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『病める狐』ミネット・ウォルターズ 創元推理文庫

2018-12-31

Tag :

☆☆☆

ドーセットにあるさびれた小村、シェンステッドでは、不穏の種がひそかに植えつけられていた。何者かによる動物の虐殺、数ヶ月前に起きた村の老婦人の不審死に対してささやかれる噂、村の一画にある〈雑木林〉を占拠した移動生活者(トラヴェラー)の一団。それらの背後には、フォックス・イーヴルと名乗る謎の男の影があった。人々の緊張は静かに高まりつづけ、そしてついにクリスマスの翌日、ひとりの訪問者が村を訪れたときに、事態は予想外の形で大きく動きだす……。ミステリの新女王ウォルターズが、圧倒的な筆力で書きあげた、CWA最優秀長編賞受賞作。 上巻内容紹介より



1994年の『鉄の枷』に続き、2003年にゴールド・ダガー賞受賞をした作品。しかし読了してみてウォルターズの作品ってこんなだったっけ、と思うほど軽くて拍子抜けする作品でした。地元の名家の老婦人の不審死をきっかけに、家族内の醜聞や確執、村の住人の間に湧きあがる好奇の目や噂話などなど、もっとぐちゃぐちゃどろどろした人間関係の有り様がこれでもかと描かれ、それらが極まったところで衝撃の事件が巻き起こる、という流れを想像していたのに、上げ底というか底が割れたというか淡白な進展具合であっさり終わってしまったのが意外でした。ただ、スノッブな二人の初老の女性の人物描写、心理描写にはやはりさすがに長けていると思わざるを得ず、物語の軸を微妙にずらして読者を煙にまくテクニックはさすがですし、共犯者の存在も意表を突かれました。ちん入してきた移動生活者たちの異質な存在が地域の住人を揺るがす構図も巧く練られていると思います。しかし、登場人物たちの善悪の立ち位置がはっきり分かれすぎていること、主役となる人物像にめりはりがなくやや曖昧なこと、などで作品の全体的な印象は弱いです。

これで今年最後の更新になります。この一年当ブログにお越しいただきありがとうございました。来年もよろしくお願い致します。どうぞ良いお年をお迎え下さい。

『囁く谺』



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ポップコーン』ベン・エルトン ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2018-12-28

Tag :

☆☆☆

アカデミー賞授賞式の夜、見事に監督賞を射止めたブルースは、意気揚々と帰宅する。だが栄光の夜は、思いもよらぬ展開を見せた。彼の邸宅が連続殺人鬼のカップルに占拠され、ブルース自身も彼らの人質とされてしまったのだ。駆けつけた警察とマスコミに、殺人者たちが突きつけた、奇想天外な要求とは—英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞受賞の話題作 内容紹介より



ポップコーンとは、主人公である映画監督の作品のような「腹に溜まらぬポップな作品」(p92)。無差別に人を殺してまわる若者を描いた過激なバイオレンス映画の脚本と監督を務めた主人公は、実際に発生した若い男女のカップルによる大量殺人が自身の作品の影響を受けているのではないかという批判に晒されています。そんな状況のなか、晴れてアカデミー賞を受賞した彼は、その夜自宅に侵入した当の殺人犯たちの人質になってしまいます。彼らはそこでも犯行を繰り返した後、呼び寄せたマスコミに対して意外な要求をします。
そもそも、この作品がミステリなのかどうか疑問なのですけれど、パルプノワール風味ではあります。事件の設定はチャールズ・マンソンが関わった実際の事件を思い出させますが、テーマは猟奇的なものではなく、映画が現実の事件に影響を与えるものなのか、もし影響された人物が犯罪を犯した場合には、その作品を制作した側にも責任があるのかどうか、という問題がポップな乗りで描かれていきます。ロドニー・キングやO・J・シンプソンの事件における異様な展開を引き合いに出すという社会性の強いテーマに、ハリウッド映画界、ジャーナリズムやマスコミの軽佻浮薄な風潮を類型的なエピソードを絡める手法をとっています。犯人と被害者がTVに生出演し、視聴率によって事態が変化するという展開は、劇場型犯罪を風刺した作品といえるのでしょう。



