『東京へ飛ばない夜』 ラーナ・ダスグプタ ランダムハウス講談社

2012-09-29

Tag :

☆☆☆☆

ジャンボ機は東京へ向かっていた。ところが急な悪天候により、航空機はとある国に臨時着陸した。行き場の見つけられなかった乗客十三人は、空港で一夜を明かすことに。閑散とした空港の片隅で、男女十三名は身を寄せあい、退屈しのぎに「夜話の会」を開くことになった ― それが、奇妙な世界への入り口だとも知らずに。

だれかの声が上がった。「あたしがひとつ、お話を知っているわ」そうそう、その調子でいいんです。気楽にいきましょう。

「怖くなんかないわ。所詮、お話よ。作り事の世界でしょう」
「そうさ、たしかにそうかもしれない。いま話した物語も、君の存在するこの世の中も……」 内容紹介より



仕立屋、過去をつむぐ男、富豪の眠れない夜、地図屋の館、店、高架下の少年、ちょっとしたこと、東京ドール、イスタンブールの逢瀬、チェンジリング、地下室の取引、幸運な耳掃除屋、こんな夢をみた、以上の十三話。

イギリス出身の作家ですが、現在インドのデリー在住であることや名前から推測するとインド系の人なのでしょうか?
深夜の空港に残された13人の乗客たちが、それぞれ物語を話し聞かせるという設定での13話が収録されています。マジックリアリズムというかポストモダンというか、そういう色合いが強く、ほとんどの話が幻想性の高いもので、それゆえになかなか理解し難い、意味不明な要素を備え、また、そういう傾向に幻惑されて何か実際の質より高評価を付けてしまいがちになりそうな気がしました。
たとえば、第八話「東京ドール」は、日本人のロボットに対する妙な嗜好、他国と比べての偏愛ぶりを描いているだけであり、結末の曖昧さがマイナスに目立つ平凡な話ですし、第九話の「イスタンブールの逢瀬」にいたっては、イスタンブールでウクライナ出身の女商人とバングラディシュ人の船乗りが出会い、一年後に再会の約束をするという話なのですが、これは船乗りの喉から鳥が這い出てくる突飛で意味不明な部分を除いたらただの月並みな話としか思えません。
一方、第十三話の「こんな夢をみた」は、元ビデオショップの店主が、彼が営む困窮者向けの宿泊施設において、料金を無料にする代わりに宿泊客13人の見た夢を記録し、それを再生してみるとすべての夢に店主自身が登場している、という夢を見た話です。その夢は、そこからさらに13の夢をつなぎ合わせた、彼を主人公にした摩訶不思議な物語になっていきます。そこにはこれまでに語られた12話の断片も散りばめるという、メタフィクションの手法をとった話なのですが、これはなかなか魅力的で、その世界に引き込まれてしまう作品でした。                               
このように意表を付いたような、意外性を狙っているような話もあれば、書きかけのような、習作のような印象を受ける話、豊かな想像力を感じさせる話もあって、作者の技量のレベルとともに、いろいろと判断に迷いますが、作者が創り出す独特な世界や西洋と東洋を融合した個性的な作風は貴重なものだと思います。




東京へ飛ばない夜東京へ飛ばない夜(ランダムハウス講談社)
(2009/03/12)
ラーナ・ダスグプタ

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『イスタンブールの群狼』 ジェイソン・グッドウィン ハヤカワ文庫HM

2012-09-26

Tag :

☆☆☆☆

オスマントルコ帝国近衛新軍に衝撃が走った。四人の士官が突然姿を消し、次々に惨殺死体で発見されたのだ。スルタン臨席の閲兵式も間近に控え、早期解決をもくろむ司令官は、聡明で鳴る宦官ヤシムに調査を託す。死体が指し示すのは、近代化のために抹殺されたかつての最強軍団イェニチェリの残党だった。背後には不穏な動きが見え隠れする……見事にアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞を射止めた、歴史ミステリの傑作 内容紹介より



