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『野兎を悼む春』アン・クリーヴス 創元推理文庫

2018-02-25

☆☆☆☆

シェトランド署の刑事サンディ・ウィルソンは、実家のあるウォルセイ島にいた。祖母のミマから電話で請われ、久しぶりに彼女の小農場を訪ねたサンディは、こともあろうにその祖母の死体の第一発見者となってしまう。ミマは一見、ウサギ狩りの銃弾に誤って撃たれたように見えた。親族間に潜む長年のわだかまりや、本土から来た調査班が小農場の敷地でおこなっている遺跡の発掘とは無関係の、単なる事故のはずだった。だが……。島に渡ったペレス警部がえぐり出す、事件の真相とは。現代英国ミステリの最高峰〈シェトランド四重奏〉、圧巻の第三章。 内容紹介より



原題の“RED BONES”のとおり、被害者が一人暮らしていた農場敷地内の、ハンザ同盟に関係すると思われる遺跡から発掘された骨から事件は端を発します。第二次世界大戦中、島民は英海軍とともに、ノルウェーによる対ドイツへの抵抗運動に協力していた歴史もあります。そういう時代背景を据えて、作者はこれまで同様に、被害者の家族、親戚、発掘作業に携わる大学関係者、捜査を指揮する警部、これらの人物たちの視点をその時々に移しながら、彼らの心の機微を緻密に描写し、人間関係に潜む心理をあらわにして見せます。悲惨な物語にもかかわらず、こういう物語を織り上げるデリケートな手際が読んでいてとても味わい深く、読み心地が良い感じがしました。遺跡を発掘するみたいに、事件の全容が断片からじわじわと形を採りはじめていく進み方も雰囲気を盛り上げていると思います。また、これまで頼りなかったサンディ刑事の人間的な成長の一面も描かれているのも一興です。

『大鴉の啼く冬』
『白夜に惑う夏』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『コオロギの眼』ジェイムズ・サリス ミステリアス・プレスハヤカワ文庫

2018-02-20

Tag :

☆☆☆

時は流れ、街は変わり、人々もうつろってゆく。探偵だったルー・グリフィンは教師となり、作家としても成功していた。だが一本の電話が、ふたたび彼を混沌の街へと誘う。長年行方不明になっていた息子らしき青年が、重傷を負って入院しているというのだ。急ぎ病院を訪れたルーは、そこで意外な言葉を聞かされる……ハードボイルドに新たな風を吹き込む傑作 内容紹介より



『黒いスズメバチ』と同じく、舞台はニューオーリンズ、主人公はルー・グリフィンです。現在の彼は、作家としていくつかの著作を出し、大学で英文学を教えています。元探偵の経歴から、学生の失踪した弟を捜し出す依頼を受けます。実は主人公の一人息子も長年行方不明になっているのです。ある晩、彼が息子へ贈った署名入りの著書を持った男が重傷を負って病院に運ばれたとの連絡が入りますが……。過去に彼が愛した女性たちへの思い、近隣で起きるストリートギャングによる犯罪行為、親友の息子に起きた悲劇、こういったいろいろな出来事を観念的、叙情的に移ろう心情を細かく描写していく手法をとっています。この作家の持つ、いわゆる「文学」指向なのだと思うのですけれど、この思わせぶりな文学臭がやや鼻に付くところもあります。いうなれば、ミステリ性がかなり希薄なハードボイルドなのでしょうし、そう割り切れば文体は嫌いではないし、これまでに読んだ二作品より肌にあった感じがしました。しかし、p265からの、どういう必然からなのか訳の判らない突然の彷徨をし始める主人公の行動は意味が分かりませんでした。

『黒いスズメバチ』ミステリアス・プレス
『ドライヴ』ハヤカワ文庫HM




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『氷の娘』レーナ・レヘトライネン 創元推理文庫

2018-02-16

Tag :

☆☆☆

買い物を終えた女性が、車のトランクで少女の死体を見つけた。暴行を受けて殺害されたらしいその少女は、フィギュアスケートの若手ホープ、ノーラ。つい数日前ノーラの素晴らしい演技を観たばかりのエスポー警察の巡査部長マリアは、ショックを隠せない。才能豊かで恐ろしく気が強かった、氷上のプリンセスを殺したのは誰?有力な被疑者としてノーラの母親につきまとっていたストーカーの男が浮上するが……。産休目前のマリアが、ノーラを巡る人間関係に捜査のメスを入れる。フィンランドで人気ナンバーワンの〈マリア・カッリ シリーズ〉。 内容紹介より



