『イージー・マネー』 ジェニー・サイラー ハヤカワ文庫HM

2013-05-30

Tag :

☆☆

運び屋のアリーにとって今度の仕事も楽な稼ぎのはずだった。が、アリーが取引場所に行くと、相手の男が射殺体となって転がっていた。さらに二人組の男からディスクを渡せと脅される。彼女は男を撃って逃走するが、いつのまにかポケットに謎のディスクが。やがてアリーは、自分が元CIAの高官を殺した容疑で指名手配中と知るが……銃の達人で凄腕の運び屋アリーが縦横無尽に疾駆する!ハードでスリリングな新シリーズ 内容紹介より



1999年に発表された作品なのですけれど、いまさらながらベトナム戦争におけるCIAの違法行為とか米軍が関与した虐殺事件とかを、ミステリのテーマとして持ってこられても食傷気味だし、相変わらずの切り口では代わり映えしません。事件の顛末も大山鳴動して鼠一匹。ベトナム戦争当時のトップシークレットが記録されたディスクと襲ってきた敵から奪った二丁の銃のアイテムを手に入れたヒロインは事件の黒幕を求め、名馬ムスタングを駆って逃亡の旅に出るという安直なRPGの如きで、かといって、ロードノベルとしても不出来、ガンファイトの場面も普通すぎて「銃の達人」の片鱗も見られず、「凄腕の運び屋」らしきドライビングテクニックの見せ場もない、あるのは、うんざりするほどしょっちゅう挿まれる追想シーンのみ。安藤由紀子氏の訳者あとがきにあるように、ニューヨーク・タイムズをはじめとする書評やジェイムズ・クラムリーが、なぜ、この作品を絶賛しているのかわかりませんでした。ベトナム戦争、父娘、男の友情みたいなキーワードと文学的な語り口が彼らの琴線に触れたのでしょうか。




イージー・マネー (ハヤカワ・ミステリ文庫)イージー・マネー (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2000/05)
ジェニー・サイラー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『無法の正義』 ジャニーン・キャドウ 講談社文庫

2013-05-28

Tag :

☆☆☆

まだ夏だというのに今年になってNY市の警官の自殺は十六人に達していた。うち九人の死体からコカインが検出される。本当にみな自殺なのだろうか?何かが匂う。長年の相棒をやはり自殺で失ったベテラン巡査ギャヴィンと切れ者の新米警官ストレーガの執念の捜査が始まった。“87分署”を彷彿させる白熱の警察小説! 内容紹介より



五年前、一人娘が失踪してから妻との関係が悪化しているベテラン巡査、警察本部長の娘で、幼い頃、目の前で母親を強盗に殺された過去を持つ女性巡査、同じく子供の頃、警察官の父親が殉職した、名門大学出身の新人巡査。このように87分署シリーズの刑事たちとは異なり、これら三人のパトロール警官が主要な登場人物で、また、作者は彼らが心に負う傷や悩みをテーマにしているため、87分署シリーズよりも警察官の内面を描くことに重点が置かれているように感じました。
それから、彼らが公に手がける事件もセレブを狙った凶悪強盗事件のみで、その犯人と犯行もなにかカリカチュアされているみたいなイメージがしてリアリティに欠け、事件解決の経緯も警察小説にしてはあっけなくもの足りなさが残りました。一方、警察官の自殺についての非公式な捜査は、詳しく検証するケーズが一例のみという杜撰とも思える設定で、これらについてはデビュー作がための甘さが出ているのでしょうか。
ただし、アメリカの大都市で警察官であることで抱える様々な問題が充分描写されており、結構なページ数の割にとても読みやすいところは、作者の才能を感じさせます。




無法の正義 (講談社文庫)無法の正義 (講談社文庫)
(2000/10)
ジャニーン・キャドウ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『死体が多すぎる』 エリス・ピーターズ 光文社文庫

2013-05-25

Tag :

