『風の影』 カルロス・ルイス・サフォン 集英社文庫

2013-06-26

Tag :

☆☆☆

1945年のバルセロナ。霧深い夏の朝、ダニエル少年は父親に連れて行かれた「忘れられた本の墓場」で出遭った『風の影』に深く感動する。謎の作家フリアン・カラックスの隠された過去の探求は、内戦に傷ついた都市の記憶を甦らせるとともに、愛と憎悪に満ちた物語の中で少年の精神を成長させる…。17言語、37カ国で翻訳出版され、世界中の読者から熱い支持を得ている本格的歴史、恋愛、冒険ミステリー。 上巻内容紹介より



本書は内容紹介のとおり多くの高い評価を得た、そして商業的にも成功した作品みたいです。

以下、ネタバレ気味です。未読の方はご注意下さい!
また、この作品のファンの方にとっては不愉快な内容かもしれません。ご注意下さい!!


フリアン・カラックス作の『風の影』のあらすじをダニエル少年から聞いたある登場人物が言ったように、三文小説とまでは言わないまでも、本作品も悲恋を扱った単なる大時代な恋愛小説に過ぎないのではないでしょうか。そもそもフリアンの悲恋の素となる問題自体がキリスト生誕以前の古代からあるもので、古今のあらゆる芸術のテーマになっているものです。それをまたぞろ考古学博物館から仰々しく持ちだされてもという気もします。叶わない一途な想い、哀れな女、報われぬ恋心、といった悲劇の恋愛話を一つ用意し、それをトレースするような似た話をもう一つ設けて、作品全体が湿っぽいだけで終わらないようにする手法(人口に膾炙するハッピーエンドにするテクニック)を採っているのは賢い選択だと思います。しかし、主人公のひとりであるフリアンは関わる人間すべてを不幸、あるいは不運に陥れる精神的疫病神そのものだし、もう一人の主人公ダニエルはただのぼんくらにしか見えない。ダニエルをはじめとして友人や女性をこれほどまでに惹きつけたフリアンの魅力とはいったい何なのかがちっとも感じ取れなかった。それと関連して、主人公ふたりそれぞれをめぐるエピソードが偏っていること、特に、時間経過を端折ることからくる少年時代および友人関係のエピソード不足、キャラクターの肉付け不足があるように感じました。




風の影 (上) (集英社文庫)風の影 (上) (集英社文庫)
(2006/07/20)
カルロス・ルイス・サフォン

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風の影 (下) (集英社文庫)風の影 (下) (集英社文庫)
(2006/07/20)
カルロス・ルイス・サフォン

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『大列車強盗』 マイクル・クライトン ハヤカワ文庫NV

2013-06-21

☆☆☆☆

時は1850年代、折りしも勃発したクリミア戦争が、謎の英国紳士ピアースに世紀の大強盗計画を思いつかせた。前線で戦う英軍兵士の俸給用の金塊一万二千ポンドを、輸送列車からかすめ取ろうというのだ!そのためにピアースが集めたのはロンドン名うての悪党ども。警察や銀行、鉄道会社の警備陣を相手に、彼らが繰り広げる大胆不敵な強奪作戦の成否は?ヴィクトリア朝の風俗を盛りこみながらスリリングに描く大強奪小説 内容紹介より



