『メグストン計画』アンドリュウ・ガーヴ ハヤカワ・ミステリ

2016-11-28

Tag :

☆☆☆☆

クライヴ・イーストンは、どうしても金が欲しかった。それも一攫千金でもなければ意味がない。偶然知りあった人妻イザベルを金持ちの夫から奪い取るためには、かつて潜水艦乗りとして勇名を馳せたものの、今は海軍省の一介の役人でしかない彼にとうてい手の届かない莫大な金を、なんとしても手に入れなければならないのだ。そんなとき、悪魔の囁きのようにイザベルが彼の耳に吹きこんだある計画がクライヴの心を捉えた……。その計画は実際にあった事件にヒントにしていた—まず、クライヴは海軍省の原子力潜水艦についての重要機密をわざとどこかに置き忘れる。そして唐突に行方を晦ませば、当然新聞は東側に機密を売った裏切者としてクライヴのことを書きたてるだろう。その後、機密書類が発見される頃あいを見はからって姿を現わし、各新聞を相手に巨額の名誉毀損の賠償を請求する……。要はタイミングと、念入りに仕掛けた伏線だ。クライヴは着々と準備を進めた。姿を隠すのは、ファーン群島の無人の島メグストン。わざと船を座礁させ、救援を待っていたふりをするのだ。クライヴは勇躍、メグストン島に向けて出発した。が、そこでは思いもかけぬ出来事が彼を待ちかまえていた……!緻密な頭脳、勇気と忍耐力が生みだした巧妙きわまる犯罪計画。恐るべきスリルに満ちたガーヴの代表傑作。 内容紹介より



冒険小説的要素も持つ、倒叙形式をとる犯罪小説で、動機は女と金といういたって一般的なものですが、金を手にしようとする手口はかなり壮大で巧緻なものです。新聞にわざと自身の誹謗記事を書かせて、その後に慰謝料として損害賠償金を請求するという計画。となれば、世間の耳目を集めるほどの非常に重大事件を企てないとなりませんけれど、彼の採ったのは東側のスパイ疑惑を思わせるような失踪事件で、その報道が盛り上がった頃に、実は船の座礁で無人島に流れ着いていた、というおちを明らかにするものです。
戦争中は潜水艦艦長として功績をあげ名声を得た主人公は、現在では一介の公務員としての仕事に嫌気がさしているところに、ある人妻と出会い、その悪女と愛欲の生活をしたいという欲求が募ります。彼の持つ優秀な頭脳と行動力で、計画の実行のために用心深く、且つ大胆に準備していくのですが、計画はほんの小さなほころびから……。悪女イザベルの存在も光りますが、彼の行動を詮索するライバルとして登場する人物を警察官ではなく、新聞記者にさせたところがとても巧みだし、その新聞記者が主人公としては計算外の誤解による恋敵の立場で現われた状況も皮肉が利いています。

『ヒルダよ眠れ』ハヤカワ文庫
『遠い砂』ハヤカワ文庫
『諜報作戦/D13峰登頂』創元推理文庫




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『風が吹く時』シリル・ヘアー ハヤカワ・ミステリ

2016-11-25

Tag :

☆☆☆☆

素人音楽家たちのつどい、マークシャア管弦楽団のシーズン最初のコンサートも、どうやら無事に始まったようだった。到着の遅れが心配されていたクラリネット奏者も何とか間に合ったようだし、オルガン奏者の姿が見えなかったのも演奏曲目の順序を変更することで切り抜けた。次はいよいよプロのヴァイオリニスト、ルウシイ・カアレスを迎えてのメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、今夜の呼び物である。が、ミス・カアレスを迎えに舞台をおりた指揮者のエヴァンズはなかなか戻って来なかった。そして、やがて戻ってきた彼は、聴衆にミス・カアレスの死を告げたのだった。建物の構造上、犯人が管弦楽団員のうちにいることは間違いなかった。が、警察が到着した時、現場は混乱を極めており、コンサート途中でステージに入ってきたにせのクラリネット吹きは影も形も見えなかった。やがて捜査が進むにつれ、楽団理事の一人が以前ミス・カアレスと結婚していたことなど、楽団員の錯綜した人間関係と思惑が明るみに出てきた……。作者シリル・ヘアーは、自身検事、判事を歴任した司法畑の人で、法律書の著述も多い。本書は、弁護士ペティグルウを探偵役に、イギリスの小さな地方都市で音楽会最中に起った殺人事件を、イギリス風ユーモアを交えて描く彼の代表作である。 内容紹介より



