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『泉』キャサリン・チャンター 東京創元社

2019-10-31

Tag :

☆☆☆☆

イギリス全土で3年にわたって異常な干魃が続いているにもかかわらず、“わたし”がいる農場〈泉〉にだけは雨が降り、草木が青々と茂っている。“わたし”はここで自宅監禁生活を送ることになった。〈無個性〉〈3〉〈ボーイ〉と名付けた男たちに常に監視され、行動を厳しく制限されながら孤独に暮らす“わたし”を、殺人事件の記憶が苦しめる。なぜ家族も友人も失うことになったのか?自分は何をしてしまったのか?“わたし”は精神のバランスを崩すほど思い悩みながら〈泉〉での生活を降りかえり、殺人犯をつきとめようとする—。異様な状況下で傷ついた女性の、追憶と再生の物語。 内容紹介より



“わたし”が、冤罪で失職した夫の希望で共に暮らし始めた郊外の農場には泉があり、それはイギリス全土に及ぶ異常干ばつでも涸れることはなかった。ふたりの農家暮らしもなんとかやりくり出来始めたものの、異常気象が続くにつれ、彼らの泉が注目を集め、いわれのない妬みや中傷に晒される事態が起き始めます。世間から隔絶状態になったため、“わたし”は農場を売却してしまうよう勧めますが、夫は聞き入れません。ふたりの関係にわだかまりが生まれかけた頃、離れて暮らしていた娘が孫息を連れてに彼らの前に姿を見せます。そして泉の存在に魅せられた女性だけの宗教グループが敷地内で暮らしはじめたことから、“わたし”と夫の間には、さらに亀裂が広がる状況に陥ります。精神が不安定になった“わたし”に衝撃的な事件が降りかかります。ある事件を起こして施設に囚われていた“わたし”が自宅での監禁生活に処され、そこで現在の状況を交えつつ、事件に至るまでの経緯を回想するかたちで物語られています。本書は、CWA賞最優秀新人賞候補作なのだそうですけれど、ミステリ色は薄く拙く、かなり(純)文学寄りの作品で、表現力や文章力、豊富なイメージでもって、尽きぬ泉によって楽園となった土地に絡めとられ、妬まれ、崇められ、利用され、そして、もっとも大事なものを失ってしまう様を丹念に幻想的に描き出して見せます。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『書店猫ハムレットのお散歩』アリ・ブランドン 創元推理文庫

2019-10-28

Tag :

☆☆☆

ダーラが経営するニューヨークの書店では、最近、店のマスコットの黒猫ハムレットの元気がない。愛想がないのはいつもどおりだけれど、お客をひとりも追い出していないし、買い物袋を爪で引き裂いたりもしていない。これはおかしい。“猫の行動の共感力者(エンパス)”と名乗る猫のセラピストによると、自分を出来損ないのように感じているという。あのふてぶてしいハムレットがそんなふうに思っているとは!愕然とするダーラだったが、通っている武術道場で、さらに驚きの出来事が……。名探偵(かもしれない)黒猫が大活躍するコージー・ミステリ! 内容紹介より



シリーズ第一作目の『書店猫ハムレットの跳躍』は未読です。主人公は三十代の女性で、ブルックリンにある大叔母から相続した書店の経営者です。店は彼女以外に店長と店員、その三人で切り盛りしています。そして、店のマスコットである黒猫。ヒロインの友人である元警察官の女性私立探偵、読書クラブの女性メンバー、隣人の老婦人、NY市警の男性刑事、イタリアン・グレーハウンド犬などが脇役として配されています。黒猫が体調不良の気配を見せているなか、ヒロインが通う武術道場の指導者が不審死を遂げた事件に、さしたる理由もなく彼女が調べ始め、さらに道場主のペット犬をめぐる騒動も交えて話が進みます。鋭い共感力の持ち主である、猫のセラピストの存在がアクセントになっていますが、ミステリとしては非常に平凡な出来で、猫が本を落っことして犯人へ繋がるヒントを示したり(確か、シャム猫ココ・シリーズにも似たような場面があったような)、さらにワープロで文字を打ったりするところなんかは猫探偵ものらしさを感じさせています。猫がグータッチしたり、武術の演舞をしたりするご愛嬌がありますけれど、個人的にはちょっとやり過ぎかなとは思いました。猫と書店という取り合わせは非常に魅力的なのですけれど。

別名義の作品
『探偵レオナルド・ダ・ヴィンチ』ダイアン・A・S・スタカート ランダムハウス講談社




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『贋作』ドミニク・スミス 東京創元社

2019-10-25

Tag :

