『裏切り』カーリン・アルヴテーゲン 小学館文庫

2014-06-30

Tag :

☆☆☆☆

「きみといても楽しくない」。なぜ夫の心は自分から離れてしまったのか。エーヴァはヘンリックの気持ちをとりもどそうと必死だった……。ヨーナスという若者がいた。植物人間となってしまった恋人アンナを献身的に介護している。だが、その看病ぶりは常軌を逸しているようだ―。ヘンリックに不倫の疑いを抱いたエーヴァは、憎悪の炎を燃やす。二組のカップルの葛藤が、ある晩思いがけない出会いを生み、そこから恐ろしい破局が始まる……。ベスト北欧推理小説賞受賞の実力派女性作家が、男女の心の奥底を緻密に描いて新境地を開くサイコサスペンス! 内容紹介より



どこの家庭にもありそうな、というかたくさんの夫婦に実際に起きているだろう浮気による不和とそれらとはまったく異質で非日常的なサイコパスを絡ませたサスペンスです。ただ、本当の意味での反社会的人格を持つ人物ではなくて、パラノイア気質の男がかかわってくるのですが、ありふれた結婚の危機に異様な要素を結びつけたアイデアが非常に巧く作用していると思いました。ストーリーはこの作者らしく登場人物の心理を事細かに描き、読者を彼女が創り出す世界に引き込んでいきます。夫の浮気相手に嫌がらせをする妻の感情や行動、強迫性障害を持つ男の薄気味悪さなどは、ルース・レンデルの作品の登場人物みたいに感じられました。含みを持たせているとはいえ、かなり心持ちのよくない結末であるので、読み手を選ぶ作品かもしれませんし、わたしも進んで読みたくなるような内容ではありませんでした。しかし、他の作品にはない、読後に感じるなんともいえない妙な恐さは秀逸です。一読の価値はあると思います。

『罪』
『喪失』




裏切り (小学館文庫)裏切り (小学館文庫)
(2006/08/04)
カーリン・アルヴテーゲン

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『人狩りの森』サリー・ビッセル 二見文庫

2014-06-27

Tag :

☆☆☆☆

ノースカロライナ・テネシー州境ナンタハラ国有林 ― 親友とのキャンプで12年ぶりにこの地を訪れたメアリー・クロー。チェロキーの血を引く異色の検事補としてアトランタで名を馳せる彼女には、かつてここで母を殺された忌まわしい過去があった。色褪せぬ故郷の美しさは古傷を癒やし、つかのまの休息を約束してくれたかに見えたが、その先には予想だにしない狂気が待ち受けていた。自然の猛威と人間の悪意が交錯するとき戦慄のサバイバルゲームが始まる! 内容紹介より



学生時代からの親友である女性弁護士ふたりを連れて、故郷の大森林にキャンプに訪れたヒロインが遭遇する凶悪な事件。その広大な森に隠れ棲むいかれた男、ヒロインに個人的な恨みを持つ男、このふたりが彼女たちに襲いかかるというストーリーです。生息域は違うみたいですけれど、できればこれに獰猛で巨大なグリズリーでも絡ませて欲しかったところですけれど……。また、ヒロインがチェロキー族の血を引くという設定だから、手製の弓矢なり独自の罠なりを用いて敵と戦ったり、伝統の知恵を使って食べ物や身に付けるものを調達したりする場面があるのかと思っていたのですが、そんなサバイバル(ゲーム)の面ではほとんど期待はずれに終わりました。ただ、本書が著者のデビュー作であることを考えると、ヒロインたちの友情や勇気、たくましさを上手に描き、中盤にかけてのダレもないなかなかのエンタテインメント作品に仕上がっていると思います。メアリー・クローを同じくヒロインにした続編『ホワイトムーン』も出ているみたいです。




人狩りの森 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)人狩りの森 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)
(2001/09)
サリー・ビッセル

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『囁きの岬』クリストファー・ハイド 文春文庫

2014-06-24

Tag :

