『殺意なき謀殺』 ジョゼフ・T・クレンプナー ハヤカワ文庫HM

2011-10-31

Tag :

☆☆☆☆

ホームレスのジョーイは、財布を盗んだ男が心臓発作で急死したばかりに謀殺罪に問われた。刑事弁護士のディーンは彼の弁護を引き受けるが、まもなくジョーイの供述書の署名が偽造されていたという驚愕の事実が浮かんだ。いったいなにが、警察の内部で起きているのか?調査を続行するディーンは、知らぬうち巨大な陰謀に飲みこまれていった!謎に満ちたプロットとスピーディーな展開で一気に読ませる注目のサスペンス  内容紹介より



本書によると、ニューヨーク州法では、強盗、強盗未遂を犯した者が、他人を死にいたらしめた場合は、謀殺罪を適用されるのだそうです。被害者が逃げようとして車にはねられたり、勝手に転倒したりして死亡した場合など、犯人がまったく手を触れなかった偶発的、突発的なことが死因だとしても、それは計画的な殺人と見なされるそうです。本書では、ホームレスの男が、強盗行為を働いている最中に被害者が心臓発作で死亡したという理由で逮捕されます。逮捕直後の供述書で犯行を認め、目撃者の証言もあり、男は謀殺罪に問われます。しかし、彼は供述書の内容を否定し始め、被害者は声をかける前に突然倒れたのであり、それから財布を盗んだだけだと主張します。弁護を担当した主人公が調査しはじめると次々に不審な点が浮かび上がってくる……。
休日に趣味のロッククライミングやスキーをしに出かけたり、結婚前の友人の独身パーティーに参加したり(これらは伏線にもなっているわけですが)などの弁護士の日常場面やホームレスからの視点も描かれていたりと読者を飽きさせない工夫もなされています。また、公判が始まる前に決着するため、法廷を舞台とした検察官と弁護士の丁々発止のやり取りが描かれていないところは、従来のリーガル・サスペンスとは少し趣を異にしていると思います。犯罪動機が明らかになってからクライマックスまでの処理が若干まごついていて、それまでのスムーズな流れが滞ったように感じましたが、非常に読みやすくて面白いリーガル・サスペンスの佳作です。




殺意なき謀殺 (ハヤカワ・ミステリ文庫)殺意なき謀殺 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(1997/04)
ジョゼフ・T. クレンプナー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『マーメイド』 マーガレット・ミラー 創元推理文庫

2011-10-29

☆☆☆

娘の名はクリーオウ、自称二十二歳。とある風の強い午後、スメドラー法律事務所を訪れた彼女は、謎めいた台詞を残して帰途についた。そして数日後、ひとつの報せがもたらされる。娘が失踪した、という。捜索に駆り出されたアラゴンだったが、澱んだ池に投じられたこの一石は、人々のあいだに意外な波紋を描き出していく……。心に弱点を負った男女の軌跡を辿る、異色サスペンス。 内容紹介より



マーガレット・ミラーが六十七歳の頃の、著作リストでは二十四番目にあたる作品です。『ミランダ殺し』と同じく弁護士のトーマス・アラゴンが登場し、そして作者が好む“失踪人捜し”がミステリの要素の一つになっています。ハード・ボイルド作品に多く見られるように、通常、失踪人捜しは、探し出す過程で失踪人の人物像が明らかになっていき、生き死に問わずその人物が発見されて物語が終わる手順をとるのが普通だと思いますが、ミラーの場合、失踪部分は序章みたいなもので、そこの部分においてキャラクターやその境遇の説明を行い、失踪人が再び現れてから起きる出来事を主題にしているように思います。これは、同じく失踪をテーマにしながら、失踪や行方不明そのものをトリックに使うことを好むルース・レンデルとは違っているところです。
さて、本書は第一部に少女、第二部に女、第三部に人魚と見出しが付けられています。これはヒロインが物語のなかで変化する様子を示しているのだと思いますが、「人魚」とは、彼女の無邪気さと彼女が原因で起きる悲劇の凶兆とを含めた意味で現している言葉なのでしょうか。自己満足で方向性が誤った愛情を施した人々と施された人々の破局とそれにに巻き込まれた人たちの物語でした。

タグ:マーガレット・ミラー




マーメイド (創元推理文庫)マーメイド (創元推理文庫)
(1993/01)
マーガレット・ミラー

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『憤怒』 G・M・フォード 新潮文庫

2011-10-27

☆☆☆☆

シアトルを震撼させた連続レイプ殺人。逃げ延びた女性の証言で、強制猥褻の前科がある悪党が逮捕され、市民は安堵した ― はずだった。だが、死刑執行6日前、新聞記者コーソを証人の女性が訪ねて、偽証だったと告白。冤罪を確信したコーソは真犯人探しに乗り出した。さらに新たな犠牲者が出るに至り、事件は思わぬ結末を迎えた!推測不能、純度100%の時限爆弾サスペンス登場。 内容紹介より
以下、ネタバレ気味です!ご注意下さい。



