『愚か者の町』ローリー・キング 集英社文庫

2016-04-29

Tag :

☆☆☆

ケイトとホーキンの人気刑事コンビが帰ってきた!!―試練を乗り越え、再び捜査に復帰したケイト。だが早くも難問が待ち構えていた。ホームレスの男が殺され、容疑者を捕まえたものの、彼は「自分の言葉を喋らない」道化だった。彼の引用する言葉を解いているうちに、またもや同じホームレスの犠牲者が出る。もうケイトとホーキンには一刻の猶予もなかった……。 内容紹介より



〈捜査官ケイト〉シリーズの第二作目。
明らかにミステリより、容疑者となった“聖愚者”の人物像を丹念に描き上げることに主眼を置いている作品です。主人公は、ホームレスたちに寄り添い、慕われ、聖書やシェークスピアの作品からの引用のみでしか会話をしない、元神学教授の「愚者」(フール)です。物語は、彼の悲哀を解き進めていくのですが、すべて引用に頼る彼の会話がちんぷんかんぷんに感じることと、宗教的ムーブメントとしての「愚者」についての資料が挿まれていることで、少々、読み辛さを感じました。さらに、シチュエーション・コメディにゲストが出演したみたいに、ホーキンは存在感が希薄で、ケイトはやや精彩を欠いているような気がするくらい、「愚者」の存在が際立っていました。それは殺人事件の被害者にも言えることで、彼の人となりが、元美術史の先生だったホームレスの女性くらいに印象的だったら、殺人事件と登場人物のバランスが程よく取れていたのではないかと思いました。

『捜査官ケイト』




商品詳細を見る



テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』デボラ・モガー ハヤカワ文庫NV

2016-04-26

Tag :

☆☆☆

ロンドンで医師をしているインド系のラヴィは、いとことともに新事業を立ち上げた。物価の安い故郷のバンガロールに高齢者ホームを作り、イギリスの引退者を送り込むのだ。馬の合わない下品な義理の父親を含めて……。やがて、宣伝につられた様々な男女が、彼らの新たな家となるマリーゴールド・ホテルに集まった。インドでの刺激的な新生活を期待して―ジュディ・デンチ主演、ジョン・マッデン監督映画化の感動小説! 内容紹介より



インドにあるホテルを舞台にした群像劇の一種です。もともとは、下品で好色な義父を厄介払いしたいという願いから始まった、イギリス人退職者向けの長期滞在型ホテルの事業。入居者には、彼らにとって終末的なイメージのある“ホーム”という言葉を好まず、あくまでも“ホテル”なのです。主に六組くらいの人物とその家族をメインにして話は進んでいきます。居場所がなくなった者や失踪した息子捜し、望郷あるいはロマンスやセックスのため、様々な理由を持って集うことになった老人たち、そして、その家族たち。彼らがインドという土地から影響を受け、彼らの心情や家族関係さらには人生観まで変わっていく様子を、“老い”、“老いる”という身近でありながらあまり向き合いたくないデリケートなテーマと共に、ユーモラスにアイロニカルに、そしてペーソスを交えて描いています。老いてもこんなふうにしたたかに生きたい、と思わせてくれる前向きな物語でした。



商品詳細を見る




テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『過去が我らを呪う』ジェイムズ・リー・バーク 角川文庫

2016-04-23

Tag :

☆☆☆

刑事デイヴ・ロビンショーは、子供の頃から、ニュー・アイビーリアのソニエ家の三人を知っていた。彼らのCIAやマフィアとの関わりも、元KKKの人種主義者との繋がりも。そして、ルイジアナのバイユーの夜さながらに暗く濁った、この三人の凄惨な生い立ちのことも。そのソニエ家の長兄ウェルドンが何者かに命を狙われ、捜査にあたった警官が殺害された。ロビンショーは否応なしに、一家に渦巻く近親憎悪と殺意の渦中に呑み込まれていく―。MWA、CWAに幾度となく輝く現代最高のミステリ作家が放つ、待望のシリーズ最新刊。 内容紹介より



1992年に発表された本書は、〈デイヴ・ロビンショー〉シリーズの第五作目だそうです。
私はこのシリーズは初読なのですけれど、本書のみで判断するならば、いわゆるネオ・ハードボイルドの第三形態に当たるように思います。といっても誰も“ネオ・ハードボイルド”を定義付けしているわけでもなく、ましてその形態云々を論じてもいないので、あくまで個人的な意見にすぎません。ネオ・ハードボイルドの主人公は戦争によってトラウマを負い、酒浸り、薬物漬け、家庭崩壊などの背景や状況設定が多く用いられるように、本書の主人公もベトナム戦争に従軍し、アルコール中毒だった過去があります。しかし、本書では、そんな彼は、なんとかトラウマとも折り合いをつけ、妻と養女との家庭を持ち、断酒の会合に参加し、刑事の傍ら釣餌店の経営者です。物語は、南部の風土とともに、人種差別とそれに関わる政治家、マフィア、主人公の幼馴染である三兄妹、これらが抱えるトラブルが絡みあって進み、それらに対する主人公の懊悩、さらに難病を患った妻への心理も加わって、問題山積の状況を呈しています。一方、彼の捜査活動はハードボイルドらしく、かなりいき当たりばったりに終始し、まるで探偵ごっこのように感じました。文学性が高いのは認めますが、もう少し収拾をつけても良いのではないかと感じるくらい、主人公の頭の中は重たい。