☆☆☆

バミューダ島の断崖に優美な翼をひろげた鳥のごとく偉容を誇り、半世紀にわたって欧米の貴顕・名士に大西洋上の楽園を提供してきた国際リゾート・ホテル〈ウィスパーランド〉。いま三代目総帥に迎えられようとするデイヴィッドは、実は漁師の仕事と凧上げに逃避する男だったが、うち続く怪死と変事に、冒険者と化して謎に挑戦する。 内容紹介より



名作『アムトラック66列車強奪』や日本人地質学者が主人公の『大洞窟』の著者であるハイドの作品なのですが、期待したほどの出来栄えではありませんでした。個人的に思うその理由を三つほどあげてみると、まず、作者がたぶん一番のサプライズとして仕込んだであろうトリックに、ストーリーの序盤で早々に感づいてしまうことです。レッドヘリングの疑いも残りますが、結局予想どおりだったので拍子抜けしました。二つ目は、主人公にまったく魅力が見いだせないこと。三十代後半の年齢にしては青臭すぎ、精神的な成長としてみても中途半端であり、敵方に対してキャラクターが弱すぎでした。また、彼のマジックと凧上げが得意という設定がほとんどなんの伏線にもならずじまいだったのも残念でした。三番目は、強大な権力を持ったある組織が一枚噛んでた、なんていう真相はなんでもありでなんだか白けます。この程度のプロットに巨大な国際的陰謀を混ぜ込むのはそぐわない気がしました。バミューダが地政学的に重要な地域というのは判るのですけれどね。あと、悪役の手下がアメコミに登場するみたいに化物化してて、現実離れが際立ち失笑ものだったこと。




囁きの岬 (文春文庫)囁きの岬 (文春文庫)
(1995/03)
クリストファー・ハイド

商品詳細を見る

『遅番記者』ジェイムズ・ジラード 講談社文庫

2014-06-19

Tag :

☆☆☆☆

全裸で殺された女性五人の四肢は切断されていた。彼女たちは、なぜ簡単に男の誘いに乗ったのか。事件の謎を追う遅番記者サム・ホーンは、交通事故で亡くした妻のクレアが、上司の編集局長ルールと苦しい恋をしていたことを知った。そして―。『NYタイムズ・ブックレビュー』紙も激賞の傑作ミステリ。 内容紹介より



ミステリ自体の完成度は決して高いとは言えないと思いますが、それを超えた人間ドラマという点では技巧に長けた作品のような気がします。作者はカレッジの文章教師という経歴を持つだけあって、主要登場人物への書き込み具合は文芸作品のそれのように優れている印象を受けました。ベテラン記者である主人公、その同僚の女性記者、殺人課の警部、この三人の心理描写、心象風景、モノローグへの言葉の費やし方はとても奥深く行き届いています。ただ、そこら辺りが本書を連続殺人事件を中心に扱うミステリ作品という思い込みでもって読み始めるとややもどかしい気分になるかもしれません。また、情景描写の部分が若干微細にすぎる気もするのですけれど、全体的なバランスはとれていると感じました。身近な人間の死、あるいは関わった殺人事件によってもたらされた喪失感や欠落感、不安感、、そうしたものに囚われた三人それぞれが「死」を精神的に乗り越えていく物語ではないのかと思います。連続殺人事件は諸々の中の一つの駒にすぎないのであり、極端に言えばミステリ作品を一段階上に昇華した作品ではないでしょうか。




遅番記者 (講談社文庫)遅番記者 (講談社文庫)
(1994/10)
ジェイムズ・ジラード

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『七百万ドルの災難』ジェイムズ・マグヌスン 扶桑社ミステリー

2014-06-14

Tag :

☆☆☆☆

貧乏暮らしの大学助教授ベン・リンドバーグはある日、愛猫を追って、なかば打ち捨てられた飼料店の地下室で七百万ドルを超す大金を発見した。妻と二人の子供を抱え、ポンコツ車の修理代にすら事欠いていたベンは思う、この金さえあれば、苦労をかけた家族にもいい生活をさせることができる……。ベンは妻にも秘したまま、札束を運び出し、少しずつ使いはじめた。ほどなく、怪しげな男たちが町に現れる。金の行方を追っている男たちに、ベンは追いつめられていく。絶体絶命、善人ベンを待ち受ける運命とは? 内容紹介より



