『千の嘘』 ローラ・ウィルソン 創元推理文庫

2011-07-31

Tag :

☆☆☆☆

母の遺品整理中にモーリーン・シャンドという女性の日記帳を見つけたエイミー。一見平凡なその記述に違和感を覚えた彼女は、モーリーンについて調べはじめる。だが、18年前にシャンド家で起きた殺人事件のことを知り、モーリーンの母や姉とじかに接触を持った直後から、エイミーの身辺では不審な出来事が相次ぐ。事件はまだ終わっていないのか?幾千もの嘘が彩る悲劇の真実とは。 内容紹介より



作品の雰囲気はミネット・ウォルターズに似ています。ただし、千街晶之氏が解説において、これから読む読者に向け警告を発しているように、本書は家庭内暴力と性的虐待が主題となっているため、非常に胸の悪くなる凄惨な記述が散見していますので、読みはじめる際にはそいうことを考慮されたほうが良いと思います。
とある家族内で起きた殺人事件とその家の近隣で発見された身元不明の死骸、誰が殺したのか?というこの二つの事件における謎がミステリ部分になるわけですが、DVについて描かれる箇所と加虐者である夫であり父親の造形が酷すぎるためにミステリ小説としては、全体的なバランスが悪い印象を受けました。ただ、ヒロイン自身も母親による精神的な抑圧と支配を受けた過去をもつために、被虐者の心情を十分に理解できるという設定、彼女が心を許す造園家の青年とのやり取り、ややコメディじみた彼女の父親のキャラクター、これらが緩衝材としての役割を果たすとともに、陰鬱に傾きすぎないようにしようとする作者の意図を感じとることができます。
このような過去に起きた事件を調べて、新たな事実が少しづつ判明していくというプロットは、掘り起こしていく作業過程が面白いものですが、本書では少人数の当事者のみが主な情報源になっており、それ以外(ヒロインの両親や祖母、近隣住人、警察など)の関わりが少なかったのがきになりました。




千の嘘 (創元推理文庫)千の嘘 (創元推理文庫)
(2008/07)
ローラ ウィルソン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『コーヒーのない四つ星レストラン』 クレオ・コイル ランダムハウス講談社

2011-07-29

☆☆

〈ソランジュ〉はニューヨークでも随一の高級フレンチレストラン。料理は、どれも一流の味。そんな大評判の店で娘が料理修行するとなれば、親ならば誇らしいところ。けれど、クレアは素直に喜べない。娘ジョイは、料理長と不倫関係にあるばかりか、店で次々と起こるシェフ殺害事件の容疑者にされてしまったのだ!娘を救うため、クレアは潜入捜査をすることに。美食家も唸る、絶品料理と四つ星コーヒーが満載のシリーズ第6弾。 内容紹介より



わたしにとって〈コクと深みの名推理〉を謳うこのシリーズ(日本語版)の一番の魅力は、藤本将さんのカバーイラスト(↓)にあるわけで、それがなかったらもう手に取ってないと思います。イラストのレベルくらいに内容も素晴らしければいいのですが、ヒロインは好きになれないし、恋人の警部補との恋愛やりとりもつまらないし、そのふたりが良い感じになっているところに必ず現れる元夫のキャラクターは一辺倒だし、内容もお手軽なのです。ちなみに、ヒロインを軸にした三角関係は、ジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ・スウェンソン〉シリーズにおけるハンナと二人の男性のそれに似ています。
今回の舞台は四つ星レストランですから、読み手としてはその裏側とか厨房やスタッフの様子に興味がわくものですが、そこらあたりのエピソードがさほど描かれていないところがもの足りません。ローラ・チャイルズのお茶の知識にくらべて、この著者コンビのコーヒーについての知識が付け焼き刃的な感じがするうえに、死体の数ばかり多い恋愛模様重視のストーリー展開で、飲食系コージー・ミステリとしてはかなり低調な作品でした。ああ、なんだかこういう感想を書くと、現代ミステリの潮流に乗れていない旧守派みたいな気がしてテンション下がりそう。

タグ:クレオ・コイル




コーヒーのない四つ星レストラン (ランダムハウス講談社文庫)コーヒーのない四つ星レストラン (ランダムハウス講談社文庫)
(2009/05/08)
クレオ コイル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『不思議を売る男』 ジェラルディン・マコーリアン 偕成社

2011-07-25

Tag :

