『ピーチコブラーは嘘をつく』ジョアン・フルーク ヴィレッジブックス

2010-12-31

☆☆☆

ハンナのお店〈クッキー・ジャー〉は、開店以来初めてのピンチに見舞われていた。客足がぱったり途絶え、店はがらがら……原因はお向かいにできた新しいベイカリーのせいだ。しかもその店のオーナーは、ハンナノ恋敵、ショーナ・リー姉妹だからよけいに腹立しい。共同経営者リサの結婚も間近なのに、これじゃ店をたたまなくちゃならなくなるかも。ショーナ・リーたちはいったい何を企んでいるの?頭の痛いハンナだったが、リサの結婚式当日、もっともっと困った羽目になり ― 。マイクとノーマン、ふたりからのすてきな誘いにも、何かが起こる予感はするけれど。大好物のお菓子探偵シリーズ第7弾! 内容紹介より



いつもと違って目新しいことは、主人公の店〈クッキー・ジャー〉の真向かいにライバル店ができたものだから〈クッキー・ジャー〉に閑古鳥が鳴いている状況になっているところ。いつもいつもクッキーの評判が良くて、客足もひっきりなしというのではつまらないのでこういう展開はありだと思います。
また、他の飲食系コージーミステリにもいえることですが、このシリーズもケータリング先のイベント中に殺人を含む事件が起きることがパターンとして多いけれど、今回、本書では主人公の共同経営者リサ・ハーマンの結婚式という絶好の設定を事件の舞台として使用していません。その意図は分かりませんが、これは結果として結婚式およびその後のパーティーに出席した多くの人物を、同時刻に起きた殺人事件の容疑者から外すことのできるアリバイにもなっています。しかし、逆に容疑者が絞られて、ミステリ読みにとってはかえって犯人の目星を付けやすくする場面にもなってしまっているのですが。
この二つの部分が少しだけマンネリ感を改善しているような印象を受けました。それにしても、どうしてこうも主人公がモテるのかは、相変わらず不思議です。

というわけで、今年最後のミステリ作品の感想がジョアン・フルークさんなのは、かなり自分的に微妙な気持ちなのですけれど、来年もミステリに限らずたくさん本が読めたらいいなと思っています。最後になりましたが、当ブログを訪れてくださった皆さん、ありがとうございました。良いお年をお迎え下さい。

タグ:ジョアン・フルーク




ピーチコブラーは嘘をつく (ヴィレッジブックス)ピーチコブラーは嘘をつく (ヴィレッジブックス)
(2006/10)
ジョアン・フルーク

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『メリー殺しマス』コリン・ホルト・ソーヤー 創元推理文庫

2010-12-25

☆☆

高級老人ホーム〈海の上のカムデン〉のクリスマス・シーズンは、幕開きから大騒ぎ。はた迷惑にも、ロビーの大ツリーの下に、プレゼントならぬ入居者の死体が置かれていたのだ。この一件を殺人だと決めつけたアンジェラとキャレドニアは、ほかの事件で大忙しなマーティネス警部補の協力依頼を拡大解釈し、捜査を開始する……。名物コンビが聖なる季節を騒がせる、シリーズ第六弾。 内容紹介より



〈老人たちの生活と推理〉六作品目。相変わらず、推理というミステリ部分はミステリと名乗れないくらいのレベルで、かといって生活部分が特別に面白くて愉快っていうわけでもないのですけれど、なぜ読んでしまうのでしょう。多分、それはシリーズ作品だからです。シリーズ作品はつい集めてしまいたいという心に潜む蒐集癖と、それにシリーズの登場人物たちに情が移ってしまうのです。きっと。といっても、主人公ふたり以外にキャラがたっている人物は少ないし、その人が活躍するってこともないのですが。マーティネス警部補はいつものようにインパクトがないし、逆にインパクトがある老人ホームの支配人トゥーガソンは、入居者たちの口に上るだけで本人はまったく登場しないのですね。なんだか毎回同じ感想を書いてしまいます。もどかしい。

