『ブラックベリー・ワイン』 ジョアン・ハリス 角川文庫

2012-06-29

☆☆☆☆

しがないSF作家のジェイは、長い眠りについていたワインの封を開けた。少年時代に出会った、不思議な老人ジョーの忘れ形見だ。花と植物をこよなく愛し、ジェイと心を通わせた彼は、ある夏忽然と姿を消した。古びたワインの味とともに甦る想い出……その魔法に導かれるように、南仏の村に移り住んだジェイは、そこでジョーの亡霊と出会う。止まっていた人生が、再び明るい方へと動き出した ― 。感動作『ショコラ』の姉妹編。 内容紹介より



サラ・アディソン・アレンの『林檎の庭の秘密』に似たマジック・リアリズム風な大人のファンタジーです。昔一冊のベストセラーが世に出たこともある主人公ジェイは、いまでは別のペンネームでSF作品を書いて日々を過ごしています。ある日、彼はかつてのベストセラーの登場人物のモデルになった老人ジョー自家製のワインを飲んだ途端、少年時代の想い出が甦り、偶然目にとまったパンフレットに掲載されていたフランスの農家を衝動買いしてしまいます。その農家のある村が『ショコラ』の舞台になった場所であり、登場する村の住人たちも同じ人たちなのだそうですが、わたしには少しも思い出せませんでした。内容はまったく別の話ですけれど、『ショコラ』をざっとでも読み返しておけばよかったかもしれません。
ストーリーは主人公の少年時代の回想と、ピーター・メイルのプロヴァンス・シリーズを彷彿とさせるフランスの片田舎での村人との交流の話がほぼ交互に描かれて進んでいきます。この二つの時間を繋いでいるのが老人ジョーと彼の幻影です。そして登場人物たちに不思議な作用をもたらすものがジョーが別々の材料でつくった六本の自家製ワインです。主人公の隣人で、かたくなに村人から孤立して生きる母娘の存在、土地を開発して観光客を呼び寄せようとする一部の住人たちの目論みと主人公が書きかけている新たな傑作との関係など全体に興味深いけれどどこかで聞いたことがあるような話で、それも掘り下げ不足みたいな気もするから、もっと熟成させたらより芳醇な作品になったかも、とワインだからお決まりの陳腐な言葉を羅列してみました。

『ショコラ』ジョアン・ハリス 角川文庫
『紳士たちの遊戯』ジョアン・ハリス ハヤカワ文庫




ブラックベリー・ワイン (角川文庫)ブラックベリー・ワイン (角川文庫)
(2004/09)
ジョアン・ハリス

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『9ミリの挽歌』 ロブ・ライアン 文春文庫

2012-06-25

☆☆☆☆

やつがいた。おれたちを裏切ったあの野郎が ― タクシー運転手のエドは、ある日の客を見て驚愕した。仲間を裏切り、地獄行きを逃れた男。そいつは今や犯罪組織の幹部になっていた。おとしまえをつけろ。エドは仲間をかり集め、復讐に出た ― なけなしの栄光を目指して死地へと赴く男たちの友情を鮮烈に描くクライム・ノヴェル。 内容紹介より



ここで描かれる復讐譚はプロ同士が死力を尽くして闘うものじゃなくて、エドを始めとして非常に小者臭のする人生負け組の素人たちが犯罪組織の幹部ビリーに仕掛けるというものなのですが、そのビリーも組織のボスである父親の使い走りにすぎない半人前の立場にあります。父親のような大物になりたいがプロに成り切れないビリー、彼の持つ大金を強奪して恨みを晴らそうとする素人たち、その金を狙う犯罪計画実行者派遣業を裏で営むプロたち、犯罪組織を摘発しようとする司法機関の捜査官、ビリーの妻と愛人、これらの多視点によって復讐事件の成り行きが描かれ、一つの現金強奪計画が実行に移された途端、まるで小さな火花が爆薬に引火し、それが次々に爆発していくように、誰も予想も望んでもいなかったプロアマ入り乱れた熾烈なバイオレンスシーンが繰り広げられていきます。まるでエドの人生の軌跡を早回しで観たような、プロットや人物造形に優れ、内容に厚みのある、いっぷう変わってはいるもののクライム・ノヴェルの力作だと思います。

『アンダードッグス』ロブ・ライアン 文春文庫
『暁への疾走』ロブ・ライアン 文春文庫




9ミリの挽歌 (文春文庫)9ミリの挽歌 (文春文庫)
(2001/10)
ロブ・ライアン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『暗い森』 アーロン・エルキンズ ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2012-06-24

☆☆☆☆

ワシントン州の国立公園の大森林で人骨の一部が発見された。ギデオン・オリヴァー教授の鑑定から骨は六年前に殺された男のものと判明する。が、なんと殺人の兇器は一万年前に絶滅したはずの種族が使っていた槍だった。伝説の猿人が本当に森の奥深く徘徊しているのか……? 一片の骨から縦横無尽の推理を繰り出すスケルトン探偵が真骨頂を示す初期代表作 内容紹介より