英国で起きた大列車強盗というと、1963年に起きたロナルド・ビッグズの事件を思い出しますが、本作は1855年のヴィクトリア朝に舞台を置いた犯罪譚です。
著者が本書の前書きにおいて、強盗犯たちの「膨大な裁判記録は、当時の雑誌、新聞記事とともに保存されている。これらの資料をもとにして、次の物語は組み立てられたものである。」と記しているように、実際に起きた事件を物語に仕立てた体であり、本文中にもそれらの資料がたびたび出典付きで引用されています。が、実はそういう体裁を装ったまったくのフィクションなのかもしれません。とにかく非常に真実味のあるものに出来上がっていると思います。
一介の農業国だった英国が、植民地の拡大と産業革命によって世界の覇権を握る大国にのし上がり、ぶいぶい言わせていた頃で、新しい輸送手段として鉄道が急速に発展していた時代に、それに目を付けて犯罪を計画する悪党たちの物語です。ただし、首謀者の男は魅力的な風采で、企画力はもちろんのこと、資金力もある人物に描かれています。彼が金庫破りと組み、各所に厳重に保管されている金庫の複数の鍵を手に入れるために、関係者へ近づいたり、買収したり、屋敷や事務所に忍び込んだりする部分がストーリーの主軸となって展開していきます。これにしばしば挿まれる歴史や時代背景が詳しく語られたり、説明されたりするのもこの作者らしいところです。

ユーザータグ:マイクル・クライトン




大列車強盗 (ハヤカワ文庫 NV 256)大列車強盗 (ハヤカワ文庫 NV 256)
(1981/07)
マイクル・クライトン、乾 信一郎 他

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『断崖の骨』 アーロン・エルキンズ ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2013-06-18

☆☆☆

楽しいはずの新婚旅行がだいなしだった。新妻のジェリーとイギリスの片田舎を訪れたギデオン・オリヴァー教授は、またもや事件にまきこまれてしまったのだ。見学先の博物館からは貴重な古代人の骨が盗まれ、つづいて旧友が発掘中の遺跡で殺人が……アメリカの名高きスケルトン探偵ギデオンが「正統的英国の殺人」の謎に挑戦する推理と冒険のシリーズ第四弾 内容紹介より



海外ミステリの初級者用テキストに最適なスケルトン探偵シリーズ。今回は特に伏線が目に付きやすく、先読みしやすかったのでした。もうちょっと歯ごたえがあっても良かった気がします。でも、たまには肩の凝らない、眉間にしわを寄せないで読める作品も必要なのです。
新婚旅行で英国ドーセットを訪れたギデオン夫妻、いちゃいちゃしていて微笑ましい限りです。ドーセットと言えば、化石ハンターとして有名なメアリー・アニングの生誕地なので、本書でも名前が出てくるのですが、たったの一回だけというのは残念。まあ、彼女が見つけたのは古代人の骨ではないのでしかたありませんけれど、著者は取材旅行をしているみたいなので、土産話で彼女の生家の様子でも書いて欲しかったところです。それから、考古学者は一般に人骨についての形質的な知識に長けているわけではない、というのは意外に感じました。

ユーザータグ:アーロン・エルキンズ




断崖の骨 (ミステリアス・プレス文庫)断崖の骨 (ミステリアス・プレス文庫)
(1992/03)
アーロン・エルキンズ

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断崖の骨 (ハヤカワ・ミステリ文庫)断崖の骨 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2006/09)
アーロン・エルキンズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ラスト・ショウ』 クライヴ・バーカー 集英社文庫

2013-06-15

Tag : ホラー

☆☆☆

天才奇術師が短剣の串刺しになって死んだ。遺書には、遺体を誰にも渡さず、火葬に付すように、とある。地獄との契約を愚弄した彼は、悪魔たちの復讐を恐れていたのだ。美貌の未亡人の依頼を受けて、ハリー・ダムーアは遺体に付き添った。うろこ状の体をぎらつかせ、脂にまみれた尻尾を引きずりながら、ハリーを襲う化け物たち。肉が裂かれ、血しぶきが上がる!見るもおぞましい悪魔軍団とハリーの壮絶な戦いが始まった。《血の本》全六巻のラストを飾る表題作、生と死の逆転劇を用いて真の倒錯を描いた「死は生なればなり」ほか三篇、および「血の本」を収録。 内容紹介より



血の本[Ⅵ]