大学でアメリカ文学(『森の生活』の著者であるソローを取り上げているところに、シニックなスパイスを感じますが)を教える助教授の主人公は、そこそこの社会的地位、愛する家族に恵まれ、平凡だけれど平穏な暮らしをしています。だが、経済的には恵まれているとは言えない彼の前に七百万ドルの札束が……。かつて劇作家として評判になったこともある主人公が、人生の行き詰まりを感じて大金に目が眩んだはての悲劇を描いたいわゆる中年の危機の物語といったところでしょうか。社会の底辺だったり、特別過酷な状況にある人物ではなく、至って普通の人物の暮らしが次第に崩れていく様がテンポよく語られていると思いました。ただし、こういうストーリーの常で、展開に意外性が乏しいのは仕方ないかもしれません。派手な大どんでん返しはありませんが、札束が詰まった八個の重いクーラーボックスをあちこち移動させたり、高額紙幣を怪しまれずにどうやって細かくしたらいいのかとか、マネーロンダリングの方法に悩んだりなど、主人公があたふたする姿がユーモラスで楽しめました。




七百万ドルの災難 (扶桑社ミステリー)七百万ドルの災難 (扶桑社ミステリー)
(1999/12)
ジェイムズ・マグヌスン

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『エンジェル家の殺人』ロジャー・スカーレット 創元推理文庫

2014-06-09

Tag :

☆☆☆☆

『エンジェル』には感歎のほかありません。(中略)筋の運び方、謎の解いて行き方、サスペンスの強度、などに他の作にないような妙味があり、書き方そのものが小生の嗜好にピッタリ一致するのです。(中略)アアなるほどその通りその通り、それこそ私の一番好きな書き方だと、一行ごとにそう感じてよむというわけです。 江戸川乱歩



1932年に発表された作品。
双子の息子のうち長生きしたほうがすべての財産を相続するという五十年前に父親の遺言の元で、二分した屋敷の中で暮らす二つの家族。余命いくばくもないと悟った兄は自分の子どもたちに財産を分けてくれるよう弟に頼むのだが……。屋敷内の見取り図、密室殺人、正体不明の人物の出没、細工された足跡、などの古典的ギミックが取り揃えてあり、これぞ本格探偵小説だという雰囲気に満ちています。しかし、何が欠けているのかと考えてみると、やはりおどろおどろしさではないのかと。確執のある双子の兄弟、不倫関係にある両家の男女(この関係はブラックな笑いを誘いますが)、この二組以外にどろどろした愛憎劇が繰り広げられず、特にピーター、スーザン、カールは存在感が薄い印象を受けました。もっとも恐ろしく感じるのは秘められた心理なのですから、過去にさかのぼった詳しい人物の背景描写とそれらの人間関係がより錯綜していたらなと思ってしまいました。こういうところはパズラーに往々にして見られるの難点なのかもしれません。




エンジェル家の殺人 (創元推理文庫)エンジェル家の殺人 (創元推理文庫)
(1987/05)
ロジャー・スカーレット

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ダブリンで死んだ娘』ベンジャミン・ブラック ランダムハウス講談社

2014-06-05

Tag :

☆☆

〈聖家族病院〉の病理医クラークは死体安置室の遺体にふと目を止めた。救急車で運び込まれたクリスティーンという名の美しい女性で、死因は肺塞栓。明らかに出産直後と見える若い女性が肺塞栓とは?死亡診断書を書いた義兄の産婦人科医マルの行動に不審を抱いたクワークは再び安置室を訪れる。だが、遺体はすでに運びだされていた!1950年代のダブリンを舞台に、ブッカー賞作家が別名義でミステリに初挑戦した話題作。 内容紹介より