以下、ネタバレしています!ご注意下さい。

本書はスケルトン探偵シリーズのなかで、ギデオンが後に妻となるジュリーと出会う記念的な作品と言えるでしょう。また、それとは別に内容的にもいままで読んだこのシリーズの作品のなかで、ちょっと目先を変えた印象を受けるものでした。これまでの犯人探しや謎解きの趣向より、絶えていく少数民族やその文化または人間に限らず人知れず滅びゆくものの悲哀さを描き出しているような印象を受けました。ミステリとしてはビッグ・フットやビッグ・フット研究家をレッド・へリングとして据えていますが、これは読者が運良くつまずけばもっけの幸いくらいの軽い布石に過ぎず、それ以上に掘り下げようとする意図は見られません。現代文明の影で消えていくものをテーマにしながら、過度に感傷に落ちずさりげなく伏線を張っているところなど作者の腕前を感じました。エルキンズが目指す四時間くらいで読める作品のあり方からすると、今回はロマンスとミステリのバランスをとった、どちらの要素もそれほどくどくも深くもない物語として良い出来具合なのかも知れません。

『死者の心臓』アーロン・エルキンズ ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫
『洞窟の骨』アーロン・エルキンズ ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫
『骨の島』アーロン・エルキンズ ハヤカワ文庫HM




暗い森 (ミステリアス・プレス文庫)暗い森 (ミステリアス・プレス文庫)
(1991/03)
アーロン・エルキンズ

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暗い森 (ハヤカワ・ミステリ文庫)暗い森 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2006/02)
アーロン・エルキンズ

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『猫とキルトと死体がひとつ』 リアン・スウィーニー ハヤカワ文庫

2012-06-23

Tag :

☆☆☆

湖畔の家に住むジリアンは、若くして夫に先立たれ、三匹の個性ゆたかな猫たちと暮らすキルト作家。ある日出張から帰ると、窓ガラスが割れており、アビシニアンのシラーがいなくなっていた。ジリアンはシラーが何者かに連れ去られたのではないかと直感するが、警察はとりあおうとしない。ジリアンはひとりシラーを取り戻そうと、なにかと評判の悪い近所の男の家に聞き込みに行くが、そこで当の本人の死体に出くわしてしまう ― 猫を愛するキルト作家ジリアンが殺人事件の調査に奮闘する猫いっぱいのコージー・ミステリ! 内容紹介より



猫と相性の良さそうなコージー・ミステリでさえ、猫は添え物みたいな登場場面しかない作品が多いなか、本書ではヒロインが三匹の猫を飼っているのと猫泥棒を扱っているために結構な数の猫たちが出てきますし、さらに適度な活躍を彼らは見せたりします。たいがい口が達者だったり、気が強い傾向にある従来のヒロイン・タイプとやや違い、本書のヒロインは普段は気の優しい、境遇のせいで気弱になっている女性なのに、夫に先立たれた喪失感や孤独を猫たちが埋めてくれ慰めてくれていることもあって、猫が危機に瀕していると思うと彼女はたまらず向こう見ずな行動に出てしまいます。こういうギャップが微笑ましく感じました。また、邦題通りに死体はひとつしかないのも好ましく、コージー・ジャンルの原点に戻った作品の様な気がします。ヒロインの身に起きる恋愛の予感とか町の住人たちとの交遊とか、コージーの要件は変わりませんが、プリウスに乗る登場人物がいたり、Webカメラで留守宅にいる猫の様子を覗いたりとテクノロジーの面では様変わりしているのですね。




猫とキルトと死体がひとつ(イソラ文庫)猫とキルトと死体がひとつ(イソラ文庫)
(2010/06/10)
リアン・スウィーニー、Leann Sweeney

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『五番目のコード』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

2012-06-22

☆☆☆☆

スコットランドの地方都市で、帰宅途中の女性教師が何者かに襲われ、殺されかけた。この件を発端に、街では連続して殺人事件が起こる。現場に残された棺のカードの意味とは?新聞記者ビールドは、警察から事件への関与を疑われながらも犯人を追う。街を震撼させる謎の絞殺魔の正体と恐るべき真意とは ― 読者を驚きの真相へと導く、英国本格の巧者ディヴァインの屈指の傑作が甦る。 内容紹介より



意外な人物が犯人のはずだからと目星を付けるものの、それでも作者にしてやられてしまうのはちょっとした工夫や仕掛けに欺かれてしまうからで、種明かしをされて、それが大掛かりなトリックではないから余計に感心してしまいます。読者の心理をつくテクニックが非常に巧い作家だと思いとあらためて思いました。探偵役の人間臭い造形も彼の女友達や恋人との関係性も犠牲者や容疑者たちの配置も見事になされながら、これまでに読んだディヴァインの作品から感じた、緻密な設計図でもって組み立てられたからくり細工みたいな作風が軽減されているような印象を受けました。
本書はトータルバランスに優れた作品に仕上がっているわけですが、欲を言わせてもらうならば今までディヴァインの長所であったけれんのなさを若干変えて、あえて少し派手な場面をクライマックス以外に加えても良かったかなとつぶやきたい気はします。
それから本筋とは関係ないけれど、本格ミステリにおける、私生活でも自信満々の探偵から、本書のような公私に悩み多き探偵までのキャラクターの歴史的変遷を考察してみると面白いかもしれません。

タグ:D・M・ディヴァイン




五番目のコード (創元推理文庫)五番目のコード (創元推理文庫)
(2011/01/27)
D・M・ディヴァイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『レイン・フォール/雨の牙』 バリー・アイスラー ハヤカワ文庫HM

