『ソ連に幽霊は存在しない』 レジナルド・ヒル ハヤカワ・ミステリ

2012-10-28

☆☆☆☆

後ろから突き飛ばされた男の顔から笑みが消え、かわりに驚愕の表情が浮かんだ。恐怖に顔をひきつらせ、必死にバランスをとろうとする。だが、こらえ切れずにエレベーターに足を踏み入れた男は、そのまま床を通り抜け、断末魔の悲鳴をあげながら落ちていった!現場に駆けつけたチスレンコ主任捜査官は、死体も突き飛ばしたほうの男も発見できなかった。党の大物委員長から要求されたことはただひとつ、ソ連に幽霊は存在しないことを証明し、この騒ぎが悪意に満ちた西側帝国主義諸国の陰謀であると暴きだすことだった。しかし、大勢の目撃者に会い、調査をすすめればすすめるほど、事件の不可解さは深まって……。ペレストロイカ以前のモスクワを舞台に官僚機構を襲った幽霊騒ぎの顛末を描く表題作ほか、英国ミステリ界の鬼才が皮肉とユーモアをこめて贈る、ヴァラエティ豊かな傑作短篇集。 内容紹介より



「ソ連に幽霊は存在しない」
本来、社会主義国家においては、犯罪や浮浪者は存在しないと同様に幽霊も存在しない。国家機関の運営本部があるビルで起きた幽霊騒動の捜査を任された主人公は、この不可解な現象に頭を悩ませた末、集団ヒステリーということにして事件の幕引きを図ろうとする。しかし、党の権力者から捜査の続行を命じられた彼は、事件現場のエレベーター自体の来歴を調べるうちに奇妙な事実を発見する。非常に無機質なイメージのある社会主義体制下における官僚制度と、その下で持ち上がったかなり俗的かつ人間くさい幽霊騒動との対照の妙や、さらに、不条理性やアイロニカルが効いた作品でもあります。

「子猫ちゃんを連れ戻して」
職を失った元旋盤工の新米探偵がある家の主婦の依頼を受け、行方不明になったペットの猫を捜す話。家にはその主婦以外に多額の金を手に入れてリタイアした夫と思春期の娘と息子がおり、探偵が調査を進めるうちにギクシャクした家庭関係が明らかになっていく。手馴れたストーリー展開と意外な結末が見事な短篇ミステリの見本みたいな作品でした。

「プル・リング」
第一次世界大戦中のフランスに設けられた新兵訓練所に送られたイギリス兵と彼らをしごく指導教官の話。特に一人の新兵につらくあたる指導教官が持つ理由とは……。ミステリではなくて、一種の人情噺。

「踏みにじられて」
レジナルド・ヒルの実際の作品を原作とした映画を撮影中に、現場で起きた出来事を描くという設定のメタフィクション形式の作品。盛りを過ぎた男優と演技経験はないが夫である監督に引きたてられた女優との関係が軸になってストーリーが進みます。新米女優の大根ぶりに辛らつな態度をとっていた男優が、後のない自分の俳優生命を考慮し、作品の成功のため女優に演技指導を行ううちに彼女と関係を持ってしまう。「しょぼしょぼの顎髭をはやした男」という作者自身の自虐的な描写を取り入れつつの実験的作品?

「かわいそうなエマ」
嵯峨静江氏の訳者あとがきによると、本作はジェーン・オースティンの『エマ』の後日談だそうです。読んだことがないので、機会があれば読んでみよう。いわゆる「それから二人は末永く幸せに暮らしました」の部分をかなりスノッブに処理したもの。格好良く賢かった新郎もやがてぶくぶく太って下品になり、仲のよかった兄弟姉妹も財産をめぐって争うという現実的で身も蓋もない話。

「混みいった時間」
宝石店を襲う計画を立てた二人組の強盗たちは、まず店主を狙って自宅に押し入るがそこには宝石商の妻しかおらず、夫は外出したという。二人組はその妻を人質にし、主の帰りを待つことにする。なかなか帰ってこない夫を待つ妻の不安と恐怖が描かれるとともに、意外な事実が明らかにされる。くどくどと詳細を語らず、余韻を残す終わり方が巧みな作品。

