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『眺めのいい部屋売ります』ジル・シメント 小学館文庫

2017-12-28

Tag :

☆☆☆

NYイースト・ヴィレッジに建つエレベーター無しのアパートメント。四十五年間、五階の部屋に住み続けるアレックスとルースの夫婦は、十二歳の愛犬ドロシーと穏やかな日々を送っていた。ただひとつ、大きな問題が。足腰の弱ってきた彼らにとって、階段の上り下りが年々辛くなってきたのだ。そこで二人は住み慣れた部屋を売り、エレベーター付きの物件を購入する計画を立てていた。ところが内覧会の前夜、ドロシーが急病に。さらに近くのトンネルでテロ騒ぎが勃発する……。結婚生活五十五年史上、最もスリリングな週末を過ごしたチャーミングな夫婦の物語。 内容紹介より



老夫婦と老犬が暮らすアパートの部屋が高額で売れそうだと不動産屋から聞いた二人は、購入希望者にたいしてアパートの内覧会を開くことに。しかしその前日に愛犬の身体に異変が起きるとともに、トンネル内でタンクローリーが立ち往生するというテロ騒ぎが発生してしまいます。主人公の老夫婦は街中が大騒ぎの状態にある中、動物病院に入院した愛犬のこと、アパートの売却と新たなアパート捜し、姿をくらましたタンクローリーの運転手にまつわる噂、さまざまなことに振り回されてしまいます。若い頃、反体制派と疑われてFBIから監視を受けていた夫婦が、テロ騒ぎによる不動産価格への影響に期待したり心配したりする俗物ぶりな様子とか、事件に関するマスコミの扇情的な報道姿勢、飼い主を心待ちにする愛犬の姿、こういう場面が印象的に挿まれて物語が進行していくのですけれど、老いることの内実、外部の忙しない状況という内と外の対比が際立って感じられました。ただ、ミステリ好きな者にとっては、この一貫してトーンの上げ下げの乏しさが、悪くはないのですけれどやはりどうしても物足りなさを感じてしまうのです。ミステリではない作品にそんな印象を持たせない作品があるなかで、本書は良作かもしれないけれど秀作とまではいえないのかもしれません。

さて、これが年内最後の更新になります。この一年当ブログにお越しいただきありがとうございました。どうぞ良いお年をお迎え下さい。




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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『プラムプディングが慌てている』ジョアン・フルーク ヴィレッジブックス

2017-12-24

☆☆☆

クリスマスを目前に控えた〈クッキー・ジャー〉は大忙し!毎日のクッキー作りに加えて、クリスマスクッキーの注文が殺到。そのうえシーズン限定のテーマパークで売るお菓子の準備に新作クリスマスデザートの依頼まで。そんななか、母がハンナに助けを求めてきた。ノーマンの母キャリーの様子がおかしいらしい。ノーマンにも相談され、マイクからも何やら気になる情報が—。ほうっておけず調べる約束をしたハンナだが、その矢先、今度はテーマパークのオーナーの死体を発見するはめに……。キャリーをめぐる謎、犯人探しに思いがけない人物との再会もあって、さらなる波乱の予感!?大好評シリーズ第12弾! 内容紹介より



ものすごく久しぶりに読んだ〈お菓子探偵ハンナ・スウェンセン〉シリーズ。いつものようにさまざまな種類のクッキーが登場して、登場人物たちの胃袋に入っていきます。相変わらずミステリとしては高いレベルにあるとは言えませんが、総合的にバランス良く上手い具合にまとまっている印象を受けました。クリスマスプレゼントのラッピング、クリスマスツリーの飾り付け、クリスマスの楽曲など、クリスマスというイベントを間近に控えた町の雰囲気や住人の様子が生き生きと伝わってくる感じがしました。何かとイベント頼みのコージーミステリには否定的でしたが、日本ではあまり見られない文化や風習の違いなどの描写を読むと新鮮な感じがして、それはそれでありだなと思うようになりました。そんな喧噪のさなか、クリスマス期間限定のテーマパークのオーナーが自宅で射殺されているのをヒロインが発見してしまいます。調べるうちに被害者が商売上で不正を行っていた疑いが浮かび上がってきたり、過去のスキャンダルが明らかになったりします。また、ヒロインの母親の親友であり、男友達の母親が怪しい行動をとったりしている件も調べることになります。歯科医と刑事、二人の男友達の間にぬくぬくと納まっているヒロインの状態はこれまた代わり映えしません。