2012-06-21

Tag :

☆☆☆

今回の仕事のターゲットは国土交通省のキャリア官僚だ。渋谷の雑踏から後をつけたレインは、山手線の車内で相手に接近する。一シュウン後、ターゲットは昏倒し、そのまま死亡した。誰が見ても心臓の発作による自然死だ。作戦完了。ところが、数ある仕事のうちにひとつに過ぎなかったこの暗殺が、彼の運命を一変させることになるとは……孤高の暗殺者ジョン・レインに危機が迫る。大都会・東京を舞台に描く謀略と裏切りの追跡劇 内容紹介より



CIAで働いた経歴を持ち、日本で暮らしたことがあり、柔道の有段者でもある作者が、ベトナム戦争帰還兵の日系アメリカ人を主人公にして書いた作品です。主人公はもちろんベトナムでの戦闘で受けたトラウマを抱えてます。なんで今更ベトナムなんだろ?当然、戦場での回想シーンが入ります。日米ミックスというので帰属意識とかアイデンティティに基づく悩みも無論経験済みです。こういうどれもこれもお約束ごと満載の人物背景についての説明と尾行や盗聴、格闘戦などについての講釈がくどくて鼻に付いて煩わしく感じてしまいました。しかも恋愛シーン付きだし、おまけにまたまた(このジャンルの主人公に多い)ジャズ好きだなんて、さらにスノッブ臭まで漂わせています。語りが三人称じゃなく一人称の「私」だから余計にうざく感じるのかもしれません。舞台が外国だったらそれほどでもなかったでしょうが、日本が舞台で政界とか右翼とか建設業界とかの単語が出てくると、たちまち昭和風の社会派推理小説みたいな様相を呈してくるし、それが日本人のわたしには生々しく思えてきて苦手です。日本について詳しくなればなるほど、作品は日本人が書いたみたいなものになるかもしれませんが、個人的にはそういう作品は読みたくない派なのです。




レイン・フォール/雨の牙 (ハヤカワ文庫)レイン・フォール/雨の牙 (ハヤカワ文庫)
(2009/03/31)
バリー・アイスラー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『押しかけ探偵』 リース・ボウエン 講談社文庫

2012-06-19

Tag :

☆☆☆☆

1900年代初め、ニューヨークに住み着いたアイルランド娘のモリーは、想いを寄せるエリート警部のダニエルの反対を押し切って探偵になると宣言。師匠と見込んだヴェテラン探偵のライリーは頑固な女嫌い。何かと口説いて出入りを許された矢先、ライリーが殺されてしまう。図らずも跡を継いだ彼女は犯人を追う! 内容紹介より



以下、ネタバレしています。ご注意下さい!


歴史ミステリ〈モリー・マーフィー・シリーズ〉の第二弾。
今回は実際に起きたある歴史的な事件を元に話が組み立てられています。ヒロインが師事していた探偵を殺した犯人を追い求めるうちに、その犯人が企む犯罪計画に巻き込まれてしまうという筋書きです。その計画が何をターゲットにした、どのようなものかというのは最終盤にならないと判明しなくて、若干読者に明かすタイミングが遅いかなという感じがしました。まあ、そこは仕方が無いにしても事件の顛末を史実通りに持っていかなくてはならないために、ヒロインは犯行を未然に防ぐことができなかったという結果には不満が残るところです。作者による後記には、「歴史家はまだ彼の行動の動機を探りだしていない。わたしはひとつの動機を与える試みをしたにすぎない」(p455)(“彼”とは犯人のこと)、と書いてありますから、何故犯人は犯行に及んだのかについて、作者なりの解釈を施したということらしいのですが……。それから、ちょっと粗さが目立つのは、ヒロインが金銭に困ったり泊まる場所を探していると、都合の良いタイミングで棚ぼた的に問題が解決してしまうところで、おとぎ話じゃないんだからいくらなんでも偶然に頼り過ぎでしょう。

『口は災い』リース・ボウエン 講談社文庫




押しかけ探偵 (講談社文庫)押しかけ探偵 (講談社文庫)
(2010/06/15)
リース・ボウエン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『マイアミ・ポリス』 チャールズ・ウィルフォード 扶桑社ミステリー

2012-06-17

Tag :

☆☆☆☆

ホウク・モウズリーはマイアミ警察の殺人課の部長刑事。十年前、妻とは別れたが、慰謝料やら生活費やらで、収入の半分を巻き上げられ、年々借金が増えるという惨状。警察官は市内に住めという警察の方針があるので、しかたなく保安係を兼ねて安ホテルに仮住まい中だ。さて、最近おこった市内の高級住宅地での麻薬常用者変死事件を扱いあぐねているところへ、上司が過去の迷宮入り事件の再調査を命じて、殺人課は大忙し。そこへ突然十年ぶりに現れたのがホウクの二人の娘。新しい男をつくったホウクの別れた妻が押しつけてきたのだ。落ち着く間もなく今度は部下の女性刑事が家出した。さしものホウクもたまらずに叫ぶ。お前らどうしておれのまわりでやっかいごとばかり起こすんだ!災難つづきもなんのその、愉快な連中がくりひろげるオキテ破りの警察物語。 内容紹介より