☆☆☆☆

画商に修復の腕を見込まれ、ある富豪の弁護士が所有する17世紀オランダ女流画家の作品の贋作をひそかに制作し、心ならずも絵画窃盗に加担してしまった女子画学生。私立探偵を雇って彼女の存在を探り出したその弁護士は、罪を暴き、大切な絵を取り戻そうと、彼女に近づくが、彼女の絵に対するひたむきさと知識の深さに敬意を抱くようになる。そして彼女は絵を愛する、自分とは別世界に住む大人の男に惹かれ始めたが……。40年以上の時が流れ、過去を封印し罪の意識におののきながら、美術史学者として活躍する彼女の前に、自分の手になる贋作と真作がそろって出現した!いったいなぜ?17世紀の女流画家と現代の女性学者、それぞれの愛と喪失と苦悩が時代を超えて呼応する。絵画贋造の技法、複雑に絡み合う人間関係も、ミステリアスで美しい光のなかに見事に描きあげられた情感溢れる物語。 内容紹介より



物語は、17世紀のオランダ、1957年のニューヨーク、2000年のシドニー、この三つの時代と場所によって各章に分けられ、主要な登場人物は女流画家サラ、富豪の(元)弁護士マーティ、(元)画学生エリーです。女流画家に降りかかった悲劇と制作した絵画にまつわる出来事、彼女の遺した絵画をめぐって起きた盗難事件、その盗難事件に利用された贋作と盗まれた真作が美術館に持ち込まれたことで明らかになる過去が語られていきます。サラが絵画を描いた動機は、ひとり娘を喪った悲しみから、エリーは女性差別を体験したことからくる怒りで贋作を描いているように、彼女たちの人生を重ねあわせ、また対比させています。注目したいのはマーティの存在ですが、先祖の財産で裕福に暮らし、サザビーズに出入りする彼は、エリーとはまったく異なる世界に住む人物に設定され、借金や貧困に苦しんだサラと生活のために絵画補修をしつつ、論文を書いている苦学生エリーとは対照的な存在であり、彼の存在はほとんど添え物に過ぎません。彼の立ち位置は、エリーのオークション自体への揶揄に表されているように、そしてサラのパトロン的存在の大金持ちの老人に代表されるように、貧しさの中からうまれた絵画が金持ちの所有になる現実を皮肉ってもいます。サラの人生の一部を切りとったことにより物語に奥行きと情感を出し、時代を超えた二人の女性の数奇な結びつきを巧みに描き上げた作品だと思います。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ア・ロング・ウェイ・ダウン』ニック・ホーンビィ 集英社文庫

2019-10-22

Tag :

☆☆☆

大晦日、ロンドンの飛び降り自殺の名所、トッパーズ・ハウスの屋上で、人生に別れを告げようとして上がった失意の男女四人が鉢合わせをする。互いの身の上を語り合ううちに、期間を決めて、もう少し生きてみようかという話になり……。全く違うタイプの男女4人が次第に奇妙な友情をはぐくみ、もう一度人生と向き合おうとする姿を、個性豊かな各々の独白でユーモアたっぷりに描く。 内容紹介より



ニック・ホーンビィの作品は初めて読みました。自殺願望の見ず知らずの男女四人が大晦日にビルの屋上で偶然出会い、なんだかんだで人生をやり直すという単純なプロットの作品でミステリものではありません。
新興宗教みたいに押しつけがましく説教臭い、見え見えなお涙頂戴の感動押しつけな物語というのは遠慮したいけれど、予定調和だけれど、ちょっとだけ心暖まるような話もたまには良いかな、と思って本書を読んでみたら、涙が出るどころか心も暖まらなかったのでした。四人の登場人物の中で、唯一感情移入できるのが寝たきり状態で意思の疎通もできない息子の面倒を見ながら二人暮らしをする五十代の母親だけで、後の三人は大なり小なり奇矯な性格付けがされており、なかでも二人はどうしても死にたいという切実な感じは伝わってきませんでした。ただし、こういうなんとなく感による死への願望が現代的なのかもしれませんが。物語のスタイルは各人の独白形式でなされ、俗語やジョークなどが多用されていて個人的には読み辛かったです。人生というのはそれほど深刻に考えるほどのものでもない、気楽に生きてみたら。遅かれ早かれ皆死んでしまうのだから、みたいな全体的に浮薄な雰囲気が今風なのかなという印象でした。




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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『影』カーリン・アルヴテーゲン 小学館文庫

2019-10-19

Tag :