☆☆☆☆

エイルサが図書館で出会ったその男は翌日から、エイルサの母親の古道具店ではたらくことになった。はじめは不審に思っていたエイルサ親子も、その男の商売のうまさに魅せられていく。というのも、男は、まことしやかにそれぞれの古道具の由来を客に語ってきかせ、客をその品物に夢中にさせるのだ。エイルサ親子も、客同様、その謎の男の話にひきこまれていく…… 内容紹介より 



カーネギー賞、ガーディアン賞を受賞したヤングアダルト作品。
正体不明の売り子の男が語る古道具とそれにまつわる話が、はたして彼の創作なのか、それとも本当の事なのかという設定になっています。古道具と話のテーマは以下のとおり、大時計[迷信の話]、寄せ木細工の文具箱[嘘つきの話]、中国のお皿[大切なものの話]、テーブル[大食漢の話]、ハープシコード[誇りと信頼の話]、傘立て[かんしゃくもちの話]、鏡[虚栄心の話]、ロールトップ・デスク[犯人探しの話]、木彫りのチェスト[いつわりの話]、鉛の兵隊[誇りの話]、ベッド[口にするのも恐ろしい話]。話の舞台は、英国はもとより中国、インド、トランシルバニアまで、登場人物たちの職業は、貴族から海賊、陶工など、内容は、ラブロマンス、ミステリ、綺談、怪談からそれとなく箴言格言が含まれているようなものまで多岐にわたっています。作者の才能がうかがえるような、どれも良くできていて、ついひきこまれてしまう話が多いです。




不思議を売る男不思議を売る男
(1998/06)
ジェラルディン マコーリアン

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テーマ : YA(ヤング・アダルト)
ジャンル : 本・雑誌

『ニューヨークの錠前屋、街を行く』 ジョエル・コストマン グリーンアロー出版社

2011-07-22

Tag : 短編集

☆☆☆☆

錠前屋の仕事をしながら、この仕事で知った人たちのことを書こうと思ったとき、すでに三本の長編を書きあげていた。いずれも未刊であるが、錠前屋の仕事をしながら出会った人たちのことを書こうと決心した。友人たちもそれをすすめた。コストマンの狙いは「リアル・ニューヨーカー」の肖像画を描くことだった。有名ではない、となりに住む人たちである。彼らの危機(苦しみや哀しみや悩み)をとらえて、それを書きたかった。こうして、「ニューヨークの錠前屋、街を行く」におさめられた14の短編はコストマンの20年の経験から生まれた。(訳者あとがきより)



「かたい表面」「形見」「ターザン、仲間を見つける」「ミスター・パシフィコの新生活」「新品同様」「ひび割れ」「愛のチャペル」「ディスカウントの意味」「チキン、ロブスター、ビュイック」「もの忘れについて知っておきたいこと」「話のたね」「裸の街」「相場」「本当の友だち」収録。

いかにも常盤新平氏が好みそうな、雑誌ニューヨーカーに掲載されていそうな、ボブ・グリーンみたいな、ミニマリズムの影響を受けてそうな作品です。ただ、ニューヨーカー誌に載っている短編にたまに見られるスノッブさはなく、ボブ・グリーンのコラムで感じるセンチメンタリズムな傾向もありません。
精神に変調をきたした兄をもった作者自身の体験があるからなのか、「かたい表面」や「ひび割れ」のように精神を病んだ人物が登場する話、偶然再会した、恋人に去られたばかりのゲイの担任教師の話「 ミスター・パシフィコの新生活 」、ナチスの強制収容所にいた過去をもつ老婦人とその夫の話「本当の友達」、出戻り息子と父親の「ディスカウントの意味」、これらの作品は心に何かを負っている人々を描いています。人生の小さなつまずきを描いた「新品同様」と「相場」。また、錠前屋だからこそ体験できたエピソードである「ターザン、仲間を見つける」や「話のたね」。「チキン、ロブスター、ビュイック」、「裸の街」は、仕事先で出会った不思議でユニークな人たちが印象的であり、「形見」や「もの忘れについて知っておきたいこと」は、時の流れを感じさせて哀愁をおびています。微笑ましいのは、ベタな設定ながら、ミュージシャンと子供たちと音楽の情景が浮かび上がる「愛のチャペル」。




