『届けられた6枚の写真』 デイヴィッド・L・リンジー 新潮文庫

2012-11-30

Tag :

☆☆

ヘイドンのもとに青年時代の父を描いた絵の写真が届いた。緑の瞳の美女の写真が続き、不審な写真が次々に送られてきた。そして最後にヘイドン自身の写真が ― 前日に撮られたもので、頭に銃弾を受けた様が書き加えたある。一体誰が、なぜ?一方、私立探偵スウェインの惨殺死体が見つかった。なぜか彼の部屋にはヘイドンの写真が……。秀逸な洞察力と精緻な背景描写の大作。 内容紹介より



不気味なサイコパスの犯人がじわじわと緊迫感を高めて、スリリングに展開していく話だと思っていたら期待はずれで残念。プロットがそもそもそんな具合なので、作者の文学性の高い、表現力の豊かな文章もミステリ作品として捉えると、「秀逸な洞察力と精緻な背景描写」が、くどくどと長い心理描写や情景描写に感じてしまって読むのが煩わしくなってしまいました。内容に比して、尽くされた言葉が過剰で、その大量な言葉の中にストーリーが埋もれてしまっているような印象を受けてしまいました。もっと骨太の物語なら相応しかったのでしょうが。
話は届けられた写真から、生前、父親の口からは語られることのなかった過去の秘密が明らかになっていき、そして、その秘密のせいで、主人公はある人物から命を狙われるというものです。過去発掘型ミステリというのは、当然、現在と過去の姿の振り幅が大きければ大きいほど受ける衝撃が大きくなるものですが、本書ではその姿が大して変わらないところがインパクトに欠ける原因であり、サイコ風味のロマンティック・サスペンスにしか感じられなかったそもそもの要因でしょう。




届けられた6枚の写真届けられた6枚の写真
(1996/02)
デイヴィッド・L・リンジー

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『五番目の女』 ヘニング・マンケル 創元推理文庫

2012-11-27

☆☆☆☆

父親とのローマ旅行は予想外に楽しかった。休暇が終わって仕事に戻ったヴァランダーを待ち受けていたのは、花屋の家宅侵入の通報だった。店主は旅行中で盗まれたものはない。次は一人暮らしの老人が失踪した疑いがあるとの訴え。一見些細な二つの事件。だが老人が串刺しの死体で発見されるに至り、事件は恐るべき様相を見せはじめる。CWAゴールドダガー受賞作シリーズ第六弾。 内容紹介より



相変わらず安定感があり、内容的にも高レベルを保った、読み応えのある作品でした。シリーズを執筆する上でのスタイルが確立したような気がします。しかし、〈刑事ヴァランダー・シリーズ〉もさすがに六作目になると、一連のお馴染みの展開に少々飽きつつあるのも個人的に感じてしまうわけでして、そろそろ冒険して新機軸を打ち出しても良い頃なのではないかと思ったりもしました。例えば同じ警察小説のカテゴリーに属するエド・マクベインの87分署シリーズでは、プロットやストーリー展開に様々なバリエーションを持たせてマンネリに陥らないような工夫がなされていたと思うのです。
大雑把に分けると、大小の事件の捜査を同時進行で描くモジュラー型の形式が多い87分署シリーズと一つの重大事件に犯人はもとよりヴァランダーや彼の同僚を含めた登場人物たちの人間ドラマを絡めて描く手法をとっている本シリーズの違いが見られますが、さらにマンケルはスウェーデン社会が抱える問題にも言及しているので、マクベインの軽快さに比べて、一つ一つの作品が重く、濃いために、読後にもたれる印象が残ってしまうのかもしれません。

ユーザータグ:ヘニング・マンケル




五番目の女 上 (創元推理文庫)五番目の女 上 (創元推理文庫)
(2010/08/28)
ヘニング・マンケル

商品詳細を見る

五番目の女 下 (創元推理文庫)五番目の女 下 (創元推理文庫)
(2010/08/28)
ヘニング・マンケル

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『殺しの四重奏』 ヴァル・マクダーミド 集英社文庫

2012-11-23

Tag :

