『ステップフォードの妻たち』 アイラ・レヴィン ハヤカワ文庫NV
2012-04-29
- Category : ☆☆☆☆
Tag :
郊外の高級住宅地ステップフォードは美しく平和な町だった。だが主婦たちはみな家事にしか興味のないおとなしい女性ばかり。越してきたばかりのジョアンナは、そんな主婦にはなりたくなくて、最近越してきた活動的な主婦たちと友だちになった。しかしその友だちも、一人また一人と別人のように家事に励み始める。彼女たちにいったい何が?次は自分の番だと気づいたジョアンナは……ニコール・キッドマン主演映画の原作 内容紹介より
この作品が発表されたのはフェニミズム思想が先鋭化した1970年代であり、ピーター・ストラウブの解説によるとそういう時代背景をもとに書かれたものらしいです。
家庭における主婦という立場だけでなく、家庭外においてもなんらかの活動の場を求める女性たちがいる一方、彼女たちを家庭内にのみ留めさせようというなにかの力なり作用がステップフォードにはあるようなのです。もしかすると、それは汚染された水や空気のせいかもしれないし、まったく未知のものなのかもしれない。やがてヒロインと気の合う女友達が次々に宗旨替えして家庭にこもってしまう事態に陥ります。いったいなにが原因なのか、それともヒロインが強迫観念にとらわれているだけなのか?はたしてストーリーの着地点はどこなのだろうと考えながら読み進みました。つまるところ物語はフェニミズムをめぐる諸々の現象や反応のカリカチュアなのでしょうが、読んでいると、コミカルな中に、頑迷な男女差別や人種差別思想を見聞きしたとき、あるいは、あるコミュニティが放つ従わなければならないという空気にふれたとき、そういうときの嫌な感じがうっすらと心の中に湧き上がってきて、ホラーとも違う怖い思いもさせられる作品でした。
それから、平尾圭吾氏の訳によるところもあるのでしょうが、ストラウブも触れているように、なにげない日常生活の短い描写が端的でさりげなくとても上手い。
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『デッド・アイズ』 スチュアート・ウッズ 角川文庫
2012-04-27
- Category : ☆☆
Tag : スチュアート・ウッズ
ハリウッドのスターダムに手が届かんとする演技派女優クリス。プライバシーが保たれているはずの彼女の自宅へ、ある日“賞賛者”と名乗る者から手紙が届く。彼女の行動を知り尽くしている様子の“賞賛者”への恐怖を募らせていた矢先、クリスは事故に遭い、一時的に視力を失ってしまう。それを契機に“賞賛者”は、暗闇に閉ざされたクリスに忍び寄り、歪んだ求愛をはじめた……。剛腕作家スチュアート・ウッズが、エスカレートを続けるストーカー犯罪を描く、現代犯罪小説の真骨頂。 内容紹介より
なんでしょう、このハーレ○インもどきのストーリーは?!女優と刑事(育ちもいい教養もあるどっちも金持ってる美男美女)がストーカー事件で出会い、やがて恋に落ちる。なんだこの百万回は読んだり観たりしたこのあるありきたりで甘くてゆるい設定は!ウッズのこれまでの作品から感じた、人に対する温かな視線が何か違う方向に作用したみたいに俗っぽくなったみたいな。読む前は、視力を失った独りぼっちのヒロインがストーカーにじわりじわりと苦しめられ、追い詰められた後、ついに暗闇のなか犯人と対決して……、みたいな展開なのかなあと思っていたら、思いっきり悪い意味で期待を裏切られました(裏切られるって本来悪い意味だから、これは間違った表現ですけど、それほど強調したかったんです)。そのうえ、ストーカー犯罪専門の刑事があまりにも間抜けでヘマ過ぎるし。それから、これは角川文庫側に問題があるのでしょうが、真犯人についてせっかくレッドへリングを登場させているにもかかわらず、カバー折り返しの主な登場人物欄に登場回数三回くらい、出演総ページ数六ページくらい、行数にして四、五行程度の人物を載せているので、この人が犯人だとしばらく読んだら馬鹿でも解ってしまうから、もしこれから本書を読んでみようという奇特な方は登場人物欄には目を通さないようにお勧めします。そもそも登場回数がものすごく少ない人物をこれが犯人だ、どうだびっくりしただろうとラストにいきなり出してくるのもストーリー上どうかとは思いますよね。
