『星をまく人』 キャサリン・パターソン ポプラ文庫

2012-07-31

Tag :

☆☆☆

父さんは刑務所、母さんはあたしと弟のバーニーをひいおばあちゃんの家にあずけて、どこかに行ってしまった……。不安な日々をひたむきに生きる11歳のエンジェル。その心の支えは夜空に輝く星たちだった。せつなくて思わず涙がこぼれる、ハートウォーミングストーリー。 内容紹介より



身近にいる大人たちがみんな頼りになりそうもないと感じた時、主人公エンジェルの心は否応なく大人びていかざるをえないのですが、11歳の女の子にとってそれはとても荷の重いこと。エンジェルや弟のバーニーのために本来大人が考えたり、なすべきことを彼女自身がひとりで心配したり悩んだり、やり遂げなくてはならないし、責任も背負わなくてはいけないと思いつめてしまう。エンジェルはそのような境遇に思わず号泣したり、憤慨したり、挫けそうになったりします。そんな気持ちを慰めてくれるのは、田舎の夜空に輝く満天の星たちと星について教えてくれる謎の“星のおじさん”の存在です。星を見たり、星について考えたり、星の本を読んだりすることで不安が和らいでいきます。
やや、エンジェルの人間性が出来上がっている感じがしますが、とにかく、弟思いの少女がとても健気で、彼女の心細さを想像すると目から流れ星が……。




星をまく人 (ポプラ文庫)星をまく人 (ポプラ文庫)
(2010/12/07)
キャサリン・パターソン

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テーマ : 児童書
ジャンル : 本・雑誌

『骨の城』 アーロン・エルキンズ ハヤカワ文庫HM

2012-07-29

☆☆☆

環境会議の会場となった古城近くで発見された人骨。調査に乗り出した人類学教授ギデオンは、骨の特徴があぐらをかく職種の人間のもので何者かに殺害されたのだと推定する。やがて、数年前同じ場所で開かれた環境会議で参加者たちが諍いをしていた事実と、会期終了後参加者の一人が熊に喰われて死んでいたことが明らかに。さらに今回の参加者が城から転落死を遂げ……一片の骨から不吉な事件の解明に挑むスケルトン探偵。 内容紹介より



今回の舞台は、イギリスのコーンウォール州ペンザンスからフェリーに乗って行くシリー諸島のセント・メアリーズ島。地元の博物館に持ち込まれた小さな骨を鑑定した結果、それがのこぎりで切断されたものと判明し、島に二人しかいない警察官とともに事件の謎に挑むというもの。島に建つ古城の所有者が私的に催す会議に出席したある人物が被害者ではないかと思われたが……。
取ってつけたかのような転落事故を装った殺人事件が起きるにしても、全体的にこれまでにないくらいかなり淡白で、今ひとつ盛り上がりに欠けた印象でした。やはり容疑者となる会議参加者たちへの書き込み不足が原因でしょうか。作者の筆が地元警官のひとりに割かれているため、容疑者たちの人物像が説明書き程度の扱いしか受けていません。そのため出来事が現在進行形でなく、すっかり過去の話みたいになってしまっています。被害者だと思われていた人物を島にやって来させる(ルース・レンデルが得意とするように)みたいな工夫が欲しかったところです。

『暗い森』アーロン・エルキンズ ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫
『死者の心臓』 アーロン・エルキンズ ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫
『洞窟の骨』 アーロン・エルキンズ ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫
『骨の島』 アーロン・エルキンズ ハヤカワ文庫HM




骨の城 (ハヤカワ・ミステリ文庫)骨の城 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2008/03)
アーロン エルキンズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『硝煙のトランザム』 ロブ・ライアン 文春文庫

2012-07-26

☆☆☆☆

どちらも息子を愛していた。シングルマザーのウェンディも、少年を死なせたジムも。その愛が彼らの人生を狂わせた時、追撃と銃撃の物語が幕を開けた。ノゾの密航手配師、暗い記憶に苦惱する帰還兵、傷を追った捜査官。それぞれの敵を追う男たち、女たち。語りに罠を仕掛け、慟哭の結末へと猛然と突進する激情の冒険サスペンス。 内容紹介より