『フクロウは夜ふかしをする』コリン・ホルト・ソーヤー 創元推理文庫
『ピーナッツバター殺人事件』コリン・ホルト・ソーヤー 創元推理文庫
『殺しはノンカロリー』コリン・ホルト・ソーヤー 創元推理文庫

タグ:コリン・ホルト・ソーヤー




メリー殺しマス (創元推理文庫)メリー殺しマス (創元推理文庫)
(2009/12/20)
コリン・ホルト・ソーヤー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『聖なる夜の犯罪』シャーロット・マクラウド 編 ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2010-12-21

☆☆☆

心弾むクリスマスに、人気ミステリ作家の智恵を絞った贈り物が届きました。今回、読者のために特別に作品を書き下ろしてくれたのは、ピーター・ラヴゼイ、アーロン・エルキンズ、メアリ・ヒギンズ・クラークら、当代きっての巨匠たちばかり。思わず背筋が寒くなる幽霊譚から心温まる愛の物語まで、バラエティー豊かなクリスマス・ミステリが楽しめる傑作集 内容紹介より



「クリスマスに保温カバーを」シャーロット・マクラウド
この作者の作品では、この短編に登場するセーラ・ケリングシリーズは読んだことがなくて、シャンディ教授シリーズに感じられるアメリカ南部ほら話みたいな要素がないうえに、スパイものというのが意外でした。

「クレセント街の怪」ピーター・ラヴゼイ
クリスマス・イヴに幽霊が出るというある屋敷で、その調査のために留守番をすることになった元警察官。そこに白装束の若い女性が姿を現し、百五十年前に起きた殺人事件の真相が明らかになる。幽霊になったのは一体誰だったのかが、最後の最後に判明するというラヴゼイの巧さがさりげなく光る作品。

「クリストファーとマギー」ドロシー・ソールズベリ・デイヴィス
クリスマスを控え、オンボロ車で帰省中の巡業奇術師とその助手が遭遇した強盗事件の話。アクション場面の書き込みが目立つけれど、ラストがどういう意味なのか分かりませんでした。

「カープット」エリック・ライト
カナダにある軍の基地で、クリスマスに起きた殺人事件の話。犯人探しの本格ミステリ。どうも語り口がぐだぐだしている印象で、話にキレがないみたいな。

「生きたクリスマス・ツリー」ジョン・ラッツ
クリスマスなんか煩わしいだけだと考え、息子のために本物のクリスマス・ツリーさえ買ってやろうとしない弟の家に、詐欺罪で服役中の兄がクリスマス期間中だけ刑務所から出ることを許されてやって来た。あの有名なクリスマス・ストーリーの変種。

「三人の不良少年」ハワード・エンゲル
クリスマスの時期、中年探偵と女友達が、コカインの運び屋をやった三人の不良少年に施した善行。微妙。

「サンタクロースがやってくる」ビル・プロンジーニ
慈善クリスマス・パーティーで、女友達に頼まれサンタクロースに扮した「名無しのオプ」が、子供たちに絡まれたり、泣かれたり、殴られたり、踏まれたり、泥棒を捕まえたりしてさんざんな目に遭うという偽サンタさん定番の話。

「小さな敷居際の一杯」シャーリン・マクラム
空き巣に入った家で、幸運をもたらす男に間違えられた泥棒の話。食べ物や飲み物でもてなされ、切羽詰まった男は居直り強盗に変身するが……。オチが愉快。

「クリスマスを愛した男」ヘンリイ・スレッサー
クリスマスを愛して止まず、その時期が来るのを楽しみにしていた男が、クリスマス当日の朝、家族の前からこつ然と消えてしまった。残された子供へのプレゼントの中身は、到底女の子にはふさわしくないものだった。刑事が調査すると、男には意外な秘密が……。スレッサーらしいシニカルでブラックな笑いを軽快なタッチで。

