『殺す風』マーガレット・ミラー 創元推理文庫

2011-01-31

☆☆☆☆

ロンの妻が最後に彼を見たのは、四月のある晩のことだった。前妻の件で諍いをした彼は、友達の待つ別荘へと向かい―それきり、いっさいの消息を絶った。あとに残された友人たちは、浮かれ騒ぎと悲哀をこもごも味わいながら、ロンの行方を探そうとするが……。自然な物語の奥に巧妙きわまりない手段で埋めこまれた心の謎とは何か?他に類を見ない高みに達した鬼才の最高傑作。 内容紹介より



以下、ネタばれ気味です!!ご注意下さい。

物語の冒頭から会話の部分が多く、展開も軽快で、心理描写がくどくないので非常に読みやすく入り込みやすかったです。読みはじめたら、作者の話術に引き込まれ、ただただストーリーを追っていれば幸せな読書の時間を過ごすことができる良書だと思います。が、しかし、事件の真相が明らかになっていく終盤あたりから、良い夢が覚めていくような、俗な現実に戻っていくような気分になってしまうのでした。どういうことかと言いますと、ようするに真相自体がテレビのサスペンスドラマにありそうなパターンなのが問題なのです。ミステリ作品ですからなにかしらのひねり、どんでん返しが用意されているのだろうと予想していて、それが終わりに近付くにつれ見当をつけていたように、まさかのテレビドラマで何度も用いられているネタだったと明らかになるという残念な結果に。でも、これは作者のせいではなく、経年劣化とも違うし、あくまでも読み手側に存在する問題なのでしょう。発表された当時(1957年)ならば衝撃的なものだったのでしょうけれど。登場人物(妊娠した女性とか)の行動(その動機でそこまでするのか)に違和感を覚えたりしますが、それでも、狂気じみたものを感じさせるラストシーンなど作者の才能が遺憾なく発揮されている作品だと思います。

『狙った獣』マーガレット・ミラー 創元推理文庫
『まるで天使のような』マーガレット・ミラー ハヤカワ文庫




殺す風 (創元推理文庫)殺す風 (創元推理文庫)
(1995/06)
マーガレット・ミラー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『教会の悪魔』ポール・ドハティ ハヤカワ・ミステリ

2011-01-26

☆☆☆☆

妹を誘惑され激怒した金匠が相手の男を殺し、司直の手が及ばぬ教会へと逃げこんだ。だが罪の意識に苛まれた男は、耐えきれずに首を吊って、密室状態の教会内で自殺した……単純に見えた事件だったが、その裏にキナ臭さを感じ取った国王の命を受け、再検分が行われることになった。密偵役を拝命したのは、切れ者で知られる書記のコーベット。たちまちにして他殺と見抜いたコーベットだが、その背後にさらなる秘密が、そして国家的大陰謀が潜んでいようとは、想像もしていなかった!中世ロンドンを舞台に、英国歴史ミステリの雄が放つ傑作登場 内容紹介より



〈密偵ヒュー・コーベット〉シリーズの第一作目で、たぶん著者の諸シリーズ作品においても第一作目。アセルスタン修道士シリーズの一作目では時代設定が1377年でしたが、本書は1284年*ということで約一世紀時代がさかのぼっています。作者が得意とする当時のロンドンの街や住民についての微に入り細に入った描写は相変わらずですが、それぞれの時代の相違点なんかは区別が付きませんでした。主人公に身内を亡くすという過去を背負わせているところは両シリーズ共に同じです。ただ、作品自体の円熟度あるいは物語の厚みみたいなものを見てみると、アセルスタンシリーズのほうが当然よくできていると思いました。本シリーズの主人公は、これからキャラクターなりが造られていくのでしょうけれど、まだ深みに乏しいようだし、彼を囲む脇役陣も層が薄く感じます。また、悪魔崇拝は行き過ぎにしても、敵方(議会派)への消極的ながらも思想的共鳴、あるいは現体制への疑問とかの感情が表されていたならと思いました。「剣呑」という言葉が好きそうな和爾桃子氏の訳者あとがきによると次回作以降期待が持てそうですけれど。

*著者あとがきより

タグ:ポール・ドハティ(ポール・ドハティー




教会の悪魔 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1811)教会の悪魔 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1811)
(2008/04/09)
ポール・ドハティ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『壁のなかで眠る男』トニー・フェンリー 新潮文庫

2011-01-22

Tag :

☆☆☆☆

ストリッパー出身のゴシップ・コラムニスト、マーゴは酸いも甘いもかみわけた45歳のいい女。名門出の夫は実は隠れゲイだが、上流階級の暮らしを満喫している。だが昔踊っていた古いクラブの解体作業現場から若い男の白骨死体が発見され、にわかに身辺がざわついてきた。警察に協力して当時の関係者に聞き込み調査するうちに次々と知り合いが殺され、マーゴにも魔の手が忍び寄る。 内容紹介より



