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『丘をさまよう女』シャーリン・マクラム ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2017-04-03

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☆☆☆☆☆

年老いた脱獄囚がアパラチア山脈近くの故郷へ向かっていた。保安官のスペンサー,保安官助手志願のマーサらが追い始めるが、その矢先、奇怪な事件が続発する。折しも、二百年前の事件を調べるため、若い男が山道に踏み入るが……いくつもの運命が絡み合い、やがて緊迫の結末へ。アンソニー賞,アガサ賞,マカヴィティ賞の最優秀長篇賞を受賞した注目作! 内容紹介より



訳者の浅羽莢子氏の訳者あとがきによると、本書は〈アパラチア・シリーズ〉の第三作目にあたるそうです。ドタバタ風だった『暗黒太陽の浮気娘』と較べると、かなり作風が異なっている印象でした。
ストーリーには二つの流れがあり、ひとつは三十年前の殺人事件で有罪判決を受けて服役していた老囚人が脱獄して故郷を目指す話。もうひとつは十八世紀前にインディアンの部族にさらわれた後、彼らから逃れて何百マイルもの山道を歩いて帰還した白人女性の論文を書くために、彼女の辿った道中を歩いている若手の歴史学者の道中話。ふたりに加えて、その他の主要登場人物たちは、老脱獄囚について意見の別れる彼の故郷の保安官事務所の保安官とその助手、次第に脱獄囚に対して同情的になる地元のラジオ局のDJ、それから登場機会は少ないものの、山道を家へと急ぐさらわれた若い女性の姿を見ることができる、特殊な能力を持った老女がいます。脱獄囚はコルサコフ症候群による健忘の症状が現われていて、三十年前で時が止まり、自分が脱獄したことも忘れて二三日自宅を留守にしたものだと思い込んでいます。これによって彼の身に起きた境遇の悲惨さが軽減されてもいます。また、まったく山歩きなど無縁の学級の徒である大学院生の不慣れな山行の様子はいかにもな笑いを誘っています。そして、保安官事務所の通信係から保安官助手志望になった女性は同僚との男女間の問題が持ちあがり、そのサイドストーリーも作品に主題とは別の味わいを添えているように感じました。近代化によって時代遅れとなり失われてしまった習慣や生活、山を故郷とする者たちの悲哀をさりげなく醸し出し、その上に、さらわれた若い女性と脱獄した老囚人、このふたりの悲運を紡ぎだす物語は読み手に深く迫るものがあります。しかし、それが行き過ぎた深刻さをもたらす前に各エピソードの細やかな挿入によって良い具合に押さえられ、とてもバランスのとれた、単なるミステリを超える巧緻に組み立てられ仕上げられた味わい深い文学作品になっているように思いました。

『暗黒太陽の浮気娘』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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