〈刑事ホウク・モウズリー・シリーズ〉の第二作目です。第一作目の『マイアミ・ブルース』は創元推理文庫から出ているそうです。三作目の『あぶない部長刑事』で主人公ホウクが燃え尽き症候群になってしまった理由が本書を読んで良く判りました。公私ともに非常に多忙であり、ストレスに晒されていたのでした。まるで犯罪が頻発する87分署のキャレラ刑事に私生活の面でも様々なトラブルや出来事を背負わせているみたいな状況です。ただ、ホウク刑事は42歳でイケメンでもない総入歯の男ですが。そんな彼が新しい恋人ができた元妻から二人の娘の面倒を押しつけられてしまい、仕事のパートナーの女刑事が妊娠して実家から追い出されて泣きつかれるはめに……。人種が混在するマイアミみたいに物事もごた混ぜになって、さらにそれをぶちまけたような言いようの無い魅力的な雰囲気がこの作品にはあります。
そういう混沌のなかで目を引くのが親子関係とか家庭環境の事柄で、麻薬の過剰摂取で亡くなった若者は母親の再婚相手の養子になり、やがて二人が離婚し母親が出て行ったため義理の父親に元に残され、その義父が再婚し、さらにまた離婚するという複雑な境遇下にあったり、未婚で妊娠してしまった女性刑事は厳格な父親から親子の縁を切られ、ホウクの娘たちは母親の都合から厄介払いされてしまう。そして、ホウクが保安係を務めているホテルでは長期滞在者の老人の孤独死が持ち上がっているという具合です。親によって物のごとくやり取りされたり、関心を持たれず心の居場所がなかったりといった現代社会の抱える家族問題もさりげなく描かれていました。

『あぶない部長刑事』チャールズ・ウィルフォード 扶桑社ミステリー
『炎に消えた名画』チャールズ・ウィルフォード 扶桑社ミステリー




マイアミ・ポリス (扶桑社ミステリー―刑事ホウク・モウズリー・シリーズ)マイアミ・ポリス (扶桑社ミステリー―刑事ホウク・モウズリー・シリーズ)
(1988/12)
チャールズ・ウィルフォード

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『痩せゆく男』 スチィーヴン・キング 文春文庫

2012-06-16

☆☆☆☆

痩せてゆく。食べても食べても痩せてゆく。老婆を轢き殺した男とその裁判の担当判事と警察署長の三人に、ジプシーの呪いがつきまとう。痩せるばかりではない、鱗、吹出物、膿…じわりじわりと人体を襲い蝕む想像を絶した恐怖を、モダン・ホラーの第一人者スティーヴン・キングが別名義のもとに、驚嘆すべき筆力で描きつくした傑作。 内容紹介より



リチャード・バックマン名義の作品です。
読む前には、嫌な奴らが呪いによって酷い目に遭う、みたいな物語かと想像していました。しかしさすがにベストセラー作家だけあって、そんな単純な図式で終わるわけが無かった。並の作家だったらただ男が痩せてゆくというアイデアで書けるのは短篇小説くらいでしょう。町へやって来た旅回りのジプシーたちが差別や偏見に晒される出来事を目にして、彼らに消極的な同情心を抱いていた主人公は、呪いをかけられた後も呪いが解けたら偽善的な町から出て行くことを決心します。一方、人を轢き殺したことを改悛しながらも、事故の原因をつくった妻や呪いをかけたジプシーの老人に対しての怒りも募らせています。体重の減少とともに複雑な感情の揺れや変化が描かれ、プロットも当初ジプシーと和解をする方向へ持っていくのかと思わせながら、乱暴な解決策へ進んでみたりします。終始こちらの予想を裏切る展開を見せ、エンディングはこの作者らしい迎え方をしていました。季節の変わり目で体調がおかしいときには、読まないほうがいいかもしれません。




痩せゆく男 (文春文庫)痩せゆく男 (文春文庫)
(1988/01)
リチャード・バックマン

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『林檎の庭の秘密』 サラ・アディソン・アレン ハヤカワ文庫

2012-06-15

Tag :

☆☆☆☆

アメリカ南部の町、バスコム。ここでは古い家系について信じられていることがある。ホプキンス家の男は必ず年上と結婚する、クラーク家の女は床上手、そして、ウェイヴァリー家の者には不思議な才がある ― 園芸に秀でたクレアが今は独り暮らすウェイヴァリーの家に、10年前家出した妹が幼い娘を連れて帰ってきた。奇妙な共同生活はやがてすべてを変えはじめ……。絆を取り戻してゆく姉妹とそれぞれの恋愛を中心に、田舎町の人間模様をマジック・リアリズムの香り豊かに描き、口コミから全米ベストセラーになった美しくも繊細な物語。 内容紹介より



本書はミステリ作品ではありません。南部ほら話のスパイスを効かせたロー・ファンタジー系の物語です。その実を食べた者に人生で最大の出来事を見せる林檎の木があるウェイヴァリー家。そこの庭で採れる草花にも不思議な効用が備わっています。たとえば、「ハニーサックルのワインを飲むと、暗いなかでも目が見えるようになる」、「ヒヤシンスの球根からつくったディップを口にすると、人は気分がふさいで過去のことを考えるようになり、チコリとミントのサラダを食べると、それが真実かどうかはともかく、いまにも何かいいことが起こるにちがいないという気分になる」(p24)という具合に。ヒロインはそれらの食材を使ってケータリングの仕事をしています。彼女の親戚のおばあさんはある人物が近々必要になるであろう品物を当の人物にプレゼントする能力の持ち主です。ただ、これらのマジックが前面に押し出されているわけではなく、ロマンス小説風な物語にいいアクセントを添えている感じでした。もともと作者はハーレクインに作品を書いていた方だそうで、全体的に予定調和の流れはまさしくそんな感じです。しかし、ほとんどすべての事態が納まるところに収まる展開になっても、心地良さがあざとさに優って読後感を良いものにしています。




