FC2ブログ

『薔薇の殺意』ルース・レンデル 角川文庫

2018-10-29

☆☆☆

ロンドンまで1時間の静かな田舎町、キングズマーカム。この町の治安を預かるのが主任警部のウェクスフォードだ。詩的な一面を持つ初老の紳士だが、ときにはコワモテぶりも発揮する。被害者は30歳の平凡な家庭の主婦。器量も平凡、顔に化粧をしたこともなく、夫と二人、つつましく、ひっそりと暮らしていた。そんな彼女の絞殺死体が牧草地の茂みで発見された。暴行めあての犯罪ではなかった。有力な手掛かりは遺品の本にあった。余白に、彼女に寄せる想いが綿々とつづられていたのだ。このおよそ人目をひかない女に、これほどの想いを寄せる男がいたとは……。捜査はまずそこからスタートしたのだが— 内容紹介より



本書はウェクスフォード警部シリーズの最初の作品であり、作者の長篇処女作だそうです。ウェクスフォード主任警部は五十二歳です。事件の発端は、バーデン警部の隣人から、帰宅すると妻が自宅にいないという相談でした。バーデンはさほど重要視せず、隣人にしばらく様子を見るように伝えますが、その後も彼女の行方は不明なまま警察による捜索活動が始まり、町外れの牧草地の一画にある茂みで彼女の遺体が発見されます。放牧されていた牛によって踏み荒らされた現場からは、口紅と一本のマッチの燃えかすが発見されます。警察は被害者の夫を疑いつつ、口紅の販売先を突きとめるための聞き込みを始めます。やがて被害者の遺品のなかに、彼女が若い頃に贈られた想いを寄せるメッセージが記された書籍が何冊も発見されます。身持ちの固い、化粧っけのない地味で目立たない彼女に知られざる過去があったのだろうか、という具合に話は進みます。進行はオーソドックスであり目を引くような派手さはありませんが、新聞の三面記事に載るような事件の詳細を掘り下げたみたいなリアリティを感じました。登場人物たちそれぞれの心理を仔細に暴いていくような作者の描写が処女作からすでに確立されているどころかベテランの作風さえ感じます。被害者を含む女子校の同級生たちの過去と現在の有様を彼女たちの恩師を登場させることによって繋ぎ、彼女らの夢と現実を対比させて人生の儚さや虚しさを感じさせる構図を造り上げています。学業優秀で将来を嘱望されていたのに平凡な生活を送っているという校長の言葉が印象に残りました。

ユーザータグ:ルース・レンデル




商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『裁くのは誰か?』ビル・プロンジーニ バリー・N・マルツバーグ 創元推理文庫

2018-10-26

Tag :

☆☆☆

“我が敬愛する大統領閣下。止むなくこの手紙は匿名とさせていただきましたが、わたしは決して狂人ではありません。個人的にも政治的にも閣下にきわめて近い人間で、ホワイトハウスの中核を構成する一員であります”—だめだ。こんなことをしてみても大統領への脅威を取り除くことは出来ない。裏切り者には死を。ほかに道はない……。任期終盤、合衆国大統領の身辺を襲った連続殺人。物語は強烈なサスペンスのうちに驚天動地の結末へと疾駆していく。はたしてこの殺戮を演出したのは何者か?異色コンビが技巧の限界に挑む、掟破りの傑作長編! 内容紹介より