ニューヨークの錠前屋、街を行くニューヨークの錠前屋、街を行く
(1999/06)
Joel Kostman、 他

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『小さなソフィーとのっぽのパタパタ』 エルス・ペルフロム 徳間書店

2011-07-19

Tag :

☆☆☆☆

ある晩、病気で寝ているソフィーの部屋で、不思議なことが起こりました。部屋中の人形やぬいぐるみが動きだし、人形劇の舞台を使ってお芝居をする相談を始めたのです。ソフィーは思わず叫びました……「わたしもそのお芝居に出たいわ!」気がつくとソフィーは、一番のお気に入りの人形〈のっぽのパタパタ〉と、猫のテロールといっしょに、奇妙な世界にやってきていました。沼にはまったぬいぐるみのクマを助けたり、王さまに会いに出かけたり、帆船で海に乗りだして嵐におそわれたり、ソフィーたちは思いがけない冒険に巻きこまれていきます……。
オランダで、最も優れた児童文学に贈られる「金の石筆賞」と最も優れた子どもの本の絵に贈られる「金の絵筆賞」をともに受賞、さらに「ドイツ児童図書賞」を受賞し、ヨーロッパ中で話題をさらった作品。 内容紹介より



たくさんの児童文学を読んでいるわけではありませんが、そのなかでも本書は異色な部類に入るような気がします。それは盗みもお色気も浮気も死も取り上げられているからです。主人公である女の子ソフィーは病気で子供部屋からずっと出ることができません。だから外の世界がどうなっているのか、知りたいことがたくさんあるのです。なので彼女は「世間」や「人生でなにが手に入るか」ということを知るために、劇作家志望の猫が企画した芝居に参加して、彼女の人生を体験するのです。友情や欺瞞、愛情や嘘、慈愛や残酷、富と貧困、貪欲や無垢、これらのことを彼女がすべて理解するわけではないけれど、そういうものが存在することを知ることはできたのです。
『不思議の国のアリス』の白うさぎやチェシャ猫を思わせる飼猫のテロール、『オズの魔法使い』のかかしを思わせる人形のパタパタ、そしてソフィーはアリスやドロシーの役まわりに似ています。彼女の身には死も通り過ぎるけれど、それも人生のひとつの出来事にすぎません。ソフィーは、芝居が終わった後に、今度は終わりのない旅を始めるのでした。少し悲しいけれど、清々しさのある物語でした。




小さなソフィーとのっぽのパタパタ小さなソフィーとのっぽのパタパタ
(1999/10)
エルス ペルフロム

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テーマ : 児童書
ジャンル : 本・雑誌

『男殺しのロニー』 レイ・シャノン ヴィレッジブックス

2011-07-17

Tag :

☆☆☆

「ふざけんじゃないわよ!」― 美人映画プロデューサーのロニーは、とっさにビール瓶でその大男を殴りつけていた。バーにいた無防備な娘にしつこく暴力をふるっていたから。しかし殴った相手が悪かった。悪名とどろく凶悪男ニオンだったのだ。執念深いニオンはロニーの身元を探り出し、いたぶりながら復讐しようとする。だが、黙ってやられている彼女ではない。悩みむいた末、ロニーはある脚本家の卵の力を借りようとするのだが、その男もまた追われる身だった。追うものと追われるもの、生き残りをかけた死闘がいま、はじまる!シェイマス賞受賞作家が別名義で挑戦する、粋な都会派ミステリー。 内容紹介より



クライムノベルトと「粋な都会派ミステリー」、この相性が良いのか悪いのかわからない組み合わせのためか、どうも不完全燃焼気味の読後感が残ってしまって、何が足りないのだろうと考えてみるけれど、すべてのものが75点としか答えようがないような。32ページ目でヒロインがビール瓶で暴力男をノックアウトして血と粘液を飛び散らせ、49ページ目でピザの配達人がドラッグの売人兄弟をぶん投げてボコボコボッキボッキの開放骨折にさせて以降、終盤にしょぼい単発華火のような暴力場面が打ち上げられるだけで、作品全体をバイオレンスが覆っているのでも、針がバイオレンス側に振り切れているのでもないという欲求不満がつのる展開なのが一番の原因なのかもしれません。それに自主規制なのか暴力行為のシーンが省かれているところもインパクトが薄い原因なのかもしれません。その他、職業柄弱みを見せたり、そういう噂を立てられたら業界でやっていけない切羽詰まった感じ以外に、ヒロインの人物像がいまひとつ確立していないようなきもしましたし、これは彼女の助っ人にも言えることです。