「死は生なればなり」
子宮摘出手術後、うつ状態に陥っていたヒロインは、古い教会の取り壊し現場で出会った男に地下埋葬所の存在を知らされる。ある夜、彼女は好奇心に駆られ、地下埋葬所の内部へ入り込み、かつて起きた大きな厄災の犠牲となったとおぼしき数多くの屍体を目にする。その日以来、彼女の心と身体に大きな変化が起きると共に、職場の同僚たちが次々に病死していることを知る。彼女は自分が死神の子を宿しているのだと気付くのだが……。どうして彼女の役割をわざわざ殺人鬼に交代させたのかと思ったのですが、殺しに長けた者の方が死を量産するのに効率が良いからなのでしょうか。

「侵略者の血を」
地下資源を目当てに南米のジャングルの土地を買い取った西洋人三人は、そこに代々住み着いているインディオたちを立ち退かせようとするが、誤ってインディオの子供を射殺してしまう。呪詛を唱える長老の手に触れられた一人は、やがて全身に激痛が走り、もろくなった皮膚のあらゆるところから出血し始める。原住民、超自然、アウトサイダーで出来上がる三題噺。

「血脈のトワイライト・タワー」
西側への亡命を企てるKGB高官ミロネンコに接触した英国情報部員バラード。彼とは別にミロネンコの身辺を探っていた彼の直属の上司が謎の事件に巻き込まれ、彼にも情報部から圧力がかけられる。やがてバラードは猛烈な頭痛とある音に襲われるが、それと拮抗するように内なる声が聞こえ始める。ミロネンコに呼び出された彼はそこでKGBの殺し屋の血にまみれた惨殺体を目にする。なんでまたエスピオナージと人獣伝説をミックスしようなどと考えたのでしょう。

「ラスト・ショウ」
奇術師の遺体を巡っての悪魔たちと探偵および使用人の闘い。探偵より使用人のほうが活躍してます。映像化されたら面白そうな作品です。

「血の本」
《血の本》シリーズ全体のプロローグとエピローグで、収録されている各作品は、偽霊媒師の少年の皮膚に死者たちが書き刻んだ物語である、という経緯が述べられています。これが結構じわりと怖いかも。

『セルロイドの息子』
『ゴースト・モーテル』
『ヘルバウンド・ハート』




ラストショウ 血の本(6) (血の本) (集英社文庫―血の本)ラストショウ 血の本(6) (血の本) (集英社文庫―血の本)
(1987/11/20)
クライヴ・バーカー、矢野 浩三郎 他

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『妻を殺したかった男』 パトリシア・ハイスミス 河出文庫

2013-06-13

Tag :

☆☆☆

結婚四年目になる弁護士ウォルターと妻クララの間にはすでにすきま風が吹いていた。夫婦喧嘩の末クララがおこした自殺未遂に嫌気のさしたウォルターはある新聞記事を思い出した。妻殺しをうまくやってのけたとおぼしい男の記事を……。『太陽がいっぱい』、『見知らぬ乗客』の原作者、サスペンスの巨匠パトリシア・ハイスミスの初期傑作長篇! 内容紹介より



本書は長編第一作の『見知らぬ乗客』に続く長編第二作目にあたるそうです。
勧善懲悪的単純なプロットを否定しがちなパトリシア・ハイスミスの作品には、読まず嫌い的な非常に苦手意識を持っていたため、 いままでに読んだ彼女の作品は二、三作に過ぎないのですが、作品のすべてがそういうものでもないだろうという予測を持って手にとった本書は、そういう思いをあざ笑うかのようにものすごく苦くて容赦の無い物語でした。読後に気持ちよくならないことは保証します。
世間体を気にする小市民的な主人公と、その彼を自分のコントロールの下に置きたいと思っているけれど、決して夫を愛しているとは言い難い妻。物語はその妻の死によって、スノッブな夫が妄想をきっかけに次第に底なし沼にはまっていく救いようのない様を描いています。ただ、若干、夫婦の齟齬について説明不足のような気はしましたし、自分勝手な主人公はもっと嫌味な人物に描いてもよかったような、また、後半しばらくの間、同じ事の繰り返しに感じて飽きてしまいました。まあ、どこにでもいる普通の人物が、ちょっとした何かのはずみで人生が下り始め、徐々に加速度的に奈落への道を辿ってしまうという軌跡を超シニカルに描いた作品なのではないでしょうか。

