『耳をすます壁』 マーガレット・ミラー 創元推理文庫

2012-08-30

☆☆☆☆

思いたってメキシコ旅行に出かけたエイミーとウィルマ。ありふれた旅路となるはずだったが、滞在なかばウィルマがホテルのバルコニーから堕ちて死んでしまう。居合わせたエイミーも、その時の記憶を欠いたまま失踪。一体そこで何があったというのか?調査の依頼をうけた私立探偵ドッドは失踪人の身辺を探るが……。鬼才が放つ緊迫のサスペンス。 内容紹介より



マーガレット・ミラーが四十歳代半ばで発表した、作者お得意の「失踪」をモチーフにした作品。旅先のホテルで親友が墜落死したことのショックから、自分自身を見つめ直すために、夫のもとを離れてしばらくひとりになるという兄宛の手紙を残してエイミーは姿を消します。人好きのする人物であるエイミーの夫、妹への愛情から過干渉の傾向があるエイミーの兄、そんな夫の性格を心配し、義弟に肩入れするエイミーの義姉、エイミーの夫に密かに好意を寄せる彼の秘書、エイミーの兄に雇われた探偵。まるで複数の覗き穴があけられた大きな箱の中に入っている「正体不明の物体」を、各人それぞれ違った箇所の穴だけからしか覗き見ることができない状況に陥ったみたいに、登場人物たちは「エミリーの失踪」を思い込みや憶測を持って一方的に決めつけたり、思い描いたりしてしまいます。そして推測や思い違いが本来あるべき状況を変えてしまい、他の人物までにも影響を及ぼしていきます。果たしてエミリーは生きているのか?死んでいるのか?作者の熟練した手法がこの設定と展開に割りと慣れたと思っている読み手にも答えを迷わせます。
ラストの一行も非常にミラーらしい。

ユーザータグ
マーガレット・ミラー



耳をすます壁 (創元推理文庫)耳をすます壁 (創元推理文庫)
(1990/02)
マーガレット・ミラー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『鑢 名探偵ゲスリン登場』 フィリップ・マクドナルド 創元推理文庫

2012-08-27

Tag :

☆☆☆

大蔵大臣ジョン・フード殺害さる ― 特種をいち早く掴んだ〈梟〉紙は、第一次大戦の英雄にして明晰な頭脳の主、アントニイ・ゲスリン大佐を現地へ送り込む。顔の広さと炯眼をもって事に当たるゲスリンの推理の過程は、終盤に至って特派員の原稿として示される。客観データと論理的考察が導く真犯人とは?マザーグースの調べに彩られた、名探偵ゲスリンの記念すべき初登場作品。 内容紹介より



1924年に発表された作品ですから、読んでみるとやはり時代掛って(探偵と警察官の慣れ合った関係性とか)、会話もきどった感じがしました(訳は吉田誠一氏)。ただ、本書の探偵は本格推理ものの古典的名探偵にありがちな、謎や証拠への解釈をもったいぶって読者にあまり提示せず終盤まで抱え込むということがなく、見出した証拠や疑惑とそれについての説明を割りとその都度披露しているのは、フェア、アンフェアは別にして、刺激を常に与え娯楽性を高めて読者の興味をひっぱるという意味において正解なのではないかと思いました。たとえば、犯行現場の部屋の外に残された足跡とか。しかし、それも証拠や証言、新たな謎がひと通り出尽くしてしまった中盤以降はやはり単調になり、登場人物たちの恋愛話(さすがに三組は多すぎでしょう)を持ちだしてお茶をにごさなくてはならなくなっていきます。さらに探偵が手持ちの情報の多くを気前よく読者に開示した結果、真犯人の見当がつきやすく、終盤での犯人の動機、手口の説明が重複している感じで、必要以上に長ったらしい印象を受けてしまいました。

『ライノクス殺人事件』 フィリップ・マクドナルド 創元推理文庫
『ゲスリン最後の事件』フィリップ・マクドナルド 創元推理文庫




鑢―名探偵ゲスリン登場 (創元推理文庫 (171‐2))鑢―名探偵ゲスリン登場 (創元推理文庫 (171‐2))
(1983/10/21)
フィリップ・マクドナルド

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『名犬ランドルフと船上の密室』 J・F・イングラート RHブックスプラス

2012-08-25

Tag :

