『裸の顔』 シドニイ・シェルドン ハヤカワ・ミステリ

2011-08-30

Tag :

☆☆☆☆

精神分析医ジャッドの診療所から帰る途中の患者ハンソンが、雪の乱舞するマンハッタンの舗道で背中をナイフで一つきにされ命を奪われた。さらにその夜、診療所の受付係、黒人娘キャロルが、拷問を受け、全身に硫酸をかけられた酸鼻な死体となって発見された。ジャッドは、息苦しい怒りのなかでハンソンの死を考えた。彼は同性愛という小さな罪のため、長い孤独な闘いを続け、その日ついに勝ったのだ。彼は自由であり、勝者の静かな微笑をうかべていた。なぜ殺されたのか?一体誰に?そして、ジャッドが淪落の底から拾いあげ、大切に育てたキャロルの死は?怒りをすでに遠くこえた、するどい痛みのなかで、ジャッドの困惑はつのるばかりだった。いま何が起っているのだ……一体何が……?ヘッドライトを消した車が、彼に向かって来た時、ジャッドは忽然とさとった。衝撃と激しい痛みで、とぎれ、うすれゆく意識のなかで彼は考えつづけた。ハンソンは彼が貸したコートを着ていた……キャロルは、彼が偶然外出した時に襲われた……そうなのだ、狙われたのは自分だったのだ!しかし、なぜ……?次々と残虐な殺人を重ねながら、迫りくる見えざる敵とは?精神分析医の世界をミステリに導入したサスペンス・ミステリ。1970年MWA賞候補作。 内容紹介より



シドニイ・シェルドン(シドニィ・シェルダン)の処女作品だそうです。アカデミー出版からこの著者の作品が出版されていることは知っていましたが、超訳というなにやら怪しげな言葉とともに語られていたので今まで未読でした。そういう事情でアカデミー出版表記の「シドニィ・シェルダン」自体のイメージもあまり個人的にはよくなかったけれど、本作品はいたって普通のサスペンス・ミステリでした。
特徴といえば、いつまでたっても主人公の命が狙われる理由がわからないことです。非常に怪しい正体不明の人物が関わっていることは徐々に見当がつきますが、その人物がなぜ主人公の死を願うのかがなかなか説明されません。真相は割に単純なのでラスト近くまで引っ張ったのでしょうけれど、できれば患者以外の容疑者も用意されていたら心理サスペンスとして効果的だったのではないかと思いました。
発表当時、一番の目玉であったろう精神分析医の世界を舞台に用いた設定というところは、さほど有効に機能しているようには思えなかったし、時代が経ちすぎたせいかあまりインパクトを感じませんでした。とりあえずコンパクトなサスペンスものでした。かといってこれからアカデミー出版の作品を読もうというまでの魅力はありません。




裸の顔 (ハヤカワ文庫 NV 352)裸の顔 (ハヤカワ文庫 NV 352)
(1984/04)
シドニイ・シェルドン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『無慈悲な鴉』 ルース・レンデル ハヤカワ・ミステリ

2011-08-28

☆☆☆☆

はじめは、愛人との駆落ちぐらいに考えていたものの、ウェクスフォード警部はいまや男の死を確信していた ― 失踪したのは、警部の隣人で会社員のロドニー・ウィリアムズ。その妻に、夫が戻らないと聞いてから二週間後、放置されたままの彼の車がまず発見された。さらに、突然、会社に辞表が送られてきたばかりか、妻に隠していた銀行口座が、池からは彼の身の回り品を詰めたバッグまで見つかった。まもなく、七カ所も刺されたロドニーの死体が掘り出された。折しも近隣では、一人歩きの女に声をかけた男が逆に刃物で傷つけられるという妙な事件が続いており、警部はさっそくロドニー殺しとの関連を調べはじめた。ところが、事件は思わぬ展開を見せた……
死体発見を知って警察を訪れた女は、ウェンディ・ウィリアムズと名乗った。あろうことか、彼女は被害者のもう一人の妻だったのだ!がぜん複雑な様相を呈する重婚者刺殺事件 ― 捜査線上に浮かぶのは、被害者に翻弄されていた二組の妻子、そして、ロドニーの娘も関わる、女権擁護を声高に叫ぶウーマンリブの闘士達……警部の粘り強い捜査が明らかにした事件の真相とは?ミステリ界でつねに動向を注目される実力派の一人レンデルが、現代的なテーマを意欲的に盛り込み、満を持して放つ、シリーズ最新作! 内容紹介より



