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『ニック・メイソンの第二の人生』スティーヴ・ハミルトン 角川文庫

2019-05-31

Tag :

☆☆☆

ニック・メイソンが塀の外に出たのは、5年と28日ぶりだった。警官殺しの罪で25年の刑期を言い渡されていたが、ある人物と取引を結び、刑期前に出所したのだ。その条件は、ただ1つ。携帯電話が鳴ったら出て、どんな指示であっても従うこと。張りつめた緊張感の中、失った時間を取り戻そうとあがく彼だが、恐るべき指示は容赦なく下される……孤独な男の闘いを、硬質な筆致で描くハードボイルド・ミステリ。シリーズ第1弾。 内容紹介より



刑務所に終身刑で収監されている犯罪組織のボスに見こまれ、刑期を大幅に短縮して出所した主人公は、そのかわりに携帯電話での指示にいついかなる時も従うという取引を交わしています。彼は多額の現金をもらい、高級住宅街に建つ瀟洒な屋敷でボスの愛人と暮らすことになり、指示のある電話が入るのを待ちます。その合間に、離婚した妻とひとり娘に逢いに出向いた彼は、すでに妻は再婚して幸せな家庭を営んでいることを知ります。失意の中、主人公の電話が鳴り、下された指示は彼がまったく予想にもしなかったものでした。いろいろな何故が頭に浮かぶ犯罪小説です。主人公の犯罪歴は車の盗難、麻薬密売人の上利の横取り、店に貯め込んだ金を盗む、このようにいわば犯罪人としては小者の存在です。そんな主人公には、ボスから下される指示は本来なら手に余る技量が問われるものであり、どんな理由があって初心者の彼が目を付けられたのか、武士道がどうたら言っているものの納得がいく説明がなされていません。尾行に普段使いの目立つ希少車を使ったり、悪徳警官ならば主人公を簡単に消すくらいいくらでも方法があると思うけれど、わざわざ西部劇の決闘シーンみたいな派手な銃撃戦をやらなくてもと思えるように、全体的に設定の甘さが気になる作品でした。シリーズ物ですから、これから完成度が増してくるのかもしれませんけれど。

『氷の闇を越えて』ハヤカワ文庫HM
『狩りの風よ吹け』ハヤカワ文庫HM




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『狙われた大リーガー』ウィリアム・G・タプリー サンケイ文庫

2019-05-28

Tag :

☆☆☆

元ボストン・レッドソックスの剛速球投手エディ・ドナガンの息子E・J(エディ・ジョーンズ)が誘拐された。やがて犯人から連絡がはいり、かつてエディのエージェントをしていた弁護士ブレイディ・コインが身代金の受け渡し人に指名されたのだった。犯人の正体は、そして狙いは何なのか?『チャリティ岬に死す』『呪われたブルー・エラー』につづき、ボストンの弁護士ブレイディ・コインが単身球界の黒い罠に挑む、好評のハードボイルド第三弾! 内容紹介より



十歳の男の子が新聞配達に出たまま行方不明になり、その後誘拐犯から身代金を要求する連絡が入ります。男の子の父親は昔大リーガーの若手有望投手であったのに、制球を失ったという理由で逃げだすように引退した過去があります。その彼が投手時代にエージェントをしていた主人公が身代金の受け渡し役を犯人によって指名されるという展開です。物語は一大リーガーの栄光と挫折、引退後の不可解な生き方を主人公の視点で描く一方、男の子の誘拐事件に迫っていきます。元大リーガー時代の秘められた出来事とは、また誘拐事件が彼の過去に関連しているのかどうか、この二つの深まっていく謎が読みどころです。ただし、誘拐事件にかかわった人物から提示された、犯人へと導くヒントが謎をややこしくするばかりでいっこうに解決への重要な鍵にならないという思わせぶりところ、さらにダムの放流にまつわるエピソードは、てっきり犯人側へ影響を及ぼす事態を引き起こす伏線とばかりに思っていたのでこの二つの点に不満が残りました。