「妖精コリヤダ」エドワード・D・ホック
ロシア民話に出てくる妖精の乙女コリヤダが、ロシア人の大学関係者一家が多く住む住宅地域に出現し、家々にプレゼントを配っているという。その噂を聞き付けた主人公たちは殺人現場で彼女の姿を目撃する。強引にまとめようとするホックの力技が微妙。このひとは、たまにこういう傾向があるような。

「笑うオランダ人」アーロン・エルキンズ
妻へのクリスマス・プレゼントを買う目的の、クライアントである成金男の買い物に付き合わされた弁護士。彼が画廊で偶然見かけた美術本には、成金が値切って購入した絵画が、掘り出し物の高価な名画として掲載されていた。画廊のオーナーもその絵の価値を知らないらしい。そこで弁護士がとった行動とは。苦いです。

「追いつめられたオート」スーザン・ダンラップ
何者かに手紙で脅迫される私立探偵と彼に借りがある女性刑事。オチがとほほな話。つまらない。

「ホッ!ホッ!ホッ!」アイザック・アシモフ
五人のサンタクロースがいた宝石店で起きたネックレス盗難事件。しかし、実際に店にいたサンタクロースは四人だった。五人目のサンタクロースの行方とその正体は?『ユニオン・クラブ綺談』形式の作品。

「聖夜」マーシャ・ミュラー
マーシャ・ミュラー(マーシャ・マラー)のシャロン・マコーンものの短編作品。家出した甥を捜してクリスマス・イヴの街を行く主人公が見たイヴの情景と出会った人々の話。特にホームレスたちの様子を描いた箇所には、ちょっとした場面にもかかわらずジーンとさせられました。なんか良いです。

タグ:クリスマス・ストーリー




聖なる夜の犯罪 (ミステリアス・プレス文庫―ハヤカワ文庫 (32))聖なる夜の犯罪 (ミステリアス・プレス文庫―ハヤカワ文庫 (32))
(1990/11)
シャーロット・マクラウド 編

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『追跡のクリスマスイヴ』メアリ・H・クラーク 新潮文庫

2010-12-18

☆☆☆

七歳のぼくは、病気のパパのお見舞いにNYに来た。でもママが、おばあちゃんにもらったメダルをお財布ごと落としちゃったんだ。ぼくはそれを拾った女の人を必死に追いかけた。パパを救ってくれる大事なお守りだもの。ところがその人の家には、脱獄犯の弟がお金をせびろうと待ち構えていた。そしてぼくを人質にして逃亡しようとした……。感動とサスペンス溢れるクリスマスの追跡劇。 内容紹介より



作者メアリ・H・クラークがクリスマスプレゼントとして読者に贈るクリスマス・ストーリーらしい、難しくなく、ストレートで、わかりやすい話です。なのでハートウォーミングを主軸とした内容について、それ以上のものを望むというのは不粋なことなのでしょうが、ミステリ好きな者にとって、あまりに教科書的定番のストーリー展開は、当たり前に先が読めてしまうという弱点も持ち合わせているわけで、やっぱりなにがしかのひとひねりが欲しいと思ってしまうのは仕方ないでしょう。逆にいえば、ページ数も少ないし、海外ミステリ初心者向けの作品かもしれません。
と、以前、『小さな星の奇蹟』でも書いた同じことを今回も感想として書いてしまいました。個人的には、やっぱり悪人も最終的に救済される甘く緩い話のほうがクリスマスらしいと思うのですけれど、そこはサスペンス作家のクラークとしては譲れないところなのかななどと勝手に考えました。

