『怪奇礼讃』E・F・ベンスン/A・ブラックウッド 他 創元推理文庫

2016-12-28

☆☆☆

本書は怪奇小説のアンソロジーである。19世紀末から20世紀前半にかけての、英国の古風な、それでいて少しひねくれた、変わった味の作品を中心にまとめたものである。不思議な話、変な話、謎めいた話、そしてなおかつ怖い話を……。ベンスン、ダンセイニ,ブラックウッドをはじめ、怪談通を唸らせるウェイクフィールド、ボウエン、バレイジ、奇妙な味わいのマクダーミッドやトマス、怪奇にユーモアをしのばせたベアリング=グールドやアラン、そして極めつきの恐怖譚、ベリスフォード「のど斬り農場」……巨匠の名品から知られざる作家の幻の逸品まで、本邦初訳作を中心に22編を厳選。古雅にして多彩な怪奇小説をご賞味あれ。 内容紹介より



収録作品、
「塔」マーガニタ・ラスキ、「失われた子供たちの谷」ウィリアム・ホープ・ホジスン、「よそ者」ヒュー・マクダーミッド、「跫音(あしおと)」E・F・ベンスン、「ばあやの話」H・R・ウェイクフィールド、「祖父さんの家で」ダイラン・トマス、「メアリー・アンセル」マーティン・アームストロング、「「悪魔の館」奇譚」ローザ・マルホランド、「谷間の幽霊」ロード・ダンセイニ、「囁く者」アルジャナン・ブラックウッド、「地獄への旅」ジェイムズ・ホック、「二時半ちょうどに」マージョリー・ボウエン、「今日と明日のはざまで」A・M・バレイジ、「髪」A・J・アラン、「溺れた婦人」エイドリアン・アリントン、「「ジョン・グラドウィンが言うには」」オリヴァー・オニオンズ、「死は素敵な別れ」S・ベアリング=グールド、「昔馴染みの島」メアリ・エリザベス・ブラッドン、「オリヴァー・カーマイクル氏」エイミアス・ノースコート、「死は共に在り」メアリ・コルモングダリー、「ある幽霊の回顧録」G・W・ストーニア、「のど斬り農場」J・D・ベリスフォード。

ミステリーソーンやトワイライトゾーン系の話が好きな方にはお勧めしたい、ホラーに偏らない一風変わった作品が収録された短篇集です。以下、主な作品の感想です。

出征した婚約者が戦死し、宿泊所を兼ねたパブの主人と結婚した女性。日常生活を淡々と過ごす彼女の唯一の心の癒しは、海に面する丘に登って最愛の婚約者の幽霊と過ごすこと。彼女の痛切なある願いが、宿泊客の一言で叶えられる。とても哀切漂う作品「メアリー・アンセル」。
アレクサンドリアで商売をする英国人の主人公は、金のこととなると非常に冷酷になる人物。借金のかたに店兼住居を取り上げ、貧しい一家を立ち退かせるが、その家族のなかの老婆が彼にむかって呪文を唱えると、その夜から歩く彼の後から足音が聴こえるようになり、彼を悩ませる。オチが日本の怪談話のような「跫音」。
物乞いに呪いをかけられた雑貨店の店主。店の窓の外で繰り広げられるミステリーゾーンみたいな時の錯綜劇「今日と明日のはざまで」。
未来で起きた事故あるいは事件によって幽霊になった考えられる女性の亡霊が現代に現れる話。かなり奇抜な着想が面白いし、女性の身に何が起きたのかを考えると恐い「溺れた婦人」。
「塔」は、廃墟と化した村に残された「犧の塔(四百七十階段)」と呼ばれる建築物。そこを訪れた新妻の無気味な体験。こういう怪談話の場合は、地下墓地に降りていく話が多いと思うのですが、この作品は登って降りてくる話です。でも、降りても降りても……。
「死は素敵な別れ」は、面白みのない、謹厳なプロテスタントの妻にうんざりしていた夫が、その妻が亡くなったため若い女性と結婚しようとする。それを快く思わない妻の幽霊が夫の邪魔をするというホラーコメディ。婚約者との結婚を諦めようと彼が訳を話すと、実は婚約者にも幽霊が取り憑いているというのだった。メイ・シンクレアの「証拠の性質」も似たような設定でした。同じくホラーとコメディが融合した「のど斬り農場」。
シオドア・スタージョンの「それ」のように、太古から地球に存在する得体の知れないもの。それと接触し、無情を感じさせる「谷間の幽霊」、知識、知恵、芸術、宗教、思想が書物を通してそれに浸透し、来る者に囁きかける「囁く者」、それが実体化して人間界に潜み、接触した一部の人間に悪を感じさせる「よそ者」、善悪に別れた二つのそれ(魂)が巡り会って、善が悪によって攻撃される「オリヴァー・カーマイクル氏」。
事故死したばかりの老人の過去がよみがえる「「ジョン・グラドウィンが言うには」」、 バスに轢かれた男が数年間の幽霊としての日常と意見を語る「ある幽霊の回顧録」、生者と生前彼と親しかった死者たちがある孤島で巡り会う、せつない「昔馴染みの島」。