ビリー・ボブ・ホランド・シリーズ
『シマロン・ローズ』
『ハートウッド』




商品詳細を見る







テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『深い疵』ネレ・ノイハウス 創元推理文庫

2016-04-13

Tag :

☆☆☆☆

ドイツ、2007年春。ホロコーストを生き残り、アメリカで大統領顧問をつとめた著名なユダヤ人の老人が射殺された。凶器は第二次世界大戦期の拳銃で、現場には「16145」という数字が残されていた。しかし司法解剖の結果、遺体の刺青から、被害者がナチスの武装親衛隊員だったという驚愕の事実が判明する。そして第二、第三の殺人が発生。被害者らの隠された過去を探り、犯行に及んだのは何者なのか。刑事オリヴァーとピアは幾多の難局に直面しつつも、凄絶な連続殺人の真相を追い続ける。本国で累計200万部と突破した警察小説シリーズ開幕! 内容紹介より



本国でベストセラーになっただけあってとても面白い作品です。第二次大戦終戦間際に、ある家族に降りかかった悲惨な出来事を題材にした内容ですけれど、全体的にはやや娯楽性、あるいはテレビのサスペンスドラマ風な雰囲気も多少感じました。例えば、やけに死体が多すぎるところや身代わりになって死んでしまう場面とか。それから登場人物が多いし、ドイツ人の人名に馴染みがないうえに、ある人物が別の人物の名を騙っていたりしているから、読んでいてやや混乱してしまいました。主人公たちの造形は、女性作家だけに女性刑事のピアに心持ち力が入り、そのパートナーのオリヴァーは当り障りのないキャラクターに感じましたし、他の刑事たちの内面ももう少し掘り下げて欲しい気もしました。この辺りはシリーズの他の作品も読んでみないことには判りませんけれど。ともかく読みごたえのある作品だと思います。




商品詳細を見る








テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『アイルランドの哀しき湖』エリン・ハート ランダムハウス講談社

2016-04-10

Tag :

☆☆☆☆

アイルランドの泥炭湿地から、“三つの死”の儀式を施された鉄器時代の遺体が出現した。解剖学者ノーラは、その保全作業を手伝うため現地に赴く。ところが近くの地中から、同じく“三つの死”の儀式を施された現代の遺体が見つかった。それを皮切りに、ノーラのまわりで次々と不可解な殺人事件が発生する。しかも恋人である考古学者コーマックがその連続殺人事件の容疑者となってしまい……。『アイルランドの柩』待望の続篇! 内容紹介より



シリーズ第一作目の『アイルランドの柩』と較べて、二十年以上前に起きた殺人事件と今回の事件を繋ぐ謎、複数の容疑者たち、犯人の意外性などでとても出来の良い印象を受けました。前回煩わしく感じたヒロインの妹の死にまつわる話を、本書でも引きずっており、また、それの解決はみないわけです。さらに妹の死に関してアメリカに戻らなくてはならなくなり、恋人の元を離れるという葛藤がヒロインの心を揺さぶります。彼女のこの心理描写の部分がちょっと読んでいるともどかしさを感じてしまうのですけれど、彼女以外の人物に視点が移り変わることでサスペンス性を高めるとともに物語のテンポを保っています。古代の儀式的殺人やアイルランドの伝説や風習を絡ませることで、物語に趣と厚みを持たせ、重厚とまではいかない良い具合の濃さを与えていると思います。それから各登場人物に付随するエピソードも女性作家らしい心配りが利いている感じがしました。邦訳を続けて欲しいシリーズになりました。




商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『殺人小説家』デイヴィッド・ハンドラー 講談社文庫

2016-04-07

☆☆☆

差出人不明の封筒が、小説家ホーギーのもとに届く。なかに入っていたのは、小説の第1章と礼儀正しい添え状だった。書き手の才能に驚いたホーギーは、翌朝、さらに驚くべき事実を知ることになる。小説に書かれていたとおりの殺人事件が起きたのだ。警察が捜査に躍起になるなか、二番目の犠牲者が発見される。 内容紹介より



〈ホーギー&ルル〉シリーズの第八作目。この作品以降、続編は出ていないとのこと。今回はこれまでの有名人からのゴーストライターとしてのオファーではなく、連続殺人犯から自ら犯した殺人を小説形式にして主人公の元へ郵送し、共著者の依頼をしてくるという新機軸を打ち出しています。その新しい趣向が効果的かどうかと言う前に、主人公のスノッブぶり、相変わらずの饒舌、利いた風な口に、料理した魚のなかに潜む小骨みたいにうんざりさせられました。ストーリーは、主人公が犯人ではないかと疑う、彼の学生時代のヒーローであり親友だった元フットボール選手、多彩な才能を持ち、誰をも魅了した男の栄光と挫折と転落の人生を簡潔に描き出して進展していきます。こういう面はハンドラーはすごく巧いと思います。一方、ミステリは平凡、犯人の見当が付けやすいし、そもそも犯人の小説が主人公が思うほど良く出来ているとは感じませんでした。
ということで、このシリーズでは『真夜中のミュージシャン』が個人的に一番の作品ではないかと。

