『大富豪のペルシャ猫』ローレンス・サンダーズ ハヤカワ文庫NV
2018-05-29
- Category : ☆☆☆
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何者かに誘拐された、いとしのペルシャ猫を探しだしてほしい—そんな奇妙な依頼が、よりによって、大の猫ぎらいのわたしのもとに舞いこんでこようとは……。だが、やむなく調査を開始したわたしを待ち受けていたのは、愛すべき隣人たちをも巻きこむ、残忍で非道な殺人事件だった。L・サンダーズが新境地を拓き、全米ベストセラー・リストを驀進し続ける〈秘密調査員マクナリー・シリーズ〉が、文庫オリジナルで登場! 内容紹介より
以下、ちょっとネタバレ気味です。ご注意下さい!
大金持ちの愛猫が身の代金目的で誘拐され、時を同じくして、ある女性のもとに身体に危害を加えるとの脅迫状が届きます。二人それぞれの顧問弁護士を務める父親の弁護士事務所の調査員である主人公が内密に調査を担当することになりますが、二人に届いた脅迫文の書式と書体が酷似していることに気づきます。まもなく脅迫状通りに殺人事件が起こり、主人公は、被害者が参加していた降霊会を催していた怪しげな心霊術師一家に目を付けることに……。本書の主人公であるアーチボルト(アーチイ)とレックス・スタウトが作り出した探偵ネロ・ウルフの助手アーチーって、軽佻浮薄な感じがちょっと似ているような気がします。今回、失恋した女性の傷心につけ込んでいるかのような行動をとる、この子供じみた洒落者の彼のチャラいキャラが前回同様に受け付けませんでした。ミステリ的にも電話によるアリバイ作りのトリックが古すぎるアイデアで、それをさも重大な発見みたいに扱われると目を疑ってしまいました。ユーモアミステリなのでしょうけれど、全体的な雰囲気が好みではありません。
『顧客名簿』講談社文庫
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『ハバナ・ベイ』マーティン・クルーズ・スミス 講談社文庫
2018-05-24
- Category : ☆☆☆☆
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ロシア検察局の捜査官レンコは、ハバナ湾で不審死を遂げた仲間の身元確認のためキューバへ飛んだ。最愛の妻を亡くし失意の日々を暮らす彼は自殺さえ決意していたが、ロシアに見捨てられた島で待っていたのは冷たい視線の革命国家警察だった。『ローズ』に続き、ハメット賞連続受賞に輝く傑作ミステリー。 内容紹介より
スティング(あるいはシャインヘッド)の歌になぞらえれば、この作品は“Russian in Havana”そのものでしょう。かつて蜜月を誇ったキューバとソ連の関係は、片方がロシアと名を変えてから様変わりしています。特にキューバ政府関係者のロシアへの憎悪とも言える感情は末端の警察組織においても激しく、旧友の身元確認に訪れた主人公も冷ややかな扱いを受け、彼が死因に不審なものを感じたものの地元の警察は捜査しようともしません。そんな状況の中、思っても見なかった人物から主人公が襲撃され、彼は異国の地で独りで捜査を始めることになります。フロリダ海峡に臨む陽光あふれた観光地ハバナを舞台に、住人の気質と普段の暮らし、彼らと観光客との関係、土着の呪術、食料配給制度、革命防衛委員という名の国民監視組織、などなど、いろいろな側面を抱くキューバが異国情緒豊かに観光案内風の記述を挿み印象深く描かれています。さらにカシミアの黒のコートを着たロシア人の主人公を始めとして登場人物たちの造型と描写にも非常に優れているように感じました。特異な政治体制の下でミステリ的にも巻き込まれ型のスパイ小説みたいに、隠されていた陰謀もスケールが大きく、それにたどり着くまでの過程も読みごたえがありました。キューバ人とロシア人、光と影の対比が鮮明な作品です。
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『悪魔の仕事』ウィリアム・G・タプリー 扶桑社ミステリー
2018-05-19
- Category : ☆☆☆
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ウッドハウス上院議員の甥、作家のスチュアート・カーヴァーが浮浪者同然の格好で、耳にアイスピックを打ち込まれて殺されていた。名門ウッドハウス一族からはみだし者としてよく思われていなかったスチューだが、弁護士ブレイディ・コインにとっては依頼人であり、またよき友人でもあった。しかし警察は国務省高官暗殺未遂事件の捜査に忙しく、取り合おうとしない。そこでコインは単身スチューの死因を探ろうと乗り出した。ところが今度はスチューの取材ノートをコインに届けにきていた男が殺された。やはり耳にアイスピックを打ち込まれて……。二人はなにか重要な秘密を知ったために殺されたのではないだろうか?ロバート・パーカーのスペンサーを超えるとの呼び声たかい、美しい街ボストンの知性派探偵〈弁護士ブレイディ・コイン〉久々の登場! 内容紹介より