☆☆☆☆

警部に昇進して新しい職場に配属されたキャロル。さっそく多発する不審火に目をつける。一方、心理分析官のトニーも六人の研修生たちとチームを発足。行方不明の女子高生をサンプルに活動を開始するが、意外にも有名なTVキャスターのジャッコが犯人像として浮かぶ。キャロルはトニーとともに捜査を始めたが……。CWAゴールド・ダガー賞受賞作のシリーズ第二弾!! 内容紹介より 



ヴァル・マクダーミド初読です。
ロバート・K・レスラーが著わした一連のノンフィクションで流行語にもなったプロファイリングをテーマにした作品で、まず、その言葉自体に懐かしさを覚えました。内容はサイコサスペンスらしい(未読なので分かりませんけれど)シリーズ一作目の『殺しの儀式』と違い、警察小説の趣が強い作品だと思います。異動先の警察署管内で発生する不審火を調べる、警部キャロル・ジョーダンが率いる捜査員たち、過去に各地で起きた複数の少女失踪事件をサンプルとしてプロファイリングを学ぶ、心理分析官トニー・ヒルが選抜したプロファイラー候補者の刑事チーム。そのプリファイリング・チームのなかの女性刑事がサンプル・データを分析しているうちに、ある有名な人物が容疑者として浮かび上がり、彼女が単独でその人物に接触するところからストーリーが大きく動き始めます。容疑者の名声が高く人望があるせいで犯人とは有り得ないとして、警察の上層部に端から相手にされない状況に陥る中、チームがどのように犯人を追い詰めていくのか、そして、新たに犯人に拉致された少女を救い出すことができるのか、という警察小説の醍醐味を十分に味わえるとともに、犯人側からの視点も取り入れているため、徐々に進んでいく捜査の過程とそれに対抗して策を弄する犯人の行動が緊迫感を持って描かれ、読者には始めから失踪事件の犯人の正体が明らかされていることから倒叙ミステリの要素も愉しめる作品になっています。
不審火事件については失踪事件と小さくても何らかの接点があればよかったでしょうし、エピローグにいたっては個人的には欲求不満がつのって不必要たと感じました。

『殺しの儀式』




殺しの四重奏 (集英社文庫)殺しの四重奏 (集英社文庫)
(1999/06/18)
ヴァル・マクダーミド

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『さよならまでの三週間』 C・J・ボックス ハヤカワ文庫HM

2012-11-20

Tag : C・J・ボックス

☆☆☆

子宝に恵まれず、念願の赤ん坊を養子として迎えた夫婦ジャックとメリッサ。しかし、幸せは長くは続かなかった。実父が親権を主張し、裁判所から三週間以内に子供を返すようにとの裁定が下ったのだ。実父である少年は札付きのワルで、夫婦に執拗な嫌がらせを繰り返し、ついには殺人まで……愛する者を守るため、男が下した決断とは? 『ブルー・ヘヴン』でアメリカ探偵作家クラブ賞を受賞した著者が贈る感動のミステリ 内容紹介より



猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズにおいて、里子にした女の子を実の母親が取り返しに現れる『凍れる森』という作品がありましたけれど、ノンシリーズの本書でも養子の赤ん坊を中心に家族愛や家族の絆がテーマとして前面に押し出されています。 主人公のジャックが実直だけれど平凡な人物で、妻のメリッサは美人で才能の持ち主であるという夫婦間の設定もジョー・ピケット・シリーズと似ていますし、連邦裁判所判事である少年の父親が法律を盾に赤ん坊を要求し、メキシコ・マフィアとつるむ素行の悪い少年が、まじめな主人公夫婦に嫌がらせを行うという構図は、大牧場主が手下を使って近隣の善良な農家に乱暴狼藉をはたらくという、どこか西部劇を基本に据えているような雰囲気も同様です。
ジョー・ピケットは法の執行官として体制側に身を置いているため、法律から逸脱した行いはできませんが、本書のジャックは耐え忍んだ末、相手に対し直接的な行動をとってしまいます。また、印象深いのは、彼の旧友である刑事が正義のために法を曲げてしまう場面があえて描かれているところです。昨今のミステリでは、相手がいかに悪人であっても法律の前ではフェアに処し、こういうストーリーの流れは否定的に描かれるか、あるいは避けてしまう傾向にあります。しかし、敵が極悪人であった場合は、我こそが法だという、感情に抑制を利かせない無骨な開拓者精神を感じさせるところは、いかにもC・J・ボックスらしいと思いました。その役目を主人公にやらせず親友にさせることで、もしかしたら読者からあがるかもしれない批判をかわす狙いでもあったのかどうか、読後に物足りなさが残りました。