『チャリティ岬に死す』
『悪魔の仕事』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ノールカプ岬』ジョー・ポイヤー 創元推理文庫

2019-05-25

Tag :

☆☆☆

極秘裏に開発された超高性能機A-17を駆って、中ソ国境紛争を偵察していたテレマン元空軍少佐は、ソ連機ファルコンが追尾してくるのに気づいた。しかも最新鋭のレーダー探知妨害装置を稼働させているにもかかわらず、である。一刻も早く北極嵐と闘いながら待機している味方の巡洋艦に伝えねばならない。だがソ連機の執拗な攻撃に、遂に会合地点の直前でテレマンはA-17から離脱せざるをえないはめに陥った。着地したところは凍てつくようなツンドラ地帯。猛威を振るう極北の大自然の中の決死の脱出行! 内容紹介より



この作品は、1969年に発表され、日本では1980年に『氷雪の脱出行』(パシフィカ社)として刊行されているそうです。発表当時より約十年先の近未来を舞台に描かれています。半世紀前の作品になるにもかかわらず、内容に古めかしさを感じません。特に戦闘機や戦艦の装備などの機械、機器関係の記述は経年劣化しがちですが、登場するステルス化した原子力巡洋艦やパイロットでさえ体調面において半コンピュータ制御化されている超高性能偵察機についての描写は現在のそれらとまったく遜色がないように感じました。それは詳細な説明を加えることでリアリティを持たせていることも原因のひとつかもしれません。大自然の猛威もマクリーンを彷彿とさせる筆致で描写する様は迫力を生んでいます。 しかし一方では、詳しく記載するがために情報過多になりかけているようにも思いましたし、それは天候や地理の精緻な描写についても言えると思います。また、ソ連側からの視点がまったくと言っていいほどないことは本書の欠点で、それによってサスペンス性や人間ドラマが薄められているみたいな印象が残りました。それからすべてが電子制御されているデジタルの世界なのに、潜水艦への奇襲は肉弾戦を用いるというアナログぶりが可笑しかったです。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『偽りの目撃者』ハーラン・コーベン ハヤカワ文庫HM

2019-05-22

Tag :

☆☆☆☆

スポーツ・エージェントのマイロンは、またもや事件に巻きこまれた。射殺体で発見された元プロ・テニス選手の女性の手帳に、彼の顧客の名が残されていたのだ。調査を始めたマイロンは、数年前にその女性の恋人が殺され、犯人は行方不明のままだという事実を突きとめた。マイロンは二つの殺人に関連があると信じ、真相を探るが……アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作家がエンターテイナーぶりを最大に発揮したシリーズ第2弾 内容紹介より



かつて将来を嘱望されていた元バスケットボール選手にして元FBI捜査官、現在はハーバード大卒の弁護士でスポーツ・エージェントの主人公、彼の名家出身で大金持ちのサイコな相棒と元女子プロレスラーの美人秘書。この三人がポーズをとるカバーイラストが目に浮かぶようなアメリカンコミックみたいな主要登場人物のキャストとキャラクターです。当然、悪役たちもどこか憎めないような造形にしてあります。いみじくも物語冒頭から始まる「TVの《バットマン》の悪役の名前当てゲーム」の場面が、本書のまたは本シリーズの特徴を暗示しているのかもしれません。この主人公がアメリカ人が好むイノセンスで正義感が強く情にもろいアメコミのヒーロー然としていられるのは、彼のサイコパスの相棒が暴力などの汚れ仕事を担っているからこそであり、その資金力と交友関係の広さに依っている訳です。しかし、すべてがアメコミ要素ではないところが、このシリーズの妙味であり魅力なのでしょう。有望だった女子プロ・テニスプレーヤーがなぜスターへの道から脱落したのか。プロ・テニス界で栄光を掴みかけているストリート出身の青年が抱える秘密とは。主人公の軽口に対比させるかのようなプロスポーツ界の影が描かれています。