宦官である主人公が、士官殺人事件とともに後宮内で起きた殺人事件の捜査も手がける、十九世紀のイスタンブールを舞台にした歴史ミステリです。舞台設定も時代設定もかなり違いますが、主人公は市井に身を置きながら男子禁制の後宮にも自由に出入りできるという、階級を超えた立場に位置するところや非常に庶民的な日常が活き活きと描かれているところなど、ポール・ドハティのアセルスタン修道士シリーズに雰囲気が似ているように感じました。
和爾桃子氏の訳者あとがきによれば、作者はオスマントルコ史を題材にした著作がある、ベテランの歴史著述家だそうで、ミステリ形式としては作品は本書が初だそうです。そういうこともあり、オスマントルコの歴史的背景や王宮内の様子、またイスタンブールにおける庶民の暮らしぶりが詳細にかつ興味深く描かれています。一方、ミステリ初作品だということで、謎解きというクライマックスの部分においての盛り上げ方が手慣れていないような印象を受けました。二つの事件を設定したことも作者の手に余るような、十分に処理しきれていないような気がしました。ただ、後宮内の殺人事件は、主人公が内に秘める宦官としての苦悩とつながるという意味では必要なのでしょうけれど。
ともかく、かなり良い作品だと思います。




イスタンブールの群狼 (ハヤカワ・ミステリ文庫)イスタンブールの群狼 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2008/01/24)
ジェイソン・グッドウィン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『モスクワ、2015年』 ドナルド・ジェイムズ 扶桑社ミステリー

2012-09-23

Tag :

☆☆☆☆

“世紀は変わっても、ロシアの風土と政治は変わらない” ― 西暦2015年、長年にわたってロシアに悲劇をもたらした内戦は、国家主義者・民主主義者連合軍の勝利に終わった。新時代が到来しても、地方都市のしがない警官ヴァジムは絶望の日々を送っていた。幼い息子は戦火に消え、妻は反政府活動の中心人物として地下に潜伏。しかも、政治の横暴は市民に犠牲を強いつづけるばかり……ところが、副大統領の影武者という驚くべき任務がヴァジムにあたえられた!こうして彼は、否応なく歴史の歯車に組み込まれてゆく ― 。 内容紹介より



以下、ややネタバレ気味です。ご注意下さい。


ジョン・ル・カレなどのシリアスなスパイ物で描かれたソ連の負のイメージが強いせいか、内容紹介文を読むと本書も息苦しく全体的に暗い社会を背景に、心に傷を負った主人公の苦悩が事件とともに鬱々として描かれているのかと想像していました。確かに、秘密警察の長官が副大統領を務め、彼の組織が幅をきかせている状況にあるし、主人公の幼い息子は戦争の犠牲になり、新政府の敵側として戦っていた彼の元妻は逃亡中の身にです。しかし、インテリで女性にモテるものの腕っぷしの方はそれほどでもなく、気弱なところがある主人公のキャラクターと殺人事件の捜査などやったこともない彼が敏腕の殺人課刑事という偽の肩書きで、新任地モスクワで起きた連続猟奇殺人事件を手がけなくてはならないという設定の妙、また、動物嫌いの彼の仕事部屋で飼われている猫とのやり取りなどコミカルなシーンもあってバランスがとれています。
物語は地下に潜ってテロ活動を計画する主人公の元妻、彼女を追う彼の旧友である秘密警察の少佐との絡み、そして連続殺人事件の捜査活動、この二つが軸になって進みます。
唯一つの伏線の役割しかなかった影武者の姿、真犯人の正体が判明する部分での盛り上がり不足、元妻の実にあっけらかんとした変節ぶりとか、もっとひねりが仕掛けられているのかと思ってたけれど、意外にあっさりでした。後半部分ではもっとけれん味を出しても良かったのではないでしょうか。ただ、実行犯の正体には驚きました。




