『モンマルトルのメグレ』ジョルジュ・シムノン 河出文庫
2014-01-27
- Category : ☆☆☆☆
Tag : ジョルジュ・シムノン
酔っぱらって警察に現われた踊り子アルレットがしゃべったことは出たらめではなかった―彼女は自宅で絞殺死体となって発見され、彼女が殺されると予告した伯爵夫人も、同じ手口で……。彼女が口にしたオスカルとは何ものか。アルレット-オスカル-伯爵夫人を結ぶ線は?モンマルトルを舞台に、司法警察の捜査網は謎の男オスカルをしだいに追い詰めていく……。 内容紹介より
働いている店で偶然、客同士が話している犯罪計画を耳にしたと、ひとりの踊り子が警察署に訪ねてくる。オスカルという男がある伯爵夫人の宝石を狙っているのだという。供述はとったものの、酔いが覚めると彼女はあやふやな態度に変わってしまう。しかし、その後、彼女は自宅で殺され、さらに供述通りの殺人事件が起きたことが分かる。ストーリー展開が少々異質なのは、オスカルなる犯罪者を捜す話とは別に、端役だと思っていた踊り子に焦点が当てられている点で、偽の身分証と偽名を使い、男に求められれば身体を許しながら、心は開かず秘密を持ち、若いのにもかかわらず人生を諦観している雰囲気を醸しだしている。彼女の本来の姿が徐々に明らかになっていく話が本書の核になっていると思います。しかし、すべてを明らかにするのではなく、彼女と殺人者の関係など謎のままに終わるところは、これくらいのページ数であるメグレ警視・シリーズらしい巧い絶ち方だなと感じました。バーで待機するメグレのもとへ、犯人を捜す刑事たちから次々と電話連絡がある場面は相変わらず臨場感に満ちています。
読み終わった後、記録を見たら、約七年前に本書をすでに読んでいたことが判明しました。それなのにまったく気付かず、初読だとばっかり思っていたことが軽くショックです。
『メグレと老婦人』ハヤカワ文庫
『メグレ、ニューヨークへ行く』河出文庫
『メグレ警視 (世界名探偵 コレクション10)』集英社文庫
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『特捜部Q-Pからのメッセージ』ユッシ・エーズラ・オールスン ハヤカワ・ミステリ
2014-01-20
- Category : ☆☆☆☆
Tag :
「特捜部Q」―未解決事件を専門に扱うコペンハーゲン警察の新部署である。今回「Q」のカール・マーク警部補と奇人アサドのコンビが挑むのは、海辺に流れ着いたボトルメールの謎。ボトルから取り出された手紙には「助けて」との悲痛な叫びが。書き手の名前の頭文字はP。だが手紙の損傷が激しく、内容の完全な解読は難航した。Pはどうやら誘拐されたようだが、過去の記録には該当する事件は見当たらない……。北欧を代表するミステリ賞「ガラスの鍵」賞に輝く著者の最高傑作!人気の警察小説シリーズ、第三弾。 内容紹介より
三作目ですが、相変わらず高いレベルを保っているシリーズです。まず、犯人の造形については、原理主義に凝り固まった宗教家の親による抑圧を少年時代に受け続けた人物という設定を持たせているところは、結構ありがちではありますけれど、生まれつきのシリアル・キラーの設定よりは増しであり、細かなエピソードも犯人の人格形成を描く上で効果的に働き、また犯罪者へと至った彼の不幸を理解させるものになっていると思いました。ストーリーは、ボトルメッセージというロマンチックな形態ながらもメッセージ自体は悲劇的な内容という意外性のある仕掛けで始まり、それが主人公たちの手に届く経緯も一手間掛けて描かれているのはかなり巧みな感じがして、一見荒唐無稽な状況設定にリアリティを持たせる効果を与えています。たった一枚の紙切れに記されたメッセージから明らかになっていく過去の事件が現在進行している犯罪へと繋がっていく面白さとデッド・リミットが近づいてくる緊迫感が充分味わえる作品です。これまでの作品同様、本書でも事件の悲惨さを中和するためのコミカルな部分があると思うのですが、主人公の同僚たちなどへの傍白が漫才のツッコミみたいに思えて、そこら辺りはちょっと軽すぎのような気がしました。
『特捜部Qー檻の中の女ー』
『特捜部Q -キジ殺し- 』
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『裁きの曠野』C・J・ボックス 講談社文庫
2014-01-11
失踪した女牧場主の莫大な遺産をめぐって憎悪を募らせる息子たち。否応なく巻き込まれた猟区管理官ジョーにさらに邪悪な復讐者の攻撃が迫り、愛する娘も危険にさらされていく。ジョーは大切な家族を守りきれるのか?ワイオミングの大自然を舞台に不器用だが熱い男の孤独な闘いを描く好評シリーズ第5弾! 内容紹介より
本書のみを読むのならば気にならないかもしれませんけれど、シリーズをずっと読んできた者として言わせてもらえば、内容紹介文のなかで「不器用だが熱い男」と形容されている主人公の持つ実直さが次第に愚直さに思えてきて、このキャラクターにややうんざりしてしまいました。せっかく才媛の奥さんがいるというのに、どうして彼女から学んで人間的な成長を遂げないのだろうか?と考えてしまいます。この作品で主人公は大きな転機を迎えるので、次回作では変化の兆しでも見せるのでしょうか。さて、物語は、主人公の管轄する地域に広大な牧場を保有する古くからの名家の女主人が失踪したために、一家の財産をかけて息子たちが反目しあい、その争いが町を二分するまでになってしまうというもの。これも一種の西部劇のパターンを思わせるわけで、このシリーズの特徴がよく表れている印象を受けました。また、主人公を敵と付け狙う殺人犯を登場させサスペンスを盛り上げています。ただ、どちらのストーリーの流れも後半からクライマックスにかけてちょっと拙速気味な気がしました。もうちょっと書き込んでも良いような。
タグ:C・J・ボックス
![]() | 裁きの曠野 (講談社文庫) (2012/05/15) C・J・ボックス 商品詳細を見る |
テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