このシリーズをジャンル分けするならば、一応探偵小説になるのでしょうけれど、主人公は酒も煙草もたしなみますが、私立探偵のイメージにつきもののチェーンスモーカーでもなく酒をラッパ飲みもしません。彼はエール大学卒業で、彼の顧客はいかがわしい人物や妖しい娼婦でもなく社会的な地位にある人物です。本書では、私立探偵の真似事をして場末の飲み屋のトイレで強盗被害にあったり、ホームレスの支援施設に足を運んだりしますが、主人公が普段身を置いているお上品な環境とはまったく違った世界で右往左往する姿がひとつの魅力なのかもしれません。プロローグで政府高官暗殺未遂のシーンがあるため、本書のミステリはそれに関連したものだろうとは予め読者には見当が付く訳ですが、この主人公は残り70ページに至っても無実の人物を告発してしまううえに、残り50ページでやっと棚ぼた式に真相が手に入るという、まるでコージーミステリみたいな間抜けさを見せてしまっています。それはクライマックスでの真犯人との体を張った対決場面にも言えます。結構スノッブ臭が鼻に付きますがスペンサーより人物的に面白いかもしれません。
『チャリティ岬に死す』
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『クッキング・ママの真犯人』ダイアン・デヴィッドソン 集英社文庫
2018-05-15
- Category : ☆☆
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ケータリング業が順調にいってほっとひと息のゴルディ。けれど料理の先生アンディが妻の病気で家計に不安をきたし、ケータリング業を始めた。その上、前夫が彼女の幸せを妬み、知人にケータリングをやらせたからたまらない。狭い地域に三人のケータラー。頭をかかえるゴルディに、アンドレが火傷による心臓麻痺で死んだニュースが飛びこんだ。おかしい。彼は日頃から心臓が強かったのだ……。 内容紹介より
クッキング・ママ・シリーズの第八弾。
建設業者の男が、主人公の友人である地元の歴史協会会長の自宅にある改築現場で他殺体で見つかります。彼は主人公を含めあちこちの住宅の改装を請け負ったものの、いい加減な施工で迷惑や損害をかけていたのだが、死体が発見された場所でもトラブルを起こしていた。彼女の友人はそのトラブルが動機だとして逮捕される。被害者が夜間警備のアルバイトをしていた歴史博物館では、展示されていた昔の料理本が盗まれていたことも明らかになります。友人が殺人犯だとは思えない主人公は、ファッション写真の撮影現場となっている、西部時代の銀行強盗が所有していたいわく付きの山荘でケータリングを始めたかつての料理の師匠を手伝っています。工事が中断した自宅の台所がひどい状態のうえに、新手のケータラーに顧客を次々にとられていったり、何者かに彼女の料理に細工をされたり、殺人事件捜査で、彼女の夫は日頃から不仲の検事補から停職処分を受けてしまうはめに。様々なトラブルが降り掛かるなか、料理の師匠が不審死を遂げます。なんといっても多くの登場人物や登場しないけれど人名だけ出てくる人物とか、それが一番ごちゃごちゃして煩わしさを感じました。多くの容疑者をとり揃えようという作者の意図なのかどうかわかりませんが、主人公は出来事に流されるままで容疑者をあげたり、それらの人物を検証することすらしないのです。事件の動機となる張られた伏線の先にある作者の目論みには読者はかなり始めから気が付いている訳で、主人公がそれに気づくのが遅すぎてもどかしかったりしました。ミステリとしては究極の成り行き任せなのに、それでも読ませてしまうコージー・ミステリのシリーズ物は恐ろしいものです。
ダイアン・デヴィッドソン
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『狐たちの夜』ジャック・ヒギンズ ハヤカワ文庫NV
2018-05-11
- Category : ☆☆☆☆
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ノルマンディー上陸作戦前夜、Dデイの最高機密を握る連合軍将校が演習中に行方不明となった。やがて、彼がナチ占領下のジャージイ島に漂着したことが判明した。機密漏洩を恐れる連合軍首脳部は、英国陸軍大佐マーティノゥと島出身の女性セアラを救出に差し向ける。だが、身分を偽装して島へ潜入した二人を待っていたのは、驚くべき謀略を心に秘めた“砂漠の狐”ロンメル元帥との出会いだった!著者会心の戦争冒険小説。 内容紹介より