モスクワ、2015年〈上〉 (扶桑社ミステリー)モスクワ、2015年〈上〉 (扶桑社ミステリー)
(1999/03)
ドナルド・ジェイムズ

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モスクワ、2015年〈下〉 (扶桑社ミステリー)モスクワ、2015年〈下〉 (扶桑社ミステリー)
(1999/03)
ドナルド・ジェイムズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ベルリン・ノワール』 テア・ドルンほか 扶桑社

2012-09-20

☆☆☆

ベルリンの闇を描く5偏の犯罪小説
長い歴史を持つ都市ベルリンは、1920年代に繁栄をきわめながらも、第二次世界大戦による徹底的な破壊と、冷戦による東西分断という、例のない苦難に見舞われた。そして、あの劇的な壁の崩壊から10年、いままたベルリンは、統一ドイツの新たな首都として生まれ変わろうとしている。だが、さまざまな人間が交錯する多元都市ベルリンには、もうひとつ、知られざる裏の顔が隠されているのだ……。本書は、ドイツ・ミステリー界注目の作家5人が競作した、野心的な犯罪小説集である。東西統一のひずみや貧富の格差、人種や移民問題など、現代ベルリンの真実を見据え、闇に渦巻く人間模様と犯罪の諸相を鋭くえぐり出す、本邦初のドイツ暗黒小説アンソロジー! 内容紹介より



テア・ドルンとハイナー・ラウ以外の三人は東側の出身だそうです。どの作品にも「Sバーン」と呼ばれる都市圏を走る鉄道やベルリン市内の駅名が登場しています。

「犬を連れたヴィーナス」テア・ドルン
SMパーティーの会場で鞭打たれていた犬を救い出し、自宅で飼っていた主人公は、散歩に連れ出したある日、カフェで目を離した隙に犬を見失しなってしまう。犬を探し求めるうちに、彼女は元の飼い主だと思われる毛皮を着た老婦人の元にたどり着くのだが……。
題名と毛皮という単語から、当然マゾッホの作品が頭に浮かぶわけで、つまりは犬は調教されたマゾヒストの置き換えであり、彼は新しい飼い主である主人公から受けた安逸な暮らしよりも元の刺激的な生活を選んだということなのでしょう。たぶん。

「ガードマンと娘」フランク・ゴイケ
駅の構内を巡回する中年の警備員がそこに住み込んだホームレスの娘と関係を持ったことをネタに、娘やその恋人に強請られるはめになり、それを清算するため殺人計画を立てるという話。
収録されている作品のなかで一番スタンダードな倒叙ミステリ型のクライムノベルでした。とても分かりやすいのは良いけれど、ラストには何らかのサプライズが欲しかったところです。

「廃墟のヘレン」ハイナー・ラウ
若くして裕福になった男が、かつて大学で教えを受けた哲学科の非常勤講師と電車に乗り合わせる。彼は男が学生時代に好意を寄せていた女性のあこがれの人物だった。しかし、今はすっかり落ちぶれた格好をしていた。実は、講師はその女性と付き合っていたのだが、彼女が早世したためにすっかり気落ちし学問の世界を離れ、夜間警備員として暮らしていたのだ。そして、二人の男たちが亡くなった女性そっくりの娼婦に偶然出会った時、彼らの運命が交わり悲劇を迎える、という話。

「ブランコ」ベアベル・バルケ
これまでずっと人種的な偏見や差別を受けてきた浮浪者ブランコ。彼がある家の婦人から着せられた社会主義人民警察の制服と拳銃を身に付けたまま電車に乗り込むと、乗客の酔っ払った少年グループに挑発され、また、彼らが一人の夫人をからかい始めたことが起爆剤となってブランコの中にあったものが弾け飛んでしまう。見せ掛けながらも、かつてブランコが手にしたことがなかった制服に象徴される権力、拳銃という力と鬱積した怒りや不満とが酒を触媒として融合し反応した結果、彼がとった暴走を描いた作品、だと思います。

