『メイプル・ストリートの家』スティーヴン・キング 文春文庫
2016-08-30
- Category : ☆☆☆
Tag : 短編集 スティーヴン・キング
死を間近にした祖父が、林檎の花びらが舞う果樹園で、孫息子に語って聞かせた“指示”。とは(「かわいい子馬」)、母親をいじめる邪悪な継父を亡き者にしようとするきょうだいたちがとったとんでもない作戦(表題作)など、子どもを描かせても天下一品の著者の才能が存分に発揮された作品を含む短篇全5篇。著者自身による作品解説付き。 内容紹介より
「かわいい小馬」
“かわいい子馬”を持つことが人生にとって大事なことだ、と孫に教える祖父。“かわいい子馬”のたとえが今ひとつ解りづらいような気もする話。
「電話はどこから」
著者の作品解説 によると、脚本形式のこの話は、スピルバーグが製作中だったテレビ・シリーズ《アメージング・ストーリーズ》に持ちかけて断られた作品だそうです。ある夜、ある家庭に架かってきた電話。それは誰から?何のために?何を伝えたかったのか?やや古典的なパターン。
「十時の人々」
“十時の人々”とは、全館禁煙になったビルから出て、煙草休憩をする人たちのこと。そんな人混みのなかで、怪物を見た男の話。怪物たちは普段人間を装って生活しているが、ある性癖を持った人間だけが彼らの正体を見破ることができる。
「クラウチ・エンド」
異次元とのバリアーが薄くなっているロンドン郊外のある地区。魔界が現実の世界が重なっている、あるいは接している、という設定は、『鎌倉ものがたり』シリーズ(西岸良平 双葉社)を思い起こさせます。定番ですが、こういう話はかなり好みです。
「メイプル・ストリートの家」
家で進行中の奇妙な現象を利用して、母親に辛く当たる継父を厄介払いしようとする子供たちのテーマもシンプルでスケールの大きな話。
ユーザータグ:スティーヴン・キング
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『闇の教室』ジョン・ソール 扶桑社ミステリー
2016-08-27
頭が良すぎるばっかりにいつも孤独感を抱える10歳の天才少年ジョシュ。二度目の飛び級で彼は、またしても初日から年上のクラスメイトとトラブルを起こしてしまう。しかし弾みで自殺を図ったジョシュが運ばれた病院で、彼は特別な才能を持つ子ばかりを集めた学校バリントンを勧められた。そこならいじめられることもないだろうし、友達もできるかもしれない。そう考えて転校したジョシュに友達はすぐにできた。だが彼はまだ知らなかった。子供たちの間に伝わる学園の恐ろしい秘密を…。ソールが贈る青春ホラーの傑作! 内容紹介より
以下、ネタバレ気味です。ご注意ください!
ホラーといっても、幽霊やお化け関係の話は、学校となっている屋敷の前所有者にまつわる怪談話が少しあるだけで、それ以外の話は出てきません。ようするに、特にIQの高い生徒たちから脳を摘出して、スーパーコンピュータと接続する、というマッドサイエンティストからみのサイエンス・ホラーといったところです。また、内容紹介にある「青春」という言葉は十歳程度の子供を表すのには無理があるような気がします。物語は、自殺した双子の兄弟のひとりと、主人公の親友で行方不明になった女の子が実は……、で、彼らに関わった学校長と寮母の企みを主人公が探る形で進んでいきます。しかし、主人公にはもっと天才的な頭脳を発揮する活躍の場を用意して欲しかったような感じがしました。あと、良い人そうな英語教師のその後の扱いが雑。それにしても、物語全体が本編へと繋げるプロローグみたいで、いよいよこれから佳境に入る、というところで終わってしまった印象を受けました。しかも、パソコンを投げ捨てるという安易な解決法でもって。
『マンハッタン狩猟クラブ』ジョン・ソール 文春文庫
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『原潜迎撃』ジョー・バフ ヴィレッジブックス
2016-08-24
- Category : ☆☆☆
Tag :
2011年、ドイツと南アフリカで武力政変が勃発し、超国家主義者が政権を掌握。その結果、ついに英米とのあいだで、戦術核戦争の火蓋が切って落とされた。独・南アの新枢軸国の奇襲攻撃を受けて劣勢に回った英米連合軍の切り札は、米海軍が誇る最新鋭ステルス原潜〈チャレンジャー〉。戦争の趨勢を左右する重大な密命を帯びた〈チャレンジャー〉は南アフリカめざして勇躍出撃する。が、行手の深海には恐るべき敵潜〈フォールトレッカー〉が待ち受けていた!全米で話題騒然の海洋軍事アクション小説の新鋭いよいよ登場! 内容紹介より
