランダムハウス講談社文庫 ウ 3-2 お料理名人の事件簿 2)かぼちゃケーキを切る前に (ランダムハウス講談社文庫 ウ 3-2 お料理名人の事件簿 2)
(2008/06/10)
リヴィア J ウォッシュバーン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ビッグ・バッド・シティ』エド・マクベイン  ハヤカワ文庫

2010-10-26

☆☆☆☆

巨大邪悪都市アイソラは犯罪に満ち満ちて、キャレラたち87分署の面々は休む暇がない。夏の終わりのある日、分署近くの公園で若い修道女の死体が発見された。検死の結果、彼女が豊胸手術をしていたことが判明。なぜ敬虔な修道女が豊胸手術を?さらにクッキー・ボーイと呼ばれる奇妙な空巣が街を跋扈し、キャレラの父を殺した男が今度はキャレラの命をつけ狙い始める。87分署の面々は、この邪悪な日常を打破できるのか? 内容紹介より



“豊胸手術した修道女”というたった一つのフレーズで読者の関心を引き付け、お得意のモジュラー型ミステリでストーリーを展開する、これは作者にとっては水を得た魚みたいなものでしょう。定番の形が心地よく、しかも安心して読み進めることができます。88分署のオリー・ウィークス刑事も少しだけですが登場し、相変わらず毒をまき散らして存在感を示しています。ただ本書には、この87分署シリーズの他の作品には見られない特徴があって、それはキャレラが四十歳を前にして感傷的な気分になり、『キングの身代金』『殺意の楔』『クレアが死んでいる』『電話魔』など過去に起きて関わった事件や出来事を回想する場面が描かれていることです。そして、マクベインと彼の作品のすごいところは、かなり昔に読んだ本にもかかわらず、回想する個々のエピソードから読者にストーリーの断片や登場人物を思い出させる力を持っているところです。それだけ読んだときのインパクトが強く、作品の質が高かったから強く印象に残っているということなのでしょう。
しかし、マクベイン七十二歳の時の作品。なにか回想するキャレラの姿が作者とだぶって見えて、しみじみというか切ないというかしんみりしてしまいました。合掌。

タグ:エド・マクベイン




ビッグ・バッド・シティ (ハヤカワ・ミステリ文庫)ビッグ・バッド・シティ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2005/03/24)
エド・マクベイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『事件当夜は雨』ヒラリー・ウォー 創元推理文庫

2010-10-24

☆☆☆☆

どしゃ降りの雨の夜。果樹園主を訪れたその男は「おまえには50ドルの貸しがある」と言い放つや、いきなり銃を発砲した……コネティカット州の小さな町、ストックフォードで起きた奇怪な事件。霧の中を手探りするように、フェローズ署長は手がかりを求める。その言葉の意味は?犯人は?警察の捜査活動を厳密に描きつつ、本格推理の醍醐味を満喫させる巨匠ウォーの代表作登場。 内容紹介より



本書の解説の中で杉江松恋氏も触れていますが、確かにヒラリー・ウォーの作品の地味さと捜査のコツコツさ加減はクロフツに通じているかもしれません。事件自体が新聞の三面記事のネタみたいだし、ストーリーはその事件が解決に至った過程をドキュメンタリータッチで展開しているように感じます。しかし読後にいろいろ振り返ってみると、ウォーの作品の持つ地味なイメージのわりに、読者を引き込む冒頭での犯人の不気味な行動、本書に張られた突飛な伏線や設定された謎の数々など注目すべきところが多々あることに気付きます。特に、恨まれるような人物ではない被害者がなぜ殺されたのか。犯人の狙いは被害者だったのか、それともその弟だったのか。犯人に共謀者がいたのかどうなのか。この一連の流れの持って行き方が巧いと思いました。

『愚か者の祈り』ヒラリー・ウォー 創元推理文庫
『冷えきった週末』ヒラリー・ウォー 創元推理文庫




事件当夜は雨 (創元推理文庫)事件当夜は雨 (創元推理文庫)
(2000/05)
ヒラリー・ウォー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『黒い氷』オーサ・ラーソン ハヤカワ文庫