☆☆☆☆

ノーベル賞作家である父アクセル・ラグナーフェルトは、脳疾患で全身麻痺となり施設に入っている。息子ヤン=エリックはその威光で尊敬を集めて生活しているが、家庭は崩壊し浮気三昧の日々だった。物語は、高齢で死んだ老女の身元確認から始まる。彼女はかつてラグナーフェルト家で家政婦をしていた。葬儀のために探し物をすることになったヤン=エリックは、事故死と聞かされてきた妹の死因に不審を抱く。やがて彼は、高潔なはずの父が何かをひた隠しにしていることを知る……。人は、ここまで堕ちることができるのか—生きることの絶望と希望に迫る問題作。 内容紹介より



誰もが多かれ少なかれ秘めている影をテーマにした作品です。ノーベル文学賞受賞という強い光に照らされた大作家には、また深い影を持っていたことが、かつて彼の家の家政婦だった女性の死をきっかけに明らかになっていく過程を描いた物語です。全身麻痺で施設で介護されている大作家、アルコール依存症のその妻、父親の名前で暮らしている彼らの息子、その妻、捨て子だった脚本家の青年、主にこの五人の視点で語られていくのですが、どれも心理描写が深く、彼らの抱える影を際出させています。特に、文学的才能を持たない息子のひがみと父親を憎みながら、その名声を頼って暮らさざることを得ないことへの葛藤、それが原因で家庭不和に陥いる悪循環の中でもがく姿を詳細に描き出していきます。元家政婦の死によって、作家と彼の家族に起きた過去、そして青年の母親に起きた出来事により、人がいかに残酷なほどエゴに堕ちるものなのかが暴かれていきます。己の幸福を追求し過ぎて、手に入れた幸せに満足できなかった者が一度の過ちでつまずき、影に呑まれるのを抗う中で図らずも周りの者たちをも不幸にさせたしまった一つの人生の物語です。

『喪失』
『罪』
『裏切り』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『アーサー・ペッパーの八つの不思議をめぐる旅』フィードラ・パトリック 集英社文庫

2019-10-16

Tag :

☆☆☆

七十歳を前にして、愛する妻ミリアムを失ったアーサーは、妻が隠していたブレスレットを見つける。ゾウ、トラ、花、本、パレット、指輪、ハート、指ぬき。ブレスレットについた八つのチャーム。そこに秘められた妻の過去を追ううちに、アーサーは不思議な冒険の旅に乗りだしていく。彼を待ち受ける数々の出会い、亡き妻の秘密の物語とは……?読む人すべてを温かな感動で包みこむ驚異のデビュー作! 内容紹介より



一年前に妻を亡くした六十九歳の主人公は、大きな喪失感が癒えないまま、決まりきった習慣を守りつつ、外出することも少なく、我が子を含めた人間関係も希薄な生活を送っています。ある日、妻の遺品を整理していたところ、八つのチャームが付いた見たこともない金のブレスレットを見つけます。決して派手好きでない、つましい生活を送っていた妻の意外な持ち物に困惑しながら、好奇心にかられた主人公はゾウのチャームに小さく刻まれた電話番号にかけてみることにします。そこから彼は八つのチャームにまつわる生前の妻の物語を調べる旅を始めることになります。。実に平凡な人生を歩んできた主人公に対して、調べていくうちに、結婚前の妻がたどった人生は、彼が知っていたと思い込んでいた妻の姿とはとても違っていることが明らかになっていきます。妻を失って以来、主人公が自ら築いた牢獄にこもり、毎日変わりない生活を続けていたことに気が付き、困惑と不安にさらされつつ元の生活に戻る誘惑にかられながらも冒険の旅に挑む老人の姿が描かれています。冒険小説といえば英国が本家ですが、本書も従来とは違った形の冒険小説なのでしょう。また甘いけれど甘ったる過ぎてはいない大人の童話みたいな話です ただ、英国らしい皮肉といった苦みが見当たらないところは、やや物足りなかったように感じました。




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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『冷たい家』JP・ディレイニー ハヤカワ・ミステリ

2019-10-13

Tag :

☆☆☆☆

フォルゲート・ストリート一番地—そこにはミニマリストで完璧主義者の建築家エドワードが手がけた家がある。最先端テクノロジーによって制御された立方体の建物。簡潔さが追求された室内。エドワードの厳しい審査をパスした者だけがここに入居を許される。だがこの家に住む女性たちには、なぜか次々と災厄が訪れるのだった—。この建築家は一体何者なのか?この家に隠された秘密とは?交錯する語りから驚愕の真実が明かされていく—映画化決定の新時代サスペンス。ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー 内容紹介より



