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『その犬の歩むところ』ボストン・テラン 文春文庫

2020-01-23

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☆☆☆☆

ギヴ。それがその犬の名だ。彼は檻を食い破り、傷だらけで、たったひとり山道を歩いていた。彼はどこから来たのか。何を見てきたのか……。この世界の罪と悲しみに立ち向かった男たちと女たちと、そこに静かに寄り添っていた気高い犬の物語。『音もなく少女は』『神は銃弾』の名匠が犬への愛をこめて描く唯一無二の長編小説。 内容紹介より



物語の語り手は、イラクから帰還した元アメリカ海兵隊員。彼が偶然出会った一匹の犬が経験した出来事を過去にさかのぼって綴っています。それは犬の父親がモーテルの女主人のもとへたどり着いたときから始まり、仔犬の頃、ミュージシャンの兄弟にさらわれ、その後のタトゥー・アーティストの少女との出会いと別れ、そして元兵士との出会いという具合に進んでいきます。その文体は『凶器の貴公子』ほどではないにせよ大仰な印象を受け、まるで犬版のオデッセイアみたいに感じてしまいました。一匹の犬と様々な人物とのかかわり合いを通して、それぞれの人生の一片を描き出す手法はよくとられていますが、本書では語り手であるイラク帰還兵の他に朝鮮、ベトナムからの帰還兵も登場させているところが特徴ではないでしょうか。そのなかのひとりがベトナムにおいて、終戦後アメリカ軍の軍用犬が当地に捨てられたことに触れ、軍から同じようなひどい仕打ちを受けた自分たちの姿を重ねあわせる場面があります。また、9.11で姉を亡くし、激戦で戦友を失い、自らも負傷しサバイバーギルトに苦しみ、名誉勲章授与でいわば処理された帰還兵の姿も鮮明に描いています。神が天地創造の際、地上を人間の住む場所とそれ以外の生き物が住む場所を深淵によって二つに分けた時、その深い溝を犬は人間が住む側へと跳躍した、という話を作者は引き、「さて、人は底知れぬ深淵を跳んだ生きものに値する生きものたれるや否や」(p293)と結び、それは国民と国との関係にも当てはまるものだと暗示しているようにも感じました。

『音もなく少女は』
『凶器の貴公子』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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