『小さな星の奇蹟』メアリ・H・クラーク 新潮文庫

タグ:クリスマス・ストーリー




追跡のクリスマスイヴ (新潮文庫)追跡のクリスマスイヴ (新潮文庫)
(1996/11)
メアリ・ヒギンズ・クラーク

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『君を想いて』ジル・チャーチル 創元推理文庫

2010-12-15

Tag : ジル・チャーチル

☆☆

近所の養護ホームで、雑務を手伝うことになったリリーとロバート兄妹。その初日、体力勝負の仕事に苦戦中、昏睡状態に陥った入所者の老人が殺される。余命数時間の老人を、誰がなぜ?捜査はウォーカー署長に任せ、養護ホームの改装に夢中のロバートとは違い、リリーは事件の行方に興味津々なのだが……。大恐慌下でもたくましく生きる人々を描いた人気シリーズ、第五弾登場。 内容紹介より



このシリーズの中でもっとも出来が良くない作品かも。ミステリ部分だけではなく、ストーリー全体での肉付けが不足気味でとても淡白だし、ここはもっと話を膨らませられるだろうという箇所でも、それ以上の書き込みがなくてあっけなく次に移ってしまうように感じてしまうところがいくつかありました。
たとえば、ロバートをルーズヴェルト大統領の就任式を見るためにわざわざワシントンまで出向かせながら、そこでなにかの事件や出来事が起きるのでもなく、ただ行って帰ってきただけという箇所は、シリーズ三作目の『闇を見つめて』において、ボーナス行進を取材に行った新聞記者のジャック・サマーのエピソードに比べ、芸が無さ過ぎでしょう。
なんというか、誇張して例えるとまるで梗概、あるいは構想段階の作品を読んでいるみたいな違和感を覚えました。さらに、グレイス&フェイヴァー・コテージの入居者たちが絡んでくるエピソードが乏しかったことも物足りなく感じた原因かもしれません。カバーイラストには描かれているリリーの愛犬アガサも登場しないとは、ジル・チャーチルさんは執筆当時、心ここに有らずな状態だったのでしょうか。

『風の向くまま』ジル・チャーチル 創元推理文庫
『闇を見つめて』ジル・チャーチル 創元推理文庫

タグ:ジル・チャーチル




君を想いて (創元推理文庫)君を想いて (創元推理文庫)
(2010/03/11)
ジル・チャーチル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『猫文学大全』柳瀬尚紀 訳・編 河出文庫

2010-12-12

Tag :

☆☆☆

ハックスレー、マーク・トウェインからサキ、ギャリコ、サルトルまで、ミステリーもファンタジーも詩も、全部まとめて猫の文学。キラ星のような傑作十六篇にピカソ、シャガール、クレー、ルッソーなどの名画を多数ちりばめた、贅沢きわまりない作品集。従来の猫の本に満足できない本物の猫好き読者に、真正の半猫人にして手練の翻訳者柳瀬尚紀の編・訳で贈る、猫文学の豪華アンソロジー。 内容紹介より



「子猫」オグデン・ナッシュ
子猫についての短いユーモア詩。

「ネコ君の職探し」テッド・ヒューズ
森の中で夜な夜なバイオリンを奏で、森のほかの動物たちから疎まれていた猫が、いかに森を出てニンゲンの元でネズミ退治の仕事をするようになったのかという経緯。猫にたいするステレオタイプのイメージは昔から相変わらず。

「猫の教訓」オールダス・ハックスレー
小説を書くためには、二匹のシャム猫を飼って、日々観察するべきであるという、小説家志望の青年への助言。

「ウェブスターの物語」P・G・ウッドハウス
疎遠になっていた牧師である叔父の依頼で、彼の飼い猫の面倒をみることになった画家の甥。教会で暮らしていたため不道徳な行いや不謹慎な言葉使いを嫌う猫の影響を受けた甥は品行方正な人間に嫌々ながらなっていくのだが……。まあまあ。