真犯人も捕まり、おおよその動機も明らかにされ、読み終わるまであと十数ページというところで用事が入ったのでいったん読書を中断して、それにしても今回のウェクスフォード警部シリーズである本書は、読んでいると結構早めに犯人の検討がつくわりに警部のほうはそうでもなくてまどろっこしい思いをさせられるし、全体的にレンデルらしくないあまりぱっとしない作品だったなあ、なんて思いながら用事を片づけて読書に戻るとなんとその後の展開にびっくりさせられてしまいました。悠長な捜査のあとに驚愕の真実みたいな。事件の総括の後でこんなふうなサプライズを仕掛けられる作家はレンデル先生くらいでしょう。どんでん返しよりさらにすごい巧技なのではないでしょうか。これからはくれぐれも、油断してこのひとを見くびらないようにしよう。
最後の展開はたしかにやや強引な印象を与えますし、ウェクスフォード警部が全知全能風にも感じさせるところは不自然な気もします。しかし、作者の一筋縄でいかないミステリの作法がすごくよく表されている作品だと思いました。

タグ:ルース・レンデル




無慈悲な鴉 (ハヤカワ ポケット ミステリ―ウェクスフォード警部シリーズ)無慈悲な鴉 (ハヤカワ ポケット ミステリ―ウェクスフォード警部シリーズ)
(1987/05)
ルース・レンデル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ファイア・アロー奪回作戦』 フランクリン・アレン・リーブ ハヤカワ文庫

2011-08-26

Tag :

☆☆☆

アメリカ軍兵士と家族を乗せた旅客機がアラブ・ゲリラにハイジャックされた。旅客機はリビアに着陸させられ、ゲリラは投獄されている彼らのリーダーと仲間の釈放を要求。だが、リーダーが釈放されただけにとどまり、乗客の処刑が始まった。米政府は急遽、人質奪回作戦の発動を決定。かくて海軍特殊部隊SEALをかなめとする、綿密な計画に基づいた空前の救出作戦が開始された ― 臨場感あふれる迫力のアクション巨編! 内容紹介より



自国兵士とその家族を人質に取られたアメリカ政府、実行犯であるアラブ・ゲリラ、ゲリラを影で支援するリビア指導者、リビアに軍事援助するソ連。この四つの勢力があるわけですが、リビア指導者はゲリラ側の行動に懐疑的であり、またソ連指導部内でもアメリカにたいして強硬派と穏健派が存在してややこしい展開になるという流れがあります。ただ、ポリティカル・スリラーといえるほどドロドロとしたものは感じません。やはり読みどころは、ソ連軍将校により指揮されたT-72戦車とアメリカ軍の空挺戦車シェリダンとの戦車戦をメインにした戦闘場面なのでしょう。
p464からp502にかけてのシーンは、政治(家)に振り回されて戦地に赴き無駄死にする軍人の虚しさをアピールしているのかもしれませんけれど、長過ぎてあまり必要がないように感じました。それから人質になった人物を二三人ピックアップして、彼らの視点から物語を描いたらもっと厚みがでたのかもしれません。




ファイア・アロー奪回作戦 (ハヤカワ文庫NV)ファイア・アロー奪回作戦 (ハヤカワ文庫NV)
(1999/03)
フランクリン・アレン リーブ

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『惨殺の月夜』 テリル・ランクフォード 扶桑社ミステリー