☆☆☆☆

― シュルーズベリは混乱の極みにあった。ヘンリー一世を後ろ盾とする女帝モードがフランスにいる隙に、イングランドの多くの貴族達に推される対抗馬、スティーブン王がシュルーズベリ城を陥落させたからである。その戦いで捕虜となり処刑された者、94名。ところが、埋葬を頼まれたカドフェルが見たのは95名の遺体だった。死体が多すぎる。誰が何のために死体を紛れ込ませたのか?高潔の人、カドフェルの追求が始まる! 内容紹介より



修道士カドフェル・シリーズ2。
犯人が殺人を犯してまで手に入れたかった品なら、その後、躍起になってその行方を捜しそうなものだけれど、そういう様子が描写されていなかったのは、ミステリとしてはちょっと不満なところ。しかし、イングランドの無政府時代という史実をもとにした、けれど肩のこらない歴史ミステリの佳作なので大変面白く読むことが出来ました。処刑された捕虜の遺品を遺族から託された主人公が、町の恵まれない人々に与えて回るエピソードのように、作品の根底にある人に対する優しさ、ポジティブな作風がとても良いと思います。また、主人公の行動規範がその多くを宗教に拠っているところ、その上、かつて十字軍遠征に参加し、さまざまな人生経験を経て世俗にも通じている人情家であること、こういう非常に単純で分かりやすいキャラクターを修道士をいう中立的な立ち位置に据えたアイデアは秀逸です。

『修道士カドフェルの出現』エリス・ピーターズ 光文社文庫




死体が多すぎる ―修道士カドフェルシリーズ(2) (光文社文庫)死体が多すぎる ―修道士カドフェルシリーズ(2) (光文社文庫)
(2003/03/12)
エリス・ピーターズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『砂漠のゲシュペンスト』 フランク・シェッツィング ハヤカワ文庫NV

2013-05-22

Tag :

☆☆☆

1991年、湾岸戦争の末期、三人の傭兵がクウェートの砂漠で戦闘機に襲われ、瀕死の状態に陥った仲間を二人が置き去りにした。そして8年後、ケルンで青果店を営むエスカーの惨殺死体が発見され、メネメンチ警視正が捜査を開始する。その二日後、女性探偵ヴェーラの事務所にバトゲという男が現われ、旧友のマーマンを探して欲しいと依頼する。バトゲは、マーマンに見つけられるよりも先に彼を探し出したいと望んでいた…… 内容紹介より



ドイツ・ミステリです。ドイツ語でゲシュペンストとは亡霊という意味だそうです。読んでいる途中、プロローグにおいて、クウェートの砂漠地帯で三人の傭兵が遭遇した出来事とそれに続く事件のあらましが明らかにされている点が、かなりネタバレではないのかと思ったのと、ヒロインと依頼人とのロマンスが余計なんじゃないかと感じたのですが、どちらもストーリー上、重要な前振りと伏線になっており欠かせないものでした。湾岸戦争に絡めた、マスメディア論とネット社会論がひとつのテーマとしてミステリ作品にしては声高に言及されているのですけれど、なんと言ったらいいか、それが講釈っぽくてややうざいのです。事件を捜査する警視正の犯罪心理学についての長いモノローグもそうですが、登場人物たちがどいつもこいつも理屈っぽく、そこらがミステリの流れに融合せず、話のなかで浮いているような気がしました。ただ、訳者の北川和代氏が訳者あとがきで触れているように、本書は1997年に発表されているので、作者がこれらについての問題意識をかなり先取りしていたのは事実です。




砂漠のゲシュペンスト〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)砂漠のゲシュペンスト〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)
(2009/08/20)
フランク・シェッツィング

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砂漠のゲシュペンスト〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)砂漠のゲシュペンスト〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)
(2009/08/20)
フランク・シェッツィング

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『鉄の薔薇』 ブリジット・オベール ハヤカワ文庫HM

2013-05-19

Tag :