ユーザータグ:C・J・ボックス




さよならまでの三週間 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-2)さよならまでの三週間 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-2)
(2010/05/10)
C・J・ボックス

商品詳細を見る


テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『第二の深夜』 アンドルー・テイラー 文春文庫

2012-11-17

Tag :

☆☆☆☆

少年にとっては初めての外国旅行だった。が、同行の父は彼を異境プラハに置き去りにして、姿をくらましてしまう。父はスパイだったのだ。時は1939年、戦争の足音はそこまで近づいている。戦火のヨーロッパで、いろいろな人に身を寄せつつ、少年は人生を学ぶ。そして真夜中と“第二の深夜”の間には何ごとも起こりうることを。 内容紹介より



1935年から1956年までの激動の時期をケンドール家、特に次男ヒューを中心に描いた歴史ミステリ。英国の情報機関の密使がウィーンにおいて任務に失敗したせいで、新たに必要となった任務のためにヒューの父親が臨時の連絡員にスカウトされ、息子を連れてプラハへと向かった。しかし、政治情勢が切迫したため、ヒューの父親はやむなく彼をプラハに残して帰国してしまう。ヒューはチェコのレジスタンス組織の関係者の許に身を寄せ、父親の迎えを待つが、ついに大戦が始まってしまう。やがて、ある事件が起き、彼は身元を偽ってドイツ軍将校の一家に使用人として住み込むことになる。
この作品の特色は主人公ヒューが、政治的な主義主張に染まらず、終始一貫して、それとは無縁な立場に身を置いているところではないでしょうか。少々淡々とし過ぎているような気もするけれど、その姿は爽やかな印象を与えていると思います。戦争や諜報戦で、登場する男性のほとんどが嫌々ながら、または進んで国家のため、あるいは私欲のために身を打つなか、ヒューの心にあるものは、ただ一人の女性への愛情なわけで、この基本形は女性登場人物の多くにも当てはまっています。本書でも触れられているように英国人は戦争をゲームに見立てる傾向があると言われますが、そんなゲームに嬉々として興じる男たちがいる一方で、愛するものを失う女たちの悲哀が、素人スパイごっこの末に、息子を異国の地に見捨てた夫を許すことができなかったヒューの母に表されているように感じました。

『我らが父たちの偽り』 アンドリュー・テイラー サンケイ文庫




第二の深夜 (文春文庫)第二の深夜 (文春文庫)
(1990/04)
アンドルー・テイラー

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『自由への一撃』 エド・ゴーマン編 扶桑社ミステリー

2012-11-13

☆☆☆

現代こそ、ミステリーの黄金時代である―作家として、アンソロジストとして、またミステリー専門誌の編集者として、八面六臂の活躍をつづけるエド・ゴーマンが、現代をリードする作家たちの代表作を厳選。マーガレット・ミラーの鬼気迫る心理小説をはじめ、都会の孤独をえぐりだすローレンス・ブロック、現代最先端の名探偵群像にいたるまで、読後に忘れられない印象を残す不朽の逸品ばかりを収録。評論家ジョン・L・ブリーンによる現代ミステリー概説を巻末に付し、すべてのファンに贈る、ベスト・アンソロジー! 内容紹介より 



「現代ミステリーの至宝 〔1〕」というサブタイトルが付いてます。

「谷の向こうの家」マーガレット・ミラー
人里から離れた場所に暮らす三人家族の家の近くに新しく隣人が越してきた。一家のひとり娘はやがて新しい隣人夫婦と仲良くなり、学校にも行かずに隣家に入り浸りになるが、それを知った娘の両親がその家に押しかけると……。
少女の空想力が彼女の身の回りに別の世界を作り上げてしまうというオカルト的な話。かなり印象的。

「ボディガードという仕事」ローレン・D・エスルマン
エルヴィス・プレスリーをモデルにしたかのようなロック・シンガーのボディガードを依頼された主人公は、別件の仕事を引き受けていたために知人の探偵を依頼人に紹介するのだが、その探偵が警護中にロック・シンガーを襲った暴漢に射殺されてしまう。主人公が事件を調べると、失踪していた元ボディガードが射殺体で発見されたことが明らかになる。厳しいエンタメ業界の話。なかなか。