ユーザータグ:レジナルド・ヒル




ソ連に幽霊は存在しない (ハヤカワ ポケット ミステリ)ソ連に幽霊は存在しない (ハヤカワ ポケット ミステリ)
(1990/09)
レジナルド・ヒル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『幽霊に怯えた男』 パトリック・A・ケリー 創元推理文庫

2012-10-25

Tag :

☆☆☆☆

仕事がら超常現象の類は信じないハリーだったが、今回興行先のペンシルヴァニアの田舎町でおかしな男に出会った。最近幽霊に悩まされているので調べてみてはくれないか、というのだ。だれかの悪戯かと思いきや、男は翌日、本当にビルから身を投げてしまった。幽霊に怯えて自殺?冗談じゃない!奇術師ハリーの活躍を描く軽快なシリーズ第一弾。 内容紹介より



全体的には軽いハードボイルドタッチで進み、クライマックス部分は関係者一同を集めた席で、しかもマジックショーを行いながら、犯人を指し示すという本格ものの形式をとっています。エージェントから契約を打ち切られた、かつての売れっ子マジシャンだった主人公がどさ回り先の町で投身自殺と思われる男についての調査を男の妻に依頼されるという話です。主人公がTV業界より干される原因ともなった、透視や予知能力といった超常現象のインチキを暴き出そうとする気持ちから今回の幽霊騒動の調査を引き受けます。そこに特ダネを狙う地元紙の女性記者や執念深い部長刑事が絡んできます。主人公をはじめとして、これらの登場人物たちは深過ぎもせず、かといって浅過ぎでもない、良い感じのキャラクターを与えられて、それが作品に軽妙な感じを与えているのだと思います。ただ、主人公の場合はそれとは別に、せっかくのマジシャンという設定が彼の日常のエピソードに生かされていないような気がしました。例えば、タバコに火をつける際には指先から炎を出すとか、酒場でコップを逆さにしても中の酒がこぼれないトリックを見せるとか、ストーリーとは直接関係のないエピソードが披露されていたらもっと面白くなったように思います。それから死亡した男の過去の出来事については唐突な感じがするので、なんらかの伏線を用意しておく必要があったのではないでしょうか。




幽霊に怯えた男 (創元推理文庫)幽霊に怯えた男 (創元推理文庫)
(1990/05)
パトリック・A・ケリー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ダリアハウスの陽気な幽霊』 キャロライン・ヘインズ 創元推理文庫

2012-10-22

Tag :

☆☆☆☆

女優の夢破れ故郷ミシシッピ・デルタに帰ってきたサラ。ところが家計は火の車、相続した豪邸ダリアハウスも手放す寸前。お屋敷づきの幽霊ジティが、そうはさせじとそそのかす。「友人の愛犬をさらって身代金をせしめろ」。誘拐犯と交渉役、一人二役は大成功。だが、それを機にサラはセレブ相手の私立探偵を開業するはめに?おかしなコンビが活躍する、お洒落なコージー・ミステリ。
内容紹介より



ロマンス小説出身の作家だそうで、ヒロインを始めとしてキャラクターの造形や人物配列にそういう特徴を感じました。南部出身でいわゆる上流階級に属していたヒロインは、サザン・ホスピタリティを尊重してはいても、“若い女性は社会的地位のある男性と結婚し、家庭を守る”という彼女と同クラスの女性たちの伝統的なライフスタイルからは逸脱した生き方をしてきた人物です。お金に困っていても、そういう気概もあり、金持ちで育ちも性格も良い男性からの求婚に乗り気ではありません。そんな状況のなか、これまた金持ちでハンサムだけれど(母親殺しの噂がある)危険な香りのする男性がヒロインの前に現れ、彼女は彼に反発しながらどうしても惹かれてしまう気持ちを抑えられないという展開へ。そして、過去に彼の両親に起きた事件を彼女が調べる内に新たな殺人が……。
ロマンス小説家の性なのか、どうしてヒロインに陰陽二人の男を配置し、陰の方とくっつくという鉄板のワンパターンを選んでしまうのでしょう。そのせいで二割か三割方つまらなくなってしまうと思うのですが。ミステリとしては結構健闘しているほうだし、かなり強引ながらも非常に意外な真犯人の登場は印象的でした。幽霊の存在については可もなく不可もなくといった感じでした。