ユーザータグ:ジョアン・フルーク




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『裏切りの色』マーシャ・シンプスン ハヤカワ文庫HM

2017-12-23

Tag :

☆☆☆

スクーナー船でアラスカの海を行き来し、荷物を配達する仕事をしているライザは、ある日岬の岩棚に打ち上げられた少年を救った。が、直後にライフルで狙撃され、愛犬が負傷する。その後も船に細工されるなど、彼女の周囲で奇怪な出来事が相次ぎ、ついには少年が何者かに誘拐された。ライザは少年を取り戻すべく捜索を開始するが……タフで自立した女船長の活躍を情感豊かに描いた、アメリカ探偵作家クラブ賞最終候補作。 内容紹介より



冒険小説の色合いが強い作品で、なかでも女性船長が活躍するというあまり見かけない設定がなされています。ヒロインは移動図書館を兼ねている船で、日用品をはじめとしてさまざまな荷物を運んでいる仕事を愛犬とともに行っています。彼女が幼少の頃に母親が失踪し、警官だった夫が殉職してしまう暗い過去を背負っています。彼女は航海中に原住民の少年を助けるとともに射殺された遺体を発見した直後に、何者かに狙撃される事件が降り掛かります。
犯人側からの視点もあるため、彼らの動機と狙いは最初から読者には明らかにされ、また彼らがヒロインの知り合いの中にいることも早々に見当が付きます。読みどころは冒険部分とネイティブアメリカンについての記述になるのですけれど、冒険シーンは船同士の追跡劇銃撃あるいは救出劇などをそろえていてまあまあの出来なのですが、作者がアラスカでの教師時代に地元民から取材した経歴があるにしては、ネイティブアメリカンや彼らの文化に付いての部分は掘り下げていない印象が残りました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ジャックは絞首台に!』レオ・ブルース 教養文庫

2017-12-12

Tag :

☆☆☆

ある朝温泉町で二人の老婦人の絞殺死体が発見された。どちらの死体も両脚を伸ばして横たわり、手には一本のマドンナ・リリーの茎が握られていた。二人の関係を示唆するものはない。老後を静かにおくる老人を狙った精神異常者の犯行か?それとも二人の犯人の共謀か?病後の静養にきていた変わり種の歴史教師キャロラス・ディーンが、絞首台に送るべき“ジャック”を探り出す。 内容紹介より



石切場で発見された被害者の一人は六十三歳、中流の資産家、砂漠の部族に関する著書があり、自家用車を運転する活動的で友人も多い。自宅で発見されたもう一人の被害者は八十歳前、大金持ちの未亡人、元画家のモデル、芸術パトロンを自認し、教会を訪れる以外はほとんど自邸で過ごす。彼女たちは、ともに仰向けに脚を伸ばした姿勢で横たわり、胸にのせた手には一本のマドンナ・リリーを握っていた。二人は同日の夜更けに連続して絞殺されたと見られるが、接点のない被害者を殺す動機は何なのか、精神異常者の犯行なのか、犯人は単独犯なのか、あるいは複数いるのか?という謎に素人探偵が挑みます。
古典探偵小説にたいする諧謔的な言い回しや定番の状況設定(たとえば、ワトスン役の教え子の存在とか古典特有の関係者一同を集めての真犯人指摘)がよく目に付く点、面白くもない奥さんのジョークを聞かせる校長やさまざまな病気持ちで愚痴の多い駐車場管理人、ベジタリアンでヌーディストの退役軍人夫妻 など奇矯な登場人物の造型、これらの軽さを見ると本書はユーモアミステリの意匠が根底にあるのだと思いますが、やり過ぎにようにも思えてややくどい感じが残りました。『ミンコット荘に死す』においては具合が良かった登場人物それぞれのキャラクター設定と巧みな操り方が本書では見られませんでした。