物語の構成は、フォルゲート・ストリート一番地に建つ家の借り主の女性たち、過去の借り主エマ、現在の借り主ジェーン、二人の視点が入れ替わって組み立てられています。ミニマリズムを追求し超ハイテクな家、そこに入居を許される者は、建築家の意向による煩雑なアンケートに答え、面接を受けなくてはなりません。さらには、入居者には二百ほどの禁止事項やルールに従うことが求められています。強盗事件に巻きこまれたエマ、死産を経験したばかりのジェーン、二人は家に包み込まれたような居心地の良さを感じ、建築家と恋に落ちてしまいます。やがてエマは建築家の妻子が事故死した事件を、ジェーンはエマが不審死を遂げた事件を調べ始めることになります。過去と現在の視点が、短い章でスムーズに切り替わり、建築家が彼女たちにアプローチする方法やデートの場所、プレゼントなど言動がまったくと言っていいほど同じなのが無気味であり、彼の尋常の無さを強く印象づける手法になっています。また、中盤になってのある人物の隠された姿、それは物語の潮目が変わるような、これまでのイメージを覆すような事態への急激でショッキングな変化がとても効果的で見事だと思いました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『惨劇のヴェール』ルース・レンデル 角川文庫

2019-10-10

☆☆☆☆

ウェクスフォード、テロに遭う!後から思えば、ウェクスフォードはほんの一足違いで事件を逃したのだった。その同じ偶然が、娘の車に仕掛けられた爆弾でばらばらに吹き飛ばされるのから、間一髪かれを救った。入院したウェクスフォードに代わって捜査の指揮をとったバーデンは、死体発見者の女性の息子を犯人とにらみ、取りつかれたように取り調べす進めた。だがその時かれは母と子の関係の底に隠された、摩訶不思議な、同時に恐るべき影の存在に気づかなかった。そして事件の本当の恐ろしさにも。ウェクスフォード・シリーズ、最大最高の長篇! 内容紹介より



本書は、ウェクスフォード・シリーズの14作目にあたり、1988年に発表されています。
ショッピング・センターの地下駐車場で中年女性の絞殺体が発見され、ウェクスフォード主任警部が捜査にあたりますが、警部自身が爆弾テロの被害を受け入院したため、部下であるバーデンが捜査の指揮をとることになります。彼は死体発見者の息子が犯人だと確信して取り調べを進めます。母親と二人暮らしで、心理療法士を受診する、その容疑者の様子に異様なものを感じたバーデンが、幾度も面談を重ねるにつれ、容疑者の態度に変化が起き始めます。ウェクスフォード・シリーズとノン・シリーズのふたつを掛け合わせたみたいな作品に仕上がっている本書は、死体発見者の息子の造形と、彼とバーデンとの一連のやり取りとそれにつれて変化する彼らの関係性が読みどころなのでしょう。本書の心理的な息苦しさをふくむサスペンス性の部分をバーデンが受け持ち、ミステリ自体はウェクスフォードが解き明かすという二重性を持たせているという点ではかなり凝ったプロットだと思います。サスペンスに目が行きがちになりましたが、雑誌に掲載されている読者の人生相談欄が事件の謎を解く重要なヒントになっているところに著者の巧さを感じました。また、爆弾犯が狙った真の標的にも捻りが加えられて軽いアクセントになっています。

ユーザータグ:ルース・レンデル



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『踊る骸』カミラ・レックバリ 集英社文庫

2019-10-07

Tag :

☆☆☆☆

今は亡き母は、なぜ最期まで私達姉妹に冷たかったのだろう?屋根裏で母が戦時に書いた日記と古い勲章を見つけたことで、再び謎と向き合うことになったエリカ。だが、勲章の鑑定を頼んだ歴史家は直後に撲殺され、ヒントを探すために読み始めた母の、別人のように感情豊かな日記は戦中のある日唐突に終わっていた。スウェーデン発シリーズ第5弾、二つの時代が交錯する味わい深い名作ミステリ! 内容紹介より



〈エリカ&パトリック事件簿〉シリーズ。
地元警察の刑事パトリックは育児休暇中、作家のエリカは新作を執筆中ながら屋根裏で見つけた亡き母親の日記とナチの勲章が気になって集中できない状態です。母親になった彼女は、なぜ母親が自分たち姉妹に心を閉ざしていたのか、その理由を日記から読み解こうとするとともに、勲章がなんらかの手がかりになるのではないかと、元歴史教師でナチスの歴史に詳しい人物に勲章を持ち込みます。しかし、その後彼は自宅で撲殺死体として発見されます。この殺人事件を核として物語は、現在と1943年から1945年を行き来し、少女時代のヒロインの母親とその友人たちとノルウェーにおけるナチスへのレジスタンス活動を支援する若者の過去を描き、また、現在のヒロインを含む多くの登場人物たちにまつわる種々様々なエピソードをこれでもかと幾重にも重ねる手法をとって展開します。沢山の逸話が語られているにしても、そこに共通して浮かび上がっている一貫したテーマは家族であること、それが作者の強い思いであることは、さほど登場機会の少ない人物にもテーマにつながる場面を設けていることから感じられます。物語の行き着くところが予想しやすいにしても、勲章が六十年前に起きた事件と心を閉ざした母親の理由、その謎を開ける鍵にしているところは巧さを感じます。人物たちの色々な確執や個々の問題が都合良く、あるいは安易に解消される点が気になりますが、読みごたえのある作品だと思います。