2011-08-24

Tag : ホラー

☆☆☆

殺し屋、レイ・コールダー。冷徹なプロとして生きる彼に、新たな仕事がもたらされる。今回の標的は、殺し屋稼業における師でもある、かつてのパートナーだ。やつは敵側に寝返り、味方の虐殺をつづけているという。ところが、追跡をはじめたコールダーは、予想だにしない死闘に呑みこまれていった ― 殺戮の嵐のなかで燃えあがる愛の行方は、そして人知を超えた戦いの果てに待ち受ける、驚愕の結末とは?! B級映画の巨匠が叩きつける、超ハードバイオレンス・ホラーの傑作! 〈解説・矢部健〉 内容紹介より



読みはじめる前に内容紹介文の「人知を超えた戦い」とか「ハードバイオレンス・ホラー」という言葉を見たら、だいたい“あっち系”か“こっち系”の話なのだろうなと馬鹿でも想像がつく訳で、そしてまた想像通りの話だったのです。同様のシチュエーションだと、新しいアイデアを取り入れたらT1000が登場する映画『ターミネーター 2』みたいになり、やりすぎるとTVアニメ『トムとジェリー』のケンカコントみたいになるのでしょうけれど、本書の場合は他と差別化を図るとか切り口を変えるとかそういうことをいっさいしていないストレートなB級娯楽小説に徹した作品でした。
読者の興味を引くための暴力とセックス場面の伏線なしのプロローグで幕を開け、クールでスマートな殺し屋の主人公がクリーンに仕事を済ませる導入部分、ただし彼はターゲットとなる人物以外の者には危害を加えないし殺す行為そのものを楽しんでいるのでもなく、その仕事に倦きて引退を考えているという弁明を交えつつ、同じアパートの隣りの部屋に住む訳ありの母子にストイックな愛情を抱き、犯罪組織の依頼で、敵側についたとみられる昔の師でありパートナーだった殺し屋の抹殺に向かう、という流れ。当然のことに、この標的が難敵、理由はもちろん“あれ”だから。使われる凶器はシンダーブロックから、四四口径マグナム、ヘックラー&コッホMP5、イングラム・マック10、カラシニコフ、六連式改造ショットガン、LAWSロケットランチャーなどなど、消費された銃弾は一千発以上。




惨殺の月夜 (扶桑社ミステリー)惨殺の月夜 (扶桑社ミステリー)
(2002/07)
テリル ランクフォード

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『アイスクリームの受難』 J・B・スタンリー ランダムハウス講談社

2011-08-22

Tag :

☆☆☆

町にアイスクリーム店がオープン。長蛇の列ができ、カラフルなアイスやサンデーを手にした笑顔の客であふれていた。ところが目と鼻の先にダイエット教室がオープンしたことから、商売敵同士、熱い火花をちらすことに。ジェイムズも明日から始まる過酷なダイエットを前に最後のアイスを堪能していた。そんな矢先、アイスクリーム店が火事で全焼!火災原因に疑念を抱いたジェイムズは仲間と真相を探ることに。ダイエットと美食を応援するシリーズ第2弾。 内容紹介より



シリーズタイトルは〈ダイエット・クラブ〉で、現在までに五作品が邦訳されているようです。わたしは本書がはじめて読む作品なので他ではどうなっているのか判りませんが、コージーミステリなのに主人公が男性だという設定が珍しく感じました。J・F・イングラートの〈名犬ランドルフ〉シリーズか、飲食系では、ピーター・キングの〈グルメ探偵〉が思い浮かびますが、ちょっと違うような気がするし。そして、ダイエット問題、女性問題、父親との同居問題を抱えこんでいる主人公のキャラクターがえらく大人しめで控えめで、ある日突然、奥さんから「あなたとの暮らしは退屈過ぎる」と言われて離婚したトラウマから女性に対しても非常に消極的で、これまたこれまでにない造形を与えられ、個人的にこういう設定がかなり好ましく映りました。
〈デブ・ファイブ〉と自称するおデブな男女五人組が、それぞれの職業(図書館長、美術教師、保安官事務所事務員、郵便配達員、トリマー)に応じて見聞きしたことを報告し合って調査を進めていきます。
ミステリに関してはコージーレベルにすぎませんが、この五人の友情を含んだ関係性も物語にバリエーションを与えるだろうし、これから興味を引く要素だと思います。