☆☆☆

東西の壁が崩壊したあとナチの残党が暗躍するヨーロッパ。表向きは国際経営コンサルタント、裏ではプロの銀行強盗という二重生活を営むジョルジュは、銀行を襲うべく訪れたブリュッセルの街で、ジュネーブの自宅にいるはずの愛妻が他の男と腕を組んで歩いているのを見かける。その瞬間から、彼は思いもよらぬ謎の世界に巻き込まれ、命を狙われていく……。虚実ないまぜのスピーディなストーリー展開で一気に読ませる快作 内容紹介より



主人公が理由もわからぬまま、突然、強盗仲間から命を狙われ始めたり、妻が関わっている正体不明の男たちから追われたりして、アクションシーンを交えつつヨーロッパ各地を駆け巡る本書は、サスペンス・ミステリとともに冒険小説の色合いも濃い作品になっています。序盤は内容紹介の言葉通り、「スピーディなストーリー展開で」サクサク読めたのですが、中盤辺りから似たような出来事の繰り返しで気分がダレてしまいました。というのも、愛妻の不可解な行動について、主人公が彼女に面と向かって問いただそうともしないため、五里霧中で謎がいつまでも解明されないためでしょう。妻と瓜二つの別人である可能性が残っていた頃ならまだしも、妻も自らの行動が夫にバレているのに気がついているにもかかわらず、お互いに表面上は何事もなかったかのように普段の生活を続けるところはあまりに現実離れしている感じがありました。それから、冒険小説から感じられる非日常性とそれにともなう開放感が阻害される大きな原因は、主人公が出来事、事件に遭った度毎に、まるでサラリーマンの如く毎度毎度妻の待つ自宅へ帰るからじゃないでしょうか。冒険の旅に出た勇者の帰還は一度で充分。

『死の仕立屋』ブリジット・オベール ハヤカワ文庫HM




鉄の薔薇 (ハヤカワ・ミステリ文庫)鉄の薔薇 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(1997/10)
ブリジット・オベール

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ホワイト・ティーは映画のあとで』 ローラ・チャイルズ RHブックス・プラス

2013-05-16

☆☆

レッドカーペットを歩く、華やかなドレスに身を包んだセレブたち ― 歴史あるベルヴェデーレ劇場で、映画祭が開催されることに。多数の有名人が招かれ、いよいよ開幕式がはじまった。ところが、映画ファンが心躍らせて見守る中、大物監督が舞台上で何者かに殺されてしまった!衆人環視の中の犯行にもかかわらず、唯一の手がかりはセオドシアの目撃証言だけ。連日のティー・パーティで大忙しなのに、セオドシアは探偵役を引き受けることになってしまい!? 内容紹介より



〈お茶と探偵9〉。
クリスマスやハロウィーンのみならず、その他各種イベントも大好きなコージー・ミステリにあって、本書のように映画祭も題材によく取り上げられる催し事の一つです。今回、犯行の模様が舞台上のスクリーンに影として映り、それを観客が観ているなか、サメ撃退用のスタンガンに改造を施したものを凶器に使って、犯人は凶行に及ぶという、ショッキングな出だしで始まります。しかも、その後、逃走する犯人にドレイトンが襲われるというアクシデント付きです。そこで気になるのは、多くの人の目のある舞台上で犯行に及んだということは、一見、衝動的な殺人に見えますが、改造した凶器を用意して使用したということは計画的な犯行にも思えるわけで、ならなぜわざわざ衆人環視の場を犯行現場に選んだのか、その理由を説明する必要があったのではないのかと。そもそも犯人に襲われ出血して倒れていたドレイトンの件や交霊会での幽霊騒動も読者の興味をひくためだけの場当たり的なエピソードに過ぎず、プロットには何の貢献もしていないと思います。それから、犯行動機のひねりの無さも問題ですが、常人の面を見せる犯人が異常性を垣間見せる伏線は、ミステリの質を高めるうえにおいてはどうしても必要だったのではないでしょうか。