「現代アイルランドを代表する作家ジョン・バンヴィル」が別名義で書いた作品だそうです。あいにくわたしは不勉強でこの作家のことは知りませんでした。さて、そういうジャンル出身の作家だからか、あるいは訳出の関係なのか、読んだ印象はもったいぶった、もって回った表現、描写が個人的にまったく合わなかったということです。長ったらしく時代遅れで大げさに感じる文章とともに、登場人物の相関図が古臭いソープオペラの様相を呈し、読み進むのが少々苦痛でした。鬱々として過去にとらわれているような主人公を始めとして、他の人物たちも印象に残らず、あるいは類型的な印象を受けました。ただ、そのなかでアンディ・スタッフォードだけは異彩を放っていて、ジム・トンプスンの作品にでも出てきそうな感じがしましたが。クリスティーンが産んだ赤ん坊の父親の正体が分かりやすいのは別にして、彼の理由あるいは言い訳がこれまた使い古されたものであり、肝心なのは彼と関係した経緯をクリスティーンという娘の側から詳しく描写することが必要だったのではないでしょうか。孤児だった主人公と彼の娘、そして生みの親から赤ん坊を取り上げる独善的な活動、こういうテーマの重層性は巧いと思うけれど、“卑しき街を一人行く”探偵じみた主人公が終始煮え切らない姿に感じられたのは残念でした。




ダブリンで死んだ娘 (ランダムハウス講談社文庫 フ 10-1)ダブリンで死んだ娘 (ランダムハウス講談社文庫 フ 10-1)
(2009/04/10)
ベンジャミン ブラック

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

カテゴリー

最近の記事

月別アーカイブ

10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07 

ユーザータグ

短編集 ホラー SF クリスマス・ストーリー アンソロジー アーロン・エルキンズ ルース・レンデル スティーヴン・キング デイヴィッド・ハンドラー ローラ・チャイルズ キャロリン・G・ハート ジョージ・P・ペレケーノス ジョアン・フルーク ドン・ウィンズロウ マイクル・クライトン ジョー・R・ランズデール C・J・ボックス ポーラ・ゴズリング ジェームズ・パターソン ジェイムズ・パタースン エド・マクベイン ジル・チャーチル リチャード・マシスン ローレンス・ブロック ヘニング・マンケル D・M・ディヴァイン ジャネット・イヴァノヴィッチ ピーター・ラヴゼイ スチュアート・ウッズ リリアン・J・ブラウン レジナルド・ヒル レックス・スタウト S・J・ローザン ジョルジュ・シムノン パーネル・ホール アリス・キンバリー ジョー・ゴアズ カール・ハイアセン ウィリアム・カッツ クレオ・コイル マーガレット・ミラー レスリー・メイヤー ジャック・カーリイ カーター・ディクスン ジェフ・アボット マーシャ・マラー エド・ゴーマン コリン・ホルト・ソーヤー ヒラリー・ウォー ルイーズ・ペニー マイケル・ボンド ジェフリー・ディーヴァー アイザック・アシモフ ジョン・ディクスン・カー イーヴリン・スミス ジェームズ・ヤッフェ リタ・メイ・ブラウン キャロリン・キーン ウィリアム・L・デアンドリア ロブ・ライアン ローラ・リップマン ポール・ドハティー フレッド・ヴァルガス G・M・フォード エヴァン・マーシャル オーサ・ラーソン ジョアン・ハリス ドナ・アンドリューズ サイモン・カーニック リン・S・ハイタワー ファーン・マイケルズ アンソニー・ホロヴィッツ ジャン=クリストフ・グランジェ スタンリイ・エリン レイ・ハリスン ケイト・ロス アンドレア・カミッレーリ レニー・エアース ジョン・クリード コニス・リトル デイヴィッド・マレル クリスチアナ・ブランド ウイリアム・P・マッギヴァーン ウィリアム・ランデイ ジャック・フィニイ リック・ボイヤー サキ ジェーン・ラングトン ユージン・イジー ウォルター・モズリイ アン・クリーヴス ビリー・レッツ イーサン・ブラック ダナ・レオン エーリヒ・ケストナー ウォルター・サタスウェイト スタンリー・エリン ポール・ドハティ トバイアス・ウルフ 

ブログ内検索

全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

リンク

RSSフィード

最近のトラックバック

最近のコメント