2010-10-22

☆☆☆

傷を負ったのは、身体だけではない。心も深く傷ついていた……長い療養生活の後でようやく退したレベッカは弁護士を辞め、故郷のキールナへ戻った。乞われて地元の特別検事の職に就いた彼女が立ち直りはじめた矢先、凍結した湖で女性の惨殺死体が発見され、またも事件に関わることになる。被害者の身辺を調べると、複雑な背景が浮かび上がっていた ― スウェーデン推理作家アカデミー賞を連続受賞した注目作家の最新作 内容紹介より



シリーズ三作目です。しかし、事件とその原因となった出来事、事件関係者について考えてみると、ノン・シリーズにしたほうが良かったんじゃないのかと思いました。この作者の特徴である細かな背景描写、心象描写、回想場面の多用が、シリーズのヒロインより事件当事者三人プラス一人に用いられて全体の統一感が損なわれ、散漫な印象を与えているように感じました。特に、作品におけるエスターと彼女の役割はいったい何だったのでしょうか。前作での雌オオカミのシーンはまだヒロインのイメージと重ねあわせることができましたが、たとえばエスターはそのオオカミが人間として再来したポジションなのでしょうか。どうもオーサ・ラーソンというひとは、作品に北欧神話からくるスーパー・ナチュラル的な要素を持ち込みたがるような気がします。まあとにかく、レベッカは脇役も脇役なのだし、舞台をキールナにしなければならない必然性もないのだから、レベッカを外して登場人物を整理し、しかるべき人物たちにより焦点を集めるべきだったのではないのかと。

『オーロラの向こう側』オーサ・ラーソン ハヤカワ文庫
『赤い夏の日』オーサ・ラーソン ハヤカワ文庫




黒い氷 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 16-3)黒い氷 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 16-3)
(2009/05/05)
オーサ・ラーソン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『カオスの商人』ジル・チャーチル 創元推理文庫

2010-10-20

☆☆☆

もうすぐクリスマス!ジェーンはあわてふためいていた。長男マイクも帰省するし、恋人メルの母親もやってくるのに、聖歌の集いやクッキー交換パーティの準備が、どんどん時間を奪っていくのだ。とどめに、聖歌の集い当日、押しかけてきた嫌われ者のニュースレポーターが、隣家の屋根から落ちて死んでしまったからもう大変!主婦探偵がトラブル続きの休暇を過ごすシリーズ第10弾。 内容紹介より



本シリーズ当初からの翻訳者であり、これまでの翻訳ミステリにおける女性の言い回しの定型を崩し、シリーズの特徴の一つである今風の主婦たちの会話体を取り入れた浅羽莢子さんが亡くなられて、訳文の変化が気になったわけです。今回担当された新谷寿美香さんの翻訳は上手に浅羽訳を継承され、まったくこれまでのものと違和感がありませんでした。
作品自体は、本書が〈主婦探偵ジェーン・シリーズ〉の十作目にあたり、シリーズ開始当初に感じた目新しさもさすがに消えて食指が動きませんでしたが、読み始めると結構馴染みました。第一作目と比べてほとんど進歩の跡がない、テクニックに変わりがないところは逆に注目すべき点かもしれません。これは意図的にこの水準を保っているとしか考えられませんし。要はこのシリーズの読みどころといったら、家事、子育て、近所付き合い、姑との関係、といった様々な主婦業の大変さと未亡人であることによる男性関係にまつわる機微といったところであるのでしょう。主人公がこれ以上に幸せになったり不幸せになったりすることなく、現況のままでいることが主婦を中心にした女性読者層の共感と興味をひいているのかもしれません。

『飛ぶのがフライ』ジル・チャーチル 創元推理文庫

タグ:ジル・チャーチル




カオスの商人 (創元推理文庫)カオスの商人 (創元推理文庫)
(2009/05/30)
ジル・チャーチル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『秋のカフェ・ラテ事件』クレオ・コイル ランダムハウス講談社