☆☆

失踪中のイモージェンのあとを追い、カリブ海の島へ向かう豪華客船に乗り込んだランドルフとご主人のハリー。ところがハリケーンの訪れとともに、悲劇の幕が上がる。華やかな船上マジックショーの舞台で満員の観客が見守るなか、鍵にかかったケージの中にこつ然と死体が現れたのだ!しかもそれは、数日前に船から身を投げたはずの女性。なぜ彼女は、二度死ななければならなかったのか?小さな灰色の脳細胞でランドルフは不可能な密室トリックに挑む。 内容紹介より



〈黒ラブ探偵3〉
優秀な頭脳を持ちながらも、その灰色の脳細胞が収まった先は、よりによって犬の頭蓋骨の内だったという悲劇、そしてその思索に耽る理性的な一頭のラブラドール犬が、時として食欲という本能に負けてしまう喜劇、この悲喜劇をテーマにしたものがこのシリーズなのであろう、きっと。その上、彼はヒトの何千倍ともいわれる嗅覚を備え、特別な臭いの世界にも身を置いているいるのです。というわけで、ランドルフはますます内省の世界へと入り込み、飼い主のハリーの影がどんどん薄くなるなか、ダイエットという名の余計なお世話を人間から強いられつつ、犬である我が身にまつわる由なしごとを考えたり、失踪事件や殺人事件の解決に奔走したりしなければならなかったのです。前作同様、人間が醸し出す感情の臭いを嗅ぎ分けて、事件の調査に役立てています。さらに今回はランドルフの優秀な知能に気付いた登場人物が現れますが、このアイデアがさほど膨らまずに終わったのは残念でした。そして、「名犬ランドルフはかく想いかく語りき」みたいになっていくこのシリーズ、想いと語りの部分が個人的にところどころうざくなってきました。

『名犬ランドルフ、謎を解く』 J・F・イングラート ランダムハウス講談社
『名犬ランドルフ、スパイになる』 J・F・イングラート ランダムハウス講談社




名犬ランドルフと船上の密室 (黒ラブ探偵3) (RHブックス・プラス)名犬ランドルフと船上の密室 (黒ラブ探偵3) (RHブックス・プラス)
(2010/06/10)
J・F・イングラート

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『殺す女』 ウェイン・バーカム ハヤカワ文庫HM

2012-08-22

Tag :

☆☆☆

少女の目の前で、父は母を殺した ― ワインボトルを局部に挿入し頭を床に叩きつけて。見てはならないものを見てしまった少女は美しく成長した21年後、ワインボトルを用いて次々と男を殺し、死体を辱めることに快感を見出すようになった……。一方、この連続殺人事件を追う刑事フランクは犯人が女だという確信を深めていく。彼が出会う美女たちの中に“殺す女”がいるのか?痛切な愛と暴力に彩られたサイコ・サスペンス 内容紹介より



物語は少女時代に起きた事件によってトラウマを負った女が、父親を連想させる男たちをいきあたりばったりに惨殺してしまうというもので、レッドヘリングとして犯人らしき女性を四人ほど登場させ、内二人を事件を担当する刑事の身近に配しています。その二人への読者の疑惑を最後まで引っ張り、残りわずか3ページというところでようやく真犯人の名前が明かされるという仕掛けです。惜しむらくは、容疑者の一人である娼婦が早々に登場しなくなり、最終盤に再び言及されるのですが、彼女は一貫して視点のひとつとして描かれるべき重要人物ではなかったでしょうか。さらに、その娼婦の客の男が被害者となった刺殺事件と彼女の知り合いの娼婦が殺された事件については、プロットとの関連性を考えても、また、モジュラー型警察小説として物語に重層性を持たせる意味においてももっと多く描かれる必要があったのではないかと思いました。
それから、原文がもともとそうなのか、それとも訳文がこなれていないのかどうなのか分かりませんが、会話部分その他が素人が書いたみたいに拙いのが気になりました。たとえば終盤の場面で、主人公が電話会社の担当者に犯人が使用していた電話番号の所有者名を調べさせ、モニターに氏名が表示された時の反応が「な、なんだって」って……。自分が良く知っている名前が出たならそこは絶句してしまうのが自然な反応ではないのかと、単に、目を見張ったとか息を呑んだとかという表現で構わないと思うのですけど。