ハードボイルドっぽいのかと思っていたら、コージーみたいな感じでした。主人公はいわば公私両面共に充実しているという安全地帯にいるために、ガツガツ感とかギスギス感とかの切羽詰まったところが見られないので、作品全体の印象が緩かったり温かったり感じるのですが、それが良い結果を招いていると思います。主人公が特別何かに秀でているわけでもなく、普通のキャラクターなのもプラスに働いているのかもしれません。
時代背景は、湾岸戦争が始まるところから終結するまでであり、この90年代とベトナム戦争が終わった70年代とを20年前に殺害されたと思われる白骨死体がリンクさせる趣向になっています。当時は踊り子だった主人公が昔の同僚や店の関係者に話を聞いて回るという展開で、あのひとは今みたいなそれぞれの人生の移り変わりの様子が面白さを出しています。まあ、20年経ってもほとんど全員が同じ街にいるというのは、若干不自然な気もしますけど。会話の部分が多く軽快で、人情味やペーソスもありの拾い物の作品でした。
本書は、「女のための犯罪小説」(川副智子氏訳者あとがきより)である“Tart Noir”シリーズの中の一冊。

同じシリーズ
『トレンチコートに赤い髪』スパークル・ヘイター 新潮文庫




壁のなかで眠る男 (新潮文庫)壁のなかで眠る男 (新潮文庫)
(2003/07)
トニー フェンリー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ロイストン事件』D・M・ディヴァイン 現代教養文庫

2011-01-18

☆☆☆☆

「至急助けが要る。きわめて重要なことがわかった。お前の義弟は……」4年前に勘当されたマークが実家で見た手紙の下書きは何を意味しているのか?父の死体が新聞社内で発見された。父は勘当の元になったロイストン事件の再調査をしていたようだ。それは教師をめぐるスキャンダルだったが、弁護士だったマークは父の意に逆らい、義弟を偽証と証拠隠滅で告発したのだった。 内容紹介より



創元推理文庫から出ている四作品を比べると、本書はやや俗っぽいように感じました。前者が舞台劇なら後者はテレビのサスペンスドラマみたいな印象です。娼婦や男好きな人妻、品性のない新聞社社主やセクハラ教師のような人物が登場しているせいかもしれません。このキャラクターが男女各一名ずつならまだしも、ご丁寧に二人ずつ配しているものだから余計にくどくなって、俗っぽいイメージが増幅されているのではないでしょうか。しかも作者の持ち味である人物造形が類型化されて、読み進む中で意外性を感じさせる人物がいないというのもあります。主人公の人物像からして、彼の父親、義弟、元婚約者が抱いているマイナスのイメージ枠から一歩も変わることなく終了してしまい、実直だけれど、人間的に魅力にかける面白みのない男にしか思えないのです。唯一、活き活きとしていたのはキャロルだけのような。
真犯人については、ある条件にあてはまる人物が一人しかいないことから見当が付いてしまい、ひとつの効果的なフェイクを挟みながらの謎解きも、なあんだ、やっぱりって感じでした。タイムスケジュールをとりながら読んだ方がわかりやすいかも。

タグ:D・M・ディヴァイン




ロイストン事件 (現代教養文庫―ミステリ・ボックス)ロイストン事件 (現代教養文庫―ミステリ・ボックス)
(1995/06)
D・M・ディヴァイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ジャンピング・ジェニイ』アントニイ・バークリー 創元推理文庫

2011-01-14

Tag :

☆☆☆☆

屋上の絞首台に吊された藁製の縛り首の女 ― 小説家ストラットン主催の〈殺人者と犠牲者〉パーティの悪趣味な余興だ。ロジャー・シェリンガムは、有名な殺人者に仮装した招待客の中の嫌われもの、主催者の義妹イーナに注目する。そして宴が終わる頃、絞首台には人形の代わりに、本物の死体が吊されていた。探偵小説黄金期の雄・バークリーが才を遺憾なく発揮した出色の傑作! 内容紹介より