アイスクリームの受難 (ダイエット・クラブ2) (ランダムハウス講談社文庫)アイスクリームの受難 (ダイエット・クラブ2) (ランダムハウス講談社文庫)
(2010/02/10)
J・B・スタンリー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『二年間の休暇』 J・ベルヌ 福音館書店

2011-08-20

Tag :

☆☆☆☆☆

本書は、『十五少年漂流記』の名で親しまれてきた作品の初の完訳本。夏の休暇を、スクーナーでニュージーランドの海岸を一周して過ごすことになっていた十 五人の少年たちが、思いがけない事故のため、無人島に漂着する。ときに反目しながらも、さまざまな困難を乗り越え、彼らは島での生活を築きあげていく。小 学校中級以上。 福音館文庫「BOOK」データベースより



子供の頃に抄訳でしか読んでいなかったのでこの完訳本を読んでみました。 やはりあたりまえにすごく面白かったです。大人になって再読した時、子供時代に感じた感動が損なわれない作品が傑作だと思いますが、この作品はそのひとつです。自分の読書体験というものは本書や『ロビンソン・クルーソー』から始まっていると思いますし、こういう作品によって読書の愉しみを知り、今に至るまでその習慣が続いているわけですから、個人的には冒険小説における聖典としてあがめたいほどにありがたい作品です。とりあえず読んでいない人にはぜひ読んで頂きたいし、抄訳しか読んでいない人も完訳本を手に取って欲しいです。
J・ベルヌ(ジュール ヴェルヌ)の作品一覧を見て、改めてこの人はすごい作家だったんだと思いました。抄訳でしか読んでいない作品もあるでしょうから、少しずつ他のものも読んでみようと思います。




二年間の休暇 (福音館古典童話シリーズ (1))二年間の休暇 (福音館古典童話シリーズ (1))
(1968/04/01)
ジュール ヴェルヌ

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テーマ : 児童書
ジャンル : 本・雑誌

『ミランダ殺し』 マーガレット・ミラー 創元推理文庫

2011-08-18

☆☆☆☆

匿名の中傷文の執筆にいそしむ偏屈な老人、マフィアにコネがあると称する九歳の悪ガキ、寄る年波に必死の抵抗を試みる美貌の未亡人 ― こうした登場人物の入り乱れるなか、ある日二人の男女が失踪する。駆け出しの弁護士アラゴンをも巻き込んで、物語は予想外の方向へ……。カリフォルニアのとあるビーチ・クラブに展開する恐ろしくもユーモラスな悲劇の顛末。鬼才の異色サスペンス。 内容紹介より



会話を多用して心理描写を極力省くということがこの作家のスタイルらしく、本書でもそれが見受けられます。ただ、会話のテンポが良過ぎる場合があるためなのか、その会話部分がまるで芝居の台本みたいに感じるところがありました。作者が作品に取り上げる事件というのは三面記事にでも掲載されるようないたって人間臭い、日常のどこにでも転がっていそうなものが多いというイメージで、いわゆる推理小説用に仕立てられた事件とは対照をなしていると思います。そういう俗な事件だからこそ、これまたどこにでもいそうなちょっとネジの緩んだ人物や病むまでには至らないけれど奇矯な人物の存在が目立つのかもしれません。
また、本書にはタイトルにかけたトリックが用意されていて、いつの間にか読者はいつどこで誰によってどうやってなぜミランダは殺されるのだろうか?といぶかしく思いながら読み進めるのですが、読み終わった後でようやくこの作品は、ミランダがいかにして殺されなければいけないはめになったのかという経緯を読む者に丁寧に説明し、追体験させる物語だったんだなと気づくのでした。