「チーの呪術師」トニイ・ヒラーマン
ナヴァホ族警察のチー巡査長が邪悪な呪術師の出現の噂を調査中に出くわしたFBI捜査官と彼らが匿う、ギャングにまつわる裁判の検察側証人についての話。オカルトチックな雰囲気から現実的なオチで終わる作品。地味、もうひとつ。

「湖畔」ロバート・ブロック
給料強盗殺人犯と刑務所で同房になった男が、生前に強盗犯から聞き出した話をもとに、とうとう発見されなかった奪った金のありかを捜すために犯人の妻に近づき、一緒に見つけ出そうとするが……。サイコ風ではないけれど鼠が怖い話。まあまあ、ちょっと古めかしい。

「恐ろしい女」シャーリン・マクラム
四人の子供が殺された事件の共犯者として二十四年間刑に服していた女が秘密裏に釈放され、人知れず暮らし始めるが、それを知った女性記者がスクープをものにしようと女に近づき単独インタビューに成功する。原題の「A Predatory Woman」どおり人を喰いものにする恐ろしい女が描かれています。なかなか。

「ラッキー・ペニー」リンダ・バーンズ
私立探偵兼タクシー運転手の主人公がタクシー強盗の被害に遭うが、その犯人は売り上げ金のうち紙幣をゴミ箱に残し、小銭だけを持ち去ったことが後に判明する。折りしも警察は最近発生した強盗殺人事件の捜査で忙しく、主人公は自ら捜査を始める。なぜ犯人は小銭が必要だったのか。エドワード・D・ホック調のまあまあなミステリ。

「二度目のチャンス」エドワード・D・ホック
平凡な人生を生きるのに飽き飽きしていた女性が、自宅に忍び込んできた空き巣泥棒とコンビを組み、彼の仕事を手伝うことに。やがて彼女自身も犯罪に手を染め、コンビの犯行は次第にエスカレートしていくという、したたかな女を軽く描いたクライムストーリー。

「最後の儀式」リンダ・グラント
高齢者用療養施設に入所している伯母の依頼で、施設内で深夜に起きた不審死を調べる女探偵の話。彼女はスピーチクラスの教師と身分を偽って潜入調査を開始し、施設内のさまざまな問題や出来事、老人たちの現状を見聞きしていくとともに、将来、自分にも訪れる老いについて考えをめぐらせる羽目に。スピーチクラスで発表した老人たちの人生のエピソードが面白かったです。なかなか。

「自由への一撃」ローレンス・ブロック
銃を衝動買いしたニューヨークに住む男の話。最初は銃を手に入れたことに途方にくれていた男が、ベッドサイドにしまっていた銃に実弾を込め、やがて持ち歩くようになり、身の危険を感じたときには銃を見せつけ、とうとう自ら危険な場所にまで足を踏み入れて行くという心理の変化を綴り、近い将来、男に降りかかるであろうバッドエンドを予感させて終わる佳作。

「少年」ウェンディ・ホーンズビー
老判事引退の新聞記事に接した、少年時代の彼のかつての担任教師が昔目にした出来事を回想する。厳しい自然の中で農業を営む貧しい移民一家の母親と利発な息子、悲劇とか罪とかを超えたところにある何かが余韻の残る話。

「近くの酒場での事件」ビル・プロンジーニ
<名無しの探偵>が地元で起きた連続強盗事件について、とある酒場で聞き込んでいるまさにその最中に、一人の強盗が店に押し込んで来てしまう。店主によって射殺されてしまったその強盗が一連の事件の犯人かと思われたのだが……。そこそこ。

「道化師のブルーズ」マーシャ・マラー
フェスティヴァル会場で従兄弟同士である著名な道化師コンビの身辺警護を依頼された主人公は、突然行方不明になったコンビの片方を捜すうちに、身元不明の男性の刺殺体を発見してしまう。しかも、男は失踪した道化師の衣装を身にまとい、顔にはメイクまで施していた。残された従兄弟の一人とその妻、コンビのマネージャーが問題や秘密を抱えていることに主人公は気付くが……。
いかにも〈シャロン・マコーン シリーズ〉らしい作品。