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『クリスマスのシェフは命がけ』ジェリー・ハイジー コージーブックス

2018-12-25

☆☆☆

豪華クリスマスツリーに煌びやかな飾り、そして巨大なお菓子の家—ホワイトハウスが最も輝く季節が今年もやってくる!オープニング・セレモニーでは、全米の子どもたちが焼いたクリスマスクッキーが展示されることに。大統領夫人が指揮をとるセレモニー当日に向けて準備が始まり、舞台裏で働くスタッフたちにも緊張が走る。着任したばかりの新総料理長オリーも奮闘するなか、ハウス内で爆弾騒ぎが発生!全ての準備作業が中断され、早く遅れを取り戻さなければならないというのに、第二の爆弾事件が。オリーは持ち前の鋭い観察眼が災いして、事件に巻きこまれてしまい……!?厳戒態勢のなか、はたして無事にホリデーシーズンを迎えることができるのか? 内容紹介より



〈大統領の料理人〉シリーズの二作目です。第一作目の『厨房のちいさな名探偵』は未読です。
ホワイトハウスが舞台のコージーミステリ、主役は三十歳代前後の女性総料理長と設定はかなりユニークです。季節はクリスマスシーズンで、ホワイトハウスも様々なイベントが予定され、そんな慌ただしいなかで爆弾騒ぎが発生します。さらにハウス専属の電気技師長が感電死するという事件も起きてしまいます。また、大統領夫人が所有する株の売却を巡ってトラブルにみまわれ、その上に夫人の甥が……。という具合に騒動がてんこ盛りで気忙しいなか、ヒロインも暴漢に襲われる事件が起きますが、なんといってもホワイトハウスってところはこんなにも爆弾騒ぎが発生するものなのだろうか、と思ってしまいました。世界でも最高クラスのセキュリティーを誇る施設にしては、同じような騒ぎが三回くらい繰り返されるので、コージーミステリレベルのリアリティに欠ける設定に、少々興ざめ気味になります。大統領夫人とその友人たちの間に起きた株売却のトラブルの場面も同じく繰り返される始末。庶民に縁遠いホワイトハウスの内幕を窺うという覗き見趣味は満たされなかったような気がしました。




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『煙で描いた肖像画』ビル・S・バリンジャー 創元推理文庫

2018-12-22

Tag :

☆☆☆☆

古い資料の中から出て来た新聞の切り抜き、それは、ダニー・エイプリルの記憶を刺激した。そこに写っていたのは、十年前に出会った思い出の少女だったのだ。彼女は今どうしているのだろう?ちょっとした好奇心はいつしか憑かれたような想いに変わり、ダニーはわずかな手掛かりを追って彼女の足跡を辿り始める。この青年の物語と交互に語られていくのは、ある悪女の物語。二人の軌跡が交わったとき、どんな運命が待ち受けているのか?『歯と爪』『赤毛の男の妻』などで知られる、〈サスペンスの魔術師〉の待望の名作がついに登場! 完訳決定版。 内容紹介より



本当かどうかは知りませんけれど、男はロマンチスト、女はリアリスト、ということをよく耳にしますが、本書はそれを体現したみたいな物語です。十五歳の夏の夜に一度だけ見かけて一目惚れした少女が写っている新聞記事を、男は十年後に集金代行業のオフィスにあった資料の中に偶然見つけます。それは地方新聞社主催の美人コンテストの優勝者を報じた記事で、それを糸口に彼の追跡劇がスタートします。男の追跡行の一方で、女の過去にさかのぼって彼女の人生遍歴が描かれいきます。貧乏な家で育った彼女の持っている唯一のものは美貌、求めるものは金と社会的地位、世の中の男たちはそれを手に入れる手段に過ぎません。金と時間を浪費しながら女の行方を追う男、のし上がるために他人を利用する女、ふたりの姿には哀れささえ感じてしまいます。物語は読者の予想通りの展開になっていきますが、想像の中で女を理想化して想いを募らせた男が、最後に喰らった痛烈な一撃には爽快感を覚えてしまいました。