“われわれ”という正体不明の人物が一人称で語る以外、その他の登場人物は三人称です。舞台はホワイトハウス(後に大統領の所有する山荘へ移ります)で、一期目の任期を終えそうな合衆国大統領、その夫人、政府高官、警護官が主要登場人物です。政策へのマスコミ受けが悪く、支持率が下降気味であり、また非協力的な態度を鮮明にする与党共和党の圧力が大統領にストレスを与えている状況と、それに対して大統領を支持する“われわれ”が政権内部にいる裏切り者を排除しようとする動きが描かれていきます。重責と重圧のかかる大統領職の日々の職務に、殺人犯の独白による犯行場面が挿まれて進みますが、プロットはひとつのアイデアに頼り切っている訳で、それ以外の話が面白くないと評価は微妙にならざるを得ないのではないかと。この作品のトリックがフェア、アンフェアかということは、個人的にはどうでもよくて、物語が面白ければそれで充分だと思います。だからその真犯人探しのどんでん返しにたどり着くまでの話をもっと面白くして欲しかったというのが印象です。同じコンビの作品『嘲笑う闇夜』にも見られるように、物理的なトリックではなく精神異常や錯乱をトリックにする傾向がある、またはそこに求めざるを得ないきらいがあるのでしょうか。

『嘲笑う闇夜』ビル・プロンジーニ&バリー・N・マルツバーグ 文春文庫




商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『風船を売る男』シャーロット・アームストロング 創元推理文庫

2018-10-23

Tag :

☆☆☆☆

ある朝、台所にいたシェリーに夫が突然襲いかかり、あおりで息子のジョニーが重傷を負った。作家志望の夫ウォードは、働くどころか作品を発表することもなくドラッグ漬けの怠惰な日々。ジョニーの入院先に現われたウォードの父エドワードはシェリーの言い分をろくに聞きもせず、二人を離婚させ孫は自分が引き取ると宣言、ジョニーの養育権をめぐる闘いが始まった。シェリーは看病に通うため病院向かいの下宿に移ったが、エドワードに因果を含められた男も下宿人として入り込み、シェリーを貶める工作を重ねていく。やがて離婚調停の当日を迎え……。 内容紹介より



大金持ちで社会的にも影響力を持つ男が孫を引き取り育てたいがために、ある人物を使って息子の嫁が養育権を持つ母親としてはふさわしくないことを証明させようとします。調べ回るも彼女に後ろめたい事柄が見つからないために、その人物はわざと彼女に不利になる噂話や細工を仕掛けていきます。息子の入院と生活費のことで頭が一杯のヒロインには自分の回りに罠が張り巡らされつつあることにまったく気付きません。物語は主に安下宿屋を舞台にして、下宿屋の主一家、下宿人たちが主要登場人物です。特に窓際の席に陣取ってカードゲームをしながら外の出来事を眺めている“ノルン姉妹”というあだ名を持つ三人の老婦人たちが、ただのゴシップ好きだけでなく、鋭い観察眼と道徳観の持ち主だったという設定は効果的でした。罠の仕掛人である映画プロデューサーの男は、好人物を装い、映画のキャストに見立てて周りの人間を取り込み、計画通りに事を運ぼうとします。その時々の彼が表す楽観や落胆、憤りや不満など心理状態の変化がよく描かれていると思いました。ミステリとしては仕掛人を伏せ、怪しい人物をもう一人ほど登場させて犯人探しをする手法を採っても面白かったような気もしましたが、クライマックスの展開は予想外でした。五十年前に発表された作品としての古めかしさを感じません。

『サムシング・ブルー』




商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『愛おしい骨』キャロル・オコンネル 創元推理文庫

2018-10-20

Tag :

☆☆☆☆

十七歳の兄と十五歳の弟。ふたりは森へ行き、戻ってきたのは兄ひとりだった。家政婦ハンナに乞われ二十年ぶりに帰郷したオーレンを迎えたのは、過去を再現するかのように、偏執的に保たれた家だった。夜明けに何者かが玄関先に、死んだ弟の骨をひとつひとつ置いてゆく。一見変わりなく元気そうな父は、眠りのなかで歩き、死んだ母と会話している。これだけの年月を経て、いったい何が起きているのか? 半ば強制的に保安官の捜査に協力させられたオーレンの前に、町の人々の秘められた顔が、次第に明らかになってゆく。迫力のストーリーテリングと卓越した人物造形。著者渾身の大作。 内容紹介より