『ミンコット荘に死す』扶桑社ミステリー




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『約束の土地』リチャード・バウカー 創元推理文庫

2017-12-08

Tag : SF

☆☆☆☆

男は一枚の古ぼけた雑誌の切り抜きを取り出した。『物議を醸す新しいクローン技術を弁護する』?記事の大半はさる生物学者のインタヴューから成っていたが、問題はそれに付された写真だった。当の教授の顔は、目の前の男のそれと異様なまでに似ていた。そう。男はみずからをその生物学者のクローンと信じ、過去の真相を探りたくてこの事務所を訪ねてきたのだった……。時は未来。限定核戦争後のアメリカで、一人の青年が私立探偵の看板を掲げる。夢と現実の狭間に揺れる若者の、葛藤、挫折、そして成長。胸がつまる青春ハードボイルドの逸品! 内容紹介より



1987年に発表され、日本では1993年に出版されている、近未来型SFとハードボイルドをあわせた懐かしい感じがする作品でした。主に米国東海岸を狙った限定核戦争後から二十年後の戦火を免れたボストンが舞台で、飛行機や鉄道といったインフラは復旧しておらず、食料や燃料も不足しているなどまだ混乱状態にあります。そんな街に探偵小説好きな二十二歳の青年が私立探偵事務所を開設し、初めての依頼人が訪れる場面から物語が始まります。その依頼とは、戦前にクローン技術の研究をしていた科学者である父親を捜し出して欲しいというもので、しかも、医師である依頼人は父親のクローンだと信じ込んでいます。調査の結果、依頼人の父親は戦後イギリスへ渡ったことが明らかになり、主人公は依頼人とともに未知の地ロンドンへ向かうことに……。
眼を見張るような派手な描写はありませんが、戦争後に両親を亡くして悲惨な少年期を過ごした主人公や彼の恋人、被爆して身体を壊した同居人、同じく小人症の家主をめぐるエピソードがじわりと胸にせまります。たとえいくら科学技術が発達したといっても、それがクローンであっても、人にとって一番必要なもの、大事なものは、父親、母親、子供、恋人からの愛情なのだ、ということがテーマになっています。欠落してしまった愛情に焦がれる人たちを、喪失した愛情に苛まれる主人公が哀切の念をもって見つめる姿がナイーブに描かれている青春小説の秀作だと思います。主人公が暮らす世界のように、核戦争をもたらした科学へのささやかなアンチテーゼとなっているのかもしれません。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『凶器の貴公子』ボストン・テラン 文春文庫

2017-12-03

Tag :

☆☆☆

変死した青年の角膜により、視力を取り戻した男デイン。恩義ある青年の死の謎を追いはじめた彼を待つのは悪辣な者どもの潜む陰謀の迷宮だった。死者から光と愛とを引き継ぎ、デインは敢然と死地へと乗り込むが—。『神は銃弾』で「このミステリーがすごい!」を制した天才テランの最新作。雷鳴と銃撃が彩る壮絶な愛の物語。 内容紹介より



仲間とともに資金洗浄に手を染める父親を救うため、連邦捜査官と連絡を取った青年が不審死を遂げ、彼の角膜を移植した主人公が彼の死の謎を探るという話です。
詩情に満ちた内省というか、観念的な想念というべきか、登場人物たちの心の移ろいを作者独特の言葉を操る描写に、物語の中程を過ぎた約300ページでお腹いっぱいになりました。彼らの心理や彼らが見る情景を大仰とも言える言葉によって過飾するというスタイルにげんなりさせられる一方で、読者の解くべき謎は最初から明らかにされ、またストーリー進行は遅々としているために、彼らの感情面に否応なく向き合わされてしまうのです。『音もなく少女は』においてはまったく感じなかった、この言葉のくどさには驚かされたとともに、それぞれのヒロインの立ち位置がジェンダーの観点から見ると、かなり違っているところが興味深かったです。これはギリシャ神話ミノタウロスをメタファーとしているからなのかどうなのか。

『音もなく少女は』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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