『消された時間』 ハヤカワ文庫HM




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『消えたメイドと空家の死体』エミリー・ブライトウェル 創元推理文庫

2018-12-19

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☆☆☆

善人だが刑事の才能はない主人ウィザースプーン警部補のため、こっそり事件を解決してきた家政婦ジェフリーズ夫人と屋敷の使用人たち。その実績を見こんで、前回の事件関係者クルックシャンク夫人が人捜しを依頼してきた。年若い友人のメイドが、奉公先で盗みの疑いをかけられ、くびにされたまま行方知れずなのだという。一方、警部補が新たに担当することになった空家での若い女性殺害事件は、遺体の腐乱がひどく死者の身元が不明なまま。捜査を始めるや、このふたつの事件が意外な形で結びつく?話題沸騰、ヴィクトリア朝痛快ミステリ第2弾。 内容紹介より



〈家政婦は名探偵〉シリーズ。
今回はきっぷの良いアメリカ人クルックシャンク夫人からの依頼で、彼女の友人であるメイド失踪事件、そして警部補が担当になった地下鉄工事中の地域にある空家で見つかった身元不明の女性刺殺事件、このふたつを使用人チームが嬉々として調査することになります。
前作同様に家政婦のジェフリーズ夫人を中心に、ハウスメイド、料理人、従僕、馭者がそれぞれの得意分野で噂話を仕入れたり、聞き込みにまわったりして情報を集めます。ヴィクトリア朝時代ですから、ジェフリーズ夫人がご主人に説明しているように、男性は女性心理に疎く、さらに雇用主は使用人たちへの理解に欠けるのですから、今回のようにメイドが絡んだ事件になると、その雇い主たちの表も裏も使用人が一番分かっているので、特に家政婦たちの意見や考えが重要なものになってくるという訳です。警部補が属する社会階級から見たしもじもの者たちについては誤解や偏見があるので、それを諭して捜査を正しい方向へ導くという重要な役割を夫人が担っています。前作同様気楽に読める作品なのですが、今回は容疑者の名前がこんがらがって混乱しました。

『家政婦は名探偵』




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ジャンル : 本・雑誌

『チェルシー連続殺人事件』ライオネル・デヴィッドソン 集英社文庫

2018-12-16

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☆☆☆☆

最先端のファッションと芸術の町チェルシーを恐怖のどん底におとしいれた連続殺人事件。古い詩の一部を引用した暗号文で殺人を予告する犯人。手口は鮮やか逃げ足は早い。ロンドン警視庁を挑発する大胆な殺人犯を追う警部。緻密な構成と軽快なテンポで描かれた新しい感覚の推理小説。英国推理作家協会最優秀賞受賞作品。 内容紹介より



本書は、1978年のCWA賞ゴールド・ダガー賞受賞作です。以前読んだ1966年同賞受賞作の『シロへの長い道』が冒険小説だったのに対し、この作品は警察小説の形をとっているのですけれど、視点は、ロンドン警視庁の閑職に就きたい辣腕警視、大手の新聞社に移りたいため特ダネを狙う女性記者、殺人を題材にした前衛的な映画を製作中の三人組、それぞれに別れて描かれています。チェルシー界隈で起きた三件の殺人事件後、警察宛に犯人と思われる人物から、過去の詩人たちの作品の一節を引用した犯行予告文が届きます。しかも被害者の名前は皆引用した詩人たちと同じ頭文字だということ、そして彼らは映画製作中の三人組となんらかの関わりがあったことが判明します。引用した詩の一節もふざけたものが多く、犯人は面妖な仮面を付けて犯行に及び、三人組はエキセントリックなキャラクターとあって、作品は英国らしいというより、ややフランス風なブラックで軽妙な雰囲気に仕上がっているように感じました。最後のページでさらりと明かされる意外な事実は(小)細工が効いていますし、全体に妙味のある作品だとは思いますが、わたしは『シロへの長い道』の方が好みです。ただ、読み終えて振り返ってみると、力を抜いたみたいなタッチの印象ですが、アリバイのトリックは良く練られていて三度受賞した大御所の作品らしさを随所に感じられました。