殺す女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ハ 26-1)殺す女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ハ 26-1)
(2010/03/05)
ウェイン・バーカム

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『おいしいワインに殺意をそえて』 ミシェル・スコット ハヤカワ文庫

2012-08-20

Tag :

☆☆

売れない女優のニッキィはレストランで働いて生計を立てていた。そこにある日、客として現れたのはデリック・マルヴォー、名門ワイナリーの若き敏腕オーナーだった。ニッキィのワインの知識を見込んだ彼は、自分の補佐役として働かないかと誘ってくる。迷いながらもワイナリーの見学に訪れたニッキィだが、到着早々、ワイン職人の他殺死体を発見してしまう。この美しいナパ・ヴァレーで、いったい誰が何のために?ニッキィは自分なりに真相を探るはじめるが……。ワインと絶品グルメが満載、思わず乾杯したくなるコージー・ミステリ。 内容紹介より 



イソラ文庫シリーズの一冊です。
ふとしたことでウェイトレスのヒロインがお金持ちでハンサムな有名ワイナリーのオーナーの目に留まり、彼の経営するワイナリーを訪れると早速死体を発見するという、シンデレラ・ストリー風序幕とコージー・ミステリスタイルでの導入から物語が始まり、件のオーナーは若き日のロバート・レッドフォードそっくりで、近くの葡萄園主はジョニー・デップに瓜ふたつで、さらに隣の農園の責任者はラウル・ボヴァみたいでと、登場する男たちは美形揃いという軽い逆ハーレム状態に……。コージーとロマンティック・サスペンスをかけ合わせたような作品で、育ての親である伯母さんが刑事だったこともあって、作中でも名前が上がるナンシー・ドルーのノリでヒロインは事件の調査を始めます。ヒロイン、ワイナリーのオーナーともに陰影はつけてありますが、男性の方はキャラクターが弱い感じで、もう少しアクみたいなものが表れていたら良かったかもしれません。クライマックス部分でちょっと変わった仕様を見せるけれど、ミステリとしてはコージーの域を出ていませんでした。ワイン好きな方はワインに合う料理のレシピ付きですから読んでみてもいいかもしれません。




おいしいワインに殺意をそえて (イソラ文庫)おいしいワインに殺意をそえて (イソラ文庫)
(2009/10/10)
スコット・ミシェル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『警部補デリーロ』 スコット・フロスト 集英社文庫

2012-08-18

Tag :

☆☆

カリフォルニア州パサデナ市警の敏腕警部補デリーロは、思春期の娘との関係に悩んでいた。新年の準備で賑わう町で、今日も悶着を起こした娘にかける言葉もなく、通報を受けて逃げるように事件現場に向う。しかし単純な強盗殺人に見えたその事件は、あろうことか、アメリカ西海岸がいまだかつて経験したことのない、恐ろしい犯罪劇の除幕だったのだ。犯人の目的は一体何なのか!? 内容紹介より



以下、ややネタバレ気味です!ご注意ください。


女性警部補アレックス・デリーロを主人公にした作品はシリーズ化されているそうなので、次回作以降に犯人と再対決させる作者の意図でもあるのか、個人的には非常に不満足な結末でした。人気TVシリーズも手がけた脚本家らしく、読者の興味をひっぱるテクニックはジェフリー・ディーヴァー並に長けていると思います。ストーリー展開も犯人のスーパーヒール化もリンカーン・ライムシリーズを彷彿とさせます。そのため差別化を図る目的なのか母娘の絆と愛情という要素を持ち込み、娘が誘拐され、母親と警察官のふたつの立場の間で揺れ動く心情を描いているのですが、それが作品に効果的に働いているかといったらそうでもなく、感情の表出が煩わしい傾向が強かった気がしました。身内が関わっている事件の捜査を行なっている時点で設定が不自然なわけで、主人公は自他共に認める有能な刑事という割に、爆弾魔が爆発物を仕掛けている可能性のあるドアを他の警察官が身近にいるにもかかわらず激情に駆られて開けてしまう場面など、どうしても?と感じるし、作者が彼女の感情のコントロールを明確にとれていないような印象を受けました。
それから物語の各所で見られる、爆発スルスル詐欺みたいな爆発しそうでしない展開、特にラストで娘に仕掛けられた爆発物をめぐるやり取りはギャグにしか思えません。