2010-10-18

Tag : クレオ・コイル

☆☆

コーヒーの優しい茶色にホイップクリームの柔らかな白色 ― 老舗コーヒーハウスの名物ラテに感動したデザイナーが作ったジュエリーは、コーヒーがテーマ。これがこの秋大流行に!新作披露会場になったコーヒーハウスでは華やかなモデルが闊歩する中、店主のクレアもラテを振る舞うのに大忙し。そんな時、ラテを口にした男性が急死したから、さあ大変。贅沢でクリーミーな名物ラテが、ファッション界に大騒動を起こす! 内容紹介より



〈コクと深みの名推理〉シリーズ3。
何かのイベント中、主人公が提供した飲食物に毒が仕込まれて殺人事件が起きるという、各種飲食系コージーミステリの各シリーズに一度は使われる設定です。そして本書では、主人公が営むコーヒーハウスの従業員が容疑者として拘留されたために、事件の調査を始めるという、これまた重ねてベタな設定です。
飲食系コージーミステリの中でも長期化しているシリーズ*であるジョアン・フルークの〈ハンナ・スウェンセン・シリーズ〉やローラ・チャイルズの〈お茶と探偵シリーズ〉と本シリーズを比べてみて感じるのは、人間関係の部分で微妙な違いがあるということです。〈お茶と探偵シリーズ〉では家族関係の話題はほとんどなく従業員との友人関係、〈ハンナ・スウェンセン・シリーズ〉では実母と二人の妹との肉親関係、本シリーズにおいては主人公の元夫と姑、そして娘との親族関係が大きなウエイトと占めていると思います。扱っている飲食物は別として、ミステリ的にはどれも五十歩百歩ですから、それ以外の相違点に注目してみるのも興味深いかもしれません。ちなみにこのシリーズで主人公が飼っているペットは猫です。

*本来ならダイアン・デヴィッドソンの〈クッキング・ママ・シリーズ〉が長期間続いている飲食系コージーの元祖(たぶん)みたいなものなのでしょうけれど、わたしは一冊しか読んだことがないので割愛。

『名探偵のコーヒーのいれ方』クレオ・コイル ランダムハウス講談社
『危ない夏のコーヒー・カクテル』クレオ・コイル ランダムハウス講談社



秋のカフェ・ラテ事件 [コクと深みの名推理3] (ランダムハウス講談社文庫)秋のカフェ・ラテ事件 [コクと深みの名推理3] (ランダムハウス講談社文庫)
(2007/10/02)
クレオ・コイル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『赤い夏の日』オーサ・ラーソン ハヤカワ文庫

2010-10-16

☆☆☆☆

悲惨な事件に巻込まれ、心に傷を負ったままのレベッカは、職務に復帰した法律事務所で空虚な日々を送っていた。そんな彼女が、上司の出張に同行して故郷のキールナへ戻ってきた。だがそこで待っていたのは、またしても殺人事件だった。教会の女性司祭が夏至の夜に惨殺されたのだ。ふとしたことから被害者の周囲の人々と関わることになったレベッカは否応なしに事件の渦中へ……『オーロラの向こう側』を凌ぐ最新傑作登場 内容紹介より