ダリアハウスの陽気な幽霊 (創元推理文庫)ダリアハウスの陽気な幽霊 (創元推理文庫)
(2007/07)
キャロライン・ヘインズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ゴースト・モーテル』 クライヴ・バーカー 集英社文庫

2012-10-19

Tag : ホラー 短編集

☆☆☆☆

《アラベスクとグロテスク》
これまでのホラー小説には珍しく生々しい血やセックス、殺人の氾濫といったグロテスクさとは別に、目を見張ったのはその多様性である。まさにアラベスクの入り組んだ世界が、作品の中に縦横に展開する。作品に好悪はあっても出来不出来がなく、かなりの質を保ちながら、これだけのバラエティに富んだ内容を書き分けられるのは並み大抵の才能ではない。大変な新人が出てきたものである。解説・仁賀克雄 内容紹介より



血と本[Ⅳ]

「非人間の条件」
不良たちから暴行を受けている老浮浪者の持ち物から、不良のひとりが盗みとった三つの結び目がある紐。その解き解くのが非常に難しい結び目を解くと、そこから得体のしれないものが現れて不良たちに襲いかかるという話。いわゆる封印物が派生した作品なのでしょうが、この得体のしれないものが浮浪者の味方ではないという点、どういう経緯で浮浪者がその紐を持つことになったのかが説明されず、唐突に出現した禁書についてなど、話が整理されていない印象を受けて、中、長編作の不完全なエピソードの一つを読んだみたいな感じになりました。

「手」
ゴーゴリの「鼻」が思い浮かんできそうな話。
ひとりの平凡な男の両手が持ち主に反抗し、右手によって切り離された左手が他の人間たちの手を扇動して反乱を起こすというストレートな内容で、人間の意志に逆らって手を切断する場面のグロさや、カニかクモみたいに手が這い回る場面のブラックな笑いが持ち味の作品。とぼけた設定ですが、結構怖い。

「ゴースト・モーテル」
地縛霊が宿泊客に襲いかかってくる血まみれのスプラッタかと思っていたら、夫婦間に鬱積していた不満が爆発して殺人が起きてしまう話。昔、妻が浮気性の夫を撃ち殺した事件が起きたモーテルの一室。その部屋に宿泊した伝道師の妻には、事件で殺された夫と死刑になった妻の亡霊を見る能力が……。女のことしか頭にない男とその妻の境遇が、一人よがりで高圧的な夫と虐げられる我が身が重なり合うという、幽霊が登場するにもかかわらず妙に人間臭さを感じる話でした。

「悪魔よ、来たれ!」
神の加護を得ようと、悪魔を呼び寄せるために人工の地獄を作った男の顛末。たぶん、ミイラ取りがミイラなったみたいな。

「欲望の時代」
ある研究所で偶然できた催淫剤の実験台になった男の話。それを注射されると性欲が尽きることがなく、男女区別なく襲いかかってしまう。とめどない欲望に突き動かされる人間の姿と本能に究極に支配される姿は、傍目には醜悪だけれど当人からすれば快楽にいつまでも浸れるから幸せなのですね。

『セルロイドの息子』クライヴ・バーカー 集英社文庫
『ヘルバウンド・ハート』 クライヴ・バーカー 集英社文庫




ゴースト・モーテル 血の本(4) (血の本) (集英社文庫―血の本)ゴースト・モーテル 血の本(4) (血の本) (集英社文庫―血の本)
(1987/07/20)
クライヴ・バーカー

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『撃たれると痛い』 パーネル・ホール ハヤカワ文庫HM

2012-10-16

☆☆☆

恋人の誠意を確かめてほしい。メリッサと名乗る、地味で気弱な中年女性の依頼は、たやすい仕事に見えた。予想通り、当の男と若い美女の密会現場を突き止め、一件落着。と思いきや、その直後に男が他殺死体で発見され、メリッサに殺人の容疑がかけられた。納得の行かないわたしは、密かに真相を探りはじめる。が、その矢先、このわたしが、何者かに撃たれてしまうとは!ひかえめ探偵が絶体絶命の危機に立ちむかう第七作 内容紹介より