カリフォルニア州北西部の広大な森林に隣接した小さな町は、なぜか奇人変人を呼び寄せるものを備え、ある者はしばらくすると旅立ち、ある者はそのまま居着いてしまいます。生まれ育ったその町を出て、二十年ぶりに戻ってきた主人公は、子供の頃に森で行方不明になった弟のものと思われる遺骨が、何者かによって自宅の玄関に置かれることを知ります。その出来事を契機にかつての事件の真相が徐々に明らかになっていきます。
コヴェントリーという小さな町ながら何か魅力的で存在感のある舞台を建て、そこに色々な個性を持つ住民を住まわせる、作者によるこの作業の時点で物語はほぼ成功しているみたいに思えます。主人公はオーレンでありながらも、彼は狂言回しの役割を担い、住人たちそれぞれの姿を読者に伝えていきます。そして真の主役は一家の家政婦であるハンナです。彼女の正体不明で人間離れした慧眼と行動力が物語に活かされています。登場人物たちのなかで女性陣のキャラクターが非常に強烈で印象に残るのに対して、男性陣のほとんどは邪な、または冴えない立場に据えられていますし、ハンナに対する主人公父子、図書館司書メイヴィスに対する息子、州捜査官サリーに対する保安官、すべて女性に頭が上がらない構図です。この関係性と作者の意図を考えるととても面白く感じました。ちょっとだけ中盤以降にダレる部分もありましたが、丹念かつ丁寧に登場人物の姿とその相関を浮かび上がらせていく技法が見事だと思いました。後日談に救いがあって、読後感を爽やかなものにしています。

キャシー・マロリー・シリーズ
『死のオブジェ』
『陪審員に死を』




商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『狩りの風よ吹け』スティーヴ・ハミルトン ハヤカワ文庫HM

2018-10-17

Tag :

☆☆☆

30年ぶりの再会だった。私立探偵アレックスのもとを訪れたのは、かつてバッテリーを組み、共に一流のメジャーリーガーを夢みた親友だった。その夢を捨て、音沙汰のなかった彼が、昔の恋人の捜索を依頼してきたのだ。アレックスは旧友のために彼の最愛の女を追うが、まもなく何者かに暴行を受け監禁される……やがて明らかになる悲劇的な真相とは?雪解けの水のように清らかな感動があふれる、現代ハードボイルドの収穫 内容紹介より



以下、少々ネタバレしています。ご注意下さい!

〈アレックス・マクナイト〉シリーズの第三作品目。二作目の『ウルフ・ムーンの夜』は未読です。
主人公がマイナーリーグの3A時代にバッテリーを組んだ旧友が三十年ぶりに姿を現し、かつてメジャーリーグに登録された時に知り合った恋人を捜して欲しいと依頼してきます。彼はたった一度だけメジャーの試合に登板する機会に恵まれるも、めった打ちにあい、それ以来彼女との関係を一方的に絶ったのでした。主人公は気が進まないながら、友人とともにわずかな手がかりを求めて彼女の足跡をたどりますが、ようやく彼女の家族が住んでいる家を訪ねるとそこで思わぬ事態に遭遇します。
主人公は警官時代に銃撃され相棒を亡くし、そのトラウマで警察を辞め、自身も体内に銃弾が残っている状態です。挫折し気乗りしない私立探偵業をやっているという状況で、美女探し、頭に一撃などハードボイルドの構成要素が見られますし、ロードノベル風でもあり、また悪女ものでもあります。過ぎ去った若かりし頃の夢と挫折、中年になった今現在の人生を対比させ郷愁と哀切、諦観みたいな感情を描き出す趣向を用いています。昔の恋人が隠れ住む田舎町の重苦しい雰囲気がそれまでのからりとしたものから一変しクライマックスへと雪崩れ込んでいく展開はなかなかのものです。残念なのは元恋人が思い出に残っているような人物ではないことが読者に早めに見当が付いてしまうことであり、第二の主人公である悪女の存在感を強く印象づけるエピソードが希薄なところです。非常にアメリカ的な作品だと思いました。