ユーザータグ:ローラ・チャイルズ




ホワイト・ティーは映画のあとで (お茶と探偵 9) (RHブックス・プラス)ホワイト・ティーは映画のあとで (お茶と探偵 9) (RHブックス・プラス)
(2010/06/10)
ローラ・チャイルズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『キロ・クラス』 パトリック・ロビンソン 角川文庫

2013-05-14

Tag :

☆☆☆

アメリカ海軍は、中国がロシアにキロ級潜水艦を十隻発注したとの情報を入手した。動力に原子炉を用いないキロ級は、無音で移動し察知されることなく大型空母、原潜に近づくことができる。もし中国がキロ級を台湾海峡に配備すれば、アメリカの空母は締め出され台湾の運命が危うくなる。アメリカ海軍は秘密裏に輸送途上のキロ級をすべて撃沈するという非合法作戦の実施に踏み切るが……。米中露三大国の野望が交錯する本格海洋軍事スリラー登場! 内容紹介より



中国がロシアに発注し、まだ届いていない七隻のキロ級潜水艦をターゲットに破壊活動を行うアメリカ海軍の非合法作戦、南極圏の島で消息を絶ったアメリカ船籍の海洋調査船とそれに絡む台湾の極秘活動、この二つが柱となってストーリーが展開していきます。キロ級潜水艦は三回に分けて輸送され、これにたいしてアメリカ海軍は原子力潜水艦で二回、特殊部隊で一回の攻撃を作戦中に仕掛けます。つまり、特殊部隊の回を挿むことで目先を変えているけれど、原潜の回は重複してしまっているわけです。しかも、敵側から原潜への攻撃や潜水艦戦もないので盛り上がりに乏しい感じがしました。また、実際に優秀な軍人、特に高級将校という存在は訓練や教育、軍規などの淘汰圧みたいなことがかかると均一化するものなのかもしれませんが、人物造形の類型化が目立って、そこらは作品の質をいまいちにしている部分かもしれませんし、これが今後続けば読者の「飽き」に繋がってしまうでしょう。想像ですが、この作者の他の作品には、きっとブーマー中佐のクローンのような人物が登場しているはずです。

『ニミッツ・クラス』パトリック・ロビンソン 角川文庫




キロ・クラス (角川文庫)キロ・クラス (角川文庫)
(2002/02/22)
パトリック・ロビンソン

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『ハリウッド警察25時』 ジョゼフ・ウォンボー ハヤカワ・ミステリ

2013-05-10

Tag :

☆☆☆☆☆

この街の大通りは、いつも光に満ち溢れている。蛍光灯やネオン、ヘッドライトやテールライト、空へむかって放たれているさまざまな光の反射などが、入り乱れ、重なり合い、洪水になって「ここがハリウッドだ!」と宣言している。その中を、今夜もパトロールカーが行く。待ち受けるのは、麻薬、売春、喧嘩、窃盗、殺人……警官ひとすじ勤続五十年のベテラン警官を中心に、サーファー警官、若きママさん警官、超映画マニア警官、金持ちのボンボン警官ら個性豊かな面々が、毎晩のように起きる事件に立ち向かう。警官出身の巨匠が久々に放つ話題作 内容紹介より