とある事件が起きて、探偵役が解決する、というミステリ定番のスタイルを読み疲れた読者にとって、まるで七草粥みたいな効果を与えてくれる一風変わった作品。全体に英国風ユーモアが感じられるとともに、抑制の効いたスラップスティックな傾向が新鮮で、かつ非常に良い雰囲気を醸し出していると思いました。狙い過ぎた過剰なドタバタはしらけますが、本書のような抑えられたドタバタは知的です。これはひとえに探偵役のロジャー・シェリンガムのキャラクターに負うところが多く、作者の造形力に感心させられました。
また、歴史的に有名な殺人者の扮装をしたパーティの出席者たち、こういう出だしの設定から本格推理物なのかと読み手に思わせながら、途端にその思い込みをあっさりくつがえして倒叙物に見せ掛け、そして、それもまた裏切る展開。このようなメインプロットから離れた部分での読者サービスみたいな、遊び心のような趣向から、作者の余裕を見て取れて好印象を受けるのでした。
ただ、主人公の独り相撲が趣旨とはいえ、彼以外のキャラクターが弱いこと、ラストが想定内の流れであることが少々残念なところでしょうか。




ジャンピング・ジェニイ (創元推理文庫)ジャンピング・ジェニイ (創元推理文庫)
(2009/10/29)
アントニイ・バークリー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『バセンジーは哀しみの犬』キャロル・リーア・ベンジャミン 創元推理文庫

2011-01-09

Tag :

☆☆☆

私の名前はレイチェル・アレグザンダー。私立探偵。相棒のダシールは筋肉質の闘犬だ。そんな私たちのもとに、友人を殺した犯人捜しの依頼が舞い込んだ。被害者はゲイの画家で、警察は同性愛者への虐待事件と見ているらしい。だが被害者の愛犬が消えていて、犬の利権がらみの可能性もあるという……。シェイマス賞最優秀処女長編賞。コンビ探偵アレクザンダー&ダシール開幕。 内容紹介より



わたしは猫派なのですけれど、犬も嫌いではないです。けれど、純血種より雑種のほうに興味があるし、ドッグ・ショーみたいな犬のコンテストにはまったく関心がありません。さらに今更ですが、私立探偵がメインのハードボイルドものにたいして、個人的に評価が厳しくなる傾向があるみたいで、はっきりいって本書はかなり退屈でした。逆に犬好きな読者はハマるかもしれません。犬を連れた女性探偵といえば、ローラ・リップマンの〈テス・モナハン〉シリーズが前例にありますが、本書の目新しい要素は、飼い犬が探偵の実際的な助手になっている点でしょう。しかし、警察犬に比べて特別な能力を発揮したり、より優れた活動をするわけじゃないので、飛び抜けた印象を与えているわけではありません。
また、女性探偵の造形が薄いし、やや斜に構えたような感じも苦手です。とりあえずシリーズ一作目なので、これから後どう転ぶかは解りませんが。




バセンジーは哀しみの犬 (創元推理文庫)バセンジーは哀しみの犬 (創元推理文庫)
(2010/04/30)
キャロル・リーア・ベンジャミン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ウサギ料理は殺しの味』P・シニアック 中公文庫

2011-01-04

Tag :

☆☆☆☆☆

フランスのとある田舎町のレストラン、その食卓に“狩人風ウサギ料理”が供された夜、必ず若い女が殺される。犠牲者のかたわらにはいつも一本の扇子が……。“食”と“性”に異様な情熱を傾ける町の人々を脅かすこの奇妙な謎、そして信じがたい結末。ブラック・ユーモアの利いたクセの強い味は、ミステリーに飽食した読者の舌をも満足させること請け合い。 内容紹介より



新年あけましておめでとうございます。本年も秘密の花園ブログ「本みしゅらん」をよろしくお願い致します。そして皆様も面白い本がたくさん読めますように。

さて、今年は卯年ですから、感想書き初めは『ウサギ料理は殺しの味』です。☆五つは盛り過ぎじゃないかとも思いましたが、これまでに読んだミステリのいずれにも当てはまらない雰囲気とユニークな謎解きを考慮して付けてみました。海外ミステリのランキングにもよくランクインしている作品ですし。もともとフランス・ミステリ自体が他の国のミステリに比べて異色なものが多いけれど、そのなかでも本書はさらに特殊です。なんといっても“風が吹けば桶屋が儲かる”式の種明かしが人を食って、バカバカしいながら非常に愉快です。フランスの田舎町を舞台に、さまざまな職業に就く、たくさんの住人を登場させ、彼らの錯綜する人間関係を構築し、その表裏を描いていく作者の作業は、読み終えた後に思えば、それはドミノ倒しのためにドミノの牌を並べていく作業だったのだと分かるのでした。さらに事件が終息した後にも、ドミノの牌は立ち上がったり、また倒れたりするリプレイを繰り替えして見せるのです。ただ、第二部あるいは付録ともいえる後半部分はやや冗漫だと感じるかもしれません。




ウサギ料理は殺しの味 (中公文庫)ウサギ料理は殺しの味 (中公文庫)
(1985/05)
P・シニアック

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ウサギ料理は殺しの味 (創元推理文庫)ウサギ料理は殺しの味 (創元推理文庫)
(2009/12/20)
ピエール・シニアック

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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