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『紙片は告発する』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫
2019-12-03
- Category : ☆☆☆☆
Tag : D・M・ディヴァイン
お父さんが思ってるほど、あたしは馬鹿じゃない。誰かさんを刑務所送りにできる秘密を知ってるんだから—町議会議員の娘だが、周囲に軽んじられているタイピストのルースは、職場で拾った妙なメモのことを警察に話すと、町政庁舎(タウンホール)の同僚たちに漏らしてしまう。その夜、彼女は何者かに殺害された……!現在キルクラノンの町では、町長選出にまつわるいざこざが持ち上がっており、庁内には腹に一物ある連中がひしめいていた。即座に口封じに及んだのは誰か?地方都市を舞台に起こる殺人事件とその謎解きは、ディヴァイン犯人当ての真骨頂! 内容紹介より
1970年に発表された本書は、時代的に新しいわけでも、かと言って古めかしいわけでもないのですが、被害者の職業がタイピストというところに時代感を覚えました。一方、町議が職場で有能な女性に否定的であったり、面と向かってセクハラやモラハラ発言をしたり、性的少数者に世間の理解がまったくなかったりする傾向が当たり前であった時代でもあります。こういう要素が物語に組み入れている点などに時代の移り変わりを感じます。物語には、不正入札や職場内の不倫をはじめとした人間関係や出世競争といったかなり世俗的なテーマが盛り込まれ、公務員であるヒロインの視点でもあるために、二件の殺人事件のわりには全体的には地味目なトーンで推移していきます。しかし、役所内を主要舞台にした設定は一見社会派ミステリ風でもありますが、実際は作者らしいパズラー小説に仕上がっているという、ミステリにおける古典と現代の混在のようにも見えます。犯人の意外性はあると思うのですけれど、欲を言えば各容疑者にさらなる動機を付け足していたらもっとサスペンスが盛り上がったようにも思いました。
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
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