1949年に発表された作品で、戦後のまだ食料品や衣料品の不足が回復していない状況にある地方都市を舞台に、地元の管弦楽団のコンサート会場で起きたヴァイオリニスト殺人事件を弁護士で楽団理事のペティグルウを探偵役に据え、一方で地元警察の警部らの捜査を描く本格推理小説です。極端に言えばペティグルウは安楽椅子探偵であり、警部らが集めた捜査報告は上司の警察署長(本書では警察部長となっていますが)を通じて手に入るようになっています。さらに彼は積極的な探偵役ではなく、署長から内密に相談役として依頼されたためであり、警部も彼が捜査に協力していることは終盤に至まで知りません。こういう消極的探偵役が結構現実的であり、のどかな地方都市の地元住人である彼が事件に関わる流れも違和感がありません。地方ならではののどかさと地元にまつわるゴシップ、それから、ちょっと奇矯な楽団員たちなど取り揃えて風情があるように感じました。古典的パズラーの名残も見受けられるような気もします。

『自殺じゃない!』
『英国風の殺人』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ベルの死』ジョルジュ・シムノン ハヤカワ・ミステリ

2016-11-22

☆☆☆

美しいベルを殺したのはだれか?すくなくともスペンサーではなかった。昨夜,ベルが映画から帰ってきて挨拶しに顔を見せたとき、彼は趣味の轆轤まわしに夢中になっていた。ベルの顔は思いなしか悲し気に蒼ざめていたような気もするが、元来彼女はこの家の家族ではなかったので、大して気にもとめず、再び仕事に没頭していったのだ。スペンサーではなかった……。が,警察も医師も妻さえもが彼を疑っていた。証拠も彼にとって不利だった。ベルをごく普通の若い娘だと思っていたスペンサーは知らなかったが、ベルには何人もの男友達がおり、しかも殺された晩にはしたたかに酒を飲んでいたという。スペンサーにはびっくりすることばかりだった。そして、とんできたベルの母親の言葉。「穢したいという欲望さ……」次第にスペンサーの内に、ある考えが頭をもたげてきた。現代人の心の底に隠された自分にさえ見定められない秘密。ベルという一少女の死をきっかけに、一人の中年男の心の謎がときあかされていくさまを鮮やかに描く。 内容紹介より



知人から預かっていた娘が自宅で殺害された事件を契機に、平凡な教師が辿る心の揺れを克明に描いたサスペンスで、普通の謎解き小説ではありませんでした。主人公の思考は犯人は誰なのか、ということより彼自身の胸中へと向かっていきます。それは努めて目をそらしていた心の奥底の己自身を否応なく見据えること、彼が若い頃に、酒で身を持ち崩して自殺した父親の記憶とその同じ道を辿るのではないかという恐れ、それと相反する酒場に惹かれる気持ち。妻を母親の姿と重ねているのではないかという思いと、妻と違った女性への憧憬。彼が考えていた至って普通の娘と思っていたのとはまったく違っていたベルの知られざる姿がそういう想いに拍車をかける。そして主人公へ疑惑の目を向ける捜査関係者や知人たち。モノローグを主体にした心理描写が多いのと派手な展開に至らない地味なストーリーですけれど、刻々と迫ってくるような緊迫感と落としどころの見えない不安感があります。

ユーザータグ:ジョルジュ・シムノン




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『エルキュール・ポアロ』アガサ・クリスティ 集英社文庫

2016-11-19

Tag : 短編集

☆☆☆

ある夜、ポアロの部屋に下院院内総務と戦時内閣の閣僚が訪れた。明日,ベルサイユ宮殿で開かれる連合国会議を前に、イギリス首相が誘拐されたのだ。首相の欠席は最悪の結論を導くおそれがあり、24時間以内に発見しなければならない(「イギリス首相誘拐事件」)。「灰色の脳細胞」で事件を分析し、犯人の心理を洞察し、解決する名探偵エルキュール・ポアロ登場。 内容紹介より



〈世界の名探偵コレクション10〉シリーズの第四弾。
「イギリス首相誘拐事件」「《西の星》盗難事件」「エジプト王陵の謎」「クラパムの料理女の謎」「ヴェールの貴婦人」「二十四羽の黒鶇」「プリマス行き急行列車」「すずめばちの巣」