今年最後の更新になります。当最果ての孤島ブログを訪れて頂いた皆様、誠にありがとうございます。どうぞ良いお年をお迎え下さい。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『サンタクロースにご用心』 シャーロット・マクラウド編 扶桑社ミステリー

2016-12-25

☆☆☆

聖なる夜に人はみな、心静かに己れの罪を悔い改め—というわけにいかないのが世のならい。大学構内で出回った贋札造りの犯人探しに奔走するシャンディ教授。いきのいい女探偵のオフィスにころがりこむ死体。クリスマス劇の天使が射殺される一方で、二人の娘とその貧乏亭主に遺産めあてに殺されてしまうと疑心暗鬼の父親。ましてや妻殺しを計画する夫にいたっては……。はらはらさせたり、泣かせたり、一転絶妙なコンゲーム。趣向をこらした書き下ろしのクリスマスミステリーが13編。イヴの夜、とびきりのプレゼント! 内容紹介より



収録作品、「贋札造りのクリスマス」シャーロット・マクラウド、「鹿狩り」レジナルド・ヒル、「私立探偵リズ・ピーターズ」エリザベス・ピーターズ、「赤い髪の天使」メードラ・セール、「もつれた糸をほどくには」ジョン・マルコム、「バーゲン品につき……」ドロシー・キャネル、「サンタクロースにご用心」ビル・クライダー、「ファミリー・クリスマス」パトリシア・モイーズ、「ミス・メルヴィルの好運」イーヴリン・スミス、「俺たちの福音」エリック・ライト、「ニックが街にやってくる」ミッキー・フリードマン、「イヴの罠」ロバート・バーナード、「鍋いっぱいのササゲ豆」マーガレット・マロン

サブタイトルは、「クリスマス13の物語」です。
全編書き下ろしですから、それぞれ出来不出来があります。「鍋いっぱいのササゲ豆」は、ミステリとして大事件が起きるわけではありませんが、万引き常習者である黒人女性の人柄や人間性を良く表して人生の機微を描いたほろりとさせる良作です。また、「バーゲン品につき……」も、想い出のティーポットを割ってしまった女性が、バーゲンセールで一個しかない同じポットを手に入れるために前夜からデパートに忍び込んでしまうというちょっとした人情話。舞台は同じデパートでも「サンタクロースにご用心」は、万引き被害に悩む地元のデパートにサンタの扮装をして子どもたちの願いを聞きながら犯人探しをする話。細部に気が利いていると感じた「俺たちの福音」は、自分たちを警察に密告した酒場の店主を救世軍を装って、面子をつぶして金もだまし取ろうとする話。「サンタなんか大嫌いだっ!」という手紙をある子どもから貰ったサンタクロースが、探偵となって宝石窃盗事件を解決する「ニックが街にやってくる」。クリスマス劇に代役として出演していた天使役の女性が劇中に射殺されてしまう「赤い髪の天使」。“赤い髪”といえば、あの有名な名探偵が活躍する作品を思い浮かべますが、「鹿狩り」は、その名作のモチーフを使ったみたいな話です。しかし、レジナルド・ヒルらしさは感じらず、いかに元ネタが優れているかがわかります。大学構内のクリスマス期間中の夜店で使われた、大学学長を肖像画に替えた贋札造りの犯人を追うシャンディ教授が懐かしい「贋札造りのクリスマス」。これまた懐かしいミス・メルヴィルが元独裁者を暗殺しようとする「ミス・メルヴィルの好運」。クリスマスプレゼントに爆弾を仕掛けて妻殺しを企む内務省の高官の話「イヴの罠」。「ファミリー・クリスマス」は、遺産目当てに娘夫婦がクリスマスディナーの中に毒を盛るのではないかと心配する、スクルージみたいな吝嗇家の夫を気遣った妻がやった余計なこと。人を殺そうとするには不意打ちに限る、ということを再確認できる「もつれた糸をほどくには」。ハードボイルド物のパロディなのか 特大ハーシーチョコ三枚をいっぺんに食べてもへっちゃらな女探偵がどうでもいいような活躍を見せる「私立探偵リズ・ピーターズ」。