『氷姫』
『説教師』
『悪童』
『死を哭く鳥』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『サトリ』ドン・ウィンズロウ ハヤカワ文庫NV

2019-10-04

☆☆☆☆

1951年東京。日本的精神の至高の境地〈シブミ〉を学んだニコライ・ヘルは、服役中にCIA局員の訪問を受け、釈放と引き換えに暗殺の仕事を請け負った。朝鮮戦争が勃発し、中国とソ連は親密な関係にあるが、アメリカは中国の顧問役であるKGB幹部ヴォロシェーニンを暗殺し、中ソを反目させようとしていた。標的を知らされ、ニコライは驚いた。母と浅からぬ因縁があったからだ。彼は武器商人になりすまし、北京に赴くが…… 上巻内容紹介より



本書は、トレヴェニアン作の『シブミ』の中に書かれているエピソードを基に創作された前日譚になるそうです。『シブミ』は読んだことがありますが、囲碁や洞窟の話があったことを覚えているくらいで、あとはまったく記憶に残っていません。本書は、主人公ニコライ・ヘルの若かりし頃の冒険譚です。ロシア貴族の血を引き、日本において武道と囲碁の教えを受けた主人公にCIAが目を付け、中国にいるロシアの要人の暗殺を依頼してきます。中国、ラオス、ヴェトナム、と物語は舞台を換えて進み、時代背景や各国の街の雰囲気も丹念に描き出し、また、「サトリ」という日本人に取っては馴染み深い言葉と思想を主人公の精神的支柱に据えているせいで話にスムーズに入り込むことができました。日本人の「心」を備えた主人公という設定は極めて珍しく、銃をやたらと撃ちまくるアメリカ的アクション場面は極めて少なく、闘う相手には素手で対決しているところも特異なところだと思います。登場人物二人の正体にかなり意外性があった辺りはウィンズロウらしく、逆に暗躍するCIAの敵役がたずさわる「X計画」なるものが、まったく衝撃的でないのは作者らしからぬ感じを受けました。

ユーザータグ:ドン・ウィンズロウ




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ロンリー・ファイター』ハーラン・コーベン ハヤカワ文庫HM

2019-10-01

Tag :

☆☆☆☆

マイロンにはいつもトラブルが降りかかる。名門ゴルフクラブを訪れたことがきっかけで、彼はプロゴルファーの夫婦の息子を誘拐した犯人を探しだすことになったのだ。ゴルファーとして不遇だった少年の父親は再起を賭けて全米オープンに出場中だった。彼を動揺させるための犯行か?さらに相棒ウィンは調査への協力を拒絶し……孤立無援のなか、スポーツ・エージェントのマイロンが機知とジョークで敵に立ち向かう第4弾 内容紹介より



三作目の『カムバック・ヒーロー』は未読です。いつもコンビを組むウィンの親戚から依頼された少年誘拐事件の調査にもかかわらず、彼は母親との間に確執があるため主人公への協力を断ります。というわけで主人公は単独で誘拐事件の真相を追うことになるのですが、金銭だけが誘拐犯の狙いなのかどうか不審な点が浮かび上がってきます。実は誘拐を装った少年による狂言なのではないか、全米オープンで首位にたつ少年の父親に対しての圧力なのか、さらに過去の試合にまつわる怨恨の線も浮かび上がってきます。いつもは相棒が受け持つ容疑者への暴力などの慣れない汚れ仕事を、今回は主人公が担う羽目になり、日頃の彼ら二人の関係を内省したりする場面も織り込まれています。しかし、達者な減らず口や軽口は相変わらずであり、この辺りは非常にアメリカ的に感じました。登場人物たちそれぞれの意外な関係性も構築され、取り揃えられた容疑者たちとその動機も様々に設定され、さらに最後の捻りも利いていてミステリ性は結構高いと思います。

『沈黙のメッセージ』
『偽りの目撃者』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
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てんちゃん1号

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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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