フランク・コーソ・シリーズの一作目。
三作目や四作目よりも佳くできているように思えました。とにかく、プロットがくどくなく、過剰に幾重にも捻っていないところが好感が持てます。もっと凝り性の作家だったら証言を偽証した女性を犯人のターゲットにさらすでしょうし、死刑囚、彼を撃った男性、新聞社の警備員の三人のうちの誰かは殺していたのではないでしょうか。ただ、この三人全部が助かるという設定もややおめでたい気がしますけれど……。また、雑魚キャラとして処理してしまいそうな目撃者の少年の扱いの良さ、不仲だった編集主幹との和解、女性の証人を新聞社に勤めさせたりする展開など、一般的に殺伐とした内容になることが多いシリアルキラー・ミステリおいて珍しく八方丸くおさまって終結する温かい、または甘い流れが結構新鮮に感じましたし、個人的に好印象を受けました。一方、犯人側からの反撃、悪巧みがなく、存在感が薄めだったのにはやや拍子抜けでした。スリリングな展開が好きな読者には物足りなさが残るかもしれません。ジェットコースターに乗り疲れた方にはお勧めかもしれません。

『白骨』G・M・フォード 新潮文庫
『毒魔』G・M・フォード 新潮文庫




憤怒 (新潮文庫)憤怒 (新潮文庫)
(2003/09)
G・M・フォード

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『殺意がふたりを分かつまで』 ジェイムズ・パタースン ヴィレッジブックス

2011-10-25

☆☆☆

FBI捜査官ジョンは不可解な大金の海外流出を調べていくうちに、1人の不審な女の存在を知った。女の名はノラ。すこぶるつきの美人でキャリアも完璧、大勢のセレブな男性との恋愛を楽しんでいる。だが、彼女には裏の顔があった。その魅力で虜にした男たちの財産を手に入れるべく、セックスの甘い余韻のなか、相手に毒を盛って死に追いやっていたのだ。ジョンは保険勧誘員を装ってノラに近づくが、あろうことかお互いに惹かれ、激しく愛し合うようになる。しかし、ノラの殺意はすでにジョンを標的にしていた……。巨匠パタースンが贈る手に汗にぎるラヴ・サスペンス! 内容紹介より



備え持った才知と美貌で金持ちの男たちを虜にし、やがて殺して財産を奪ってしまう毒婦が登場する非常に苦みの効いた異質なロマンティック・サスペンス。パートナーとして申し分のない相手でも軽く毒殺してしまう女性を主人公のひとりにしている過激さが売りでしょうか。昨今、隆盛を極めるロマンティック・サスペンスへの風刺も少しは入っているのかも。とにかく、なぜ愛して大切にしてくれる男を殺してまで、それほどお金に執着するのかという点も含めて、ヒロインの人物像が掘り下げられていないので作品全体に軽めな娯楽小説的雰囲気があって、そこが良いところでもあるし物足りなさを感じるところでもありました。
ところで内容とは関係ありませんが、『ビーチハウス』では、ピーター・デ・ジョングが共著者として名前があがり、本書ではハワード・ローワンの名がクレジットされているのですけれど、両作品ともそのあたりの経緯に触れられていないのです。パタースンの創作活動って知らないけれど、人気作家らしいから、いわゆる“レンブラント工房”みたいなものなのでしょうか。

タグ:ジェイムズ・パタースンジェームズ・パターソン




殺意がふたりを分かつまで (ヴィレッジブックス)殺意がふたりを分かつまで (ヴィレッジブックス)
(2008/09/20)
ジェイムズ・パタースン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ねこ捜査官ゴルゴンゾーラとハギス缶の謎』 ヘレン&モーナ・マルグレイ ヴィレッジブックス

2011-10-23

Tag :

☆☆

わたしは、麻薬密輸捜査官D・J・スミス。エディンバラ近くのホテルをアジトにブツの取引が行われているとの内報を調査するため、パートナーのゴルゴンゾーラを連れて現地に赴いた。彼女はレッド・ペルシャの雑種で元野良猫、鋭い嗅覚を発揮して思いがけず麻薬探知猫に抜擢されたのだ。作戦コードネームはスコッチ・ミスト、高級キャットフードが詰まった鞄片手にホテルへ向かったのだが……着いて早々さんざんなトラブルに見舞われながらも潜入捜査を開始。オーナー夫妻や宿泊客のだれもが怪しく思えるなか、やがて殺人事件が……。ふてぶてかわいい天才猫とうっかりスミスの名コンビ登場、痛快なコージー・ミステリー。 内容紹介より