『狙った獣』マーガレット・ミラー 創元推理文庫
『殺す風』マーガレット・ミラー 創元推理文庫
『まるで天使のような』マーガレット・ミラー ハヤカワ文庫




ミランダ殺し (創元推理文庫)ミランダ殺し (創元推理文庫)
(1992/02)
マーガレット・ミラー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『アキテーヌ城の殺人』 ナンシー・リヴィングストン サンケイ文庫

2011-08-16

Tag :

☆☆

舞台はヨークシャーの古城。といっても内部は改装され豪奢なヘルス・クリニック。その保養所に集った脛に傷もつ客たち。妻との離婚が決定的になった中年医師。落ち目のTVプロデューサーとその母親。彼の恋人。英国に敵意を抱くアイルランド娘。筋骨隆々のオランダ人等々 ― 。事件は中年医師が到着すると起きた。オランダ人が室内プールの底から死体で発見されたのだ。そして、元税務調査官の経歴を持つ私立探偵プリングル氏が飄々と登場する……。 内容紹介より



渋谷比佐子さんの訳者あとがきに、本作品についての批評がいくつかの書評誌から抜粋して取り上げられていて、そのなかの「小粋にまとめられた」とか「手際よくまとめられ」とか「一応そつなくまとまっており」という表現が本書の可もなく不可もない小振りな作品の雰囲気をよく表していると思いました。英国の現代ミステリ作家っていうと、マリアン・バブソンみたいにミステリ本体よりもユーモアとかシニカルな視点で人物を描写することに重きをおいているひとが多いように思いますが、本書の著者もミステリ部分は触媒に過ぎず、描きたいことはそれによって誘発された軽い人間ドラマなのじゃないかという印象をうけました。舞台である古城を改装した宿泊型のヘルス・クリニックの人間模様はまるで英国階級社会の縮図であり、内部での出来事は現代社会をよく表しているものです。
(ややネタバレ→)「階級や地位をたてに責任を免れる傾向を当てこすったのかもしれないけれど」、犯人に関係する人物への取り扱いとかは不満が残るし、なにかすべての面でやりきれていないという感想を持ちました。




アキテーヌ城の殺人 (サンケイ文庫―海外ノベルス・シリーズ)アキテーヌ城の殺人 (サンケイ文庫―海外ノベルス・シリーズ)
(1988/04)
ナンシー リヴィングストン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『湖底の家』 スチュアート・ウッズ 文春文庫

2011-08-14

☆☆☆☆

新聞社を辞め、作家修業中のハウエルは湖畔の町にやってきた。彼はそこで、ダム建設の際最後まで立ち退き要求に応じず、消息を絶った家族がいたことを知る。彼らはどこへ消えたのか?そして、湖底にたゆたう影の謎は?非協力的な住民たちをまえにハウエルの疑念は深まっていく。現実と幻影が錯綜するゴシック・サスペンス。 内容紹介より



読んでみて不思議に思ったことは、なぜ主人公がもうひとりの人物ではいけなかったのか?ということです。主人公自身は舞台となっている土地とはまったく関わりがなかったわけで、過去の地縁や複雑な人間関係を考慮に入れると「待ちかねられていた人物」は(ネタバレ→)「スコッティ」が自然だし、回りくどく第三者あるいは保護者みたいな人物で話をまわすより、ストレートな設定にしたほうがサスペンス性とか衝撃性がたかまったんじゃないかと思いました。 
また、どうして悪役となる人物を判りやすい悪人らしく造らなかったのか、なぜまだ別の犯罪に手を染めているのか、という点も気になりました。作者は単純な悪役のパターンを避けたかったからなのでしょうか。犯人が受けた谷間の村における因習による呪縛や抑うつされた気持ち、また若い頃に味わった失意が彼を犯罪に走らせたように読み取らせたかったのかもしれないけれど、そういった背景部分の書き込みは不足しているように感じました。この作者はストーリー展開にやや甘さが見られる傾向があるように思うのですが、作品よってはそれがプラスに働く場合もあるけれど、本書ではマイナス気味になっているかもしれません。

