『青と赤の死』レベッカ・パウエル ハヤカワ・ミステリ

2014-04-25

Tag :

☆☆☆☆

アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞作
スペイン市民戦争が終結し、ようやく平和を得たマドリードの裏町で、内戦に勝利した国民軍の治安警備隊員が殺害された。駆けつけたテハダ軍曹は、たまたま現場に居合わせた女性を容疑者として射殺する。だが、被害者がなぜ殺されたのかは謎として残り、彼は独自に事件の背景を探りはじめる。いっぽう、射殺された女性の恋人で、内戦に敗れた共和側の元兵士ゴンサロも事件を追っていた。恋人の復讐を成し遂げるために……戦争の爪痕の残る街に交錯するふたつの捜査線。その交点に浮かび上がる事件の真相とは?25歳の新鋭が放つ秀作サスペンス 内容紹介より



国民軍軍曹テハダと共和国側元兵士ゴンサロのふたりを主人公に据えた作品です。これまでのスペイン内戦を扱ったフィクションではネガティブなイメージで描かれることが多かった国民軍(兵士)ですが、テハダはほかとは一線を画したキャラクターとして描かれています。ただし、事情があるとはいえ物語のしょっぱなに殺人事件の容疑者を問答無用とばかりに、いきなり撃ち殺してしまう彼の行動は首を傾げざるをえません。後に、重要な情報を握っている可能性のある人物を部下が射殺してしまう場面では、彼が部下に苦言を呈しそうになっているわけですから、この発端の強引さと不自然さはずっと引っ掛かりました。一方、内戦後の街の荒廃、食料不足による栄養失調、密告、全体主義、こういう状況からくる陰鬱さや息苦しさといった雰囲気が巧く描かれていると思いました。
もし別の時代に出会っていたとしたら友情を育んでいたであろう同世代のふたりの若者が、思想や考え方の違いから敵味方に別れ、ひとりはもうひとりの恋人を殺してしまう運命におちてしまう。無実の女性を射殺したテハダの悔恨は、それをあえて表面にあらわさないことで過度に感傷に陥る事態を避けようとする作者の意図が込められているのかもしれません。




青と赤の死 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)青と赤の死 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
(2004/11/10)
レベッカ・パウェル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『弁護士はぶらりと推理する』マルチェロ・フォイス ハヤカワ文庫HM

2014-04-22

Tag :

☆☆☆☆

イタリアの美しき孤島サルデニアの弁護士ブスティアヌは、今日も食後の習慣である散歩をしながらの思索にふける。彼の頭を占めるのは、羊泥棒から転じた殺人事件や自殺騒動の奥深い謎、そして美人を賛える詩もちょっぴり。人情家でロマンチストな弁護士が辿り着く事件の意外な真相とは?十九世紀末に実在した弁護士のスローライフな推理の日々を描く「いかなるときでも心地よきもの」と「空から降る血」の二篇を収録。 内容紹介より



サルデニア島出身の著者が地元の弁護士であり文学者だったセバスティアーノ・サッタ(1867~1914)をモデルにしたイタリアミステリです。島のヌーオロという町を舞台にしていて、時代設定は十九世紀の終わり頃です。都市国家が統一されてイタリアという国が出来てまだそれほど経っていない時代で、特に独自の言葉や文化、習慣を持っていたサルデニア人はローマなどのいわゆる「大陸」の法律や考え方に馴染めず、不満や齟齬をきたすことも間々あり、主人公の口からそのような状況と問題点がしばしば熱く語られています。その辺りは非常に興味深く読むことが出来ましたし、それが牧歌的で自然豊かな田舎町で起きた事件やその成り行きに独特な趣を与えているように感じました。そして三十代前半の若き弁護士である主人公は、そういうローカルルールを斟酌しつつ事件を調査し解決に導きます。地味ながら二転三転するストーリーで、ミステリとしてもなかなかの仕上がりであり、ミステリ要素以外にもプラスアルファをそなえた、昨今あまり見かけない味のある作品だと思います。




弁護士はぶらりと推理する (ハヤカワ・ミステリ文庫)弁護士はぶらりと推理する (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2004/01)
マルチェロ・フォイス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『第七の女』フレデリック・モレイ ハヤカワ・ミステリ