「矮小なる獅子、或は猫」ウィリアム・サーモン
猫の名称、分布、生態、猫肉、糞などの利用法について書き記した極小博物誌。

「白猫」W・W・ジェイコブス
お金持ちの叔父が飼っている猫を邪険に扱ったため、猫が生きている限り遺産が貰えない甥、猫の世話をする条件で遺産を遺された爺さん。その猫がいなくなり、お互いの思惑と騒動のてん末。さほど盛り上がらず。

「動物園にて」マーク・トウィイン
マルセーユの動物園にいる象と彼の親友の猫の話。

「嫉妬ぶかい猫」ジャイルズ・ゴードン
披露宴の最中、猫が飼い主である新郎を銃で射殺してしまうキャット・ノワール。というかくだらな過ぎ。

「ひとり歩く猫」ラドヤード・キプリング
「ネコ君の職探し」と同じく、いかにして猫が人間の家族たちと暮らすようになったのか、第二弾。ついでに犬、馬、牛の経緯も書いてあります。

「そこで何してきたの?」ハーヴァー・ジェイコブス
不倫相手の女性が飼っている猫の白い毛が洋服にくっ付いてしまい、男がそれを自宅でこっそりと始末していると、なんと毛の固まりから子猫が!!っていう伏線からのラストが。かなりバカバカしい奇談。

「トバモリー」サキ
猫アンソロジーの定番。猫の憎まれ口が愉しい。

「まずいと思ったら毛づくろい」ポール・ギャリコ
ギャリコの長編『ジェニィ』からの一節。猫がこういう行動をとるというのは、加藤由子さんの本でわたしは知ったのですが、ギャリコってよく観察しているのだなあと思いました。

「猫の占星術」アン・カーラー
星座別の猫の性格と最適あるいは不向きな飼い主の星座が掲載されてます。

「猫とバイオリン」ロイ・フラー
猫による完全犯罪の話。しかし、ラストの一言で……。

「自由への道」ジャン=ポール・サルトル
わかったようなわからないような実存主義。サルトルとか、久しぶりに聞いた。

「アミの猫」稲川方人
?。

大全とありますが、254ページです。柳瀬氏らしいアンソロジーです。




猫文学大全 (河出文庫)猫文学大全 (河出文庫)
(1990/02)
柳瀬 尚紀 訳・編

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『日曜哲学クラブ』アレグザンダー・マコール・スミス 創元推理文庫

2010-12-08

Tag :

☆☆☆

イザベルは、古都エディンバラに住む、知的で好奇心溢れる女性哲学者。彼女が主宰する“日曜哲学クラブ”は一度も開かれたことがないという不思議なクラブだ。ある日、劇場の天井桟敷から若い男性が墜落するのを目撃した彼女は、長年の哲学的思想で培われた優れた観察力をたよりに若者の死の謎を探るのだが……。寄り道だらけの知的な冒険。女性哲学者の素人探偵シリーズ開幕。 内容紹介より



これも主人公のキャラクターで読ませる作品です。
哲学者が主人公のミステリ(?)といえば、以前に読んだ『悩み多き哲学者の災難』(ジョージ・ハラ ハヤカワ文庫)が思い浮かびますが、なんだか雰囲気が似ているような気がかすかにしました。どちらの作品もミステリの部分が希薄だからだと思います。
本書は、実際に哲学を用いて事件を解決に導いているのではないし、主人公がそなえている知的な部分とミステリの部分が重なりあって成り立っているミステリ作品でもないので、内容紹介にある「知的な冒険」という言葉は、あくまでも彼女の応用倫理学的思考の移ろうさまを指しているのじゃないかと思うのですよね。なので優れた演繹的推理を操って事件を解決する物語を期待すると残念なことになります。
登場人物の役割分担は、高等な思索にふける主人公と直情径行で古風なモラリストである家政婦のコンビがホームズとワトスンみたいな「話し手と聞き手」、姪の元恋人は主人公の「女」の部分を表す役割を担っているのでしょうが、姪は「家族愛」みたいなものでしょうか。