ただ、わたし個人の好みじゃなかったということで、本書は2006年度エドガー賞処女長編部門にノミネートされた作品ですし、決して世間の評価が低いわけではありません。




警部補デリーロ (集英社文庫)警部補デリーロ (集英社文庫)
(2009/01/20)
スコット・フロスト

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『いちばん殺したいやつ』 ローレンス・ゴフ 文春文庫

2012-08-16

Tag :

☆☆☆☆

モダンさと伝統のしっくり調和したヴァンクーヴァー、この美しい街をライフルを抱えた異様な風体の男が徘徊する。雨の日の交通渋滞で立往生したバスに向けてライフルが火を噴く。やがて、第二、第三の犠牲者。異常者による無差別殺人なのか?それとも隠された動機があるのか?次は誰が?カナダ推理作家協会新人賞受賞作。 内容紹介より



以下、少々ネタバレ気味です!ご注意ください。

“ヴァンクーヴァー”を舞台にした警察小説で、シリーズ化されているそうですが邦訳は本書だけみたいです。
秘書、プール・バーのオーナー、狙撃事件を捜査中の刑事、タクシー運転手、飲み仲間の三人の男たち、精神科医、、犠牲者は性別も職業もバラバラであり、しかも狙撃犯は女装をしていたらしく、当初、犯行は異常者による無差別事件とも思われたのだが、捜査の過程で被害者たちにある繋がりがあることが明らかになる……。
実は被害者たちの多くが会員制の出会い系クラブの会員だったことが明らかになり、さらに狙撃現場に次の犠牲者を暗示する物が犯人によって置かれていたことが判明します。主人公は妻に子供を連れて実家に帰られてしまった刑事と彼の新しいパートナーである新人女性刑事です。訳者の橘雅子氏があとがきで書かれているように、シリーズ第一作目ということで主人公のふたりと犯人を含めて登場人物の掘り下げが浅い気がしました。また、バンクーバーという都市の描写もどこにでもある街みたいで、その特色もあまり伝わって来ませんでした。ミステリとしては、プロットはしっかり練られているとは思いますが、警察小説の持つ基本的な醍醐味である手がかりから徐々に犯人を追い詰めていくという展開が感じられず、犯人が意図的に残した遺留品を追いかけるだけに終わってしまっているのは残念です。古典的なトリックを用いていながら、読者の意表をつくものがないので、良くできてはいるが印象に残らない作品になっている気がします。




いちばん殺したいやつ (文春文庫)いちばん殺したいやつ (文春文庫)
(1992/01)
ローレンス・ゴフ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『サムシング・ブルー』 シャーロット・アームストロング 創元推理文庫

2012-08-14

Tag :

☆☆☆☆

娘は自分に巨額の財産があることも、両親が本当は事故死したのではないことも知らなかった。そしてもちろん、婚約者の狙いが自分の財産であることも、その男が十七年前に自分の母親を殺した真犯人だということも、まだわかってはいなかった。その事実を知った青年、ジョニーはかつての恋人を救おうと苦闘するのだが……。“現代の魔女”と評された、名手アームストロングの会心作。 内容紹介より



『毒薬の小壜』もそうだったけれど、本書は1962年に発表された作品なので、人物像や言動に古さを感じさせられましたが、逆にこういうシンプルなプロットにはあっているのかもしれません。物語の設定は内容紹介にある通りで、過去の醜聞から子供たちを守るため、叔母エミリーによって名前を変えて育てられた純真で世間知らずの娘ナンに、彼女の正体を知った男が財産目当てに近づき、目論見通り婚約してしまう。実はこの男がナンの母親を殺し、その罪をナンの父親に着せた真犯人であり、事件当時から男のことを疑っていた叔母の依頼で、子供の頃から家族の知り合いであるジョニーが結婚を阻止するため十七年前の殺人事件を探るといもの。
ジョニーには男が犯人だという確証があるわけではないので、もしかしたらナンの父親が本当に妻を殺したのかもしれないという疑いも持っているのですが、読者には早々に男が真犯人だと明かされるので本当のところはどうなのだろうというスリリングな感じは味わえないのです。また、ナンは一貫して婚約者が殺人犯であるはずがないという考えで固まっていて、もしかしたらという心の揺れも描かれないためサスペンス性も弱いのです。それもあって決定的な新証言や証拠が現れるでもないので、出だしは快調ですが中盤にかけて単調な感じを受けて、やや飽きてしまいました。