『シロへの長い道』




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ジャンル : 本・雑誌

『荒野の絞首人』ルース・レンデル 角川文庫

2018-12-13

☆☆☆

風に伏しなびく苔桃やヒースの茂み、刻々と移りかわる空を背に黒くそびえたつドルメン岩。靄のヴェールをかぶった小高い山々。この荒涼たる原野(ムーア)がスティーヴンの恋人だった。彼こそがこの土地の君主なのだ。幼い頃から山に登り、廃鉱の坑道を探検し、彼は原野の隅々まで知りつくしていた。その荒野で起きた異常な殺人事件、それに最初に気づいたのもスティーヴンだった。金髪を丸坊主に刈りとられた若い女の死体を見つけたのだ。彼の原野を侵す何者かが現われた……。やがて発見された第二の死体も、金色の髪を刈りとられていた。そしてスティーヴンは、見棄てられた坑道の奥に奇妙なものを見つけたのだが……。 内容紹介より



本書は、『地獄の湖』の後、1982年に発表された作者にとってノン・シリーズの第十作目にあたる作品です。
イングランドの自然を象徴する風景のひとつである原野(ヒース)を舞台にした物語です。妻とふたり暮らしの主人公は二十九歳、躁鬱気味の父親の家具工房を手伝っています。幼い頃に母親が家出して以来、彼のなによりの生きがいは原野を歩き回ることで、地元の新聞に自然についてのコラムを書いているという一面を持ち、母方の著名な作家の孫であることを誇りに思っています。そんな彼がひとりで原野を散策中に、金髪を刈り取られた若い女性の絞殺体を発見してしまいます。原野を精神の支柱にして、長い間、危ういバランスを保っていた精神状態が様々な出来事によってじわじわと崩れていくという、この作家のお得意のプロットの話です。出奔、不貞、金髪が重要なキーワードになっているのは、やや定型的ですがわかりやすいです。しかし、突然に殺人が始まった理由は何なのか、というところが説明されておらず、その点は読後すっきりしませんでした。ある殺人におけるアクロバティックな展開にはとても意表を突かれましたけれど、この作者が好んで使う“失踪≠殺人”という図式と違って、この妙技は一回だけしか使えないでしょう。

ユーザータグ:ルース・レンデル




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『アマガンセット 弔いの海』マーク・ミルズ ヴィレッジブックス

2018-12-10

Tag :

☆☆☆☆

かつては捕鯨でにぎわった風光明媚なアメリカ東海岸の保養地アマガンセット。二度の大戦の傷も癒えぬ頃、その波打ち際で、ひとりの若く美しい女性の溺死体が網にかかった。遺体の身元は隆盛をきわめるウォーレス家の末娘リリアンとわかったが、他殺なのか自殺なのかすらはっきりしない。副署長のホリスは粘り強く捜査を続ける。そうこうするうち、死体の発見者である孤高の漁師コンラッドが、リリアンのことを探っているのが発覚した。コンラッドの目的は何なのか?リリアンの死の真相は?美しい自然を背景に、ミステリアスな事件を叙情的に描きあげる、注目作家デビュー作! 上巻内容紹介より