男殺しのロニー (ヴィレッジブックス)男殺しのロニー (ヴィレッジブックス)
(2005/09)
レイ シャノン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『復讐の傷痕』 ローリー・アンドリューズ ハヤカワ文庫

2011-07-15

Tag :

☆☆☆☆

身元不明のその死体がAFIPに運びこまれたのは、特異な銃剣で刺された傷口があったからだ。アレックスはDNA分析で、被害者が最近ベトナムへ渡航するための予防接種を受けていたことを突きとめ、身元を特定する。だが捜査は行き詰まり、アレックスは手がかりを追ってベトナムへ。事件の裏に巨大な陰謀が潜んでいるとも知らずに……難事件に、危険な恋に、体当たりで挑むアレックスの奮闘をスリリングに描く会心作! 内容紹介より



遺伝子捜査官アレックス・シリーズ第二弾。
ベトナム戦争当時に米兵が記念品代わりに持ち帰ったベトナム人の頭蓋骨のDNA調査、ベトナム帰りの公認会計士刺殺事件の捜査、この二件の目的のために主人公はベトナムを訪れたのですが、地方の村の貧困問題をちょっと引っ掻く程度に触れただけであり、はたしてこの訪越場面が必要だったのかどうか。二カ所の事件現場にそれぞれ都合良く残されたバラの棘やステープルが刺さって付いた血痕はあまりにもひねりのない同じ設定。あたかも1970年か80年代のミステリにでも書かれてそうな某人物に対する暗殺未遂事件の設定も安直過ぎるし、作品全体のすべてが上っ面を撫でたみたいに軽い感じがしました。あちこちにさまざまに話を広げたなら、捜査活動によって終盤にはそれが収斂していかなくてはならないわけで、本書においては個々のエピソードの関連性、伏線の回収が不十分な気がしました。ヒロインは父親の心配をしていれば良いのであって、元ベトナム帰還兵とのロマンス小説じみたシーンなんか必要ないでしょう。こういうのを入れるから焦点がぼやけて中身も薄くなるんです。この作者には期待しているのでキリッとしていただきたい。

『殺意の連鎖』ローリー・アンドリューズ ハヤカワ文庫




遺伝子捜査官アレックス/復讐の傷痕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)遺伝子捜査官アレックス/復讐の傷痕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2008/11/21)
ローリー・アンドリューズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『埋葬』 P・J・トレイシー 集英社文庫

2011-07-13

Tag :

☆☆☆

アメリカの地方都市ミネアポリス。この街を護る刑事コンビの真ゴッツィとロルセスは偶然、雪だるまにされた男の死体を発見する。やがて似たような雪だるま発見の報告を受けて二人は、新人女性保安官アイリスが待つダンダス郡へと向かうが……。これは連続殺人なのか!?捜査線上に浮かんだ、秘密めいた共同体「ビタールート」とは?英米が騒然とした異色サスペンス・シリーズ! 内容紹介より



ミネアポリス警察署殺人課シリーズ四作目。
前三作とくらべてみてページ数も登場人物の数も少なめ、内容もややあっさりとしていてストレートな感じがしました。このシリーズは母娘二人の合作ですけれど、これまでの作品と違ってどちらか一方があまり執筆に関与できなかったんじゃないだろうかと想像。それにしてもなんで死体を雪だるま状態にしなくてはいけなかったのか、この点についての説明がなかったような。そうすることで物語に猟奇性を持たせて読者の目を引く意図があったのでしょうか。殺人課刑事コンビの軽口を交えた会話が相変わらずで、これにはもういい加減飽きてしまいましたし、「モンキーレンチ」のくだりも、コンピューターとハッキングの技術を駆使して情報を得るんだろうなあ、マンネリだなあと思いましたが、犯罪捜査どころか警察の通信係の経験しかない新米の女性保安官という新しいキャラクターの登場はユニークでした。

『天使が震える夜明け』P・J・トレイシー ヴィレッジブックス
『沈黙の虫たち』P・J・トレイシー 集英社文庫
『闇に浮かぶ牛』P・J・トレイシー 集英社文庫




埋葬 (ミネアポリス警察署殺人課シリーズ) (集英社文庫)埋葬 (ミネアポリス警察署殺人課シリーズ) (集英社文庫)
(2009/04/17)
P・J・トレイシー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ブルー・ヘヴン』 C・J・ボックス ハヤカワ文庫