『沈黙のメッセージ』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ツーリスト 沈みゆく帝国のスパイ』オレン・スタインハウアー ハヤカワ文庫NV

2019-05-19

Tag :

☆☆☆

ツーリスト—それはCIAがアメリカの覇権維持を目的に世界中に放った凄腕のエージェント。過去も、決まった名前も持たない者たちだ。元ツーリストのミロは現役を退き、妻子と暮らしていた。だが、機密漏洩が疑われる親友の調査を命じられ、最前線に舞い戻る。親友の無罪を信じながらも、彼は監視をはじめるのだった—不確かな新世界秩序の下で策動する諜報機関員の活躍と苦悩を迫真の筆で描く、新世紀スパイ・スリラー 上巻内容紹介より



「新世紀スパイ・スリラー」と持ち上げているわりには新しさがなんら見当たらない件。主人公は三十代後半のCIAエージェント、ツーリスト(特殊工作員)としての活動が組織内で評判になっています。プライベートでは、幼少の頃に両親を交通事故で亡くしており、過去に関して何か含みを持たせている設定です。任務中に重傷を負ったために、現在は現役を退き本国で国際的な暗殺者を追跡する任務に就いています。その彼が中国への情報漏洩疑惑のある旧知の仲の同僚を調査する任務を与えられフランスへと渡ります。なんだかんだあって、三件の殺人容疑をかけられた主人公は妻にも愛想を尽かされて、公私ともに絶体絶命のピンチにはまってしまうという展開です。昔から評判の悪かったが9.11以降さらに悪くなったCIAという組織、予算削減や組織改革、他のライバル機関の存在、そんな状況のなかで一人の工作員の活動を描いている訳ですけれど、まず三十代後半という中途半端な年齢設定の主人公を未熟な青年か老成した人物にすべきだったのでは、さらに冒険小説に妻子は限りなく不要だし、家族愛のアイテムとしてもさほど機能していません。伝説化されようとしているにしてはプロとは思えない手際の悪さ、行き当たりばったりの行動と丸投げの計画立案、組織内の敵と政治権力の黒幕といういつものパターン。汚染した針を喫茶店の椅子に仕掛けてHIVに感染させるアイデアが今風なだけみたいな。ただ、本書は三部作の第一作目らしいのでこれから面白くなっていくのかもしれません。

別シリーズ
『嘆きの橋』文春文庫
『極限捜査』文春文庫




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『出張鑑定にご用心』ジェーン・K・クリーランド 創元推理文庫

2019-05-16

Tag :

☆☆

ニューハンプシャー州の港町ポーツマスでオークションハウス〈プレスコッツ〉を営むジョシーは、ある日地域の警察署長アルヴェレスの訪問を受ける。家財の買取を依頼され、出張鑑定をした老富豪グラントが自宅で殺されたのだ。最愛の父の死をいまだに引きずるジェシーだが、自らが容疑者らしいと悟っては、行動せずにはいられない。家財リストに載っているルノアールの絵が屋敷から見つからないことを出発点に、仕事と並行して調査を進めるが—確かな審美眼を持つ腕きき女性オーナーが主人公となる、アンティーク×ミステリの新シリーズ第一弾。 内容紹介より



