『彼の個人的な運命』 フレッド・ヴァルガス 創元推理文庫

2013-04-30

☆☆☆☆

三人の若き歴史学者、マルク、マティアス、リュシアンとマルクの伯父で元刑事が住むボロ館に元内務省調査員が連れて来たのは、凄惨な女性連続殺人事件の最有力容疑者だった。彼の無実を信じる元売春婦に託されたこの青年はほんとうに無実なのか?彼は事件現場近くで目撃され、指紋もしっかり採取されている。三人と元内務省調査員が事件を探る。CWA賞受賞シリーズの傑作! 内容紹介より



〈三聖人シリーズ〉の三作目。
発達障害気味の青年に連続殺人犯の容疑がかかり、子供時代に彼の面倒を見ていた元娼婦から頼まれた元内務省調査員が三聖人の住むボロ館に容疑者の青年を匿うことになる。青年から事件に巻き込まれた経緯を訊くうちに八年前に彼が関わったある事件が明らかになるというもの。
『論理は右手に』ほどではないのですが、今回も元内務省調査員ケルヴェレールがメインになって物語が進んでいます。ただ、三聖人の存在感は前作より大きくなってはいます。しかし、できるならもう少しこの歴史学者たちの専門とするそれぞれの時代(中世、先史時代、第一次大戦)に関するペダンチックなエピソードなりを取り入れて欲しかったところです。また、ミステリの出来としては、前作の『論理は右手に』やアダムスベルグ・シリーズの『青チョークの男』よりも劣るように感じました。特に庭師へのたびたびの扱いについてはやや冗漫な印象を受けました。それはともかく、この作者が醸し出す雰囲気というのは独特でありながら、文章は非常に読み易い(訳は藤田真利子氏)ので、未訳の作品も是非邦訳して欲しいものです。

『青チョークの男』
『論理は右手に』




彼の個人的な運命 (創元推理文庫)彼の個人的な運命 (創元推理文庫)
(2012/08/25)
フレッド・ヴァルガス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『第四の扉』 ポール・アルテ ハヤカワ・ミステリ

2013-04-27

Tag :

☆☆☆☆

オックスフォード近郊の小村に建つダーンリー家の屋敷には、奇妙な噂があった。数年前に密室状態の屋根裏部屋で、全身を切り刻まれて死んだダーンリー夫人の幽霊が出るというのだ。その屋敷に霊能力を持つと称するラティマー夫妻が越してくると、さらに不思議な事件が続発する。隣人の作家アーサーが襲われると同時に、その息子ヘンリーが失踪。しかもヘンリーは数日後、同時刻に別々の場所で目撃される。そして、呪われた屋根裏部屋での交霊実験のさなか、またも密室殺人が……。犯罪学者アラン・ツイスト博士が、奇怪な事件の真相を暴く! 内容紹介より



ツイスト博士シリーズの第一作目だそうです。
いくらフィクションとはいえ、あまりにも現実離れした、やりすぎとも思える奇怪な事件や出来事のオンパレードが続くせいで妙な違和感を覚えたのですが、最終盤にタネ明かしがされて、何だそういうことかと納得したわけです。作品には、ジョン・ディクスン・カーに対する作者のリスペクトがよく表れているし、プロットからトリックから雰囲気に至るまでカーのそれを見事に踏襲していると思います。ただ、作者の意図的的な、大げさな怪奇趣味のてんこ盛りが、一体何のためだったのかネタバレしたとたん、作品全体が醸し出す作り物感に訝しく思いながらも高まっていた読み手のテンションが、いっきに平常に戻ってしまいました。もちろん、これは個々の読者で受け取り方は違うでしょうけれど……。また、そのような作者の趣向がマイナスに働いて、ラストのどんでん返しには付け足しみたいな印象を受けました。

『狂人の部屋』ポール・アルテ ハヤカワ・ミステリ
『七番目の仮説』ポール・アルテ ハヤカワ・ミステリ




第四の扉―ツイスト博士シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)第四の扉―ツイスト博士シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
(2002/05/16)
ポール・アルテ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ルイザと水晶占い師』 アンナ・マクリーン 創元推理文庫

2013-04-25

Tag :