猫ミスといったらこのひと羽田詩津子氏の訳者あとがきによれば、作者はエディンバラ在住の双子の姉妹で、ロマンス小説を書いても目がでなかったため、ミステリに転向して書いたのが本書だそうです。初めてのミステリ作品なので気合いが入ったのかどうだかわかりませんが、とにかく主人公が池に入ったり、階段から突き落とされたり、ゴルフボールで狙われたり、溺れかけたり、拉致されたり、殴られたり、一章ごとに大なり小なり事件や出来事が起り、そこに殺人事件も挿み、猫のエピソードも付け合わせるという読者サービスを発揮しています。しかし、主人公が調査や捜査に出かけて行っては悪者にヨレヨレボコボコにされて帰ってくる、この第一ラウンドから第九ラウンドまで毎回同じパターンの繰り返しという芸のなさと強弱のリズムの乏しさで、読んでいて慣れて飽きてしまう逆効果現象を起こしてしまっているのです。もしかしたら被虐趣味のひとには面白いかもしれませんけど。シリーズ化しているらしいので登場人物を使い回す意図でもあるのか、ラストの処理もすっきりしませんでした。




ねこ捜査官ゴルゴンゾーラとハギス缶の謎 (ヴィレッジブックス)ねこ捜査官ゴルゴンゾーラとハギス缶の謎 (ヴィレッジブックス)
(2009/02/20)
ヘレン&モーナ ・マルグレイ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『サンタフェの裏切り』 スチュアート・ウッズ 文春文庫

2011-10-21

☆☆

ウォルフは独立映画プロデューサー、友人の監督といい感じのコンビを組み、ブロンドの妻は元女優。ある朝、ニューメキシコの朝日がアドービ煉瓦を染める頃、ウォルフは知った、自宅の客用寝室で、妻と監督とそして彼自身が、散弾銃で惨殺されたことを。生きている自分は今グランド・キャニオン。そして前夜の記憶がまるでない… 内容紹介より



ある朝、妻と友人さらに自分自身の死亡報道を新聞記事で読むというショッキングな出だしはインパクトがたっぷりです。そして、ミステリ作品を読みつけている身としては、犠牲者の顔が判別できないほどの状態になっていれば偽装殺人を疑ってかかるのが自然であり、主人公夫妻のかかり付けである精神科医と主人公の妻の共謀疑惑の推理も持ちつつ、または愛人と強盗殺人事件を起こして服役中の妻の妹も、容姿がそっくりであることから、なんらかのすり替わりをしたのじゃないかと怪しく思ってしまうのです。あるいは、主人公が事件当夜の記憶をいっさい喪失しているので、念のためアクロバティックで禁じ手すれすれの主人公犯人説も一応考慮に入れておかなくてはならないのです。
さて、実際にストーリーが進むにつれ、作者による読者(わたしのこと)が目星をつけた容疑者つぶしも進んでいき、ある者は殺され、ある者はなんとなく灰色から白っぽくなってしまうのです。その結果、
正体を現した真犯人は……、トリックは……。とにかく作者の設定不備、詰めの甘さが目立ちました。指紋採取と照合は、ミステリ作品の基本中の基本ではないのか!ぷんぷん。この作家の作品のなかでも凡作に入ります。

タグ:スチュアート・ウッズ




サンタフェの裏切り (文春文庫)サンタフェの裏切り (文春文庫)
(1995/01)
スチュアート・ウッズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『スリー・パインズ村の無慈悲な春』 ルイーズ・ペニー RHブックス・プラス

2011-10-19

☆☆☆☆

美味しいビストロと居心地のいいB&Bで休暇を過ごすためにスリー・パインズ村にやってきた占い師ジャンヌ。ひょんなことから降霊会を開催するように頼まれてしまった。場所は美しく穏やかなこの村で唯一の邪悪な場所、丘の上にある旧ハドリー邸。イースターの聖なる日曜の晩、興味本位で集まった村人たちの前で、死者を呼び出す儀式が始まったが……。ケベックの伝説的警部ガマシュが今回も大活躍。好評シリーズ第3弾! 内容紹介より



このガマシュ警部シリーズの第一作目から“アルノー事件”として語られてきたサブストーリーが、本書で終結(おそらく)を迎えます。この真相がかなり意外性とサスペンス性があるため、メインストーリーがちょっと脇に押しやられているような感じがしました。本書で明らかになるメイン、サブ両方の事件の動機は同じような心理状態から発しており、テーマ自体をさかのぼれば旧約聖書にたどれるほどにベーシックなものですが、 メインストーリーのほうが展開がゆっくりめで地味なためにそんな印象を受けたのだと思います。登場人物たちの感情の襞を精細に描き出し、今回、降霊会という怪奇性を帯びているのが珍しいくらい、けれんよりも人物それぞれの心理ドラマに重きを置く作者の織り出すような緻密な作法が、長野きよみ氏の訳もあわさって、非常に優れた形で作品に表されています。                                      
また作者は、負の心理を描きながらも根底にあるには信頼や慈愛であり、これはガマシュが裏切りに遭いながら恨むのではなく悲しんだ心情やスリー・パインズ村の住人が旧ハドリー邸に行った前向きな行動に現れていると思います。