凄腕の諜報員であり暗殺者でもある英国軍大佐が主人公で、彼に同行する島出身の看護師、漂着した米軍将校を匿う島民の女性とアイルランド人の元軍人、そして伊海軍中尉が主要な登場人物です。舞台は、ドイツに占領され、非常に警戒厳重で、もちろんゲシュタポも目を光らせているジャージイ島です。親衛隊の大佐とその愛人に変装して島に入り込んだ彼らがどうやって負傷した米軍将校を連れて脱出するのか、このプロットに加えて、ヒトラー暗殺計画に絡んだロンメル元帥の影武者が、偶然同じ時に島を観閲に訪れるという設定を設け、プロットに二重性を持たせており、この趣向が非常に話を面白くする効果をあげています。ただ、一級の戦争冒険小説なのですけれど、「後半ややもすると駆け足となる」と典厩五郎氏が解説しているように、ストーリーの後半部分の脱出行からが慌ただしく、もう少し書き込んでも良かった気がするのと、主人公に同行した看護師の活躍の場があっても良かったように感じました。
『非情の日』
『ヴァルハラ最終指令』ハリー・パタースン名義
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『泣き声は聞こえない』シーリア・フレムリン 創元推理文庫
2018-05-06
- Category : ☆☆☆☆
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どうしてこんなことになってしまったんだろう?十五歳のミランダはみじめな思いで打ちひしがれた。ついこの春までは、受験もまだ遠い第四学級性として控え目な青春を満喫していた。それが今、季節が夏に移ったこの日盛りの街をゆく自分は、派手なマタニティウェアに身を包み、行きかう人々の好奇のまなざしを浴びている。しかも、大きくふくれたおなかの中に赤ん坊の姿はなく、ただぶざまに詰め物がしてあるだけだなんて……。思春期の平凡な一少女にいったい何が起こったのか?意外な展開が読者を待ち受ける、鮮やかな英国女流サスペンス。 内容紹介より
以下、ややネタバレしています。ご注意下さい!
片思いの相手との初体験で妊娠してしまった十五歳の女の子が主人公です。本人は赤ちゃんを産むつもりで、級友たちにもそう宣言し、それ以来彼らの注目を一身に浴びます。しかし、進歩的で理解があると思っていた両親(特に母親)から子供を堕ろすように言われてしまいます。反発しながらも、説得に負けて人工中絶した主人公が陥った精神状態と彼女がとった行動が思わぬ騒動を引き起こします。
出産する気満々だった主人公が、次の項ではあっさりと中絶手術を受けた場面に変わっていて、ややあっけにとられてしまいます。お腹を膨らませ、マタニティウェアを着て家出した彼女は、偶然、ある邸にころがりこみ、出産間際の妊婦だと思い込んだそこの住人たちの世話を受けます。真実を言い出せないまま、でたらめに告げた出産予定日は過ぎてしまい、心配する住人たちにプレッシャーを感じている、そんな時、赤ん坊の誘拐事件が起きて事態はあらぬ方向へと向かい始めます。240ページ程の作品で重いテーマにもなりそうですが、意外性やミスリードがよく盛られ、ユーモアもありとても楽しめました。 他人の目を気にする、影響を受けやすい主人公の造型と思春期の少女の危なっかしさが良く描かれている作品だと思います。
『夜明け前の時』
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『錆色の女神(ヴィーナス)』リンゼイ・デイヴィス 光文社文庫
2018-05-02
- Category : ☆☆☆☆
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—紀元71年のローマ。不動産業界を二分するホルテンシウス家の当主と婚約した赤毛のセヴェリナは、過去に3度も夫が不審死を遂げていた。その家を牛耳る2人の美女は、今回も赤毛の財産目当てと断じ、ファルコに調査を依頼する。はたして「錆色の髪の女神」セヴェリナは稀代の毒婦か、悲劇のヒロインか。対決が迫る……。—英国推理作家協会〈歴史ミステリー大賞〉受賞の人気シリーズ、ますます快調に第3弾! 内容紹介より
〈密偵ファルコ〉シリーズ。
前二作はいわゆるお上から命を受けて調査する、シリーズタイトル通りの「密偵」の役割でしたが、今回は市井の民から依頼されて調査をする「探偵」役です。本書では“解放奴隷”という馴染みのない言葉がよくでてきて、依頼人も調査対象者もそれに当たります。また、当たり前に“奴隷”たちもおり、古代ローマの階級社会をうかがえ、当時の風俗や市民の暮らしぶりと同様に興味深いです。そんな時代背景を描きながら、今回は特にハードボイルド色が強く感じられ、妖しい美女や暗黒街のボスというこのジャンルにつきもののキャラクターも登場しています。結婚した三人の夫たちが次々に不審な死に方をしている美女は、今度の婚約も財産目的なのか、あるいは過去の事件は偶然による悲劇なのか、主人公が調べるにつれ謎が深まり、あわせて市民や住人を食いものにする不動産業界の悪辣な不正行為も明らかになっていきます。そして当然主人公とへレナのロマンスもちょっとした進展を見せています。
『密偵ファルコ 白銀の誓い』
『青銅の翳り』
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