サムシング・ブルー (創元推理文庫)サムシング・ブルー (創元推理文庫)
(1998/03)
シャーロット・アームストロング

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『時間ぎれ』 ケイティ・マンガー 新潮文庫

2012-08-12

Tag :

☆☆☆☆

探偵免許はないけど、そんなものに頼らなくっても自分ひとりで捜査はできるはず。そんな女探偵、ケイシー・ジョーンズは8年前の「解決済み」警官殺害事件の再捜査を死刑囚の家族に依頼される。すべての証拠は死刑囚となった妻の犯行を指し示し、事件の鍵を握る人物は殺されていく……死刑執行まであと1ヶ月。警察を敵に回しても、果敢に真犯人に挑むケイシーの疾走捜査は続く。  内容紹介より



女探偵ケイシー・ジョーンズを主人公にしたシリーズ第二弾。『女探偵の条件』同様にかなり出来の良い作品です。一応ハードボイルドのジャンルに属するだろう探偵物ですが、個人的に苦手な軽口、減らず口が気に障わることなく、今回も主人公が魅力的でした。どういうところが魅力なのかははっきり言えないけれど、人生に前向き、小さいことにこだわらない、人間性みたいな部分かもしれません。タルト・ノワールとうたってありますが、結構男性受けする女性像ではないかという気がしました。系統で言えば、イヴァノヴィッチのステファニー・プラム系だと思います。
ストーリーは死刑執行が一ヶ月後に迫った死刑囚のために真犯人を見つけなければいけない、いわゆるタイムリミット型ミステリなのですが、主人公のキャラクターもあって緊迫感や緊張感をひしひしと感じるという話ではありません。しかし、ドタバタした雰囲気にサスペンス性をうまく融合させ、前作と同じく伏線とその回収も効果的であり、一読する価値のある作品だと思います。
それから別に悪くはないけれど、後日談が妙に長かったです。

新潮文庫のタルト・ノワール シリーズ
『女探偵の条件』ケイティ・マンガー
『トレンチコートに赤い髪』スパークル・ヘイター
『壁のなかで眠る男』トニー・フェンリー




時間ぎれ (新潮文庫)時間ぎれ (新潮文庫)
(2003/05)
ケイティ・マンガー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『嵐を走る者』 T・ジェファーソン・パーカー ハヤカワ文庫HM

2012-08-10

Tag :

☆☆☆☆

元保安官補のストロームソーは、自分を狙った爆弾のせいで妻と息子を失った。犯人はマフィアのボス・タバレス。二人の男は高校時代、同じマーチングバンドに所属し、何でも打ち明け合う友人だったのだが……。タバレスは逮捕され収監されるが、ある事件を契機にふたたび旧友の命を狙い始める。二人の過去には何が?直接対決の時が刻々と迫る。二度のアメリカ探偵作家クラブ賞に輝く巨匠の傑作スリラー。文庫オリジナル 内容紹介より



この作家の作品を読むのは三冊目なので、あくまで本書で感じた浅いイメージです。
なんとなく本書はドン・ウィンズロウとジョージ・P・ペレケーノスをあわせた作品のような印象を受けました。主人公がマフィアという巨悪を相手にしているところは、ウィンズロウの『犬の力』みたいで、少年時代の友人関係を物語にからませてくるところと手堅さのある内容は、ジョージ・P・ペレケーノスの作品を思わせます。読ませるテクニックはさすがに上手いけれど、かといって目玉になる要素があるのかといったらそういうものはないような。「ある研究」を盛り込んでいる部分は別として(個人的にはこれを取り入れたことで作品にはマイナスだと思った派)。これまでにミステリで取り上げられてきた幾多のテーマやエピソードを再構築して創り上げるテクニックに秀でているという感じがしました。決して馬鹿にしているのではなくて、レゴブロックや積み木の名人みたいな。並の作家が同じ事をやっても陳腐なものが出来上がるだけでしょうが。前述の二人の作家も特別に斬新な要素を持ち込んでいるわけではないけれど、何か読んだ感じが違う気がします。 料理人と建築家の違いでしょうか。