『スリー・パインズ村の不思議な事件』ルイーズ・ペニー ランダムハウス講談社
『スリー・パインズ村と運命の女神』ルイーズ・ペニー ランダムハウス講談社




スリー・パインズ村の無慈悲な春 (RHブックス・プラス)スリー・パインズ村の無慈悲な春 (RHブックス・プラス)
(2011/05/11)
ルイーズ ペニー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『そばかすの少年』 ジーン・ポーター 角川文庫

2011-10-17

Tag :

☆☆☆☆

孤児で片腕のそばかすの少年は、飢えに苦しみ、愛情を求めてさまよい歩いていた。しかし、思いがけないきっかけでリンバロストの森の番人になったそばかすは、森の生活で友情と信頼を勝ち取ってゆく。そんなそばかすが心を寄せる少女エンゼルは、町の社長のお嬢様。そばかすに無邪気な好意を抱いてくれる。身分の違いに苦しむそばかすはエンゼルへの思いを断ち切ろうとするが…。そばかすの運命は?人間の新の美しさを描いた傑作。 内容紹介より



1904年発表され、角川文庫からは1964年に出版された作品。
大の男でもためらうほどに過酷で孤独なリンバロストの森の番人に就いた少年。野生動物の姿やそれらの鳴き声や咆哮、正体不明の不気味な物音、闇のなかで膨らむ恐怖心、当初はこういうものに都会で生活していた少年は悩まされ脅えますが、次第にそれになれていき、自然とそこに生きる動植物を愛し始めます。作者の体験をふまえた自然、野生動物の豊かな描写と少年の心の変化と成長する様子、この二つが非常に巧く合わさっている作品だと思います。人が信頼を寄せ、好きにならずにいられない主人公の実直ぶりや彼に実の子のような愛情を注ぐ支配人の言動など、現代の小説とは異なる感情の表出表現が読んでいて木っ恥ずかしくもなり、また時代を感じさせたりしますけれど、たまにはそういうのも必要でしょう。
それから、“エンゼル”や“鳥のおばさん”といった女性の登場人物たちが、主人公に勝るとも劣らない活躍を見せている点が、この時代の物語においては男が主であり女が従で庇護される立場にあるというイメージとまったく違っていて、先進的であり意外に思いました。
本書は絶版だと思いますし、少々、会話部分の訳に古めかしさがあって、やや読みにくさを感じましたから、これから読もうという方は、光文社古典新訳文庫から鹿田昌美氏訳で出ているものをご検討下さい。




そばかすの少年 (角川文庫)そばかすの少年 (角川文庫)
(1964/03)
ジーン・ポーター

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そばかすの少年 (光文社古典新訳文庫)そばかすの少年 (光文社古典新訳文庫)
(2009/05/12)
ジーン・ストラトン・ポーター

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テーマ : 児童書
ジャンル : 本・雑誌

『ママのトランクを開けないで』 デボラ・シャープ ハヤカワ文庫

2011-10-15

Tag :

☆☆☆

ここは華やかなフロリダのイメージとはほど遠い田舎町、ヒマーシ。わたし、メイス・バウアーは森林公園に勤め、副業でワニやスカンクなどの迷惑動物を駆除してもいる。母のロザリーは、いつもおしゃれで誰とも親しく接する典型的な南部のおばちゃま……だけど、彼女の車のトランクから男の死体が見つかった!殺人容疑をかけられた母の汚名を晴らすため、わたしは姉や妹と真犯人をさがすことに。でも周囲には怪しい人ばかりで ― フロリダの肉牛地帯を舞台に、軽快なユーモアを盛大にもりこんだ、全米で人気の絶品コージー・ミステリ。 内容紹介より



本書は、〈メイス・バウワー・ミステリ〉シリーズの第一作目です。
背表紙に「isola」というロゴが付いていたので調べてみたら、早川書房の《イソラ文庫》編集部の「今日もいい空。イソラ文庫日記」という公式ブログ*があって、それによると、「日本の女性読者のために、女性編集者たちが厳しい眼で選んだ心躍る読みものを提供する新文庫を立ち上げ」、「文芸、コージー・ミステリ、ロマンスなど海外の良質なエンターテインメントをお届けする」のだそうです。