2011-07-11

☆☆☆☆

アイダホ州北部の小さな町。12歳のアニーと弟のウィリアムは森で殺人事件を目撃してしまう。犯人はロサンジェルス市警の元警官四人で、保安官への協力を装い二人の口封じを画策する。途方に暮れた姉弟が逃げ込んだ先は、人手に渡る寸前の寂れた牧場だった。老牧場主のジェスは幼い二人を匿い、官憲を味方につけた犯人一味との対決を決意するが……雄大な自然を舞台に、男の矜持を賭けた闘いを描く、新たなサスペンス傑作 内容紹介より



評判通りの良い作品だと思います。でも、期待していたものまではいかなかった感じです。なんというか、クライマックスの銃撃戦のシーンに表されているように基本は西部劇であり、そこにボランティアを装う犯人グループを持ち込んだひねりの利いたアイデアは上手いと思うけれど、西部劇の枠から飛び出すような新しさとかが感じられませんでした。特に主人公は、立ち行かなくなった牧場、離婚した妻や疎遠な息子の存在によって陰影を付けてはありますが、ウェスタンでよく見掛ける寡黙で正義感の強い老カウボーイという一般的なイメージそのままで、あまり造形に芸がありません。それから姉弟が活躍するシーンがなく、その点であまり目立っていなかったのが意外でした。子供がやたら活躍するのは不自然なのは当たり前ですが、もうちょっと印象に残る場面が後半部分にも用意されていればよかったのではないでしょうか。それからもっとメリハリが必要かなと、他の作品を読んだ印象では、もともとけれん味に走るような作家ではありませんけれど。

タグ:C・J・ボックス




ブルー・ヘヴン (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-1)ブルー・ヘヴン (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-1)
(2008/08/22)
C・J・ボックス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『無限の殺意』 アレクサンドラ・マリーニナ  光文社文庫

2011-07-09

Tag :

☆☆☆☆

― 恐喝事件がきっかけで、管区検察局から個人情報のファイルが盗難にあっていたことが発覚した。盗みの実行犯は、折しもアナスタシヤが手掛けていた殺人事件の被害者であった。口封じのためなのか。犯人の真の目的は?捜査を進めるうち、やがて局面は、科学省管轄のある研究所で開発中の、軍事機密に属する戦慄のプロジェクトへと辿りつく……。― 本書でアナスタシヤは結婚を決意!恋人との14年もの長き春にピリオドが。乾杯! 内容紹介より



『アウェイ ゲーム』では、舞台は地方都市であり、主人公がほとんど一人で調査していましたが、本書では、舞台はホームであるモスクワで、身内である犯罪捜査局の捜査官たちとともに捜査に携わっているためか、こちらが受ける作品や主人公の雰囲気が前作とは違っているように感じました。それに、主人公の少々コミカルな一面も描かれていますし、事情聴取の達人であるドツェンコ捜査官みたいなユニークなキャラクターも登場して、全体に暗からやや明みたいに変化している気がしました。
ストーリーの展開は、ミステリではさほど珍しくもない恐喝事件から始まり、それがきっかけになって検察局における盗難事件が明るみでて、そこからまた毒殺事件へ、小さな事件が調べていくうちに大きな事件へ繋がり、新しい事実が判明していくという警察ミステリの基本形です。でも、この王道が、作者のテクニックと相まって一番面白いんじゃないかと思いました。
さて、軍事プロジェクトによって開発中の装置が起こす副次的現象が物語の肝にあたるのですけれど、これが科学的には眉唾物であるために作品の弱点となっていますが、この「装置」は、モスクワに蔓延する凶悪犯罪の温床となっている貧困、差別、格差などの社会問題をシンボライズし有形化したものとして捉えることができるのかもしれません。

『アウェイ ゲーム』アレクサンドラ・マリーニナ 光文社文庫




無限の殺意 (光文社文庫―分析官アナスタシヤ・シリーズ)無限の殺意 (光文社文庫―分析官アナスタシヤ・シリーズ)
(2003/10/10)
アレクサンドラ・マリーニナ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『遥かなる復讐の旅』 マイケル・ギルバート 角川文庫

2011-07-07

Tag :

