『毒の目覚め』S・J・ボルトン 創元推理文庫

2014-08-30

Tag :

☆☆☆☆

その夏、英国の小さな村では蛇が異常発生していた。獣医のクララはある老人の死に疑問を感じる。死因は蛇の毒だが、一匹に咬まれたにしては毒の濃度が高すぎるのだ。さらに近所の家で、世界で最も危険と言われる毒蛇を発見する。数々の事件は、何者かの策略なのか?言い知れぬ恐怖と謎に挑む女性獣医の姿を圧巻の筆致で描きMWA賞受賞に輝いた、荘厳なゴシック・ミステリ。 内容紹介より



ゴシック・ミステリといっても、終始重たくて暗い雰囲気に覆われているわけではなく、ユーモラスなところも感じられて結構中和されていると思います。とても良く出来た娯楽作品で読んで損はないのですが、サスペンスシーンが頻繁に描かれるので、始めは良くても度重なると慣れてきてしまって効果を発揮しなくなってしまう傾向があるように感じました。それらのシーン自体も死んだはずの人物が目撃された廃屋での捜索とか、トンネル内で不良グループに追われたりとか、特別工夫をこらしていない状況設定で、しかもそのつど懐中電灯を落としてしまうというお約束のようなアクシデントが起きてしまいます。特に、嵐が接近する中崖際で、ある人物とヒロインが会話を交わし、その後に起きた出来事はあまりにあからさまな、かつ必要性の乏しいサスペンスありきの場面のような気がしました。しかし、過去と現在を絡めたプロットは巧みであり、キーポイントに蛇を持ってきたアイデアも効果的で、ヒロインの陰影を付けた人物造形も優れていて、蛇が恐いわたしも大変面白く読むことができた作品でした。

『三つの秘文字』




毒の目覚め 上 (創元推理文庫)毒の目覚め 上 (創元推理文庫)
(2012/08/25)
S・J・ボルトン

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毒の目覚め 下 (創元推理文庫)毒の目覚め 下 (創元推理文庫)
(2012/08/25)
S・J・ボルトン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ウェディングケーキにご用心』ジェン・マッキンリー RHブックスプラス

2014-08-25

Tag :

☆☆☆

メルとアンジーは小学校からの大親友。スイーツ好きなふたりは、念願かなって故郷に小さなカップケーキ・ショップをオープンした。お店の評判は上々で、幸先のいいスタートにほっとするメル。そこへお店の共同経営者でもある幼馴染みテイトのいけすかない婚約者から、ウェディングケーキの依頼が。いやいや引き受けたものの、これがお店を危うくする大事件に発展するなんて……。恋と、甘いスイーツと、ミステリがいっぱいのキュートな新シリーズ第1弾! 内容紹介より



シリーズタイトルは、〈カップケーキ探偵〉。飲食系のコージー・ミステリで、設定も展開もオーソドックスで特に目を引くものはありません。ヒロインの造形は良い意味で癖がないのですが、中庸過ぎて印象に残らないタイプだと思います。彼女を取り巻く主要登場人物の構成は、幼馴染みの女友だち、同じく男友だち(この三人は映画マニア)、そこにわって入る女友だちの兄です。これらの関係性は従来のコージーにおけるロマンス要素に比べるとやや異なっています。また、このジャンルでは特に大切だし、シリーズを続けていく上でも重要な鍵になるのが、その他の登場人物の存在とキャラクターだと思うのですが、この辺りが非常に薄い気がしました。出色していたのはライバル店のオーナーくらいで、それ以外、若干目立ち気味のヒロインの母親はかなり類型的な感じでした。カップケーキ専門店ということで差別化を図ろうとする意図は見れるけれど、もっと目新しさと個性を出していかなければ、数多の作品群にたいして優位に立つのは難しいのではないでしょうか。




ウェディングケーキにご用心 カップケーキ探偵1 (RHブックス・プラス)ウェディングケーキにご用心 カップケーキ探偵1 (RHブックス・プラス)
(2011/07/09)
ジェン・マッキンリー

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『泥棒は几帳面であるべし』マシュー・ディックス 創元推理文庫

2014-08-21

Tag :

☆☆☆☆

マーティンの生業は泥棒。といっても、窓ガラスを壊したり家を荒らしたりはしない。盗みに入る家を慎重に選び、住人の外出時間や周囲の環境を徹底的に調べて“お得意”を決め、泥棒が入ったことに気づかれないように食料品や宝石などを盗んでいるのだ。だがある日、とんでもない“事件”が発生してしまい……。とびきり几帳面な愛すべき青年の活躍(?)を描くお仕事ミステリ! 内容紹介より