「ゴースト・ステーション」 キャロリン・ヴィート 
アルコール中毒治療を受け、職場復帰した女性巡査部長は、「女の酔っ払い」を嫌う巡査とコンビを組むことになる。深夜、彼女たちは落書き防止のパトロールを行うため、地下鉄で目的地へ向かうが、途中で乗り合わせた酔っ払いの老浮浪者の身を案じて途中下車し、地下構内へと彼の行方を追う。それは子供時代の主人公を可愛がってくれていた、やはり酒で身を持ち崩し、路上死した彼女のおじさんの姿を浮浪者に重ね合わせたせいだった。浮浪者におじさんを、そして自分自身の姿を重ね、軽蔑、嫌悪、悲しみ、哀れみ、愛情というさまざまな感情があふれ出す主人公の心理描写が印象に残る佳作。




自由への一撃―現代ミステリーの至宝〈1〉 (扶桑社ミステリー)自由への一撃―現代ミステリーの至宝〈1〉 (扶桑社ミステリー)
(1997/06)
エド・ゴーマン、 他

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『1/2の埋葬』 ピーター・ジェイムズ ランダムハウス講談社

2012-11-10

Tag :

☆☆☆☆☆

結婚前夜。新郎マイケルを祝うために悪友たちが仕掛けた悪戯 ― それは酔った新郎を棺桶にいれて生き埋めにし、数時間後に堀だすという他愛もない計画だった。だが、埋めた直後に仕掛け人全員が事故死。ほんの悪ふざけのはずが、最悪の事態にまで発展し……。目撃者ゼロ。当事者全員死亡。絶対的不利な状況下で、孤独な中年警視グレイスがマイケルの救出に乗り出す!仏・独でミステリ賞に輝いた瞠目のシリーズ第1弾。 内容紹介より



本書を読もうとお考えの方は、下記の感想文は読まないほうが作品を楽しめると思います。

以下、ネタばれ気味です。ご注意ください!

いわゆるタイムリミット型の作品、さらに、もしスティーヴン・キングクラスの力量が作者に備わっているならば、生きながら埋葬された男の状況を内面や外面から延々と描写する作品になっているのかなと想像しつつ読み始めました。物語は徐々に警察小説の色合いが強くなって進み、上巻の終盤あたりで一つ目の衝撃を受け、その箇所を二度三度読み返しました。下巻に入るとやや強引な部分(男女の恋愛感情)や都合の良い展開(二度の交通事故など)みたいに感じるところもありましたが、脚本家や映画プロデューサーの経歴もある作家らしく、意外性を持たせたストーリーテリングが非常に達者であり、一方、そういう職業に就いている者にありがちな読者に押し付けるような、また映画化を狙ったみたいなエンタメ臭がほとんどないところが好ましく感じられました。確かに下巻から話が俗っぽくなってしまったけれど、二転三転のサプライズを入れつつも英国ミステリらしい抑制の効いた雰囲気とそれに合ったシリーズキャラクターとしての魅力を持つ主人公が良い味を出していると思います。




1/2の埋葬 上 (RHブックス・プラス)1/2の埋葬 上 (ランダムハウス講談社文庫)
(2008/01/07)
ピーター・ジェイムズ

商品詳細を見る

1/2の埋葬 下 (ランダムハウス講談社文庫)1/2の埋葬 下 (ランダムハウス講談社文庫)
(2008/01/07)
ピーター・ジェイムズ

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『幼き逃亡者の祈り』 パトリシア・ルーイン ヴィレッジブックス

2012-11-07

Tag :

☆☆☆

CIAの優秀な工作員だったイーサン・デッカーは3年前に極秘任務に失敗して以来、最愛の妻とも別れ、世捨て人同然の暮らしを送っていた。そこへ突然、かつての同僚だった女性が二人のいたいけな子供を連れて現れ、この子供たちを預かってほしいと頼むなり逃げだす。が、すぐに彼女は無残な射殺体となって発見された。その殺され方を見て、イーサンは3年前の宿敵が再び現れたことを知る。となれば、彼自身だけでなく、二人の子供や別れた妻の命までが危い。しかも、子供たちには恐るべき機密が秘められていた……。アイリス・ジョハンセン、リサ・ガードナーらが絶賛するノンストップ・サスペンス! 内容紹介より



