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「眠れる森の惨劇」ルース・レンデル 角川文庫
2008-06-08
五月十三日の月曜日はその年、もっとも不吉な日だった。ウェクスフォード警部の部下マーティンが、銀行強盗に殺されたのだ。そして同じ日の夜、高名な社会学者が住む森の奥の豪奢な館から緊急通報が入った。「助けて、早く来て、早くしないとみんな殺されてしまう」 強盗殺人と森の奥での一家惨殺。二つの事件に何らかのつながりがあることを確信したウェクスフォードは鬱蒼たる森に潜む狂気に近づいていく。が、不可解出来事の連続で、謎はどんどん深まりゆくばかりだった……。待望のウェクスフォード警部シリーズ。 内容紹介より
あくまでもこのシリーズのなかでの話ですが、長い割にはやや凡庸か。ミステリと人物造形共に優れている稀な作家レンデルには期待してしまいますから、まずまずの出来では物足りません。この作者は、平凡なのに普通から少しずれている、しかしそのずれ具合が妙に気持ち悪い人物を描くのが得意で、本書にもブレンダ・ハリソンやグリフィン一家といった人たちを登場させています。その奇矯さには軽い嫌悪感を覚えながらも癖になってしまう味があるのですが、本書ではそこが食足りませんでした。影の主役であるダヴィナの性格は変わってはいるけれど、一般人ではなく作家であり学者であるので少しくらいの奇態さは変わっているうちに入らないし。それと関連して思ったのですが、どうして同じ作家で同じ俗物のガス・ケイシーを登場させたのでしょうか?公私ともに作家に悩まされるシニカルさを現したかったのか。ウェクスフォードが抱える家庭問題を描くためだとしても、ガス(彼の場合は、レンデルの現代文学批判あるいは揶揄が込められているのかも。p489参照)のその後のフェードアウトな扱いはレンデルらしからぬ芸のなさを感じました。
以下、少しネタばれです。ご注意下さい。
一人の女性の行方がわからなくなり、事件に巻き込まれた可能性があるため捜査を始めるのですが、その時、失踪かと思ったらただ休暇を取っていただけという過去の出来事(これはたぶん『運命のチェスボード』のこと)をウェクスフォードが思いだすくだりがあります。結局、この女性の場合も似たようなケースだったわけですが、ひねらずに同じ展開を二回も繰り返すあたり、このアイデアをレンデルは気に入っているのかもしれません。
眠れる森の惨劇―ウェクスフォード警部シリーズ (角川文庫) (2000/04) ルース レンデル 商品詳細を見る |
テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
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