本書は、イギリス人作家がアメリカ、ロングアイランドを舞台に描いた、2004年CWA賞最優秀処女長篇賞受賞作品です。第二次大戦の激戦を生き延びた主人公は寡黙な漁師、家の目の前にある海で、相棒の純真な青年とふたりだけで漁業を営んでいます。海岸沿いは保養地としての開発が始まりかけており、また都会から来る釣り人と地元漁師とのいざこざが持ちあがっている状況です。そんな時代を背景に、主人公たちが裕福な名家の娘の遺体を引き上げたところから物語が始まります。プロットもミステリもさして複雑なものではありませんし、主人公の造形も何か際立つものを備えているわけでもありません。しかし、過去と現在の出来事が寄せては返す波のように綴られていく進み具合、押し付けがましくない主人公の切ない感情表現、海の雰囲気を感じとれる自然描写、こういった趣向と筆致がとても効果的に働いている印象を持ちました。また、地元警察の副署長も重要な脇役を担い、彼のロマンスがともすれば暗くなりがちな物語に明るさを与えています。欲を言えば、故人の姉、地元署の警察官などにはもう少し話に重要な役割をつとめさせても良かったのではないかという感じも残りました。上下巻あわせて約六百ページ程になるにも関わらず、もう少し読んでいたい気持ちになる物語でした。とにかくデビュー作とは思えないほどの完成度と余韻が残る作品だと思います。




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『闇の天使』ジャック・ヒギンズ ハヤカワ文庫NV

2018-12-07

Tag :

☆☆☆

IRA、CIAなど相手を問わず無差別に暗殺を繰り返す謎のテロ組織〈一月三十日〉。彼らの政治的信条ばかりか、テロの目的もいっさい不明であった。やがて、北アイルランド和平の鍵を握る要人警護の命が英国特別情報機関に下り、元国際テロリストのショーン・ディロンがその任務に就いた。一方、情報をつかんだ〈一月三十日〉は、ディロンの裏をかき凶弾を放つべく、密かに暗殺者を差し向けるが……痛快冒険サスペンス 内容紹介より



〈ショーン・ディロン〉シリーズで、1995年に発表された作品。本書のなかでの政治状況は、北アイルランド問題の解決に向けて各勢力が交渉の席に着くかどうか、また、それに反対する勢力も影響力を持っているというところです。時の権力者はメージャー首相、クリントン大統領で、ソ連はすでに崩壊しています。主人公ディロンは英国首相直属の情報機関に所属しているという、かつて反体制側で泥沼の紛争に身を投じていた姿からは隔世の感があります。体制側に立った主人公の姿が、スパイごっこをしている、まるでお洒落じゃないジェームズ・ボンドみたいに見えてしかたありませんでした。ストーリーも安易に流れて緊張感に欠けている印象が残りました。話は〈一月三十日〉という暗殺組織が偶然に生まれた経緯が語られ、彼らがやがて北アイルランド和平への鍵を握る人物の警護を担当するディロンと対決するクライマックスへと動いていきます。ただ、この物語の要は、もうひとつの主役であるこの組織がなぜCIA、KGB、IRA、プロテスタントのテロ組織メンバー、ギャングのボス、アラブのテロリスト、これらの主義主張や立場も異なる人物たちを次々に暗殺していくのか、その訳が明かされていくところでしょう。そのひとつの理由が非常に英国らしくは感じますが、果して物語に効果的かというと疑わしい気がします。冷戦終結とソ連崩壊後のスパイ冒険小説は、その方向性が問われていた、あるいは模索が続いていたと思うのですけれど、その答えのひとつとして、伝統的英国冒険小説に必須な存在であるアマチュア、キム・フィルビーみたいな共産主義を信奉する知識人、そして子供時代に巻き込まれた事件によりトラウマを抱えた人物、この三者三様の動機付け(特に最後の人物)を設定している点は目新しい試みであると思います。

『非情の日』
『狐たちの夜』
『ヴァルハラ最終指令』ハリー・パタースン名義




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『感謝祭は邪魔だらけ』クリスタ・デイヴィス 創元推理文庫

2018-12-04

Tag :

☆☆☆

古き佳きアメリカをしのばせる家々が建ち並ぶ町アレクサンドリアは、感謝祭シーズンのまっただなか。この町に暮らすソフィ・ウィンストンは、訪れた家族をもてなすディナーと、詰めもの料理コンテスト用の食材を買いにいった先で、男性の死体を発見してしまう。被害者は死の直前、仔猫の飼い手を探しており、ソフィも声をかけられていた。さらにはコンテスト当日、何者かが妨害工作をするなかで、ソフィはまた別の死体を発見することに。感謝祭と殺人事件、ふたつの難題を、家事の達人ならどうさばく?期待のコージー・ミステリ第1弾登場。 内容紹介より