スウェーデン推理作家アカデミー賞受賞作。
前回の事件で心に負った後遺症のせいなのか、ヒロインが前作で見せたタフさが見られなかったのは惜しい。それが彼女らしい特徴だったはずですが、すっかり精神的にやつれてしまった感じで、やられっぱなしでした。しかも、昔からの知り合いや新しく友達になった人物との交わりで、彼女の傷が少しずつ癒えはじめるかに見えた頃に容赦なく悲惨な出来事が降り掛かってくるなんて。作者も巻末の謝辞のなかで、主人公の「レベッカ・マーティンソンは立ち直る。(中略)そして、私の物語の中では私が神だということをお忘れなく。」とフォローをしていますが、三作目の『黒い氷』では、果たして彼女は救済されるのでしょうか。
さて今回気付いたことは、三人称多視点において、一般的に章ごとに入れ替わる視点の移行が本書では章の途中からでも代わったり、挿入されたりするところです。これが登場人物たちの心理描写や感情の移り変わりを描く上で効果的に働いていると思いました。そして、それに続いて挿まれる過去のエピソードとも相まって、読んでいるうちに彼等の様々な心理、感情、胸中といった波に翻弄とまではないけれど、心持ちゆらゆらと揺らされているような気持ちになるのでした。

『オーロラの向こう側』オーサ・ラーソン ハヤカワ文庫




赤い夏の日 (ハヤカワ・ミステリ文庫)赤い夏の日 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2008/10/23)
オーサ・ラーソン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『死と踊る乙女』スティーヴン・ブース 創元推理文庫

2010-10-13

Tag :

☆☆☆☆

リンガム荒野にそびえ立つ遺跡〈九人の乙女岩〉で、女性の惨殺死体が発見された。伝説にあるように、まるで踊っているような姿勢を取って……。つい数週間前、別の女性が重傷を負い、記憶喪失となる事件に続けて起きた惨劇に、地元警察は色めき立つ。『黒い犬』に続き、現代英国警察小説の息吹を鮮やかに伝える《ベン・クーパー&ダイアン・フライ・シリーズ》第二弾の登場。 上巻内容紹介より



本書は2001年CWA賞ゴールド・ダガーにノミネートされた作品で、ちなみに受賞作はヘニング・マンケルの『目くらましの道』、次点はジャイルズ・ブラントの『悲しみの四十語』、他のノミネート作品にはジョージ・P・ペレケーノスの『曇りなき正義』があるようです。でなにが言いたいかというと、CWA賞受賞作には、良くも悪くもトリックなどの技術的なミステリ部分よりも人間の内面を描いた作品が高評価を受ける傾向があるように思えて、本書なども受賞は逃していますが巧く人間が描けているのではないかと。
また、この作品の驚異的な読みやすさとといったら他に類がないくらいで、これは人情味のあるベン・クーパーと冷徹なダイアン・フライ、このふたりの刑事の対照的な位置付けの単純明快さをはじめとして、登場人物たちのキャラクターの分かりやすさに理由があるのではないかと思いました。
ただ、前作『黒い犬』より長くなったためなのか、全体にネジの締め付けが緩い印象を受けました。登場人物の多くに丁寧な背景を付け足したり、エピソードを加えすぎていたりしているからでしょうか。終盤の謎解きの部分をはっきりとした解決に持っていっていないのも原因でしょうか。

『黒い犬』スティーヴン・ブース 創元推理文庫




死と踊る乙女 上 (創元推理文庫)死と踊る乙女 上 (創元推理文庫)
(2006/07/27)
スティーブン・ブース

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死と踊る乙女 下 (創元推理文庫)死と踊る乙女 下 (創元推理文庫)
(2006/07/27)
スティーブン・ブース

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ナイス・レディ』ジェン・サックス ハヤカワ文庫

2010-10-10

Tag :

☆☆

グレースは心優しい女性だ。恋人と別れたいけれど、相手を悲しませたくない。だから、仕方なく殺してしまうのだ。一方、グレースを偶然見かけた殺し屋のサムは彼女に恋心を抱き、監視するようになる。そして彼女の殺人の手際のよさに思いをつのらせていく。やがて、グレースが三人目の恋人を殺した時、グレースとサムは運命の出会いを……殺人癖のある女と一匹狼の殺し屋の危険な恋を描くブラックな味わいのサスペンス 内容紹介より