『氷の闇を越えて』




商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『フェルマーの鸚鵡(オウム)はしゃべらない』ドゥニ・ゲジ 角川書店

2018-10-14

Tag :

☆☆☆

「わたしゃ、弁護士がいなきゃしゃべらないよ!」と叫ぶ不思議なオウムを、蚤の市で偶然手に入れた少年マックスと車椅子の老人リュシュ氏。その日から周囲で次々と奇妙な事件が発生する。オウムを奪おうとするマフィアの暗躍,謎の死をとげたリュシュ氏の友人、そして死者から託された数学に関する貴重な書物—。複雑に絡みあった謎のカギを握るのはこのオウムなのだろうか?断片的なメモを手がかりに、数学の歴史をたどりながら真実に近づいていく二人。パリ、東京、シチリアと展開する大事件。そして、ついに核心に触れたその時にもたらされた衝撃のニュースと、思いもよらないどんでん返し!全世界を揺るがせた「フェルマーの最終定理」をめぐるロマンとスリルとサスペンス。数学の興味深いエピソードをふんだんに盛り込んだ、エンターテインメント・ミステリの真骨頂!数学を好きにならずにはいられない、極上の逸品。 内容紹介より



パリの書店主、その店の住み込みの従業員一家(母親、双子の兄妹、弟)が主な登場人物です。耳の不自由な弟が蚤の市で虐待されていたオウムを助けて家に連れ帰った出来事、そして店主の大学時代の旧友からの手紙と彼の数学に関する大量の蔵書が届いたことから物語が始まります。アマゾン流域に暮らす旧友の手紙には数学史上の未解決命題を解き、その証明を狙う何者かに脅かされたため、“誠実な仲間”に証明を伝えたと記してあるも、彼はその後火事によって焼死したことを判明します。書店主は従業員家族と蔵書を使って数学の歴史をたどるとともに、友人がなしたとする証明と彼の死の謎に迫ることになります。
読んでいる途中、哲学史の入門書である『ソフィーの世界』のことが思い浮かびましたが、本書も立ち位置的には同じで数学史の入門書なのでしょう。しかし、こちらは定理や数式が頻繁に出て来るので個人的にその部分が非常に判りにくい、というか理解できませんでした。数学上の発見や数学者たちのエピソードなどはもう少し掘り下げても良かったような気がしました。一方、ミステリの部分はかなり物足りない感じで捻りもありません。娯楽作品としては、人物造型もやや単調で子供たちの活躍が描かれていても良かったように思いました。




商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『数独パズル殺人事件』シェリー・フレイドント ヴィレッジブックス

2018-10-11

Tag :

☆☆☆

若き数学者ケイトは、久々に故郷ニューハンプシャーの静かな田舎町に帰って来た—心優しき恩師アヴォンデール教授からのたっての願いで。教授の生きがい〈パズル博物館〉が閉館の危機らしい。ケイトはすぐに館の存続に向け東西奔走しはじめるが、そのとたん、教授が館長室で殺されているのを発見してしまう。現場にはやりかけの数独パズルが残されていたが、数独マニアの教授が書くはずのない謎の数字が……。これは教授からのダイイング・メッセイージだと睨んだケイトは、堅物警察署長の目を盗んで犯人探しを始めるのだが—。日本が誇る人気パズル「数独」をテーマにした世界初のミステリー! 内容紹介より