本書は、アンティークと稀覯本の店を経営していた経歴を持つ作者の小説家デビュー作でシリーズ化しているそうです。ニューヨークの大手オークションハウスをある事件が原因で退職したつらい経験と、父親の死で心に深い傷を抱えたヒロインは心機一転ニューハンプシャーでオークションハウスを営んでいます。そんな彼女が顧客だった地元の老富豪が自宅で刺殺された事件で、被害者に最後に会った疑いのある人物として容疑者にされてしまうというところから物語が始まります。恐らくコージーミステリ史上で、こんなにやたらと涙を流す主人公は初めてではないかと思うくらい度々情緒不安定に陥るヒロインです。それも前の職場での不当な扱いと最愛の父親を亡くしてまだ間もないという理由があります。昨今の鼻っ柱の強めのキャラより、こんな泣き虫みたいなネガティヴ的感情放出型キャラのほうが新鮮に映って良いのかも知れません。一方彼女の商売に関しては、オークションハウスにおける競売や品物の買取などの業務内容についてはいくぶん具体的に書いてありますが、期待していたアンティークそのものについての記述はほとんどないところはもの足りませんでした。ミステリの面では、容疑者の振り幅が狭いうえに、真犯人につながる布石やヒントがまったく配されずクライマックスといえる場面もなくて、これならいっそ犯人に危険な目に遭わされる従来のコージーの形式を用いたほうがスリルはあったのではないかと感じた次第です。ロマンス要素はちゃっかり入っている訳ですから、




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『偽りの楽園』トム・ロブ・スミス 新潮文庫

2019-05-13

Tag :

☆☆☆☆

両親はスウェーデンで幸せな老後を送っていると思っていたダニエルに、父から電話がはいる。「お母さんは病気だ。精神病院に入院したが脱走した」。その直後、今度は母からの電話。「私は狂ってなんかいない。お父さんは悪事に手を染めているの。警察に連絡しないと」。両親のどちらを信じればいいのか途方に暮れるダニエル。そんな彼の前に、やがて様々な秘密、犯罪、陰謀が明らかに。 上巻内容紹介より



両親が長年続けてきた仕事をリタイアし、ロンドンからスウェーデンに移住して以来、個人的な事情で彼らに会っていなかった主人公にもとに、ある日、沈痛な口調で父親から母親が精神を病んだという内容の電話がかかってきます。翌朝、彼がスウェーデンへ向かうために空港に着いた時、今度は母親から電話がはいり、自分は狂っていない、父親が犯罪に加担しているから警察に告発するためにロンドンへ向かっていると伝えます。やがて彼女の電話通りに空港で彼は様子の変わった母親と再会するのですが……。本書の構成は、現在が主人公の視点で、移住することになった経緯と移住後の出来事は母親の視点から物語られていきます。自然豊かで人家もまばらなスウェーデンの片田舎で、父親を含めた男たちが犯している犯罪行為を調べたと主張し、証拠となる品を次々と取り出して強い決意を表す母親の姿に主人公の心は揺れ動きます。過保護気味に育てられた彼は甘えと自己中心的な生き方のせいで、両親の常に陽のあたる側しか見ようとしなかったことを思い知らされます。これまで彼にとって母親は母親でしかない存在であり、彼女の少女時代も含めたこれまでの人生を思いめぐらすことなどまったくなかったからです。その彼が母親を一人の女性として、彼女の人生を知り理解していく物語でもあります。構成上しかたないかもしれませんが、父親の存在感が希薄なことと後半部分が急ぎ気味なことが気になりました。しかし、少女の心に受けた深い傷と孤独が胸に迫ってくる作品でした。

『チャイルド44』
『グラーグ57』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『大道商人の死』ヤンウィレム・ヴァン・デ・ウェテリンク 創元推理文庫

2019-05-10

Tag :

☆☆☆

家人が死んでいるとの通報を受けて、現場へ急ぐフライプストラ警部補とデ・ヒール巡査部長、だが現場付近ではデモ隊と機動隊が睨み合いを続け、思うように進めない。ようやく被害者宅へたどりついたのは、無線を受けてから四十五分もたってからだった。顔をめった打ちにされた被害者は、はぶり良く暮らしていた大道商人であった。その彼がどうしてこのような最期を遂げる羽目になったのか?お馴染みの名コンビは、被害者の過去を探る。やがて、捜査線上に浮かび上がってきたものは……?警察小説の白眉! 内容紹介より