あのクルト・シュタイナさえ失敗した英国首相の誘拐をいとも簡単に成し遂げたドイツスパイの正体を暴いた「イギリス首相誘拐事件」。

中国にある仏像の目から盗まれたと噂される一対の宝石を巡る事件。宝石を手放し、元の場所へ戻せ、という脅迫状が持ち主へ届く。その相談を持ち主から受けたポアロが留守中に、もうひとつの宝石の持ち主が現われ、ヘイスティングが事情を聴くことに。名探偵気取りになったヘイスティングが見事にこけにされた「《西の星》盗難事件」。

巷に取り上げられた「ツタンカーメンの呪い」を元ネタにした「エジプト王陵の謎」。心臓発作,自殺、破傷風,敗血症で次々に亡くなった王陵の発掘者たちの謎に迫る。

国家的秘密や伯爵夫人の宝石しか扱わない、プライドの高い探偵と非難されたポアロが上流のレディが真珠をなくすくらいの重大事である、腕の良い料理女の失踪事件を請け負った「クラパムの料理女の謎」。

昔の恋人に宛てた手紙をネタに強請られた貴婦人と宝石強奪事件を結びつける「ヴェールの貴婦人」。

『クリスマス・プディングの冒険』に収録されている、贔屓のレストランで十年近く毎週火曜と木曜にきまった食事をとる老人が月曜日にまったく違ったメニューを注文した出来事の謎を解く「二十四羽の黒鶇」。

アメリカの富豪の娘が急行列車の客室で刺殺体で発見される「プリマス行き急行列車」。
計画された犯罪を未然に防いだ「すずめばちの巣」。

持ち物や服装から依頼人の身元を当てたり、犯罪現場で遺留品や証拠の品を嬉々として集めるベイカー街の名探偵にあてつけるポアロの言動が面白かったです。それに国家の一大事や上流階級のスキャンダルしか扱わないというのも皮肉が利いています。

『クリスマス・プディングの冒険』ハヤカワ文庫HM




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『密林の骨』アーロン・エルキンズ ハヤカワ文庫HM

2016-11-16

☆☆☆

アマゾン河を旅する格安ツアーに参加したギデオンだが、同乗者は奇妙な人間ばかりだった。不穏な雰囲気の漂う民族植物学研究者一行,秘密を持つ船長,出自不明のガイド。やがて事件が勃発する。岸の方から槍が飛来し、船内に突き刺さったのだ。そしてその穂先の基部に巻かれていたのは……さらに接岸した場所で不思議な穴のあいた骨が発見され……一片の骨から名推理を展開するスケルトン探偵ギデオンが密林の闇に挑む。 内容紹介より



アマゾンの密林で起きた大学教授がまだ学生だった頃にコカを栽培する首狩り族との間で起きたトラブルを序章にし、アマゾン河流域でのフィールドワークを目的とした、民族植物学の大学教授、同僚の助教授、大学院生、フリーライター、民族昆虫学者の一行に主人公らが同行するという展開です。引率者である大学教授に対して、他のメンバーが敵意なり反感を抱き、また、なにか得体の知れない現地のガイド、それに、一行が利用する船の船長は教授となにやら密約を結んでいるという設定です。
世界有数の大河と高湿度の密林,そこに生息するピラニアを始めとしてピンクのカワイルカ、鳥をも襲う大蜘蛛などの生物、これまで以上に異国情緒豊で野性味溢れた旅を舞台にしているのですけれど、ミステリに関しては、スケールの大きなアマゾンという舞台を生かしきれていないような、ちょっと食い足りないような感じが否めないし、ギデオンが原住民に連行される場面や真新しい骨の欠片も取って付けたかのような印象を受けました。

ユーザータグ:アーロン・エルキンズ




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『聖なる道化師』トニイ・ヒラーマン ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2016-11-13

Tag :

☆☆☆

風刺劇を演じる道化役の男が何者かになぐり殺された。リープホーン警部補直属の部下になったチー巡査は失踪した少年の行方を追って、たまたまこの事件の現場に居合わせることになった。捜査を始めたリープホーントチーは、最近起きたもうひとつの殺人事件との間に、わずかな接点を見出すが……奥深い謎に秘められたドラマを描いて読みごたえ充分の話題作 内容紹介より