以下、ネタばれ気味です!ご注意下さい。



ポーラ・ゴズリング作の『死の宣告』の時にストーリー・パターンを“お姫様と騎士たち”の物語に例えたのですけれど、本書はさらに基本的フォーマットが“お姫様と王子様”の物語に近くなり、お姫様、ドラゴン、醜い動物に変えられた王子様という三題噺を現代風にアレンジした作品になっています。たぶん。
ここでは、お姫様は普通のキャリアウーマン、王子様はプロの殺し屋、そしてドラゴンは
お姫様が心の中で造り出した感情でしょう。ニューヨークで女性として在ること、女性として生きることでさらされるストレスとプレッシャー*、そして子供時代に家庭内での体験で肥大化してきた人間関係における極度の緊張感、人に認められたい、失望させたくない、感情を傷付けたくないという気持ちが合わさり、それが特別好きでもない男と付き合うときにたがが外れたような勢いで爆発し、男を殺してしまう。これが彼女が飼っているドラゴンなのです。おそらく。
また、王子様というには無理がある中年の殺し屋は、ヒロインに恋をしてしまったことで依頼された殺しを中止してしまいます。つまり、お姫様のキスでヒキガエルが王子様の姿に戻れたみたいに。それから、いつまでも幸せに暮らしましたとさみたいなエンディングはいかがなものでしょうか?ピリッとしたバッドエンディングが良かったのに。


*具体的には、映画館での不審人物、地下鉄駅内での浮浪者たちの卑猥な言葉、デートレイプまがいの暴力を振るう男、失礼な言葉を浴びせた男を女友達と二人がかりでボコボコにしてしまったエピソードなどが頻繁に描かれています。ただ、パワハラする上司をなぜ男性に設定しなかったのかは不思議でした。




ナイス・レディ (ハヤカワ・ミステリ文庫)ナイス・レディ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2000/07)
ジェン サックス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『黒い犬』スティーヴン・ブース 創元推理文庫

2010-10-07

Tag :

☆☆☆☆

失踪していた少女が他殺死体で発見された。捜査に駆り出された刑事の一人、ベン・クーパーは新しく異動してきた女刑事ダイアン・フライとコンビを組むことになる。まるでタイプが異なるうえに、昇進を巡るライヴァルでもあり、彼も心中穏やかではない。だが二人は、反目し合いながらも協力して捜査に当たるのだった。英国警察小説の期待の新鋭、スティーヴン・ブースのデビュー作。 内容紹介より



ストーリーは、田舎町に越してきた金持ち一家ともとからの住民の感情的軋轢が根底にあって進むという、さほど目新しいものではありません。しかし、古典的なパターンながら張り巡らされた人間関係の模様は読みごたえがあります。
デビュー作ということでストーリーテリングうんぬんは置いておいて、登場人物の造形と描写はかなり巧く、それだけで何故かいつのまにかページが進んでるみたいな。特に、ハリー・ディキンスンの昔気質の人物像はかなり存在感があり、主人公のひとりであるベン・クーパーを食ってしまうくらいの静かな勢いを持っていると思いますし、影の主役になっています。さらに、次に目を引く人物がダイアン・フライという女性刑事で、単なる上昇志向の人間ではない彼女は、様々な過去を背負っているようで、次回作以降に徐々に明らかになるであろう展開に期待を持たせています。
さて、なにが不満かというと、英国ミステリらしい適度な諧謔性は必要かと。ハリー・ディキンスンがかもし出すシニカルなユーモアと別にさらにもうひとつは欲しいところです。特に、しかつめらしいベン・クーパーには。

宮脇裕子氏が訳者あとがきでも触れられているように、レストレイド警部から連綿と続く英国推理小説伝統の警察の捜査活動上で、警視や警部などの管理職が目立つ物語ではなく、一介の平刑事の捜査に多くの場面を割いている作品というのはなるほど以外に少ないのかなあと納得した次第です。




黒い犬 (創元推理文庫)黒い犬 (創元推理文庫)
(2003/08)
スティーヴン ブース

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『雨と死とマンハッタン』アンナ・A・コリンズ 講談社文庫

2010-10-04

Tag :