林檎の庭の秘密 (イソラ文庫)林檎の庭の秘密 (イソラ文庫)
(2010/01/10)
サラ・アディソン・アレン

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『失踪家族』 リンウッド・バークレイ ヴィレッジブックス

2012-06-13

Tag :

☆☆☆☆

ある日突然、14歳のシンシアだけを残して両親と兄、一家全員が姿を消した。それからン25年後、シンシアはわたしと結婚しつつましくも平和な家庭を築いていた。しかし、心の傷が癒されることななく、彼女はいまも真実を求め続けている。そんななか、あるテレビ番組に出演したことを機に不可解な出来事が起こりはじめ、関係者が次々と殺される。はたして25年前の失踪事件と関係があるのか?シンシアとの関係が危ぶまれるなか、わたしは家族を守るべく立ち上がった。が、そこに浮かびあがってきたのはシンシアの人生を翻弄してきた驚愕の事実だった……。失われた家族の悲劇を描く傑作スリラー。 内容紹介より



当たり前ですけれど失踪事件の謎で引っぱっている作品なので、読者はその謎についてあんなことやこんなことをいろいろ想像しながら読み進むのが楽しいし、きっと予想もしなかった真相が明らかになるかもしれないとか期待をふくらませてしまうのです。てっきり新基軸を打ち出しているとか、または、そこまでは行かなくとも新しい趣向が凝らされているのかと考えていたから、おおよそ真相が判明し始めるとちょっとテンションが下がり気味になるし、またストーリーにそれを補うだけのプラスαがあるのかどうかも……。特に、父親の人物像がしょぼすぎて涙も渇いてしまうほど。愛する者がああいうことをされて、あんな行動をとるものだろうかと、すごく不自然な思いがしました。主人公一家以外のその他の主要登場人物も画一的で動機すら単純過ぎて工夫が足りないように感じました。
おそらくサービス精神で付け加えたのかもしれないラストのヒネリについては、この人物には何かあるんだろなってかなり前から勘が働いているので、もう少し伏線を張るかいっそのこと無くしてしまったほうがさっぱりしたかもしれません。それと霊媒師みたいなひとを二回も登場させる必要は無いでしょう。




失踪家族 (ヴィレッジブックス)失踪家族 (ヴィレッジブックス)
(2010/08/20)
リンウッド ・バークレイ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『時を盗む者』 トニイ・ヒラーマン ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2012-06-11

Tag :

☆☆☆☆

インディアン遺跡の発掘現場から突然姿を消した女性人類学者はいったいどこへ?妻を亡くし傷心のリープホーン警部補が追う失踪事件は、やがてチー巡査が捜査中の掘削機盗難と結びつき、思いがけない殺人事件へと発展した……全米ベストセラー作家が西部の雄大な大自然をバックにインディアン警官コンビの活躍を描く、シリーズ最高作との呼び声高い最新作 内容紹介より



推理小説とは基本演繹的なものだから、それとは別にある魂とか呪術とか超自然的な単語を出して装飾してくる話が苦手で、だからインディアンが登場する作品は避けてきたけれど、読まず嫌いもどうかと思いこの作者のものを読んでみることにしました。面白いと思ったのはインディアン遺跡から発掘された壺が、その特殊な技法により一人の女性陶工の手によって作られたものであり、壺やその欠片からスタイルの変化や仕事場所の移動が見て取れるという行方不明になった人類学者の研究です。フィクションのなかで述べられていることとは言え、遺物によって750年前の特定の人物のことを知るというのはとても興味深い。集めた壺や欠片の発掘場所を調べていたその人類学者が失踪してしまい、この失踪事件が遺跡を盗掘する目的で盗まれたとみられる掘削機盗難事件と関係してきます。高値で取引される壺を巡って、地元の有力者や伝道師、盗掘者が登場し、二人の警官が真相に近付いていくという展開。警官二人の警察官としての再生と成長の話も含み、また、ベテランと若造、インディアンとしてのアイデンティティを強く意識する者とそうでもない者、ひとりは妻を亡くしたばかりであり、もうひとりはこれから恋愛が始まろうかという状況を設けて巧みに対比させています。




時を盗む者 (ミステリアス・プレス文庫)時を盗む者 (ミステリアス・プレス文庫)
(1990/12)
トニイ・ヒラーマン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『囁く影』 ジョン・ディクスン・カー ハヤカワ文庫HM

2012-06-10

☆☆☆☆

パリ郊外の古塔で奇妙な事件が起きた。だれもいないはずの塔の頂で、土地の富豪が刺殺死体で発見されたのだ。警察は自殺と断定したが、世間は吸血鬼の仕業と噂した。数年後、ロンドンで当の事件を調査していた歴史学者の妹が何者かに襲われ、瀕死の状態に陥った。なにかが“囁く”と呟きながら。霧の街に跳梁するのは血に飢えた吸血鬼か、狡猾な殺人鬼か?吸血鬼伝説と不可能犯罪が織りなす巨匠得意の怪奇譚。改訳決定版 内容紹介より



