『ミルク殺人と憂鬱な夏』フォルカー・クルプフル ミハイル・コブル ハヤカワ文庫HM

2017-03-23

Tag :

☆☆☆

殺人事件? 俺が住む、片田舎のこの町で? 警部は耳を疑った。殺されたのは、地元の乳製品工場に努める技術者。だが困ったことに、これといった動機も容疑者も浮かばない。事件のカギは被害者の過去にあるのか、あるいはその人間関係に? 警部と部下たちの捜査がようやくたどり着く事件の意外な真相とは……不器用にして恐妻家、要領は悪いが愛すべく中年警部の獅子奮迅の活躍を描きドイツで圧倒的人気の話題作  内容紹介より



質実剛健みたいな堅いイメージがあるドイツ産のミステリのわりには、ユーモア・ミステリのような弛めの雰囲気があって、お国柄と違うはそんなところがドイツ国内でうけているのでしょうか。この警部クルフティンガー・シリーズは8作刊行されているらしく、本書がデビュー作です。ただデビュー作からなのか、主人公の警部以外の主に部下の刑事たちのキャラクターがいまいち確立せずあやふやな感じがしました。また、フィクションを翻訳する経験値の問題なのか、コミカルな場面をはじめとして全体的に訳者の岡本朋子氏の訳出がこなれていないような印象を受けました。これはミステリの内容がそんなことを忘れさせるくらいに面白ければ問題ないのでしょうけれど、警察小説としての出来が際立って良いとは言えないために評価が低くなってしまいました。ただ、真面目でたまにかんしゃくを起こす、名探偵型でないきわめて人間的、家庭的な主人公の造形はかなり魅力を感じさせています。事件自体は入り組んで難度の高いものではなく、テレビドラマ向けのちょっと底の浅いものですから、北欧系の鬱々としたメンタルに来そうなミステリとは別の楽しみ方ができる作品だと思います。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『死者の館に』サラ・スチュアート・テイラー 創元推理文庫

2017-03-15

Tag :

☆☆☆

一人の若者が殺害された。体をおおうのは下着のみで、ネクタイで両腕をベッドの支柱に縛りつけられ、風変わりなブローチをつけていた。それが服喪用装身具だと気づいたクイン刑事は、ハーバード大で教鞭をとるスウィーニーに助力を求めた。ところが死亡した若者はスウィーニーのゼミの生徒で、ボストンの名門パトナム家の一員であることが判明。モーニングジュエリーの出所に興味を覚えたスウィーニーは、被害者の兄に心惹かれつつ調査をはじめる。名門の一族の秘められた過去とは?死と象徴に彩られた芸術史家スウィーニー・シリーズ第二弾。 内容紹介より



シリーズ第一作目の『狡猾なる死神よ』は未読です。
ハーバード大学芸術・建築史学科助教授の肩書きを持つヒロインには、もっとアカデミック寄りのエキセントリックな造形を期待していたのに、それらしい強烈な個性が見られなかったのは物足りませんでした。英国ビクトリア朝にさかのぼる、死を受け入れ死者を身近に感じるための装具についての歴史や風俗についての講釈は興味深かったのですけれど、それ以上の学術的面白みに繋がらなかったのも残念なところであり、ヒロインの人物としての面白みが希薄な点も目につきました。ヒロインの行動パターンは伝統のナンシー・ドルーを彷彿とさせ、ミステリの骨格は米国人が大好物の名門一家のスキャンダルやゴシップに基づいています。つまりは歴史的装具とか墓石の意匠などの被いを物語から取り去るなら、そこにあるのはあまり代り映えしない基本形なのです。しかもラブロマンスの味付けもしてあるという念の入れようですので、事件の真相が明らかになった時点で、その真相とそれまでに芸術史に関連して語られ、読者を誘導してきた事との差にやや飽きれ気味になってしまったのでした。とりあえずミステリ部分が脆弱で、また、刑事の妻の身に起きた出来事のストーリーに対する必要性が理解できません。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『原始の骨』アーロン・エルキンズ ハヤカワ文庫HM

2017-03-10

☆☆☆

ネアンデルタール人と現世人類の混血を示唆する太古の骨—この大発見の五周年記念行事に参加すべく骨の発掘されたジブラルタルを訪れたギデオン。だが喜ばしい記念行事の影には発掘現場での死亡事故をはじめ、不審な気配が漂っていた。彼自身まであわや事故死しかけ、発見に貢献した富豪が自室で焼死するに至り、ギデオンは疑いを深めるが……。一片の骨から先史時代と現代にまたがる謎を解く、スケルトン探偵の名推理 内容紹介より



今回は嫁のジュリーも同行して、久々にこれぞトラベルミステリという趣がする作品で、小さい土地ながらヨーロッパのなかでアフリカ大陸に最も近い位置を占め、古代からの要衝の地であり、現在はイギリス領土となっている、様々な文化が入り交じったエキゾチックな雰囲気を醸し出すジブラルタルを舞台にしています。『われらが英雄スクラッフィ』に登場した野生猿も取り上げられていて、描かれているその姿が愉快です。そのジブラルタルにある遺跡で発掘された子供の遺骨が、ネアンデルタールとホモ・サピエンスが交配した証拠になるものではないか、との議論を呼んだ過去の大発見の現場を訪れた主人公に降り掛かる奇妙な出来事と遺跡のある洞窟の崩落事故で亡くなった女性考古学者、自宅で焼死した遺跡発掘のスポンサーである素人考古学者、これらの不審死。発掘作業でブラシや刷毛によって古代の遺骨が徐々に姿形を現わしていくように、大発見にまつわる隠された真実がギデオンの手によって明らかにされていきます。