邦訳された作品のカバーイラストに綺麗なおねえさんがデザインされていることでお馴染みのアイリス・ジョハンセンが絶賛したという点が読む前に気がかりだったのですが、読んでみるとやはりそっち系の流れを汲む作風でした。つまりロマンティック・サスペンスをベースにしているので、当然サスペンスとともにロマンスが進行し、本作では、ある事件が原因で理由も言わず突然妻の元を去ったヒーローと別れた妻であるヒロインがその役割を担っているわけです。自分のとった過去の行いを正当化することのない寡黙な元夫と、再び自分の前に現れた彼に対して憎みながらどうしても惹かれてしまうという元妻のその有り様が、なんの捻りもない予定調和に終始しているとことにうんざりし、彼らの陳腐な心理描写もあいまって久しぶりに放り投げてしまいそうになりました。しかも奥さん折れるの早すぎだし。
それに比べればサスペンス部分はまだマシなほうですが、展開が安直で、とくに機密計画を含む状況設定がひどすぎでしょう。時代設定を半世紀くらい戻せばまだ納得がいくけれど、科学技術は別として、いくらアメリカでもこんな非人権的な研究を秘密裏にやれるというのは無理があると思います。




幼き逃亡者の祈り (ヴィレッジブックス)幼き逃亡者の祈り (ヴィレッジブックス)
(2004/07)
パトリシア・ルーイン

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『フェニモア先生、人形を診る』 ロビン・ハサウェイ ハヤカワ文庫HM

2012-11-04

Tag :

☆☆☆

ミステリ好きの医師フェニモア先生は、実物の屋敷を模し、一族の一人一人に似せた人形を収めたドールハウスで有名なパンコースト家を往診した。屋敷では感謝祭の日、ドールハウスと人形が何者かに荒らされ、直後にそれとそっくりの状況で一族の女性が殺されていた。昔からの患者である女主人に呼ばれた先生は、本業の診察よりもにわか探偵としての協力を依頼されてしまう……読者への挑戦など趣向に富んだシリーズ第二弾



十一月から三月までの期間に、ほとんど屋敷の敷地内において、資産家の一族十三人のうちの五人が殺されたり、不審死したり、行方不明になったりし、さらに人形などを使った予告殺人の形をとっているにも関わらず、警察が犯人を逮捕できないどころか、容疑者の一人もあげられないということがとても不自然。但し、昨今のコージー系(坂口玲子氏の訳者あとがきによると、著者は自作をコージーと呼ばれることはあまり好きではないようですが)ミステリにありがちな、伏線などまったくおかまいなしに犯人がいきなり判明するとか、ほとんで言及されなかった登場人物が犯人だっただとかいう展開ではなくて、クラシックな本格ミステリ調に仕立ててあるところは好感が持てました。
主人公やクリニックの従業員たちのキャラクターや関係性はなかなか良い味を出しているので、後は、読者へ挑戦しているわりに見当がつきやすい犯人の意外性、犯行動機の突飛さなどは何とかして欲しいところです。と言ってもこのシリーズの翻訳は三作品で終了していて残念ですが。

『フェニモア先生、宝に出くわす 』




フェニモア先生、人形を診る (ハヤカワ・ミステリ文庫)フェニモア先生、人形を診る (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2002/05)
ロビン・ハサウェイ

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ゴーストダンサー』 ジョン・ケース ランダムハウス講談社

2012-11-02

Tag :

☆☆☆

ある冬の朝、ペンシルベニアの連邦刑務所を一人の男が出所した。出所したその足でかつての囚人仲間の元へ向かった男は、テロリストの手先として三角貿易に関わることになる。だが、テロ自体は彼の目標とするところではなかった。男の胸には、服役中に温めてきたある「計画」があった。そしてそれは、自他共に認める彼の天才的な頭脳と、テスラの「ノート」があれば、果たせるはずだった……。ベストセラー作家渾身のスリラー! 内容紹介より