米国を舞台にしつつも、まったくハリウッド的エンタメ風に染まらないのは作者が英国人だからなのか。特に、元レインジャー隊員のクーガンが本来ヒーロータイプの位置付けにありながら、アクションシーンにおいてさえもほとんど目立った活躍をしていないどころか、終始添え物みたいな扱いを受けているのは注意すべきところかもしれません。それからまるでクモが巣を作るみたいに200ページにわたって人間関係と伏線を張り巡らす作業を行う細かさと根気には特筆すべきものがあるし、物語が動き出すと配置された点と点が次々に線で繋がっていき、視界が晴れていく爽快感とともに唖然とする展開にいく流れは見事です。そして、ラブロマンスを安易に持ち込まなかったのも、かなりシビアな結末と連動して評価すべきところだと思います。作品全体を通じて作者のそつのない緻密な計算と構成力を感じられました。これまで読んだロブ・ライアンの作品のなかでベストだと思います。また、障害を負ってリハビリ施設に入所中のFBIやATFなどの捜査官が一同に介して事件の解明に当たるアイデアは非常に斬新かつ面白いもので、これで別の作品を書いて欲しいくらいでした。
それ以外に、前作『9ミリの挽歌』の登場人物も再登場し、あの事件の顛末にも触れられています。
そしてまた、前作同様に余韻を残す終わり方というか、ラストをきちんと締めないで終わるのはこの人の作風なのでしょうか。

『アンダードッグス』ロブ・ライアン 文春文庫
『9ミリの挽歌』 ロブ・ライアン 文春文庫
『暁への疾走』ロブ・ライアン 文春文庫




硝煙のトランザム (文春文庫)硝煙のトランザム (文春文庫)
(2003/08)
ロブ・ライアン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『億万長者の殺し方教えます』 ナンシー・マーティン ハヤカワ文庫

2012-07-24

Tag :

☆☆

フィラデルフィアの名家に生まれ、蝶よ花よと育てられたわたしたち三姉妹。だけどいま、両親は脱税して海外へ高飛びした!滞納された税金を払うため、わたしは旧知の老富豪ローリーが所有する地元紙の記者として働きはじめた。なにかとつきまとう自動車ディーラーのアブルッゾや、わたしを目の仇にする上司キティはいるものの、生まれて初めての仕事は楽しくて順調だった。取材先のパーティーで、死体を発見するまでは ― ロマンス界のヴェテランが個性派セレブだらけの社交界を舞台に描く傑作コージーミステリ、華やかに開幕! 内容紹介より



シリーズタイトルは、ブラックバード姉妹の事件簿。
作者はハーレクインにも作品を発表したことがあるロマンス小説出身の作家だそうで、没落した名家の三姉妹の次女を主人公に据え、社交蘭を担当する新米新聞記者として再度セレブの世界に関わらせる趣向をとっています。アメリカ人て特にセレブ好きな国民性のような気がするので、こういう設定はコージーミステリのジャンルとして旨いところに目をつけたのかもしれません。
三姉妹とも夫と死別した経験があるために、「夫に恵まれないブラックバード姉妹」と陰口を叩かれているのですが、ヒロインにもロマンスが当然芽生えるわけで、ジョアン・フルークのハンナ・スウェンセンシリーズやジャネット・イヴァノヴィッチのステファニー・プラムシリーズみたいに、刑事ともう一人の男が彼女の前に現れます。ただ、今回ヒロインが仲良くなるのは、ステファニー・プラムのバウンティハンター仲間のレンジャーに似た怪しげな過去を持ってそうな自営業の男のほうだけです。
なんだかんだしている内にいつのまにか話が終わり、とりたてて印象に残る作品ではありませんでしたが、犯人の意外性だけはありました。




億万長者の殺し方教えます―ブラックバード姉妹の事件簿 (イソラ文庫)億万長者の殺し方教えます―ブラックバード姉妹の事件簿 (イソラ文庫)
(2010/02/10)
ナンシー・マーティン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『三本の緑の小壜』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

2012-07-22

☆☆☆☆

ある日、友人と遊びにいった少女ジャニスは帰ってこなかった―。その後、ジャニスはゴルフ場で全裸死体となって発見される。有力容疑者として町の診療所勤務の若い医師が浮上したものの、崖から転落死。犯行を苦にしての自殺と目されたが、また少女が殺されてしまう。危険を知りながら、なぜ犠牲に?真犯人への手がかりは意外にも……。英国本格の名手、待望の本邦初訳作。 内容紹介より