ユーザータグ:クリスマス・ストーリー




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『今宵は浮かれて』アリサ・クレイグ 創元推理文庫

2016-12-22

Tag :

☆☆☆

四日間のクリスマス休暇を得たマドックは、ふとした成り行きから、コンドリック一族のクリスマス・パーティに参加することになった。かたわらには婚約者のジェネット。ワッセル酒が振舞われ、ユールログは火と燃え—シャルール湾に望む広大なお屋敷で宴はにぎやかに進んでいったが、そんな浮かれ騒ぎに冷水を浴びせるように、一つの死体が発見される。これは自然死?いや、入歯が紛失してその二、三時間後に、その所有者が死亡するなどという偶然があるはずがない……。ユーモアと謎解きの妙味が味わえる、マドック&ジェネット第二弾! 内容紹介より



シリーズ一作目の『殺人を一パイント』の内容はまったく覚えていません。ジェネットがもう少し謎解きの中心になってたような気がしますが、本作では彼女の婚約者マドックが主要な役割を果たしています。ヘリコプターも登場するため、年代設定は作品が発表された1981年と同じくらいなのでしょうけれど、この主人公たちの恋愛に関するおりこうさん振りは、一時代前の人間の道徳観みたいで妙な感じも受けてしまいました。こういう品行方正な造形も主人公たちのイメージがインパクトに欠けている要因の一つなのは否めません。さらにマドックがどうしてそれほど他殺だと確信できるのかも、明確な証拠の提示がされていないためにふに落ちませんでした。そして子ども騙しのような、犯人を自白させるための企てといい、すべてが緩い雰囲気に仕上がっています。家族間の確執を人間模様として描いてあれば良かったのでしょうが、クリスマス・パーティ、クローズドサークル気味な舞台設定、幽霊船の出現などミステリの道具立ては整っているのに、表面を撫でただけみたいな少々残念な作品でした。

『殺人を一パイント



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『たたり』シャーリイ・ジャクスン 創元推理文庫

2016-12-19

Tag : ホラー

☆☆☆☆

八十年の歳月を、闇を抱いてひっそりと建ち続ける〈丘の屋敷〉。心霊学研究者のモンタギュー博士は調査のため、そこに協力者を呼び集めた。ポルターガイスト現象の経験者エレーナ、透視能力を持つセオドラ、そして〈屋敷〉の持ち主の甥ルーク。迷宮のように入り組んだ〈屋敷〉は、まるで意志を持つかのように四人の眼前に怪異を繰り広げる。そして、図書館に隠された一冊の手稿が〈屋敷〉の秘められた過去を語りはじめるとき、果して何が起きるのか?〈魔女〉と称された幻想文学の才媛が描く、美しく静かな恐怖、スティーヴン・キングが「過去百年の怪奇小説の中で最もすばらしい」と絶賛した古典的名作、待望の新訳決定版。 内容紹介より



本書は2008年に改題して、現在は『丘の屋敷』という邦題になっています。
ホラー小説の歴史には疎いのでわかりませんが、この作品はポルターガイストを扱った、屋敷を舞台にしたホラー作品のタイプ標本みたいな位置づけなのでしょうか。幽霊や化け物は登場せず、屋敷そのものがモンスターみたいに描かれているので……。
十一年間にもわたって母親の介護をしてきた三十代後半の独身女性エレーナの視点から物語が語られていく構成になっていて、これは彼女ひとりの精神状態、心理の変化に読者の目を向けさせる意図があるとしても、ときどきは他の登場人物のそれを挟んでも良かったような気もします。これはどういう事情があって館が化け物屋敷化したのかという説明がすっぽり省かれている点にも言えることで、ある程度の経緯なりがあればと、物足りなさを少々感じました。一方、エレーナが世間知らずの夢想家だという状況説明が屋敷に向かう道中でなされるのですが、いろいろはトピックを織り交ぜていて非常に巧妙です。屋敷によって、そんな彼女のいわば純粋な心の隙を突かれ、つけ込まれ、徐々に精神の変調をきたす過程が微細に紡がれていきます。