恋人を射殺したとして逮捕された依頼人の女性の無実を信じる主人公が、真犯人だと目星をつけた容疑者たちをめぐる顛末は、読んでいる最中に察しがついてしまって、相変わらずのトホホ感が湧き上がるものでした。しかし、弁護士事務所から依頼された調査で知り合った少年にまつわる出来事は、このシリーズのこれまでとは違った一面を見せているように思います。何者かに撃たれた主人公は、いわゆる怖気づいてしまった挙句、家族に迷惑をかけ、警察に目をつけられてしまう羽目の陥ります。そんな状況のなかから、少年のために奮起して再び立ち上がるという、このシリーズには無縁だと思っていたまさかの(ただし、あくまでも控えめな)感動的展開になるという……。次回作以降は、この出来事が主人公のキャラクターに何らかの変化をもたらしているのでしょうか。気になるところです。でも、まあ、アンチヒーロー・タイプとはいえ、読後、毎回感じる非充足感は何とかして欲しい。




撃たれると痛い (ハヤカワ・ミステリ文庫)撃たれると痛い (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(1995/06)
パーネル・ホール

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『この町の誰かが』 ヒラリー・ウォー 創元推理文庫

2012-10-13

☆☆☆☆

クロックフォード―どこにでもありそうな平和で平凡な町。だが、ひとりの少女が殺されたとき、この町の知られざる素顔があらわになる。怒りと悲しみ、疑惑と中傷に焦燥する捜査班。だが、局面を一転させる手がかりはすでに目の前に……!警察小説の巨匠がドキュメンタリー・タッチで描き出す《アメリカの悲劇》の構図、MWAグランドマスター賞受賞第一作。解説・若竹七海 内容紹介より



かつて住民の多くが農業や漁業に従事する人口三千人だった町が、ベッドタウン化するとともに様々な職業に就く者が住む、一万八千人の町に。しかし、町の姿は、古い屋敷や新しい家が入り混じる、自然環境に恵まれた快適な町であり、まれに窃盗や強盗事件が起きたり、若者たちの間に薬物の問題が持ち上がったりしていても、荒廃などとは無縁の町。こういうあくまでも普通の町であるという文言が読者へ意識付けるために頻繁に出てきます。そんな場所で発生した一件の殺人事件が町と住民たちを根底から揺るがす様を描いた、社会派ミステリとも言える優れた作品。
ストーリーは被害者の家族、友人、知人や警察官、町の住民への聞き取りや会合の議事録というユニークな形で著されてます。事件とは直接関係のない物事や発言も記すという手法のために、警察の調書や聞き込みのメモとは違って、事件や被害者についてだけでなく、自分や他の住人のこと、町についての考えや意見も明らかにされ、それぞれの内面や裏側が語られています。ただ、司祭の妻の証言など冗漫に感じる部分もありました。
事件に対処する警察への不満が高じて暴動が起きかけたり、余所者の浮浪者である容疑者へリンチを振るう雰囲気になって人間の内に潜む暴力志向が露わになり、あり得ないと思われていた人種差別やこれまで存在が許容されていた心に障害を持つ者、同性愛者という社会的弱者や自分たちとは異質なものへの偏見、排斥が事件を契機に表に吹き出してしまう状況へと陥っていく様子が作者の狙い通りに巧みに描き出されていました。また、終盤にかけての部分など、サスペンスミステリとしても趣向を凝らし、テクニックが冴えている作品でもあります。

ユーザータグ:ヒラリー・ウォー



この町の誰かが (創元推理文庫)この町の誰かが (創元推理文庫)
(1999/09)
ヒラリー・ウォー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『殺し屋マックスと向う見ず野郎』 テリー・ホワイト 文春文庫

2012-10-11

Tag :

☆☆☆

マックス・トルーブラッドは超一流の殺し屋である。現役引退を宣言したが、最後の大仕事をとの誘いを断りきれない。この一匹狼につきまとう心やさしいチンピラと、マックス逮捕に執念を燃やす定年前の老刑事。人殺しを生業とする男たちのせつないほどの人間的な結びつきを描く、『真夜中の相棒』の著者の進境めざましい第四作。 内容紹介より 