素晴らしい作品を書いている作家だからこそ、期待が大きいからこそ、くどくどと文句も言いたくなるのです、とフォローも忘れずにしておこう。
タグ:スチュアート・ウッズ
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『骨の島』 アーロン・エルキンズ ハヤカワ文庫HM
2012-04-25
- Category : ☆☆
Tag : アーロン・エルキンズ
イタリア貴族の当主ドメニコは姪に信じがたい言葉をかけた。「私の子を産んで欲しい」と。時は流れ、産まれた子は、実業家として財を増やそうとする。だがその矢先、一族の人間が誘拐され、さらに前当主のドメニコの白骨死体が地中から発見された。調査を始めた人類学教授ギデオンは、骨に隠された一族の数々の秘密を知ることになるが……円熟味を増したスケルトン探偵ギデオン・オリヴァーの推理が冴える本格ミステリ 内容紹介より
プロローグで早々に展開が読めてしまう上に、そのまま捻りもなく終わってしまった。ただ、犯人は意外な人物でしたが、それも取って付けたような無理矢理感があって、意外性を求めるあまりかえって作品の程度を下げてしまったような気がしました。それから、このシリーズの重要な要素である“骨”とそれから読み取れるさまざまな事実が、毎回、読者の興味を惹き付けているところだと思うのですが、今回はその部分にもインパクトの弱さを感じました。そこでの魅力に欠けてしまうと、このシリーズの持つ良い意味での軽快さが薄っぺらさに変わってしまうと思うのですね。そしてまたトラベル・ミステリという側面から見ても、舞台がいまさら珍しくもないイタリアだし、ツアー仲間たちが、自炊しテントに寝泊まりしながら、自転車やカヤックで湖巡りをするのにたいして、ギデオンはひとりだけホテル住まいで、食事はレストラン、車で移動して合流とか、彼個人に降り掛かるハプニングや面白エピソードがそもそも起きそうにない設定というところが面白さを損なっている一因ではないかと思いました。
『死者の心臓』アーロン・エルキンズ ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫
『洞窟の骨』アーロン・エルキンズ ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫
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『特捜部Qー檻の中の女ー』 ユッシ・エーズラ・オールスン ハヤカワ・ミステリ
2012-04-23
- Category : ☆☆☆☆☆
Tag :
「特捜部Q ― 未解決の重大事件を専門に扱うコペンハーゲン警察の新部署である。カール・マーク警部補は「Q」の統率を命じられた。しかし、あてがわれた 部屋は暗い地下室。部下はデンマーク語すら怪しいシリア系の変人アサドひとりのみ。上層部への不審を募らせるカールだが、仕事ですぐに結果を出さねばならない。自殺と片付けられていた女性議員失綜事件の再調査に着手すると、アサドの奇行にも助けられ、驚きの新事実が次々と明らかに ― 北欧の巨匠が本邦初登場。デンマーク発の警察小説シリーズ、第一弾。 内容紹介より