本書は1977年に発表され、日本では1987年に邦訳されているオランダを舞台にした警察小説です。シリーズ化していて本書を含めて四冊が邦訳されているようです。
大道商人が自室で顔をひどく潰されて死んでいるのを同居中の妹が発見し、アムステルダム警視庁の三人の警察官が捜査に当ります。折しも現場付近では機動隊がデモ隊を警戒中であり、犯行時刻に不審者は目撃されておらず、犯行の手口と凶器の種類が謎になっています。また、被害者は周囲の評判も良く慕われていた人物であり、動機も不明です。前回読んだレジナルド・ヒルのダルジール警視シリーズみたいに、主要な登場人物は警視、警部補、巡査部長と似たような構成になっています。事件の裏に複雑な動機が隠れているようなものでもない、三面記事に載りそうないたって一般的な犯罪をこれまた庶民的な警察官が捜査する話なのでダルジール警視もののような娯楽性の高い切れの良いミステリと比べると物足りなさが残ります。ただ興味をひくところは、刹那主義的な被害者の人生のとらえ方が強調されるので、その点は作者の考えが表されているのかもしれません。訳文の中でも特に会話部分の言いまわしに時代を感じた一方、運河とボートハウス以外にはオランダらしい情景が描かれていないので異国情緒にはひたれませんでした。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『完璧な絵画』レジナルド・ヒル ハヤカワ・ミステリ

2019-05-07

☆☆☆☆☆

中部ヨークシャーの人里離れた谷間の小村エンスクーム。まるで時間の流れが止まったかのようなこの村へダルジール警視以下、部下のパスコーとウィールドがやってきたのは、若い駐在巡査の失踪事件を調べるためだった。しかし、この理想郷も俗世間とまったく無縁ではなかった。調べを進めるにつれて、大地主一家の家督相続問題、若い牧師をめぐる三角関係、小学校の存続問題など、さまざまな問題が浮上。やがて、年に一度の村の祝宴の日、事件は流血の大惨事へと発展する。古き良き英国小説の伝統を今に受け継ぐ、ダルジール警視シリーズ第13作 内容紹介より



職務熱心すぎるがゆえに村人から煙たがられている生真面目な若い巡査が非番中に連絡が取れなくなり、自家用車の座席には血痕が残され、さらに彼の奇矯な振る舞いが村人から目撃されていたことが判明します。
駐在所の巡査の行方不明事件によって牧歌的な小村に潜んでいた醜聞が明らかになるとともに犯罪へと繋がる、というミステリにつきもののお約束の展開になると見せかけての……。本書の18ページ目で早くも村中を巻き込んだ惨劇の様子が描かれ、その後、物語は一旦時間をさかのぼってその事件が起きた村の催しである「勘定日」へとカウントダウンするように進んでいく非常に効果的な体裁をとっています。物語は、因習にとらわれた旧家の長、他家との古くからの確執、家族の死によるトラウマから、ありふれた不倫や窃盗事件、さらに村にも及んでいる学校や駐在所の統廃合計画にいたる財政問題までが様々な視点の移りかわりによって描かれています。ダルジール警視の二人の部下それぞれのときどきの感情描写が秀逸であり、村人たちの造形も皆個性的で、それぞれが抱える事情や思惑が面白く書き分けられて良い味を出しているのも印象に残りました。話はテンポよく進んで、大団円を迎える円熟の境地ともいえる職人技が冴えたレジナルド・ヒルによる機知に富んだ大人の童話です。

ユーザータグ:レジナルド・ヒル




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テーマ : 最近読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