「狂熱」カール・ヴィレ
大学図書館の学生補助員の女性、駅の夜間警備員の中年男性、反体制運動を続ける若者。おそらく三角関係にある、この三人の男女の話がそれぞれの視点から描かれているわけですが、なにやら夢うつつみたいな内容で、何が言いたいのかよく理解できませんでした。進歩的、保守的、急進的、三人三様の考え方と彼らの心に潜む「狂熱」がキーワードになっているのでしょうか。




ベルリン・ノワールベルリン・ノワール
(2000/03)
テア・ドルン、ハイナー・ラウ 他

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『さらば、ストックホルム』 K-O・ボーネマルク 中公文庫

2012-09-18

Tag :

☆☆☆

第二次世界大戦直後からストックホルムに住むグレーイェル・トラッグは、東側のスパイとしての生活に、いよいよ終止符を打つべく上部機関をも欺いて一世一代の大博打を計画したが…。熟年男たちの哀愁が漂う北欧産スパイ小説。 内容紹介より



1982年に発表されたスパイ小説なので、当然ドイツは東西に分断され、まだソ連という国家が存在している頃の物語です。にもかかわらず舞台が中立国のスウェーデンであることと作者が登場人物の内面描写に重きを置いていることで思ったより古臭さは感じませんでした。ただし、内容はスパイアクションではないし、大掛かりな国際謀略ものでもないので、そういう意味でのエンタメ性はかなり低くなっていると思います。優秀でありながら、スウェーデンの国家権力の中枢に潜む大物スパイとの連絡係を長年にわたって務め、スパイ組織の再編計画によって行き場を失いそうな中年スパイが主人公なので、全体にたそがれ色が強く、テンションの上がることのない主人公の感情と行動が渋く淡々と描かれています。
かつて自らをスパイの道へ進ませた理想や政治的信条と現実の社会状況との違いに失望していても、それを断ち切ることができなかった男がいよいよ組織に反旗を翻した結果、彼の身の回りの者たちの運命も変わっていくわけですが、彼自身の悲哀は何も変わらなかったということなのでしょう。




さらば、ストックホルム (中公文庫)さらば、ストックホルム (中公文庫)
(1987/07)
K-O. ボーネマルク

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『リスボンの小さな死』 ロバート・ウィルスン ハヤカワ文庫HM

2012-09-15

Tag :

☆☆☆☆

陽光あふれる港町リスボン。浜辺で発見された15歳の少女の絞殺死体は、レイプされていた。被害者と同じ年頃の娘を持つ、孤高の中年の警部コエーリョと、助手の若手刑事が事件の担当を命じられる ― 。時は半世紀ほど遡った第二次世界大戦中、ナチス親衛隊の上層部は大量のタングステンの買い付けのために、実業家のフェルゼンをポルトガルに送りこむ。だがその前途に待ち受けていたのは、思いもよらぬ運命の悪戯だった…… 内容紹介より



1999年英国推理作家協会賞受賞作。
199*年にリスボンで起きた少女殺人事件の捜査と1941年のベルリンから始まるある実業家の暗躍が軸となって物語が繰り広げられています。前半部分のほとんどはナチスに協力する実業家がタングステンを買い付けるため、地元の有力な協力者とともに策動する姿が語られるとともに、第二次大戦中は中立を保ったポルトガルの首都リスボンの特異な様子が描かれています。このイギリスとドイツそれぞれに向けた二つの顔を持つポルトガルという国の姿勢がユニークで興味をそそりました。実業家とその協力者はナチスの金によって戦後金融界の大立者にのし上がりますが、その後ある過去の行状によって二人の仲は破綻します。そしてその過去の出来事が半世紀近く巡り、数奇な運命によって少女の殺人へと繋がってしまうのでした。
綿密に練られ、紡がれた力作だと思いますが、ちょっと気になったことは、少女の死に繋がった過去の三つの鍵となる出来事がすべて同じ行為によるものだということです。この三つの重複は少々不自然でもあり、また、本書に登場する女性たちの大部分が悲劇に見舞われたり、弱者で報われなかったりする運命なのと同じく読後の気分をすぐれないものにさせる要因だと思うのです。
作者はもともと普通小説を書いていたひとだそうで、本書が初めてのミステリらしく、その辺りのキャリアが作品に良い面をもたらしている一方、ミステリ的には経験不足による若干の拙さを感じさせているような気がしました。