『見知らぬ乗客』パトリシア・ハイスミス 角川文庫




妻を殺したかった男 (河出文庫)妻を殺したかった男 (河出文庫)
(1991/06)
パトリシア・ハイスミス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『非情の日』 ジャック・ヒギンズ ハヤカワ文庫NV

2013-06-11

Tag :

☆☆☆☆

銃器密輸のかどで留置された元英国情報部の精鋭サイモン・ヴォーン少佐。釈放を条件に彼が情報部から要請されたのは至難の任務だった。IRAの一派に奪われた50万ポンドの金塊の行方を追えというのだ。件の一派より取引の打診を受けた武器商人はヴォーンの旧友マイヤー。ヴォーンはその代理人になりすまし、過激な武装集団の只中へ単身潜入を果たす。が、行手にはIRAの熾烈な内部抗争が招く殺戮と陰謀の嵐が待ち受けていた!硝煙に煙るアイルランドを舞台に、『裁きの日』の主人公ヴォーン以下、多彩な登場人物を配して描く傑作冒険ロマン! 内容紹介より



本書は272ページで『死にゆく者への祈り』とほぼ同じくらい、『脱出航路』や『鷲は舞い降りた』の大作に比べるとかなり枚数が少ない作品です。また、内容的にもこじんまりとまとまった印象がしました。プロットは機略謀略に富むとか裏切りに次ぐ裏切りとかどんでん返しの連続とかというより、古き良き時代の冒険小説らしい懐かしさを覚えるかなりストレートなものです。また、女子供を含む民間人がテロの犠牲者になることの問題、闘争上のモラルをことさらに取り上げることのできた時代設定でもあり、現代のテロを主題にした多くの作品とは異なった一面を備えていると思います。
母親がアイルランド人で、IRAの伝説的な闘士であった叔父を持つ主人公はIRA内の穏健的な主流派グループに潜入し、イギリス軍の目を逃れながら奪われた金塊の行方を追う内に、武装闘争を目指す急進派グループと対決せざるを得ない状況に陥ります。登場人物たちのキャラがいずれも型にはまっているなかで、特に敵方のボスの造形が浅薄なのに対し、IRAの青年兵士のそれはものすごく青臭さを放ちながらも、感傷的な手向けの言葉とともに印象に残るものでした。

『ヴァルハラ最終指令』ハリー・パタースン ハヤカワ文庫NV




非情の日 (ハヤカワ文庫 NV 362)非情の日 (ハヤカワ文庫 NV 362)
(1984/09)
ジャック・ヒギンズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『花崗岩の街』 スチュアート・マクブライド ハヤカワ・ミステリ

2013-06-08

Tag :

☆☆☆☆

凶悪犯に腹をめった刺しにされて一年間休職したローガン・マクレイ部長刑事が復帰早々に遭遇したのは、寒風吹き荒ぶ水路に浮かぶ、幼児の無残な死体だった。あまりにもむごい光景にローガンの傷ついた内臓はよじれそうだった。これをきっかけにしたように、街では幼児が次々に姿を消す。おぞましい連続殺人鬼が徘徊しているのか?警察は批判の矢面に立たされ、さらには内部の何者かが情報を新聞社にリークしている。いきなり捜査の最前線に投げ込まれたローガンは苦戦を強いられるが……英国ミステリ界に颯爽と登場した新星、堂々のデビュー作 内容紹介より



以下、ネタバレしています。ご注意下さい!!

