ぼくの名はランドルフ。文学通で、新聞だって毎日かかさず読むけど、正真正銘の犬、黒ラブラドールだ。ご主人はお人よしの新人画家、ハリー。困ったことに、ハリーが匿名の招待状に誘われるままに、のこのこ怪しい降霊会に顔を出すものだから、殺人事件に遭遇してしまった! そればかりか、不審な人影がご主人をつけまわすようになり……。ご主人様の窮地こそ、愛犬の出番。犬ならではの嗅覚で難事件に挑む! シリーズ第一弾 内容紹介より
井狩春男氏のエッセイ「イヌよりネコが売れるのはなぜ?」(『本屋通いのビタミン剤』ちくま文庫)によると、イヌとネコのカレンダーのどちらの方が売れるかというと、ネコの方がイヌの一・五倍から三倍売れるそうで、その理由のひとつに「体の大きさ」を挙げています。つまり犬種が多種多様なため好みが分散してしまうということなのでしょう。
さて、ミステリ小説の世界ではどうかというと、やはりネコ・ミステリの方がイヌ・ミステリよりも数が多いのではないかと思います。わたしはR・A・ハインラインと同じくネコ派なので、とくにそう感じてしまうのかもしれませんけれど、主人公など登場人物のペットとして作品に登場する機会は同じ程度かもしれませんが、ネコをテーマにしたアンソロジーやネコが主役級の長編作品はイヌのそれよりも多い気がします。
というわけで、貴重なイヌ・ミステリの一冊である本書は、ラブラドールが主人公です。突然変異ですごく頭が良く生まれつき、愛読書がダンテの『神曲』で、用を足すときは「木陰型」の雄イヌ、中年。主人公にとっては元々の飼い主であり、現在の飼い主にとっては婚約者だった女性が約一年前に謎の失踪をし、その傷が未だ癒えないひとりと一匹が小説家殺人事件に巻き込まれてしまう話です。このふたつの謎が提示され、それがどう展開して係わり合っていくのかが興味をそそるわけですが、主人公の「ぼく」の語り口やご主人の職業が画家だったりすることでかもし出されるモラトリアムっぽい雰囲気、容疑者たちの存在感のなさと殺人事件のインパクトの弱さとが作品を気が抜けたように薄くしているように感じます。第二作目以降に語られるであろう婚約者失踪事件の詳細への前ふりあるいは序章みたいな役割なのかもしれません。
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