以前読んだ『デルタ・スター刑事』同様、エド・マクベインの87分署シリーズが好きなわたしにとってはとても面白く読むことができました。ただ、同じモジュラー型の様式でも、87分署シリーズのいくつかの作品に見られるメインの事件と一見無関係に見えるその他の事件との関連性が、本書でも同様の仕掛けはしてありますが、さほど印象に残りませんでした。この点はマクベインの鮮やかな手並みとはちょっと違うところです。テレビ局による警察を密着して取材したドキュメンタリー番組みたいな邦題のように、パトロール警官たちが勤務中に遭遇する大小さまざまな事件や人間臭い犯罪者たちを取り上げ、彼らが味わう苦労や喜怒哀楽をユーモアを交えつつリアルに描き出しています。それは作者自身も同じくパトロール警官の経歴を持っているからでしょうし、彼らをネガティブに描かないのは、警察官に対する仲間意識と親愛の情、その仕事への敬意があるからだと思います。そういうことが感じ取れるため、読後感がとても爽やかです。
女性警官が勤務中に暴行され、その犯人を逮捕する際に過剰な暴力で負傷させた同僚警官がメディアなどからの非難を受けそうな状況にある中、ハリウッド署のパトロール警官たちの精神的支柱ともいえるベテラン巡査部長ジ・オラクルが夜勤に就く部下を前にして言った言葉、「おまえたちがつけているバッジは、世界でいちばん美しく有名なバッジだ。多くの警察がそれをまねしたり、うらやましがったりしているが、おまえたちはほんものをつけている。批評家や政治家やメディアの連中からいろいろ言われても、おまえたちのバッジは変わりはしない。(中略)警官としてちゃんと仕事をすることは、最高に楽しいことだ。人生でいちばんの楽しみを見つけられる。だから、今夜も外へ出て行って、楽しんでこい。」(p201)。ここが作者の気持ちがよく表されている箇所なのではないでしょうか。

『デルタ・スター刑事』ジョゼフ・ウォンボー 早川書房




ハリウッド警察25時 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)ハリウッド警察25時 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
(2007/08/08)
ジョゼフ・ウォンボー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ダーク・シャドウ 血の唇』 マリリン・ロス 扶桑社ミステリー

2013-05-08

Tag : ホラー

☆☆

米国メイン州の海辺に広大な敷地や屋敷を持つコリンズ一家。独立戦争前から長い歴史を誇るこの家には、無数の伝説や幽霊話が残されていた。ある日、古い詩が財宝の在りかを示す手掛かりだと考えた使用人ウィリーは謎の棺を見つけた。だが、そこには二百年前から封印されていた吸血鬼が眠っていた!時代を超えて復活した謎の吸血鬼はコリンズ家の人々に何をするのか?ジョニー・デップとティム・バートンが子供時代から憧れて完全映画化した伝説のロマンティック・ホラーの原点が、ついに登場! 内容紹介より



1960年代後半から1970年代前半までアメリカで放送されていた人気ソープオペラをもとにし、その小説版を書いていたマリリン・ロスが、1970年にドラマの総集編映画〈血の唇〉をベースに執筆した作品が本書なのだそうです。いわゆるノベライズみたいなものなのでしょうし、読んでみると深みのない文章がまさしくそんな感じがしました。わたしのように“ティム・バートン”という名前に惹かれて読んでみようかと思っている方は、思いとどまったほうが無難でしょう。
四十年前のアメリカおいては、ヴァンパイアという外来生物が一般に認知されていなかったのか、本書ではその習性(太陽光が苦手なため夜行性である)、嗜好環境(断崖絶壁に建つ古屋敷、棺)判別方法(鏡に姿が映らない)、忌避物質(ニンニク、十字架)、駆除方法(銀の銃弾、杭)などが懇切丁寧に説明してあります。しかし、今更ながらという感じも大いにするわけでして、ヴァンパイアを根本治療する部分以外は従来のフォーマットの使い回しにすぎません。2012年公開の映画『ダーク・シャドウズ』からの派生人気を狙って出版されたものなのでしょう。

ユーザータグ:ホラー




ダーク・シャドウ 血の唇 (扶桑社ミステリー)ダーク・シャドウ 血の唇 (扶桑社ミステリー)
(2012/05/18)
マリリン・ロス

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『ある殺意』 P・D・ジェイムズ ハヤカワ文庫HM

2013-05-06

Tag :

☆☆☆

ある秋の晩、ロンドンのスティーン診療所の地下室で、事務長のボーラムの死体が発見された。彼女は心臓をノミで一突きされ、木彫りの人形を胸に乗せて横たわっていた。ダルグリッシュ警視が調べると、死亡推定時に、建物に出入りした者はなく、容疑者は内部の者に限定された。尋問の結果、ダルグリッシュはある人物の犯行と確信するが、事件は意外な展開を……現代ミステリ界の頂点に立つ著者の初期の意欲作。改訳決定版 内容紹介より