『真夜中の相棒』も男同士の関係を密に描いてみせた作品だったような記憶がうっすらとありますが、本書では、女性作家が男同士の友情をテーマにして作品を書いた場合にたまに見られる、そして女性同士の友情を描いた場合にはもっとシビアで決してこうは書かないだろうというような、その関係性の美化とか甘く現実離れなイメージがあるような感じがしました。
作者は引退した老殺し屋とチンピラ、退職を目前にした老刑事と若手刑事という真逆な立場にいる二組のコンビを登場させ、とても分かりやすくシンプルな対比構造を設定しています。平穏な生活に倦みつつある殺し屋と娘に引退を迫られている刑事、彼らのそれぞれのパートナーは強い上昇志向の持ち主です。かつて味わった刺激を再び求めた殺し屋と刺激を失うことを恐れる刑事が互いに心の底で分かり合い、抗いながらも自分たちの時代が終焉を迎えつつあることを感じ取り、共に独り身で息子がいない彼らは、若いパートナーたちにこれからを託そうとしているような印象を受けました。




殺し屋マックスと向う見ず野郎 (文春文庫)殺し屋マックスと向う見ず野郎 (文春文庫)
(1988/10)
テリー・ホワイト

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『デクスター 闇に笑う月』 ジェフ・リンジー ヴィレッジブックス

2012-10-09

Tag :

☆☆☆

昼はマイアミ・デイド郡警察で働く鑑識チームの好青年。しかしながら、夜は血に飢えた連続殺人鬼 ― それがデクスター・モーガンの人知れぬ日常だ。獲物は自分と同じ冷酷な殺人者たち。だが彼の二重生活は、ある奇妙な事件を機に思わぬ方向へと転がりだす。被害者は全身を切り刻まれて、生きたまま放置されたヒスパニック男性。あまりの凄惨な現場にだれもが戦慄するなか、デクスターだけは見たこともない手口に好奇心をおぼえ、“公私”ともに犯人を追いはじめる。やがて捜査関係者と犯人の意外なつながりが浮上し、第二、第三の被害者が……。話題沸騰!衝撃の海外ドラマ『デクスター』原作第2弾。 内容紹介より/p>



かつてアメリカ政府が中米で秘密の軍事行動をとっていた際、拷問を担当していた医師が味方に裏切られて敵に捕らえられたことを恨み、その復讐として当時の関係者を拉致し生きたまま手足を切断するという事件が起きる。連邦捜査官が乗り込んできたため、主人公が所属する地元の警察は捜査から手を引かざるを得なくなるが、当の捜査官が誘拐されたことで主人公とその義理の妹が事件に関わることになるという展開。
シリーズ第一作目の『デクスター 幼き者への挽歌』は未読なのですけれど、このシリーズの売りは主人公が警察官でありながら、悪人を血祭りにあげる連続殺人鬼だというユニークな設定にあるのでしょう。そして彼は喜怒哀楽を感じることがない異質な人物でもあり、それを他人に悟られないよう意識的に好人物を演じています。そういう内面と外見のギャップをコミカルに描くことでユーモラスな、特にブラックな笑いの雰囲気を出しているわけです。物語は主人公の一人称で語られるのですが、最初は気にならなかったけれど、徐々に煩わしくなったのが彼の持って回った言葉使い、延々と言葉を弄んで語る口調です。よくハードボイルドの主人公に見受けられる軽口、気の利いた言い回しと同じようなものです。しかし、彼の場合は会話する相手にではなく、進化した饒舌系とでもいうか、傍白という形で読者にそれを長々と聴かせるから気になる人は非常に気になると思います。主人公のダークヒーローっぽい部分とか、犯人がマッドサイエンティストみたいなところとかアメリカン・コミックの要素もはいっているような気もしました。




デクスター 闇に笑う月 (ヴィレッジブックス)デクスター 闇に笑う月 (ヴィレッジブックス)
(2010/05/20)
ジェフ ・リンジー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ベツレヘムの密告者』 マット・ベイノン・リース ランダムハウス講談社

2012-10-05

Tag :

☆☆☆

国連学校の歴史教師オマー・ユセフは、ジョージ・サバがイスラエルの内通者と名指しされ、テロリスト射殺幇助の容疑で逮捕されたと知らされて耳を疑った。教え子のなかでもとびぬけて優秀で誠実なサバが内通者とは?動かない警察に業を煮やしたオマー・ユセフは、周囲の制止を振り切り、銃煙漂う街を徒手空拳で事件の真相を追い始めたが……。パレスチナの庶民の視点で描いた異色の本格ミステリ。CWA新人賞受賞作 内容紹介より