2014-04-18

Tag :

☆☆☆☆

悪夢の7日間を描く大型警察捜査小説
月曜日、事件の幕は切って落とされた。ソルボンヌ大学の女性講師が惨殺死体で発見されたのだ。百戦錬磨のニコ・シルスキー警視も思わず戦慄するほどの惨状だったが、それはほんの序の口に過ぎなかった。火曜日、はやくも犯人は第二の凶行におよぶ。現場には被害者の血液で書かれたメッセージが―「七日間、七人の女」。ニコの指揮のもと必死の捜査を繰りひろげる警察を嘲笑うかのように、姿なき殺人者の跳梁は続く。そして犯人の魔手は、ついにはニコの家族にまで……連続殺人鬼対フランス警察の対決を描き、見事にパリ警視庁賞に輝いた傑作! 内容紹介より



ネタバレ気味です。ご注意下さい!

気になったのは、すべてを見越し、あらゆることに用意対処し、終始警察をミスリードし、思うがままに翻弄するスーパーヒール化した連続殺人犯像と彼の幼少期のおけるサイコパスを示すエピソードが相変わらずの小動物への虐待という点です。犯人によるまったく破綻のない犯罪が続く不自然さは、ディーヴァーのリンカーン・ライムシリーズを思わせます。しかも本書の犯人は自滅型であり、警察がわずかな手がかりを頼りに真犯人を追い詰める流れではないので、爽快感が考えられず読んでいてもフラストレーションを感じてしまいました。それに、なぜ犯人は主人公の警視をターゲットにしたのかという動機の説明があいまいであり、彼が聖書の言葉をメッセージとして使った理由も当を得た答えが記されていない気がします。また、同一の犯行が何件も続くためか、ストーリーに抑揚がなく、残忍な犯罪の描写とも相まって若干うんざりしました。若きエリート警察官である主人公は、ヒロインに対してガツガツとした情欲を表すところが目立つばかりで、あまり魅力を感じず、却って担当判事のほうが人間味があるので、彼を主人公に据えたほうが良かったのではないかと感じました。作者はミステリについてのテクニックは持っていると思うけれど、それにキャラクター造形がついていっていない印象を受けました。




第七の女 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1813)第七の女 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1813)
(2008/06/06)
フレデリック・モレイ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『五枚のカード』レイ・ゴールデン ハヤカワ・ミステリ

2014-04-14

Tag :

☆☆☆

西部の鉱山町グローリー・ガルシュは、時ならぬ好景気に沸きたっていた。金鉱が発見されたのだ。小さく平和だった町には一攫千金を狙う多くのよそ者が入り込み、その様相を一変させていた。そんななか、町外れの大牧場の牧童が相次いで惨殺される事件が起きた。殺されたのは、いずれも数カ月前に起きた私刑事件の関係者だった。私刑事件のあとに町を離れていた賭博師のナイトヒートは、自らも狙われることを察し、姿なき犯人と対決すべくグローリー・ガルシュへ戻るが、その眼前に新たな死体が……サスペンスフルに展開する異色のウェスタン小説 内容紹介より



映画の原作を集めた〈ポケミス名画座〉シリーズの一冊です。本書は1967年に発表され、1968年にヘンリー・ハサウェイが監督し、ディーン・マーティン、ロバート・ミッチャムなどをキャストに映画化されているそうです(松坂健氏解説より)。リンチ事件に関わった男たちが次々に殺される連続殺人事件、ある理由からリンチに加わったと誤解されている主人公の賭博師。彼は殺人犯と対決するために故郷に戻ってきますが、その事件とはまた別に、彼の帰郷によって起きる様々な出来事、例えば元恋人との関係、その彼女の新たな婚約者との諍い、新牧場主との遺恨、といった人間ドラマも描かれているという内容です。著者はアメリカ・ウェスタン作家協会の副会長をつとめた経歴を持つ人物なので、こういう感想は的外れかもしれませんけれど、ミステリファンとして少し残念なのは、早々に犯人の正体が読者にバラされているところです。それから158ページの作品にもかかわらず、主人公が殴り合いをするシーンが五、六回あるところはウェスタン小説らしい一面を感じました。




5枚のカード (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)5枚のカード (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
(2005/10/20)
レイ・ゴールデン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『カタコンベの復讐者』P・J・ランベール ハヤカワ・ミステリ