〈殺人クラブ〉主催によるディナーの招待客である歴史学者マイルズが“ある理由”のために遅刻してクラブに到着すると、そこに会員の姿はなく当夜の講演者であるフランス人教授と正体不明の女性しかいなかった。物語の最初からこんな奇妙な状況を仕掛ける手並みが鮮やか。そして教授は女性の勧めるまま演題だった彼自身が体験したフランスで起きた不可能殺人と事件にまつわる吸血鬼の噂を二人に披露する。その後、マイルズと謎の女性の二人だけの場面になり、彼女が今夜のクラブについて仕組んだ事実を打ち明け、事件の容疑者だったイギリス人女性の話題を持ち出す。教授から女性へと行う場面転換と話の受け渡しが上手い。そして、マイルズが一人になって投宿しているホテルへ戻ると、当初読者に伏せられていた彼の遅刻の理由とそれに関連する人物の名前が明かされ、読んでいる方もぞくっとして物語にのめり込むという流れです。これらが僅か81ページで描かれ、作者のそつが無い構成力を感じました。
それから、ある人物の身を案じたマイルズたちがその人物のもとへ駆けつけるために地下鉄で向かうのですが、車内での二人の会話にしばしば挿まれる車掌の駅名を告げる声が、徐々に目的地へと近付きはするが、なかなか到着しないもどかしさや、果して間に合うのかどうか、ハラハラドキドキ感を高める効果を上げています。また貸家から見える巨大な義歯の電動ディスプレイとか小道具の使い方も見事です。

以下、ネタバレしています!ご注意下さい。




本書に登場する不可能犯罪に関しては、いわゆる被害者自身が意図的あるいは偶然に不可能犯罪に見える状況を作ってしまったという、たまに見受けられるがっかりパターンのひとつでした。

『猫と鼠の殺人』ディクスン・カー 創元推理文庫




囁く影 (ハヤカワ・ミステリ文庫 5-8)囁く影 (ハヤカワ・ミステリ文庫 5-8)
(1981/06)
ジョン・ディクスン・カー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『氷姫』 カミラ・レックバリ 集英社文庫

2012-06-09

Tag :

☆☆☆☆

海辺の古い邸で凍った美しい女の全裸死体が見つかり、小さな町を震撼させた。被害者が少女時代の親友でもあった作家エリカは、幼馴染の刑事パトリックと共に捜査に関わることに。20年以上疎遠だった親友の半生を巡ると、恐るべき素顔が覗く。画家、漁師、富豪……町の複雑な人間模様と風土に封印された衝撃の過去が次々明らかになり、更に驚愕の……。戦慄と哀感。北欧ミステリの新星、登場! 内容紹介より



シリーズタイトルは〈エリカ&パトリック事件簿〉です。
我が子のために善かれと思い判断してとった過去の行動が、実は自らの世間体を気にしてなしたものだったのではないのか。そのせいで子供は一生それを背負って生きていかなくてはならなくなったのでは。ひとりは人生を生き直そうとし、ひとりは絶望し、もうひとりは過去に蓋をして生き抜こうとする、彼らの身に起きた非常に陰鬱な出来事が一連の事件の核となり、内向きの視点と重めの心理描写や傍白でストーリーがしんしんと綴られていきます。こういう文体から受ける雰囲気は、同じスウェーデン出身のオーサ・ラーソンやヘンング・マンケルに似たものを感じました。ただ、重く暗い感じの中にあって、周りの人家が石油ランプの灯を放つ窓ばかりの中、唯一蛍光灯みたいにやたら明るい光を放つ窓みたいな存在がエリカ&パトリックの恋愛シーンなのです。子供に冷淡だった母親のせいでヒロインのエリカは恋愛に対して尻込みしてしまう傾向があると妹に指摘されていたのに、やたら彼には積極的なのでちょっと違和感を覚えました、本筋とは関係のない細かいことですけど。まあ、ストーリーの明暗のバランスをとっているということなのでしょう。人間模様も巧みに編まれた佳い作品だと思います。




氷姫 エリカ&パトリック事件簿 (エリカ&パトリック事件簿) (集英社文庫)氷姫 エリカ&パトリック事件簿 (エリカ&パトリック事件簿) (集英社文庫)
(2009/08/20)
カミラ・レックバリ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『黒い河』 G・M・フォード 新潮文庫

2012-06-07

☆☆☆☆

病院の崩壊事故にともなう死傷事件の公判直前、手抜き工事の黒幕バラギュラは、証人を片端から消すよう部下に命じていた。ノンフィクション作家コーソは、彼の悪事を暴く本を執筆中だったが、元恋人が、バラギュラの証拠隠滅工作に巻き込まれ瀕死の重傷を負ったと知る。さらに自分の身辺にまで殺し屋を差し向けられ、ついにコーソの憤りが炸裂する!問答無用のサスペンス名編。 内容紹介より