ユーザータグ:ホラー

『ずっとお城で暮らしてる』シャーリイ・ジャクスン 学習研究社




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『黒い玉』トーマス・オーウェン 東京創元社

2016-12-16

Tag : ホラー 短編集

☆☆☆

夕暮れどきの宿で、彼がつけた明かりに驚いたかのように椅子の下へ跳び込んだそれは、かぼそい息づかいと黄楊の匂いを感じさせる奇妙な“黒い玉”。その正体を探ろうと、そこを覗き込んだ彼を待ち受けるのは、底知れぬ恐怖とおぞましい運命だった―。ベルギーの幻想派作家トーマス・オーウェンが描く、ありふれた日常に潜む深い闇。怖い話、気味の悪い話など十四の物語を収録。 文庫版内容紹介より



収録作品
「雨の中の娘」「公園」「亡霊への憐れみ」「父と娘」「売り別荘」「鉄格子の門」「バビロン博士の来訪」「黒い玉」「蝋人形」「旅の男」「謎の情報提供者」「染み」「変容」「鼠のカヴァール」

幻想奇譚系の短篇集です。単行本に付いている帯の惹句には「傑作「黒い玉」を読まずに怖いと言うなかれ……あえておすすめします。夜、ひとりでお読みになることを。」、とあったので、恐がりなわたしは、あえて昼間にひとりで読みました。「黒い玉」は「変容」と同様に“変身”系のお話で大人の男性が異様な姿形に変わってしまう、かなりシュールな作品です。また、「父と娘」も変身ものですが、侮蔑語で使うビッチと雌犬をあまりにもストレートに結びつけた話。一方、ロールシャッハ・カードのような模様を作り出す遊びのなかで、奇態な生き物を出現させてしまった「染み」。旅行中に偶然見つけたカタコンベ。その棺のひとつを開けて中を覗いた男の婚姻話「亡霊へ憐れみ」。死んだ女性と気づかずに交流してしまう、あるいは愛してしまう「雨の中の娘」と「鉄格子の門」、そしてその別バージョンである「旅の男」。「バビロン博士の来訪」は、自宅で起きる怪異な音に怯えた男が夜中に家の前の路上で出会った人物の話。物への執着を描いた「蝋人形」と「鼠のカヴァール」。妻の知らない姿を知らされた夫に芽生えた疑惑が妄執へ発展する、心の闇を描いた「謎の情報提供者」。目先を変えた、ホラーとユーモアが混ざった佳作「売り別荘」。恐怖が行動を凶行にエスカレートさせる「公園」。

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『黒衣の女 ある亡霊の物語[新装版]』スーザン・ヒル ハヤカワ文庫NV

2016-12-13

Tag : ホラー

☆☆☆☆

広大な沼地と河口に面し、わずかに水上に出た土手道で村とつながるだけ。その館は冷たく光りながら堂々とそそり立っていた。弁護士のキップスは、亡くなった老婦人の遺産整理のため、館にひとり泊まりこむことになる。だが立ちこめる霧があたりを覆うと、想像もできなかった怪奇が襲いかかった……孤立した館にしのび寄る恐怖をじっくりと描きあげ、伝統ある英国ゴースト・ストーリーの歴史に新たなページをひらいた傑作 内容紹介より



じわりと怖い。でも、夜ひとりきりで家にいて眠れなくなりそうなほどではない。だって外国だし、三階建ての古い洋館に住んでないし、家のまわりが水没して孤立する場所でもないし……。だがしかし、もし、これを日本に舞台を置き換え、子持ちの身だったりしたらかなり恐ろしいかもしれない、身近な題材を採ったジャパニーズ・テイストのシチュエーションともいえるので、こういう亡霊が日本にいてもなんら不自然ではないです。なぜならキリスト教的な情感を感じず、悪魔だとか原罪だとか、そんな風味で怖がらせようとはしていないから。いたって普遍的などこの土地にもある母親による子どもへの愛情が物語の基本になっているため、そういうところが日本人に受け入れやすいかたわら、和物の怪談でもよく取り上げられているために、あまり怖くないと感じる読者もいるかもしれません。愛情が強くて深いほど憎悪も激しさを増す、そんなことを感じた物語でした。