以下、ネタバレ気味です!ご注意下さい。

というわけで、対象外読者のわたしが空気も読まず本書を読んで感想をたらたら書かせて頂きます。
主人公が森林公園勤務という以外はコージー・ミステリにものすごくありがちな設定で、家族構成は母親と三姉妹(主人公は次女)、二人の男性の間で揺れる乙女心(三十歳代ですけど)、そのうちの一人とは反発しながら惹かれあうみたいなシチュエーションで……。
母親の車のトランクから死体発見、母親逮捕、被害者の裏の正体判明、母親の交際相手に疑惑、主人公の元恋人に疑惑、主人公が車の事故で殺されそうになる、被害者の過去の浮気が発覚、母親宅へ脅迫状、被害者の婚約者失踪、という具合に次から次に事件や出来事に富んでいてあまり飽きないのですが、300ページから360ページほど流れが停滞、あるいは進行が緩慢になっている原因は、主人公と男性ファッション雑誌のモデル並みにハンサムな刑事との男女のシーンにあって、こういうお約束の場面は女性読者向けのコージーには本当に必需なのかどうかと疑問に感じたのでした。それから、読み落としたのかもしれませんけど、死因と使用された凶器についての記述が終盤あたりまでなされていないような。

*http://blog.hayakawa-online.co.jp/isola/、2011年6月現在、更新は止まっています。




ママのトランクを開けないで (イソラ文庫)ママのトランクを開けないで (イソラ文庫)
(2010/04/05)
デボラ・シャープ Deborah Sharp

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『懸賞首の男』 ブレット・バトルズ ランダムハウス講談社

2011-10-13

Tag :

☆☆☆☆

ジョナサン・クィンはフリーランスの〈掃除屋〉。政府機関に雇われ、諜報工作の現場から痕跡を消し去るのが仕事だった。だが、今回与えられた任務はいつもと勝手が違った。正体不明の男の焼死事件を追ううち、雇い主の〈オフィス〉所属の工作員が次々と殺害され、クィン自身の首にも多額の件賞金がかけられたことがわかる。一旦身を隠したクィンは、裏世界の情報網を駆使して巨大な陰謀への反撃を開始したが……!?正統スパイ・アクションに新星出現! 内容紹介より



〈掃除屋クィン〉というシリーズタイトルがついてます。
映画『ミッション:インポッシブル』みたいな雰囲気を持った作品で、内容は万人ウケしそうな程度に軽めで展開はスピーディーです。ご都合主義的な流れや粗も目に付きますが、敵側のボスの意外性、その動機(これだけ騒がしといてそれが事の発端かよ!みたいな問題はあるけれど、人間の愚かな性と言えばまあ納得できるかも)、テロ計画の思想的背景などの要所は押さえてあるので全体に破綻は感じられませんでした。主人公は工作活動の下準備をしたり、その現場から死体を含めた工作活動の痕跡を掃除するのが仕事なので、殺しのライセンスを持っているスパイたちとは業種を違えているところが作品の味噌になっているし、これからの作品に内容的にも様々なバリエーションが与えられる設定だと思います。ただ、わたしは、スパイ小説ではアダム・ホールの『不死鳥を倒せ』の主人公であるクィラーの造形が好みなのですが、それからすると、この主人公の存在感は薄目な傾向にあって、とりあえず今回はあまり印象に残るタイプではありませんでした。シリーズ作品ですから次回作以降に期待します。




懸賞首の男 掃除屋クィン1 (ランダムハウス講談社 ハ 10-1 掃除屋クィン 1) (ランダムハウス講談社文庫)懸賞首の男 掃除屋クィン1 (ランダムハウス講談社 ハ 10-1 掃除屋クィン 1) (ランダムハウス講談社文庫)
(2009/08/10)
ブレット・バトルズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『苦い祝宴』 S・J・ローザン 創元推理文庫

2011-10-11

☆☆☆☆

中華料理店で働く青年四人が、ある日突然揃って姿を消した。彼らが勤めていたのは、チャイナタウンの大物が経営する有名店。最近始められた組合活動に関して、店と対立があったらしいが、その程度のことで拉致されたり消されたりするはずもない。半ば強引に捜索の仕事を引き受けたリディアは、相次ぐ予想外の展開に翻弄される。〈リディア・チン&ビル・スミス〉シリーズ第五弾。 内容紹介より



相変わらず家族、友人、知人から探偵稼業を心配され、大人扱いされていないように感じてイラッとすることが多いヒロインです。これはチャイナタウンというコミュニティのなかで母親(家族)と暮らす者にとっては致し方のないことで、翻って見るなら愛情、特に家族愛の裏返しでもあるわけで、彼女の相棒であるビル・スミスが自分の家族や不幸だったと思われる子供時代を語ろうとせず、孤独の影がうかがえるような人物設定になっているのとは対比的です。主人公を作品ごとに交代して務めさせる作者の意図は、人種、性別、境遇の異なるふたりの生き方、考え方の違いを際立たせるということもあるのかもしれません。それによって作品の雰囲気がかなり違っているように思います。
今回はヒロインのホームであるチャイナタウンに新勢力が台頭し、旧来の権力者の経営する店で起きた労働争議中に姿を消した店員たちに彼らが関わっていた疑惑が持ち上がり、そんななか労働組合の事務所で爆発事件が発生したり、不法入国や麻薬密輸入も明らかにななったりして、怪しい人物たちもわんさか登場しますが、そういった諸々がキレイに収斂していくところはさすががローザンさん。