主人公は三十代の男性でアルバイトはしているけれど、生計の殆どを彼が“お得意”と呼ぶ数軒の家庭から計画的かつ定期的に盗み出す品物で賄っており、いわば経済的に寄生している状態です。“お得意”を選び出す際も慎重に周到な事前調査を行っています。性格は几帳面かつ潔癖症な傾向にあり(この性癖がある事件の伏線になっています)、友人は少なく異性には非常に消極的です。トイレットペーパーを一、二個とか洗剤を丸ごとではなく小分けして盗むとか、泥棒のテクニックも面白いけれど、盗みに入る家の住人に対して親近感に近い感情を抱いている主人公が、住人たちに問題やトラブルが起こりそうになったり、実際に起こった時に、それを未然に防ごうとしたり、解決しようと奮闘する様子がはらはらどきどきするとともに愉快です。彼のその孤軍奮闘ぶりが物語のみそになっているわけです。また、長らく疎遠になっていた父親との再会や女性との出会いといった人情噺みたいなものも織り込まれているところも魅力です。一方、ストーリーがほとんど主人公の傍白、独白で構成されているので会話文が少なく、中盤にかけてちょっと疲れました。




泥棒は几帳面であるべし (創元推理文庫)泥棒は几帳面であるべし (創元推理文庫)
(2013/07/11)
マシュー・ディックス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『図書館警察-Four Past Midnight Ⅱ』 スティーヴン・キング 文春文庫

2014-08-17

☆☆☆

あの図書館には何かがいる。不気味な貼り紙、冷酷な司書、期日に本を返さないと現れる図書館警察。幼い頃の恐怖が甦り、サムの心を侵す。戦え、心の闇を消し去るのだ―恐怖に対決する勇気を謳い、感動を呼ぶ表題作。さらに異界を写すカメラがもたらす破滅を描く「サン・ドッグ」。翻訳者+装幀者による巻末の解説座談会も必読。 内容紹介より



「図書館警察」と「サン・ドッグ」、ともに約280ページ程の作品が収録され、作者自身による作品が生まれた経緯が書かれています。アメリカの子供たちにとって馴染みのある(らしい)架空の存在の“図書館警察”、そして、アイデア自体はそれほど目新しくもない“異界を写すカメラ”。まず、このそれぞれのお題で中篇を書いてみせる著者の筆力、テクニックに呆れながら感心しました。並みの作家なら短篇どまりでしょう。それとともに、中篇に膨らませる技巧が垣間見えるような気がしました。「図書館警察」ではゴミ収集人を登場させて、彼が体験した“司書”の過去と彼女が起こした事件を語らせていますし、「サン・ドッグ」においては、“がらくた屋”にいわくのあるカメラを売付けに馴染みの顧客を廻らせています。特に後者は、作者の創作上の意図が分かりやすく理解できる感じがしました。一方、作品そのものの出来不出来については、個人的に引き伸ばしすぎなのではないのかと思います。「サン・ドッグ」では冗長な印象を強く受けました。好みの問題ですが、こういう素材は短篇で処理したほうが良いような気がします。

タグ:スティーヴン・キング




図書館警察―Four Past Midnight〈2〉 (文春文庫)図書館警察―Four Past Midnight〈2〉 (文春文庫)
(1999/08)
スティーヴン・キング

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『恐怖の呼び声』ウィリアム・カッツ 新潮文庫

2014-08-11

☆☆☆

最初の夫を失い、再婚でつかのまの幸福を得ながら、今度は一人娘までも事故で失って悲嘆にくれるクリスタ。だが、死んだ娘の声が、思いもかけぬ事故の真相を彼女に告げる。しかも娘の溺死した湖には、まごうことなき殺人事件の証拠が残されていた。死者と交信してしまった彼女は、その告発をどう証明すればいいのか。犯人を暴くことはできるのか。恐怖と戦慄の長編小説。 内容紹介より