子供の頃に母親を亡くしたオタクな少女の孤独を癒してくれたパズルとパズル博物館館長。少女は大人になって故郷を離れ、現在は理論数学研究所の研究員です。彼女は教授の依頼で生まれ育った町に戻りますが、博物館が改修のために受けた融資金の返済が滞っているため土地と館を銀行に取られてしまいそうになっていることを知らされます。月々の返済はしてあるはずなのにそれが銀行に渡る前に消えてしまっているようなのです。折しも町は新しいショッピングモール建設計画の是非をめぐってもめており、建設予定地にある家屋が次々に買収され、その一画にある博物館には立ち退きを迫る脅迫状まで届いている状況です。主人公が調べ始めた矢先に殺人事件が起きてしまいます。
事件現場に残された数独パズルに事件解決への手掛かりが書かれていたというくらいで、わざわざタイトルに付けるまではないと思いますし、ミステリ的には今ひとつでした。本書の魅力はパズル博物館の存在にあると思いますから、もう少し色々なパズルについての知識が記されていたならとは感じました。主人公は好感が持てるし、彼女の伯母さんその他にも館で飼われているペットの猫、団結力と行動力が抜群のおばあちゃんグループの存在が愉快であり存在感がありました。都会から来た警察署長がよそ者扱いされたうえに職務熱心さゆえに地元民の不興を買っているという捻った設定が、東部の田舎町における気質の一端を表しているようで面白かったです。ニコリ代表の鍛冶真起氏の解説と数独パズルが付いています。



商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『シロへの長い道』ライオネル・デヴィッドスン ハヤカワ文庫HM

2018-10-08

Tag :

☆☆☆☆

西暦70年に征服者に強奪されたという、ユダヤ教の聖なる黄金の燭台メノーラが、突如現代によみがえった。イスラエルで、メノーラの隠し場所を示す古文書が発見されたのだ。隣国ヨルダンも、独自に発掘に向かっているという。イギリスの考古学者レング教授はメノーラ発掘の緊急指令を受け、急遽イスラエルへと飛んだ!サスペンス、暗号、謎とき—過去と現代を劇的につなぐ、英国推理作家協会賞受賞の傑作サスペンス 内容紹介より



1966年のゴールド・ダガー賞受賞作です。
イスラエル当局から秘密裡に古代の聖なる燭台のありかを示す古文書を解読する依頼を受けた新進気鋭の英国人大学教授が主人公です。彼の仕事は、不完全な古文書を読み解き、その中に使われている暗号を解読し、燭台の埋葬先を突き止める、というもの。現地の考古学者とその教え子で現在イスラエル軍に兵役中の女性が主人公に協力するという構図です。プロットはまさしく伝統的な英国冒険小説を踏襲していると共に巻き込まれ型の形を取っています。さらにイスラエルという特異な国を舞台にした自然や風俗など異国情緒たっぷりで、かの地域の古代史も記され、知的好奇心も刺激される作品だと思いますし、プロフェッショナルとアマチュア、推論と冒険のバランスが良く取れた内容になっていると共に最後は英国らしい辛口のユーモアでしめ切られています。まあ、主人公の女性に対する姿勢はさすがに現代風になっていて、中世の騎士道とはまったく違って軟派に感じてしまい、その辺りは仕様がないのでしょうけれど、気に障ったりもしました。




商品詳細を見る









テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『警視の週末』デボラ・クロンビー 講談社文庫

2018-10-05

Tag :

☆☆☆☆

スコッチウィスキーの聖地スペイサイドへ週末旅行に出かけたジェマ。だが同行の友人には旅先で不倫相手との逢瀬をという隠れた目的があった。怪しい雲行きは何者かの殺意を呼び、美しい風景に一発の銃声が轟く。その頃、ロンドンに残ったジェマの恋人キンケイド警視の元には、家族の愛を脅かす知らせが—。 内容紹介より