ユーザータグ:デイヴィッド・ハンドラー




商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『極限捜査』オレン・スタインハウアー 文春文庫

2016-04-04

Tag :

☆☆☆☆

刑事としての責務か、人としての矜持か。東欧の国で捜査官を務める私を、その問いが苦しめる。元美術館長の変死、画家の惨殺事件、政治委員夫人の失踪、終戦直後の未解決事件……山積する事件に影を落とす、国家の暗部。破滅を覚悟し、私はその闇へ切り込むことを決意した。熱く、骨太に、刑事たちの誇り高き戦いを描く警察小説。 内容紹介より



『嘆きの橋』に続く〈ヤルタ・ブールヴァード〉シリーズの第二弾。ある国の民警殺人課を舞台にした本シリーズですが、主人公は、第一作目のエミール・ブロードから今回は彼の同僚のフェレンク・コリエザールに代わっています。吉野仁氏の解説によると、第三作では、同課付きの国家公安捜査官ブラーノ・セヴが主人公になっているそうです。本書の主人公「私」は、戦争体験、両親の死によるトラウマを抱え、それが原因で妻との関係がぎくしゃくしている人物です。そんな彼と同僚たちの捜査活動や私生活、そして政治体制の変化を併せて描き、夫婦間の危うさや全体主義化していく国家の息苦しさを感じさせる作品です。連続殺人事件、共産党役員の妻の失踪事件、戦後に起きたソ連兵による殺人事件、これらの捜査が同時進行していきます。その中の共産党役員夫人の失踪事件にまつわる話は当初、わざわざストーリーに付け加える意味があるのか疑問に思ったのですけれど、それは主人公の「告白」とけじめへの布石として必要だったのでした。それでもやっぱり付け足し感、作者の意図が目に付き過ぎるのが気になります。さて、とても良いシリーズなので邦訳が続くと良いのですが……。




商品詳細を見る







テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

カテゴリー

最近の記事

月別アーカイブ

06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07 

ユーザータグ

短編集 ホラー SF クリスマス・ストーリー アンソロジー ルース・レンデル アーロン・エルキンズ スティーヴン・キング デイヴィッド・ハンドラー キャロリン・G・ハート ジョー・R・ランズデール ローラ・チャイルズ マイクル・クライトン ジョアン・フルーク ジョージ・P・ペレケーノス ドン・ウィンズロウ ポーラ・ゴズリング ジェームズ・パターソン エド・マクベイン ジェイムズ・パタースン ジル・チャーチル ヘニング・マンケル C・J・ボックス ローレンス・ブロック リチャード・マシスン D・M・ディヴァイン レジナルド・ヒル スチュアート・ウッズ リリアン・J・ブラウン ジャネット・イヴァノヴィッチ ピーター・ラヴゼイ パーネル・ホール アリス・キンバリー レックス・スタウト S・J・ローザン ジョルジュ・シムノン ジョー・ゴアズ マーガレット・ミラー ウィリアム・カッツ クレオ・コイル カール・ハイアセン レスリー・メイヤー アイザック・アシモフ ヒラリー・ウォー エド・ゴーマン カーター・ディクスン マイケル・ボンド ルイーズ・ペニー マーシャ・マラー ジェフリー・ディーヴァー ジョン・ディクスン・カー リタ・メイ・ブラウン ジェームズ・ヤッフェ イーヴリン・スミス ジャック・カーリイ キャロリン・キーン ウィリアム・L・デアンドリア コリン・ホルト・ソーヤー ローラ・リップマン フレッド・ヴァルガス ポール・ドハティー ロブ・ライアン ジェフ・アボット G・M・フォード エヴァン・マーシャル オーサ・ラーソン ジョアン・ハリス サイモン・カーニック リン・S・ハイタワー ドナ・アンドリューズ ファーン・マイケルズ アンソニー・ホロヴィッツ ジャン=クリストフ・グランジェ スタンリイ・エリン レイ・ハリスン ケイト・ロス アンドレア・カミッレーリ レニー・エアース ジョン・クリード コニス・リトル デイヴィッド・マレル クリスチアナ・ブランド ウイリアム・P・マッギヴァーン ウィリアム・ランデイ ジャック・フィニイ リック・ボイヤー サキ ジェーン・ラングトン ユージン・イジー ウォルター・モズリイ アン・クリーヴス ビリー・レッツ イーサン・ブラック ダナ・レオン エーリヒ・ケストナー ウォルター・サタスウェイト スタンリー・エリン ポール・ドハティ トバイアス・ウルフ 

ブログ内検索

全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

リンク

RSSフィード

最近のトラックバック

最近のコメント