☆☆☆

生活費を稼ぐため、家族と離れボストンにもどった駆け出し作家のルイザ。親友のシルヴィアに誘われ、評判の水晶占い師パーシー夫人の降霊会に出席したルイザは、彼女のいんちきを見破る。影響されやすい友人を案じて、再度降霊会に同行すると、パーシー夫人は密室の中で何者かに殺害されていた……。クリスマスの季節に起きた密室殺人に『若草物語』の著者が挑む、シリーズ第三弾。 内容紹介より



〈名探偵オルコット〉シリーズ3。
前作『ルイザと不穏な休暇』で傾倒していた儒教にはすでに飽きたシルヴィアが、うるさく結婚を勧める母親の意見に対して、亡くなった父親の考えが知りたいと、気の進まない主人公を降霊会に誘うところから話が始まります。降霊会の主催者である水晶占い師から招待されたメンバーは、ヒロインらのほかに破産目前の興行師、中国での軍歴がある元軍人、上流階級の夫妻、そして、招待客ではない謎の女性。また、これに占い師に仕えるメイドと中国人の料理人、占い師の義弟が殺人事件の容疑者の顔ぶれとして加わります。事件の調査とともに主人公は、間近に迫ったクリスマスに贈る家族へのプレゼントの費用を捻出するため嫌々ながら内職に精を出すなか、三女リジーが彼女の下宿先に転がり込むます。家族との手紙のやり取りやリジーと交わるシーンを挿むことで、『若草物語』の骨子である家族愛を巧く作品に取り込み、そしてまた、創作過程の場面を描き、素人探偵とは違う新米作家としてのオルコットの姿をバランスよく配している印象を受けました。
本書がシリーズ最終巻なのが残念です。

『ルイザと女相続人の謎』 アンナ・マクリーン 創元推理文庫
『ルイザと不穏な休暇』アンナ・マクリーン 創元推理文庫




ルイザと水晶占い師 (名探偵オルコット3) (創元推理文庫)ルイザと水晶占い師 (名探偵オルコット3) (創元推理文庫)
(2010/05/28)
アンナ・マクリーン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『スリー・パインズ村と警部の苦い夏』 ルイーズ・ペニー RHブックス・プラス

2013-04-22

☆☆☆☆

夏の休暇で美しい湖畔のロッジを訪れたガマシュ警部。妻と静かに過ごすはずが、奇妙な事件に遭遇してしまった。嵐の夜、宿泊中の一家の長女が、ロッジの庭にある父親の銅像に潰されて命を落としたのだ。事故か殺人かもつかめぬまま、ガマシュは休暇返上で捜査を始める。しかし、一家は謎だらけなうえ、スリー・パインズ村のあの住人までいて……。殺人なら誰がどうやってあの重い銅像を?名警部が見出した真相とは ― 。有名賞常連の傑作シリーズ第4弾。 内容紹介より



ガマシュ警部シリーズ四作目。
ロッジの庭に据えられた大理石の土台の上に置かれていた立像に押し潰された被害者。殺人だとしたら、クレーンでも使わなければとうてい動かせないほどの重さがある彫像を犯人はどうやって倒したのか?しかも土台の大理石の表面には、像を動かしたらできるはずの傷ひとつ見当たらない。本書の特色は、犯人はいかなる方法で犯罪を実行したのかという、いまどきのミステリ作品には珍しい不可能犯罪の要素を取り入れているところだと思います。手口の見当がつけ易いのはしかたないとして、作者の意欲は評価されるべきでしょう。また、人物描写や人間関係の機微を緻密に描き出すテクニックは相変わらず見事です。ただ、気になった点は、犯行に至った動機がやや説得力に乏しいかもしれません。最終的に犯罪の引き金になったエピソードが欲しかったような気もします。
「心はそれ自身がひとつの世界であり、地獄を天国に変えることも、天国を地獄に帰ることもできる」、作者はこのジョン・ミルトンの『失楽園』の一節を引いて、ロッジに集まった金持ちの一家が長く抱えてきた葛藤、誤解、嫉妬、不信を解きほぐし、外観とはかけ離れた家族それぞれの本当の姿を現し出して見せます。

『スリー・パインズ村の不思議な事件』ルイーズ・ペニー ランダムハウス講談社
『スリー・パインズ村と運命の女神』ルイーズ・ペニー ランダムハウス講談社
『スリー・パインズ村の無慈悲な春』ルイーズ・ペニー RHブックス・プラス




スリー・パインズ村と警部の苦い夏 (RHブックス・プラス)スリー・パインズ村と警部の苦い夏 (RHブックス・プラス)
(2012/07/11)
ルイーズ・ペニー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
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