『ブラック・ウォーター』T・ジェファーソン・パーカー ハヤカワ文庫HM




嵐を走る者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)嵐を走る者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2009/01/24)
T・ジェファーソン・パーカー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『狼のゲーム』 ブレント・ゲルフィ ランダムハウス講談社

2012-08-05

Tag :

☆☆☆☆

アレクセイ・ヴォルコヴォイ、通称ヴォルク(狼)。特殊部隊の名狙撃手としてチェチェン紛争に従軍、ゲリラの捕虜となって片足を失う。退役後、暗殺請負や麻薬密売など数々の悪に手を染める。銃を手にその背後を守るのは、戦地で彼に命を救われた白い髪のチェチェン人美女ヴァーリャ。ダ・ヴィンチの幻の名画発見に端を発する闇社会の2大勢力の暗闘に飛び込んだ2人に次々と凶手が襲いかかる!話題の新リーズ第1弾。 内容紹介より



政治の腐敗や組織犯罪、ドラッグ汚染や拡大する貧富の差という現代ロシアが抱える暗部を背景にしたノワール小説というとあまり珍しくもありませんが、本書が他の作品と比べて違うところは、政治家を暗殺したり、女性を拷問したり、これまでの一般的な主人公像において避けられていた行為が平然と行われているところでしょう。つまり主人公に課せられていたモラル・コードのたがが外れかけているのです。しかし、この主人公は単なるダークヒーローとも言いかねるタイプであり、ストーリーが進むにつれてなにやら訳ありな立場、公権力とねじれた関係にあることが分かってきます。また、戦争で夫や息子を喪い、困窮した生活を送っている女性たちに金を配って回ったり、育児放棄された赤ん坊を保護したり、主人公の内の善と悪の釣り合いを取ろうとする作者のみえみえの意図はご愛嬌というところでしょう。
それから、こういうジャンルの作品にありがちなカタルシスが得られない、読後モヤモヤした感じが残るのは、残念ながら本書でも同じでした。
次回作に期待が持てるシリーズだと思います。翻訳されればですが。




狼のゲーム (ランダムハウス講談社文庫)狼のゲーム (ランダムハウス講談社文庫)
(2009/01/09)
ブレント・ゲルフィ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『トリポッド 3 潜入』 ジョン・クリストファー ハヤカワ文庫 SF

2012-08-02

Tag : SF

☆☆☆☆

ぼくたちはトリポッドのことを何も知らない。知能を持った機械なのか、それともべつの生物が乗っているのか?敵を知らなければ、反撃することもできない。そして、敵を知る方法はただひとつ ― トリポッドの都市に潜入し、調査をし、情報を持ち帰るのだ!危険な任務だ。生きてかえれないかも。でも、だれかがやらなきゃならない。訓練チームから選ばれた、ぼくとビーンポールとフリッツの三人は〈黄金と鉛の都市〉めざし旅立った! 内容紹介より



『トリポッド 2 脱出』から六ヶ月が経ち、主人公たちはスポーツ大会に参加するためのトレーニングに明け暮れています。トリポッドの都市において彼らに奉仕する人間に選ばれるためには、スポーツ大会で優勝しなければならないからです。いよいよキャップ人に化けて大会へ向うのですが、主人公は自由市民〈白い山脈〉の指導者から性格の欠点を指摘されたうえで、「むこうみずな行動」を取らないように厳命されているにもかかわらず、道中で軽率な事態を引き起こして、窮地に陥ってしまう場面があります。これは物語の後半部分における(都市での過酷な体験と友人の献身による)主人公の精神的成長を表すための伏線なのでしょうが、ちょっとイライラしてしまいますよね。それから大会へ向う旅中のエピソードも前作と被っているところがあるような気がしました。
ということで、本書でとうとうトリポッドの正体が判明し、彼らの生活や身体的特徴が明らかになります。『トリポッド 1 襲来』でも感じましたが、今回もジュブナイルにしてはなかなかシビアでハードな描写もあり、こういう容赦無いのはお国柄が出ている印象を受けました。

『トリポッド 1 襲来』ジョン・クリストファー ハヤカワ文庫 SF
『トリポッド 2 脱出』ジョン・クリストファー ハヤカワ文庫 SF




トリポッド 3 潜入 (ハヤカワSF)トリポッド 3 潜入 (ハヤカワSF)
(2005/03/15)
ジョン・クリストファー

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テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

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  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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