〈ダンカン・キンケイド&ジェマ・ジェイムズ〉シリーズの第九作目。
スコットランドにあるB&Bで催される料理教室に参加するため、良き相談相手であるセラピストの友人と共に週末旅行に出かけたジェマは、友人の旅の隠れた目的が昔の婚約者との密会であることを知ります。その宿には彼女たちの他に、地元のウィスキー蒸留所のオーナーである元婚約者、蒸留所の経営責任者とそこを傘下に収めたいフランス人実業家、B&Bの主人のわけありの異父弟が泊まっています。宿での夕食時に元婚約者の女友だちが現われ、ふたりの間でいざこざが起きた翌朝、彼は射殺死体で発見されます。一方、ロンドンに残ったキンケイドの元に子供の親権を巡る手紙が届きます。ストーリーはこの二つの話に、十九世紀末の蒸留所を舞台にした出来事を挿んで進んでいきます。
内容紹介文には「不倫相手」と記されていますが正確には違います。ひとりの男をめぐっての愛憎劇になっていて、夫と娘がいながら元婚約者との間に焼けぼっくいに火がつきそうなジェマの友人の行動が、彼女のみならず周りの人間にも思わぬ惨事を引き起こしてしまうというよくある話です。しかし、登場人物たちの多視点による、各人の微妙な心理描写で謎が謎を呼ぶ状況を作り出していく手法は相変わらず非常に巧いと思います。キンケイドを見舞った親権問題も波乱を呼び、テーマの一つである家庭、家族というもののあり方を考えさせるエピソードになっています。ただ、真犯人へ至る伏線の弱さと強引さは気になるところでした。余談ですが、本書の登場人物も身に付けているキルトやタータンという民族衣裳は十八世紀初めか後半から十九世紀初めまでの間に創り出されたものであって、「古代・中世に起源を遡る古い歴史はない」(『スコットランド 歴史を歩く』高橋哲雄著 岩波新書)という記述を思い出しました。

『警視の偽装』




商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

カテゴリー

最近の記事

月別アーカイブ

08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07 

ユーザータグ

短編集 ホラー SF クリスマス・ストーリー アンソロジー ルース・レンデル アーロン・エルキンズ スティーヴン・キング キャロリン・G・ハート デイヴィッド・ハンドラー ジョアン・フルーク ローラ・チャイルズ ドン・ウィンズロウ マイクル・クライトン ジョー・R・ランズデール ジョージ・P・ペレケーノス C・J・ボックス ポーラ・ゴズリング レジナルド・ヒル エド・マクベイン ヘニング・マンケル ジル・チャーチル ジェイムズ・パタースン ジェームズ・パターソン リチャード・マシスン ローレンス・ブロック ジャネット・イヴァノヴィッチ S・J・ローザン カール・ハイアセン リリアン・J・ブラウン スチュアート・ウッズ パーネル・ホール D・M・ディヴァイン ピーター・ラヴゼイ ジェフリー・ディーヴァー ローラ・リップマン ジョルジュ・シムノン アリス・キンバリー レックス・スタウト ジョー・ゴアズ ウィリアム・カッツ マーガレット・ミラー レスリー・メイヤー ジャック・カーリイ クレオ・コイル ヒラリー・ウォー アイザック・アシモフ カーター・ディクスン ジョン・ディクスン・カー マーシャ・マラー エド・ゴーマン コリン・ホルト・ソーヤー ルイーズ・ペニー マイケル・ボンド ジェフ・アボット イーヴリン・スミス ジェームズ・ヤッフェ フレッド・ヴァルガス ウィリアム・L・デアンドリア ロブ・ライアン リタ・メイ・ブラウン キャロリン・キーン G・M・フォード ポール・ドハティー ジャン=クリストフ・グランジェ リン・S・ハイタワー ダナ・レオン ドナ・アンドリューズ ウイリアム・P・マッギヴァーン サイモン・カーニック スタンリイ・エリン クリスチアナ・ブランド アン・クリーヴス アンソニー・ホロヴィッツ ジョアン・ハリス ケイト・ロス アンドレア・カミッレーリ ジョン・クリード レニー・エアース デイヴィッド・マレル コニス・リトル オーサ・ラーソン ファーン・マイケルズ レイ・ハリスン エヴァン・マーシャル ウィリアム・ランデイ ジャック・フィニイ ウォルター・モズリイ ビリー・レッツ サキ ジェーン・ラングトン ユージン・イジー イーサン・ブラック リック・ボイヤー エーリヒ・ケストナー ウォルター・サタスウェイト トバイアス・ウルフ ポール・ドハティ スタンリー・エリン 

ブログ内検索

全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

リンク

RSSフィード

最近のトラックバック

最近のコメント