『約束の土地』リチャード・バウカー 創元推理文庫

2017-12-08

Tag : SF

☆☆☆☆

男は一枚の古ぼけた雑誌の切り抜きを取り出した。『物議を醸す新しいクローン技術を弁護する』?記事の大半はさる生物学者のインタヴューから成っていたが、問題はそれに付された写真だった。当の教授の顔は、目の前の男のそれと異様なまでに似ていた。そう。男はみずからをその生物学者のクローンと信じ、過去の真相を探りたくてこの事務所を訪ねてきたのだった……。時は未来。限定核戦争後のアメリカで、一人の青年が私立探偵の看板を掲げる。夢と現実の狭間に揺れる若者の、葛藤、挫折、そして成長。胸がつまる青春ハードボイルドの逸品! 内容紹介より



1987年に発表され、日本では1993年に出版されている、近未来型SFとハードボイルドをあわせた懐かしい感じがする作品でした。主に米国東海岸を狙った限定核戦争後から二十年後の戦火を免れたボストンが舞台で、飛行機や鉄道といったインフラは復旧しておらず、食料や燃料も不足しているなどまだ混乱状態にあります。そんな街に探偵小説好きな二十二歳の青年が私立探偵事務所を開設し、初めての依頼人が訪れる場面から物語が始まります。その依頼とは、戦前にクローン技術の研究をしていた科学者である父親を捜し出して欲しいというもので、しかも、医師である依頼人は父親のクローンだと信じ込んでいます。調査の結果、依頼人の父親は戦後イギリスへ渡ったことが明らかになり、主人公は依頼人とともに未知の地ロンドンへ向かうことに……。
眼を見張るような派手な描写はありませんが、戦争後に両親を亡くして悲惨な少年期を過ごした主人公や彼の恋人、被爆して身体を壊した同居人、同じく小人症の家主をめぐるエピソードがじわりと胸にせまります。たとえいくら科学技術が発達したといっても、それがクローンであっても、人にとって一番必要なもの、大事なものは、父親、母親、子供、恋人からの愛情なのだ、ということがテーマになっています。欠落してしまった愛情に焦がれる人たちを、喪失した愛情に苛まれる主人公が哀切の念をもって見つめる姿がナイーブに描かれている青春小説の秀作だと思います。主人公が暮らす世界のように、核戦争をもたらした科学へのささやかなアンチテーゼとなっているのかもしれません。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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