タグ:S・J・ローザン




苦い祝宴 (創元推理文庫)苦い祝宴 (創元推理文庫)
(2004/01)
S・J・ ローザン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『街中の男ーフランス・ミステリ傑作選(1)』 ジョルジュ・シムノン 他 ハヤカワ文庫HM

2011-10-09

☆☆☆

凍てつく冬のパリ、寒風吹きすさぶ街中で、一人の男を追って、後に語り草にもなるメグレの大尾行が始まる。尾行に気づいた男は、身元を明らかにする全ての物をセーヌ河に投げ捨て、名のない男となって街をさまよいつづける。男はなぜさまようのか?メグレはなぜ彼を追うのか?執念の追跡行を描く上記シムノンの表題作をはじめ、ポアロー/ナルスジャック、グリゾリアらフランスの代表的ミステリ作家のの作品に加え、サガンら異色の顔ぶれによるミステリを収録。洒落たフランス・ミステリのエッセンスを独自にパックした傑作アンソロジー! 内容紹介より 



「街中の男」ジョルジュ・シムノン、「犬」ポアロー/ナルスジャック、「とんがり山の穴奇譚」カミ、
「見えない眼」スタニスラス・A・ステーマン、「七十万個の赤蕪」ピエール・ヴェリ、「羊頭狗肉」フランシス・ディドロ、「悪い遺伝」フレデリック・ダール、「壁の中の声」ミシェル・グリゾリア「つき」ルイ・C・トーマ、、「殺人あ・ら・かると」フランソワーズ・サガン、「自殺ホテル」アンドレ・モロワ 以上、収録。

「街中の男」は内容紹介にかかれているので、以下はその他の作品について。

「犬」
夫のおじさんが旅行中、留守番と飼い犬の世話をするために屋敷にやってきた夫妻。犬はすぐに妻になつくが、古い馬車がしまってある車庫のなかのある場所では突然牙をむいて唸り、吠えたりして脅えだしてしまう。やがて離れでおじさんの死体が発見され、残された遺書から病気を苦にした自殺と判断された。まもなく全財産を相続する親戚の男が屋敷に現れるのだが……。短編ながら手抜きがなく、注意深く伏線が貼ってある良作。

「とんがり山の穴奇譚」
ピレネーにある断崖絶壁に立つホテルの一室で、深夜、突然グロテスクなうめき声が聞こえ始めた。声は宿泊客が発したものではなく、室内のどこかから聴こえてきたものだった。ホテルの支配人は偶然泊まりあわせていた素人探偵ルフォック・オルメスに怪奇現象の調査を依頼する。怪談と艶話をミックスしたようなフランスらしい話。

「見えない眼」
目の不自由な人たちを収容している施設が五回も放火されながら警察は真犯人を捕まえられない。思い余った所長は、探偵シラ・ロールに調査を依頼する。犯人捜しというか立証のやり方が今なら人権侵害としかいいようのない方法で、やられた人たちがトラウマにならないか心配。

「七十万個の赤蕪」
大手出版社の社長秘書のもとへ、七十万個の赤蕪についての覚えのない取引に関した手紙が届いた。社長以下社員一同一笑に付すがその後も赤蕪の契約についての手紙が届けられ、ある朝、自宅で薬品を嗅がされて意識不明になった社長秘書が赤蕪の青葉とともに発見される。そしてまた同様の手紙が副秘書のもとに届き、やがて彼は何者かによって拉致されてしまう。出版社はおかかえの推理作家三名に事件の謎を解かせようとするのだが……。捻りの利いた趣向が愉しい作品。

「羊頭狗肉」
肉屋の妻が車を運転中に事故を起こして死亡した。何の変哲もない自動車事故だと思われたが、ささいなことでかかわり合いになった警視が調べはじめると、彼女の死は毒薬によるものであり、また彼女は店の使用人と浮気をしていたことが判明する。当然嫌疑は夫に向けられる。よくあるオチですけれど、結構面白かったです。

「悪い遺伝」
若者は、近々結婚すること、その妻は産褥で死ぬこと、産まれた子供は殺人者になることをジプシーの女占師に予言された。そのとおりの運命をたどった若者が子供にとった行動とその結末。

「壁の中の声」
男が入浴していると女の声が聴こえてきて……。エッセンスの分からない幻想小説。グリゾリアはよく理解できません。

「つき」
アパートの住人から頼まれて宝くじを買ってきた管理人は自分用にも一枚買い求めていた。ラジオで当選番号が発表され、住人に渡した一枚が当たりくじだったことを知った彼のとった行動とは……。予想がつく結末ですけど、とても皮肉が利いたスタンダードな話。