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『弱気な死人』ドナルド・E・ウェストレイク ヴィレッジブックス

2016-12-10

Tag :

☆☆☆

とにかく金がない!— 贅沢を望んでいるわけでも、湯水のごとく金を使ったわけでもないのに、とうとうバリーはにっちもさっちもいかなくなってしまった。困り果てた末に思い出したのは保険金のこと。調べてみると、解約金はおりないけれど、事故死すれば倍額支払われるという。こうなったら死ぬしかない、とバリーは妻ローラとその兄の助けを借りて、ローラの生まれ故郷、南米のとある小国でみずからの死を演出することに。最初はとんとん拍子に悪巧みが進むかに見えたのだが、予想外の出来事が次々起きて、計画は次第にほころびはじめ……。ミステリー界の巨匠による迷(?)作。解説:木村二郎。 内容紹介より



ウェストレイクのユーモアミステリというと、もっとスラップスティック色の強い作品のイメージがあったのですけれど、全体に抑制が利いている印象が残りました。はちゃめちゃがあまりに強いストーリーは個人的には苦手なので、これはこれで良いのですが若干拍子抜けしました。警察や行政機関の仕事ぶりがそれほどきちんとしているわけでもなく、親兄弟親戚一同が面倒を見たり、助け合う風潮の人間関係が緊密な中南米を舞台にしているところが、この作品の要なのでしょう。血縁という理由だけで、義兄や金持ちの親戚が主人公夫婦の悪巧みに深く協力する一方、親族同士でも貧富の差が存在するために、主人公夫婦が手に入れようとする保険金を横取りしようする従兄たちも出てきて一騒動が起きます。そこに一癖ありそうな警部や有能な保険調査員が主人公につきまとい窮地に陥れます。どこか飛び抜けた作品というわけではありませんが、快調で軽妙に素人による詐欺事件が描かれているし、アメリカ人が抱く中南米の国と人へのステレオタイプなイメージを軽く揶揄しているようにも感じました。

『逃げだした秘宝』ハヤカワ文庫
『悪党パーカー/エンジェル』 リチャード・スターク ハヤカワ文庫HM




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『結婚は殺人の現場』エレイン・ヴィエッツ 創元推理文庫

2016-12-07

Tag :

☆☆☆

南フロリダで相変わらずの崖っぷち生活を送るわれらがヘレン・ホーソーン、新たな職はブライダルサロンの店員。ちょっぴり時給はあがったものの、厄介な花嫁や同じくらい厄介なその親族に囲まれ、神経をすり減らす毎日だ。そんな顧客の中でも極めつけのお騒がせ人物だった花嫁の母キキが、ようやく漕ぎつけた挙式当日に殺されてしまう。しかもヘレンが第一発見者とあって、いつも以上に警察の追求が厳しい。いっぽうプライベートでも、順風満帆だった恋人フィルとの仲に、思わぬトラブルが出現して……。転職ミステリ、お待たせしましたの第四弾。 内容紹介より



コージーものとしては珍しい、人生の悲哀と言うか、しんみりとした感じを抱かせる本シリーズですけれど、今回はブライダルサロンが舞台です。来店するお客たちの誰もかれもが幸せ満々というわけではなく、ステップアップのために上司の娘と結婚しようと目論む花婿や世間体を考えて見栄えが良く出世しそうな男と結婚しようとする花嫁というありそうなものから、母親の言いなりになって好みのウェディングドレスも選べない花嫁、娘の結婚式に花嫁以上に目立ちたがりな母親、富をひけらがしたいがための花婿、彼ら彼女らは何時間もかけて高価なドレスを選ぶのです。しかし、「こんなにたくさんお金をかけて、こんなに一生懸命に計画を練っても、目の前を通り過ぎていく結婚の半分は失敗に終わる。わたしのように。」(p314)、とヒロインは嘆くし、「お母さんは失われた若さを取り戻そうと必死だし、(略)花嫁は花嫁ですっかりすっかりおかしくなっちゃってるし、別人格になるわ」(p316)とサロンのオーナーは語ります。人生のとって大きな節目の大事なイベントなのに、親も娘もその相手もそれぞれに思惑を抱え、端から見たらどたばた劇にしか思えませんが、そこに哀れみを挿むところが本書の魅力だと思います。