とりたてて斬新なトリックや奇抜なアイデアが盛り込まれているわけでもないのに、非常に面白く、いわゆるページをめくる手が止まらない作品でした。やはり味のある人物造形と配列に優れているからでしょうか。とにかく主人公の助手である、戦車も運転できて、記憶力も抜群で、女性ウケもめっぽう良い謎の外国人アサドのキャラクターが秀逸です。部下を自分の不手際で失ったという、ありがちなトラウマを抱えた主人公もただただ暗いわけではなく、心理学者に色目を使ったり、義理の息子の進学問題や別居してても離婚しようとはしない妻の素行に煩わされたりするコミカルなシーンも挿んであり、バランスが保たれています。また、それ以外の登場人物も魅力的な味付けがしてあります。
ストーリーは、体よく閑職に追いやられた主人公が助手とともに未解決事件に挑むというもので、次第にタイムリミット型ミステリの要素も取り入れられ、サスペンス性もどんどん高まっていきます。ただ、終止、サスペンスフルというのではなく、上記のようなコミカルさが息抜きとなっていいるとともに、警察小説らしく別の事件の捜査も同時進行で取り上げるモジュラータイプをとっていますから、全体のリズムに強弱が付き読んでいて疲れず飽きませんでした。とにかく、過去の事件を掘り起こすというシリーズ・テーマにはとても惹き付けられます。これは当たりでしょう。
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『秘められた感情』 レジナルド・ヒル ハヤカワ文庫HM
2012-04-21
パスコー部長刑事は大学時代の仲間たちと五年ぶりに再会するため恋人エリーと二人でオックスフォードシャーの美しい村を訪れた。が、そこで目にしたのは惨殺された旧友たち三人の死体だった。四人目の友人で招待主のコリンは行方不明のため、殺人の嫌疑がかけられる、パスコーはダルジール警視の指揮下にある自分の署の連続空き巣事件を捜査する一方で、警官としての権限なしに村の殺人事件にも関わらずにはいられない。 内容紹介より
以下、ネタバレ気味です!ご注意下さい。
本書は以前読んだ『四月の屍衣』のひとつ前の作品になります。『四月の屍衣』では、ネズミの死骸、がらくた、備品といったいわゆる小物を伏線としていましたけれど、本作品では、人間関係の糸が縦横に張り巡らされている印象を受けました。ダルジールが捜査の指揮を執る連続空き巣事件と彼の管轄外の村で起きた殺人事件の関係者たちの繋がり、これが次第に明らかになっていく過程がいかにも警察小説らしくて良い具合でした。わたしは、レジナルド・ヒルの作品はほとんど読んだことがない初心者なのですが、今回は強烈な個性と存在感を示す(個人的には、果物だとドリアンみたいなイメージがある)ダルジール警視が主人公ではなく、パスコー部長刑事が主人公役を務めていたためか、良い具合に灰汁が抜けている感じがして読みやすかったです。
それから、あえて比べるのもなんですが、もし一般的なコージーミステリならば、パスコーがショットガンで撃たれそうになる場面で真犯人の正体が判明し、そのままエンディングになる流れでもかまわないのに、そこからもうひとやまクライマックスに持っていくとともに、動機にも捻りを利かせている展開がまさしく推理小説の本道だなあ、と感じたのでした。
『四月の屍衣』レジナルド・ヒル ハヤカワ文庫
『骨と沈黙』レジナルド・ヒル ハヤカワ・ミステリ
『最低の犯罪 英米短編ミステリー名人選集8』レジナルド・ヒル 光文社文庫
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『夜明けのパトロール』 ドン・ウィンズロウ 角川文庫
2012-04-19
カリフォルニア州最南端、サンディエゴのパシフィックビーチ。探偵ブーン・ダニエルズは、夜明けのサーフィンをこよなく愛する。まわりには波乗り仲間“ドーン・パトロール”5人の面々。20年ぶりの大波の到来にビーチの興奮が高まる中、新顔の美人弁護士補がブーンのもとを訪れた ― 仕事の依頼。短時間で解決するはずの行方不明者の捜索は困難を極め、ブーンの中の過去の亡霊を呼び覚ます。ウィンズロウの新シリーズ第一弾!! 内容紹介より
原題の『The Dawn Patrol』とは、“朝焼けサーフィン”のことらしいです。