2000年に発表された、近未来軍事スリラーです。まず専門用語の多さが気になりますが、理解できないとついて行けないという程ではないので読み飛ばしました。しかし、なんといっても潜水艦内が主要な舞台であり、しかも原潜同士の戦いなので、場面転換しようにも変化に乏しいのが残念な気がしました。相手が空母や駆逐艦だったならひと味違ったのでしょうが……。物語のなかで一番の盛り上がりが、上陸して敵の研究所を攻撃する場面であって、潜水艦の中ではない、というのが皮肉な感じです。 また、敵艦の船長の造形が単なる悪役でしかなく、一向に代わり映えがしないのも退屈なところです。シリーズ化しているようですが、これ以上ストーリーに派生する感じがしない、あるいは派生しようがない、そんな印象を受けました。軍事オタク以外の一般読者を満足させるにはもうちょっとキャラクターなり、プロットなりに工夫が必要ではないでしょうか。
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『天使の護衛』ロバート・クレイス RHブックスプラス
2016-08-11
- Category : ☆☆☆
Tag :
その夜から、富豪の娘ラーキンの悪夢は始まった。深夜の街で起こした衝突事故。相手の車の後部座席の男はなぜか黙って姿を消し、車も走り去った。まもなく、消えた男は国際手配中の殺人犯、運転者は資金洗浄を疑われる不動産業者と判明、目撃者であるラーキンは命を狙われることに。娘の身を案じた父親は街一番の凄腕と評判のジョー・パイクに警護を依頼する。なおも執拗な襲撃を繰り返す敵に対して、パイクはあらゆる戦術を駆使して反撃を開始したが! 内容紹介より
村上和久氏による訳者あとがきによりますと、本書の主人公ジョー・パイクは、〈エルヴィス・コール〉シリーズ(日本では、新潮文庫、扶桑社ミステリーから刊行されています)のなかのサブキャラクターなのだそうです。なので本作ではエルヴィス・コールがサブキャラを務めています。
ちょっと捻りはあるものの、物語の構成は単純なボディガードもので、元警察官、元傭兵の肩書を持つ私立探偵である主人公がお金持ちの娘を護衛する、という話です。主人公の人物像が寡黙で感情を表に出さず、常にサングラスをかけている、なんていういかにもな造形で、一方、警護される娘も物質的には甘やかされてはいても、父親からの愛情に飢えている、というありがちな設定です。また、プロットについても新機軸などまったく見られません。さらに主人公が無口で無表情なものだから、言動とかそういうところで話が広がらないし、なんだかボディガードのイメージをカリカチュアしているようにも思えてきました。それから鑑識技師だか犯罪学者だかよく分からない、思い込みの激しいジョン・チェンの章がユーモラスなアクセントを添えています。
『容疑者』創元推理文庫
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『水底の骨』アーロン・エルキンズ ハヤカワ文庫HM
2016-08-08
- Category : ☆☆☆
Tag : アーロン・エルキンズ
十年前、ハワイで大牧場を経営するマグナスが失踪を遂げた。その遺骨が海の中から発見され、遺族の証言では当時のマグナスは殺し屋に命を狙われていたという。彼は逃亡の末にかわりはてた姿になったのか?現地を訪れていた人類学教授ギデオンは調査を開始。当初、それはごく普通の骨に思えた。だが、やがてその骨の異常さが明らかになり、遺族の隠されていた秘密が露わに……スケルトン探偵をも惑わせる遺骨の正体は? 内容紹介より
牧場経営者の兄弟のうち、焼失した建物から兄が射殺体で発見され、弟が失踪、妹の証言により殺し屋による犯行で、怯えた弟が自家用機で逃亡したことが判明する。その事件から十年後、海中に沈む飛行機の残骸が発見され、中からパイロットと弟のものとみられる遺骨が見つかり、被害者の甥の屋敷に滞在していたギデオンが遺骨を鑑定する、という流れです。わたしの記憶に無いだけかもしれませんが、たしかハワイを舞台にした作品はシリーズ初のような気がします。それにしてはいつものトラベルミステリ風な観光案内や情報が少なく、嫁のジュリーも一緒だというのに添え物程度でエピソードに乏しい感じがしました。プロットにしても、取ってつけたような終盤の殺人事件、これまた同様な真相でして、全体的に盛り上がりに欠けた印象でした。どうしてその場所に遺骨が残ったのか、という真相は捻りが効いているように思います。
