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『パニック!』ジェフ・アボット ヴィレッジブックス

2017-06-28

☆☆☆

それはある朝、一本の電話から始まった—。新進気鋭の映像作家エヴァンは母からの電話で起こされた。帰ってきてほしいという母の切迫した口調に驚いた彼は実家へ急ぐが、そこには変わりはてた母の姿が……。だが、エヴァンを待っていたのはそればかりではなかった。銃を持った連中に襲われ、死を覚悟した瞬間,謎の男に間一髪で救出される。訳がわからぬまま、身の危険を感じてひたすら逃亡するエヴァン。誰が味方で誰が敵か?謎が謎を呼び、死が死を呼ぶ……。エヴァンはこの危地を乗り越え、真相にたどりつくことができるのか?人気ミステリー作家が初めて挑んだ、超ハイスピード・サスペンス! 内容紹介より



〈図書館長ジョーダン・ポティート〉シリーズと〈モーズリー判事〉シリーズで知られる作者ですけれど、ノン・シリーズの本書の主人公のイメージがその二つのシリーズの若者のそれに重なりました。モラトリアムな感じを受けるところは、デイヴィッド・ハンドラーの主人公たちにどことなく似ている気もします。さて精神的な未熟さを感じさせる主人公が母親の死を機に、CIA、フリーランスのスパイたちが暗躍する陰謀の渦中に放り込まれ、逃亡劇、母親の死の真相究明と行方不明の父親探しが、プロ対アマテュアという冒険小説の一つの定番の形で繰り広げらていきます。展開はややもたつくところがありますが、それなりにスピーディーといっても良いでしょうし、ぎりぎり高校生までにはウケるかもしれない娯楽小説には仕上がっています。しかしながら、悪役コンビの行動がドタバタし過ぎです。衆目に晒されている状況での派手な銃撃戦や追跡を二度も行うなんて、極力他人の注目を引かないように心がけるスパイの行動とはかけ離れて、プロがプロらしくないまるでギャグにしか思えませんでした。プロットも旧態依然な感があって,まるで幽霊のごとくソ連の話が出てくるし、いっそのこと時代設定を古めにしたらどうかとも思いましたが、それだと現代ミステリにおける魔法の小箱であるパソコンとネットが使えなくなりますね。

ユーザータグ:ジェフ・アボット




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『キーストン警官(コップ)』ピーター・ラヴゼイ ハヤカワ文庫HM

2017-06-24

☆☆☆

イギリス人の新人俳優イーストンのあだ名はキーストン—彼は、喜劇映画で今をときめくキーストン撮影所に、その他大勢組のキーストン・コップとして雇われた。大根役者だが、かわいらしい新進女優ハニービーとも恋仲になった。ところが、ハニービーの母親が何者かに殺され、嫌疑が彼女にかかったことから、キーストンは、いやでも謎を秘めた殺人事件の渦中に巻きこまれてゆく—ローラーコースターの事故、消えたフィルム、誘拐事件、冒険につぐ冒険。1910年代の喧噪とロマンに満ちたハリウッドをコメディー・タッチで描く著者会心の力作! 内容紹介より



作品中の俳優を含めた映画関係者として、無声映画時代に実在した人物を登場させているそうです。作品中の事件はフィクションですが、ネットで調べてみると実際にスキャンダルに巻き込まれた俳優や女優もいるみたいです。本書の魅力は、なによりチャップリンやバスター・キートンの白黒で早送りのような作品を彷彿とさせるように、エネルギッシュな時代背景や無声喜劇映画を撮影する様子やがとても興味深く軽快に描いているところだと思います。ただ、スタントマンの人身事故、女優の母親の不審死、カメラマンの自殺、監禁や誘拐事件、といった事件や事故が次々に起るわりに、派手で華やかなハリウッドと撮影所を舞台にしているにしてはミステリ自体は地味です。わざわざ英国人を主役に当てているにしては、英米双方のお国柄や人柄の違いを面白可笑しく取り上げるといったこともなく、自国のマーケットへのアピール程度の必要性しか感じませんでした。『偽のデュー警部』に較べると小粒な印象でした。

ユーザータグ:ピーター・ラヴゼイ




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『真夏日の殺人』P・M・カールスン ハヤカワ文庫HM

2017-06-21

Tag :

☆☆☆☆

真夏だというのに窓を閉めきった書斎で、飛行機の爆発事故を取材中の新聞記者が撲殺された。そばには、凶器と思われる真鍮の電気スタンドが落ちていたが、書斎は中から鍵を掛けられており、犯人が出入りできたはずはない。記者の死は、取材中の事故と何か関係が?休暇中に事件と出くわした統計コンサルタントのマギーは、犯人探しに乗りだすが……好奇心あふれる人情家の素人探偵が、密室殺人の謎に挑む本格ミステリ。 内容紹介より



