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『消された時間』 ビル・S・バリンジャー ハヤカワ文庫HM

2013-05-03

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☆☆☆

私は運がよかった。救急車で病院へ運ばれ、一命をとりとめた。ニューヨークの夜の街路に、喉を切られて倒れていたのだという。靴をはいていただけで、あとは裸だった。靴の底には千ドル紙幣が一枚入っていた。しかし私は憶えていない。完全に記憶を失っていたのだ!私は記憶から消された時間を取り戻そうとする。だが、手がかりは千ドル紙幣 一 枚だけ―ミステリ作家中屈指の技巧家が放つ、類い稀な意外性に満ちた傑作 内容紹介より



ストーリーは二つの事件について異なった視点から交互に描かれて進みます。一つは、喉を切られ記憶を失った「私」が語り手となり、自分は一体何者なのかを調べる過程で次々にわき上がる謎について。もう一つは、「私」とまったく同じ状況(喉を切られ、千ドル紙幣を忍ばせた靴だけをはいた全裸の状態)で発見された男の死体を捜査する刑事の視点から。二つの事件の被害者は同姓同名で、身体的な特徴もそっくりであり、発見現場も同じで発見者まで同一人物という奇異な設定です。作者にはこの謎解きを読者に挑む意図を持っているわけです。SFならパラレルワールドでも使って解明したいところですが……。しかし、そもそも読者への挑戦状みたいな文章がなかったので、鈍いわたしには作者のそういう意図が汲み取れず、作品の目玉となるその謎をほとんで意識せずに読み終わってしまいました。これは、第二の事件を捜査する刑事の章が、「私」の語る章に較べて短い上に内容も印象に乏しためだということも原因のような気がします。
さて、作品全体については、冷淡で冷徹な「私」にまったくと言っていいほど感情移入できませんでしたが、なぜこういうキャラクターにしたのかというと、「私」の過去やその正体と整合性を持たせることもさることながら、愛してもいない女性の身の安全のため、これまで「私」が価値があると思っていたものを捨てる際に、(p227~p228にかけての「私」の傍白に認められる、)女性が見せてくれた別の世界、それは「男が魂の荒野に一人住む必要のない世界」があることに気付いた「私」の心の変化を際だたせるためだったのではないでしょうか。




消された時間 (ハヤカワ・ミステリ文庫 59-1)消された時間 (ハヤカワ・ミステリ文庫 59-1)
(1978/08)
ビル・S・バリンジャー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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