日曜哲学クラブ (創元推理文庫)日曜哲学クラブ (創元推理文庫)
(2009/08/20)
アレグザンダー・マコール・スミス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『パイは小さな秘密を運ぶ』アラン・ブラッドリー 創元推理文庫

2010-12-05

Tag :

☆☆☆☆

11歳のあたしは、イギリスの片田舎で、化学実験に熱中する日々をすごしてる。ある日、何者かがコシギの死体をキッチンの戸口に置いていき、父が尋常ではない恐れを見せた。そして翌日の早朝、あたしは畑で赤毛の男の死に立ち会ってしまう。男は前日の晩に、父と書斎で口論していた相手だった……。活溌な少女の活躍を温かくのびやかな筆致で描く、CWAデビュー・ダガー受賞作。 内容紹介より



たしかに面白い作品ではあるけれど、その面白さの大部分は物語よりも主人公の少女のキャラクターによるところが多いのではないでしょうか。ナンシー・ドルーより7歳年下だけれど、化学的知識にかけてはナンシー・ドルーよりも7倍以上も優れていそうな主人公の造形が、ミステリ作品自体の印象は薄いのに、主人公の少女だけが異常に記憶に残る結果をもたらしているように思われます。役不足というとちょっと違いますが、主人公のキャラに対してミステリの部分がオーソドックスすぎるような。もっと奇抜な謎解きのほうが彼女にはあっているのではないのかと。ただ、本書はシリーズ一作目ですから、本作がウォーミングアップで、次作以降ではどういうふうになっていくのかは分かりませんけれど。そして、彼女ほどではないにしろ、強力なキャラを持つ登場人物が別に出てくればもっと盛り上がりそうです。




パイは小さな秘密を運ぶ (創元推理文庫)パイは小さな秘密を運ぶ (創元推理文庫)
(2009/11/20)
アラン・ブラッドリー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『殺人四重奏』ミッシェル・ルブラン 創元推理文庫

2010-12-02

Tag :

☆☆☆☆

人気絶頂の映画女優シルヴィーが殺された。そのニュースが、関係者のもとに届いた。映画監督、シナリオ・ライター、俳優たちは、それぞれ複雑な気持ちで、知らせと受け取った。シルヴィーの派手な愛欲の遍歴は、だれ知らぬ者もない事実だったからである。その夜、シルヴィーを殺したのは、わたしだというふたりの人間が、あいついで警察に自首して来た。ところが、その自供内容は明らかに現場の状況と食い違っていた。現代フランスで最高の人気を持つミッシェル・ルブランが、軽快なテンポと二転三転のどんでん返しで、読者の意表をつくサスペンス・ドラマ。1956年度フランス推理小説賞受賞作。 内容紹介より



昔と比べて活字のポイント数が大きくなっていることもあるのでしょうが、近頃の翻訳ミステリは平均して400ページ台の作品が多く、ページ数が増えることはあっても少なくなる傾向にはありません。そして、内容の満足度がページ数につれて上がっているかどうかは疑問なところです。つまらない作品に時間を取られるくらいなら、ページ数は少ないけれど面白い作品を二冊読む方が良いに決まってますよね。
本書は221ページながら、内容もよく練られ技巧も冴えていて、かなり楽しめる作品でした。いわゆる“悪女もの”から派生したみたいなミステリです。被害者である女優を殺したと、各々自供する二人の人物、実際に手を下したと思っている別の人物、そして、もう一人の人物も……。主に三名の視点から被害者との出会い、憎愛、離別、殺人の動機とその方法が語られます。伏線の仕掛けやトリックが手慣れて、ラストの一文にいたるまでまで愉しめます。欲を言えば、被害者や関係者それぞれのイメージが各視点によってもっとギャップがあったらさらに面白くなっていたかもしれません。




殺人四重奏 (創元推理文庫)殺人四重奏 (創元推理文庫)
(1961/04/21)
ミッシェル・ルブラン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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