この作品のユニークなところは、心霊現象を物語の核に据えてオカルトチックな趣で進みながらも、342/507ページから舞台が刑事裁判の場に移り、リーガル・サスペンス調になっていることです。最初の夫、一人娘を喪い、ヒロイン自身も交通事故により一時、心肺停止状態に陥ります。臨死体験をした彼女はその直後から同じ事故で死亡した女友達、亡くなった夫や母親、そして愛娘の霊とコンタクトができるようになります。娘の証言から、事故による溺死と思われていた事件が殺人事件だったことが明らかになり、ヒロインは真犯人を訴え出るのですが……。陪審員に果たして死者との交信したという彼女の主張が認められるのか。二転三転する裁判の行方も興味をそそります。
やや物足りないのは、動機を含めた犯人の裏の面の人物像が希薄な点です。また、ヒロインも彼女の精神科医の存在感と比べてみても、裁判の場面に入ると精彩を失ったように感じられました。しかし、計算された結末はなかなか見事です。

タグ:ウィリアム・カッツ




恐怖の呼び声 (新潮文庫)恐怖の呼び声 (新潮文庫)
(1987/01)
ウィリアム・カッツ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『珊瑚の涙』ジャニータ・シェリダン 創元推理文庫

2014-08-06

Tag :

☆☆☆

ハワイ出身の駆け出し小説家のわたしが書いた作品が映画化されることになった。ハワイの本当の姿を再現するため、先住民の村の撮影許可を求めて故郷に向かったが、思い出の村では祭壇に生贄が捧げられ、秘密の儀式が行われているようだ。黒魔術を行うカフナが村に住んでいるのか。映画出演を夢見たフラダンサーの死体はどこに消えた?南の島が鮮烈に香り立つ、シリーズ第二弾。 内容紹介より



森出じゅん氏が解説で触れられているように、著者はハワイに住んでいたことがあり、その地の人や文化、自然への思い入れが強いみたいです。本書が発表されたのが1951年で、ハワイがまだ正式にアメリカの州ではなかったこともあって、当時は原住民に対する誤解や偏見、差別意識が存在しており、著者はヒロインを通してそういった風潮を批判したり、皮肉ったり、過度な観光開発への懸念を示したりしています。まあ、そういうことは別として、ハワイの自然や風習はもとより、土着の信仰も描き、非常に南国情緒豊かな作品に仕上がっていると思いました。前作の『翡翠の家』でも感じたことですが、今回もヒロインと彼女の義理の妹のリリーの関係性がワトスンとホームズみたいに思えたし、さらにベイカー街少年探偵団まがいの少年たちも登場して来ます。また、物語における役割設定は情緒面をヒロインが推理面を義妹が担当している印象を受けました。ただ、この妹が折にふれて繰り出す中国人ネットワークという万能の秘密のアイテムが、用意万端、万事順調すぎて若干興ざめしてしまうような気もします。

『翡翠の家』


珊瑚の涙 (創元推理文庫)珊瑚の涙 (創元推理文庫)
(2009/02)
ジャニータ・シェリダン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『闇が噛む』ブリジット・オベール ハヤカワ文庫HM

2014-08-02

Tag : ホラー

☆☆

交通事故で死亡した親子の死体がいつのまにか遺体安置所から消え失せた―誰かの悪戯だろうと報じる新聞記事を、不気味な予感とともにうけとめた人々がいた。二年前にジャクソンヴィルでの怪事件を経験し、辛うじて生き残った六人の男女だ。またあれが始まった、死者たちがこの世に帰ってくるのだ。彼らは吸い寄せられるように集結し、死者を甦らせる邪悪な存在との対決に臨むが……一読仰天の展開を見せる超絶ホラー! 内容紹介より



本書が未読の『ジャクソンヴィルの闇』の続編だというのを読み始めて知りました。ネタバレ気味なところもあるので、できれば本編を読んでから本書を読むのが無難なようです。『ジャクソンヴィルの闇』は正統派のホラーらしく、本書もだいたい260ページ辺りまでその流れで展開していきます。その後、まさしく「一読仰天」のトンデモ本、スラップスティックホラーとでもいうようなものに変化を遂げていきますが、それが個人的にはかなり首を捻らざるを得ない進展ぶりでした。そもそもゾンビ化した死人が人を襲うというアイデア自体は目新しくもないものなので、同じような話を続けるのも能が無いとでも考えた著者が趣向を変えたプロットなのかもしれません。フレンチテイストを感じた『死の仕立屋』と異なり、本書はまるでジョー・R・ランズデールの『モンスター・ドライヴイン』みたいなアメリカンな印象を受けました。超絶ホラーの惹句に釣られて読んでみたら、別の意味で超絶にあっけにとられること請け合いです。まあ、ホラー作品のパロディの一つなのでしょう。

『鉄の薔薇』
『死の仕立屋』




闇が噛む (ハヤカワ・ミステリ文庫)闇が噛む (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2000/03)
ブリジット・オベール

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

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