☆☆

ロングアイランド・シティにある私の事務所からは、マンハッタンのきらびやかな夜景が一望できる。だが反対に、持込まれる仕事は血なまぐさい死体つきだ。敵は私を中年女だと軽く見ているが、そのへんのタフ・ガイに腕力で負けていては、私立探偵はつとまらない。そして今日も、高級将校の死体がひとつ ― 。 内容紹介より



主人公は、私立探偵を専業としているのではなく、本業はNYで十指に入るほどの経営コンサルタント、年収は10万ドル、仕事絡みで手に入れたペントハウスみたいな家賃ゼロの住居、自称コンピューターなみの頭脳と記憶力を持つ離婚歴のある中年女性。
「インディアン」の血が入っているところは、マーシャ・マラーが描く女性探偵シャロン・マコーンとだぶりますが、こちらはもっと軽くて変な感じの人です。優秀なコンサルタントと自分で言っている割に、殺人事件現場で被害者のポケットを探り、持ち物を無断で持ち帰ったり、また、別の現場では自分の指紋の付いた物を置き忘れたり、ノープランである人物を誘拐しようとしたりとかなり間が抜けていて、野犬を殺したり、野良猫を邪険に扱ったり、知り合いに指図して調査をさせたりして、キャラクターがまったく好きになれませんでした。前述の某人物の誘拐未遂のほかに二件もの誘拐事件が起きるのですが、これがなんとも妙にズレているというかおバカな話で、作者的には軽いハードボイルド系を狙っているのでしょうけど、作品全体を解釈してみると出来の悪い振り切れていないドタバタミステリにしか見れないのでした。




雨と死とマンハッタン (講談社文庫)雨と死とマンハッタン (講談社文庫)
(1991/08)
アンナ・A. コリンズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『死の宣告』ポーラ・ゴズリング ハヤカワ文庫

2010-10-01

☆☆☆

あの金を返せ ― 受話器から響いてくる無気味な声に、デザイナーのテスは総毛立った。自動車事故で夫を亡くし、ようやくそのショックから立ち直ったというのに、誰がこんな悪戯を?数日後、不安に怯えるテスのもとを刑事が訪れた。夫の死に不審な点があるらしい。はたして謎の脅迫電話は夫の死と関連が?彼女は夫の知られざる素顔を探りはじめるが……気鋭の女性作家が満を辞して放つ最新サスペンス。文庫オリジナル 内容紹介より



ヒロインの亡夫の元共同経営者、彼女が勤める会社のオーナー、間借人の大学教授、新米の部長刑事、こういったヒロインをめぐる男たちの人物描写が相変わらずとてもこなれていて巧いです。それ以外の登場人物も重要度に応じた加減で描かれています。一方、ヒロイン自体に強烈なキャラクター付けをしているとは言い難く、作者には、彼女を取り巻く男性陣によってヒロインを際立たせる意図があったようなきもしました。実際に、古くからいる家政婦(すでに中性的な位置付け)の他にヒロイン以外の女性の登場機会は非常に少なくて、彼女のみに四方からスポットライト(男性陣という光源)が当たる仕様になっているのです。また、かなり曲解してみるならば、中世を舞台にしたお姫様と騎士たちの物語の設定に似ているのかもしれません。
ストーリーはヒロインと部長刑事のふたりの視点で語られるためか、彼女からのアクションが少なめ、かつ受動的なので中盤にかけて停滞及びダレてます。犯人の意外性や真相の衝撃度も少なくてミステリ作品としては平凡だと思います。

『赤の女』ポーラ・ゴズリング ハヤカワ文庫
『ブラックウォーター湾の殺人』ポーラ・ゴズリング ハヤカワ文庫
『ハロウィーンの死体』ポーラ・ゴズリング ハヤカワ文庫
『すべての石の下に』ポーラ・ゴズリング ハヤカワ・ミステリ




死の宣告 (ハヤカワ・ミステリ文庫)死の宣告 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(1993/02)
ポーラ・ゴズリング

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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