ただ単にわたしがディヴァインの作品に慣れてきただけなのかもしれないけれど、今回の作品は今までより角がとれて娯楽性が高まっているような気がしました。一番の原因は、山田蘭氏が訳者あとがきに書いているように、これまでの「主人公の一人称、あるいは三人称多視点という形式」から、一人称多視点に変更したため印象が変わったせいなかもしれません。なかでも十三歳の少女の視点を大人の視点に取り混ぜたことで雰囲気が明らかに変化しています。ということで、初期ディヴァインのガチガチのパズラーとしてのイメージが本書では軟化するとともに大衆化しているようにも感じられたわけです。それとともに、初期の頃が懐かしいく思ったりもして……。
謎解きの部分ではやや難易度が下がり、この作者の作品を読みつけている読者には意外性の面で物足りなさを覚えるかもしれません。それからなんとなくですけれど、ディヴァインの作品にはコンプレックスが要因となる犯行が多いような気がします。

タグ:D・M・ディヴァイン




三本の緑の小壜 (創元推理文庫)三本の緑の小壜 (創元推理文庫)
(2011/10/28)
D・M・ディヴァイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『緑の檻』 ルース・レンデル 角川文庫

2012-07-20

☆☆☆

グレイは本を一冊著わしただけの売れない作家。緑の小径の奥にあるコテージに一人住み、電話も受話器をはずし、まるで世捨て人のような耐乏生活を送っている。そして電話は、彼を怯やかすものの象徴でもあった。それはいつ息を吹き返し、美しい人妻、ドルシラとのすでに終わったはずの“危険な関係”にふたたび火をつけかねないのだ…。二人の間には、果たされないままに終わった或る企てがあった。とうに葬りすてたはずのそれが、やがてグレイを閉じ込める恐ろしい罠に変貌をとげようとは、彼には知る由もないことだった ― 。 内容紹介より



1974年に発表されたノン・シリーズもの。
友人が所有している古いコテージに住み、昔出した本の印税で細々と暮らしている三十代の男が主人公。十代の頃、母親の再婚を苦に自殺未遂を起こしたことがあり、精神的な弱さがある。彼は偶然出会った人妻と不倫関係になるが、彼女が言い出したある要求を拒んだことから関係が終わっている。こういう背景のなかで物語は、銀行からいくら金を下ろし、何に支払ったとか、不倫相手との思い出だとか、フランスに住む母親と継父の話とかが主になり大した事件も起こらず、細々しくスローなペースで進んでいきます。普段刺激過多なミステリ作品を読みつけている身としては、こののんびりした流れがまどろっこしく感じたりしました。病床についていた主人公の母親の容体が悪くなり、彼がフランスへ赴くところから話はようやく動き始めます。
巻頭に引用しているルパート・ブルックの詩のように、“愚か者”がある女を愛したことで被った受難をテーマにしているのですが、主人公の救いようのない駄目さ加減を描きながら、読者が感情移入をできる余地をギリギリまで残し、愛想が尽きる手前で踏みとどまらせるテクニックは見事です。
彼が小悪魔だと思っていた女が実は立派な悪女だったことに気づいた時には、すでに彼は檻の中に……。




緑の檻 (角川文庫)緑の檻 (角川文庫)
(1988/07)
ルース・レンデル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『コヨーテは待つ』 トニイ・ヒラーマン ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2012-07-18

Tag :

☆☆☆

誰もが悪戯だと思っていた。荒野の岩山にペンキを塗りつけることに、目的などあるはずがない。チー巡査も同じ考えだった。だからこそ、犯人を見つけたと同僚が無線連絡してきたときも、すぐに駆けつけなかったのだ。だが、現場で彼が見たものは、炎上するパトカーと同僚の射殺死体だった ― アメリカ・ミステリ界を代表する実力派が放つ人気シリーズ第五弾