サンディエゴの海岸に到来しつつあるビッグウェーブへの期待、失踪した火災保険金詐欺事件の証人捜し、殺人事件現場からいなくなった女の子の素性とその行方、この三つを軸にウィンズロウらしい手慣れたタッチで物語が進展していきます。『犬の力』みたいな大作ではないけれど、ウィンズロウ ワールドが遺憾なく発揮されている感じがしました。
ある誘拐事件にまつわるトラブルのために警察をドロップアウトしたサーフィン好きの探偵が主人公で、彼が加わるドーン・パトロールのメンバーには、女たらしのライフガード、主人公の幼なじみの市警巡査部長、元ギャングの公務員、主人公にサーフィンを教わったサーフショップ店員、プロサーファーを目指すウエイトレス、といった多彩な面々が揃っています。読み始めは主人公の周囲に大勢の偉丈夫な味方をはべらし過ぎて、悪人との力の均衡が崩れるのではないかと思いましたが、仲間たちが誘惑や巧言でもって心につけ込まれたりするシーンもあり、適度にハラハラドキドキさせられました。また、メンバー以外にも、依頼人の女性弁護士補、主人公のアパートの大家、主人公を目の敵にする警部補などの脇役も充実していますし、ウィンズロウが持つ、良い意味での甘さとか青臭さは、シリーズものにおいてより作品に効果的に働くと思うので、これからもかなり期待できるのではないかと思いました。
タグ:ドン・ウィンズロウ
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『暗い鏡の中に』 ヘレン・マクロイ 創元推理文庫
2012-04-16
- Category : ☆☆☆☆
Tag :
ブレアトン女子学院に勤めて五週間の女性教師フォスティーナは、突然理由も告げられずに解雇される。彼女への仕打ちに憤慨した同僚ギゼラと、その恋人の精神科医ウィリング博士が調査して明らかになった“原因”は、想像を絶するものだった。博士は困惑しながらも謎の解明に挑むが、その矢先に学院で死者が出てしまう……。幻のように美しく不可解な謎をはらむ、著者の最高傑作。 内容紹介より
ゴシック・ロマンスの要素を加えたミステリで、出来事のすべてが論理的に割り切れることなく、超自然現象としか思えないものが後に残る、という余韻を持たせた作品です。千街晶之氏が解説で、ディクスン・カーの『火刑法廷』をあげていますが、同様の趣向を凝らしたものです。ただ、個人的にどちらが好みかというと、『火刑法廷』のほうがストレートに楽しめたように思います。
本書では女性教師フォスティーナの周辺で起きるある現象への説明付けなどがややくどくて長い。作者の狙いとしては、“ある現象”が読者から荒唐無稽と笑われないように、過去の似たような事例を引いて説き、科学捜査に比肩するくらいの重要性をしめさなくてはならないわけで、科学と非科学の対比を鮮明に出したいのですね。そして、ラスト部分で超自然現象を演繹的に解明しながらも、奇妙な何かが残る、というオチです。それはまったくかまわないのですが、ミステリには白黒を付けて欲しいわたしとしては、探偵役と容疑者との対決場面にもやもやさせられたので、犯人を断罪できるくらいのとっておきの証拠を用意してもらいたかったのでした。
『幽霊の2/3』ヘレン・マクロイ 創元推理文庫
『殺す者と殺される者』ヘレン・マクロイ 創元推理文庫
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『原潜デルタⅢを撃沈せよ』 ジェフ・エドワーズ 文春文庫
2012-04-14
- Category : ☆☆☆
Tag :
ロシア辺境、カムチャツカの地方知事が独立を宣言した。核ミサイル原潜を掌握した知事は、独立を承認せねばアメリカ、ロシア、日本の都市に核攻撃を加えると通告、世界は一挙に核による破滅の危機に立った。氷の海に潜むデルタ3級ミサイル原潜を秘密裏に探索・撃破せよ ― この困難な任務が最新鋭駆逐艦タワーズに下った。 上巻内容紹介より