「殺人あ・ら・かると」
ヴェニスにあるホテルのテラスで食事をする二組の夫婦。妻の一人は女友達であるもう一組の妻の夫と不倫していたが別れを告げられ、浮気を知った夫には離婚を持ち出されていた。そして不倫相手を愛している彼女のハンドバッグのなかには一挺の銃が用意されていた。別れ話を告げられた人妻の心の移ろう様を短時間に描いた心理サスペンス。

「自殺ホテル」
株の大暴落で破産してしまった男。愛妻に去られ、万策も気力も尽きた彼宛にあるホテルから一通の手紙が届いた。そのホテルでは命を絶ちたいと願う人にたいして、眠っているうちに安らかな死のサービスを提供する用意があるという内容だった。宿泊した彼はそこである魅力的な女性に出会う。どこかで読んだことがあるような、これまた非常にシニカルな一品でした。

『心やさしい女 ーフランス・ミステリ傑作選(2)」カトリーヌ・アルレー他 ハヤカワ・ミステリ文庫




街中の男 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 102‐1))街中の男 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 102‐1))
(1985/04)
ジョルジュ・シムノン、長島 良三 他

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『大座礁』 ジェイムズ・W・ホール 講談社文庫

2011-10-07

Tag :

☆☆☆

マイアミの名門一族の血を継ぐ問題児ハップ・タイラーの兄が変死体で発見された。考古学者の兄が死の直前に打ち明けた一家の秘密とは?政治家、不動産業者、殺し屋……彼の周囲に蠢く個性豊かな悪役たち。ジェイムズ・エルロイ、ローレンス・ブロックが絶賛したセクシーでヒートな第一級ピカレスク小説、登場 内容紹介より



山岡訓子氏の訳者あとがきによれば、上記の作家以外にジェイムズ・クラムリィ、エルモア・レナードも誉めているようだし、本書の奥付を見てみると1997年6月に5刷目の増刷をかけているので、世間の評価は決して低くはないのでしょう。なのでフロリダ・ミステリ系の作品がお好きな方には向いていると思われます。しかしながら、わたし個人はこういうジャンルは好みではないので面白さを感じられませんでした。とにかく善悪ともに魅力が乏しい。凪いだ海面にたたずむウィンドサーフィン(主人公はボード製作者なので)みたいな、なんだかこう茫洋としてはっきりしない、しかも若干間抜けな主人公のキャラクターに不満を感じました。登場人物のなかには女性上院議員も悪役としているけれど、彼女も含め概して悪党たちの精神的小物感が強く、悪事のよりどころが金銭欲と権力欲のみという捻りのないストレートでワンパターンなもので、機略に富んでいたりするプロットじゃないのがつまらないのです。下衆な欲望に駆られた小悪党のあがきこそが現実的だし、そのさまがまた魅力的だと思うひともいるでしょうけれど……。

『凍った熱帯夜』ジェイムズ・W・ホール ハヤカワ文庫




大座礁 (講談社文庫)大座礁 (講談社文庫)
(1996/08)
ジェイムズ・W・ホール

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『キリンの涙』 アレグザンダー・マコール・スミス ヴィレッジブックス

2011-10-05

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☆☆☆

ボツワナ唯一の女探偵マ・ラモツエは幸せだった。みずからおこしたNo1レディーズ探偵社の経営も順調だし、なんといっても素晴らしい男性、ミスター・J・L・B・マテコニと婚約したのだ。いそいそと結婚準備を進めていたところへ、新しい依頼人がやってくる。アメリカから来たというそのご婦人は、十年前この地で消息をたった息子マイケルに何が起ったのか知りたいと言う。アフリカに魅せられ、ボツワナの村で現地の人々と幸せに暮らしていたらしいその青年の足跡を追って、ラモツエはサバンナへ出かけていくが……。持ち前の洞察力と行動力がますます冴える、好評「ミス・ラモツエの事件簿」第二弾! 内容紹介より



『No.1レディーズ探偵社、本日開業』はシリーズの第一作目ということもあって、主人公の父親の生涯、彼女の生い立ちや結婚生活の破綻からある男性からの求婚、探偵社を立ち上げるまでの経緯や依頼された調査活動がいろいろと描かれて、それにまつわるエピソードがパッチワークみたいに作品を彩っていましたが、本書では少し落ち着いた印象を持ちました。今回は求愛を受け、婚約した主人公が結婚への準備を行う場面から物語が始まります。婚約相手の家のメイドに反感を買ってしまったり、ダイヤモンドの婚約指輪を贈られたり、十年前の失踪事件の調査を依頼されたり、主人公の秘書が探偵助手に昇格し、初調査を任されたり、前回同様に本書でも細々とした日常生活と様々な事件調査のエピソードが緩いモジュラー型といえる形をとって進んでいきます。特に、婚約者がボランティアを行っている先の孤児院から姉弟を預けられてしまう展開が意外性があって面白く、この二人はシリーズのこれからの重要なキャラクターとして期待が持てると思います。
前作と同じく、作者の伝統と格式を重んじる社会の残っているボツワナを通して、それが失われていくアフリカへの深い敬愛の情と危惧が感じとれる作品でした。