『時を盗む者』からナヴァホ族警察警部補ジョー・リープホーンと巡査ジム・チーの関係性がほとんど変わっていない。つまりコンビを組んだり、仲良くなっていたりしていないところに意外性と新鮮味があって良いです。得てしてハリウッド的な軽口を叩き合う気持ち悪い友情に発展させがちな傾向に逆らってドライな関係を保っています。『時を盗む者』同様に、二人が別々にそれぞれの事情で事件を捜査し真相に迫っていく趣向も風変わりだと思いますし面白いです。そしてまた、本作も名誉欲にかられた学者の行動が事件の一因となっているのは、このシリーズの上で注意が必要なところなのかもしれません。学究の名目でインディアンの聖地やタブーとされている場所に踏み込んだり、彼らを利用しようとしてタブーに触れさせたりする行為が、本来守らななければならない学者のモラルから逸脱し結果として悲劇を招いてしまう様を描いています。

『時を盗む者』トニイ・ヒラーマン ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫




コヨーテは待つ (ミステリアス・プレス文庫)コヨーテは待つ (ミステリアス・プレス文庫)
(1993/11)
トニイ ヒラーマン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ハード・トレード』 アーサー・ライアンズ 河出文庫

2012-07-16

Tag :

☆☆☆

ロサンゼルスの私立探偵ジェイコブ・アッシュはシルヴィアという挙動不審な女性の依頼で、彼女のフィアンセ、ホフマンの素行調査に乗りだす。彼は埋立て地の技師なのだが、政治家とも親しいらしい。また特殊な趣味を持っていることがわかる。ある日シルヴィアが車にはねられる……。ハメット=チャンドラーの伝統を引き継ぎながらも独自の手法で現代を描きつづけているユニークなハードボイルド作家、アーサー・ライアンズの傑作。 内容紹介より



「傑作」と書かれているとやはり期待してしまうわけで、同じ河出文庫の『裏切りの街』(ポール・ケイン)くらいに歯ごたえのあるハードボイルドを想像していました。本書は1982年のPWA賞長編賞のノミネート作品になっています。
とりあえず導入部の、主人公の私立探偵が冴えない小柄な依頼主の女性を見て呟いた、「吐息の物憂げな、脚線美の金髪女は、みんなスペードやマーロウのとことに行く」という諧謔を含んだフレーズにはなかなかのセンスを感じました。ハードボイルドのお約束である「謎の美女」が登場する設定を微妙にずらしているのです。他にも何者かに殴られ、気がついたらベッドで女の死体とともに寝ていたなんていう場面もこのジャンルの常套だったりしますが、本書ではそこがゲイの中年男性の死体になっていたりします。こんなふうに従来の私立探偵ものに変化をつけているのですが、メインテーマは土地開発をめぐっての開発会社と行政の癒着という定番なもので、あまり新しさが感じられませんでした。現実的すぎる決着も読後の爽快感を得られません。軽口もあまり気にならない等身大の主人公は良い感じですけれど、地味で印象に残るものがないような気がします。




ハード・トレード (河出文庫)ハード・トレード (河出文庫)
(1988/10)
アーサー・ライアンズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『氷雪のサバイバル戦』 デイヴィッド・ダン ハヤカワ文庫NV

2012-07-13

Tag :

☆☆

雪に覆われたカリフォルニア州北部の山中に墜落した飛行機。インディアンの獣医キアとFBIの女性捜査官は、その残骸の中から秘密の研究記録を持ち出したため、傭兵たちの襲撃を受けた。女性捜査官を護りつつ、キアはサバイバル術を駆使して反撃する。だが、やがて超一流のハンターである敵の黒幕が自ら追跡してきた! 酷寒の雪山を舞台に、自然を知りつくした男たちが繰り広げる壮絶な闘い。迫力溢れる冒険アクション。 内容紹介より



雪山、飛行機事故、傭兵、サバイバル、インディアン、ヒロイン、見事にありふれた設定と読者の想像を裏切らないありふれた展開、全体にメリハリがなく、だらだらと逃避行が続く凡庸な作品。バイオテクノロジーを使った非倫理的な研究を取り上げることで新味を出そうとしているけれど、説明部分が長く、それも度々挿まれるからストーリーの流れを阻害している感じがしました。こういう箇所をマイクル・クライトンのテクニックと比べるとかなり拙さが目立ちます。何気にスーパーヒーロー化気味の主人公とほとんど彼に頼りっぱなしのヒロイン、彼らのどうでもいいお約束のロマンス、ただのお飾りに過ぎないのではないかと思えるインディアンの造形、カモにされっぱなしの傭兵たち、ドイルという傭兵の処理のまずさ、もたもたしたクライマックス。少なくとも主人公には、最新の武器など与えず、弓矢や原始的な罠とインディアンの知略をもって敵と戦わせるべきだったのでは。