本書は著者の長篇二作目にあたるそうです。
真面目だけど融通がきかず、決して職員に人気があったわけではない中年で独身の女事務長が診療所のなかで刺殺体で発見された。特に強い動機をもつと思われる容疑者は、彼女に浮気を妻に告げ口された精神科医とその愛人だった心理学者。彼女の高額な遺産の受取人である病弱な母親を抱える従妹(看護婦)。そして、診療所内部で起きている何らかの問題について、事件当日、被害者は病院管理委員会の事務局長に面会する予定だった。
P・D・ジェイムズの作品だということで心構えをしていましたけれど、ページ数も少なく、診療所が舞台とはいえ主だった登場人物に奇人変人やアクの強い人物は見当たらず、それらの相関関係も絡み合っているわけでもないので、読後の印象としてはあっさりした感じがしました。ある一つの犯罪をミスリードに使って、真犯人登場を効果的に盛り上げる趣向は、さりげなくて巧いし、こういう一手間をかけるというのは出来そうで出来ないのじゃないかと思いました。較べるのもなんですが、多くのコージー作品はこの一つ前で終わってしまってるのですね。




ある殺意 (ハヤカワ・ミステリ文庫)ある殺意 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(1998/08)
P.D. ジェイムズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『消された時間』 ビル・S・バリンジャー ハヤカワ文庫HM

2013-05-03

Tag :

☆☆☆

私は運がよかった。救急車で病院へ運ばれ、一命をとりとめた。ニューヨークの夜の街路に、喉を切られて倒れていたのだという。靴をはいていただけで、あとは裸だった。靴の底には千ドル紙幣が一枚入っていた。しかし私は憶えていない。完全に記憶を失っていたのだ!私は記憶から消された時間を取り戻そうとする。だが、手がかりは千ドル紙幣 一 枚だけ―ミステリ作家中屈指の技巧家が放つ、類い稀な意外性に満ちた傑作 内容紹介より



ストーリーは二つの事件について異なった視点から交互に描かれて進みます。一つは、喉を切られ記憶を失った「私」が語り手となり、自分は一体何者なのかを調べる過程で次々にわき上がる謎について。もう一つは、「私」とまったく同じ状況(喉を切られ、千ドル紙幣を忍ばせた靴だけをはいた全裸の状態)で発見された男の死体を捜査する刑事の視点から。二つの事件の被害者は同姓同名で、身体的な特徴もそっくりであり、発見現場も同じで発見者まで同一人物という奇異な設定です。作者にはこの謎解きを読者に挑む意図を持っているわけです。SFならパラレルワールドでも使って解明したいところですが……。しかし、そもそも読者への挑戦状みたいな文章がなかったので、鈍いわたしには作者のそういう意図が汲み取れず、作品の目玉となるその謎をほとんで意識せずに読み終わってしまいました。これは、第二の事件を捜査する刑事の章が、「私」の語る章に較べて短い上に内容も印象に乏しためだということも原因のような気がします。
さて、作品全体については、冷淡で冷徹な「私」にまったくと言っていいほど感情移入できませんでしたが、なぜこういうキャラクターにしたのかというと、「私」の過去やその正体と整合性を持たせることもさることながら、愛してもいない女性の身の安全のため、これまで「私」が価値があると思っていたものを捨てる際に、(p227~p228にかけての「私」の傍白に認められる、)女性が見せてくれた別の世界、それは「男が魂の荒野に一人住む必要のない世界」があることに気付いた「私」の心の変化を際だたせるためだったのではないでしょうか。




消された時間 (ハヤカワ・ミステリ文庫 59-1)消された時間 (ハヤカワ・ミステリ文庫 59-1)
(1978/08)
ビル・S・バリンジャー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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てんちゃん1号

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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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