リスボンの小さな死〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)リスボンの小さな死〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2000/09)
ロバート ウィルスン

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リスボンの小さな死〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)リスボンの小さな死〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2000/09)
ロバート ウィルスン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ロンドン・ブールヴァード』 ケン・ブルーエン 新潮文庫

2012-09-11

Tag :

☆☆☆☆

3年の刑期を終えて、ミッチェルは出所した。かつてのギャング仲間から荒っぽい仕事を世話される一方、彼はふとしたことから往年の大女優リリアンの屋敷の雑用係に収まる。リリアンに屈折した愛情を注ぐ執事ジョーダンは、彼女がミッチェルを“独占”できるよう何かと骨を折るのだが、おかげでミッチェルは危険な隘路へ ― 。華やかな受賞歴を誇る〈ノワールの詩人〉、会心の一作。 内容紹介より



わたしにとってはとてもつまらなかった『酔いどれ故郷にかえる』の作者ケン・ブルーウン(新潮文庫ではブルーエン表記)のノン・シリーズもの。『酔いどれ故郷にかえる』と同様に音楽、書籍、映画などの作品名を挙げることで読者の情感を引き起こす手法をとっているけれど、以前ほどそれが煩わしくなかったし、作品自体の出来についても格段に良かったです。また、文章が短いセンテンスを重ねていることとほとんど会話で構成されているため大変読みやく感じました。それから、ノワールには珍しい軽いノリで、このジャンルにつきももの閉塞感や鬱積した暗い雰囲気があまりなく、約八名ほどが殺され、暴力シーンもたびたび描かれるにも拘らず殺伐したものがありませんでした。一度漂白したような作品みたいな。
一方、主人公とその妹、女優宅の執事以外の登場人物たちのキャラクターの強弱が平均化している部分はインパクト不足かもしれません。特に、過去の栄光という妄執の世界に棲む大女優については、もっと存在感を示すエピソードが欲しかったところです。ただし、そうすると独特のリズム感が乱れるかもしれませんけれど……。

『酔いどれ故郷にかえる』ケン・ブルーウン ハヤカワ文庫HM




ロンドン・ブールヴァード (新潮文庫)ロンドン・ブールヴァード (新潮文庫)
(2009/10/28)
ケン・ブルーエン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『殿下とパリの美女』 ピーター・ラヴゼイ ハヤカワ文庫HM

2012-09-09

☆☆☆

パリを訪れた英国皇太子バーティを、驚くべき知らせが待ち受けていた。長年の知りあいである伯爵家の娘の婚約者が、ムーラン・ルージュで衆人環視のなか射殺されたというのだ。やがて、娘に思いを寄せていた画家が容疑者として浮かんだが、納得のいかないバーティは、旧知の女優サラ・ベルナールとともに、独自に調査を開始した!19世紀末の花の都に舞台を移し、英国ミステリ界きっての才人が贈る殿下シリーズ第三弾 内容紹介より



ビクトリア女王の息子で後に エドワード七世になるアルバート・エドワード皇太子(愛称バーティ)を探偵役とした歴史ミステリのシリーズ第三作目。お妃が里帰りしている間、パリで羽を伸ばしていたバーティは旧知の間柄である伯爵家に関わる殺人事件を女優サラ・ベルナールを助手役にして調査をするという話。殺人現場がムーラン・ルージュであり、そこに出入りしていたロートレックも物語に登場する華やかな設定になっています。ウィキペディアを見る限りでは大変仲が悪かったらしい妻アレクサンドラとの手紙のやり取りや主人公が下心を抱いているサラ・ベルナールとの会話、またフランス革命を経た共和国らしく、普段の本国の環境とは勝手が違って、王族や貴族を敬ったりしないパリ市民が出てくるなど全編ユーモラスな雰囲気を帯びていました。探偵役である皇太子が目から鼻へ抜けるほどの優秀な名探偵ではなく、推理においても試行錯誤を繰り返す大食漢の女好きという造形が今回は特にハマっているように感じました。