このシリーズには独特のタッチとかテンポがあって、それが読んでいて毎回心地良く感じます。今回は、教師である白人と部族の世話役であるインディアンの、ともに“立派な男で世の中のためになる人”が被害者になった二件の撲殺事件が起りますが、二つの事件の管轄がそれぞれ異なっているせいでチー巡査は片方の事件にしか手を出せず、もう一方はリープホーン警部補が捜査を手伝う格好になっています。
神の代わりに、観衆の前で愚かな劇を演じて、道を踏み外そうとする人間たちに、自らの過ちを気づかせる役目を負っている道化師がテーマになっています。女友だちとの結婚を考えているチー巡査がタブーとされている同族との婚姻を気に掛ける姿 未解決のひき逃げ事件を解決しそうになりながら、はたして犯人を逮捕することが正しいことなのか考える様子を通じて非常にインディアン的な物事の捉え方、考え方が際立っているように感じました。主役の二人にとっての関係と、さらに彼らの女性関係にとっても転換点にあたる作品になっています。

『時を盗む者』
『黒い風』
『話す神』
『コヨーテは待つ』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『夜勤』ローリー・キング 集英社文庫

2016-11-10

Tag :

☆☆☆

妻に暴力をふるっていた男とレイプ常習犯の死体が発見された。これと前後して、謎の団体に男が電柱に裸にされてくくりつけられる事件が起きる。前の二つの事件とのつながりは?サンフランシスコ市警のケイトの捜査は難航するが、やがてインターネット上に、妻や恋人を虐待した男の名簿を載せたホームページをつきとめる……。MWAとCWAの最優秀新人賞を受賞した人気シリーズの最新作。 内容紹介より



〈捜査官ケイト〉シリーズの第四作目。第三作目の『消えた子』は未読です。
『愚か者の町』では、「愚者」をテーマにして、聖書やシェークスピアの作品に言及されることが多かったのですけれど、本書ではインドの神話や宗教などに登場する“女神”をテーマにしています。女神といってもたいまつを掲げるそれではなく、殺戮と血を好む女神です。歴史的に抑圧されてきた女性と彼女たちの権利、そして虐待する男たちへの復讐心が強調されています。家庭内暴力や児童虐待を行う男たちを拉致して裸にして晒す、という活動をする団体が出現し、その行動がエスカレートしたかのような連続殺人事件が発生します。女性で、性的少数派であり、男性優位の職場に属する主人公が事件の捜査にあたるわりに、そういう思想や活動にたいする彼女の考えや思い入れが密にリンクされているようには描かれていないみたいに感じました。インドの貧しい村から嫁に貰われてきた少女に起きた事件にはもっと感情の表出があって欲しかったし、家庭内に犯人が限定されているにもかかわらず、捜査の力の入れようのなさに違和感が残りました。

『捜査官ケイト』
『愚か者の町』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『殺人図像学』マルコス・M・ビジャトーロ 創元推理文庫

2016-11-07

Tag :

☆☆☆☆

《翡翠のピラミッド》連続殺人を解決し、犯人逮捕の際に受けた傷を癒すロミリア。だが、療養中の彼女の前に、新たな事件が起きる。七年前に姉ケイティを恋人ともども惨殺した連続殺人鬼“ウィスパラー”が帰ってきたのだ!各地に移動しながら殺人を繰り返し、犯行現場と犠牲者に奇妙な装飾をほどこしていく“ウィスパラー”の真意は?姉の復讐に、ロミリアの内なる炎が燃え上がる。FBIとともに捜査に乗り出した彼女だが、思わぬ協力者が登場した……その名はテクン・ウマン。逃亡した麻薬王が届ける手かがりは、ロミリアへの好意のゆえか?芸術的殺人鬼が罠を仕掛ける邪悪なゲームに挑戦する、刑事ロミリア自身の事件。 内容紹介より



姉が無惨に殺された体験から、胸中にある復讐心と怒りによって犯罪者への暴力傾向を時に現わしてしまうことがある刑事をヒロインにした、かなりハードな、そして一匹狼タイプであるために警察小説ではなく警察ミステリの色合いが強い作品です。今回はさらに彼女の子どもが覚せい剤の一種を誤飲するという出来事があったせいで、怒りに油を注ぐという事態が起ります。そして、その怒りの矛先は逃亡中の麻薬王へと向かうのですが、彼女に好意的かつ命を救われた麻薬王が、FBIの連続殺人事件のファイルをハッキングして
送る、というなんだか、やや錯綜した状況と奇妙な関係ができます。さて大量殺人事件の方はある芸術作品をモチーフにして犯行に及んでいるのですけれど、この謎も凝った作りで奥が深く、読み応えがあるものでした。ただ、犯人が使用したと思われるクレジットカードの使用履歴を照会しなかったところは、言い訳が用意してあるにしてもお粗末な気がします。ヒロインを等身大の人間に造形しているところも好感が持てるこのシリーズの翻訳は止まっているみたいですが、話題になったのかどうかわからないけれどなかなかの佳作だと感じました。