『死ぬまでお買物』
『死体にもカバーを』
『おかけになった犯行は』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『E・S・ガードナーへの手紙』スーザン・カンデル 創元推理文庫

2016-12-04

Tag :

☆☆☆

シシー・カルーソー。元ミス・コン優勝者。離婚歴あり。娘ひとり。ヴィンテージファッション・フリーク。職業はライター。ミステリ作家の伝記が専門で、現在はペリー・メイスンの生みの親E・S・ガードナー伝を執筆中だ。ある日、彼女は弁護士だったガードナーの資料中から、妻殺しの罪で投獄された男の冤罪を訴える手紙を発見した。そこにはガードナーによる「要追跡調査」というメモが残っていた。しかし彼は45年後の今も囚人として生きていた。ガードナーの素顔を求めて彼への面会を決めたシシーは過去の殺人事件の真相に迫ることに……。 内容紹介より



ミステリ作家専門の伝記ライターというニッチな職業を主人公に設定したことの利点は、対象とするミステリ作家やその作品についての裏話などのうんちくを作中で語れることでしょう。本書ではE・S・ガードナーを取り上げるという、なかなか目の付けどころの良い人選をしています。そしてE・S・ガードナーと今回の事件を結びつける鍵は45年前に出された手紙ということで読者の興味をそそります。ヒロインはガードナー伝の取材と資料集めのかたわら、無罪を主張する服役中の夫のために調査に奔走するというストーリーで進展します。
この本筋に主人公の娘夫婦の離婚騒動やら彼女自身のロマンスやらを絡めてくるところはコージー色っぽく、ヴィンテージファッションの話題は興味がない人間には煩わしく感じました。ミステリとしては、実際にガードナーが、冤罪の疑いのある事件を調査と再審請求をする活動を行った「最後の法廷」活動と今回の事件をうまくリンクさせて、被害者と容疑者たちの過去を掘り起こす過程を描き、被害者はどういう人物だったのか、どうして夫は事件当日のアリバイを明らかにしなかったのか、という謎を解いていきます。真相の回りくどさはあるものの、意外な動機が明らかにされています。

『少女探偵の肖像』





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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ゴッサムの神々』リンジー・フェイ 創元推理文庫

2016-12-01

Tag :

☆☆☆☆☆

1845年、ニューヨーク。バーテンダーのティムは街を襲った大火によって顔にやけどを負い、仕事と全財産を失ってしまう。新たに得た職は、創設まもないニューヨーク市警察の警官だった。慣れない仕事をこなしていたある夜、彼は血まみれの少女とぶつかる。「彼、切り刻まれちゃう」と口走って気絶した彼女の言葉どおり、翌日胴体を十字に切り裂かれた少年の死体が発見される。だがそれは、ニューヨークを震撼させた大事件の始まりにすぎなかった……。不可解な謎がちりばめられた激動の時代を生き抜く人々を鮮烈に活写した、圧巻の傑作ミステリ。 上巻内容紹介より



〈ニューヨーク最初の警官〉シリーズ第一作目。
いわゆるジャガイモ飢饉によってアイルランド移民が大量にアメリカに移民し、その窓口となったニューヨークを舞台にした歴史ミステリです。移民の流入によって起きた差別や嫌がらせなどの地元民との軋れきを、正確な時代考証を経て描かれています。こういうしっかりとした基盤の上に構築された物語なので、ミステリとしてやや拙い面もあるにもかかわらずとても興味深く読むことができました。特に、カトリックであるアイルランド移民とプロテスタントのアメリカ人の対比が鮮明で、カトリック教への恐怖心、警戒心の根深さとそしてそれに対する排斥運動の激しさはこの作品で初めて知りました。その様子はまるでヨーロッパへ流れ込むアラブの難民と、イスラム教への偏見をオーバーラップさせます。ニューヨークのこうした社会状況とともに、一つの事件に止まらずその事件が政治的な影響へ波及し、政治状況を一変させる問題になりかねないことを恐れる、アイルランド系に票田を持つ民主党の思惑も絡んできます。齟齬のある兄弟同士、思慕する幼なじみ、娼館にいた少女、宿敵となりそうな娼館主、探し物の達人の同僚、などなど主人公を取り巻く一癖ある人物たちも魅力的で、これからが愉しみなシリーズです。



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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