『殿下と七つの死体』ピーター・ラヴゼイ ハヤカワ文庫
ユーザータグ:ピーター・ラヴゼイ




殿下とパリの美女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)殿下とパリの美女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(1995/01)
ピーター・ラヴゼイ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『台北の夜』 フランシー・リン ハヤカワ文庫HM

2012-09-07

Tag :



急死した母の遺灰を抱いて、エマーソン・チャンは生まれて初めて台北の街に降り立った。母の遺言に従い、家出した後ここに来たまま音信不通だった弟のリトルPを探すためだ。アメリカ生まれの彼にとって、言葉もわからず、地理にも不案内な台北は、完全な異郷だった。しかも、ようやく探し当てた弟の背後には無気味な闇が……異様なムードと迫力で迫る力作サスペンス。アメリカ探偵作家クラブ賞を射止めた注目のデビュー作 内容紹介より



MWA新人賞って文学寄りの人物描写をミステリそのものより評価しがちだと個人的に感じているのですが、本書もマザコン気味で優柔不断な、特に秀でたものを持たない平凡な人物を描き出し、台湾という異国情緒をエッセンスに加えて仕上げた作品で、ミステリ部分は何ら見るべきものがありません。遺言という形の母親の命令によって、まったく異郷の地にほっぽり出され、何やらいかがわしい商売に関わっている不出来な弟や台湾人の親戚たちにおろおろあたふたするばかりの主人公。彼に恋し、手助けする進歩的な考えを持ったアメリカ帰りの女性記者、彼が恋したアメリカ人を恋人に持つ現地の女性、台湾の政治を憂う老活動家。こういう主人公に対する人物配置自体がアメリカ人にとっての異郷物ではワンパターン化していますけれど、逆に本書の主人公が未開な異国人を導き従えるヒーロー化せず、駄目な男でいる点はやや新しく読者の目に映るかもしれません。
ただ、そういう構図は別として、物語そのものは同じような事の繰り返し、文章はイメージの羅列と比喩の過剰仕様に終始して、悪夢どころかつまらない夢の世界を主人公がいつまでも彷徨しているみたいに思えました。全体から見たら四十歳の男の成長小説の形をとっているのでしょうし、あえて青年あるいは少年を主人公に据えなかった意図はMWA的には成功しているのだとしても、わたしとしてはかなり不満を感じるものでした。




台北の夜(ハヤカワ・ミステリ文庫)台北の夜(ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2010/01/30)
フランシー・リン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『部長刑事奮闘す』 チャールズ・ウィルフォード 扶桑社ミステリー

2012-09-05

Tag :

☆☆☆☆

マイアミ警察部長刑事ホウク・モウズリー、四十三歳。妻と離婚し、思春期の娘二人と暮らす男ヤモメのホウクにある日近郊コリア郡の農場でハイチ人労働者が変死した事件を潜入してさぐれという指令が下る。身分が分かるものはすべて隠し、求職者のふりをしてホウクは単身コリア郡に乗り込んだが、農場主ボックははじめからホウクを怪しんでいた ― 。一方、家庭のほうでも、トラブルの種は尽きない。中年男の哀愁を描いて絶賛をあびる名手ウィルフォードの傑作ユーモア刑事物語。内容紹介より