2014-04-11

Tag :

☆☆☆

パリの地下に迷宮のようにひろがる地下空間カタコンベ。その片隅で、二体の死体が発見された。一人は五十五歳くらいの黒人男性、もう一人は四十歳くらいの白人女性、死亡時期には六週間以上の間隔がある。そしてどちらの死体も首と両手がなかった……事件を担当する女性警部アメリーは、まずは被害者の身元を突き止めることに着手する。ほどなく女性の身元は判明したが事件につながる手がかりは皆無。はたしてふたつの死体の背後には何があるのか?アメリーと、敏腕ジャーナリストのダヴィドは協力して真相に迫る!パリ警視庁賞に輝く秀作 内容紹介より



パリのカタコンベは約十八世紀後半から地下採石場を利用し始めたもので、古代ローマのそれより歴史はかなり浅いようです。それでもカタコンベというオカルトな場所と連続殺人の犠牲となった切断死体の組合わせはなかなかハードでダークなミステリを予感させますが、本書のテーマとなっている“精神疾患を理由としての免罪”以外は全体に軽いし、フランスミステリらしいノワール風な雰囲気も皆無でした。そもそもカタコンベの他にパリらしい感じがしませんし、仮にそれをとってしまったとしたらどこの都市が舞台でもかまわない、あるいは判らないグローバル傾向にある作品のような気がします。物語は女性警部を中心にした三人称と男性ジャーナリストの一人称により構成されています。そして、この一人称の語り口が非常に軽く、もって回った言い方、いわゆる饒舌系であり、しかもお約束のロマンスさえも取り入れられて、そういうのが苦手なわたしにとっては、どのあたりがパリ警視庁賞として評価されたのか首を捻らざるをえない作品でした。それと犯人の隠し方も拙い。




カタコンベの復讐者 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1821)カタコンベの復讐者 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1821)
(2009/02/06)
P・J・ランベール

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ロジャー・マーガトロイドのしわざ』ギルバート・アデア ハヤカワ・ミステリ

2014-04-07

Tag :

☆☆☆

1935年、英国ダートムア。吹雪のため、人々はロジャー・フォークス大佐の邸に閉じ込められた。大佐、その妻と娘、ゴシップ記者、アメリカ人の青年、女流作家、牧師とその妻、女優、医師とその妻。やがてゴシップ記者が全員の秘密を握っていることを示唆し、彼への憎しみが募るなか、悲劇が起こる。密室状況で記者が殺害されたのだ。被害者のポケットには不可解なアルファベットが記された紙片が。やがてセイウチ髭のトラブショウ元警部が駆けつけ、大佐が重大な告白を始める。「私の本当の名はロジャー」……ミステリの枠を打ち破る超ミステリ 内容紹介より



「作者のアデア自身が語るところによれば、あれは本書を執筆する前の二年ほどのあいだに、クリスティーの長篇全六十六冊をすべて通読あるいは再読したのだという。そして、自分がいわば六十七冊目のクリスティーばりの作品を書いてみる気になった」(若島正氏の解説より)。というように、本書はいわばクリスティーへのオマージュなのでしょう。クローズドサークル、医者や牧師といったお約束の田舎の名士の集まり、退役した軍人、カリカチュアされたいけ好かない被害者、その男に惚れる世間知らずの娘、アメリカ人の青年、女優に女性推理作家、そして執事や秘書などの使用人たち、それから新大陸に端を発する真相。いかにもクリスティーの作品における、ありがちな状況、舞台設定、登場人物をそのまま持ってきて作品に仕立てあげています。しかし、内容はショッキングでもサスペンスフルでもミステリアスでもない印象でした。英国らしいブラックな笑いもなく、パロディとしても成り立たない、クリスティーが書いたような作品が一冊増えただけ、しかも一冊増やしてどうしたいのみたいな。ただ一方では、作品全体になにかこうメタフィクションじみた感覚を覚えて、少なからずニヤニヤしてしまう面もありました。




ロジャー・マーガトロイドのしわざ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1808)ロジャー・マーガトロイドのしわざ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1808)
(2008/01/11)
ギルバート・アデア

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テーマ : 推理小説・ミステリー
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