氷雪のサバイバル戦 (ハヤカワ文庫NV)氷雪のサバイバル戦 (ハヤカワ文庫NV)
(2003/05)
デイヴィッド・ダン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『クッキング・ママの捜査網』 ダイアン・デヴィッドソン 集英社文庫

2012-07-10

Tag :

☆☆

アスペンは六月。ポプラの緑が映え、ゴルディロックス店ケータリングは商売繁盛……。とは世の中そんなに甘くない。前夫の脅迫を避け、息子アーチと大邸宅に住み込んだゴルディ。昔の恋人との再会に胸が踊るが、シュルツ刑事のことも気にかかる。新聞に料理の中傷記事が出たり、と気のもめる日々が続き、おまけに恋人の死を目撃したとあっては、もう黙ってられない。クッキング・ママは再び捜査に乗り出した!! 内容紹介より



約七年ぶりに読んだクッキング・ママシリーズの二作目です。
昨今隆盛を極めている飲食系コージー・ミステリのなかでも老舗にあたるこのシリーズ。主人公はケータラーなので、店を構えて客が来るのを待つ業態ではなく、客の自宅などに出向いて大人数に食べ物や飲み物を供する仕事をするかたわら、住み込み先の料理や電話番もこなしています。また、一人息子の子育ての悩みや家庭内暴力が原因で離婚した元夫への対応など、彼女の日常にはいつも気ぜわしさがあって、この雰囲気にはコージー・ミステリという言葉から一般的に想像するのんびりしたものとは異質なものがあります。常にストレスに晒されているみたいな状況には同情しますが、彼女の負けてられない殺伐さが目立つのでもう少し息抜きできるシーンが欲しいところです。その点、猫のスカウトの存在は効果的でした。ヒロインの日常生活が多く語られ、謎解きに関しては場当たり的な成り行きに終始しているところはコージーそのものです。

『クッキング・ママの名推理』ダイアン・デヴィッドソン 集英社文庫




クッキング・ママの捜査網 (クッキング・ママ) (集英社文庫)クッキング・ママの捜査網 (クッキング・ママ) (集英社文庫)
(1995/03/17)
ダイアン・デヴィッドソン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『トリポッド 2 脱出』 ジョン・クリストファー ハヤカワ文庫SF

2012-07-07

Tag : SF

☆☆☆☆

トリポッドが世界を支配するようになってから、およそ百年。みんなキャップをかぶり、平和でのどかな生活をおくっている。でも、ほんとにこれでいいんだろうか?戴帽式を間近にひかえ、そんな疑問で頭をいっぱいにしていたぼくは、ある日一人のはぐれ者からおどろくべき話をきいた。トリポッドは異星からの侵略者で、海の向こうの白い山脈には自由な人々がいるという。ぼくは従弟のヘンリーとともに、自由を求め旅にでるが!? 内容紹介より



本書では、『トリポッド 1 襲来』から百年後の世界が舞台になり、イギリスやフランスの文明は中世に、社会は封建制度に後戻りしています。トリポッドから被せられるキャップのせいでかつての現代文明は忌まわしい歴史として扱われ話題にすることも憚られる状況にあります。ある日、はぐれ者に扮した自由市民の男からトリポッドが支配しない土地のこと聞かされ、主人公は従弟とともにその地を目指します。
イギリスからフランスへ船で渡り、目的地のスイスへ徒歩で向かう道中記が描かれているわけで、家出をし、人目を避けて野宿したり、食料が尽きると食べ物を盗んだり、打ち捨てられ荒廃した無人の巨大都市を探検したりする冒険は大人の読者も引きこまれます。
また、主人公はヒーロータイプじゃなく普通の少年であり、後に二人の仲間に加わるフランス人の少年と従弟が仲良くしている様子に嫉妬したり疎外感を持ったり姿は子供たちにも共感を呼ぶでしょうし、旅の途中、ある館で大事にされて幸せな生活を送り、知り合った女の子に好意を抱いてキャップを受け入れようかと心が揺れ動く様子を描いて人の弱さを表したりしています。
たしかに今読んでも面白いのですけれど、少年時代に読んでいたなら更に愉しめたでしょうし、特別な一冊になっていたのにと思ったりもしました。