『No.1レディーズ探偵社、本日開業』アレグザンダー・マコール・スミス ヴィレッジブックス
『日曜哲学クラブ』アレグザンダー・マコール・スミス 創元推理文庫




キリンの涙―ミス・ラモツエの事件簿〈2〉 (ヴィレッジブックス)キリンの涙―ミス・ラモツエの事件簿〈2〉 (ヴィレッジブックス)
(2004/08)
アレグザンダー・マコール・スミス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『迷惑なんだけど?』 カール・ハイアセン 文春文庫

2011-10-03

☆☆☆

ふざけんな!息子との夕食を台無しにした迷惑電話にハニーは激怒した。彼女は問題のセールスマン、ボイドを孤島におびき寄せ、根性を叩き直してやることにした。何も知らずボイドは愛人連れで旅立つが、島にはハニーを狙う狂気のストーカーも……。大好評の痛快作『復讐はお好き?』に続く最新作、今回も楽しい読書を保証! 内容紹介より



子供を出産した際に起きた出来事のトラウマから、他人の不行状にたいして異常に敏感になってしまったヒロイン。それが原因で離婚し、息子とふたり暮らし。その大事な息子と夕食をとっている最中にセールス電話がかかってきただけでも迷惑なのに、セールスマンが暴言を吐いたものだから彼女にスイッチが入ってしまった。当のセールスマンを騙して孤島に呼び寄せて説教しようと計画を練るが、その島にはいろんな事情で人が集まって来ていた。
“息子のすこやかな成長と幸せ、ひいては人類の未来のために、このセールスマンのようなろくでなしをひとりずつ改心させていかなければならない”といういささか偏執じみた信念によって、ヒロインは突き動かされているのですが、なにか動機が壮大すぎて逆に弱い印象を与えて説得力に乏しいような、ドタバタ具合もあまりエスカレートしなくて不満が残るし、ストーカー爺さんの前振りのないストーキングぶりはいきなり感があるし、主人公のキャラが単純だしで、すべてに不完全燃焼でした。こういうのをテーマにするならば映画『シリアル・ママ』のような極地くらいまでぶっ飛んだものを読みたいです。ハイアセンの言いたいことが伝わりにくかったような。幽霊あるいは幻影が出てきて愚痴をこぼす場面は面白かったです。

『大魚の一撃』カール・ハイアセン 扶桑社ミステリー
『復讐はお好き?』カール・ハイアセン 文春文庫




迷惑なんだけど? (文春文庫)迷惑なんだけど? (文春文庫)
(2009/07/10)
カール・ハイアセン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『虚栄は死なず』 ルース・レンデル 光文社文庫

2011-10-01

☆☆☆☆☆

― 富裕なウィッタカー一族の一員、アリスは、38歳でようやく幸せをつかんだ。9歳年下のハンサムでやさしい夫アンドリューとの新婚生活は、彼女にとって夢のような日々だった。二人の結婚式から三カ月後、花屋の美しい未亡人、ネスタが町から出ていった……手紙を頼りに、アリスはネスタを訪ねるが、その住所は実在しない。ネスタが消えた。そして、アリスの体調にも異変が……。― 名手レンデルが女性の微妙な心理を描いた傑作サスペンス! 内容紹介より



以下、ネタバレしています!ご注意下さい!

わたしの思考回路が単純ということはこの際置いといて、なぜまたまたレンデルさんにしてやられたのか?
まず、本書がノン・シリーズ作品の二作目だということで、習作とまではいわないけれど、いくらルース・レンデルであっても人の子、最初からそれほどの完成度の高い作品を書ける作家だとは思っていなかったこと。ようするに甘く見ていたわけです。
そして、ヒロインの夫や道路工事などきわめてあからさまな赤いニシンを、一般的に初期作品に見られる設定の甘さによる伏線配置だと信じて疑わなかったこと。
さらに、この作品以降もレンデルさんが好んで使っていた“失踪事件”がまた同じパターンをとるとは思わなかったこと。これでも読みはじめはうっすらと疑いはしたんです(天敵の匂いを嗅ぐ野うさぎのように鼻をヒクヒクさせたのです)。しかし、いかんせん人間の思考というものは目の前にある安易な道を選びたがるもので……。
ということで、たとえば本書を研究施設の迷路実験とするなら、さながらわたしはレンデル博士の作った道を彼女の思った通りにひたすらまっしぐらに進むモルモットにしか見えなかったことでしょう。
とにかく、たった256ページですが、人物造形も巧みで、非常にトリッキーで周到な作品でした。やられーでまいったので☆をいっぱい付けました。べつに酔ってはいません。

タグ:ルース・レンデル




虚栄は死なず (光文社文庫)虚栄は死なず (光文社文庫)
(1988/03)
ルース・レンデル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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