☆☆

ジョン・ベネディクトの運命を変えたのはイタリアの小村に滞在中に起きた残虐な事件だった。彼は事業を人手に渡し、気ままな放浪の旅を続けていたのだが、ある夜、逗留先の一家が皆殺しにあったのだ。マフィアの仕業だった。一家の勤める向上での内紛を片づけるためにマフィアが雇われたのだ。そしてこの時からベネディクトも追われる身となった。イタリアの山岳地帯からフランスへ、そして海峡を越えてイギリスへ。ベネディクトの長い逃亡の旅が始まる。それは愛する者の命を奪ったマフィアと、その背後に潜む巨人、巨大多国籍企業を相手の、知力をしぼった復讐の闘いの旅でもあった…。 内容紹介より



以下、ネタバレ気味です!ご注意ください。

マフィアがからんだ復讐話だとか聞くと、ドン・ペンドルトンの『マフィアへの挑戦』シリーズやA・J・クィネルの『燃える男』なんかを思い出しますが、それらの作品と比べて本書は読後の爽快感が非常に欠けています。その原因は、まず、主人公が格闘技や武器の扱いに長けたそういう方面のプロではなく、使うのは腕力よりもっぱら経済、法律などの頭脳であること。これがコンゲームの様相を呈しているならば、描きようによっては面白いのでしょうが、そうでもないところ。
それにからんで、実行犯の陰で糸を引いていた中心人物が全くといっていいほど復讐の被害を受けなかったこと。これは彼らの営む巨大企業がダメージを受けると、そこで雇用されている大勢の従業員に解雇などの累が及ぶからという理由付けがしてありますが。この点は作者の意向しだいでどうにでもなるところで。
そして、この主人公がすごく薄情な性格に見えるところ。彼が好意を持っていた人物が亡くなったのにもかかわらず、感情の表出がほとんどなされず。特に、二番目に起きた殺人事件の被害者に対するあっけらかんとした様子は冷たく感じました。
ヒーローが卑劣な敵により損害を被る、からくも逃走し、親切な人物の庇護を受ける、傷を癒した後、敵討ちに出る、基本的なプロットはこういう昔からのパターンを踏襲しています。
面白かったのは、イタリアからイギリスへたどり着くまでの、『捕虜収容所の死』にもあった気がする逃避行の部分くらい。

『空高く』マイクル・ギルバート ハヤカワ文庫
『十二夜殺人事件』マイケル・ギルバート 集英社文庫




遥かなる復讐の旅 (角川文庫)遥かなる復讐の旅 (角川文庫)
(1988/10)
マイケル ギルバート

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『砂漠のサバイバル・ゲーム』 ブライアン・ガーフィールド サンケイ文庫

2011-07-05

Tag :

☆☆☆☆

ベトナム帰還兵キャルヴィン・ドゥガイは怒りに煮えたぎっていた。〈おれをこんな所へ閉じこめたやつらに必ず復讐してやる〉ドゥガイは帰国後五人の人間を死亡させた容疑で逮捕されたが、精神異常ということで無罪になり、精神病院に強制入院させられたのだった。ある夜、ドゥガイは病院を脱走、自分を精神異常と診断した四人の精神科医への報復に向かった。そしてこの瞬間から四人にとって悪夢が始まったのだった。巨匠が放つ傑作冒険サスペンス登場!! 内容紹介より



砂礫と岩、サボテンとまばらな灌木の茂み、そんな場所に素っ裸で放り出された四人の男女。体内にとり憑いている悪霊を砂漠の神の力を借りて追放するためには、四人を直接手にかける訳にはいかず、彼らが死ぬのを遠くから見張るネイティブ・アメリカンで拉致犯の男。四人のなかの一人もネイティブ・アメリカンの血を引き、物語の前半は、彼が子供の頃に父親から教わった知恵をもとにした、砂漠でのサバイバル生活が描写され、後半で犯人との戦いが描かれています。なんといっても一番の読みどころは、水も食べ物も道具もないまま、炎天下の砂漠においてどうやって生き延びるかという部分であり、そのための知恵や技術がいろいろ披露されています。またこれが、いかにもサバイバル技術ありきというようなウンチクじみたものにはならず、ストーリーの流れにそった自然な描き方をされているのと、夜の砂漠と野生動物というような昼間とは別の一面も描かれているところが印象に残りました。それから、犯人が少々気の毒ではありました。