これまで一般的な設定のパレスチナ対イスラエルという対立構造から一歩踏み込み、パレスチナ社会に内在する問題をテーマにして、その社会を別な側面から捉えて見せる作品であるためかなり新鮮に感じました。しかし、そのために娯楽小説としては気が滅入る後味の悪い作品でもあります。イスラエルへの聖戦という錦の御旗を掲げる武装組織がベツレヘムの司法、行政、経済へ強い影響力を示すなか、一人のキリスト教徒の一般市民が彼らに歯向かったために、彼はイスラエルの内通者との濡れ衣を着せられて逮捕されてしまいます。かつての教え子の無実を確信する主人公の教師が、彼が関わったという殺人事件の調査を始めるというもの。
主人公はこれまで生徒たちに理想を説いてきた学校という安全地帯を離れて、腐敗や暴力、偏見や狂信がはびこる現実の世界で挫折や無力感を味わい、また身の危険に晒されたりします。しかし、彼のキャラクターは常に聖人然としているわけではなく、妻以外の女性に妄想を抱いたり、校長に反発して皮肉を吐いたりする人間臭い一面も描かれています。 
「本書における犯罪はすべてベツレヘムで実際に起きた出来事に基づいている」と、タイム誌のエルサレム支局長を務めた経歴がある著者がまえがきに記しているように、本書の内容は非常にリアリティの高いものなのでしょう。できれば作中の米国人校長を英国人校長に置き換え、そもそもの紛争の種を蒔いた当事者である英国人の考えを聞かせて欲しかったように思いました。




ベツレヘムの密告者 (ランダムハウス講談社 リ 5-1) (ランダムハウス講談社文庫)ベツレヘムの密告者 (ランダムハウス講談社 リ 5-1) (ランダムハウス講談社文庫)
(2009/06/10)
マット・ベイノン・リース

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『蘭追い人、幻の貴婦人をさがす』 ミシェル・ワン ヴィレッジブックス

2012-10-02

Tag :

☆☆☆

19年前に失踪した姉の行方を捜そうと、フランス南西部ドルドーニュに移住したマーラ。姉のカメラに写っていた花の場所を特定できれば足跡がたどれるはず、と地元の蘭愛好家ジュリアンのもとを訪れる。初めは気の進まなかったジュリアンだが、1枚の写真にこのあたりで育つはずのない蘭を発見。その場所を二人で突き止めようとするが、そこには思わぬ危険が待ち受けていた……。行動的なマーラと内気なイギリス人ジュリアンのコンビが、おかしな犬や住人たちを巻き込み、緑豊かなペリゴールの森で花を求めて駆けめぐる。珍しい蘭の話をふんだんに織り交ぜた心くすぐるコージー・ミステリー。 内容紹介より



個人的に好感が持てるのは、主人公の男女二人の仲が予想を裏切ってラブロマンスへと進まなかったことでした。まったくそういう傾向にならなかったわけではないけれど、少なくとも反発しながらもいつの間にか愛が芽生える系のうんざりさせられる展開にしなかった作者はとくに評価したい。それから蘭愛好家の主人公がヒロインをめんどくさく思いながら手助けする理由が、珍しい蘭を自分の手で発見したいからという利己的だけど現実的なものなのも良いです。争いごとを好まない、やや内向的な学者肌の彼の姿が等身大に描かれ、派手さはないもののなかなか味のあるキャラクターだと思いました。かたやヒロインの方は、当然失踪した姉の行方を追うことに一生懸命で、それ以外に印象に残らなさそうな造形なのは物足りない気がします。
作品全体の妙な甘さのないさっぱりした雰囲気はかなり好みです。あとは蘭についてのペダンティックな記述が不足しているところを始めとして、村人たちやペットの犬たちについても心持ち細かく描写してあればなあという印象を受けました。ミステリ部分は、レッドヘリングがあからさま、真犯人の見当も早めに付きやすく、クライマックスには締りが欲しい感じでした。




蘭追い人、幻の貴婦人をさがす (ヴィレッジブックス)蘭追い人、幻の貴婦人をさがす (ヴィレッジブックス)
(2008/02)
ミシェル・ワン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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