各章の始めに感謝祭にまつわる家事のアドバイス、巻末には料理のレシピが付いていて、季節のイベントに料理コンテスト、そして登場人物たちは、主人公の両親、妹とその婚約者、元夫とその恋人、元姑と彼の弟夫婦、彼の友人、近所に住む親友、近所の変なおばさんと退役軍人、ペットの猫と犬、あと足りないは子供だけです。こんなコージー要素をてんこ盛りかつ詰め込みました感じがとても強いです。大佐がいるのだから、これに神父と医者がいたらミス・マープルもの風にもできたでしょう。さらにこれらの人物たちが独り住まいの主人公の家に一堂に会するのですからすごく賑やかです。事件は殺人が二件、殺人未遂が一件、それにのぞき魔騒ぎに料理コンテスト妨害騒ぎが起きます。作者はよくこれだけの諸々をコントロールできたものだと感心します。ミステリについては数多のコージー作品と比べて特に優れている訳ではないですし、もう少し整理が必要だとは感じました。ただ、登場人物たちのキャラクターと彼らが醸し出すゆるい雰囲気はなかなか良くて好感が持てました。また感謝祭というイベントを通してアメリカ文化の一端が伺い知れ、その様子も感じとれて良かったです。




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『わたしが眠りにつく前に』SJ・ワトソン ヴィレッジブックス

2018-12-01

Tag :

☆☆☆☆

「わたし」クリスティーン・ルーカスは、特殊な記憶障害を負っている。毎朝目覚める度、前日までの記憶が失われてしまうのだ。いまは長年連れ添った夫とふたり暮らし。毎日彼が誰かすらわからなくなるわたしを、夫は献身的な愛で受け入れてくれている。そんなある日、医師を名乗る若い男から電話がかかってくる。聞けば、少し前から夫に内緒で彼の診察を受けているのだという。医師はここ数週間、あなたは毎日の出来事をひそかに書き綴ってきたと言い、日誌を見るように告げる。わたしは言われるまま、それを読み始めた。その先に何が待つのかも知らずに……。CWA最優秀新人賞受賞作。 内容紹介より



轢き逃げ事故による怪我が原因の記憶障害を負った四十代の女性が主人公です。教師である夫とふたり暮らしの彼女は、眠ることで前日の記憶が失われる障害を持っています。毎朝目覚めると、自分の年齢もどこに住んでいるのかも、夫が誰なのかも判らなくなっている状態になります。そんな彼女の症状に興味を示した医師が接触してきて、彼女は夫に内緒で一日の体験を日誌に書き留めるようになります。そうやって書き綴ったものを読むことで彼女は前日までの夫や医師との会話や出来事を知ることができるようになり、また過去の記憶がかすかながら断片的によみがえってくるようになります。
主人公を取り巻く状況はほとんどワンシチュエーションであり、身体ではなく閉じこめられた記憶という意味では、本書はソリッドシチュエーション・スリラーの一種といえるかもしれません。主人公みたいな特殊な脳機能障害を負っている人はいるでしょうが、そういう人たちの気持ちは想像もつきませんけれど、本書を読んでいるとこちらまで閉塞感を持ちました。物語はサスペンスとミステリ仕立てになっているわけで、登場人物たちの正体が本当に書いてある通りの姿なのか、誰かが主人公を陥れているのか、彼女の記憶は本物なのか、あるいは彼女自身が作り出した作話なのか、これらの謎が湧いてくきます。ただ、そういった謎と疑問をもっと複雑に絡みあわせてあれば、さらにサスペンスが高まっただろし、予想がつきやすい後半部分に読者を迷わせる仕掛けが出来たのではないかとも思いました。しかしデビュー作において、このようなシンプルな状況設定のなかで話を回す高いレベルのテクニックを示しているのはたいしたものだと思います。しかも作者は男性だそうですので。



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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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