タグ:スチュアート・ウッズ




湖底の家 (文春文庫)湖底の家 (文春文庫)
(1993/11)
スチュアート・ウッズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『No.1レディーズ探偵社、本日開業』 アレグザンダー・マコール・スミス ヴィレッジブックス

2011-08-12

Tag :

☆☆☆

プレシャス・ラモツエ―ボツワナでただひとりだけの女探偵。34歳、かなり太め。バツイチ。ひとよんで「サバンナのミス・マープル」。実家を切り盛りしていたラモツエだが、父の死後、遺産の牛を売り、首都ハボローネで探偵社を開いた。のどかなこの地で探偵業は成り立つのかと思いきや、意外や意外、依頼は浮気の調査から失踪人探しまでひっきりなし。鰐や蛇と格闘しなければならないことだってあるが、それでもアフリカの大地をこよなく愛するラモツエは、きょうも手がかりを求めてサバンナを失踪する。持ち前の洞察力と行動力でよろず解決となるか……。世界中が夢中になった名探偵、ついに日本初登場! 内容紹介より



アフリカの国というと、政情不安定だったり、貧困や飢餓とかネガティブなイメージを個人的に描きがちでしたが、作品の舞台となっているボツワナはダイヤモンドの産出国で国政や経済もかなり安定している所らしいです。そういうこともあるのか本書のなかで起きる重大事件といえば誘拐事件くらいで、その顛末もさほど凶悪なものではなく、その他の事件や調査はもっとゆるいものばかりです。これらの市井密着型の犯罪や出来事が連作短編集みたいな形で読みやすくまとめてあります。鰐や呪術がでてくる話にはアフリカらしさを感じたりしますけれど、浮気とか窃盗とかの人類に普遍的な犯罪や事件の解決方法もおおらかでのどかだったりするところがあって、これもまたアフリカらしさを感じました。それから、意図的でしょうが、すべての話に警察官は登場しないし、警察沙汰にする展開にもなりません。ミステリ(謎)自体の雰囲気を大雑把にわけてみると、ミス・マープルものというよりものすごく薄めたホームズもののような気がしました。

『日曜哲学クラブ』アレグザンダー・マコール・スミス 創元推理文庫




No.1レディーズ探偵社、本日開業―ミス・ラモツエの事件簿〈1〉 (ヴィレッジブックス)No.1レディーズ探偵社、本日開業―ミス・ラモツエの事件簿〈1〉 (ヴィレッジブックス)
(2003/09)
アレグザンダー・マコール スミス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『新生の街』 S・J・ローザン 創元推理文庫

2011-08-10

☆☆☆☆

新進デザイナーの春物コレクションのスケッチが盗まれた。次いで五万ドルの現金の要求。“身の代金”受け渡しの仕事を持ち込まれた探偵リディアは、相棒ビルを援軍に指定の場所に赴いたが、不意の銃撃をへて金は消える。汚名返上のため、ファッション界に真相を探ろうとするリディアとビルだったが……?名コンビが早春の街を駆けめぐる、新鮮な現代の探偵物語。待望の第三弾! 内容紹介より



アメリカで少女向けのアニメやコミックがアメリカの女の子にウケ始めたきっかけのひとつに『美少女戦士セーラームーン』の影響が上げられていますが、これは従来のアメコミにおけるスーパーマンやスパイダーマンたちの庇護から放れ、今までにはなかった少女(女性)自身が戦う物語だからという解釈がなされています。