1990年に発表された作品ですが、舞台は1975年です。この年代設定は作品に色濃くでているベトナム戦争に従軍した若者たちの心に迫るためなのでしょう。そのテーマにくらべると、最近では珍しい本格密室ミステリの趣向はやや添えものみたいに感じました。主人公のマギーと家族は反戦運動の経験者、その一方、事件を担当する女性刑事は元従軍看護士であり、容疑者にも帰還兵がおり、ふたりとも戦場での過酷な体験によって心に闇を抱え、傷を負っている状態です。さらに被害者の家族、特に思春期の少女に父親の死が与えたダメージを強調して描いています。その彼女らの被った心の傷を癒そうとするのが主人公で、また女性刑事には煙たがられながら独自に犯人探しも始めます。しかし面白いのは、主人公より女性刑事のほうが登場機会が多く、シリーズ物にしては異色で、彼女の心理が入念に描かれているところです。彼女の心の奥底を描写するかたわら、序盤に置ける彼女の表には出さない心の内での皮肉や毒舌が愉快でした。密室殺人という派手な設定を採りながら、実は心理小説みたいな形態をとる作品だと思います。ゆえに謎解きへの過度の期待は肩すかし気味であり、事件もいきなり慌ただしく急展開をみせ、それまでに構築した情感が薄れたのは残念でした。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『りんご酒と嘆きの休暇』アレクサンダー・キャンピオン コージーブックス

2017-06-17

Tag :

☆☆☆

休暇でノルマンディの田舎に暮らす伯父を訪れた、パリ警視庁の警視カプシーヌ。忙しい日常を離れ、伯父の大邸宅でふるまわれる旬のご馳走—名産のりんご酒にカマンベール、きのこ、そしてジビエ料理に舌鼓を打ち、楽しいひとときを過ごすはずだった。ところが、狩猟が解禁されたばかりの村では、狩りの最中に不審な事故が多発。のどかなはずのこの村で、いったい何が起きているの?警察官になることに大反対だった伯父から捜査を頼まれ、ようやく一族に認めてもらえた嬉しさを噛みしめるカプシーヌ。でも田舎町での捜査は都会と違い、昔からの知人にふりまわされてばかりで……!?フランスの田舎町の魅力がいっぱいのシリーズ第二弾! 内容紹介より



〈パリのグルメ捜査官〉シリーズ。第一作目の『予約の消えた三ツ星レストラン』は未読です。
前回読んだ北欧ミステリもそうですが、特にフランスミステリを読んで感じる、アメリカミステリにくらべて際立つお国柄が新鮮です。著者はパリに長年住んでいたNY生まれのブラジル人らしいのですけれど、フランスミステリでは作品の中においても食事に時間をかけ,その描写に紙幅を費やす傾向が見られます。そして、ヒロインの夫が著名なレストラン評論家という設定であるためにチェーン店、ファストフードにたいする毒舌ぶりも面白く、また、日本産ウィスキーの「余市」や「山崎」という名前がでてくるのもフランスミステリならではでしょう。それから同じくフランスの地方を舞台にした『緋色の十字章』(マーティン・ウォーカー作 創元推理文庫)でもありましたが、地方特有の食産物にかけるEUの規制が固有の食文化を衰退させていくのではないかという懸念が感じられました。このようなこだわりは、これまで読んだ英国ミステリでは目にしたことも感じたこともないのが興味深いところです。
コージーブックスからでているにもかかわらず内容は警察小説です。地方で起きた連続誤射事件とパリで頻発する“眠り姫”窃盗事件の捜査でヒロインがあちらこちら移動してせわしなく、ストーリーにやや落ち着きがなく、二つの事件が個別すぎてミステリ的にいまひとつでした。野鳥や鹿、うさぎへの狩猟場面が描かれているので、そういうのが苦手な方にはお勧めしません。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『静かな水のなかで』ヴィヴェカ・ステン ハヤカワ文庫HM

2017-06-14

Tag :

☆☆☆☆

漁網に絡まって漂着したその死体は、長く水中にあったせいで無惨なありさまだった。死因は溺死、身元もすぐに判明し、トーマス・アンドレアソン警部も事故と断じかける。だが男性の従妹が殺害されたことから事態は急展開。島に住む女性弁護士で幼馴染のノラの助けも借りて捜査にあたるトーマスだったが、事件には複雑な背景が……風光明媚なリゾート・アイランドで起きる事件に挑む、スウェーデンで人気の新シリーズ開幕 内容紹介より