マイアミ・ポリス シリーズの第四作目。
迷宮入りになっていた医師射殺事件の再捜査、管轄外の農場で起きたハイチ人変死事件の潜入捜査、ホウクが逮捕し、その後、終身刑となっていたはずの実兄毒殺事件の犯人がホウクの家の向かいに引っ越してきた出来事、この三つの事柄が柱となって物語が進行していきます。そんななかで本書でかなり目に付き、このシリーズを特徴付けている部分が、主人公ホウクの家庭における私生活の様子を多く描いているところだと思います。一般的にハードボイルドでも警察小説においても、その主人公の私的な日常生活が細かく興味深く描かれるということは稀ですが、この作品では一家団らんの場面や娘たちとの何気ないやりとりが割りと頻繁に描かれています。そしてそれは一家庭人である主人公が警察官という公的な立場にたって行動した時、その別の姿を際立たせる効果をあげていると思います。特に、ハイチ人を働かせている農場への潜入捜査とその後の顛末は、まるでバイオレンス・アクションとクライム・ノベルを混ぜたような壮絶な展開を見せて読者をあっけに取らせます。つまり、本書は、警察小説の中でホームドラマとノワールが見事に融合した、これまでにない斬新な作品なのではないかと思ったのでした。また、主人公の家庭に影を落とす毒殺犯の存在とその後の意外な展開も物語の良いアクセントになっていました。

『マイアミ・ポリス』
『あぶない部長刑事』
ノン・シリーズ
『炎に消えた名画』




マイアミ・ポリス 部長刑事奮闘す (扶桑社ミステリー)マイアミ・ポリス 部長刑事奮闘す (扶桑社ミステリー)
(1992/06)
チャールズ・ウィルフォード

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『研修医エヴリンと夏の殺人鬼』 レイア・ルース・ロビンソン 創元推理文庫

2012-09-02

Tag :

☆☆☆☆

ユニバーシティ病院の緊急救命室。運び込まれた患者に研修医エヴリンは慄然とした。連続殺人鬼〈ベビードール・キラー〉の被害者、しかも実習生リサの友人だ。そして、さらにリサまでも殺されてしまった!警察に頼らず自ら犯人を捜すエヴリン。だが彼女の前に現れるのは、被害者のみならず、医師たちが秘めていた意外な顔また顔……。ERを舞台に展開する新シリーズ第1弾。 内容紹介より



温水ゆかり氏の解説によると、1992年に新潮文庫から出版された『白い眠り』がシリーズの第1弾になり、また、あの人気TVドラマ『ER』よりも早く発表された作品なのだそうです。
ストーリーは殺人事件についてのヒロインによる独自の調査とともに、彼女の恋愛や交友関係を中心にした私生活とERを舞台にした職場でのエピソードを織りまぜて進みます。ERという舞台が舞台だけに、様々な傷病を負った大勢の患者たち、たくさんの個性的な病院スタッフが描かれ、これだけでも内容としてボリュームが増すのに、さらにヒロインは映画製作のアドバイザーも引き受けているという設定で、さすがに盛り過ぎなんじゃないかという気もしました。恋人の家の壁紙についての細々した描写や第二十章の14ページの長々とした会話部分、468ページにおける枕について費やしたまったく必要性のない9行など削るなり短縮するなりの工夫は考慮すべきだし、チョイ役のレストランのオーナーに人物背景を付け加えるという過剰とも言える書き込みとエピソードの密度は大河小説レベルを感じさせ、結果580ページの大作が出来上がってしまったと言えるでしょう。
しかし、食べること以外にはさもミニマリズムな傾向に傾きつつあるようなミステリ作品が多い中、割りとソフィスティケートな雰囲気を持っているにも関わらず、骨組みは流行に逆らっているみたいな作品、ミステリ以外の部分でも読み応えを感じる作品は珍しいし貴重だと思います。ファストフード的なミステリではないので性急な読者向けではないかもしれませんが、じっくり読みたい方には特にお勧めかも知れません。




研修医エヴリンと夏の殺人鬼 (創元推理文庫)研修医エヴリンと夏の殺人鬼 (創元推理文庫)
(2005/08)
レイア・ルース・ロビンソン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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