よく知らないけど、現在のロシア経済は好景気みたいだし、本書が発表された2008年においても、兵士への給料が遅滞して軍紀が乱れるほど財政が逼迫していたとは思えないのですが、事件の根本的な原因のひとつを資本主義経済下でのロシアの凋落に設定してあります。元ソ連共産党員だった知事が栄光あるソヴィエト帝国の復活を期して、戦略核ミサイルでもって各国を脅すという、はなはだ非現実的なプロットなのです。こういうイデオロギーを持ち出してくるところが古めかし過ぎでしょう。
ストーリーは軍事スリラーにお約束のカットバック手法が取り入れられているので、非常に読みやすいけれど、たまに入るロケット(ミサイル)の歴史についての説明が流れを阻害気味でもあります。また、核ミサイル原潜の乗組員側の記述がいっさいないのはやはり違和感があるし、物語に肉付けするうえでも、彼らについての描写は必要だったのではないでしょうか。この種のジャンルでは当たり前ですけれど、人物造形は単調。
作者はあまたの軍事スリラーとの違いを出したかったのかもしれませんが、アメリカへ向けて核ミサイルを発射して……、という顛末は読者の意表は突くけれど、娯楽小説として上手く効果を上げているとは思えませんでした。
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『嵐の夜』 ディーン・クーンツ 扶桑社ミステリー
2012-04-11
機械知性が支配する近未来の地球。平和な世の中に退屈し、新たなデータの蓄積を求めて雪山に出向いたロボットたちは、伝説の生物「人間」の足跡を見つけた ― SFサスペンス「嵐の夜」。頑固な無神論者が、妻と息子を失ったあとにたどり着いた“目覚め”を描いた「黎明」。ベトナム戦争で心に傷を負った青年チェイスが、姿を見せない謎の脅迫電話の主に戦いを挑む「チェイス」(「夜の終わりに」改稿版)。ジャンルを超えたベストセラー作家クーンツの傑作集〈ストレンジ・ハイウェイズ〉いよいよ完結!〈解説・風間賢二〉 内容紹介より
「ハードシェル」「子猫たち」「嵐の夜」「黎明」「チェイス」「本書の読者へ」収録。
『ストレンジ・ハイウェイズ』の三分冊目。
発表年代は65年から87年までの作品が収録されているので、それぞれ異なる雰囲気を持ち、ジャンルもバイオレンス・ホラー、奇妙な味、SF、ダーク・ファンタジー、ミステリと多岐に富み、サイズも長中短篇さまざまなので結構楽しめます。「ハードシェル」は、凶悪犯とそれを追う刑事が、とある倉庫で一対一の熾烈な戦いを繰り広げる話。いわゆる変種もののひとつだと思います。
厳格なキリスト教の信者である父親を持つ女の子は、去年、産まれたばかりの子猫たちが姿を消した理由を、「神さまが、いっしょに暮らすために子猫たちを天国に連れて行った」のだと父親から聞かされていましたが、また今年、子猫が産まれると……。「神」なるものへの少女の強烈な意趣返しである「子猫たち」。
ロボットが支配する世界においては、人類の存在はひとつの伝説、神話に過ぎなかった。だが、狩りに出かけたロボットたちは雪山で人間の足跡らしきものを発見する。想像の世界の行き物と現実の世界で遭遇したときの戸惑いや恐れをロボット側から描いたユニークな作品「嵐の夜」。
すべての神を否定し、それを信じる者たちを嫌悪する、徹底した無神論者の男が、妻子を相次いで亡くした末に、桜にまつわる出来事を体験して死後の世界を感じるようになる。スピリチュアルな「黎明」。
「チェイス」は、殺人現場に偶然居合わせたベトナム帰還兵が犯人を追うミステリであり、心に傷を負った元兵士の再生物語でもあります。犯人の正体が次第に明らかになっていく過程も、かなり巧みに構成されていると思いました。
「本書の読者へ」は、作者のあとがきです。
『奇妙な道』ディーン・クーンツ 扶桑社ミステリー
『闇の殺戮』 ディーン・R・クーンツ 光文社文庫