ユーザータグ:アーロン・エルキンズ





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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『憎しみの連鎖』スチュアート・カミンスキー 扶桑社ミステリー

2017-03-06

Tag :

☆☆☆☆

シカゴの老刑事リーバーマンの身近で、事件は起きた。彼らが通うユダヤ教の教会堂が、無残な略奪を受けたのだ。犯人はネオナチ集団かと思われたが、事件後まもなくアラブ人の学生活動家が殺害され、ユダヤ教会堂の帽子が残されていた—平穏なはずの街にひろがる憎悪の炎。リーバーマンたちの捜査は、事件の背後にひそむ意外な真相をあぶりだしていく。人間の果てしない憎しみの連鎖を断ち切ることはできるのか?名匠が、困難なテーマに正面から取り組んだ、緊迫感あふれる警察小説の名作。 内容紹介より



〈刑事エイブ・リーバーマン〉シリーズの第五作目です。
イスラエルでユダヤ人のテロによって家族を亡くしたアラブ人の姉弟、白人至上主義者集団のメンバー、リーバーマンが属するユダヤ教会の信徒ら、これに加えて韓国系のギャング、メキシコ系ギャング、黒人イスラム活動家が登場し、さらにリーバーマンの相棒はアイルランド系であり、その婚約者は中国系、というまさしく人種も宗教も階層もさまざまなるつぼであるアメリカ社会を強く感じさせる作品に仕上がっている印象を受けました。そして根深い人種差別と人種間の対立がテーマに据えられています。各登場人物たちに起きるそれぞれの、まったく関連のないエピソードや密接に関係するエピソードを二人の刑事が核となって回していく訳ですが、主題とは関係のない私的な出来事を物語に上手く取り入れる手際がとても効果的に働いています。刑事としてさまざまな事を見聞きし、人生の機微に通じた主人公に降り掛かる困難や悩みなどをくぐり抜けていく様を、乾いたユーモアを交えつつ日常生活に則して現実味のある語り口で描いてみせる非常に味わい深い作品です。

『愚者たちの街』
『冬の裁き』
『人間たちの絆』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ねじの回転』ヘンリー・ジェイムズ 創元推理文庫

2017-03-01

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆☆

「この百年間に世に出た怪奇小説で傑作といえるのは、わたしにはシャーリー・ジャクソンの『たたり』と、この『ねじの回転』の二作だけという気がする」スティーヴン・キング(『死の舞踏』より) 幼い姉弟の家庭教師が体験した恐怖を独自の手法で描き、ゴースト・ストーリーの古典として称賛される一方で、その難解さばかりが喧伝されてきたこの名作が、泰西怪談に精通する役者により、真の姿をここに現す。あなたは、この物語の本当の恐ろしさを、ここにはじめて知ることになるだろう。他に、数多い短篇の中から厳選された、怪奇譚四篇を併録。ホラー作家としてのヘンリー・ジェイムズに焦点を当てた、本邦初の傑作集である。 内容紹介より



収録作品、「ねじの回転」「古衣装の物語」「幽霊貸家」「オーウェン・ウィングレイヴ」「本当に正しい事」。

内容紹介文には「姉弟」とありますが、本文では10歳の男の子、8歳の女の子の兄妹関係です。
本書が難解だという話は知っていてこれまで食指が動かなかったのですけれど、実際に読んでみたら難解というか解釈の仕方がいろいろとあるように感じました。それはとにかくそもそもの原因となった出来事の記述の曖昧さによるのでしょう。家庭教師の手記という形式であるために視点が固定されて、読者は彼女の述べることを信じる、または懐疑的な見方をする、という立場に置かれるために、彼女が見る二人の幽霊の存在と生前に彼らが幼い兄妹に行ったという邪悪な行為(ある程度予測はつくものの)の不確かさが土台になっているせいで、語り部が描く物語の信憑性が揺らぐのです。また、訳者後書きで英米人の階級意識に言及しているように、英国社会の存在する階級制度が物語の大きな背景となっています。家庭教師の雇い主である兄妹の伯父は眉目秀麗で性格も温厚の上流階級に属する男性ですが、その階級につきものの、養育を乳母や家庭教師任せにして、それらにまつわるトラブルが持ち込まれるのを嫌う無責任ともとれる傾向が顕著です。そして、家庭教師は父親は社会的には地位のある牧師の身分ですが経済的に困窮し、その末娘である彼女は家を出て自ら職を見つけなければなりません。幽霊の片割れの女も前任の家庭教師でした。階級の下である女中頭は、新任の家庭教師に全面的に協力しますが、兄妹を盲目的に可愛がり、彼らの問題には見て見ぬ振りをする態度を取ります。そして男の子に悪影響を及ぼしていた下男は当然階級的には一番下の身分に当たります。家庭教師は雇い主に恋心を抱き、女中頭は上に者に対して無批判。このような各階級間の差異をシンボル化しているようにも感じました。これは米国生まれ育ちの作者による英国階級社会へのアイロニーを含んでいるのかもしれません。

ほかに他の作品とは異なる捻りが加えられた幽霊貸家」は、毛色が変わった話で面白かったです。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

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