フランク・コーソ・シリーズ二作目。
この作家って名前のせいで微妙に損をしている気がするのはわたしだけでしょうか。アメ車ってダイナミックだけれど精密さに欠けるというイメージがあるから、それが固定観念になってこの作者の作品もなんだか大雑把な作りなんじゃないかという潜在観念が働いてしまうのです。しかし、一読してみるとまったくイメージとは逆に精緻な作品作りをしていることが分かります。この人は主人公以外の登場人物の造形とその膨らませ方とがとても上手いです。ストーリー上では一つの駒にすぎないキャラクターでも大なり小なりのエピソードまたは陰影、背景を付け加えています。最初に殺されたドナルド・バースという男は、何故か生活を切り詰めてでも息子の教育に金をつぎ込む暮らしを長年続け、そんな暮らしに飽き飽きして家を出た妻、父親がそんなにまでしていることをまったく知らなかった息子、バースの家の管理人であるカンボジア難民の男、キューバ人の殺し屋のコンビ、ギャングの右腕やその弁護士にしても、事件の黒幕のギャングを除いて単純なキャラで済ませていません。その他大勢にも気配り目配りが利いている作品はやはり面白いです。

最後になりましたが、
レイ・ブラッドベリ氏がお亡くなりになったそうです。謹んで、ご冥福をお祈り致します。
大好きな作家でした。

『憤怒』G・M・フォード 新潮文庫
『白骨』G・M・フォード 新潮文庫
『毒魔』G・M・フォード 新潮文庫




黒い河 (新潮文庫)黒い河 (新潮文庫)
(2004/04)
G・M・フォード

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ベルファストの12人の亡霊』 スチュアート・ネヴィル RHブックスプラス

2012-06-05

Tag :

☆☆☆☆

かつて北アイルランド共和派のテロ実行役として恐れられたフィーガンは、和平合意後、酒に溺れる日々を送っていた。彼を悩ませるのは、常につきまとって離れない12人の亡霊。すべてテロの犠牲者だった。その苦しみから逃れるため、フィーガンは亡霊たちが指差すままに、テロ工作の指令を出した昔の指導者や仲間をひとり、またひとりと殺していくしかなかった。彼の不可解な連続殺人が、危うく保たれていた各勢力の均衡に亀裂を生じさせることに! 内容紹介より



以下、ネタバレしています!ご注意下さい。

テロの犠牲となった民間人、警察官、軍人など12人の亡霊がテロ実行犯だった主人公に復讐を強いる、という発想が突飛であり、しかもその男が酒浸りで独り言を言うまでに精神が破綻しているのも、問答無用なバイオレンスアクションの面で大変期待が持てるところ。主人公を手先に使った者たちは地位や名誉や金を手に入れてぬくぬくとしている現状のなか、大義や正義の名のもとに闘った者が、戦いが終わった後には使い捨ての駒の末路をたどるという悲哀を漂わせつつ、悪い奴が悪い奴を狩り、情け容赦なく始末していく爽快感が味わえる展開が……。主人公がターゲットを片づけるごとに、まるでゲームをクリアしていくみたいに亡霊がひとりづつ成仏して消えていくのです。このままこの感じで最後まで疾走していくのかいけばいいなと思いきや、なんと作者は若い母親と幼い娘を登場させ、主人公と心を通わせてしまうという痛恨のミスを犯してしまったのでした。それから後は、主人公が我が身を省みず敵の人質となった母子を救出に向かうというお決まりのパターンに陥ってしまいます。まったくもって残念な展開。
すべてのターゲットが消え、ただひとり残った亡霊が最後に指差す人物とは……。そこは自ら頭を撃ち抜くくらいの思いきったラストシーンが欲しかった。




ベルファストの12人の亡霊 (RHブックス・プラス)ベルファストの12人の亡霊 (RHブックス・プラス)
(2010/08/10)
スチュアート・ネヴィル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ボディブロー』 マーク・ストレンジ ハヤカワ文庫HM

2012-06-04

Tag :

☆☆☆

元ボクサーのジョーはヴァンクーヴァーの高級ホテルで警備責任者を務めている。かつて経営者のレオを何者かの襲撃から護ったのがきっかけだった。ある夜、ホテルでレオの愛人だったメイドが殺される事件が起きる。ジョーは犯人探しを命じられるが、鍵となるレオの過去には濃密な氏の香りが満ちていた……。ダークスーツがよく似合う、謙虚でクールなニューヒーロー登場!MWA賞に輝くスタイリッシュ・ハードボイルド 内容紹介より



ハードボイルドの主人公といっても、このジョーという男は個人的に苦手な、気の利いたことを喋らないと手が震えてくるぜみたいな饒舌タイプではないし、かといって一昔前にいたトラウマを抱えた破滅的な性格の持ち主でもなく、酒やギャンブルで生活や人生に破綻をきたしそうな人物でもない、恋人にも金にも不自由しない良く言えば中庸、悪く言うなら凡庸な人です。普段、警備係そのものが黒子だからか、とにかく記憶に残らないキャラクターなのは間違いないでしょう。また、全体の印象がハードボイルドの皮を被ったコージーミステリみたいな印象を受けてしまうのは、コージーに登場するコミュニティをそっくりホテルに移し替えただけの舞台設定みたいな感じがするからでしょうか。たとえばホテルのオーナーと不仲だった彼の子供たちが仲直りする話とか事件そのものが内輪のもめ事に端を発していたりとかホテル内の日常業務の描写がほとんどないだとか。いずれにせよ陰謀とかギャングの存在とかまったくないこぢんまりしたスケールの物語でした。
それからホテルを舞台にしながら、なぜ風変わりな宿泊客や個性的な常連客を登場させなかったのか、そこは問題が残るところ。