![]() | 嵐の夜―ストレンジ・ハイウェイズ〈3〉 (扶桑社ミステリー) (2001/05) ディーン・クーンツ 商品詳細を見る |
『アマチュア手品師失踪事件』 イアン・サンソム 創元推理文庫
2012-04-08
- Category : ☆☆
Tag :
壮大なる紆余曲折の末、イスラエル青年は移動図書館の司書として田舎町に順応しつつあった。そんな折、地元百貨店の経営者にしてアマチュア手品師のディクソン氏が店から姿を消す。不運にも現場に居合わせたイスラエルは警察からさんざんな目にあわされたこともあり、氏の行方を独自にさがすことにするのだが……。笑いと本への愛情にあふれた、話題の移動図書館シリーズ第2弾。 内容紹介より
移動図書館貸出記録 2、
「順応しつつ」も、まだまだアウトサイダー気質が抜けきらない主人公が、これまた不条理な出来事に巻き込まれてしまう、という前作の流れを引きずった展開で、今回はよりによって警察権力に翻弄されてしまいます。文中でも言及されていますが、まさしく物語前半部分における主人公の立場はカフカの世界の中にいるみたいです。しかし、なぜ彼を事件現場とおぼしき場所に案内した管理人について、その後いっさい触れられないのでしょう?そして、主人公が容疑者にされたのも、もとはと言えば現場であちこちを触って指紋を残してしまったからで、このアホな間抜け野郎にはまったくイライラさせられました。それから、借りた自転車がすぐ盗まれてしまったり、夜中、下宿している家の台所で食べ物を物色中にホールドアップをくらったり、食べようか迷っていたソーセージを横取りされたり、どうも作者のギャグセンスが古めかしく、展開の予測がついてつまらないのです。まあ、今回は、タクシー運転手のテッドが、見掛けによらず、実は人生経験が豊富で、いろいろな趣味を持ち、交友関係も広い人物ということが分かったので、読書経験だけを頼り、先入観でもって表面だけを見て物事を判断しがちな主人公は、これから否応なしに彼の元で人生修業とか精神修養とかさせられるのではないでしょうか。
ということで、いろいろ貶しましたけれど、あくまでもわたし個人の感想です。本書は人によってかなり評価が分かれる作品だと思います。
『蔵書まるごと消失事件』イアン・サンソム 創元推理文庫
![]() | アマチュア手品師失踪事件 (移動図書館貸出記録2) (創元推理文庫) (2010/07/27) イアン・サンソム 商品詳細を見る |
テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『地球の静止する日』 ブラッドベリ、スタージョン他 創元SF文庫
2012-04-05
綺羅星のことき名作SF映画の数々の中から知られざる原作短編を精選した、日本独自編集によるアンソロジー。有数の名作として愛されている表題映画の原作に加え、ブラッドベリが近年公開した短編、スタージョンの手になる原作として伝説的に語られてきた中編など本邦初訳作を収録。また、やはり初訳のハインラインの中編には、著者自身が撮影の舞台裏を明かした顛末記を付した。 内容紹介より
収録作品
「趣味の問題」レイ・ブラッドベリ
「ロト」ウォード・ムーア
「殺人ブルドーザー」シオドア・スタージョン
「擬態」ドナルド・A・ウォルハイム
「主人への告別」ハリイ・ベイツ
「月世界征服」ロバート・A・ハインライン
「「月世界征服」撮影始末記」 ロバート・A・ハインライン
サブタイトル「SF映画原作傑作選」のとおり、映画の原作となった短中編作品を集めたものです。ただ、「「月世界征服」撮影始末記」は、メイキング秘話を綴ったものです。
「趣味の問題」
地球人の探検隊を乗せた宇宙船が降り立った惑星は平和で、住人たちも思慮深く、穏やかな気質なのだが、ただひとつ大きな問題があって、それは住人たちの外形が巨大な蜘蛛そっくりだったこと。根源的、生得的な好悪感情をテーマにした作品。個人的には、蜘蛛はまあ大丈夫だと思いますが、もしこれが蛇だったらわたしは無理です。