舞台となっている季節が夏であるため、北欧ミステリに付きものの酷寒で暗く鬱々とした長い冬という雰囲気はなく、また警部の視点で描かれる警察小説調の章に対して、キャリアウーマンであり主婦でもあるヒロインの視点のややコージーミステリをおびた章のために、もたれるような重さは感じません。作者が女性であり、自身がキャリアウーマンであったことの投影なのか、栄転のチャンスが訪れてにわかに上昇志向になったヒロインの夫婦関係や子育てといった私生活の部分にかなりの重点が置かれています。彼女と幼馴染の警部との間の恋愛感情のない友人関係というロマンスをはさまない設定はよいにしても、ミステリ部分では、捜査が進展するにつれ徐々に核心へと近づいていく緊迫感の高まりはさほどなくて読みごたえがある訳ではありませんし、クライマックスは、あたかも〈少女探偵ナンシー・ドルー〉の流れをくんでいるかのような展開でした。社会的性差がほとんどないイメージの北欧でも家庭内では従属関係を強いる圧力が見られることも珍しくはないのですね。




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ジャンル : 本・雑誌

『ドライ・ボーンズ』トム・ボウマン ハヤカワ文庫HM

2017-06-10

Tag :

☆☆☆☆

厳しい自然に囲まれた田舎町ワイルド・タイム。雪解けの季節のある日、銃痕があるうえ野生動物に荒らされた青年の死体が発見された。町で唯一の警察官ファレルは被害者の身元を洗うが、開拓時代から自分の身は自分で守ってきた住人たちは協力的ではなく、シェールガス利権や薬物の蔓延も捜査の行く手を阻む。や がて、法を信じない人々の暗い過去にたどりついたファレルは……アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞作。 内容紹介より



MWA新人賞受賞作というと、どうして受賞したのか個人的に首を傾げたくなるような作品がこれまでにもあったのですけれど、本書もそのひとつです。たしかに作品に漂う雰囲気は良いのですが、突出したと感じられるものがありませんでした。霜月蒼氏が解説で述べている「カントリーノワール」のジャンルにあたるらしく、特にC・J・ボックスのジョー・ピケット・シリーズの世界観によく似ている印象を受けました。狩猟が単なるスポーツではなく、生活を支える手段になっている、自主独立の気風が強い非常に保守的な地域社会、そこに持ちあがった資源を巡る利権、そして、町を浸蝕していく薬物汚染。これらをストーリーの背景に据えて、頑迷なモラル、それに反する者との間で起きた、都会では起こり難いであろう殺人事件の捜査をソマリア従軍歴があり、愛妻を病で亡くした心の傷を持つ郡の警察官の視点で描いています。こういった陰影のある主人公の造形はネオ・ハードボイルドを思わせます。この作品の難点は、そもそも原文がそうなのかあるいは訳出のためなのか、文章がなにか読みづらかったのと、登場人物が誰が誰なのかかなり判りにくかったことです。海外ミステリは読み慣れていると思っていましたが、表紙折り返しにある登場人物一覧では足りませんでした。それから全体的に、もう少し話を掘り下げて欲しかったところです。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
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『ルクセンブルクの迷路』クリス・パヴォーネ ハヤカワ文庫NV

2017-06-06

Tag :

☆☆☆☆

ワシントンDCに住むケイトは、夫が新しい事業を始めるルクセンブルクに息子たちとともに移住した。やがて彼女はマクレーン夫妻と知り合うが、夫妻にはどこか怪しげなところがあった。何かの犯罪を企んでいるのか?それとも依然ある組織に属していたケイトの過去を探っているのか?あるいは彼女の夫を狙っているのか?疑惑の迷路の中で、彼女は想像を絶する事実を知ることに。意想外の展開が連続するサスペンス巨篇 内容紹介より



以下、ややネタバレ気味です。未読の方はご注意下さい!

CIA、FBI、ルクセンブルク、というワードからスパイが絡む国際謀略ものをイメージしてしまいますが、実は元CIA職員だったヒロインの懊悩煩悶話。妻であり二児の母親である主婦が、子育てや主婦業にせわしない毎日を送りながら、自身のCIA工作員時代にしでかした不法行為やネットセキュリティのコンサルタントの夫の行状、現地で知り合ったアメリカ人夫妻の態度について悩んだり怪しんだり、疑ったりする様子が570ページに渡って描かれています。元スパイと専業主婦というミスマッチな取り合わせと切り口が目新しく、さすがに後半に入るとやや飽きてくるにしても、それでも読み通させるテクニックはたいしたものだと思います。ただ、アクションシーンはまったくといっていいほどなく、心理小説みたいな終始ヒロインによる視点のみのああだこうだという内省傍白の繰り返しであるために評価はさまざまでしょう。さすがに長々と話を引っぱった割にこの結末はどうよ、みたいな感じもありますけれど、この作品が作者の初のフィクションとすると才能を感じさせます。




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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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