国家機関による不当な仕打ちを受けた男が、ある過去の発明を改良し、復讐の計画を立て、その金をまかなうためにテロリストの資金調達の取引に協力する。男の銀行口座の開設を手伝った元カメラマンが、そのせいで捜査機関から嫌疑を受けてしまい、容疑を晴らすために男の行方を単独で追い始める。
実在の発明家、故ニコラ・テスラが発明したという設定の強力な装置を使って、男は復讐を企てています。その装置の機能についてはいろいろともっともらしく科学的な説明がなされているわけですが、なにせ途方もない力を持っている装置なので素人には空想科学か疑似科学みたいに思えて、設定が胡散臭く感じてしまいました。作品全体の印象は非常に平板なこと。特に、上巻は小さな波がふたつあるだけで、男がテロリストの武器取引に協力して、ロシアやアフリカのあちこちを旅して回るシーンが淡々と描かれ盛り上がりに欠けています。この原因は主人公の造形の淡白さにあるような気がしました。長期の独房生活によって心が麻痺しているという設定だとしても、当初から女性に興味を示しているのだからその理由付けは弱いような。作者は男が抱える憎悪や復讐心という感情をほとんど表出させていないし、また、男を徹底的に憎むべき悪役にしたてているのでもないため、とにかく書き込み不足で男の存在感が軽く薄っぺらいです。孤児として育ち、国の政策の犠牲になった同情すべき人物という位置付けは分かりますが、それが不特定多数の一般人を一瞬にして殺してしまう行動と釣り合いが取れるかというと……。
佐藤耕士氏の訳者あとがきによると、2007年のハメット賞にノミネートされた作品だそうです。




ゴーストダンサー 上 (ランダムハウス講談社文庫)ゴーストダンサー 上 (ランダムハウス講談社文庫)
(2007/11/01)
ジョン・ケース

商品詳細を見る

ゴーストダンサー 下 (ランダムハウス講談社文庫)ゴーストダンサー 下 (ランダムハウス講談社文庫)
(2007/11/01)
ジョン・ケース

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

カテゴリー

最近の記事

月別アーカイブ

10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07 

ユーザータグ

短編集 ホラー SF クリスマス・ストーリー アンソロジー ルース・レンデル アーロン・エルキンズ スティーヴン・キング デイヴィッド・ハンドラー キャロリン・G・ハート ローラ・チャイルズ ジョアン・フルーク ジョー・R・ランズデール ジョージ・P・ペレケーノス ドン・ウィンズロウ マイクル・クライトン C・J・ボックス ポーラ・ゴズリング ジェームズ・パターソン ジェイムズ・パタースン エド・マクベイン ジル・チャーチル リチャード・マシスン ローレンス・ブロック ヘニング・マンケル D・M・ディヴァイン ジャネット・イヴァノヴィッチ ピーター・ラヴゼイ スチュアート・ウッズ リリアン・J・ブラウン レジナルド・ヒル レックス・スタウト S・J・ローザン ジョルジュ・シムノン パーネル・ホール アリス・キンバリー ジョー・ゴアズ カール・ハイアセン ウィリアム・カッツ クレオ・コイル マーガレット・ミラー レスリー・メイヤー ジャック・カーリイ カーター・ディクスン ジェフ・アボット マーシャ・マラー エド・ゴーマン コリン・ホルト・ソーヤー ヒラリー・ウォー ルイーズ・ペニー マイケル・ボンド ジェフリー・ディーヴァー アイザック・アシモフ ジョン・ディクスン・カー イーヴリン・スミス ジェームズ・ヤッフェ リタ・メイ・ブラウン キャロリン・キーン ウィリアム・L・デアンドリア ロブ・ライアン ローラ・リップマン ポール・ドハティー フレッド・ヴァルガス G・M・フォード エヴァン・マーシャル オーサ・ラーソン ジョアン・ハリス ドナ・アンドリューズ サイモン・カーニック リン・S・ハイタワー ファーン・マイケルズ アンソニー・ホロヴィッツ ジャン=クリストフ・グランジェ スタンリイ・エリン レイ・ハリスン ケイト・ロス アンドレア・カミッレーリ レニー・エアース ジョン・クリード コニス・リトル デイヴィッド・マレル クリスチアナ・ブランド ウイリアム・P・マッギヴァーン ウィリアム・ランデイ ジャック・フィニイ リック・ボイヤー サキ ジェーン・ラングトン ユージン・イジー ウォルター・モズリイ アン・クリーヴス ビリー・レッツ イーサン・ブラック ダナ・レオン エーリヒ・ケストナー ウォルター・サタスウェイト スタンリー・エリン ポール・ドハティ トバイアス・ウルフ 

ブログ内検索

全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

リンク

RSSフィード

最近のトラックバック

最近のコメント