「ロト」
終末戦争下における、ある家族を描いた作品。危機的状況が迫りつつあるのに、近所付き合いや友達付き合いにこだわる、日常生活が抜けきらない妻、両親に対して傍若無人になりつつある長男、卑屈な次男、父親似の娘、すべてを計画、準備し、来るべき事態に備えて父親が取った行動とは……。
「殺人ブルドーザー」
金属を生命媒体とする電子生命が、ある孤島の工事現場のブルドーザーにとり憑き、作業員たちに襲いかかるというシンプルでストレートな話。ブルドーザーとショベルカーが闘うシーンは迫力があります。
「擬態」
スズメバチに擬態する蛾がいるように、もしかしたら恐竜時代にはティラノサウルス・レックスに酷似した草食恐竜がいたかもしれません。そしてまた、現在、動物界で最強の存在である人間に擬態しない動物がいないわけがない、というアイデアをもとにした作品。SFというよりトワイライト・ゾーン風な薄気味悪さを醸し出しています。
「主人への告別」
『地球の静止する日』 ハリー・ベイツ 他 角川文庫
「月世界征服」
映画のノヴェライズ作品。ジュール・ヴェルヌの『月世界旅行』を換骨奪胎したような作品で、『月世界旅行』においては人類は月面に立つことができなかったけれど、本作では着陸し、月面を探索しています。ただし、内容は燃料不足により地球に帰還できるかどうかがメインとなって進みます。登場人物たちの主な行動原理が対ソ連というところは、いかにも反共主義者と呼ばれた作者らしくて苦笑。
![]() | 地球の静止する日―SF映画原作傑作選 (創元SF文庫) (2006/03/23) レイ ブラッドベリ、シオドア スタージョン 他 商品詳細を見る |
『名犬ランドルフ、スパイになる』 J・F・イングラート ランダムハウス講談社
2012-04-02
- Category : ☆☆☆
Tag :
元ご主人様のイモージェンが失踪してから、早一年。とんでもないニュースが入ってきた。ある下宿屋で男性が殺され、その犯人がイモージェンではないかというのだ。でもこれは、巨大な鉱山を相続する彼女をおとしいれようと、各国のスパイが仕掛けた巧妙な罠!? 真相を探るため、外交官のセラピー犬として事件現場へ潜りこんだ黒ラブのランドルフ。だが目前で、またもや殺人事件が起こり……。スパイVSスパイ犬、頭脳戦の軍配はどちらに!? シリーズ第二弾。 内容紹介より
〈黒ラブ探偵 2〉
シリーズ一作目である『名犬ランドルフ、謎を解く』の内容はまったく覚えていないけれど、元飼い主のイモージェンが謎の失踪をしていたことだけは記憶にありまして、前回不明だったその失踪の原因が本書で明らかになっています。今回、印象に残ったことは、ランドルフが人間たちが発する時々の感情、例えば〈恐怖〉〈欺瞞〉〈不安〉〈悲しみ〉を匂いとして嗅ぎ取れるというところです。人がいくら上辺を取り繕っていても、ランドルフにはバレてしまうのです。犬を主人公にして、彼らの並外れた嗅覚を上手く使って作品に取り入れていると思いました。その反面、トリックスターとしてランドルフ並みの存在感を出してくるのではないかと期待していた、飼い主の姪ハディ・マクレイはたまに毒舌を吐く程度で活躍する場面がなかったのは残念でした。バイオリンを持った辛辣な八歳の女の子の起用法なら、もっといくらでもあったでしょうに。
さて、スパイが登場するミステリにしては死体の数もやたら多く、殺し方も荒っぽくて、けっしてスマートとはいえない展開に終始していますが、国連という組織への作者のシニカルな目線がそこに窺えたりするような。
『名犬ランドルフ、謎を解く』J・F・イングラート ランダムハウス講談社
![]() | 名犬ランドルフ、スパイになる (黒ラブ探偵2) (ランダムハウス講談社文庫) (2009/01/09) J・F・イングラート 商品詳細を見る |
テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