『切迫』ブライアン・ガーフィールド 文春文庫




砂漠のサバイバル・ゲーム (サンケイ文庫―海外ノベルス・シリーズ)砂漠のサバイバル・ゲーム (サンケイ文庫―海外ノベルス・シリーズ)
(1987/09)
ブライアン ガーフィールド

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『隣りのマフィア』 トニーノ・ブナキスタ 文春文庫

2011-07-03

Tag :

☆☆☆

水道工事をサボっては腕を折られ、娘に言い寄っては血だらけにされ……でも、フランスの静かな田舎町の善良な人々は、引っ越してきた変なアメリカ人家族に興味津々。ところがそこへニューヨークから殺し屋が送り込まれた!映画『リード・マイ・リップス』の脚本家が描く、エスプリあふれるギャング(!?)物語。 内容紹介より



ハマる人はハマるだろうし、そうでもない人は何かしっくりこないかもしれないような作品で、純粋なミステリとは言えない物語でした。アメリカ人とフランス人、(元)マフィア家族と平凡な田舎者、こういう文化とか生活習慣とかのぶつかり合いや齟齬がテーマになって、そこに巻き起こる出来事が面白おかしく描かれているのでもない。ほとんど主人公とその家族の視点からしか語られないし、証人保護プログラムによって各地を転々とする根無し草になり、元マフィア一家という立場になった家族とは何か、みたいに彼らの心は内向きになっているのです。主人公は自伝を綴ることに生き甲斐を見いだし、その妻はボランティア活動に心の安らぎを求め、娘は思春期特有の自己憐憫傾向にあり、将来マフィアのボスを目指している息子は学校の生徒たちの人心を掌握しているという具合です。家族がバラバラになりそうなちょうどその時、マフィアからヒットマンが村に送り込まれて、終盤のドンパチへなだれ込むという流れ。
印象に残ったのは、フランスの片田舎の学校新聞(?)がいろいろな人の手を経て、偶然の成り行きで投獄中のマフィアの大ボスの手元に渡ったために、一家の所在地がバレてしまうのですが、その新聞を手にした人たちの個々のエピソードが無駄に妙に詳しく語られていて、この趣向がユニークであり面白かったことです。




隣りのマフィア (文春文庫 (フ28-1))隣りのマフィア (文春文庫 (フ28-1))
(2006/01)
トニーノ・ブナキスタ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『沈黙の虫たち』 P・J・トレイシー 集英社文庫

2011-07-01

Tag :

☆☆☆

アメリカ・ミネソタ州ミネアポリス。都市の忙しなさと、田舎のマイペースさを併せ持つこの土地で連続して起きた奇怪な老人の死。一人が線路に縛りつけられてショック死したと思ったら、今度は次々と老人たちが射殺されていくのだった。一見、無関係な事件が予期せぬ方向に急展開して……。恐ろしいのになぜか笑いが出てしまう異色サスペンス、ミネアポリス警察署殺人課シリーズ、登場! 内容紹介より



これは『闇に浮かぶ牛』でも感じたことなのですが、作者が女性だからか男性の登場人物、刑事四人の書き分けが不十分で、テンションとか言葉使いが似ているので皆同じにように思えて区別がつきにくいです。それと彼らの交わす軽口や無駄口が多過ぎるせいで、肝心のストーリーがそれに埋没し停滞してしまうためにちょっと読み辛いです。たいしたことを喋ってるわけではないのだから、こういう部分は少々削ってスリムにするべきではないでしょうか。終盤になって捜査関係者と被害者家族の二組がそれぞれに事件の真相にたどり着く経緯は、一方が知ってから片方が知るという時間の流れではなく、細かなカット割りで交互にシーンを交えながら同時に真相が判明する展開にしたほうが緊張感はたかまったと思います。また、(ネタばれ→)「ナチスの強制収容所」を取り上げるのならば、もっと違った切り口なりアプローチが必要でしょう。被害者でもあり加害者でもあった三人のなかの二人の心情面についても掘り下げて欲しかった気がします。

『天使が震える夜明け』P・J・トレイシー ヴィレッジブックス
『闇に浮かぶ牛』P・J・トレイシー 集英社文庫




沈黙の虫たち (ミネアポリス警察署殺人課シリーズ) (集英社文庫)沈黙の虫たち (ミネアポリス警察署殺人課シリーズ) (集英社文庫)
(2007/11/20)
P・J・トレイシー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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