『俳優は楽じゃない』パーネル・ホール ハヤカワ文庫HM

2019-05-04

☆☆☆

役をもらった!演出家をしている昔の演劇仲間に頼まれ、急死した役者の代役を務めることになったのだ。かつて演劇に命を賭けていたわたしは、即座に現地に赴いた。が、初日直前、偏屈な舞台監督が他殺体となって発見された。しかも警察は、よそ者のわたしに疑いの目を向ける。なんとしても犯人を見つけだすため、わたしは劇団内の人間関係を探るが……晴れ舞台に向けて、控えめ探偵が涙ぐましい奮闘ぶりを見せる第八作 内容紹介より



スタンリー・ヘイスティングズ シリーズの第八作目。今回は法律事務所の雇われ探偵といういつもの肩書きを離れ、ニューヨークからコネチカットに舞台を移しています。一般的にシリーズ物がホームタウンを離れると、常連の不在から話がつまらなくなる傾向にあると思うのですけれど、本書では主人公が舞台役者を務めるというまったくの別の設定になっているからなのか意外に楽しむことができました。舞台に上がったら照明器具が落下したり、主役級なのに楽屋が相部屋だったり、宿泊先も研修生が泊まるバスルームもない部屋だったりと、主人公はのっけからひどい目に遭うのですが、事を荒立てない控え目な姿が異色です。初日直前の舞台稽古の最中、皆から煙たがれていた舞台監督が刺殺されているのを主人公が発見してしまい、最有力容疑者になりながらも、私立探偵の肩書きから地元警察の署長から捜査に協力を求められることになります。ミステリとしてはいつものごとく低調ですが、人の名前を覚えることが苦手だという主人公の設定によって、さして重要でない人物名を極力出さないことで、人名や役名がこんがらがるという演劇ミステリに特有な傾向を避けている点、主人公が劇団にかかわるシーンの合間に警察署長とのやり取りを挿むことで単調にならない工夫をしている点、こんなところが良く工夫されているように感じました。舞台劇の裏側まさしく舞台裏の様子がかいま見れるのも面白かったです。

ユーザータグ:パーネル・ホール




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ナイスヴィル 影が消える町』カーステン・ストラウド ハヤカワ文庫NV

2019-05-01

Tag :

☆☆☆☆

美しい南部の町ナイスヴィルは、いっぽうで全米平均の五倍もの頻度で失踪事件が発生する不吉な町でもあった。そして今また、学校帰りの一人の少年が忽然と姿を消してしまった。それも監視カメラの前から、一瞬のうちに、まるで掻き消すように。数日後、彼は思いもかけぬ場所から昏睡状態で発見される。はたして少年の身に何が起きたのか?そして一年後、ふたたび不気味な波動が町を覆いはじめる……注目のホラー小説! 上巻内容紹介より



本書は、巨大なシンクホールを備えた岩壁の麓に広がる町を舞台にしたホラー小説の三部作の第一部です。先住民から不吉な場所と忌み嫌われていた岩壁を望む町は、原因不明の失踪事件が多発する所です。そこで再び十歳の少年が学校からの帰宅途中で行方不明になる事件が起き、それに続くように少年の両親の不審死、銀行強盗と警官殺人、町の名家の老婦人と庭師の失踪などの事件が頻発し始めます。主人公は郡犯罪捜査部の刑事ですが、視点は複数の人物により描かれ、場面転換を度々行う構成を用いているために非常に読みやすい感じを受けました。ホラー小説と銘打っているにもかかわらず、犯罪小説の要素が多く、仲間割れした銀行強盗犯やネットを使った愉快犯、ハイテク企業秘密を中国へ売り渡そうとするセキュリティ会社社長など大なり小なりの悪党たちの人間臭いキャラクターが際立っているように思え、そこは警察小説を執筆していた作者の経験と持ち味が感じられる気がしました。ホラー要素は特段に目新しいものはなく、古代から存在する憎悪を持つもの、それが悪を引きつけ、人間の憎しみや恨みを利用するところ、鏡という小道具の使い方、愛する者の幻影を使って惑わせるなどの従来のアイデアやアイテムを用いています。




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

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てんちゃん1号

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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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