『褐色の街角』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『老女の深情け』ロイ・ヴィカーズ ハヤカワ文庫HM

2016-11-04

Tag : 短編集

☆☆☆

寂しい金持ち女に窮地を救われ、結婚を迫られた男は、衝動的に彼女を絞殺した。強盗に襲われたように装い、証拠品はすべて処分、アリバイも完璧で、事件は迷宮入りしたかに見えた。死体に残されたアクセサリーの痕跡を、迷宮課のレイスン警部がみつけさえしなければ……スコットランド・ヤードで他の係や課が捨てたあらゆるものを引き受ける迷宮課の事件簿を公開。倒叙ミステリの伝統を守る全8篇を収録した短篇集第三弾 内容紹介より



迷宮課事件簿Ⅲです。
殺された猫のための敵討ち、切り口が他の作品と異なる「猫と老嬢」、妻に去られた後ろめたさを持つ男が再婚するが姑が原因でまた妻に去られそうになったことで起きた事件「ある男とその姑」、強迫神経症気味の男が妻の指摘でそれを治そうとするがある出来事で壊れてしまう「そんなつまらぬこと」、人のためと思ってやった好意が自分の首を絞めてしまう事態に陥った男の犯罪「感傷的な周旋屋」、「老女の深情け」、学校の寄宿舎で起きた火事で身体に障害を負った男とそのことを自分のせいだと気に病む男の「いつも嘲笑う男の事件」、うぶな田舎娘を誘惑した男が練った完全犯罪がある出来事でほつれる「夜の完全殺人」、一時の気の迷いで女性と関係を持ったために彼女と結婚し、罪をあがなうごとく接する夫の感情に気づいた妻による事件「ヘアシャツ」

根っからの悪人とか邪悪な人物ではなく、ちょっと風変わりだったり、少々ズレている人物たちが、何も殺さなくてもって言いたくなるような状況で殺人事件を引き起こしてしまう、という意味では非常に三面記事的なリアリティがただよっているのかもしれません。しかし、すべてが倒叙ミステリで、いわゆる一瞬の怒りや狂気といえるような偶発的、衝動的な犯行という場合が多く、しかもささいな物証で犯行が発覚するというパターンをとる作品が多いためにそんなのを8篇も揃えられるとやはり飽きてきます。また、大どんでん返しや迷宮課事件簿Ⅱに収録された「百万に一つの偶然」のような意表を突く作品もないので派手さには欠ける印象が残りました。



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『これ誘拐だよね?』カール・ハイアセン 文春文庫

2016-11-01

☆☆☆

アイドル歌手チェリーはドラッグ漬け。それをマスコミから隠すためチェリーの影武者になった女優の卵,アンが誘拐されてしまった。マネジャーは奪回作戦を起ち上げるが。セレブとパパラッチと誘拐犯、片腕に秘密兵器を仕込む悪党と正義に怪老人が入り乱れる大混戦。最後に笑うのは?世界一のユーモア・ミステリ作家の新作。 内容紹介より



ハイアセンの作品の中でも、奇妙キテレツな人物がそろい踏みといった感じがする本書です。なかでも特にアイドル歌手をつけ狙う、汗臭いデブのパパラッチは存在感がひとしおです。でもハイアセンの作品の常連である元フロリダ州知事スキンクとアイドル歌手の、左手に草刈り機を仕込むボディガードになったケモは、がたいや風体に似ているところや影武者役のアンにたいする感情がやや被っている印象も残りました。スキンクは相変わらず、土地開発業者から見れば環境テロリストのスタイルを維持する安定感を保ったまま、あちらこちらで騒動を巻き起こしています。そして一方、セレブ、そして彼らを取り巻く、あるいは彼らに群がる、家族やプロデューサーを始めとするスタッフたちの金と名声にまつわるもくろみ 、これらが引き起こす痴態醜態、スキャンダルへの一般大衆の異常で貪欲なまでの興味関心を皮肉りつつ、当のセレブたちの真偽ないまぜにした不行状を実名を挙げて俎上に上げるのは、肴にされた彼らにとってはたまったものではないでしょうけど読者には愉快で面白く感じるのでした。

ユーザータグ:カール・ハイアセン




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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