ユーザータグ:アーロン・エルキンズ
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『キラー・エリート』ラヌルフ・ファインズ ハヤカワ文庫NV
2016-08-05
- Category : ☆☆☆☆
Tag :
プロの殺し屋デヴィリャーズは、オマーンの山岳部族の元族長から驚くべき依頼を受けた。四人の息子の命を奪った者を全員、映像に記録した上で抹殺してほしいというのだ。彼は二人の仲間とともに殺害者たちを探し始める。だが、極秘保安組織〈フェザーメン〉がその動きをとらえた。彼らの追撃をかわし、デヴィリャーズたちは困難極まりない仕事を達成できるのか?元SAS隊員にして世界的冒険家の著者が放つ傑作巨編! 内容紹介より
1991年に発表された原作をもとに、2011年の映画化にともない邦訳された作品だそうです。著者まえがきによれば実際に起きた、という体になっているのですけれど本当のところはどうなのでしょうか。個人的には眉唾もののような感じを受けましたが……。
部族の中での名誉を挽回するために、オマーン解放人民戦線(PFLO)とイギリス軍との間の戦闘中に死亡した息子たちの復讐を遂げなくてはならなくなった元族長が、ターゲットを事故死や病死に見せかけて目的を達する腕利きの暗殺チームに仕事を依頼する。SASに所属していた元軍人の抱える困難な問題を処理する私的な組織〈フェザーメン〉のメンバーが、殺し屋のひとりと偶然接触したため元SAS隊員が危険に晒されていることを嗅ぎつけるものの、それが誰で、相手の正体も動機を不明のまま調査を始めます。一方、暗殺チームも、依頼人の四人の息子たちがそれぞれに異なる戦闘において死亡したために、実際に該当する作戦の指揮をとった人物を探し出さなくてはならないために時間がかかります。このように複数のターゲットを設定したところが作品のみそであり、暗殺を実行する場面以外に、戦死した際のそれぞれに異なる状況も挿んで描かれるためストーリーが停滞しないでテンポよく進みます。軍人出身の作家に見られる思考のマッチョぶりが感じられず、淡々としてくどくない印象を受けました。
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『おかけになった犯行は』エレイン・ヴィエッツ 創元推理文庫
2016-08-02
- Category : ☆☆☆
Tag :
崖っぷち生活継続中のヘレン・ホーソーン、目下の仕事は電話セールス員。怒鳴られても侮辱されても、ひたすら耐えて売り込みを続ける日々のさなか、楽なリサーチ部門に回されたはいいが、電話越しに“殺人”が起きるところを聞いてしまう。慌てて警察に通報するが、現場には死体どころか事件のあった痕跡もなく、ただの勘違いで片づけられる始末。すねに傷持つヘレンはいったん引き下がるものの、納得できずにみたび探偵活動を開始する。そんなヘレンは成り行きで、トンデモない相棒と組むことになり……。好評〈ヘレンの崖っぷち転職記〉第三弾。 内容紹介より
著者あとがきによると、実際に電話セールスの仕事をしたことがあるそうです。内情は想像するとおりに、やはりかなりきつい仕事のようです。
主人公が、チャリティー会場を舞台にした、地元のセレブたちのいかがわしい裏の生態を垣間見る、というのが物語のひとつの目玉です。今回、ヒロインは、トップレス姿になったりキャットファイトをやったりと、従来のコージー・ミステリの垣根を超える展開を見せています。そしてセレブたちの金にあかせた暮らしぶりに較べ、彼女にとっては底辺と思われるような仕事をしていることで、同じ境遇の人たちの心情に思いをはせたり、彼らのために怒ったりもする面を見せたりしています。こういう一面がヒロインの人間的な魅力を高めているとともに、他のコージー作品との差別化が図られているように感じました。さて、失踪ものというとルース・レンデルがよく使っていたトリックがありますが、さすがに本作はそんな入り組んだプロットはありませんし、最初から犯人を特定して進んでいきます。ヒロインにとっては、これまで姿形も正体も不明だったマリファナの煙の中に隠されていた隣人にようやく出会えるという出来事が起きます。
『死ぬまでお買物』
『死体にもカバーを』
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