「花崗岩の街」とも呼ばれるスコットランドのアバディーン市を舞台にした警察小説です。総じて良く出来た作品であり、デビュー作でこれほど完成したものを書ける作者には感心させられました。このジャンルに久々に現れた逸材かもしれません。が、しかし、フィクションとはいえ幼い子供が何人も凶悪な犯罪の犠牲者になっている設定には胸が悪くなります。発生した三つの事件のそれぞれに犯人が異なるということが気分の悪さにさらに拍車をかけているわけで……。その点を考えてみると、時を同じくして同年齢の幼児の遺体が次々に発見されるというのは、ストーリー上都合が良すぎるのではないかと。また、登場人物たちの関係が狭い範囲で繋がりすぎているような気もしてそこも不自然さを感じました。それからもうひとつ、いくら主人公でもひとりで手柄を立て過ぎなんじゃないでしょうか。
とはいえ、冷たい雨が降り続く陰鬱な灰色の街で起きた陰惨な事件にもかかわらず、全体の雰囲気が軽くて明るくバランスがとれているのは、二人の女性の間で心が浮き沈みする、このPTSDの兆候がみじんも見られない主人公のおかげなのです。シリーズ化されているようなので、以降の作品も是非邦訳してもらいたいものです。




花崗岩の街 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)花崗岩の街 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
(2006/03/15)
スチュアート・マクブライド

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『夜は千の目を持つ』 ウィリアム・アイリッシュ 創元推理文庫

2013-06-06

Tag :

☆☆☆☆

星のふる晩。青年刑事ショーンは、川に身を投げようとしている娘を救った。彼女の父親が死を予言されたというのだ。獅子が死をもたらすという予言だった。予言者は、今まで正確きわまりない予言をしてきた謎の人物で、父親は自分の死を、時計の針をじっと見つめ、恐怖におののきながら待っているだけだという。父親は実業家で財産家だった。犯罪計画の匂いがありはしまいか?警察の捜査活動が開始された。謎の予言者の正体は?獅子とは?サスペンス小説の雄アイリッシュの真骨頂を示す不朽の名作。 内容紹介より



ウィリアム・アイリッシュが綴る文章や文体は管弦楽のようなものかもしれません。ほとばしる言葉と装飾過多に思える表現に圧倒され気味ですが、注意して読んでみると、交響曲の楽譜(あくまでもイメージです)みたいにとても緻密で繊細に計算され、構成されていることに気づきます。例えば、予言者の元へ足繁く通う父親を車内で待つ娘がまとう短コートの色の変化で時間の経過にアクセントをつけているところ、屋敷内で行なっているルーレットに賭ける品が、次第に金銭以外のものになっていくにつれ緊迫感が高まっていくシーンなど。
テーマはベートーヴェンの楽曲と同じく「運命」を取り上げ、三週間後の死を予言された実業家、それを苦に自殺しようとした彼の娘、偶然、彼女を助けた刑事、そして予言者の男が登場します。このサスペンス小説の際立った特色は、予言、予言者という超自然的なものへ、しかも予言「ライオンの口で死を迎える」の結果が明らかになる前に警察の捜査が始まっていることです。刑事たちは文字通りデッド・リミット前に、予言者の企み、彼が言い当てた父娘しか知らない事実と次々に的中したこれまでの予言に隠されたトリックを明らかにしようと奔走しますが……。タイトルのように、夜空にまたたく星々がこの身に起きる運命を冷酷にじっと見透かしている目に見えてくる作品でした。

『黒いカーテン』 ウィリアム・アイリッシュ 創元推理文庫
『暁の死線』ウィリアム・アイリッシュ 創元推理文庫




夜は千の目を持つ (創元推理文庫 M ア 1-4)夜は千の目を持つ (創元推理文庫 M ア 1-4)
(1979/07)
ウィリアム・アイリッシュ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ハローサマー、グッドバイ』 マイクル・コーニイ 河出文庫

