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『99999 (ナインズ)』 デイヴィッド・ベニオフ 新潮文庫

2012-12-07

Tag : 短編集

☆☆☆☆

走行距離計の数字が回転する瞬間を楽しみに待つドラマーと、そんな彼を捨ててゼロがいくつも並ぶ契約書にサインする女性歌手の哀楽を描く表題作。若年兵がチェチェンの戦地で古参兵や老婆に翻弄される「悪魔がオレホヴォにやってくる」。ひきこもり青年や、エイズに感染したゲイのカップルなど、現代を象徴するキャラクターを鮮やかに造形し、光り輝く世界を提示する鋭利な短編集。 内容紹介より



以下、ややネタバレ気味です!ご注意ください。

「99999 (ナインズ)」
愛車のオドメーターが「99999」から10万マイルに変わる時を祝って、家族や仲間たちとバーベキューパーティーを催すパンク・ロック・バンドのリーダー兼ドラマー。彼にぞっこんで、彼のために曲を書いたバンドのリードヴォーカル。そんな彼女の才能を見出したメジャー・レーベルのプロデューサーが彼女だけを引き抜きいてデビューさせようと画策する。アマチュアの男とそれを捨ててプロになろうとする女、そしてどっぷり業界に染まった男という三つのタイプを造形し、その構図を作者は構築しているけれど、どれにも肩入れせず、誰の立場も否定せず、ただただ淡々と描いて見せているためにかえって印象に残る作品になっていると思います。

「悪魔がオレホヴォにやってくる」
チェチェン紛争に従軍したロシア軍の新米兵士の話。彼が二人の古参兵と共に、敵の支配下にあると思われる地域に建つ屋敷を偵察した際、邸内に隠れていた老いた女主人を見つけ出す。古参兵は彼に女主人を銃殺してくるように命じるが……。戦場での緊張感に包まれる中においても、古参兵のからかいや悪ふざけを受けている彼はその命令自体も冗談の一つではないかと考えたり、新米兵士の逡巡を感じ取った女主人は彼を丸め込もうとしたりする。残酷さとユーモラスな部分を併せ持った戦争文学。

「獣化妄想」
ニューヨークの街に突如現れた一頭のライオンと猛獣ハンターを父に持つ青年と彼が知り合ったジゴロ(?)にまつわる話。青年はライオンが彼宛のメッセージを携えてきたと考えるが、父親がライオン退治に呼ばれてしまうことになる。ライオンが何かのメタファーかというと、はっきりそうだとは言えないような気がするけれど、例えば、女を知らない青年の性衝動をライオンに喩え、性を謳歌するジゴロをその代替として補足説明に使い、ライオンを射止める父親を抑圧者として登場させているのかどうなのか、どう解釈したらいいのかよく分からなかった作品でした。

「幸せの裸足の少女」
五月のある日、フットボール選手として高校で一目置かれる十六歳の少年が、盗んだ車でカリフォルニアを目指す途中で知り合った少女の話。大学時代にフットボールの練習中に首の骨を折る事故に遭い、プロの道を諦めていた彼は、十四年前に出会い、連絡を取ると約束しながらとうとう電話しなかったその少女のことを思い出し、彼女を探すために当時出会った町へ出かける。かつて少年と少女の人生が五時間だけ交わり、また、離れていく。彼らがその後たどった人生をやや感傷的に描いた作品。

「分・解」
終末戦争の危機が迫るなか、シェルターに閉じこもった男の話。近所の人から馬鹿にされながら自作したシェルターの中で、後世に残すためにパソコンで日誌を綴っている彼は、ある日、パソコンがウィルスに感染していることに気がつく。そして、実は終末戦争など結局起こらなかったのではないかと恐れている。長年の努力と忍耐が無に帰すことを危惧する、パラノイアじみた男をブラックユーモア風に描いた近未来SFっぽい作品。

「ノーの庭」
女優志望のウェイトレスの話。業界から断られ続けてきた彼女は詩人の恋人ができて、個人的な幸せを得る。しばらくぶりに連絡のあったエージェントの勧めでTVドラマのキャスティングのオーディションを受け、採用されるかと思われたが、彼女が別の有名女優に似ていることで異論が出てしまう。これまで「ノー」と言われてきた彼女がとうとう「イエス」を言われるが、今度は彼女が「ノー」を言わなくてならなくなる。彼女の心の変化と新たな立場から発せられた、最後の「イエス」のシチュエーションが絶妙。

「ネヴァーシンク貯水池」
主人公が知り合ったばかりの女性から聞かされる彼女の亡くなった父親についての逸話。彼は皆に愛され数々の伝説を持つ好人物だったという。主人公は彼女と別れた後も彼女の父親のことが気にかかり、遺言通りに遺灰を貯水池に撒いてやろうと彼女のアパートに忍び込む。

「幸運の排泄物」
ゲイのカップルの出会いから別れまでを描いた作品。エイズに罹ってしまった彼らは、新しい治験薬を二人で試してみることにするのだが……。
エイズ患者をテーマにした作品に、レベッカ・ブラウンの『体の贈り物』という優れた短編集がありますが、この作品もなかなかの佳作だと思います。




99999(ナインズ) (新潮文庫)99999(ナインズ) (新潮文庫)
(2006/04)
デイヴィッド・ベニオフ

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

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