さてそれをふまえて、本書は、岩田清美氏が解説されているように、テーマというほど大げさではないものの、作者が主張したいメッセージがものすごく判りやすい形で表されている作品です。そのメッセージとは親から子、兄から妹、彼氏から彼女への過保護だったり過干渉行為への否定または拒否です。シリーズ第一作目の『チャイナタウン』においても主人公リディアは兄のひとりから善意の干渉をされていましたが、今回も別の兄から余計なお世話的な扱いを受けて憤ったりします。また、ファッション・デザイナーの恋人は彼女に対して独りよがりに過保護気味であり、その母親は典型的な親ばかです。
つまりは、本書の著者もヒロインも、いつまでも手を貸さなくてはならない弱く小ちゃな女の子扱いをせずに、まず人間として捉えてくれというということであり、リディアがいうように好きなこと(探偵家業)をしていて、それでもし死ぬようなはめになってもそれはそれで本望ということなのです。
まあ、しごく全うな意見ですけれど、クライマックスにおいてヒロインの窮地を救ったのは彼女自身ではなく、相棒のビルだったのは、ヒーローぶりたい男を全否定することなく、花を持たせ折衷したということなのでしょうか。

タグ:S・J・ローザン




新生の街 (創元推理文庫)新生の街 (創元推理文庫)
(2000/04)
S・J・ローザン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ロワイヤル通りの悪魔憑き』 ジャン=フランソワ・パロ ランダムハウス講談社

2011-08-07

Tag :

☆☆☆☆

1770年、パリの街は王太子とマリー・アントワネットの成婚を祝う花火大会で大いなる賑わいを見せていた。だが、人と馬車が入り乱れるなか、悲劇が起こる。花火が暴発し、大混乱の末多くの人々が死傷したのだ。使命感に駆られた警視ニコラは惨劇のなかに身を投じる。そして、ある女性の死体に目を留めた。死体がこの惨劇によるものではないと気づいたニコラは調査を進めるが、悪魔に取り憑かれた奇妙な一家に出会い……。 内容紹介より 



以下、ネタバレ気味です!ご注意ください。

邦題にあるように悪魔に憑かれた娘が登場します。この作品のユニークなところは、この娘の周りで起きる怪奇現象や超常現象が科学によって解明されずに、悪魔はエクソシストの力で退散させられているところです。科学的な解釈や分析によって、悪魔の仕業にみえた出来事が人為的なものだったり自然現象だったりするという一般的なミステリとは少し趣を変えています。この趣向はいろいろ評価が分かれるところだと思います。作者としてはやや平板なストーリー展開のなかで悪魔祓いのシーンをクライマックスにもってきたかったのかもしれません。しかし、この部分だけが妙に浮いている感じがしました。ミステリ部分は地味ですが、犯人の意外性はありました。特に、犯罪が起きたそもそもの発端が、ある一人の誰も気にも留めない人物が漏らした意図しない発言だったという設定は巧いです。
このシリーズのミステリ以外の魅力は、パリの社会と主人公が仕えるブルボン王朝のありさまとその行く末にあるわけですが、今回、上流階級の豪奢すぎる暮らしに次第に乖離し、不満の種が芽生えていく庶民の心が表されて、これからの展開と主人公の運命に興味が湧きます。

『鉛を呑まされた男』ジャン=フランソワ・パロ ランダムハウス講談社




ロワイヤル通りの悪魔憑き (ニコラ警視の事件3) (ランダムハウス講談社文庫)ロワイヤル通りの悪魔憑き (ニコラ警視の事件3) (ランダムハウス講談社文庫)
(2010/02/10)
ジャン=フランソワ パロ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ぼくのつくった魔法のくすり』 ロアルド・ダール 評論社

2011-08-05

Tag :