産休を四週間後に控えた、前作同様身重なヒロインがフィンランドフィギュア界を舞台に活躍する話です。古市真由美氏の訳者あとがきによると、作者はフィギュアスケートに造詣が深いらしく、話のあちらこちらにその片鱗がうかがえます。事件は、将来を嘱望されていたフィギュアスケートのスターの少女が撲殺された姿で発見されるというもの。ヒロインの上司である警部が娘を通じて被害者と顔見知りだったため、巡査部長であるヒロインが捜査を実質上担当することになります。被害者とペアを組んでいた選手、彼らのロシア人コーチ、フィギュアスケート協会理事、被害者一家のストーカーなど、錯綜する人間関係、そして被害者がつけていた日記に表される思春期の心情とともに、妊娠をめぐるいろいろな問題や署内の人事をめぐっての思惑が捜査活動にからんで描かれ、物語に深みと広がりを与えています。難点は、クライマックスにおけるヒロインのとった軽率な行動が、コージミステリでよく見掛ける素人探偵みたいで、プロらしさが感じられないところに警察小説としては不満を覚えました。一方、警察組織の男社会の中で一人奮闘する彼女の姿は好印象を与えていると思います。

『雪の女』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ねじれた文字、ねじれた路』トム・フランクリン ハヤカワ文庫HM

2018-02-11

Tag :

☆☆☆☆☆

ホラー小説好きの内気な少年ラリーと、野球選手になれそうなほど才能がある少年サイラス。まったくちがう二人が育んだ確かな友情。が、ある出来事を境に関係は断絶した。25年後……自動車整備士になったラリーは、住人から疎外され、孤独の中で暮らしていた。そんな時、町の有力者の娘が失踪。ラリーに疑惑の眼が向けられ、治安官になったサイラスは事件の捜査に関係していく。かつての友との再会がもたらすその先には…… 文庫版内容紹介より



家庭の事情によりシカゴからミシシッピの片田舎町に移り住んだ母子家庭の黒人少年サイラスと地元で自動車修理工場を営む父親を持つ白人少年ラリー、この二人の出会いと友情、離別と再会を描いた物語です。野球の才能に恵まれた行動的な少年、友だちのいない読書好きの少年、この二人の造型も陰と陽、静と動です。成長して町の治安官と自動車整備士になった二人の路は、少女の失踪事件を契機に再度交わることになります。25年前のある事件のせいで住人からつまはじきにされている、友を渇望するラリーの25年間の孤独が大げさではなくて、非常に抑えた筆致で描かれているがゆえにとても胸に迫ってきました。そしてもうひとつ物語全体に重しのようにのしかかっているのが人種差別の圧力です。そのために少年たちの友情は壊れ、サイラスはある秘密を長いあいだ抱え込んでいなくてはならなかったのでしょう。ミステリとしてあっと言わせるものはありませんけれど、主人公たちの等身大の造型は控えめで好ましく、彼らの回想シーンにあらわれる少年時代の姿は少年小説の系譜を引いています。CWA賞を受賞した秀作です。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『非情の裁き』リイ・ブラケット 扶桑社ミステリー

2018-02-04

Tag :

☆☆☆☆

LAの私立探偵エド・クライヴは、ひそかに愛しあう女性ローレルの身辺警護につく。また、旧友ミッチに対する脅迫事件を依頼された。殺意に満ちた何者かの影が迫り、エドはふたりを守ろうとする。だが、事件は起こった—残酷な悲劇が。こうして、エドの孤独な戦いがはじまった。何者をも信じず、みずからの肉体と頭脳だけを頼りに入り組んだ謎に挑むタフガイの姿を描きあげた、ハードボイルド黄金期を飾る逸品。ハワード・ホークスを驚嘆させた女性作家、幻の傑作!〈序文:レイ・ブラッドベリ〉 内容紹介より



翻訳は浅倉久志氏です。わたしにとって浅倉訳というと、たとえ未知の作家の作品であっても手にとってしまうほどの信頼のブランドであり、はずれがないイメージがあります。1944年に発表された本書はストレートな正統派ハードボイルド作品です。もっと早く翻訳されていたら日本でも高く評価されていたと思います。いかんせん正統派の型にはまりすぎているがために、現代ではそのスタイルが古めかしく、登場人物たちの造型もカリカチュアされているみたいに思えてしまいました。彼らの会話や行動パターンにしてもしかり。また発表時の時代に、あえてあわせたかのような訳出もさらに古めかしさを感じさせる一因になっています。(従者を連れて)卑しき街をゆく騎士という私立探偵、酒と煙草、バーと悪女、拳銃と暴力、お金持ちと家庭不和、といった定番要素に王道の展開と捻りを加えた結末。はからずも正統派古典ハードボイルドとそれが表した古き良き時代への鎮魂歌みたいに思えました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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