『トリポッド 1 襲来』 ジョン・クリストファー ハヤカワ文庫SF




トリポッド〈2〉脱出 (ハヤカワ文庫SF)トリポッド〈2〉脱出 (ハヤカワ文庫SF)
(2005/01/15)
ジョン・クリストファー

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テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

『死の連鎖』 ポーラ・ゴズリング

2012-07-04

☆☆☆

あんたとマイケルのことは知ってるよ ― 大学で英文学の助教授をしているケイトは、繰り返しかかってくる脅迫電話に悩まされていた。単なる嫌がらせとしか思えない内容だったが、あまりの執拗さに耐えかねたケイトは自らの手で犯人を捜しだそうと決心する。一方、彼女の恋人のジャック・ストライカー警部補は、二件の事件を抱えていた。人類学部の女性助教授が自宅で射殺死体で発見されたのに続き、若い医学生が病院近くの路上で惨殺されたのだ。有能で勤勉、誰からも愛されていた二人が、なぜ?大都会グランサムに展開するサスペンス大作。 内容紹介より



本書では三件の捜査が同時進行で描かれています。
1.ストライカー警部補の同居人ケイトあてに匿名でかかってくる中傷の電話を彼女がストライカーに内緒で調査している件。
2.ケイトの大学の同僚である女性助教授が射殺死体で発見された事件。
3.ケイトの大学の学生が撲殺された事件。
1はケイトと女友達の素人二人が係わり、2についてはストライカーが中心となって捜査を進め、3は強盗殺人事件との警察の見解に納得できないストライカーの部下が単独で独自に捜査にあたります。三件の調査、捜査ともに趣を異にしているところに作者の工夫が見られるのではないかと思いました。しかし、ここで気になったのが、警察小説が抱えていると感じる聞き込みにまつわる問題で、特に2が大学の同僚とゼミの学生、3が大学教師と学生に加えて、被害者がアルバイトをしていた病院関係者も対象となって人数が非常に多いのです。そのため話しの大部分が聞き込みのシーンにあてられているせいで、それがいつまでも続き、どうしても変化に欠けて単調な印象を受け飽きてしまうのです。しかも二人の被害者ともに好人物の設定なので、二人の意外な一面や蔭の部分が新たに浮かび上がってくるということもありません。こういう人物像のダブリは作者らしからぬ芸の無さだと思います。




死の連鎖 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)死の連鎖 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
(2003/05/15)
ポーラ・ゴズリング

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『トリポッド 1 襲来』 ジョン・クリストファー ハヤカワ文庫SF

2012-07-01

Tag : SF

☆☆☆☆

ぼくとアンディがサマーキャンプに参加していた時、とんでもない事件を目撃した。20メートルをこす巨大な三本脚の物体が現れて農場を破壊し、近づいてきた戦車をひねりつぶしたんだ!結局は戦闘機のミサイルであっけなく破壊されちゃったけど、この謎の物体は、イギリスだけじゃなく世界各地に飛来していたらしい。でもこの事件は、異星からやってきた〈トリポッド〉の、地球への侵略の第一段階にすぎなかったんだ! 内容紹介より



トリポッド・シリーズである『脱出』『潜入』『凱歌』の二十年後に三部作の前日譚として書かれたのが本書だそうで、トリポッドが地球に襲来して人間を支配する一方、支配から逃れたグループたちの行動が描かれています。1960年代に発表された三部作は児童文学の名作なのでそうですが、まったく知りませんでした。ジュブナイルといえどもやはり英国文学ですから結構シビアな箇所もあって、たとえば主人公の少年の家庭環境は祖母、実父と継母と義妹が同居して彼らと主人公の人間関係が微妙にぎくしゃくしていたりします。本書のメインテーマ自体もトリポッドによる洗脳を受け、盲信してしまう人間たちを全体主義や狂信者のイメージにだぶらせ、武器による肉体への支配よりもプロパガンダによる精神への支配の無気味さを表し、それに抵抗し自由市民としてトリポッドと闘う者たちの勇気を描いています。西島大介氏のカバーイラストから受ける印象とは違って、内容は大人が読んでもはまるなかなか硬派なものでした。




トリポッド 1 襲来 (ハヤカワ文庫 SF)トリポッド 1 襲来 (ハヤカワ文庫 SF)
(2004/11/15)
ジョン・クリストファー

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テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

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  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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