ボディブロー (ハヤカワ・ミステリ文庫)ボディブロー (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2010/12/09)
マーク・ストレンジ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『危ないダイエット合宿』 カレン・マキナニー RHブックスプラス

2012-06-03

Tag :

☆☆

ナタリーの宿で初めてのダイエット合宿が開かれることになった。閑古鳥の鳴いていた宿にとって団体客は大歓迎、あわよくばナタリー自身もダイエットできるかも!?そう期待したのもつかの間、同行していたハンサムなトレーナーが不審な死を遂げたことで、7日間の合宿に暗雲が垂れこめる。どうやら合宿の一行のなかには、身分を偽っている者や後ろめたい過去を抱える者、はたまた別の目的でやってきた者がたくさん潜んでいるようで……!? シリーズ第3弾 内容紹介より



以下、ネタバレ気味ですので、ご注意下さい!


〈朝食のおいしいB&B〉シリーズの三作目。
ダイエット合宿のトレーナーの不審死以外に、改修中の灯台から古い人骨が見つかる出来事も起きていて、それが昔行方不明になった灯台守のものなのかというサブストーリーが設けられています。その人骨の話から奴隷制時代の逃亡奴隷や地下鉄道の話に繋げて、読者の興味を引こうとする作者の意図が見られます。黒人奴隷の生死をかけた逃亡劇と現代人の減量をかけたダイエット合宿との皮肉な対比が利いていますが、一方ではメインの“ダイエット合宿殺人事件”自体が霞んでしまう羽目にもなりかねないわけで、実際、読者の関心を外からB&B内へ向けるために作者はもう一つの殺人事件を起こしています。ただ、この殺人事件が自分たちが寝泊まりする同じ屋根の下で起きたというのに、しかも状況から見て殺人犯は宿泊客の誰かだと考えられるのに、ヒロインとその姪の怯えやパニックとか緊迫感のなさはどうでしょう。自分の身には降り掛からないという、あり得ない様子は。
それ以外には、ヒロインが恋人とダイエット合宿の主催者の女性との仲を疑うという女性向けの設定もあります。ミステリ的にはレッドへリングだと思っていた人物が、そのとおり犯人だったという、何とも締まらない真相で終わりました。

『注文の多い宿泊客』カレン・マキナニー ランダムハウス講談社
『料理人は夜歩く』カレン・マキナニー ランダムハウス講談社




危ないダイエット合宿 (朝食のおいしいB&B 3) (RHブックス・プラス―武田ランダムハウスジャパン)危ないダイエット合宿 (朝食のおいしいB&B 3) (RHブックス・プラス―武田ランダムハウスジャパン)
(2010/04/10)
カレン・マキナニー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『雷鳴の館』 ディーン・R・クーンツ 扶桑社ミステリー

2012-06-01

Tag : ホラー

☆☆☆☆

スーザンは見知らぬ病院のベッドで目覚めた。医者が言うには、彼女は休暇中に交通事故に遭い、このオレゴンの病院に運びこまれ、三週間も意識を失っていたという ― 。しかし、彼女にはそんな記憶はなかった。と同時にこれまでたずさわっていた仕事の内容、同僚の名前までも思い出せない。そして、彼女は病院の中で信じられないものを見てしまう。大学時代にボーイフレンドを殺した男たちが、若い姿のままで患者として入院しているのだ!これは狂気か?幻覚か?人気沸騰のクーンツが放つ異色のサスペンス・ホラー! 内容紹介より



以下ネタバレしています!ご注意下さい。


ハーレクインみたいなロマンティック・サスペンスに謀略設定を取り入れるのはまだ想像がつくけれど、さらにそこにホラーを前面に持ち出してくるという作業をやる作家ってこの人くらいなものではないかと思う。てっきりホラーのみで一気にがぶり寄りしてくる作風だと思っていたのに、いつまでたってもスプラッターの展開にならず、一方ヒロインの勤務していた会社はいわくありげで陰謀の匂いも強くなるし……。そんな感じで終盤にかけて予想を裏切る流れになり、見事に捻られてしまいました。相当な力業でぶん投げられ、あっけにとられた感じ。できればいけすかない野郎の喉元に注射針の一本でも突き立てるとか、敵に対してヒロインからの肉体的な反撃があれば、こちらもカタルシスが感じられたのでしょうけれど、やられっぱなしだったのは残念無念。それとエンディング部分がいつまでもダラダラとやや長ったらしい。ヒロインと連れのそっくりさんのアイデアは上手いと思うけれど、必要性は薄いような気がしました。彼女が悲鳴をあげて飛び起きる、という余韻を残しながらもさっぱりとした終わりかたでもよかったのでは。

『闇の殺戮』ディーン・R・クーンツ 光文社文庫
『奇妙な道』ディーン・クーンツ 扶桑社ミステリー
『嵐の夜』ディーン・クーンツ 扶桑社ミステリー




雷鳴の館 (扶桑社ミステリー)雷鳴の館 (扶桑社ミステリー)
(1989/11)
ディーン・R・クーンツ、Dean R. Koontz

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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