2013-06-04

Tag : SF

☆☆☆☆☆

夏休暇をすごすため、政府高官の息子ドローヴは港町パラークシを訪れ、宿屋の少女ブラウンアイズと念願の再会をはたす。粘流(グルーム)が到来し、戦争の影がしだいに町を覆いゆくなか、愛を深める少年と少女。だが壮大な機密計画がふたりを分かつ……少年の忘れえぬひと夏を描いた、SF史上屈指の青春恋愛小説、待望の完全新訳版。 内容紹介より



1975年に発表された作品。主人公が少年であり、かつ語り手であること、また、成長小説的な内容でもあり、読みやすいこともあってヤングアダルトっぽい感じがしました。主人公は反抗期の真っただ中で、頭の中の大部分を占めているのは去年の夏に港町で出会った少女のことです。彼はいよいよ彼女と再会する時が来ても、意識しすぎて会話はおぼつかなく、ぎこちない態度をとってしまう有様です。読んでいて微笑ましくも青春恋愛小説としては並の展開でしかありませんが、ここで気を抜いてしまうとその後の流れに驚かされます。一見、ヤングアダルト風青春恋愛友情物語を装ってはいますけれど、中盤から徐々に、そして終盤にかけて非常に内容はシビアになっていきます。例えば、少年が恋する純真な女の子が嫉妬を覚え、やがて少女から女になっていく過程や別の少女のイメージの変化とラスト部分の劇的な変わり様。これは他の主要登場人物たちにもいえることで、皆それぞれ時々によって多面的な性格付けをなされ、敵味方、悪人善人という一面的な描き方、または画一的な分け方をしていません(但し、主人公の母親だけは終始どうしようもないスノッブな人物としか描かれていない)。物語が進むにつれ主人公の少年(読者)が見たいと思っている面以外に、決して見たくない面も作者は容赦なく見せているような印象を受けました。爽やかななかに英国文学らしい残酷さを充分含んだ作品だと思います。




ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)
(2008/07/04)
マイクル・コーニイ

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テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

『シャーロック・ホームズの愛弟子』 ローリー・キング 集英社文庫

2013-06-02

Tag :

☆☆☆

メアリ・ラッセルがシャーロック・ホームズに初めてあったのは、1915年、サセックスの丘陵でだった。そのときメアリは15歳。ホームズはすぐに彼女の優れた資質を見抜き、探偵に必要なことを教えこむ。それはメアリが成長して、オックスフォードで学ぶようになっても続いた。当時、ホームズはロンドンを離れ、のんびり養蜂業を営んでいたが、またもや難解な事件が起こる。すぐさまメアリの修業の成果が問われたが…… 内容紹介より 



山田久美子氏の訳者あとがきでには〈メアリ・ラッセル〉シリーズとありますが、本書の後に集英社文庫から出版された六作品には〈シャーロック・ホームズの愛弟子〉というサブタイトルが付いています。
一応、語り手がワトスンからメアリ・ラッセルに代わったホームズ・パスティーシュなのでしょうけれど、ホームズとふたりで関わった事件の美味しいところをヒロインが最後に持って行ってしまう特徴を備えている作品です。出会った途端にホームズも認めるほどの優秀な頭脳をもった15歳の少女は、彼女に起きた家族にまつわる不幸な出来事のせいもあるのか、非常に独立心が旺盛で勝気な性格をし、パートナーとして成長するにつけホームズと対等にやりあったり、ときにはやりこめたりする強いキャラクターです。そのキャラクターとともに、四十歳ほどあるホームズとの年齢差を後に持ちだして、彼の身体的衰えを匂わせる描写が個人的に少々癪に障りました。
物語はいくつかの事件を経て、モリアーティ教授に勝るとも劣らない、強大で奸智にたけた敵との対決へと続いていきます。

『捜査官ケイト』ローリー・キング 集英社文庫
モリアーティ教授を主人公にした作品、
『千里眼を持つ男』マイケル・クーランド 講談社文庫




シャーロック・ホームズの愛弟子 (集英社文庫)シャーロック・ホームズの愛弟子 (集英社文庫)
(1997/06/20)
ローリー・キング

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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