☆☆☆

土曜日の朝、ジョージは、おばあさんと二人きり。ところが、このおばあさん、いじわるで、身勝手で、椅子にすわったまま、ブーブー文句ばかり言っている。ジョージは、仕返しをしてやりたくなった。何か、とてつもないやり方で……。ふと、おばあさんのくすりびんが目にとびこんできた。そうだ!新しいくすりをつくってやろう。頭のてっぺんをドカンと吹きとばすような、魔法のくすりを。 内容紹介より



「ぼく」が調合した「薬」を飲ませたら、おばあさんの身体が大きくなったり小さくなったりする、という話なのです。こういう「物」が「人」に本来の使い方以外の効果や影響を及ぼす、いわゆるワンアイデアの話っていうのは、空飛ぶ絨毯みたいに古くからあって珍しくもなんともないけれど、すごい数のそういう話を集大成したのが、『ドラえもん』シリーズなのだろうなあ、と本書を読んで思ったのでした。『ドラえもん』に罪はないけれど、その弊害は、ワンアイデアの話を読んだら、なんだか『ドラえもん』で読んだり観たりしたような気にさせることなのじゃないかと。なにかわたしの表現力が拙くて、判りにくかったら申し訳ないです。
さて、そんなありそうな話ですけれど、それでも少々驚いてしまうことは、英国文学につきもののブラック・ユーモアといっても一応児童文学の体裁ながら、おばあさんをほっぽりだしたまま終わるという雑でシュールな扱いです。そして限りなく小さくなって、おそらくは原子レベルまでになったであろうおばあさんの存在はなにかSF的であり、庭先に出現した広大な宇宙空間を漂う彼女の心境を想像するとおかしいけれど恐ろしい気持ちにもなるのでした。

『おばけ桃が行く』ロアルド・ダール 評論社




ぼくのつくった魔法のくすり (ロアルド・ダールコレクション 10)ぼくのつくった魔法のくすり (ロアルド・ダールコレクション 10)
(2005/04/30)
ロアルド・ダール

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テーマ : 児童書
ジャンル : 本・雑誌

『嘆きの橋』 オレン・スタインハウアー 文春文庫

2011-08-03

Tag :

☆☆☆☆

惨殺された作曲家。次々に変死を遂げる関係者。黒幕は共産主義政府高官か?事件の深層に触れた若き刑事エミールに捜査中止命令が下る。だが彼は美しき未亡人の命を守るべく、そして徴兵忌避者の汚名を返上すべく捜査を続ける。決死の西ベルリン潜入行が暴いた醜悪な事実とは?話題の大型新人が放つMWA新人賞候補作。 内容紹介より



第二次世界大戦が終わって三年、まだ戦争の影が濃い冷戦下の東欧にある架空の国が舞台です。
共産主義政権下の警察や治安組織を扱った作品は往々にして陰鬱で息苦しい雰囲気になりがちですし、本書もまたそういう傾向ではありますが、ミステリというより冒険小説よりの作品であるのと新米刑事としての主人公の若さがそれを軽減しています。新人として配属された殺人課の上司や同僚刑事に理由も分からないまま無視、冷遇され、あげくに処理を間違えれば首が飛ぶような殺人事件の捜査をまかされるはめに。その事件に関連した暴走行為のせいで銃撃され死地をさまようが、おかげで同僚たちの誤解が解けるという、なにかスポ根ドラマじみた序盤の設定です。上層部からの圧力がかかりながらも、主人公が捜査を進める訳は、政治的な心情でも職業的プライドや理想主義によるものでもなく、そうしなければ愛する女性が殺されてしまうからです。腹部に三発も銃弾を喰らい、痛みに耐えながら杖をついてベルリンまで行き、そこでもボコボコにされながら帰ってくる、この一途さに彼が北欧における体験で失いかけた青春を取り戻したように見えました。明暗のあるなかなか佳い青春小説でもあると思います。

『極限捜査』



嘆きの橋 (文春文庫)嘆きの橋 (文春文庫)
(2005/10/07)
オレン・スタインハウアー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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